警察庁における不祥事案対策に関する行政監察結果(要旨)

  勧告日:平成12年12月1日
勧告先:国家公安委員会(警察庁)
実施時期:平成12年4月〜11月
監察の背景事情等
 

 近時全国各地において、警察の不祥事案の発生が相次いだことを受け、警察庁では、都道府県警察に対する通達の発出等により対策を講ずるとともに、その浸透状況を確認するため、昨年11月から特別監察を全都道府県警察を対象に実施。しかし、その後も警察官による不祥事案が発生している状況あり。(なお、警察刷新会議の緊急提言(本年7月)を受け、国家公安委員会及び警察庁はその具体化を推進中。また、警察法一部改正案が今国会に提出され、成立)
 この監察は、これら警察庁が講じている一連の不祥事案対策の実施状況を調査し、その実効を確保する観点から実施。警察法一部改正案で提案されている各種の制度面の改革に加え、当庁の勧告内容 が実施に移されることにより、警察に対する国民の信頼が回復されることを期待
 監察対象機関:国家公安委員会(警察庁)等
 関連調査等対象機関:都道府県警察等
 担当部局:行政監察局、管区行政監察局(7)、四国行政監察支局、行政監察事務所(7)

調 査 結 果
 

  不祥事案処理の的確化
  (1)  不祥事案に係る処分の適正化・迅速化
 官房長通達(平成11年9月)において、厳正な懲戒処分等について配意し、事案処理について批判を受けることのないようにすることを指示
 警察庁では、警察庁長官及び県警察本部長の任命権に係る警察職員を対象とした懲戒処分の指針(警察庁懲戒指針)を定め、平成12年9月県警察本部長等あて示達
 地方警務官については、警察庁懲戒指針の対象とされておらず、これらの者の懲戒処分に係る基本的な指針等が明確にされていない。
 また、警察庁懲戒指針では、部下職員に対する指導監督の不適正、非違行為の隠ぺい・黙認等監督責任に係る処分について、犯罪に係るものを除き基本的な懲戒処分事案の種類として示されていない。

 [勧告要旨]
 地方警務官の懲戒処分等に係る基本的な方針を明確にするとともに、警察庁懲戒指針について、監督責任に係る処分についての適用関係を明確化すること。

  (2)  不祥事案の積極的な公表
 官房長通達(平成11年9月)において、不祥事案の発生時においては、事実関係を正確に把握した上で、適切な報道発表に努めることを指示
 懲戒処分及び諭旨免職が行われた事案の公表率は約2分の1
 11県警察における平成9年〜11年の懲戒処分及び諭旨免職113件の公表率は52.2%
 13県警察中不祥事案の公表基準を策定しているものはない。

 [勧告要旨]
 不祥事案の標準的な公表基準の指針(大綱)を示すとともに、これに基づく基準の策定を県警察に対し指導すること。
  また、この指針の内容として、懲戒免職事案はすべての案件の公表義務付け並びにその他の懲戒処分及び諭旨免職の事案については職務執行に関連する行為及び私的な行為で重大なものは原則公表等を盛り込むこと。

  不祥事案の未然防止対策の適切な実施
     (職務倫理教養の充実)
 警察官の職務倫理教養は、警察大学校、管区警察学校及び県警察学校において警察庁のカリキュラム基準に基づき実施。また、官房長通達(平成11年9月)において、あらゆる機会を通じて「職業倫理教養の徹底」を図るよう指示
 昇任時教養の「警部補任用科」及び「巡査部長任用科」は、受講対象者の年齢区分により、管区警察学校と県警察学校で分担して実施
 警察庁は、長期未入校者(当面10年以上の未入校者)に対して教養を実施するよう県警察に指示(平成11年4月)
 昇任時教養のカリキュラム基準は、警部補等の定数拡大による対象者の増加に伴い平成5年から総時間数が大幅に減じられ、このため職務倫理教養科目である「基本実務」の時間数も大幅に減少
 
 例えば、管区警察学校の警部補任用科における「基本実務」の時間数は、70時間(平成4年)から30時間(同11年)に57.1%減
 「基本実務」の基準時間数は、警部補任用科及び巡査部長任用科の両課程とも、管区警察学校の30時間に対し県警察学校は14時間と大幅に減じられている。
 管区又は県の警察学校に10年以上入校していない長期未入校者に対する職務倫理教養の基準時間数は80分。これは管区警察学校における昇任時教養課程の「基本実務」の基準時間数(30時間)と比べて極めて少ない。

 [勧告要旨]
1.  学校教養の各級課程のカリキュラム基準を速やかに改定し、職務倫理教養の基準時間の増加を図るとともに、より効果的に教養を実施するための方策を明記すること。
2.  昇任時教養課程の県警察学校における実施分を計画的に縮小していくための措置を講ずるとともに、県警察学校において実施する場合であっても職務倫理教養の時間数を管区警察学校と遜色のないものにするなど、その実施内容を計画的に改善するための措置を講ずること。
3.  10年以上の長期未入校者に対する教養実施基準を見直して内容を充実させるとともに、長期未入校者の全員を教養の対象とするよう県警察を指導すること。

  特別監察の厳正な実施
  (1)  特別監察の的確な実施等
 特別監察は、官房長通達(11年9月)及び次長通達(同年11月)により示された「業務管理の徹底」、「職業倫理教養の徹底」、「県公安委員会に対する適切な報告」等の不祥事案対策の徹底を目的として、警察庁・管区警察局が全国の県警察に対し、また、各県警察本部が管内警察署に対し、それぞれ実施
 警察庁・管区警察局は、監察項目を細分化した着眼点に沿って調査を行い、着眼点ごとに特別監察の実施結果表に記載し、3段階のいずれかの評価を付して各県警察に送付
 特別監察の実施項目に、留置場管理や被疑者の身柄管理等の業務管理上の重要事項が明示されていないこともあり、監察を実施していない例あり
 警察庁・管区警察局の特別監察では、抽出26県警察中6県警察において留置場管理や被疑者の身柄管理に関する事項は未実施。また、残りの20県警察についても、実施結果表に当該事項に関して何らかの記載があるのは5県警察のみで、15県警察については記載がない。
 特別監察の実施対象の範囲と対象数が不十分
 警察庁・管区警察局の特別監察では、抽出26県警察中12県警察において、県警察本部の一部部門のみが対象
 
 警察庁・管区警察局が特別監察を実施した警察署は合計74署(1県警察当たり平均1.6署)。また、不祥事案対策の浸透状況の効果的把握等を考慮した対象警察署の選定基準が設けられていない。
 特別監察の評価が不十分
 警察庁・管区警察局が実施した特別監察の実施結果表をみると、統一した評価の基準を設けていないため、例えば、県公安委員会への報告基準が作成されていないとの監察結果に対して「良好」という評価を与えているものなど、評価が不適切又は根拠が不明なもの(16例)あり

 [勧告要旨]
1.  不祥事案の発生が後を絶たない状況を踏まえ、不祥事案対策の徹底のための総合的な監察を新たに実施すること。なお、留置場の管理状況や被疑者の身柄の管理状況を監察実施項目として明確に盛り込むなど実施計画の一層の充実を図ること。
2.  新たな総合的監察の実施に当たっては、県警察の全部局を対象とすること。また、対象警察署等の選定に係る適切な基準を策定するとともに、対象数を増加させること。
3.  新たな総合的監察の実施に当たっては、評価の客観性を担保するため、あらかじめ一定の合理的な評価基準を定めておくこと。

 
(2)  特別監察の厳正・中立性の確保
 国家公安委員会は、本年1月、監察に関する規則(4月施行)及び警察職員の職務倫理及び服務に関する規則(1月施行)を定め、厳正かつ公平な監察の実施や職務の公正の保持を規定
 警察庁及び7管区警察局のうち、3管区警察局で特別監察実施の任に当たるメンバーの選定に関して受監県警察からの出向者の除外等が徹底されていない例あり
 自己負担による昼食であるが、職務上適切でないと考えられる特別監察開始前や終了後に会食を行っていた例あり。また、公共交通機関の利用が可能であるにもかかわらず受監県警察の公用車を利用するなど、必ずしもやむを得ないとは認め難い公用車の利用例あり

 [勧告要旨]
1.  監察実施メンバーの選定に当たり受監県警察からの出向者や受監県警察を前任地とする者は除外することなどを盛り込んだ基準を作成し、これに基づきメンバーを選定すること。
2.  引き続き会食や懇親会の禁止措置を講ずるとともに、真にやむを得ない場合を除き、受監県警察の公用車の利用を禁止すること。

  国家公安委員会の運営の在り方の見直し
 国家公安委員会は、委員長及び5人の常勤委員によって構成される国の行政機関であり、警察行政に関する調整等を遂行するために警察庁を管理し、また、地方警務官の任免等を行う。
 警察刷新会議提言及びこれを受けた警察改革要綱では、監察に対する具体的・個別的な監察指示権を同委員会に付与すること等同委員会の警察に対する管理機能の充実と活性化を目指す。
 警察庁は、地方警務官以外の警察職員の懲戒処分等の国家公安委員会に対する報告基準を定めていない。
 平成11年の地方警務官以外の地方警察職員に係る懲戒免職36件のうち報告されたものは8件(22%)のみ
 国家公安委員会の開催実績は、臨時会議を含めても47回(平成11年度)。また、同委員会の委員の年間勤務日数は、定例会議等と各種行事を合わせても年間64日程度(平成11年度)。同委員会の機能の充実と活性化に合わせた勤務態勢の見直しが必要

 [勧告要旨]
1.  地方警務官以外の警察職員の不祥事案について、例えば、懲戒免職案件及び諭旨免職案件はしっ皆報告とするなど報告基準を定めて定常的に把握すること
2.  臨時会議を臨機応変に招集すること等により必要に応じ国家公安委員会の開催頻度を高めるとともに、常勤の委員である同委員会の委員の勤務態勢に関して必要な措置を講ずること。

 その他の主な勧告事項
 
 不祥事案の報告の励行(県警察から県公安委員会に対する標準的な報告要領の策定等)
 
 不祥事案の前兆の的確な把握等(身上監督の標準的な要領等の作成、苦情処理要領作成の指導等)
 
 管区警察局の府県警察に対する監督機能の強化(県警察から管区警察局への不祥事案の報告の仕組み等)等