[総合評価] | ||
1 | 国の住宅・宅地・都市政策と住宅・都市整備公団の位置付け | |
国は、良質な住宅及び宅地の供給を促進するとともに、良好な都市環境の確保や再開発を推進している。住宅・都市整備公団(以下「住都公団」という。)は、このような政策の下、「住宅・都市整備事業」を行う法人として昭和56年に設立された(日本住宅公団と宅地開発公団の統合)。 | ||
(注) | 住都公団は平成11年10月1日に解散し、その一切の権利及び義務は新たに設立された都市基盤整備公団に承継され、住都公団の業務は新公団に移管された。 | |
住都公団が供給する住宅については、住宅建設五箇年計画(閣議決定)により、そのおおむねの目標量が定められており、第7期計画(平成8年度から12年度まで)の目標戸数は10万5,000戸とされている。住都公団の平成8年度末までの供給実績の累計は、住宅が140万戸(賃貸住宅76万戸、分譲住宅64万戸)、宅地が1万2,057ヘクタールとなっている。 このほか、ニュータウン開発と一体的に行う「鉄道・軌道事業」を千葉ニュータウンにおいて実施しており、住都公団が建設した鉄道施設を鉄道事業者である北総開発鉄道株式会社に使用させて、同社から鉄道線路使用料を得ている。平成8年度末現在、開業区間は8.7キロメートル、工事区間は3.8キロメートルとなっている。 住都公団が実施する事業の資金は、長期借入金、公団債、国費(出資金、補給金及び補助金)などにより調達されるが、平成8年度においては、調達資金のうち、財政投融資資金の占める割合が72.3パーセントに及んでいる。また、国費の内訳は、住宅用地及び宅地用地の先行取得等の財源に充てるための出資金が115億円、家賃及び譲渡価格を抑制するための補給金等が1,466億円、事業費補助金が482億円となっている。 |
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2 | 住宅・都市整備事業 | |
(1) | 財務の状況 | |
住都公団の平成8年度末現在の資産総額は、15兆8,450億円に上っているが、その48.5パーセントは完成した住宅資産であり、そのうち約4分の1が分譲資産(うち93.7パーセントは割賦資産)、約4分の3が賃貸資産となっている。また、未着手ないし建設・造成中の資産の合計は、資産総額の42.3パーセントを占めている。 次に損益の状況をみると、損益計算書上は収支がほぼ見合っている。これは、住宅及び宅地の供給を安定的に行う観点から、将来の収支差損に備えるため、土地及び建物の譲渡差益等が発生する場合、これに相当する額を特別損失として費用計上(準備金として貸借対照表上の「特別法上の引当金等」に繰入れ)し、逆に、譲渡差損等が発生する場合には、これに相当する額を特別利益として収益計上(「特別法上の引当金等」から戻入れ)することとされているためである。そこで、譲渡差益等に相当する額を収益と、譲渡差損等に相当する額を費用とみなした実力ベースの損益状況をみると、いわゆるバブル期に当たる平成2年度には1,101億円の利益を計上したものの、6年度以降は連続して損失が発生しており、8年度の損失は210億円に上っている。 なお、準備金の残高は平成3年度末現在の4,489億円をピークに減少してきており、8年度末現在では4,103億円となっている。 |
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(2) | 事業をめぐる状況 | |
三大都市圏における宅地地価は、平成2年度をピークとして、8年度はその約6割の水準にまで低下した。このため、平成8年度の民間供給住宅の譲渡価格は2年度の75パーセントに、同じく家賃は93パーセントに、それぞれ低下している。 一方、住都公団が供給する住宅及び宅地の建設・造成原価は上昇傾向をたどっており、平成8年度は2年度に比べて、分譲住宅は114パーセント、賃貸住宅は118パーセント、分譲宅地は153パーセントに上昇している。この影響を受けて、平成8年度の家賃は2年度の家賃に比べて107パーセントに、同じく分譲宅地の譲渡価格は108パーセントに上昇している。また、分譲住宅の譲渡価格については89パーセントに低下したものの、民間に比べると緩やかな低下率にとどまっている。 このように民間の価格動向に対し、逆行又は低下率が緩やかであることから、公団価格の競争力は低下している。 また、民間住宅市場の成長等により、住宅市場全体に占める公団住宅の新規着工戸数のシェアも、昭和34年度の住宅事業開始当初に比べ、分譲住宅、賃貸住宅とも大幅に低下してきている。 このような状況の中で、住都公団の役割の見直しが検討され、数次の閣議決定を踏まえ、住都公団の解散及び都市基盤整備公団の設立を内容とする都市基盤整備公団法(平成11年法律第76号)においては、分譲住宅については再開発を伴うもの等以外からの撤退、賃貸住宅については政策的に特に必要なものへの事業の重点化など、事業範囲を特化する改革措置が講じられている。 |
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(3) | 販売実績等の不振と新たな投資の拡大等 | |
公団価格の競争力の低下は、バブル期後における販売実績等の不振の一因ともなっている。 分譲住宅及び分譲宅地の譲渡実績は急激に低下しており、平成8年度実績を2年度実績と比べると、分譲住宅は63パーセント、分譲宅地は40パーセントにまで落ち込んでいる。このため、平成8年度末現在、募集をしているものの未契約のまま売れ残っている分譲住宅は1,492戸に達し、これに加え、概成したものの募集を開始できない分譲住宅が969戸みられ、これらの合計は、2年度末現在に比べ大幅に増加している。また、賃貸住宅においては、3か月以上空家となっている住宅が急増し、平成8年7月のピーク時には1万戸を超えるに至ったが、9年1月から家賃の引下げを実施したため、8年度末には3,853戸に減少した。しかし、平成2年度末現在の611戸に比べると、なお大幅な増加となっている。 このような販売実績等の不振により、これまでに取得してきた保有用地(工事中及び未使用の用地)が住宅用地又は分譲用地として完成するまでに要する期間は、回転期間(建設仮勘定の状態から完成資産として計上されるまでの期間を示す指標)でみると長期化しており、平成8年度においては、住宅用地については約16年、分譲用地については約18年となっている。 さらに、最近の地価の下落傾向の下で、用地の支払金利である保有経費が地価の上昇分である保有利益を上回る状況となっており、分譲住宅及び分譲宅地においてはバブル期に比べ収益性が大幅に悪化し、分譲宅地においては平成7年度から2期連続して譲渡収入が分譲原価を下回る原価割れの状態となるなど、実力ベースの損益は大幅に悪化している。 一方、事業への投資額は、景気浮揚の要請等もあって、増加傾向となっている。平成4年度から8年度までの5年間の投資額を、昭和62年度から平成3年度までの5年間の投資額と比較すると、住宅事業は146パーセント、宅地事業は148パーセントの水準に達している。これに伴い、新規の事業費補助金、政府出資金及び借入金・債券の額も増加しており、新規借入れについては、平成4年度から8年度までの5年間の総額は、昭和62年度から平成3年度までの5年間の総額の156パーセントに増大している。しかし、償還額は横ばいで推移しており、かつ、新規借入れを下回っていることから、債務残高が増加しており、平成8年度末現在では、2年度末現在の債務残高の134パーセントに相当する13兆6,619億円に累増している。 以上のようなことから、債務の返済能力を示すキャッシュ・フロー比率は、平成8年度で0.11パーセントと2年度の約12分の1にまで低下している。 |
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(4) | 新公団移行に際しての課題 | |
新公団への移行に伴い、事業が大幅に重点化された結果、住都公団の保有用地等の資産内容の見直しは避けて通れない課題となっている。特に保有用地が住宅用地又は分譲用地として完成するまでに要する期間の長期化は、用地の保有経費が一層増嵩することを意味しており、財務内容に悪影響を及ぼすことが懸念される。 さらに、バブル期後は、実力ベースの損益の悪化と債務残高の増大により債務の返済能力が低下し、償還の長期化が懸念されることから、債務償還についての展望を明らかにしていくことが求められる。 したがって、新公団の健全な経営を確保するため、事業の重点化に伴い継続して保有する意義が薄れた用地の早期処分を進めるとともに、長期の収支予測等を立てつつ、債務の償還計画を策定し、計画的な償還を進めることが必要である。 |
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3 | 鉄道・軌道事業 | |
鉄道・軌道事業については、昭和59年の開業以来、業務収入では支払利息を賄えない状態が続き、経常的に当期損失を計上してきたことから累積欠損が逓増しており、平成8年度末現在の累積損失額は161億円となっている。また、負債総額が資産総額を上回っており、平成8年度末現在では141億円の債務超過となっている。 債務償還の原資である鉄道線路使用料収入は、公団鉄道駅圏内の入居状況に大きく左右される。住都公団が平成9年度に改定した鉄道事業の長期収支計画においては、18年度に当期利益が発生し、27年度には累積欠損が解消し、さらに31年度には償還が完了するとの見込みを立てている。しかし、この計画の初年度である平成9年度の新規入居実績は、計画の54.2パーセントと大きな乖離を生じている。 なお、これまでの長期収支計画においても、入居実績は計画を大幅に下回ってきた。 このような状況が今後も続けば、債務超過からの脱却も懸念されることから、償還が確実なものとなるよう、実績を踏まえつつ、現状に即した長期収支計画を策定することが必要である。 |