1 研究活動の活性化に向けた施策の充実等
  (1) 重要科学技術分野の研究開発基本計画の見直し
     我が国の科学技術に関する施策は、科学技術基本法(平成7年法律第130号)及び同法に基づき策定された「科学技術基本計画」(平成8年7月2日閣議決定)を基本とし、関係行政機関の所掌事務に応じ、国立試験研究機関(以下「国研」という。)、大学・大学共同利用機関、特殊法人等により実施されている。
 また、科学技術の振興に資するため、科学技術会議設置法(昭和34年法律第4号)に基づき、内閣総理大臣の諮問機関として科学技術会議が設置されている。同会議は、科学技術一般に関する基本的かつ総合的な政策の樹立、科学技術に関する長期的かつ総合的な研究目標の設定、当該研究目標を達成するために必要な研究で特に重要なものの推進方策の基本の策定等について、内閣総理大臣に答申し、あるいは、必要に応じて意見を申し出ることを主たる任務としており、その庶務は、科学技術庁において総括及び処理(ただし、大学における研究に係る事項に関するものについては、文部省と共同処理)されている。
 科学技術庁は、科学技術に関する基本的な政策の企画、立案及び推進を行うとともに、科学技術に関する経費の見積り方針の調整業務のほか、関係行政機関の科学技術に関する事務の総合調整等に関する事務等を所掌し、科学技術会議の答申等の実施を推進する立場にある。
 「当面の行政改革の具体化方策について」(昭和60年9月24日閣議決定)及び「科学技術政策大綱」(昭和61年3月28日閣議決定)において、内閣総理大臣は重点的に振興を図るべき分野ごとに研究開発基本計画を逐次策定するものとするとされたこと等を受け、科学技術会議は、個別分野の基本計画に関する答申を逐次行ってきている。これらの答申に沿って、これまでに、エネルギー、防災、ライフサイエンス等の分野に係る8分野延べ9件の研究開発基本計画が策定(内閣総理大臣決定)されている。
 これらの研究開発基本計画は、おおむね10年程度先を見通した各分野の研究開発を総合的かつ計画的に推進するに当たっての基本的な考え方、重要研究課題等を示したものであり、関係省庁等が各分野の研究開発を推進していくための基本となっている。このため、研究開発基本計画は、科学技術基本計画においても、「重要分野の研究開発については、内閣総理大臣が決定した各種の研究開発基本計画に基づき推進するとともに、本基本計画で示した研究開発推進の基本的方向に沿って今後推進すべき課題の見直しを行い、必要に応じて、これらを改定し、又は、新たに研究開発基本計画を策定する」と位置付けられている。
 なお、現行の科学技術基本計画は、計画期間が平成12年度までであり、現在、科学技術会議において、13年度からの5か年間を計画期間とする次期科学技術基本計画の策定作業が行われており、その中で、科学技術分野の重点化についても検討されている。
       
    今回、重要分野の研究開発基本計画の見直し状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
    1.  科学技術庁は、各研究開発基本計画は、10年程度を見通したものであり、原則として、策定から10年を経過していないものについて見直し作業を行う予定はないとしている。
    2.  研究開発基本計画のうち、「ライフサイエンスにおける先導的・基盤的技術の研究開発基本計画」(昭和59年8月10日内閣総理大臣決定)は、当該分野全体を網羅していなかったこと及び当該分野をめぐる環境の変化等が著しいことを踏まえて、全面的に見直され、新計画として「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」(平成9年8月13日内閣総理大臣決定)が策定されている。また、エネルギー及び防災の分野についても、それぞれを取り巻く状況の変化を踏まえて旧計画が改定され、「エネルギー研究開発基本計画」(平成7年7月18日内閣総理大臣決定(第10次改定))及び「防災に関する研究開発基本計画」(平成5年12月22日内閣総理大臣決定(改定))が策定されている。
 一方、策定からおおむね10年以上が経過しており、かつ、科学技術会議政策委員会の下に置かれた「研究開発基本計画等フォローアップ委員会」のフォローアップ結果報告書において、多様に変化する内外の研究開発をめぐる環境の変化等に対応して当該分野の一層積極的な研究開発の推進を図るため、いずれも現行の計画を改定することが適当であるとの指摘がなされているものが2件(「物質・材料系科学技術に関する研究開発基本計画」(昭和62年10月22日内閣総理大臣決定)、「地球科学技術に関する研究開発基本計画」(平成2年8月20日内閣総理大臣決定))ある。
    3.  また、i )「エネルギー研究開発基本計画」は、現在、2001年の夏を目途に「長期エネルギー需給見通し」の見直しが進められていること、太陽光発電等の自然エネルギー、化石エネルギー等の重要研究開発課題の一部に西暦2000年頃あるいは2000年代初頭を想定した目標値等が設定されていることから、これらの目標値等の達成状況等をチェックするとともに、関係省庁の施策とも連携を図りつつ、必要に応じて新たに目標を設定するなどの措置を講ずることが必要となっている。
 ii )「ソフト系科学技術に関する研究開発基本計画」(平成5年1月11日内閣総理大臣決定)は、ハードウェア等の能力や機能の最も有効な利用・運用を図るための科学技術に関する計画であり、策定されてから7年近くが経過している。また、「先端的基盤科学技術に関する研究開発基本計画」(平成6年12月27日内閣総理大臣決定)は、異なる科学技術分野で共通的に利用される高精度の計測・分析技術等の先端的な科学技術に関する計画であり、策定されてから6年近くが経過している。これらの計画の対象範囲は広範に及び、近年、これらの分野に係る研究開発をめぐる環境変化等が著しい状況にある。
 iii )「防災に関する研究開発基本計画」は、改定されてから7年近くが経過しているが、改定後2年を経過しないうちに阪神・淡路大震災が発生し、平成7年5月に、科学技術会議政策委員会が、地震防災に関する研究開発について効率的な実施を図るため、「阪神・淡路大震災を踏まえた地震防災に関する研究開発の推進について」を緊急に取りまとめている。その後、有珠山及び三宅島(雄山)が噴火し、火山防災に関する新たな研究開発の必要性について検討すべき災害が発生している。
    4.  関係省庁等は、研究開発基本計画に沿って研究開発を推進してきていることから、これらの計画を当該分野の研究開発全般が網羅されたものとすることにより、各重要分野について、国全体として調和のとれた総合的な研究開発が推進されるようにすることが重要である。
 しかし、「情報・電子系科学技術に関する研究開発基本計画」(平成元年6月14日内閣総理大臣決定)については、策定されてから11年が経過しており、その後、情報・電子系科学技術分野を取り巻く環境が急速に変化してきている。そのこともあって、「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」(平成11年6月29日内閣総理大臣決定)により、社会のニーズを明確に指向した基礎・基盤の強化及びネットワーク時代に対応した円滑な科学技術情報の流通についての戦略的な推進方策が示されているものの、研究開発基本計画の見直しは行われていない。
       
     したがって、科学技術庁は、我が国として振興すべき重要分野の研究開発の総合的かつ効果的な推進を図る観点から、関係省庁との連携を図りつつ、次期科学技術基本計画の内容等を踏まえ、計画対象分野を含めた研究開発基本計画の見直しを行い、当該計画の改定又は新計画の策定を行う必要がある。
       
  (2) 研究資金の効果的・効率的活用
    ア 競争的資金への間接経費の導入
       我が国の国研及び国立大学等の研究資金は、その性格によって基盤的資金、競争的資金等に区分される。基盤的資金は、研究者の自主性が重要な基盤的な研究の着実かつ効果的な推進に資するよう研究者が経常的に使用できるいわゆる経常研究費である。競争的資金は、研究課題を募集し、申請された研究課題を審査し、競争的な選抜を行って研究資金を提供するもので、独創的な研究成果の創出と競争的な研究環境の形成に貢献するとともに、研究者にとっては、研究費の選択の幅と自由度の拡大をもたらすものである。代表的な競争的資金としては、科学技術庁の科学技術振興調整費、文部省の科学研究費補助金があり、そのほか、特殊法人等による基礎的な研究の推進のための競争的資金がある。
 国研の研究資金は、主として、基盤的資金として毎年度各省庁共通単価で積算される研究員当積算庁費、科学技術振興調整費等の競争的資金のほか、各省庁の政策に即した研究を推進するための特別研究費で構成されている。一方、国立大学及び大学共同利用機関(以下「国立大学等」という。)の研究資金は、基盤的資金である教官当積算校費、科学研究費補助金等の競争的資金、民間からの受託研究費や奨学寄附金等で構成されている。
 科学技術基本法第15条においては、これらの研究資金が効果的に使用できるよう必要な方策を講ずべき旨が定められており、また、科学技術基本計画においては、基盤的資金の充実とともに、競争的資金の大幅な拡充の必要性が掲げられている。
       
       今回、11省庁の国研39機関及び国立大学等の28研究所における競争的資金の活用状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  科学技術振興調整費及び科学研究費補助金の予算の推移をみると、平成7年度にそれぞれ196億円及び924億円であったものが、11年度にはそれぞれ302億円(54パーセント増)及び1,314億円(42パーセント増)に増加している。また、平成8年度から本格的に導入された科学技術振興事業団による戦略的基礎研究推進事業など政府出資金を活用した特殊法人等による基礎研究推進制度は、7省庁の7機関において実施されており、その全体の予算額は、11年度において770億円となるなど、競争的資金は大幅に拡充されてきている。一方、基盤的資金の推移をみると、平成11年度において研究員当積算庁費は163億円、教官当積算校費は1,576億円であり、それぞれ7年度から約10パーセント及び約13パーセントの伸びとなっている。
2.  競争的資金による研究については、当該研究資金を獲得した国研あるいは大学等の既存の施設・設備を利用して実施するものが一般的であり、一方、例えば当該研究の実施に要する既存の施設・設備の維持管理費などの経費は、競争的資金からこれを支出することができないため、国研においては一般管理費(庁費等)により、国立大学等においては基盤的資金である経常研究費等により賄われる仕組みとなっている。
 学術審議会の答申(平成11年6月29日)においては、「本来、競争的研究資金は、基盤的研究資金により用意される基礎的研究環境を前提として活用されるものと考えられているが、近年の競争的研究資金の比率の増大、基盤的研究資金の抑制などの事情を背景に、このような考え方は実態に合わなくなっている」との指摘がなされている。調査した国立大学等の研究所の中には、競争的資金が3か年で2倍ないし3倍と伸びている一方で、基盤的資金である教官当積算校費の研究部門に対する配分額が横ばい又は減少している例がみられる。
3.  欧米では、外部から研究資金を獲得する場合、研究資金に一定割合を乗じた金額を間接経費として併せて獲得し、研究機関がその裁量で研究環境の整備等に充当できるいわゆるオーバーヘッド制度が一般的となっている。この制度は、研究機関にとって積極的な競争的資金の獲得を奨励するインセンティブの一つとなっており、研究機関は、競争的資金を獲得した研究者に係る間接経費(オーバーヘッド)により施設・設備等の研究環境の整備を図ることができるため、結果として、より整った研究環境を求める優秀な研究者が当該機関に集まる効果があるとされている。
 我が国の研究の質を高め優れた成果を期待するためには、研究資金の獲得について競争性を一層高める必要があるとともに、競争的資金を獲得した研究者が当該競争的資金を効果的に使用し、より良い研究環境で研究を実施できるようにすることが重要であり、前述の学術審議会の答申等においても、欧米の仕組みを参考にして競争的資金への間接経費(オーバーヘッド)の導入の検討が必要であるとする旨の指摘がなされている。
       
       したがって、科学技術庁は、競争的な研究環境の実現を促進する観点から、関係省庁との連携を図りつつ、各省庁の所管する競争的資金への間接経費(オーバーヘッド)の導入を図る必要がある。
       
    イ 科学技術振興調整費による研究の国立大学等への委託方式の見直し
       科学技術振興調整費は、総合的な科学技術の振興を図るため、各省庁、大学、民間等の既存の研究体制の枠を超えた横断的かつ総合的な研究開発の推進を主たる目的として、昭和56年度に創設されたものであり、科学技術庁に一括計上されている。その運用は、「科学技術振興調整費活用の基本方針」(昭和56年3月9日科学技術会議決定。平成4年1月24日最終修正)及び各年度ごとに科学技術会議政策委員会が決定する具体的な運用方針に沿ってなされている。科学技術振興調整費の予算額は年々増加しており、平成7年度に196億円であったものが、12年度には65パーセント増の324億円となっている。
 科学技術振興調整費による研究は、i )重要な研究テーマについて、産学官の研究ポテンシャルを結集し、複数機関の有機的連携の下に、総合的な取組を推進する「総合研究」、ii )生活者の視点からの意見等を反映させつつ、生活の質の向上及び地域の発展に資する目的指向的な研究開発を総合的に推進する「生活・社会基盤研究」、iii )「脳を知る」、「脳を守る」及び「脳を創る」の3領域において、一定の達成目標を設定し、その実現を目指して研究を推進することにより、我が国の脳科学研究の向上に資する「目標達成型脳科学研究」、iv )産学官が連携して研究開発を進めることが効果的であり、かつ、その研究開発の成果により、多くの研究機関及び研究者が先端的な研究開発活動を安定的かつ効果的に進めることが期待される知的基盤の整備に資する研究開発を行う「知的基盤整備」、v )科学技術会議が定める重点領域において、特定の生命現象に関し、中核機関のオーガナイズの下、産学官、関係省庁の研究機関を有機的に連携させ、当該生命現象の分子レベルの理解とそれに基づく応用のための研究を推進する「ゲノムフロンティア開拓研究」等の各プログラムに区分され実施されている。
 科学技術振興調整費の研究課題は公募されており、主要なプログラムである総合研究、生活・社会基盤研究、目標達成型脳科学研究、知的基盤整備及びゲノムフロンティア開拓研究に対する平成11年度の申請課題241課題のうち、国立大学等(国立工業高等専門学校を含む。以下、本項において同じ。)が研究参画予定機関に含まれている課題は165課題で、68.5パーセントを占めている。また、採択された研究課題についてみると、平成9年度に実施された総合研究39課題のうち国立大学等は37課題に参画しており、課題全体の担当研究者734人のうち国立大学等の研究者は239人(32.6パーセント)を占め、国研の研究者287人(39.1パーセント)に次いで多くなっているなど、科学技術振興調整費を活用した研究における国立大学等の占める比重は高い。
 ちなみに、文部省は、国立大学等における研究環境の向上を図るため、科学技術振興調整費等外部資金として受け入れる研究費について、執行科目を統合するなど研究者が柔軟に使用できるよう改善を進めてきている。
       
       今回、科学技術振興調整費の運用状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。
 科学技術振興調整費は、国研が研究に参画する場合は、科学技術庁から当該国研を所管する省庁に予算の移替えが行われ、その後、当該国研に示達されることとなっている。また、国研以外の研究機関(大学、特殊法人、民間等)が研究に参画する場合は、委託研究として、当該機関に委託費が交付されるが、国立大学等については、すべて、科学技術庁から予算の移替えを受けた国研又は委託を受けた公私立大学、特殊法人、民間等から委託又は再委託される運用となっている。
 国立大学等に対する科学技術振興調整費の交付が、こうした運用となっている理由は、昭和56年度の科学技術振興調整費の創設に際して、文部省が、国立大学等の参画については、i )科学技術振興調整費は、科学技術振興の総合推進調整という行政目的を実施するため科学技術庁に一括計上される予算であるが、科学技術庁設置法上、その調整権限から大学が除かれているため、大学に係る研究はそもそも対象とされていないこと、ii )大学における研究は、あらゆる分野において、自由な発想により創造的に展開されるものであり、行政の制約を受けるものではないとの点に配慮すべきであることとの考え方から、科学技術庁から文部省への予算の移替え又は科学技術庁から国立大学等への直接委託はできないとして、科学技術庁との間で調整を図ったためである。
 しかし、これについては、その後、科学技術庁が、事務の繁雑化、国立大学等での予算執行の遅れや研究期間の短縮化等の問題点があるとして、数次にわたり文部省に対して見直しを求めてきている。また、次のとおり、国立大学等が研究に参画する場合にすべて他の研究参画機関からの委託としなければならない必然性は認められない。
     
1.  科学技術振興調整費は、科学技術庁に一括計上される経費であるが、その運用は、大学における研究に係る事項も含めた科学技術(人文科学のみに係るものを除く。)の振興に資するための審議機関である科学技術会議の方針に沿って行われるものであり、科学技術庁のみならず文部省も同会議の事務局を担当している。また、科学技術会議が定めた「科学技術振興調整費活用の基本方針」には、「産・学・官の有機的連携の強化」が運用上の基本項目として定められており、大学を科学技術振興調整費の対象とすることが予定されている。実際に、科学技術振興調整費のうち前述の主要なプログラムに対する平成11年度の研究費に占める大学の研究費の割合をみると、国立大学等が26.0パーセント、公私立大学が9.2パーセントを占めており、合わせて4割近くが大学の研究資金となっている。
2.  科学技術振興調整費の研究課題は公募されており、科学技術振興調整費による研究を大学が実施するか否かは、あくまで大学の判断によるものである。
 加えて、公私立大学は、民間等と同様に科学技術庁から直接研究を受託しており、科学技術庁から直接研究を受託することをもって大学が行政の制約を受けるとは認め難く、また、公私立大学と国立大学等との取扱いに差異を設けるべき必要もみられない。
3.  科学技術振興調整費による研究を国立大学等に委託している国研の中には、国立大学等への委託について、科学技術庁から文部省への予算の移替え又は国立大学等への直接委託が行われていないため、形式的に委託者となっているにすぎず、委託契約の締結等の事務手続が負担となっているとする意見がある。
 一方、科学技術庁は、国立大学等が他の研究参画機関からの受託でなければ科学技術振興調整費を受けられないことにより国立大学等の研究の開始が遅れるとの指摘があることから、平成12年3月に各省庁に対し、国研又は特殊法人が国立大学等への委託者となった場合においては、原則として前納とされている国立大学等への受託研究費について、場合によっては後納することも含めて迅速な委託事務手続を進めるよう要請している。
       
       したがって、科学技術庁及び文部省は、科学技術振興調整費による研究のより効率的な実施を図る観点から、現行の国立大学等への委託方式について、直接委託とするなど早急に見直す必要がある。
       
    ウ 科学研究費補助金の経理事務の見直し
       科学研究費補助金は、我が国の学術の振興に寄与するため、人文・社会科学から自然科学までのあらゆる分野における優れた独創的かつ先駆的な学術研究を格段に発展させることを目的とした文部省所管の研究助成費である。科学研究費補助金の予算額は、平成元年度526億円であったものが、毎年増額され、11年度には、約2.5倍の1,314億円となっている。
 科学研究費補助金の経理は、「科学研究費補助金(科学研究費)の取扱いについて」(平成11年4月26日付け文学助第21号文部省学術国際局長通知)において定められている。これによると、研究を行う組織の形態により、i )異なる研究機関に所属する複数の研究者が共同して行う「研究1)」と、ii )研究機関に所属する研究者が1人で行う研究又は同一の研究機関に所属する複数の研究者が共同して行う「研究2)」とに区分され、研究1)については、研究代表者に対して研究費が交付(実務上、受領委任状で研究代表者が所属する研究機関の代表者が一括受領)され、研究費の管理責任は研究代表者が負うこととされている(以下、このような経理方式を「個人経理」という。)。また、研究2)については、研究費が研究機関の代表者に対して交付され、研究機関の事務局で管理することとされている(以下、このような経理方式を「機関経理」という。)。
 ただし、研究1)についても、補助金の適正な執行及び研究者の事務負担の軽減を図る観点から、できる限り研究代表者の研究機関の事務局で管理することが望ましいとされている。
       
       今回、国立大学等の28研究所の科学研究費補助金の経理状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
 調査した国立大学等の研究所28のうち、個人経理も行っている研究所は11あり、他の17の研究所では、研究1)及び研究2)を特に区別せずに、原則すべて機関経理として研究機関の事務局が経理事務を処理している。
 機関経理のほかに、一部の科学研究費補助金について個人経理を行っている11の研究所においては、次のように研究者の事務処理上の負担が大きい例や事務処理の透明性が十分でない例がみられる。
     
1.

 高額な科学研究費補助金(15件で総額4億1,550万円(1件平均2,770万円))が機関経理によらず、科学研究費補助金の管理責任者たる研究代表者(個人の研究者)の個人経理として行われており、研究者の事務負担が大きいものとなっている。また、科学研究費補助金により物品を購入する場合は、会計法令の適用はないが、前記の通知において、補助金の使用に当たっては、国の契約及び支払いに関する規定の趣旨(国が物品を購入する場合は、原則、競争契約によることとされ、契約の性質又は目的が競争を許さないとき、予定価格が少額であるとき等は、指名競争契約(300万円未満)又は随意契約(160万円未満)によることができる。)に従い、公正かつ最少の費用で最大の効果が上げられるように経費の効率的使用に努めなければならないこととされているが、物品購入の実態をみると、高額な物品(1件当たり1,299万円等)が研究者個人による随意契約で購入されている研究所がある。

2.  研究所の中には、個人経理に係る補助金が8件9,548万円(1件平均1,194万円)、機関経理に係る補助金が75件1億3,841万円(1件平均185万円)と、1件当たりの金額は、個人経理の方が大きくなっているが、個人経理に係るものについて、事務局がその出納管理に直接関与していない研究所がある。
 また、個人経理に係る補助金が5件7,204万円(1件平均1,441万円)、機関経理に係る補助金が49件1億3,490万円(1件平均275万円)となっている研究機関において、個人経理に係る補助金5件のうちの2件については、当該機関の長の研究課題に係るものであることから、事務局が経理実務を行っているが、他の3件については、経理実務はできる限り研究機関の事務局で処理することが望ましいとの文部省の方針は承知しているものの、事務方の業務が多忙であることを勘案すると、研究者個人が経理することもやむを得ないものと考え、事務局に経理実務の処理を依頼していないものがある。
3.  個人経理に係る研究者の事務としては、補助金の適正な執行を確保するため、i )預貯金の管理、ii )収支簿の作成、iii )設備備品及び消耗品の購入に伴う契約書の作成と証拠書類の徴収・作成、iv )科学研究費補助金の申請、交付、実績報告等に係る書類や、補助金を適正に使用したことを証する書類の整理・保管などがあり、研究者にとって大きな事務負担となっている。
4.  17研究所では、原則すべての補助金を機関経理で処理しており、経理事務の実務は大学事務局が処理している。これらの中には、大学事務局長から、各部局長あてに科学研究費補助金の執行に係る通知を発し、研究1)に係る研究代表者又は研究分担者が現金保管等経理事務をできる限り部局の事務部長等に委任することを関係研究者に周知するよう、委任状の様式を定めて指導している研究所がある。
       
       したがって、文部省は、補助金の適正な執行及び個人経理に係る研究者の事務処理負担の軽減を図る観点から、研究者個人が経理を行っている研究1)についても、機関経理を行うよう国立大学等に対し指導を徹底する必要がある。
       
    エ 公募型研究の審査結果等の情報の開示による研究活動の活性化
       近年、科学技術振興調整費などの競争的資金は増加傾向にあり、関係省庁等においては、競争的資金を活用した公募型研究が各種の事業及び研究種目(以下、本項においては、総称して「事業」という。)の下に行われている。
 研究者が公募型研究に応募する段階で、当該公募型研究の審査基準が明確にされていれば、研究者は、自らの応募課題について何を求められているかをよりよく理解することが可能となり、また、審査の結果、不採択になった場合でも、応募者が不採択となった理由や応募課題に対するコメントを知ることができれば、自らの応募課題のどの部分が客観的に不足しているかを理解する一助となる。このため、あらかじめ審査基準を明らかにするとともに、応募者に不採択の理由や応募課題に対するコメントを通知することは、審査の透明性及び公正性の確保を図る上で、また、研究者の意欲を促し研究活動の活性化を図る上でも大きな意義を持つものである。
 科学技術基本計画においては、厳正な評価を実施し得る評価の仕組みと評価のための基準を充実・整備し、評価結果の情報開示に努めるとされているほか、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月7日内閣総理大臣決定。以下「大綱的指針」という。)においても、競争的資金による公募型研究の場合は、応募課題の採択審査が事前評価の役割を持つものと位置付けられ、評価基準・過程の明示及び評価理由も含めた評価結果の開示について、適切な措置を講ずる必要があるとされている。
 なお、科学技術庁が研究者に対して実施したアンケート調査の結果を取りまとめた「我が国の研究活動の実態に関する調査報告」(平成11年9月科学技術庁科学技術政策局調査課)においても、公募型研究の採択審査において不採択の理由や応募課題に対するコメントが適切に伝えられることや明確かつ公正な審査基準などを整備することが必要であるとされている。
       
       今回、9省庁等の38事業に係る公募型研究における公募要領等での審査基準の開示状況及び応募者への審査結果の通知状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  公募要領等における審査基準の開示の状況についてみると、38事業のうち、科学技術庁の科学技術振興調整費による総合研究など8省庁等の37事業については、公募要領等で審査基準が開示されているが、郵政省の「ブレークスルー基礎研究21」については、開示されていない。
 なお、科学技術庁が行った前記の調査結果では、公募型研究の採択審査について、透明かつ公正な審査が行われているとは思わないとの選択肢を選んでいる者(全体の27.2パーセント)のうち63.7パーセントの者が、その理由として審査プロセス・基準が不透明であることを選択しており、審査プロセス・基準の開示が求められている。
2.  応募者への審査結果の通知状況をみると、38事業のうち、科学技術振興事業団(科学技術庁所管)が行っている個人研究推進事業など5省庁等の30事業(78.9パーセント)については、不採択通知において不採択の理由や応募課題に対するコメントが通知されており、そのうち、i )厚生科学研究費補助金による脳科学研究事業など厚生省の17事業においては各評価項目別の評点が、ii )科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業(平成11年度不採択件数:546件)においては不採択の理由や応募課題に対するコメントに加えて総合評点が、それぞれ通知されている。
 しかしながら、文部省の科学研究費補助金による基盤研究など5省庁等の8事業(21.1パーセント)については、不採択の理由や応募課題に対するコメントが通知されていない。これら5省庁等は、その理由として、不採択件数が多く、事務量が増大することを挙げており、特に、文部省は、不採択件数が膨大であり、新たに不採択の理由や応募課題に対するコメントを通知するとなると、審査員(教授、助教授等)に過度の負担が掛かるとしている。ちなみに、これら8事業の平成11年度の不採択件数をみると、文部省の4事業は1事業当たり約5,000件ないし約3万7,000件となっているものの、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(厚生省所管)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(通商産業省所管)、運輸施設整備事業団(運輸省所管)及び通信・放送機構(郵政省所管)の4事業は、1事業当たり約50件ないし約350件となっている。
 なお、調査した国研の研究者の中には、応募者に対し、不採択の理由や応募課題に対するコメントを通知してほしいとしている意見を有しているものがある。このほか、科学技術庁が行った前記のアンケート調査の結果においても、公募型研究の採択審査について、透明かつ公正な審査が行われているとは思わないとの選択肢を選んでいる者のうち36.3パーセントの者が、その理由として、応募課題に対するコメントが応募者に通知されないことを選択しており、不採択の理由や応募課題に対するコメントの通知が求められている。
       
       したがって、関係省庁は、公募型研究に係る審査の透明性及び公正性の確保を図るとともに、研究者の意欲を促し、研究活動の活性化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
     
1.  郵政省は、公募型研究の公募要領等において、審査基準を開示すること。
2.  文部省は、可能な限り不採択の理由や応募課題に対するコメントを通知することとし、その方策について検討すること。
 また、厚生省、通商産業省、運輸省及び郵政省は、不採択の理由や応募課題に対するコメントを通知するよう所管特殊法人等を指導すること。
       
  (3) 研究者等の養成・確保及び流動化の促進
    ア 任期付任用制度の活用の促進
       柔軟で競争的な研究環境の実現のためには、研究者の流動化を促進することが不可欠であり、また、研究所における特定の研究プロジェクト等への人材の結集や若手研究者の登竜門として活用できる任期を付した任用制度の活用は、研究活動の活性化を図るものとして期待されている。
 科学技術基本計画では、「柔軟で競争的な研究開発環境の実現に不可欠な研究者の流動化を促進させるため、任期制が我が国の研究社会の中で実効的に機能し得るよう配慮しつつ、研究者の任期制の導入を図る」こととされている。
 国研については、給与の特例及び裁量による勤務の措置を含む研究者の任期制を導入するため、一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(平成9年法律第65号。以下「任期付任用法」という。)が平成9年6月に施行され、i )特に優れた研究者を招へいする「招へい型」と、ii )若手研究者の登竜門としてその能力のかん養を図る「若手育成型」の2種類の任期制が設けられている。
 国立大学等の教員については、大学等への多様な人材の受入れを図り、大学等における教育研究の進展に寄与することを目的とした大学の教員等の任期に関する法律(平成9年法律第82号。以下「大学教員の任期付任用法」という。)が平成9年8月に施行され、i)多様な人材の確保が必要な教育研究組織の職に就ける「流動型」、ii )主として研究を行う助手の職に就ける「研究助手型」、iii )特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就ける「プロジェクト対応型」の3種類の任期制が設けられている。
       
       今回、11省庁の国研39機関及び国立大学等の28研究所における任期付任用制度の活用状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。
     
(ア) 国研における任期付任用制度の活用
   任期付任用法が施行された平成9年6月から12年4月までの間における任期付任用の実績(任用者総数)は、7省庁22機関で203人となっており、このうち、若手育成型の任期付任用の実績は、7省庁の21機関で187人となっている。
  1.  若手育成型の任期付任用の実績をみると、次のような状況がみられる。
    i  11省庁の39機関のうち、9省庁18機関において若手育成型の任期付任用の実績が皆無となっている。これら18機関の任期付任用制度の活用についての取組状況をみると、2省庁の3機関では、同制度の活用について具体的に検討を行っているなど、積極的に取り組む方針を採っているが、他の7省庁の15機関では、制度の活用について検討を行っておらず、次の理由から活用は困難としている。
      i )  研究分野が特殊で外部に専門家が少ない、あるいは長期にわたる研究を行っているなど研究業務の内容や性格から任期付任用制度になじまない。
      ii )  既存の研究者では対応できない任期を限った研究は、定員外の外部研究者の活用や共同研究で対応できていること、あるいは、小規模な国研であることから、研究職職員の定員を割り振ってまで任期付任用制度を活用しようとする動機付けがない。
      iii )  任期付任用制度で適切な人材が確保できるか、あるいは、任期付研究員の後任者が円滑に確保できるか懸念がある。
      iv )  任期付研究員の任期終了後の就職先の確保について、国研にも負担が生ずる懸念がある。
      v )  上部組織の人事計画に沿って人事を運用しており、国研の裁量で研究者を採用する余地が乏しい。
       しかし、これら7省庁の15機関については、次のような状況にあり、任期付任用制度の活用の余地が認められる。
      i )  15機関のうち1機関を除くいずれの国研も、平成10年4月から12年4月までの間に研究職職員を新規に採用しているが、任期付任用制度の活用について所内で検討したことはなく、前述の任期付任用制度の活用が困難とする理由についても、十分な検討の結果、あるいは実際に同制度の活用に取り組んだ結果、具体的に生じている支障ではないこと。
      ii )  前述の任期付任用制度の活用が困難とする理由は、任期付任用実績がある国研においても程度の差異はあれ共通する課題やあい路であるとみられること。
      iii )  15機関のうち、6機関は研究職職員の定員が100人以上と規模が大きく、ほぼ毎年度研究者を新規に採用している国研であり、任期付任用制度の活用について検討を行う意義が比較的大きい国研であること。
    ii  また、若手育成型の任期付任用の実績がある7省庁21機関の中にも、研究職職員の定員が300人以上と規模が大きいが、他の同規模の国研の任用実績と比較してその任用実績が少なく、更に積極的な取組が必要なものが1機関みられる。
  2.  若手育成型の任期付任用の実績を省庁別にみると、7省庁21機関187人のうち、通商産業省(工業技術院)が12機関で149人と79.7パーセントを占めている。また、i )各省庁の研究職職員の定員(平成12年度)に占める任期付研究員の割合をみても、通商産業省は6.3パーセントと他の10省庁(0パーセントから2.7パーセント)に比べて高く、ii )通商産業省では研究職職員の定員が100人未満の小規模な国研においても任期付任用の実績がみられるなど国研の規模にかかわらず任期付任用制度が活用されており、総じて通商産業省の国研においては同制度の活用が進んでいる状況がうかがわれる。
 これは、通商産業省の国研では、研究者の流動化を促進することが研究活動の活性化にとって必須であるとの判断から、研究者の新規採用に当たっては、原則として、任期付任用を検討するという考え方が各国研共通の認識となっていることによる。
(イ) 国立大学等の研究所における任期付任用制度の活用
  1.  国立大学等の研究所における任期付任用制度の活用は、それぞれの大学等の独自の判断にゆだねられている。
 調査した28研究所のうち、同制度を活用している研究所は2研究所であり、その採用者もそれぞれの研究所において助手1人のみと少ない状況となっている。
  2.  任期付任用制度を活用していない26研究所では、次の理由等により同制度の活用は困難であるとしている。
    i )  大学の研究所においては、基礎的な研究を実施しており、研究の継続性が求められている。
    ii )  研究者の流動化が未成熟の中で、研究内容が限られているため任期終了後の就職口が少なく、再就職先の確保が大変である。
    iii)  身分保障等の面で不利なため優秀な人材が集められない、研究費の割増し等の優遇措置がない。
     この点について、文部省は、大学教員の任期付任用法が施行されて間がないことや社会全体において人材の流動化が未成熟であること等によるものではないかと推測しているものの、国立大学等を対象とした任期付任用制度の活用状況に関する体系的な調査は行っていない。
 なお、国立大学等の研究所における任期付教員の場合、法律制度の違いから、国研の任期付研究者のような給与等についての特別な取扱い(別途の俸給表の適用等)がなく、任期を付さない教員と同様な取扱いとなっている。
   研究者の流動化を促進するためには、任期付任用制度が実効的に機能することが期待されているが、終身雇用がなお一般的な我が国において、一部の国研や国立大学等のみが任期制を積極的に活用しても研究者の流動化の促進にはつながらないことから、関係省庁はもとより国研及び国立大学等は、任期付任用制度の活用に際しての具体的な課題やあい路を明らかにして、その解決に取り組むとともに、より多くの国研及び国立大学等において任期付任用制度を活用していくことが重要である。
         
   したがって、関係省庁は、研究者の流動化の促進及び研究活動の一層の活性化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
  1.  任期付任用制度の活用及びその拡大の余地が認められる国研 に対し、他の国研における活用実績も参考にするなどして、同 制度の活用に積極的に取り組むよう指導すること。
     (北海道開発庁、科学技術庁、大蔵省、厚生省、運輸省、郵政省、労働省、自治省)
  2.  国立大学等における任期付任用制度の活用状況について調査を行うとともに、任期付教員の教育研究条件の在り方等について速やかに検討の上、同制度の活用のための必要な環境整備を図ること。
    (文部省)
       
    イ 研究者及び特別研究員の採用事務の改善
       大学等における研究者の公募は、多様な経歴・経験等を持つ優れた人材を確保する方法として、また、研究活動の活性化を促進するためにも有効なものである。このようなことから、研究者の採用については、平成6年6月の大学審議会答申「教員採用の改善について」において、公募制を一層積極的に活用するとともに、研究者の採用に関する情報を収集・提供する機関を整備し、公募制を実施しやすくする仕組みを作る必要があるとされており、さらに、10年10月の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」においても、各方面から広く優れた人材を求めるために公募制を一層積極的に活用することが必要であるとされている。
 また、研究活動の活性化を図るための一つの手段として、研究者の流動化が求められており、特に優れた若手研究者が、その研究生活の初期において異なる環境の下で刺激を受けながら研究をすることは、研究者養成の上で有益であることから、平成11年6月の学術審議会答申「科学技術創造立国を目指す我が国の学術研究の総合的推進について」においては、「若手研究者が常勤の職に就く前に、出身大学にとらわれることなく、自らの研究の発展に最も適した研究機関においてポスドク(注)として研究を発展させていくことができるように、制度等環境を整備する必要がある」としている。
     
(注)  「ポスドク」は、「ポストドクター」のことであり、大学院博士課程修了者である。
       大学等の研究所における研究者の採用に当たっては、一般的に、学会誌への掲載、国立情報学研究所(平成12年4月1日に学術情報センターを廃止して設立)の研究者公募情報提供事業(注)の活用、多数の関係する研究所等への公募文書の郵送などの方法が採られている。また、日本学術振興会は、特別研究員のうちの大学院博士課程修了者等(以下「特別研究員(PD)」という。)の採用に当たっては、対象となる大学等の機関に募集要項等関係書類を郵送し、募集を行っている。
     
(注)  研究者公募情報提供事業は、大学等における研究者の公募情報を収集(登載及び閲覧は無料)し、一般のインターネットで利用可能な学術情報ネットワークを介して広く国内外の研究者に公募情報を提供するもの
       
       今回、国立大学等の28研究所の研究者及び日本学術振興会の特別研究員(PD)の公募・採用状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  調査した28研究所における研究者の採用状況をみると、教授、助教授及び助手ともに原則公募採用としているなど研究者のすべてについて公募採用を実施している研究所が9研究所あるものの、その一方で、i )助教授以下の研究者については、教授と緊密な連携・協力の下に教育研究を行う必要がある、ii )外部の関係者に適任者の推薦を依頼している等として、一部の研究者のみを公募採用としているものなど、公募採用を積極的に実施していない研究所が19研究所ある。
 公募を積極的に実施していない研究所の中には、i )定年退官した教授の後任の補充が円滑に進んでいないものがあり、また、ii )研究者公募情報提供事業の利用に不慣れであるとして、同事業を活用していないものがある。
 なお、平成9年度に国立大学等に採用された研究者総数は5,476人であり、このうち公募採用された者は2,049人(37.4パーセント)となっており、3年度の公募採用者数(1,166人(24.1パーセント))と比較して、採用者数及び公募採用率ともに増大している。しかし、これを若手の研究者である助手に限定してみると、平成9年度の採用者総数は、3,482人であるが、うち公募採用された者は、631人(18.1パーセント)といまだ少ない状況となっている。
2.  日本学術振興会の特別研究員(PD)の採用については、日本学術振興会が例年3月中旬に募集を開始し、8月上旬から12月上旬にかけて、専門分野の特別研究員等審査会の審査員(大学教授等で構成。1申請に対し3人)が応募者の研究業績、研究計画(研究テーマ・所属予定の研究所)及び面接試験の結果を総合的に審査・評価し、採用内定者を決定している。
 日本学術振興会は、若手研究者が異なる研究環境の下で刺激を受けながら研究をすることが、研究者養成の上で有益であることから、募集要項の中で出身研究室とは別の所で研究をすることを奨励している。日本学術振興会の特別研究員等審査会においては、この点についても審査・評価し、採用内定者を決定しているとしている。しかしながら、特別研究員(PD)の約50パーセントは出身研究室において研究を行っている状況にあり、異なる環境の下で研究することを奨励している制度の趣旨が、関係者等に必ずしも十分徹底されていない状況がみられる。
       
       したがって、文部省は、研究者の流動性を高め、多様な経歴・経験等を持つ優れた人材の確保・養成と研究の活性化とを図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
     
1.  国立大学等の研究所の研究者の採用に当たっては、国立情報学研究所の研究者公募情報提供事業を利用するなどの方法により公募採用を積極的に行うよう国立大学等を指導すること。
2.  特別研究員(PD)については、出身研究室以外での研究を希望する者の積極的な募集・採用に努めるよう日本学術振興会を指導すること。
       
    ウ 科学技術特別研究員事業等の事業運営の見直し
       科学技術振興事業団は、若手研究者に対する支援事業として、創造性豊かな若手研究者を一定の期間(最長3年間)雇用し、国研等に派遣する科学技術特別研究員事業を実施している。この事業は、若手研究者には整った研究環境で自らの可能性を追求する機会を提供し、受入先の研究機関には新たな人材との交流による研究の活性化を期待するものである。平成11年度においては、同事業により85人が新規に採用され、同年度末現在、在籍者と合わせて371人が国研等で研究に従事している。
 また、科学技術振興事業団は、研究者が研究開発活動に専念できる環境を整えるため、国研が重点を置いて実施している研究(以下「重点研究」という。)に対し、高度な知識・技術を有する者を重点研究支援協力員(以下「支援協力員」という。)として派遣(最長5年間)する重点研究支援協力員事業(以下「支援協力員事業」という。)を実施している。支援協力員は、その専門分野に応じて実験機器・測定機器の製作・加工、保守・点検、操作の業務や試料の調整、実験データ等の取得、取得データ等の解析・加工、分析等の業務に従事し、当該重点研究を支援する者であり、平成11年度において、新規派遣者100人、継続派遣者250人の合わせて350人が国研に派遣されている。
       
       今回、科学技術特別研究員事業及び重点研究支援協力員事業の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
(ア) 科学技術特別研究員事業の機関別派遣人数枠の見直し
   科学技術庁は、科学技術特別研究員の派遣対象である研究機関を平成10年度までは国研、特殊法人及び認可法人としていたが、11年度から派遣対象機関に地方公共団体が設置する試験研究機関(以下「公設試験研究機関」という。)及び公益法人の研究機関を加えるとともに、機関別の派遣人数枠を、国研30人(対10年度当初予算比で65人の減)、国研以外の機関(以下「その他の機関」という。)55人(同50人の増)としている。また、今後の派遣人数枠についても、平成12年度は11年度と同数を、13年度以降は、国研55人、その他の機関70人を見込んでいる。
  1.  科学技術庁では、研究機関別の派遣人数枠について、対象とする国研の機関数(83機関)とその他の機関の機関数(特殊法人及び認可法人7機関、公設試験研究機関及び公益法人の研究機関800機関の計807機関)との比率が1対10であることを勘案して設定したとしている。しかし、公設試験研究機関及び公益法人の研究機関が科学技術特別研究員の受入れを希望する場合には、事前に科学技術振興事業団に申請して受入機関の認定を受けなければならず、平成11年度に公設試験研究機関及び公益法人の研究機関で受入機関の認定を受けた機関数は800機関のうちの67機関(公設試験研究機関41機関、公益法人の研究機関26機関)にとどまっていることから、実質的な機関数の比率は1対1程度となっている。
  2.  平成11年度からの派遣対象機関の範囲の拡大に伴う機関別の派遣人数枠の設定により、国研では、従前、新規派遣人数が100人前後(平成7年度から10年度までは補正予算分を除き95人から125人)であったものが、11年度は30人と著しく減少している。
 この結果、派遣対象機関別の応募倍率は、国研が平成10年度の2.9倍から10.2倍に、その他の機関が10年度の3.4倍から1.3倍と変化しており、国研とその他機関との応募倍率に著しい格差が生じ、国研への派遣を希望する若手研究者の研究活動の場が著しく狭められる状況となっている。
(イ) 科学技術特別研究員及び支援協力員の採用期日の改善等
   科学技術特別研究員及び支援協力員の新規採用(派遣)の手続とその時期についてみると、両事業ともに、7月に募集が行われ、科学技術特別研究員の採用及び重点研究の採択の決定が11月、採用(派遣開始)期日が翌年の1月1日となっており、採用(派遣)期間の終了は12月末となっている。
 このように両事業の採用(採択)決定時期が11月、採用(派遣開始)期日が翌年の1月1日となっていることについては、i )我が国の一般的な卒業や就職の時期と乖離しているために、優秀な人材を確保する上での支障となっている、ii )派遣期間の終了後、次のポストへの就職に円滑につながらないという指摘があり、派遣期間の途中で退職する者が生ずる一因になっているとも考えられる。
 ちなみに、科学技術特別研究員事業と同様に優れた若手研究者に大学その他研究機関において研究に専念する機会を与える文部省の特別研究員(日本学術振興会が実施)の場合、特別研究員の採用は4月1日となっている。
       
       したがって、科学技術庁は、科学技術振興事業団による科学技術特別研究員事業及び支援協力員事業の事業効果を一層高める観点から、次の措置を講ずる必要がある。
     
1.  科学技術特別研究員事業について、国研とその他の機関別の応募人数及び応募倍率並びに公設試験研究機関や公益法人の研究機関の受入機関としての認定機関数の実績などを十分に勘案して機関別の派遣人数枠を設定すること。
2.  科学技術特別研究員事業及び支援協力員事業について、より優秀な人材の確保を図るため、十分な募集期間を確保しつつ、可能な限り募集・採用(採択)決定時期の早期化を図るよう科学技術振興事業団を指導すること。また、採用(派遣開始)期日の早期化について検討を進めること。
       
    エ 奨学金の返還免除職への就職期限延期の取扱いの見直し
       科学技術基本計画では、若手研究者の養成・確保に関して、大学院生に対する奨学金の充実や、若手研究者に対するフェローシップ等の支援の拡大を図るとされている。
 ポストドクター等の若手研究者に対する支援については、国研等に派遣して研究に従事させる科学技術庁の科学技術特別研究員(科学技術振興事業団が実施)や大学等における研究の機会を提供する文部省の特別研究員(日本学術振興会が実施)等、若手研究者に研究の機会を提供する支援制度(以下「特別研究員制度等」という。)が各省庁によって設けられている。
 また、大学院生に対する国の奨学金制度についてみると、日本育英会の育英奨学事業において、無利子の奨学金(第一種奨学金)と有利子の奨学金(第二種奨学金)の2種類の奨学金制度が設けられている。このうち、第一種奨学金の貸与を受けた者で、大学院に2年以上在学し、大学院を卒業又は退学した日以後1年以内に大学や文部大臣の指定する研究機関等の教育又は研究の職(以下「免除職」という。)に就き、5年以上継続してその職にある者は、その期間に応じて奨学金の一部あるいは全額について返還の免除(特別免除)を受けることができることとされている。また、1年以内に免除職に就職する見込みがない場合は、「免除職就職延期願」を日本育英会に提出し、同会が免除職への就職期限の延期を認めれば、その事由に応じた期間につき免除職への就職期限が延期(4年以内に限る。)されることとなっている。
       
       今回、日本育英会の奨学金の返還に係る特別研究員等の取扱いについて調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  各省庁の特別研究員制度等は、雇用関係などに違いがみられるものの、類似した制度である。しかし、免除職への就職期限の延期については、文部省の特別研究員及び海外特別研究員のみが認められており、科学技術庁の科学技術特別研究員など他省庁の特別研究員等については認められていない。このため、文部省以外の特別研究員等として2年ないし3年程度研究に従事すると免除職への就職期限が過ぎてしまい、その後免除職に就いた場合でも返還免除制度の適用を受けることができないものとなっている。
 文部省の特別研究員及び海外特別研究員以外の特別研究員等が免除職への就職期限の延期の対象となっていない理由は、各省庁において特別研究員等の制度を創設する際に、免除職への就職期限の延期の取扱いについての検討がなされなかったことによるものとみられる。
2.  科学技術振興事業団による「科学技術特別研究員制度の現状についての調査」(平成11年3月)等の結果によると、科学技術特別研究員からは、就職期限の延期の取扱いがないことに対して改善を求める意見が多数みられ、また、科学技術特別研究員の受入機関からは、応募の障害になっているのではないかという意見がみられるなど、研究の現場では、文部省の特別研究員のみが免除職への就職期限の延期が認められていることに対する不公平感が強い。
3.  科学技術庁による「流動的研究体制と研究者のライフサイクルに関する調査」(平成10年3月)等の結果によると、特別研究員制度等は、大学や国研のポストを得るまでの一時的なつなぎとして利用されている傾向がうかがわれる。科学技術特別研究員の場合についてみると、3年間の研究期間の中途で退職する研究者が半数以上と多いが、免除職への就職期限の延期が認められていないことも中途退職者が多いことに影響しているものと推察される。
4.  特別研究員等の免除職への就職期限の延期の取扱いについては、文部省の調査研究協力者会議が平成9年6月に取りまとめた「今後の育英奨学事業の在り方について」において、文部省以外の特別研究員等についても、免除職への就職期限の延期を認めることが適当であるとする報告が行われている。
 なお、文部省及び日本育英会は、当該報告の趣旨に沿った改善を行っていなかったが、平成12年6月に、有識者で構成する文部大臣の私的懇談会(「奨学金制度の改善に関する懇談会」)を設置し、現在、奨学金制度の改善方策について検討を進めている。
       
       したがって、文部省は、制度間の公平性を確保する観点から、各省庁の特別研究員制度等について、その運用実態を把握し、これらに係る免除職への就職期限の延期に係る取扱いを見直す必要がある。
       
  (4) 産学官の連携・交流の推進
    ア 研究集会参加承認制度の適用範囲の拡大
       国は、昭和61年に、科学技術に関する試験研究の効率的推進を図ることを目的として、研究交流を促進するための必要な法的特例措置を講ずる研究交流促進法(昭和61年法律第57号)を制定している。同法第5条において、任命権者は、研究者が科学技術に関する研究集会への参加を申し出た場合、その参加が、i )研究に関する国と国以外の者との間の交流等の促進に特に資するものであり、かつ、ii )当該研究者の職務に密接な関連があると認められる場合には、研究業務の運営に支障がない限り、その参加を承認することができるとされている。研究者は、この申出が承認された場合には、職務専念義務を免除され、年次休暇を取得することなく当該研究集会への参加が可能となる(以下、この制度を「研究集会参加承認制度」という。)。
 「研究集会」の定義については、昭和61年11月、政府部内において、i )参加予定者が5人ないし6人程度のもの、ii )研究集会の開催準備又は終了後の整理のみに係る集会及びiii )研究集会のプログラムに入っていない研究施設の見学や研究所の訪問は除外するとの考え方に従って運用することとされている。
 科学技術基本計画においては、研究集会参加承認制度について、「国の研究者が学会等の開催及び運営に貢献するとともに、学会等の参加の機会を生かすため、国立試験研究機関の研究者の研究集会参加に係る職務専念義務免除制度の適用範囲について、その拡大を含め検討を行い、その結果に応じ所要の措置を講ずる」こととされている。
       
       今回、11省庁の国研39機関における研究集会参加承認制度の運用状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  平成7年度から10年度までの間の研究集会への参加承認は、39機関の合計で、毎年度1,000件以上行われている(研究者のおおむね5人に1人の割合で承認)。
 しかし、国研の中には、i )研究集会に係る幹事会等については、少人数で行われるため参加できない、ii )研究集会の内容と密接に関連する施設の訪問ができないなどの支障があるとして、その運用について改善を求める意見・要望を有するものがみられる。
2.  研究集会参加承認制度の運用状況をみると、
  i  研究者が研究集会への参加を承認された案件の中には、研究者が、国際学会への参加に加え、職務に密接に関連した研究所訪問をも行うという内容で研究集会への参加の申請をしたが、当該学会のプログラムに入っていなかったことから、この訪問については不承認とされ、当該研究者は年次休暇を取得し訪問をせざるを得なかった例、
  ii  通商産業省(工業技術院)が把握したところによれば、研究集会参加承認制度が適用されない小規模な研究集会や研究集会の開催準備のための会合等について、研究者が年次休暇を取得して参加している例や、参加を見送らざるを得なかった例がある。
       
       一方、科学技術基本計画を受け、科学技術庁は、研究集会参加承認制度の適用範囲の拡大について検討していく必要があるとして、各省庁に対して、意見・要望や実情の収集を中心とした調査等を行っているが、適用範囲の拡大についての検討は進んでいない。
       
       したがって、科学技術庁は、産学官の連携・交流の推進を図る観点から、研究集会等の実態を十分把握し、研究集会参加承認制度の適用範囲の拡大について、関連制度との整合性等も踏まえて検討を進め、その結果に基づき所要の措置を講ずる必要がある。
       
    イ 共同研究等の成果の活用の促進
       共同研究等の成果としての特許を実施する権利を相手方企業に付与することは、共同研究等を推進するためのインセンティブとして有効なものである。科学技術基本計画においては、優先的実施権(特許権を独占的に実施する(又は自らの指定する者のみに独占的に実施させる)契約上の権利)について、「共同研究や国等からの委託研究の成果として得られた特許権等について共同研究や受託相手先機関に優先的な実施権が付与できるよう、契約内容の整備を図る」とされており、各省庁は、優先的実施権の付与及び付与期間を、それぞれの省庁全体又は研究所レベルの内規等(共同研究規程等)として独自に定めている。
       
       今回、11省庁の国研39機関における優先的実施権の付与状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  平成7年度以降の共同研究に係る優先的実施権の付与状況をみると、39機関全体で、共同研究の契約締結件数に占める優先的実施権を付与する旨を規定した契約件数の割合は、平成7年度の15.5パーセント(698件のうち108件)から10年度の27.2パーセント(1,107件のうち301件)となっており、優先的実施権の付与が全体として進んでいるとは言い難いものとなっている。
 この原因の一つとして、優先的実施権が、特許法上の権利である専用実施権に比べ十分な保護がなされていないため、共同研究等の相手方に対するインセンティブとしては不十分であることが挙げられる。科学技術庁が平成12年度に研究交流の制度改善に資することを目的として行った調査の結果においても、優先的実施権では不十分であり、専用実施権の設定などが有効であるとしている国研が相当数みられる。また、同庁が民間企業986社に対して平成11年3月に行った「民間企業の研究活動に関する調査」の結果においても、32.0パーセント(316社)の企業が、「大学や国研等が取得した知的財産権等のライセンスを取得するに際しての問題点」として「ライセンスの形態が硬直的(専用実施権等が設定されていないなど)で使い難い」ことを挙げている。
2.  共同研究規程等に規定された優先的実施権の付与期間をみると、科学技術基本計画の趣旨を踏まえ、平成9年9月に共同研究規程を改正し付与期間を5年から10年に延長している例(2機関:建設省)がある一方、付与期間を、i )共同研究の終了の日から3年あるいは5年を超えない範囲内としている例(4機関:北海道開発庁、環境庁、大蔵省及び自治省の各1機関)、ii )共同研究による発明に係る特許権についての優先的実施権の許諾をする契約などの締結日から7年を超えない範囲内としている例(4機関:運輸省)などもあり、国研によってその取扱いが区々となっている。
 しかしながら、科学技術庁においては、こうした優先的実施権の付与に係る実態や効果についての把握・分析を十分には行っていないこともあって、共同研究等の推進のためのインセンティブとして有効な特許の活用方法の在り方についての具体的な検討が進んでいない。
       
       したがって、科学技術庁は、共同研究等の推進を図る観点から、各省庁における優先的実施権の取扱い及び効果を十分把握・分析した上で、共同研究等の成果についての相手方による活用の促進方策に係る検討を行い、その結果に基づき所要の措置を講ずる必要がある。
       
2 研究開発に係る評価の充実
  (1) 国立試験研究機関等における評価の充実
     研究開発に係る評価については、科学技術基本計画を受けて、平成9年8月に大綱的指針が策定されている。大綱的指針では、評価の基本的な考え方として、i )評価基準・過程が外部からも分かる透明性のある明確な評価の実施方法の確立、ii )第三者を評価者とする外部評価の導入、iii )国民に評価結果等を積極的に公開するなど開かれた評価の実施、iv )研究開発資源の配分への反映等評価結果の適切な活用が示されるとともに、評価実施上の共通原則、留意すべき事項等が明示され、国研等の研究開発機関は、これに沿って、研究開発の厳正な評価を実施することとされている。
       
    ア 国研における評価の充実
     

 大綱的指針における研究開発に係る評価は、機関評価と課題評価とから成り、i )機関評価については、その設置目的等に応じて当該機関の研究能力が最大限に発揮されるような条件が整備され、研究成果が挙がるように、外部の評価者により、当該機関の運営全般を対象とした評価を行い、評価結果をその改善に反映すること、ii )課題評価については、研究開発の内容・種類に応じた個別の留意事項が掲げられ、例えば、重点的資金による研究開発については、比較的小規模かつ基礎的な経常的研究開発に比し、より慎重な評価を行うこととし、外部評価を導入することとされている。
 今回、11省庁の国研39機関における機関評価及び課題評価の実施状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。

     
1.  機関評価については、平成11年度末までに34機関(87.2パーセント)において、外部評価委員会による評価が実施されており、機関評価の実施がかなり浸透してきている状況がうかがえる。しかし、必ずしも大綱的指針の趣旨を踏まえたものとはなっていないものが次のとおりみられる。
  i  機関評価を実施していないものが5機関あり、うち3機関(運輸省)は今後順次実施していくこととしているものの、他の2機関(建設省)では、評価要領の策定を含めその実施に向けた取組に着手した段階である。
  ii  機関評価を実施したとしているものの中にも、評価に当たっての評価項目、評価基準等が明確にされていないものが1機関(北海道開発庁)、評価対象が各研究部単位にとどまっており、組織・人事管理、研究開発分野・課題の選定、研究開発資源の配分、施設設備・研究支援体制の整備等を含めた機関全体の運営についての評価を実施していないものが2機関(厚生省)ある。
  iii  機関評価を実施する評価委員会は、適切な外部の専門家等により構成されることが原則とされているが、当該国研の職員を評価委員としているものが6機関(厚生省)あり、この中には、10人のうち4人が当該国研の職員であるなど、そのウエイトが高いものがある。
 なお、厚生科学審議会研究企画部会は、評価委員会に内部の者を加えることについて、評価の客観性・公正性の観点から検討を要するとの意見を表明している。
  iv  評価委員会の評価結果は、当該機関の運営の改善に適切に反映されることが重要であるが、中には、i )評価に当たっての評価項目、評価基準等が明確でないことから、評価結果が委員会の意見の付記にとどまっているものが1機関(北海道開発庁)、ii )評価結果の取りまとめが各委員の意見等と研究所側の説明等を羅列した形となっており、委員会としての評価結果に基づく指摘事項等が明確な形で示されているとはいえないものが1機関(自治省)、iii )評価結果の概要を厚生科学審議会研究企画部会に報告しているものの、その報告内容は、当該部会に意見を求めるための報告としては必ずしも十分な内容とはいえなかったことから同部会としての改善意見が得られず、対処方針が策定されていないものが8機関(厚生省)ある。
  v  機関評価は、大綱的指針が策定された平成9年度以降に本格的に実施されており、11年度に実施されたものが13機関(33.3パーセント)あるなど、最近実施されたところが多いことなどから、評価結果の業務運営の改善への反映については、検討中又は今後の検討課題としているところがあり(北海道開発庁1機関、科学技術庁3機関、環境庁1機関、大蔵省1機関、通商産業省8機関、運輸省1機関、郵政省1機関、労働省1機関、自治省1機関)、それぞれの国研において、今後、積極的に対応していく必要がある。
  vi  評価結果、評価結果に基づいて講じた措置等については、積極的に一般に公表することが必要であるが、中には、評価結果等を公表していないものが8機関(厚生省7機関、自治省1機関)ある。
2.  課題評価については、平成11年度末までに28機関(71.8パーセント)で外部評価委員会等による評価を実施しており、課題の外部評価の実施が相当程度浸透してきている状況がうかがえる。
 しかし、i)課題評価のための要領等が未策定であり、外部評価を実施していないものが8機関(厚生省1機関、通商産業省7機関)あり、ii )課題評価のための要領等は策定しているものの、その評価対象範囲が「大規模な研究プロジェクト」と極めて抽象的、限定的になっており、外部評価の実績のないものが3機関(厚生省)ある。
       
    イ 基礎研究推進制度を運営する特殊法人等における評価の充実
       科学技術庁等の関係7省庁では、所管の特殊法人等7機関において、国研等を対象に研究テーマを公募する方法などにより研究者の独創的な研究開発能力を最大限に引き出すことを目的とした基礎研究推進制度を平成8年度から本格的に導入している。
 大綱的指針においては、これら公募型の競争的資金による研究開発については、課題採択の審査がすなわち事前評価の役割を持つとして、その一層の充実を図るとともに、短期間又は少額のものを除き、中間及び事後における評価の徹底を図ることが必要であるとしている。
 今回、5特殊法人等の公募による基礎研究推進制度に係る課題評価の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
 いずれの特殊法人等においても、評価のための委員会等を設置し、課題評価に取り組んできているが、中には、各評価実施主体が定めることとされている評価要領等を定めず、所管省庁の評価要領等を準用して実施しているとしているものが3機関(厚生省1機関、通商産業省1機関、郵政省1機関)ある。また、これら3機関では、中間評価結果の公表についての取扱いが不明確となっており、いずれも評価結果は公表されていない。さらに、実施することとしていた平成10年度の課題の中間評価を業務繁忙等を理由に実施していないものが1機関(通商産業省)ある。
       
    ウ 研究者評価の改善方策の検討
       研究開発の成否は研究者の活動に大きく左右されるものであることから、研究者の活力を一層高めていくため、研究者個々の研究業績等を適切に評価し、処遇等に反映する仕組みを早急に確立していくことが重要な課題となっている。また、今後、研究者の流動化の促進に当たっても、研究者評価の確立が必須のものとなっている。
 今回、11省庁の国研39機関における研究者評価の実施状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
     
1.  科学技術基本計画においては、研究者評価について、「国家公務員たる研究者については、その所属する各研究開発機関又は所管省庁において、業績の評価が行われているが、各機関の目的、性格等に応じ、効果的な研究の推進、適切な処遇の確保を図るため、適切に実施されることが必要である」とされている。また、大綱的指針においては、研究者評価については直接取り上げられておらず、「研究開発課題又は研究開発機関の評価を実施するに当たっては、研究開発に従事する研究者についても、必要な範囲で適切に評価することが肝要である」とされている。このため、研究者評価については、いずれの省庁あるいは国研においても、本省庁等の人事方針等に基づき独自に行っているとしており、実態としては、勤務評定等による研究者の昇格、特別昇給等の推薦時期に、また、評価項目としては、論文、特許等の研究成果などを総合的に勘案して行っているとしている。
 しかし、科学技術庁が平成11年11月に実施した研究者の業績評価に係るアンケート調査の結果によれば、例えば、i )具体的な評価基準(研究成果の質、論文数等)を定めていないとしている機関の長が37パーセントあり、また、ii )具体的な評価基準を定めているとしている機関の長にあっても、それぞれの重きを置く基準は区々となっており、各機関の目的、性格等に応じて基準は異なることを勘案したとしても、統一的な考え方 に基づくものとなっていない状況にある。
 また、調査した国研の研究者の意見や上記のアンケート調査結果における研究者の意見には、i)業績評価過程の透明化、ii )評価指標・基準の明示による研究者評価の客観性・公平性の確保、iii )評価基準についての論文数以外の要因の加味、iv )業績評価に当たっての研究者の意見表明の機会の確保、v )業績評価結果の給与、ポスト、研究費の配分への反映等を希望する改善意見がみられる。
2.  一方、創造的な研究活動の基礎となる柔軟で競争的な研究開発環境を実現するためには、研究者の流動化を促進させることが必要であるとの観点から、任期付任用制度が平成9年6月から導入されており、12年4月末現在までに、調査対象39機関に任用されている任期付研究員数は、203人(7省庁22機関)となっている。これら任期付研究員は、各研究所の必要性に即し、研究者の能力・実績に着目して一定期間任用されるものであることから、俸給は任期中(若手育成型は原則3年以内最長5年まで、招へい型は原則5年以内最長10年まで)において、その者に期待される研究成果や研究活動にふさわしいものの対価として採用当初に決定され、任期途中での昇給等は行わない仕組み(ただし、特に顕著な業績を上げたと認められる場合に限って業績手当の支給が可能)となっている。このため、その評価については、永年の勤務形態を前提とし、業績等に応じて途中で昇格等が行われるこれまでの研究者の評価方法にはなじまないものとなっている。
 特に、若手育成型の任期付研究員は、我が国の科学技術に関する研究開発を担う人材として広く各方面での活躍が期待されるものであることから、任期中の業績評価を適切に行うことにより、これら研究者の流動性を一層高めていくことが望まれる。しかし、その評価の在り方については、任期付任用制度の導入が平成9年6月と新しいこともあって、現状では特に検討されておらず、任期付研究員への適切な配慮を含め、研究者の評価方法の早期の確立が望まれる。
3.  科学技術会議政策委員会では、平成11年8月に科学技術基本計画に関する検討を行うため、ワーキンググループを設置して検討を進めてきており、その結果を12年3月に「科学技術基本計画に関する論点整理」として取りまとめている。その中で、研究者の個人評価については、機関の長が責任を持って行うべきであり、また、量より質を評価すべきで、公正な評価のため評価過程の透明性と研究者個人が意見を述べる機会の設定が重要であるなどと指摘しており、これらの指摘事項については、大綱的指針の改定等に盛り込むべきであるとしている。
       
     したがって、関係省庁は、研究開発に係る評価の一層の充実を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  評価要領等を早急に策定するなど大綱的指針に沿った研究開発の評価の励行を図るとともに、評価の透明性を確保するために評価項目・評価基準の明確化、評価者への外部専門家等の適切な選任、評価結果の機関運営への適切な反映及び評価結果等の公表の一層の促進を図ること。
     
(北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、厚生省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省、自治省)
    2.  特殊法人等による基礎研究推進制度については、明確な評価要領等を早急に策定し、大綱的指針の趣旨に沿った一層適切な評価を実施するよう関係特殊法人等を指導すること。
      (厚生省、通商産業省、郵政省)
    3.  科学技術庁は、関係省庁と連携しつつ、研究者評価の改善方策について検討し、大綱的指針に盛り込むこと。その際、任期付研究員については、勤務の特殊性等に十分留意すること。
       
  (2) 国立大学等における評価の充実
     大学等における研究に係る評価の実施に当たっては、前述の大綱的指針の基本的な考え方を踏まえつつ、研究者の自主性の尊重などその特性に十分配慮することが必要とされている。また、大学等における機関評価については、平成9年12月の学術審議会建議「学術研究における評価の在り方について」において、i )自己点検・評価の効果的な実施、ii )適切な実施体制の整備、iii )必要に応じ、当該大学以外の者の評価への参加、iv )評価結果の社会への積極的な発信が求められている。さらに、平成10年10月の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」においては、i )自己点検・評価の実施と結果公表の義務化、学外者による検証の努力義務化、ii )第三者評価システムの導入等が求められている。
 文部省では、このような動きを背景に、平成11年9月に大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)を改正し、各大学に自己点検・評価の実施と点検・評価結果の公表を義務付けることとした。
       
     今回、国立大学等の28研究所における自己点検・評価の実施状況等について調査した結果、以下のような状況がみられた。
    1.  調査した研究所においては、あらかじめ評価規程等(要綱、内規等を含む。)を策定し、経常研究費に基づく研究課題の評価を含め、すべて自己点検・評価(外部評価を含む。)を実施している。しかし、評価規程等の内容をみると、評価項目、外部評価に係る事項、評価結果に対する改善策の策定等を明示しているものがある一方で、評価の実施組織及びその構成、任務等を明示しているにとどまっているものがあるなど、研究所(国立大学等)によってその対応に大きな差異がある。
    2.  自己点検・評価の実施内容をみると、次のような状況がみられる。
     
i  自己点検・評価の結果として、反省点の記載のある研究分野がみられる一方で、単に研究テーマの列記にとどまっている研究分野がみられるなど、自己点検・評価が不十分となっているもの(1研究所)がある。
ii  自己点検・評価の実施時期があらかじめ定められていないなど、計画的な評価が行われていないもの(18研究所)がある。
iii  研究所の評価結果を研究所のホームページ(5研究所)や新聞報道(3研究所(うち2研究所はホームページも活用))を活用して国民一般に公表しているものもみられるが、報告書を関係研究所や大学学部等へ配布するにとどまっているもの(22研究所)がある。
iv  評価での指摘事項について、フォローアップ事項として次回の評価の点検項目に取り入れたり、アクションプランを作成し、改善のための取組を進めているもの(2研究所)もみられるが、評価結果に基づく提言に対して具体的な取組・検討が行われていないもの(5研究所)がある。
    3.  現状では、評価に係る必要な情報が体系的に収集・提供される仕組みが確立されていないため、各研究所において、他機関における実施状況等を調査し、それを参考にしながら、その都度、評価の実施方法等を決定している。調査した研究所においては、自己点検・評価の実施に係る作業として、特に外部評価を実施する場合において、i )他機関における実施方法の調査、ii )評価項目の設定、iii )評価者の選考等の事務負担が大きいとしているものが多い。
 なお、平成12年度に学位授与機構が改組され、学位授与等の業務に加え、大学評価事業、評価指標の有効性及び評価手法に関する調査研究事業並びに国内外の評価に関する情報の収集、分析及び提供の事業を行う第三者評価機関としての大学評価・学位授与機構が創設されている。各大学等が教育研究の更なる向上を目指す上で、同機構の果たす役割が期待される。
       
     したがって、文部省は、国立大学等における自己点検・評価の一層の充実を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  評価規程等において、自己点検・評価に係る評価対象(評価事項、評価項目)、外部評価の方法、手続、基準、評価結果の公表方法、評価結果の取扱い等に関する事項の明示化に努めるよう国立大学等を指導すること。
    2.  自己点検・評価の実施に当たっては、i )大学評価・学位授与機構が行う評価事業との関連やその提供する情報の活用を図りつつ適切な項目を設定し、ii )定期的かつ計画的な実施に努め、 iii )評価結果を広く公表し、iv )評価結果を教育研究活動の改善に結び付けるよう国立大学等を指導すること。
    3.  国立大学等が自己点検・評価を行う際の参考となる標準的な基準・手法の研究開発を行うとともに、当面の方策として、国内外の様々な評価に関する情報(評価項目、実施方法、評価者、評価指標等に係る他機関の例等)を収集し、広く提供するよう大学評価・学位授与機構を指導すること。
       
3 研究成果の普及及び実用化の促進
  (1) 職務発明等に係る知的財産権の活用の円滑化及び適正な取扱い
     国研に勤務する研究者の職務発明に係る特許権等の知的財産権については、従来は、公益性の観点から国にのみ帰属することとされていた。しかし、科学技術基本計画において、「研究者の移動に伴い研究成果が円滑に移転できると同時に研究者へのインセンティブの付与も図り得るよう、国の投資による研究成果に関する特許権等の取扱いの改善を図る」こととされた。このため、省庁の中には、職務発明関係の内部規程(以下「職務発明規程」という。)に、職務発明に係る特許権等を国研の研究者個人にも帰属させることができる旨の事項を新たに盛り込むなどの措置を講じているものがみられる。
 一方、国立大学等の研究所に勤務する研究者の発明に係る特許権等については、昭和52年6月の学術審議会の答申を受けた53年3月の文部省学術国際局長・大臣官房会計課長通知(「国立大学等の教官等の発明に係る特許等の取扱いについて」(昭和53年3月25日付け文学術第117号))において、53年度から、原則として発明者に帰属させるとともに、 i )学内規程の整備、 ii )研究者が発明を行った場合の国立大学等の長への届出(以下、この届出を「発明届」という。)、 iii)特許を受ける権利の帰属等を決定するための発明委員会の設置等を行うことが定められている。
 なお、特許権の出願件数に占める研究者個人への帰属件数の割合は、「平成11年度科学技術の振興に関する年次報告」によれば、平成10年度において、国研が14.4パーセント(国内特許)、国立大学等が77.9パーセントとなっている。
       
     今回、11省庁の国研39機関及び国立大学等の28研究所における職務発明等に係る特許権等の取扱状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
       
    ア 国研
     
1.  特許権の研究者個人への帰属状況をみると、平成7年度以降、39機関の合計では出願件数に占める割合が徐々に増加してきている(7年度0.2パーセント、10年度15.8パーセント)が、調査した国研の中には、 i )職務発明規程自体を策定していないものが4機関(労働省2機関及び建設省2機関)、 ii )職務発明規程に研究者個人への帰属を認める旨の事項を盛り込んでいないものが1機関(大蔵省)ある。
2.  平成10年度に39機関が新規に出願又は登録した特許についてみると、出願944件のうちの155件(16.4パーセント)が、登録607件のうちの80件(13.2パーセント)が、それぞれ国研の研究者以外の研究者(共同研究に参加している民間企業等の研究者、科学技術特別研究員制度による研究員など国研以外の機関と雇用関係にある者(以下「他の機関の雇用者」という。)や、国研の研究者の補助者として研究に参加している大学院生、研修生、実習生等(以下「大学院生等」という。))も「発明者」とされている。
 一方、職務発明規程において特許権等の国研の研究者個人への帰属を認めている34機関における特許権等の取扱状況をみると、他の機関の雇用者については、発明者として共同出願を行う旨の契約が締結されている。しかしながら、大学院生等については、国研の研究者に準じて職務発明規程を適用することなどとしているものが16機関(北海道開発庁1機関、環境庁1機関、厚生省8機関、運輸省4機関、郵政省1機関及び自治省1機関)ある一方、発明等に係る権利の大学院生等への帰属を認めていないものが18機関(科学技術庁4機関及び通商産業省14機関)ある。
       こうした状況から、研究者等へのインセンティブを向上させるための効果的な方策を検討することが重要となっている。
 また、科学技術庁においては、独立行政法人化される国研については効率的な業務運営が一層求められること等から、研究成果である特許の活用の円滑化を図るため、現在、次期科学技術基本計画の策定に係る論議の過程において、関係省庁とも連携・協力しつつ、職務発明等に係る特許権等の望ましい取扱方策として「機関管理」(注)を検討している。
(注)  「機関管理」とは、職務発明等により得られた特許権等に関し、 i )研究機関にすべて帰属させるケースやii )研究者個人への帰属を認めつつも、当該特許を活用するためのあっせん及び保護を研究機関等が行うケースなど様々なケースが想定されている。
    イ 国立大学等の研究所
       前述の文部省通知において、教官等が発明を行った場合は、国立大学等の長へ発明届を提出し、当該発明に係る特許を受ける権利を国が承継するか否かを、発明委員会の議に基づき、国立大学等の長が決定することとされている。しかし、 i )発明届を提出せず、研究者個人が本人単独又は共同研究の相手方企業との共同で特許出願を行っている例が3研究所でみられる一方、 ii )「発明に係る特許を受ける権利が国に帰属しないことが明らかな場合」については発明届の提出を不要とする内容の学内規程を設けているものが6研究所ある。
       
     したがって、科学技術庁及び文部省は、職務発明等に係る知的財産権の活用の円滑化及び適正な取扱いを促進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  関係省庁とも協議しつつ、研究者及び大学院生等の職務発明等に係る知的財産権の取扱いについて、これらの者へのインセンティブの向上にも留意し、その在り方を検討すること。
      (科学技術庁)
    2.  研究者の発明に係る特許権等の取扱いに関する学内規程の整備及び国立大学等の長への発明届の提出の励行を図るよう国立大学等を指導すること。
      (文部省)
  (2) 国に属する特許権の定期的な見直しと公開の推進
     国に属する特許権(以下「国有特許」という。)の有効活用は、国の研究開発成果の社会への還元という観点から重要であり、科学技術基本計画においても、「国等の研究開発成果の流通の円滑化は、我が国の研究開発の活性化、新産業の創出等の点から重要である」とされ、また、「国等の研究成果に関する情報をはじめ、民間等における研究開発に活用可能な情報について、利用ニーズに応じデータベース等を整備し、情報ネットワーク等を活用して民間等への円滑な提供を図る」とされている。
       
     今回、11省庁の国研39機関における国有特許の実施状況等について調査した結果、以下のような状況がみられた。
    1.  平成10年度末現在において、39機関が保有している国有特許8,983件のうち、企業等に通常実施権を許諾しているものは212件であり、その割合(実施率)は2.4パーセントとなっている。これは、特許権を保有している民間企業上位300社の実施率が33.0パーセントとなっているのに比し低調である。
    2.  国有特許の見直し及び公開の状況をみると、次のとおりとなっている。
     
i  国有特許のうち、外国特許については、国も、民間企業等と同様に、毎年度、当該特許を維持するための費用を負担しなければならないこともあって、調査した国研では、毎年度、予算要求を行うに当たり、保有するか否かの見直しを行い、実施の見込みがないものなどを放棄することとしている。
 しかし、国内特許については、国は特許料の納付が不要とされていることから、いったん保有することとなった後は実施の可能性等についての定期的な見直しなどが不十分となっており、中には、共有者である民間企業から市場の動向、特許料の負担等のため特許権を放棄したい旨の申出があり、国有特許を放棄した例(大蔵省1機関及び郵政省1機関)もみられる。
ii  国有特許の公開状況をみると、実施可能性が高いと判断した特許について、積極的な公開を企図している機関(通商産業省14機関及び郵政省1機関)があるものの、中には、 i )特許公報(特許の出願、登録等の際に特許庁が行うもの)のみをもって「公開」としているものが13機関、 ii )発明の名称、発明者等のみを年報やホームページにおいて公開しているものが11機関あり、総じて積極的な公開は行われていない。
 また、特許庁は、開放特許(他者(社)に実施許諾をしてもよいとしているもの)について、対価条件、事業化条件など当該特許を実施する上で参考となる様々な情報を付加し、「特許流通データベース」として公開しており、これに登録することは、特許の実施率を向上させるための手法の一つと認められる。しかし、同データベースに登録されている国有特許は、2,185件(平成12年5月20日現在)と国有特許(国内特許)全体の13.2パーセントであり、同データベースの登録総件数の7.1パーセントにすぎず、登録している国研も、農林水産省の1機関と通商産業省(工業技術院)の10機関のみとなっている。
       
     したがって、関係省庁は、研究成果の社会への還元を推進する観点から、保有する国有特許について、実施の可能性等の面からの定期的な見直しを行い、開放特許の発掘を行った上で、例えば「特許流通データベース」を活用することなどにより積極的な公開を行い、実施率の向上を図る必要がある。
   
(北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、厚生省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省、自治省)
       
  (3) 委託開発事業に係る規制の緩和
     科学技術振興事業団の委託開発事業(平成11年度予算額約54億7,300万円)は、大学、国研等の研究成果である新技術の実用化を図るため、開発費を同事業団が負担することにより、新技術の開発を企業等に委託し、その成果の実用化を企業に行わせるものであり、昭和36年度から実施されている。
 委託開発事業は、
    i )  開発を委託された企業等(以下「開発企業」という。)が開発に成功した場合には、科学技術振興事業団に開発費を5年ないし8年の年賦で返済し、不成功の場合には、開発費を返済する必要がなく、リスクを同事業団が負う、
    ii)  開発の成果を実施する企業等(以下「実施企業」という。)が開発の成果に係る製品を製造・販売した場合には、その売上高の一定割合を科学技術振興事業団に実施料として納入し、同事業団は受領した実施料の半額を新技術の所有者(研究者等)に配分する
    という仕組みとなっている。
 委託開発事業を実施するに当たり、科学技術振興事業団は、科学技術振興事業団法(平成8年法律第27号)に基づき、 i )企業等に委託して新技術の開発をさせようとするときは、新技術及び開発企業の選定並びに当該開発の規模について、 ii )企業等に開発の成果を実施させようとするときは、実施企業の選定について、それぞれ内閣総理大臣の認可(科学技術庁長官に委任)を受けることとされている。
       
     今回、委託開発事業に係る開発企業の選定等及び実施企業の選定に係る認可の状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
    ア 開発企業の選定等に係る認可の状況
     
1.  開発が不成功の場合のリスクを科学技術振興事業団が負うこととなることから、開発企業の選定等には慎重な判断が必要である。しかし、昭和36年度から平成11年度までの間において開発が終了している393件(開発を中止したもの31件を含む。)のうち341件(86.8パーセント)が開発に成功している。また、11年度末までに要した開発費総額(約1,128億円)のうち開発の不成功により発生した未回収金は約30億円(2.7パーセント)にすぎず、委託開発事業による新技術の開発は順調に行われてきていると認められる。
 また、科学技術振興事業団には、開発企業の選定等について詳細な検討・審査を行う仕組みが設けられているため、これまでに同事業団が認可申請した開発企業が科学技術庁長官から認可されなかった例は全くなく、同事業団には開発企業の選定等に係るノウハウが相当蓄積されているとみられる。
2.  認可申請の添付書類を作成するため、科学技術振興事業団は、開発企業に対し、開発実施計画書等の提出を求めているが、開発企業においては、当該計画書等の作成におおむね1か月程度を要するとしている。また、開発企業の選定等について認可申請から認可までに要した期間をみると、平成10年度分及び11年度分の平均で35.3日間となっており、中には、60日間もの長期間を要している例もある。
    イ 実施企業の選定に係る認可の状況
     
1.  新技術の開発の成果の実施は、新技術の開発と相違し、科学技術振興事業団に費用負担等のリスクが伴うものではなく、むしろ、委託開発事業の趣旨からみて、多くの企業において新技術の開発の成果の実用化が図られることが望ましい。
 また、従来から、科学技術振興事業団は、実施企業に対し必要な調査・助言等を行ってきている。このため、これまでに同事業団が認可申請した実施企業が科学技術庁長官から認可されなかったという例は全くなく、開発企業の選定等の場合と同様、同事業団には実施企業の選定に係るノウハウが相当蓄積されているとみられる。
 なお、委託開発事業と同様に国研等の研究成果の実用化を促進する研究成果活用促進事業(注)においては、科学技術振興事業団が自ら対象企業を選定・決定しており、国の認可は必要とされていない。
(注)  大学、国研等の研究成果である新技術の開発とその開発の成果の実施を行える企業を研究者にあっせんする(研究者と企業との間の「橋渡し役」を科学技術振興事業団が担う。)という内容で昭和36年度から実施されていた開発あっせん事業に、同事業団自らの研究成果についても同様にあっせんを行うという内容を加え、平成11年度に創設された事業
2.  平成10年度末現在において新技術の開発が成功した332件のうち、開発の成果が実用化されたものは219件である。このうち、実施企業が開発企業以外の企業であるのはわずか3件となっており、それ以外のものは、開発企業と実施企業が全く同一であるか、あるいは、開発企業とそれ以外の企業が同時に実施企業となっている。
 開発企業を実施企業として認可申請する際には、 i )開発企業としての認可申請の際に厳正な審査が行われていること、 ii )科学技術振興事業団は、開発期間中にも開発の進ちょく状況等を把握することとしていることなどから、同事業団においては、当該企業の状況等を相当程度既に把握している。
3.  実施企業の選定について、認可申請から認可までに要した期間をみると、平成10年度分及び11年度分の平均で59.9日間となっており、中には、98日間もの長期間を要している例もある。
       なお、科学技術振興事業団では、事業運営の改善を図るため、外部評価者から成る総合評価委員会を設けている。同委員会は、平成11年5月に取りまとめた「科学技術振興事業団機関評価報告書(技術移転推進事業)」において、技術開発には速度を重視する必要があること等の観点から、委託開発事業に係る認可制度について、規制の撤廃を含む事務の簡素化を求めている。
       
       したがって、科学技術庁は、大学、国研等の研究成果の早期実用化、事務処理の効率化及び開発企業における事務負担の軽減を図る観点から、委託開発事業について、開発企業の選定等に係る認可及び実施企業の選定に係る認可を廃止する必要がある。
       
4 組織及び業務の見直し、合理化等
 

(1) 金属材料技術研究所材料試験事務所の在り方の見直し

     科学技術庁金属材料技術研究所の材料試験事務所は、「クリープデータシート」(注)の発行のため、連続10万時間(約11年5か月)を基本とした試験を行いデータを収集するクリープ試験等の実施を所掌する組織として東京都目黒区に設置されている。
 金属材料技術研究所は、東京都目黒区に所在していたが、「国の行政機関等の移転について」(昭和63年7月19日閣議決定)等を受け茨城県つくば市への移転が決定された際、クリープ試験等を中断して又は継続したまま試験機を移設することが困難であるとされたことから、平成7年度のつくば市への移転に併せた組織再編により、クリープ試験等を行うための組織として、材料試験事務所が新設され、同区に残置されたものである。
(注)  「クリープ」とは、物体に一定の外力(高温や荷重)を加えたときに変形が時間の経過とともに大きくなる現象のことであり、金属、セラミックス、コンクリート、高分子材料などでみられる。特に高温の場合においては、クリープ変形が大きくなり破壊に至る場合もある。
       
     今回、材料試験事務所における業務の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
    1.  材料試験事務所の定員は、平成11年度末現在において12人であり、7年度末現在(15人)と比較し3人が縮減されている。
 こうした定員の減少等もあって、材料試験事務所については、これまで目視で行ってきていた金属材料の「伸び計測」の自動化を図ることとされ、平成11年度及び12年度に923台の試験機のうちの計143台が自動化されている。また、平成13年度以降についても、年間24台ずつ計画的に進めることとされており、この自動化が進展すれば、より少ない人員による業務の実施が可能となり合理化につながると認められる。
 また、材料試験事務所に平成11年度末現在配置されている行政職(二)の職員(3人。電気設備、空調設備等施設の維持管理業務を担当)については、17年度までにすべての者が退職年齢に達することから、その後は不補充とされ、これらの業務は民間委託化される予定となっている。
    2.  前述のとおり、クリープ試験等を中断して又は継続したまま試験機を移設することが困難として、材料試験事務所は目黒区に残置されることとなったが、平成12年5月26日現在において稼働中の試験機738台のうちクリープ試験等のために使用されている591台(残りの147台は「伸び計測」の自動化のための準備試験等に使用)について、試験経過時間等をみると、仮に試験材料のすべてについて基本の試験時間である10万時間まで試験を行う必要があるとした場合、194台(32.8パーセント)が10万時間を既に超えており、10万時間までの残りの試験時間が1万時間(約1年1か月)以下のものも25台(4.2パーセント)ある。
 このため、クリープ試験機のうち、クリープデータシート作成のための基本的な試験時間を超えたものについては、当該試験の継続の必要性を見直すことにより、材料試験事務所における試験研究の効率化を図る余地があると認められる。
       
     したがって、科学技術庁は、業務の合理化・効率化の観点から、金属材料技術研究所材料試験事務所について、クリープ試験の「伸び計測」の自動化及び基本的な試験時間を超えたものについての継続の必要性の見直しを進めることにより人員の合理化を行いつつ、将来的な同事務所の在り方について検討を進める必要がある。
       
  (2) 防災科学技術研究所支所の研究体制の見直し
     科学技術庁防災科学技術研究所(茨城県つくば市。職員数116人)は、新潟県長岡市の長岡雪氷防災実験研究所(以下「長岡支所」という。)及び山形県新庄市の新庄雪氷防災研究支所(以下「新庄支所」という。)の2支所を設置している。
 2支所の平成11年度の組織体制をみると、長岡支所には2研究室が置かれ、職員数は9人(研究職6人、非常勤職員3人)であり、新庄支所には、2研究室が置かれ、職員数は7人(研究職4人、行政職1人、非常勤職員2人)となっている。
 長岡支所及び新庄支所は、従来、両地域の雪質の相違によりそれぞれ研究を進めてきたが、このような地域特性には関連なく防災科学技術の研究を効果的に推進するため、平成9年度から研究手法の相違により研究を分担することとされ、長岡支所は観測研究を主体として、新庄支所は実験研究を主体として運営されることとなった。 これに合わせて、2支所の研究室は見直され、長岡支所の3研究室のうち1研究室が廃止されて本所の研究チームに振り替えられ、2支所は、それぞれ雪氷圏の地球科学に関する研究を担当する研究室と従来からの雪氷防災研究を担当する研究室の2研究室で構成するものとされた。
       
     今回、2支所の業務の実施状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
    1.  平成11年度の2支所の研究課題をみると、長岡支所は6課題で、新庄支所は4課題となっている。このうち、 i )本所が主体となって実施している重点研究の一部の研究項目を分担するとともに、本所が担当する他の研究項目に支所の研究者が参加しているものが両支所でそれぞれ1課題(同一課題)、 ii )支所の研究者が本所の研究に参加しているものが長岡支所で1課題、 iii)両支所の共同研究が2課題、iv )各支所独自の研究課題が長岡支所で2課題、新庄支所で1課題となっている。
 しかし、長岡支所の3課題(本所が主体の研究1課題と新庄支所との共同研究2課題)及び新庄支所の2課題(本所が主体の研究1課題と長岡支所との共同研究2課題のうちの1課題)は、それぞれの支所の立地条件、地域特性及び施設・設備が研究を遂行する上で必要な条件ではなく、2支所でなくとも研究の遂行が可能である。
 また、本所が主体の研究課題(長岡支所2課題、新庄支所1課題)については、 i )本所の多数の研究者が参加するプロジェクトで、研究に必要な観測データ等の収集が海外で行われているなど地球的規模の事象を研究対象としていること、あるいは、 ii )本所が担当する研究項目の研究チームに2支所の研究者が参加している(長岡支所2人、新庄支所1人)こと、 iii)「試験研究等計画書」において本所の研究者との連携が重要とされていることから、本来、研究者が本所と2支所に分散して研究することは効率的でないと考えられる。
 2支所による共同研究2課題についても、1課題は、地球的規模の気候変動が研究対象であること、他の1課題についても、全国に展開した降積雪観測網で収集したデータの分析であり、新庄支所の実験設備(雪崩実験シュート)を利用していることから、2支所に研究者を分散させる必然性はないものとみられる。
    2.  平成9年度から、長岡支所は観測研究を主体として、新庄支所は実験研究を主体として運営することとされている。新庄支所では、雪氷圏域における降雪等の様々な現象を室内実験室で再現できる世界最大規模の雪氷防災実験棟(平成9年3月完成。工費約14億円)を活用した支所独自の実験研究も実施されているが、2支所の研究課題をみる限り、研究手法の相違による2支所の機能分担はなされていない。また、2支所は、雪氷圏の地球科学に関する研究を担当する研究室と従来からの雪氷防災研究を担当する研究室の2研究室を置いている。しかし、研究課題ごとの担当研究者をみると、新庄支所では、研究職職員4人全員が、本所が主体の研究を担当するとともに、新庄支所独自の雪氷防災研究をも担当しているなど、2支所とも研究室の分担にかかわりなく研究に従事している。
 これは、2支所の研究課題のほとんどが、平成9年度の支所機能の見直し以前から継続している研究課題であることによるものとみられるが、9年度の支所の機能の見直しがこれまでのところ支所の研究活動には反映されていない。
    3.  防災科学技術研究所は、「防災科学技術研究所における今後10年の重点研究」(平成8年5月)において、研究の重点を地球的課題あるいは世界共通の課題に移行していくこととしており、2支所については、今後とも、本所との連携や支所相互の連携の必要性が強まり、支所における研究の地域特性との関連や独自性は薄れていくものとみられる。
 また、防災科学技術研究所の外部評価結果報告書(平成11年7月)においては、 i )2支所の研究課題のうち、本所が主体の研究は「気圏・水圏地球科学技術分野」に属するが、この分野については、「研究実施体制が極めて脆弱であり、必ずしも多くはない研究者が多くのセクションに分割しており、組織としての研究が成立しない可能性があると考えられる」とされ、 ii )「雪氷防災分野」についても、「つくば地区(本所)と2支所に分かれて研究活動を進める根拠は明らかでない」とされているなど、研究体制の見直しの必要性が指摘されている。
       
     したがって、科学技術庁は、防災科学技術研究所における研究をより効率的かつ効果的に推進する観点から、2支所の組織体制について、既存の施設・設備を利用した観測及び実験の拠点として運用するために必要な最小限のものとし、研究者をでき得る限り本所に集約化する方向で見直す必要がある。
       
  (3) 地質調査所及び資源環境技術総合研究所の支所等の業務の移管
     通商産業省工業技術院は、茨城県つくば市に8研究所、北海道から九州までの各地域に7研究所(地域研究所)の合わせて15研究所を設置している。つくば市に所在する8研究所のうち、地質調査所は北海道支所(札幌市)及び大阪地域地質センター(大阪市)を、資源環境技術総合研究所は北海道石炭鉱山技術試験センター(札幌市)及び九州石炭鉱山技術試験センター(直方市)をそれぞれ設置しているが、これらの支所等はいずれも配置職員数が10人前後の小規模なものとなっている。
 工業技術院の15研究所は、平成13年4月に統合され、独立行政法人産業技術総合研究所に移行することとされている。その組織体制については、工業技術院で検討中であり、7地域研究所は、これまでの研究成果の蓄積をいかし、特定分野に特化した研究を実施する「研究拠点」にそれぞれ再編され、地域に所在する支所等については、最寄りの地域研究所とともに研究拠点の組織を構成する予定である。このため、 i )地質調査所北海道支所及び資源環境技術総合研究所北海道石炭鉱山技術試験センターは北海道工業技術研究所(札幌市)と、 ii )地質調査所大阪地域地質センターは計量研究所大阪システム計測センター(大阪市)及び電子技術総合研究所大阪ライフエレクトロニクスセンター(尼崎市)とともに大阪工業技術研究所(池田市)と、 iii)資源環境技術総合研究所九州石炭鉱山技術試験センターは九州工業技術研究所(鳥栖市)とそれぞれ研究拠点を形成することとなる。
       
     今回、地質調査所及び資源環境技術総合研究所の支所等について調査した結果、次のような状況がみられた。
    ア 地質調査所北海道支所及び大阪地域地質センター
     
1.  北海道支所(職員数14人、うち研究職6人)が実施している研究課題10課題中、支所独自の研究課題は1課題であり、9課題は本所の研究のうち北海道における調査を必要とするものである。また、北海道内においては、基礎調査である地質図幅調査を終えており、現在、北海道外(広島県、島根県、青森県)の地質図幅調査に参加しているほか、北海道内のデジタル地質情報集、ハザードマップ等の作成のための更に高度な調査の準備を進めている。
 大阪地域地質センター(職員数6人、うち研究職4人)が実施している研究課題6課題中5課題は本所の研究に参加しているものである。このうち2課題では、大阪地域地質センター所管区域内の23地域において地質図幅調査が行われているが、大阪地域地質センターが調査しているのは23地域のうち6地域のみで、他の17地域は本所が調査を担当している。
2.  2支所等は、附帯的な業務として、地質図幅や岩石鉱物等に関する相談業務を行っている。北海道支所の相談件数は、年間約110件から約130件であるが、北海道立地下資源調査所(札幌市)が同種類似の相談業務を行っている。また、大阪地域地質センターは、関西地域で唯一の相談窓口であるが、その相談件数は、年間約50件から約60件である。
3.  北海道支所が所在する札幌市には北海道工業技術研究所(職員数91人、うち研究職68人)が、大阪地域地質センターが所在する大阪府には大阪工業技術研究所(職員数193人、うち研究職151人)がそれぞれ設置されている。
 なお、職員数に占める管理部門の職員数をみると、大阪地域地質センターは6人中1人であるが、北海道支所は14人中5人となっている。
       このようなことから、2支所等における所在地域と密接に関連する業務については、それぞれ最寄りの地域研究所への業務の移管を検討する余地がある。
    イ 資源環境技術総合研究所北海道石炭鉱山技術試験センター及び九州石炭鉱山技術試験センター
     
1.  北海道石炭鉱山技術試験センター(職員数7人、うち研究職5人)及び九州石炭鉱山技術試験センター(職員数7人、うち研究職3人)では、従来、主要な業務として、鉱山保安法(昭和24年法律第70号)等に基づく鉱山坑内保安用品の検定業務を実施しており、平成8年度で、それぞれ約1,400件の検定実績を上げていた。しかし、当該検定業務は、平成9年度から通商産業省製品評価技術センターに順次移管され、11年3月までに全面的に移管を終えている。
 北海道石炭鉱山技術試験センターは、平成11年度に7課題の研究を実施しており、このうち3課題は、道内での実地調査等を必要とするものであるが、その日数は多いもので年間60日程度である。
 また、九州石炭鉱山技術試験センターは、平成11年度に5課題の研究を実施しているが、九州地域で研究を行うことが効率的であるとみられる研究課題は、炭鉱現場でデータ収集を必要とする1課題(九州工業技術研究所との共同研究)及び九州に所在する民間企業との共同研究1課題である。
2.  2センターの所在地域には炭鉱及びその関連事業者等が所在することから、2センターは、技術相談、技術指導、保安教育への講師派遣及び災害対応の現地機能も有している。緊急時の対応など現地性に配慮すべき面もあるが、技術相談は、主に製品評価技術センターに移管した鉱山坑内保安用品の検定に関するものであり、技術指導や保安教育への講師派遣は、その頻度等が少ない。
3.  北海道石炭鉱山技術試験センターは、同一市内(札幌市)に北海道工業技術研究所(職員数91人、うち研究職68人)が、九州石炭鉱山技術試験センター(福岡県直方市)は、比較的近距離に九州工業技術研究所(佐賀県鳥栖市。職員数91人、うち研究職68人)がそれぞれ設置されている。
 職員数に占める管理部門の職員数は、北海道石炭鉱山技術試験センターが7人中2人、九州石炭鉱山技術試験センターが7人中3人となっている。
 また、2センターにおける鉱山坑内保安用品の検定業務の移管前後の配置職員数をみると、北海道石炭鉱山技術試験センターは移管前と同人数であり、九州石炭鉱山技術試験センターは移管前後で研究職職員が2人減員され2人(所長を除く。)となっているが、行政職の職員数4人に変更はみられない。このようなことから、2センターにおける所在地域と密接に関連する業務については、それぞれ最寄りの地域研究所への業務の移管を検討する余地がある。
       
       したがって、通商産業省は、効率的かつ効果的な研究体制を整備する観点から、地質調査所及び資源環境技術総合研究所の支所等の業務について、工業技術院地域研究所等への移管を図る必要がある。
       
  (4) 船舶技術研究所大阪支所の在り方の見直し
     運輸省船舶技術研究所の大阪支所は、船舶用品等に関する試験及び研究に関する事務を所掌する組織として大阪府交野市に設置されている。
 大阪支所は、大正9年9月に逓信省船用品検査所大阪支所として設置された後、組織再編を経て、昭和38年4月の船舶技術研究所の設置と同時に同研究所の支所として設置されたものである。その組織体制は、平成11年度末現在、1課・2研究室、現員12人(行政職(一)3人、研究職9人)となっている。
       
     今回、大阪支所における業務の実施状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。
    1. 大阪支所は、舶用工業者等が多い西日本(関西地区以西。事業所数及び生産額が全国の約6割以上)の研究拠点として設置されているが、その研究業務の実施状況をみると、次のとおり、地域との関連性が薄いと認められる。
i  平成9年度から11年度までの間に大阪支所が企画・実施している研究課題12課題について、研究計画書における「期待される効果」をみると、「国際基準に関する国際機関における審議資料の作成に資することができる」、「船体の大型化等が可能となる」、「データベース化により災害防止のために検討すべき問題点が明らかになる」などとされ、全国的な効果を目指したものが中心であり、西日本という地域性に着目した効果を目指したものは1課題となっている。
ii  平成7年度から11年度までの間に大阪支所が実施しているすべての研究課題についてみると、9年度以降、本所が企画したものを実施する割合が高くなってきており、中には、研究者が本所在職中に実施していた課題について、当該研究者が大阪支所に異動した後も「研究主任」として担当している例がある。
iii  平成7年度から11年度までの間に大阪支所が企画した共同研究15件の相手方をみると、20機関のうちの7機関(35.0パーセント)が、東日本(中部地区以東)に所在するものである。
    2.  地域との連携を図るためには、技術指導や技術相談を通じ、研究成果を普及していくことも重要である。しかし、大阪支所の説明によれば、技術指導については、平成4年度から7年度までの間は毎年度1回行ったが、8年度以降は実績がなく、技術相談については、7年度から11年度までの5年間で計10件程度であるとしている。
 また、大阪支所についての意見・要望を聴取した西日本の公設試験研究機関の中には、「かつては大阪支所に指導・助言を仰いだこともあるが、現在では、自ら技術を持てるようになった」としているものもあり、大阪支所の地域における存在感が薄れつつある実態がうかがえる。
    3.  船舶技術研究所は、所長の諮問機関として、研究計画等についての内部評価等を行う研究総合委員会を設置している。同委員会が平成11年3月に取りまとめた「平成10年度研究部等中長期研究計画等ヒアリング結果報告書」によれば、大阪支所の中長期研究計画についての評価として、「大阪支所が置かれている立場、地理的条件について系統的に検討した結果を示す必要がある」などとされている。
       
     したがって、運輸省は、研究成果の地域への普及の推進の観点から、船舶技術研究所大阪支所について、その地理的条件をいかした研究計画を策定するなどの方法により、西日本における研究拠点としての役割を発揮するよう努め、当該役割の発揮が困難な場合には本所への統合について検討する必要がある。
       
  (5) 通信総合研究所電波観測所の職員配置の見直し
     郵政省通信総合研究所(東京都小金井市。平成12年度末定員427人)は、電波の伝わり方及び電離層に関する観測・研究を行うため、稚内(北海道)、犬吠(千葉県)、山川(鹿児島県)及び沖縄(沖縄県)の4電波観測所を設置している。これら4電波観測所は、国際的な観測網や国内の観測網の一環をなす観測拠点であり、稚内電波観測所は、 i )電離層の定常観測、 ii )電離圏・超高層大気の研究観測、 iii)北海道内(稚内市)の短期大学と通信ネットワークの共同研究を、犬吠電波観測所はVLF(超長波)帯電波の伝搬研究を、山川電波観測所は、 i )電離層の定常観測、 ii )電離圏・超高層大気の研究観測を、沖縄電波観測所は、 i )電離層の定常観測、 ii )亜熱帯地球観測計測技術の研究開発を、それぞれ実施している。
 これら4電波観測所の配置職員数は、稚内が1人(研究職)、犬吠が4人(研究職1人、行政職2人、非常勤職員1人)、山川が2人(研究職1人、非常勤職員1人)、沖縄が6人(研究職5人、行政職1人)であり、いずれも小規模な組織体制となっている。
       
     今回、4電波観測所の業務の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
    1.  稚内電波観測所及び山川電波観測所が実施している電離層の定常観測業務及び電離圏・超高層大気の研究観測業務は、観測データの取得、ネットワークを経由した本所へのデータの電送及び観測装置等の日常的な保守点検であるが、定型化された定常的な業務であり、全面的な機械化・自動化及び外部委託化が可能である。
    2.  犬吠電波観測所のVLF帯電波の伝搬研究は、世界各地から発信されている超長波帯電波を定常的に受信し、データの取得・分析を行うとともに、観測装置等の日常的な保守点検を必要とする業務であるが、本所との専用回線を整備することにより、観測データの取得及び伝送の機械化・自動化が可能である。また、観測装置等の保守点検業務も外部委託になじむ業務である。
    3.  通信総合研究所では、平成8年度から電波利用料財源が特定分野の技術試験事務、電波監視等に充当されるようになったことなどから、予算が大幅に増加しており、11年度の予算額は元年度の5倍となっている。一方、職員数は、研究職でみても、平成11年度が元年度の1.2倍とほぼ横ばいである。このため、研究者の要員不足が所内・外から指摘されている。通信総合研究所の外部評価報告書(平成9年4月)においても、電波観測所の電離層の定常観測を含む宇宙科学部門について、実験・観測機器の数と研究者数とのアンバランスや電離層観測等の自動化の推進等が指摘されている。
 なお、沖縄電波観測所は、稚内電波観測所及び山川電波観測所と同様に電離層の定常観測拠点としての重要な機能を有しているほか、亜熱帯の海洋に面した立地条件をいかした遠距離海洋レーダー等3種類のセンサー開発を目指す開発研究(「亜熱帯地球観測計測技術の研究開発」)を実施しており、この研究開発プロジェクトに対応した研究体制が必要であり、研究職職員の配置は5人となっている。
       
     したがって、郵政省は、通信総合研究所について、より効率的な研究体制を整備する観点から、稚内、犬吠及び山川の3電波観測所における定常的な観測業務の機械化・自動化及び外部委託化の推進などにより、職員配置の見直しを行う必要がある。
       
5 特殊法人等の事業の見直し
  (1) 日本学術振興会と科学技術振興事業団の事業運営の在り方の検討
     我が国の学術あるいは科学技術の振興に係る基盤的な事業を実施している特殊法人として、文部省所管の日本学術振興会及び科学技術庁所管の科学技術振興事業団がある。
 日本学術振興会(平成11年度の職員定数72人、予算1,335億円)は、財団法人日本学術振興会を前身として昭和42年9月21日に設立され、研究者の自由な発想に基づく知的創造活動である学術の進展に寄与することを目的としている。日本学術振興会は、主に大学等の学術研究機関及びその研究者等を対象として、大別して、 i )研究者養成のための援助、 ii )学術の国際交流の推進、 iii)科学研究費補助金の審査及び交付、iv )未来開拓学術研究推進事業、v )学術の社会的協力・連携の推進、vi )学術情報事業、vii)その他寄付金事業や顕彰に関する事業の7事業を実施している。
 一方、科学技術振興事業団(平成11年度の職員定数439人、予算907億円)は、特殊法人の整理合理化の一環として、平成8年10月1日に科学技術庁所管の日本科学技術情報センターと新技術事業団とが統合されて発足したものであり、経済社会の発展や国民福祉の向上などに貢献する科学技術の振興に寄与することを目的としている。科学技術振興事業団は、大別して、 i )研究交流、 ii )基礎的研究、 iii)研究支援、iv )技術移転、v )科学技術理解増進、vi )科学技術情報の流通に関する6事業を実施している。
       
     今回、日本学術振興会及び科学技術振興事業団の事業の実施状況等について調査した結果、以下のような状況がみられた。
    1.  両法人の事業を比較してみると、それぞれの事業の趣旨・目的は異なっているものの、対象者、事業手法や事務手続に共通性が認められる事業や相互補完が期待できる事業が次のとおりある。
     
i  日本学術振興会は、学術研究に係る研究者の養成のための援助及び学術の国際交流の推進の事業として、次の事業を実施している。
  i )  ポストドクター等の若手研究者に対し、研究奨励金の交付により大学等における研究機会を提供する特別研究員に係る事業
  ii )  大学等の常勤の若手研究者又は大学等での研究を希望する若手研究者を海外の大学等学術研究機関に派遣する海外特別研究員に係る事業
  iii)  我が国の大学等に外国人研究者を招へいする外国人特別研究員に係る事業
  iv)  来日外国人研究者に対する生活支援等に係る事業
    一方、科学技術振興事業団においては、重要な科学技術分野の振興のための研究交流の事業として、次の事業を実施している。
  i )  ポストドクター等の若手研究者を雇用し、国研等での研究機会を提供する科学技術特別研究員に係る事業
  ii )  国研等の常勤の若手研究者又は国研等での研究を志望する若手研究者を海外の大学又は試験研究機関に派遣する若手研究者海外派遣事業
  iii)  我が国の国研等に外国人研究者を招へいするSTAフェローシップ(注)に係る事業
  iv) 来日外国人研究者に対する生活支援等に係る事業
  (注) 「STA」とは、「ScienceandTechnologyAgency」(科学技術庁の英語名)の略である。
   これら両法人の事業については、 i )それぞれポストドクター等を対象とするなど募集対象者に重複がみられ、 ii )募集、審査、選考等といった一連の事務手続・事業手法に共通性があり、 iii)外国人研究者の招へいにおいては、両法人がそれぞれ外国の推薦機関を有しており、日本学術振興会が23か国1地域の29機関、科学技術振興事業団が16か国1地域の19機関であるが、このうち10か国1地域の12機関が重複しており、iv )来日外国人研究者の生活支援等における日本の文化、歴史等の研修や情報提供等のプログラム内容に共通性がみられる。
ii  日本学術振興会は、学術振興の観点から基礎研究を推進するために研究費を交付する事業として、大学等学術研究機関の研究者を対象とする未来開拓学術研究推進事業及び科学研究費補助金に係る審査・交付事務を実施している。
 一方、科学技術振興事業団においても、新技術の創製に資する基礎研究を推進するため、戦略的基礎研究推進事業、個人研究推進事業及び創造的科学技術推進事業を実施している。
 両法人のこれらの事業については、 i )日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業と科学技術振興事業団の戦略的基礎研究推進事業は、いずれも政府出資金を活用した新たな基礎研究推進制度であり、 ii )科学技術振興事業団の3事業は、大学等の研究者も事業の対象としており、3事業のうち、創造科学技術推進事業を除く2事業は、公募案内の対象、募集要領等の送付先等について日本学術振興会の事業との重複がみられる。
 科学技術振興事業団の3事業においては、いずれも大学等の研究者が多数参画しており、大学における研究動向や大学等の研究者の情報収集が重要となっている。
iii  両法人は、国際交流の推進、情報・資料の収集等のため、それぞれ海外事務所を設置している。 両法人の海外事務所の設置国は、日本学術振興会が7か国、科学技術振興事業団が4か国で、このうち、両法人ともに海外事務所を設置している米国(両法人ともにワシントン)を除いて設置国は異なっていることから、両法人の海外事務所は相互補完が可能な関係にある。
iv  日本学術振興会は、学術情報事業の一環として、大学等で行われている最先端の研究等に直接触れる機会を中学生・高校生に提供する学術普及啓発事業(ふれあいサイエンスプログラム)を実施している。 一方、科学技術振興事業団は、ケーブルテレビ、インターネット等多様なメディアやイベント等を通じて、青少年や一般国民が広く科学技術を体験できる機会の提供など、科学技術に対する理解の増進と関心の喚起を図るため、科学技術理解増進事業を実施している。
    2.  科学技術振興事業団の事業のうち、日本学術振興会の事業と事業手法等に共通性がみられない事業においても、事業対象に大学等の研究者が含まれており、そのウエイトも高いことなどから、事業運営において大学等の研究動向や大学等の研究者に係る情報収集及び大学等の研究者との連携・協力が重要となっている状況が、次のとおり認められる。
     
i  科学技術振興事業団は、研究交流の一環として、 i )産学官の人材の交流を図る異分野研究者交流促進事業、 ii )地域での産学官の研究交流を図るための地域結集型共同研究事業、地域研究開発促進拠点支援事業等を実施している。
 これらの事業は、産学官の交流を図るためのものであり、事業の企画や個別プロジェクトの運営に係る人材の半数以上が大学等の研究者となっている。
ii  科学技術振興事業団は、研究成果の社会への還元に資する技術移転のための事業として、従来から、国研、大学等の区別なく優れた研究成果を収集し、これを活用した新技術の開発を企業に委託又はあっせんする委託開発事業、研究成果活用促進事業等により実用化・企業化を図ってきている。
 これらの事業においては、平成11年度に新技術として収集された研究成果635件の91パーセント(580件)が大学等の研究成果である。
なお、科学技術振興事業団は、平成11年度に、それまで日本学術振興会が実施してきた国立大学等の国有特許関係事務の移管を受け、以後、国立大学等の研究成果に係る国有とする特許の出願や国有特許の実施については、同事業団が当該国立大学等と連絡・調整を図りつつ行っている。
iii  科学技術振興事業団は、科学技術情報の流通事業として、科学技術文献データベースの提供等国内外の科学技術情報の収集、処理及び提供の事業を行っており、これらの事業において収集等されている情報及びその利用者には国内外の大学等に係るものも含まれている。

iv

 両法人の事業は、派遣あるいは招へいする研究者の選考審査、研究費の交付に際しての研究課題の採択審査などにおいて、多数の外部の研究者の参画・協力を得て実施されており、事業運営に当たり外部の人材の効果的な活用が必要となっている。特に、科学技術振興事業団の各種の事業運営に当たっては、大学等の研究者が関与していることが多いため、かかる研究者についての情報を適切に把握することが必要となっている。
       
     このようなことから、両法人がそれぞれ有する情報・資料、事業のノウハウやネットワークの相互活用など、両法人が事業運営において緊密な連携・協力を図ることによって、より効率的かつ効果的な事業運営と利用者の利便の向上が見込まれる。
 また、一方、行政改革の取組の中で、特殊法人については、累次の閣議決定等において、その整理合理化を推進することとされており、特殊法人改革の着実な実施が求められている。
       
     したがって、科学技術庁及び文部省は、学術及び科学技術を取り巻く状況の変化を踏まえ、科学技術振興事業団と日本学術振興会の事業運営について、学術及び科学技術研究の総合的・一体的推進を図る観点から、その連携・協力の在り方を検討するための協議の場を設け、その結果に基づき所要の措置を講ずる必要がある。
       
  (2) 情報提供事業に係る連携・協力の在り方の見直し
     科学技術基本計画においては、高度情報通信社会に対応し研究開発の高度化を図るための施策の一つとして、科学技術活動の基盤となる論文等の文献データ等の着実な整備を進めることとされており、科学技術の振興を図るためには、各種のデータ等を収集・整備し、研究者等の求めに応じて迅速に情報を提供していくことが重要となっている。
 我が国の研究開発に係る情報提供事業として、 i )科学技術庁所管の特殊法人である科学技術振興事業団が、主に国研や民間企業を対象に科学技術情報の提供を、 ii )文部省所管の大学共同利用機関である国立情報学研究所が主に国立大学等を対象に学術情報の提供を、それぞれ実施している。
 なお、科学技術庁と文部省は、中央省庁等改革基本法(平成10年法律第103号)第26条に定める編成方針(「学術及び科学技術行政に関し、明確な目標の下に総合的、積極的かつ計画的な取組を強化するとともに、学術及び科学技術研究の調和及び総合性の確保を図ること」等)に基づき、平成13年1月から文部科学省として発足することとなっている。
       
     今回、科学技術振興事業団及び国立情報学研究所における情報提供事業の実施状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。
    1.  科学技術振興事業団は、 i )研究情報の公開のための「研究開発支援総合ディレクトリ」及び各種案内情報、 ii )科学技術情報の基盤整備のための科学技術情報関係の19種類のデータベース(収録約1億件)等の整備・提供を、また、国立情報学研究所は、 i )学術研究情報の公開のための「研究活動資源ディレクトリ」及び各種案内情報、 ii )学術情報の基盤整備のための59種類のデータベース(収録約9,000万件)等の整備・提供を実施している。
 両機関においては、これまで、相互の連携・協力を図るためとして、情報システムのゲートウエイ接続(いわゆる「相互乗り入れ」)、ディレクトリの統合検索化等が行われてきているが、同種・類似の業務(ディレクトリの整備・提供に係る調査票の配布からデータの入力までの業務、各種データベースの整備・提供に係るデータの管理や関係文献等の全文又は抄録の入力等)についての連携・協力が十分図られていないことから、次のような状況がみられる。
     
i  両機関のディレクトリ及び各種案内情報についてみると、次のとおりとなっている。
  i )  科学技術振興事業団のディレクトリに掲載されている研究機関1,119件(平成12年6月26日現在)のうち374件(33.4パーセント)が文部省関係機関である。また、両機関のディレクトリの掲載事項の大半(科学技術振興事業団のディレクトリの掲載事項73事項のうち44事項(60.3パーセント))が同じものであるため、文部省関係機関374件に係る情報が、両機関のディレクトリに重複して掲載されている。
  ii )  科学技術振興事業団は、国の機関、特殊法人等及び公設試験研究機関についての人材募集情報を提供するため、平成11年7月に計986機関に対し募集情報の提供を依頼しているが、その中には文部省関係機関255機関(25.9パーセント)が含まれている。一方、国立情報学研究所は、従来から、案内情報として、文部省関係機関の人材募集情報を提供してきている(平成12年6月15日現在215機関の580件を掲載)。
ii  両機関のデータベースについてみても、次のとおりとなっている。
  i )  科学技術振興事業団のデータベースの利用契約者(平成11年度末現在1万2,002件)の中には文部省関係機関が1,593件(13.3パーセント)あり、これは主な利用者である企業(8,092件)を除く利用者の約4割を占めている。一方、国立情報学研究所のデータベースの利用登録者(平成11年度末現在7,132人)の中にも国研等に属する者が55人いるなど、利用者が重複して両機関の情報を利用している状況にある。
  ii )  国立情報学研究所のデータベースの一つである「学会発表データベース」及び「学会予稿集電子ファイル」の収録対象学会(平成11年度末現在98学会)のうち、科学技術振興事業団のデータベースの一つである「JICST科学技術文献ファイル」の収録対象ともなっているものが72学会(73.5パーセント)ある。
       こうした情報提供事業について、国立大学等の研究所の中には、「同じようなデータベースが異なる機関で運営され、非効率かつ無駄が多いのではないか」などの意見・要望を有するものがみられる。
 また、科学技術庁が平成11年3月に行った「民間企業の研究活動に関する調査」の結果においても、回答した民間企業986社のうちの575社(58.3パーセント)が、大学や国研等の研究成果の情報を入手する際の問題点として、「一元化された研究成果データベースなど、利用しやすい形で情報が公開されていない」ことを挙げている。
    2.  科学技術振興事業団は、科学技術情報関係のデータベース等の事業に係る経理を整理した文献情報提供勘定について、累積欠損金が平成8年度末に約400億円に達してきたことから、9年度に21年度以降の単年度黒字への転換等を内容とする収支改善計画を策定し、これを達成するため、事業の更なる合理化及び収入増加策を講じることとしている。これらを踏まえ、同事業団が実施する情報提供事業については、効率化を推進することが必要であり、また、利用者の利便性の向上のために、国立情報学研究所との連携・協力の下における効果的な推進方策を講じていくことが不可欠となっている。
    3.  国立情報学研究所は、平成12年4月に学術情報センターの廃止により設置され、その研究の対象を「学術情報」から「情報一般」に拡大し、高度情報社会の学問的基盤としての情報学の体系化等を目指すこととしている。情報学研究を効果的に進めるには、科学技術振興事業団とのより一層の連携・協力を推進していくことが不可欠となっている。
       
     したがって、科学技術庁及び文部省は、学術及び科学技術を取り巻く状況の変化を踏まえ、利用者の利便性の向上をも図る観点から、科学技術振興事業団及び国立情報学研究所の情報提供事業について、新たな連携・協力の在り方を早期に検討し、その結果に基づき所要の措置を講ずる必要がある。
       
  (3) 科学技術振興事業団科学技術情報事業本部の組織・定員の合理化
     科学技術振興事業団は、平成8年10月に日本科学技術情報センターと新技術事業団とが統合したものであり、統合前の日本科学技術情報センターが実施していた科学技術文献情報データベースの整備等の情報提供事業は、科学技術情報事業本部(以下「情報事業本部」という。)が承継し実施している。
 この情報提供事業については、臨時行政調査会の「行政改革に関する第5次答申−最終答申−」(昭和58年3月14日)や累次の閣議決定において、民間委託等による効率化等を図ることとされており、これらを受け、情報事業本部では、データベース整備のための文献の抄録及び索引(以下「抄録等」という。)の作成業務の民間委託等を推進してきている。この結果、情報事業本部の定員は、平成11年度末現在223人と、昭和57年度末現在に比し31.4パーセント(102人)の縮減となっている。
 一方、近年、文献情報の利用者が減少していることもあり、情報事業本部における毎年度の当期損失金は40億円前後で推移し、平成10年度末現在における累積欠損金は470億円以上に達しており、より一層の合理化努力が要請されている。
       
     今回、情報事業本部において抄録等の作成及び受託機関が作成した抄録等の検査を担当している文献情報部における定員の配置状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
    1.  平成6年度から10年度までの間の抄録等の作成業務の民間委託の実施状況を抄録等の作成件数を基にした委託割合でみると、6年度の88.4パーセントから10年度の93.7パーセントに増加しており、全体として委託が進んでいる。しかし、作成分野別に担当区分された18部門の中には、
     
i  文献情報部全体の委託割合に比較して委託が進んでいないものが3部門(物性物理部門で平成10年度の委託割合67.2パーセント等)あり、
ii  業務の大半が民間委託化されたため、職員自らが作成すべき件数が減少し、定員1人当たりの年間作成件数が100件前後にしかすぎないものが5部門(管理・システム技術部門(平成10年度の定員1人当たり作成件数124.8件)等)あるほか、すべて民間委託としているにもかかわらず、定員を2人配置している部門(国内臨床医学部門)もあり、定員の配置が業務量の減少に即していない状況となっている。
    2.  平成6年度から10年度までの間の抄録等の処理(自ら作成し、かつ、受託機関が作成したものを検査すること。)の状況をみると、作成分野別に担当区分された18部門の中には、
     
i  処理件数は減少傾向にあるが定員をそのままとしているものが2部門(エネルギー部門(定員3人)で平成6年度2万5,249件、10年度1万8,919件(25.1パーセント減)等)あり、
ii  その一方で、処理件数は増加傾向にあるが定員を縮減してきているものが9部門(金属・工学部門(定員5人から3人に縮減)で平成6年度2万8,456件、10年度2万8,806件(1.2パーセント増)等)あり、
      定員の配置が業務量の増減に即していない状況となっている。
       
     したがって、科学技術庁は、文献情報の提供事業の合理化を図る観点から、抄録等の作成業務の民間委託を更に推進するとともに、情報事業本部について業務量に即した組織の見直し及び定員の合理化を行うよう科学技術振興事業団を指導する必要がある。