科学技術に関する行政監察結果(第1次)<要旨>

  勧告日:平成12年12月18日
勧告先:科学技術庁、文部省等12省庁
実施時期:平成10年12月〜12年12月
[監察の背景事情等]  
 科学技術は、経済社会発展の基盤であり、科学技術の振興は、産業活動の活性化、国民の生活水準の向上に寄与するのみならず、科学技術面における国際的な貢献を果たす観点からも重要
 国の科学技術に関する研究開発機関としては、行政施策の目的に対応した試験研究を行う国立試験研究機関等が、主に基礎研究を行う国立大学の附置研究所や大学共同利用機関があり、その数は我が国全体で約160機関。また、科学技術関係経費は毎年増大し、平成12年度(予算)約3兆3,000億円
 科学技術の振興については、科学技術基本法(平成7年法律第130号)に基づく科学技術基本計画(平成8年7月2日閣議決定)等に沿った重要科学技術分野の研究開発の推進、研究者の流動化の促進による研究開発活動の活性化、評価の充実、研究開発成果の活用等の施策の総合的かつ計画的な展開が重要
 本監察は、このような状況を踏まえ、国立の試験研究機関や国立大学等の研究所における研究開発活動等の体制、実施状況等を調査し、関係行政の改善に資するため実施
 調査対象機関: 北海道開発庁、科学技術庁、環境庁、大蔵省、文部省、厚生省、通商産業省、運輸省、郵政省、労働省、建設省、自治省等14省庁、国立試験研究機関(11省庁39機関)、国立大学(14大学22附置研究所)、大学共同利用機関(4機関6研究所)、特殊法人、都道府県、民間試験研究機関、関係団体等
 担 当 部 局: 行政監察局、管区行政監察局(全局)、四国行政監察支局、行政監察事務所(8)


[主な勧告事項]
 研究活動の活性化に向けた施策の充実等
  (1)  重要科学技術分野の研究開発基本計画の見直し
     国は、科学技術政策大綱(昭和61年3月28日閣議決定) 、科学技術基本計画を受けて、エネルギー、ライフサイエンス等の重要科学技術分野の研究開発を総合的かつ計画的に推進するための研究開発基本計画を逐次策定(8分野)。計画はおおむね10年程度先を見通したもの
     計画の中には、策定後の状況変化等に応じた見直しが必要なものが次のとおりあり。
    1.  策定後おおむね10年以上が経過し、かつ、科学技術会議(政策委員会)のフォローアップの結果、現行計画を改定することが適当であると指摘されているもの(物質・材料系科学技術、地球科学技術)
    2.  策定後、計画では想定していなかった大規模な災害(三宅島(雄山)の噴火等)が発生し、これを踏まえた新たな研究開発の必要性について検討すべきもの(防災)
    3.  新たな推進方策が別途示されている (平成11年内閣総理大臣決定) が、計画の見直しが行われていないもの(情報・電子系科学技術)
 
 [勧告要旨
 科学技術庁は、関係省庁との連携を図りつつ、次期科学技術基本計画の内容等を踏まえ、計画対象分野を含めた研究開発基本計画の見直しを行い、当該計画の改定又は新計画の策定を行うこと。

  (2)  競争的資金への間接経費の導入
   国研及び国立大学等の研究資金は、基盤的資金(研究者が基盤的な研究を推進するため経常的に使用する経常研究費)、競争的資金(研究課題を審査し競争的な選抜を行って研究資金を提供するもの)等に区分。競争的資金による研究のために要する既存の施設・設備の維持管理費などの間接経費は、経常研究費等で賄う仕組み
     代表的な競争的資金である科学技術振興調整費(科学技術庁)及び科学研究費補助金(文部省)は、平成11年度には302億円(7年度の54%増)及び1,314億円(同42%増)と大幅に拡充。一方、基盤的資金は、平成11年度には国研の研究員当積算庁費が 163億円 (同10%増)、国立大学等の教官当積算校費が1,576億円(同13%増)となっている。
     競争的資金は基盤的資金により用意される基礎的研究環境を前提に活用されるという考え方が、競争的資金の比率の増大等により実態に合わなくなっているとの指摘あり(学術審議会答申(平成11年6月29日))。調査した国立大学等の研究所の中には、競争的資金が大きく伸びているのに対し基盤的資金が横ばい又は減少している例あり。
     欧米では、獲得した研究資金の一部を研究機関の裁量で研究環境の整備等に充当できる いわゆるオーバーヘッド制度が一般的。我が国においても欧米の仕組みを参考にオーバーヘッド導入の検討が必要との指摘あり(学術審議会答申(平成11年6月29日)等)。
 
 [勧告要旨]
 科学技術庁は、関係省庁との連携を図りつつ、各省庁の所管する競争的資金への間接経費(オーバーヘッド)の導入を図ること。

  (3)  任期付任用制度の活用の促進
     国立試験研究機関における任期付任用制度の活用
    一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律(平成9年6月施行)
    若手育成型−若手研究者の能力のかん養。任期は原則3年以内
    招へい型−特に優れた研究者を招へい。高度な研究業務に従事。任期は原則5年以内
       若手育成型の任期付任用の実績は、調査した11省庁39機関中、7省庁21機関で 187人。このうち、通商産業省が12機関で 149人(79.7%)を占め、同省の国研では、任期付任用制度の活用に前向きな取組
       9省庁18機関は若手育成型の任期付任用の実績なし。うち2省庁3機関は今後の活用を検討中、残る7省庁15機関では、i)研究業務の性格が任期付任用になじまない、ii)小規模機関である、iii)適切な人材確保、後任者の確保に懸念がある等を理由として任期付任用制度の活用を困難視。しかし、次の理由からその活用の余地あり。
        1.  任期付任用の活用について未検討であること。  
        2.  活用が困難とする理由は必ずしも大きな障害とは考えられないこと。  
        3.  15機関中6機関は比較的機関規模が大きく、任期付任用制度を活用しやすい環境にあること。  
             
     国立大学等の研究所における任期付任用制度の活用  
    大学の教員等の任期に関する法律(平成9年8月施行)
    流動型−多様な人材の確保が必要な教育研究組織の職
    研究助手型−主として研究を行う助手の職
    プロジェクト対応型−特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職
       調査した28研究所のうち任期付任用実績があるのは、2研究所で助手2人のみ  
       任期付任用制度を未活用の26研究所は、i)研究の継続性に支障、ii)任期終了後の再就職先の確保に苦慮、iii)身分保障等の面で不利等を理由として、その活用を困難視  
         文部省は、活用が低調な理由として、大学教員の任期付任用法が施行(平成9年8月)されて間がない、社会全体において人材の流動化が未成熟であること等によるものではな いかと推測しているが、任期制の活用状況に関する体系的な調査は未実施  
       国立大学等の場合、制度の違いから国研の任期付研究者のような給与等についての特別の取扱い(別途の俸給表の適用等)は無し。  
 
 [勧告要旨]
1.  関係省庁は、任期付任用制度の活用及びその拡大の余地が認められる国研に対し、他の国研における活用実績も参考にするなどして、同制度の活用に積極的に取り組むよう指導すること。
 
(科学技術庁等8省庁)
2.  文部省は、国立大学等における任期付任用制度の活用状況について調査を行うとともに、任期付教員の教育研究条件の在り方等について速やかに検討の上、同制度の活用のための必要な環境整備を図ること。

 研究開発に係る評価の充実  
     国の研究開発に係る評価(機関評価、課題評価等)については、「国の研究開発全般に共通する評価の実施方法の在り方についての大綱的指針」(平成9年8月7日内閣総理大臣決定)により実施。同指針では、評価の基本的な考え方として、「明確な評価の実施方法の確立、外部評価の導入、情報の公開による開かれた評価の実施、評価結果の適切な活用」を明示
  (1)  国立試験研究機関における評価の充実  
     調査した11省庁39機関のうち2省庁5機関は機関評価を未実施。このうち1機関は、要領も未策定
 機関評価を実施しているものの中にも、i)評価項目等が不明確なものが1省庁1機関、ii)当該国研の職員も評価委員としているものが1省庁6機関、iii) 評価結果の指摘事項等が不明確なものが1省庁1機関、iv)評価結果への対処方針が未策定のものが1省庁8機関、v)評価結果等が未公表のものが2省庁8機関あり。
     調査した11省庁39機関のうち2省庁11機関は外部評価のための委員会等による課題評価を未実施。このうち、i)評価要領等を未策定のものが2省庁8機関、ii)評価要領等は策定しているものの、評価対象範囲が抽象的、限定的であるものが1省庁3機関あり。
  (2)  国立大学等における評価の充実
     調査した28研究所では、全研究所において自己点検・評価を実施(個々の研究活動、研究環境、組織、管理・運営等を対象に点検・評価)
 しかし、研究所の中には、評価規程等に、評価対象、外部評価の方法、評価結果の取扱い等、評価の内容に関する事項が明示されているものがある一方で、評価の実施組織及びその 構成、任務等のみを明示しているものがあるなど、研究所によってその対応に大きな差異
     研究所の中には、自己点検・評価の実施に当たり、他機関における実施方法の調査、評価項目の設定、評価者の選考等に係る事務負担が大きいとしているものが多い(11研究所)。
 
 [勧告要旨]
1.  関係省庁は、評価要領等を早急に策定するなど大綱的指針に沿った研究開発の評価の励行を図るとともに、評価の透明性を確保するために評価項目・評価基準の明確化、評価者への外部専門家等の適切な選任、評価結果の機関運営への適切な反映及び評価結果等の公表の一層の促進を図ること。
(北海道開発庁等11省庁)
2  文部省は、評価規程等において、自己点検・評価に係る評価対象、外部評価の方法、手続、基準、評価結果の公表方法、評価結果の取扱い等に関する事項の明示化に努めるよう国立大学等を指導すること。また、自己点検・評価を行う際の参考となる標準的な基準・手法の研究開発を行うとともに、当面の方策として、国内外の様々な評価に関する情報を収集し、広く提供するよう大学評価・学位授与機構を指導すること。

 日本学術振興会と科学技術振興事業団の事業運営の在り方の検討
 振興会(職員定数72人、予算 1,335億円)は学術の振興を目的に主に大学等学術研究機関を対象として、事業団(職員定数439人、予算907億円)は科学技術の振興を目的に国研、公設試験研究機関、民間研究所や大学等の研究者を対象として事業を実施。
   両法人の事業の中には、次のとおり、対象者、事業手法等に共通性が認められるものがあるなど、両法人がそれぞれ有する情報・資料、事業のノウハウやネットワークを相互に活用することなどにより、効率的、効果的な事業運営と利用者の利便の向上が見込まれる。
    1.  両法人の特別研究員制度、研究者の海外派遣や外国人研究者の招へい等の事業では、募集対象者の重複、事業手法の共通性、外国の研究者推薦機関の重複、来日外国人研究者に対する生活支援等のプログラム内容の共通性あり。
    2.  振興会の未来開拓学術研究及び事業団の戦略的基礎研究はいずれも政府出資金による基礎研究推進制度。また、事業団の戦略的基礎研究及び個人研究は、大学等の研究者も対象とし、募集要領等の送付先等が振興会の事業と重複
    3.  事業団の研究成果の実用化・企業化に係る事業において、平成11年度に収集された635件のうち580件(91%)が大学等の研究成果
 なお、平成11年度に国立大学等の国有特許関係事務は振興会から事業団に移管
    4.  事業団の事業運営については、大学等の研究者が様々な形で参画・協力。このような人材のより一層の活用を図るため、大学等の研究動向及び研究者の情報収集等が重要
 
 [勧告要旨]
 科学技術庁及び文部省は、事業団と振興会の事業運営について、学術及び科学技術研究の総合的・一体的推進を図る観点から、その連携・協力の在り方を検討するための協議の場を設け、その結果に基づき所要の措置を講ずること。

 組織及び業務の見直し、合理化等
  (1)  金属材料技術研究所材料試験事務所の在り方の見直し
 
 [勧告要旨]
 科学技術庁は、金属材料技術研究所材料試験事務所について、クリープ試験の「伸び計測」の自動化及び基本的な試験時間を超えたものについての継続の必要性の見直しを進めることにより人員の合理化を行いつつ、将来的な同事務所の在り方について検討を進めること。
  (2)  地質調査所及び資源環境技術総合研究所の支所等の業務の移管
 
 [勧告要旨]
 通商産業省は、地質調査所及び資源環境技術総合研究所の支所等の業務について、工業技術院の地域研究所等への移管を図ること。
     
  [その他の勧告項目]
  1. 科学技術振興調整費による研究の国立大学等への委託方式の見直し
  2. 科学研究費補助金の経理事務の見直し
  3. 国に属する特許権の定期的な見直しと公開の推進
  4. 委託開発事業に係る規制の緩和
  5. 情報提供事業に係る連携・協力の在り方の見直し
  他11項目