[総合評価]
1 科学技術振興事業団の位置付け
   科学技術振興事業団(以下「科技事業団」という。)は、科学技術の振興のための基盤の整備を図る観点から、新技術の創製に資すると認められる基礎的研究、新技術の開発等を行っていた新技術事業団と、科学技術情報の流通に関する業務等を行っていた日本科学技術情報センターを統合して、平成8年10月に設立された。
 このような経緯から明らかなように、科技事業団の主な事業は、「新技術の創製に資すると認められる基礎的研究(以下「新技術創製のための基礎的研究」という。)」、「新技術の開発」及び「科学技術情報の流通に関する業務」となっている。
 新技術創製のための基礎的研究及び新技術の開発については、国から出資金及び補助金が交付されている。これらの事業が経理されている一般勘定の平成8年度の貸借対照表をみると、出資金の累計は約1,600億円に及んでいる。一方、事業資産等の計上額は約600億円にとどまっている。これは、研究開発成果等が企業会計原則に照らし資産として計上されないためであり、約950億円は累積の欠損金として計上されるという財務上の表れ方になっている。
 内外の科学技術情報の収集、提供等を行う科学技術情報の流通に関する業務についても、国から出資金及び補助金が交付されている。出資金は、情報資産等の事業資産の形成に充てられており、平成8年度末現在の累計は約670億円に及んでいる。一方、同年度末現在で約400億円の累積欠損金が計上されているが、これは、情報資産の減価償却費をすべて賄うだけの収益が得られていないことによるものである。
 なお、補助金は、いずれも一般管理費に充てられている。
2 事業の現状
  (1)  新技術創製のための基礎的研究
     新技術創製のための基礎的研究は、科技事業団が一定の研究テーマについて産官学等から公募等により研究者を選定し、これら研究者との雇用契約(一部は所属機関との委託契約又は共同研究契約)の下で行われる基礎的研究に対して研究費等を支出するものである。平成8年度までに1,014億円の出資金が投入されているが、資産の状況をみると、機械・装置等の有形固定資産が140億円、工業所有権等の無形固定資産等が8億円で、残り866億円は欠損金となっており、一般勘定の欠損金全体の9割を占めている。一方、研究成果としては、工業所有権の取得・出願が1,346件あるほか、論文の公表や学会等での発表の実績は1万571件に上っている。
 この事業については、出資金の多くが財務上は欠損金として計上される一方、その成果が具体的に表れにくいことから、的確な研究成果の評価の実施が求められる。この点に関し、科技事業団は、平成10年度以降に研究が終了したものから、外部専門家を含めて評価する体制を整備し、研究成果の科学技術への貢献度等の項目について評価を行い、その結果の公表を始めたところである。
 新技術創製のための基礎的研究は、多額の公的資金に依存する事業であり、今後、新たな評価の実施状況を踏まえつつ研究成果の的確な評価を推進していく必要がある。
  (2)  新技術の開発
     新技術の開発は、研究者が所有している研究成果(新技術)の企業化のための開発を企業に取り次ぐことにより、その促進を図るものである。このうち、委託開発は、企業化が難しく開発リスクの大きい研究成果を企業化するため、科技事業団が企業に代わり開発費を負担し、開発が成功した場合は企業から開発費を無利子で回収し、不成功の場合は開発費の返済が免除されるものであり、平成8年度までに329億円の出資金が投入されている。
 委託開発案件は、平成8年度までに410件となっているが、このうち開発中のものを除く349件についてみると、開発が成功したものは309件で、成功率は88.5パーセントに及んでいる。これらについては、開発費が回収されるとともに、開発製品の売上高に応じた実施料として、これまで38億5,000万円の収入を得ている。一方、不成功は18件で、全体の5.2パーセントであり、これに投入された22億円の開発費は免除されている。
 開発が成功して回収された開発費等は、科技事業団の資金として循環していくこととなるが、開発中のものを除く開発費の回収率は97.1パーセントとなっており、委託開発事業は、開発費を回収しつつ、新技術の企業化に一定の成果を得ているといえる。
 また、開発あっせんは、研究成果の企業化が容易な開発リスクの低いものの企業化を働き掛ける事業であり、平成8年度までに19億円の出資金を投入し、540件のあっせんを行っている。開発あっせんについては、科技事業団による開発費の負担はないが、特許調査等の事業費として18億円を費消しており、一方、企業化によるあっせん料収入のうち、研究者への支払分を除き科技事業団に残るものは2億円である。
 あっせん件数は、昭和62年度は37件であったものが、減少を続け、平成8年度には5件にとどまっており、1件当たり事業費も140万円から7,100万円へと著しく割高なものとなっている。また、これまでの累計事業費に対する累計あっせん料収入の割合(あっせん料収入率)も低下傾向にある。
 したがって、事業効果の低迷傾向を踏まえ、事業の在り方の見直しが必要である。
  (3)  科学技術情報の流通に関する業務
     科学技術情報の流通に関する業務は、我が国の研究開発活動の基盤として、国内外の科学技術に関する情報を収集して文献データベースを整備し、オンライン等により情報の提供を行うものである。文献データベースは、14分野に分類され、科技事業団が自ら作成するもののほか、ニーズの高い3分野(医学、農林水産、建設工学)については、補完的に外部データベースを導入し、その整備を進めている。この結果、本格的なオンライン情報検索システムによる情報提供が開始された昭和56年度から平成8年度までに、約2,000万件(作成分が約1,200万件、導入分が約800万件)のデータベースが整備された。
 一方、整備された文献データベースによる売上げは、平成4年度まで上昇傾向にあったものが5年度に落ち込み、8年度までは微増ないし横ばい状態で推移しているのに対し、整備経費は、2年度以降7年度までは増加傾向が続いている。
 この結果、文献データベースの整備経費と売上高の関係をみると、平成5年度以降、経費が売上げを上回っている状況にあり、8年度では、売上高が約30億7,000万円であるのに対し、約33億9,000万円の経費を要している。これは、整備経費のほぼ全額(約33億7,000万円)を科技事業団が自ら作成する文献データベースが占めているが、これに対する売上高が約19億7,000万円と、経費の6割弱にとどまっているからである。
 次に、作成データベースの利用状況を14分野別の収録シェア(各分野別の収録件数が全収録件数に占める割合)と利用シェア(各分野別の利用件数が全利用件数に占める割合)との関係でみると、平成8年度は、9分野で収録シェアが利用シェアを上回り、逆に4分野で利用シェアが収録シェアを上回っている。これらの中には、医学分野のように18.3パーセントの収録シェアに対し、利用シェアが35.5パーセントと大きく上回っているものがある反面、物理分野のように12.7パーセントの収録シェアに対し、利用シェアが5.2パーセントと大きく下回っているものがあるなど、作成されるデータ分野と実際に利用されるデータ分野の間に乖離が発生している状況がみられる。
 このため、データベースの一層の利用の促進と売上高の確保を図る観点から、今後、新規データの作成に際しては、科学技術の振興のための基盤整備を図るという科技事業団の果たす役割を踏まえつつ、より一層利用状況を加味することについての検討が必要である。