政策評価フォーラムの概要(福岡会場)
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【ポイント】
(木村) ただいまからパネルディスカッションを始めたい。テーマが「今、政策評価は何を目指すのか」ということなのでまずは現在の政策評価について、どういった課題があり、今後どうしていくべきか基調講演、報告等を踏まえ、議論していきたい。まずは、パネルディスカッションから参加の明石さん、渋田さんから、現在の政策評価について、どう考えておられるかという点を、お伺いしたい。 (明石) 政策評価をどう考えるかということだが、私は国土交通省九州地方整備局の事業評価監視委員会の委員をしているが、それまでは全くと言っていいほど政策評価ということに関しては知らなかった。全くアマチュアである。その意味で、政策評価制度が広く一般に認知されているとは言い難いと思う。したがって、この制度を一般に周知させていくことが必要と考える。 そこで、事業評価監視委員会の経験を踏まえると、この委員会は整備局で実施している事業について、事業採択後、一定期間経過後も未だ未着工であるか又は事業開始後長期間経過しているにもかかわらず工事中であるとかいったような事業について、社会経済情勢の変化、事業の投資効果、事業の進捗状況等を見つつ、コストの縮減や代替案の可能性等について再評価を行うことを主な目的にしている。完了した事業については、事業の効果、環境に与える影響の確認を行い、必要があれば、改善計画の検討や同種の事業のあり方等に反映させていこうということを行っている。したがって、政策や事業の実施に当たっては、税金を投入する意味のある事業か、そして効果のある事業に効率的に投資されているかが重要であると考える。その際にしっかりとしたコスト意識を持つことが何より必要だろう。その意味で、政策評価は行政にとって大いに必要な制度であるといえる。ただこれまでこのような評価制度がなかったこと自体、民間企業の立場からすると不思議な気がする。 このことから、行政が実施する政策や事業について、自ら評価するという政策評価制度は、これからの行政を国民的な視点に立った質の高いものにしていくためには、大変重要な役割を担うものだと考えている。 (渋田) 自分がこのパネルディスカッションに呼ばれた趣旨は、たぶん市民から見て政策評価はどう見えているかという点を言ってもらいたいということであろうと自分なりに理解してこの制度に関する印象を述べさせていただく。 先ほどの基調講演と報告を聞いて、政策評価制度が目指している目的と機能を完璧に果たせたら、日本の行政は根本から変わっていくであろうという印象をはっきり持った。無駄のない、コストを意識した上にさらに透明性が備わり、迅速かつ効率的な行政運営が可能になるのではないかと率直に感じている。 また、いわゆる前例主義というものが日本の官僚機構の堅固な政策の継続性のためには必要ではあろうが、この政策評価制度が導入されたことによって、役所の果たす役割、仕事等を見直すいい機会になると考えられる。国民の側から見れば、自分が納めた税金がどういうふうな使われ方がされているか、納税にふさわしいだけの行政サービスが果たして受けられているのか、等それらを知り得る機会となろう。したがって、今後ともこの制度を充実させることはもちろん、国民の中に浸透させていくことが必要と考える。他方、この制度における評価自体が行政の自己正当化ということにならないかという素朴な疑問もある。また、次年度の予算取りのための手段になるのではないかなどの懸念もある。そうならないためには、外部検証の可能性の確保という点が重要となってくる。 (木村) 政策評価の目的は、国民に対する行政の説明責任の徹底、国民本位の効率的かつ質の高い行政の実現、それから国民的視点に立った成果重視の行政への転換という三つであると思うが、例えば介護保険にしても、他のいろんな制度を変えるときにしても、だいたい3年経過した時点で振り返ってみようということが多いが、この政策評価制度もスタートしてから3年経つので、初めに掲げた三つの目的をどこまで達成できているか、これからの課題は何かという点を議論したいと思うが、今までの3年間を顧みて、課題がどういうもので、これからどうしていったらいいのかという点を中心にさらに議論をしていきたい。 山谷先生は外務省におられた経験から、この政策評価制度の功績というものは、どんなものだと思われるか。 (山谷) 明らかな点としては、評価を強制的に行うということになったので、例えば予算要求の際の財務省の主計局説明用資料の中に政策評価制度ができたがために、成果とか、効率性とか、そういった観点が盛り込まれるようになり、少しずつ意識が変わってきたと感じられる部分があった。 (木村) 自分も行政組織の内部で、意識が非常に変わったと聞いたことがある。また、コストに対する意識が、今までより厳しい見方をするようになったという意見を聞いたことがある。次に、丹羽さんは、ほぼ3年間この制度に関わってこられて、政策評価の成果と今後の課題という点についていかがか。 (丹羽) 多分、大多数の方がそう思っていると思うが、一つはまず各省庁自らが評価する自己評価を行うので内容がどうしても甘くなるのではないか、次に二次評価で総務省が行うわけだが、総務省も広い意味では身内で同じ官僚組織なわけで、ここも甘くなるのではないか、ゆえに結果としてあまり信用できないのではないかというような懸念が危惧されるわけである。実際は、自分が2年半総務省の方とおつき合いをしていた経験からいえば、そういう懸念はあまりないと思っている。しかしながら、そういう懸念を国民が抱かないようにするには、仕組み自体の透明度を高めるため、やはり身内の評価を避けるような仕組みをつくっていく必要があるのではないか。そのための第三者機関として、評価委員会がこの役割を担っているわけである。自分としては、評価委員会にもっと権限と責任を付与することによって、身内の評価から脱却する仕組みがつくれるのではないかと思っている。 それから、二つ目は、国民の皆さんが、いわゆるお上のやることに対して口出ししてもどうにもならないといったような意識を変えていくことが大事である。それが21世紀型の行政の仕組みであって、お上のやってることは全部正しいのではなく、それを第三者が監視をしていくことが重要なのである。そのために政策評価を行い、そして、公表する。それに対し、意見を言うという仕組みを作っていかないといけない。行政のこれからのあり方について、国民と一緒に考え、意見を出して、そして新しい行政システムを構築していくという非常に高い志を持って今我々は取り組んでいる。我々も努力するが、国民皆さんのいろんな御意見、御協力を、この機会にお願いしたい。 (木村) 若干質問が重複するかもしれないが、明石氏は国土交通省九州地方整備局の事業評価監視委員会委員をされた経験から、制度の成果と今後の課題という点についてどう考えられるか。 (明石) この評価監視委員会の役割というのは、自己評価を第三者の目で検証するという作業だと思っている。コストとベネフィットの関係から事業の効果について評価をしているが、この方式だけですべてがうまく評価できるかというとなかなか難しいというのが実感である。例えば特に整備局がやっている道路、河川等の公共事業は、効果の及ぶ期間、つまり、ベネフィットの期間が非常に長いので、完成してから30年とか、50年とか、あるいは100 年とかの長期のスパンでものを見ていく必要があり、その間にどれだけのベネフィットがあったかということを測ることは、見方によっては非常に困難であると思う。一方、コストの算定は比較的確度の高いものがとれるので、その確度の高いコストと、やや確度に難点のあるベネフィットを比較して、B/Cを算定するやり方はどうなのかという問題はあろう。こういうところに、結果として自己評価が甘くなる可能性があるのかもしれない。 また、この評価の方式だけでは測定できない効果というものが多分にあると思われる。道路にしろ、河川にしろ、今自然環境を守るという視点で、様々な努力がなされているが、こういった環境の保全をどう評価するか。数値化が難しいところがある。また、道路をつくる際に特にそうだが、安全性の確保にかなりウエートを置いて構造を考えていくので、そういった安全をどうやって数値化していくか。こういった点も難しい問題であると思われる。したがって、こういう部分はB/Cで評価するもののほかに、定性的な評価をつけ加えていくといった作業をしている。 したがって、評価の方式そのものには、まだ改善の余地が多分にあろうというふうに考えている。 (木村) 次に渋田さん、政策評価制度の今後の一番大きな課題というのは、どういうことだと思われるか。 (渋田) 一番大きな課題というのは、丹羽会長の講演にもあったが、国民にどう説明責任を果たすかということだと思う。自分は、このパネルディスカッションに参加するに当たって、総務省行政評価局のホームページを開いてみたが、なかなか見てもわかりづらい部分が多かった。制度についていろいろ書いてあるが対外的にもっとわかりやすい形で知らせるべきではないかと感じた。 (丹羽) 政策評価分科会の中でもそのような意見も出ていて、今、改善する方向に向きつつある。一般的に役所には役所用語、また学者には学者用語というのもあって、各業界というものには、各々の業界で常識的な言葉というのがあって他の業界の人には全くわからないものがある。したがって、政策評価制度についてはこれをできるだけ国民が普段使っているような用語にしてわかりやすいものにするという方向ですすめているところである。 (木村) 渋田さんに、ぜひ聞きたいが、マスコミは、案外、政策評価については記事にしていないように思われるがどうしてなのか。 (渋田) はっきり言うと、難しい。まず、政策評価というものがどんなものかわかっていない記者が多いということだと思う。テレビの方でいえば、これは絵にならないということではないか。これでは伝える方としてはおもしろくないだろう。例えば、どこかの大きなダムをもう作りません、途中でやめますといった場合には、これは刺激的なニュースなので、取り上げるところも多いと思われるが、評価を実施して、翌年にはこうするとかいうようなものは、よほどPRしても、なかなか難しいのではないかと思われる。要するに新聞、テレビというのはおもしろくないと取り扱わない傾向にある。これはあまりいいことではないが、メディアが飛びつきにくい理由でもある。 (木村) 国民への説明責任というのが重要であって、どういうことを実際にやって、それにより我々の生活がどのように変わったのかということを国民にわかる言葉で説明することが肝要である。 (丹羽) 国民的な立場から言うと、行政システムの問題について、驚くようなことが起きると国民は関心をもつと思う。今、政策評価制度というものがあって、何か非常に変わった、革新的なことが起きたと、成功事例として何かあるとか、そういう事例をできるだけ早く何らかの形でつくって、それを公表していく形にする。そうすると、国民の皆さんがこの制度に対して、非常に評価をしていただくと同時に、関心を持ってもらえるのではないかと思う。国民が、関心を向けるような成功事例をできるだけ早い機会にわかりやすい説明をホームページで公表する等提示していくことが非常に重要なことだと思う。 (木村) 顧客に対して、我々はどうしたら本当に満足してもらえるかという顧客の満足度というものを一つの指標にして実行するということがこの制度においても大事なのではないかと思われる。 (木村) 渋田さんは、今まで国からとか地方からとか、行政に関連した活動というのをずっと新聞記者として、かなり批判的な目とか、いろんな目で見てこられたと思うが、今後その政策評価を国民のものとしていくためには、マスコミ界もあれば、官界もあれば、経済界もあれば、政界もあると思うが、それぞれどういう活動をすればいいと考えるか。 (渋田) 自分の経験からいえば、特に我が国の国会においては、決算の取り扱いがあまりきちんと機能していない部分があり、普通民間の企業であれば、決算というのは非常に重要であるが、日本の国会ではそんなに重視しない傾向にあり、事後の検証にあまり熱心ではないのではないか。予算の要求、予算編成の段階では、政治家が非常に活発に活動するが、他方その執行はどう使われたか、また、どういう成果が上がったかということになると、予算をつける段階に比べると、その精力の注ぎ方が小さい。そういう風潮を非常に強く感じている。その辺をもっときちんとすれば、あえて政策評価に関する法律を作って、義務づけてまでやらなくても、政府方針程度でやれたのではないかという気もする。 (木村) 会場の参加者からいただいた質問にお答えしたい。まずは、評価を予算に結びつけるには、一体どういったことが重要になってくるのかという質問についてどうか。 (山谷) 都道府県の事例は若干存じ上げているので申し上げると、やはり結局は個別の事業評価の積み上げであり、最終的には知事等の上層部で構成される政策評価会議のような機関において優先順位の中で割り振りしていくという仕掛け、仕組みをつくらないと回らないと思う。したがって、国の場合も同様の仕組みが必要かと思う。 (木村) 現在、政策評価での仕様と予算書での項とか目とかの仕様が必ずしも一致しないので、そういう面からも、そのまま反映させることには現在のところ限界があると考えられるか。 (山谷) 限界があると思う。ただ、いろいろ努力はされており、例えば、内閣府が始めたモデル事業や個別の省庁でもいろいろ努力されているようである。 (丹羽) この問題は非常に重要であると思う。現実問題として、今の政策評価制度の中で、評価結果を予算に反映する仕組みというのはできていないと思う。それを実行する上での一番の問題は、評価結果を予算作成の時に必ず参考にするという仕組み、そういう仕組みを各省庁に持ってもらうということが一番大事だと思う。この評価結果に強制力を持たせるということは法的にはできないと思うが、各省庁が予算策定の時に必ずこの評価結果というものを参考にして、データの一つとして参考にするという仕組みを作っておくということが、一番肝要だと思う。 (木村) 次の質問は、政策を実施する省庁や自治体が評価するだけでなく、外部の第三者がその評価結果をチェックしたり、改めて評価したりすることが重要であり、そうした活動には専門的知識が必要であるが、現状ではどの程度行われているか。そして、それらの活動はどのように評価されているか。また、今後外部の第三者によるチェックや評価の活動は充実、発展していくというお考えか、という質問だが、これは非常に重要な論点だが、丹羽さんよろしくお願いしたい。 (丹羽) まず1点目であるがこれは行われていない。というのは、専門的知識を持つそういう評価委員を置いてやるということは、膨大な人件費、膨大な経費がかかる。また、現在の第三者というのは、常時常勤でいるわけではなく、第三者は事務局の作った資料をベースにして、いろいろ意見交換し、まとめた上で、意見を具申するということなので、御意見の点はさらに第三者の専門集団を作って、そしてその方々に、常勤でいろいろ意見をいただく、あるいは提言をしていただくということだろうと思うが、それを行うと、各省庁に専門集団を置いて行わないといけないわけであり、それをチェックする機関が必要となり、さらにまたそれをチェックする機関が必要ということにもなりかねない。あくまでも行政のコストとベネフィットということを視野に入れておくことが肝要なのであって、逆に言うと、「小さな政府」を目指すという現在の方向に逆行することになりかねないということも考えられる。現状では今の制度を試行錯誤はあるかとは思うが、あと何年かは継続して行ってみてはどうかと考えており、それでどういう弊害が出てくるか、どういう欠点が浮かび上がってくるかというのを、見てみる必要があるのではないか。新たな機関を作るということについては、コストの面で、非常に膨大な費用がかかる。今の制度は、まだ始まって2年半ということでいましばらくはこの制度を見守っていくべきではないか。そして、その後問題があれば、直していけばいいというふうに思う。 (木村) 最後に、今後の政策評価について継続、発展させていくためにはどういうことが重要だと考えているか。各氏お願いしたい。 (渋田) 政策評価の結果を踏まえて、それを予算に反映させていくことは、うまくいけば非常にいいことであるのはいうまでもないが、それが省庁内、霞が関向けではなくて、外に向けたわかりやすい形で出したらいいのではないかと思う。例えば各省庁の予算であれば、優先順位、プライオリティーについてホームページで公表するとかすれば、内容に異議がある者は、逆にこの政策評価制度への関心が高まり、制度への理解が深まるのではないかと思う。 (明石) 政策評価制度というのは、今後ますます、その意義が大きくなっていくものであると思うが、さらに大きくしていくためには、全府省に共通的な評価手法というか、そういったものを作っていくことが必要ではないか。国の行政においても、ヒト、モノ、カネの経営資源を有効に使うため、政策に対する優先順位が必要であり、政策に対しての優先順位を明らかにして、重点的な資源配分を行っていく。そういった仕組みが、この政策評価制度を通じてできるといいと思う。また、政策評価制度を国民に十分周知し、様々な意見を吸い上げるべきと思う。 (木村) 国民から意見を吸い上げる場合に、どういうものが一番いいと思うか。例えば、こういうフォーラムも一つの機会だと思われるが。 (明石) タウンミーティングのような形が行われているが、それよりも評価の結果に対して具体的な事例を示しながら、それを知らせるというような方法がよいのではないか。 (山谷) 政策評価のイメージとしては、医学に例えれば、いわば漢方のようなもので、すぐ効くわけではなく、じっくり、ゆっくり効いてくるものだと思う。ただし、これは万能薬ではないので、特定の病気にはこの方法、別の病気にはこの方法という、処方箋を考えて使い分けていかないといけないだろう。 また、政策評価のメリットとしては幾つかあるが、一つは国民から見て、おかしいと思うものについては、行政が挙証責任を持っており、つまり評価の中で言及されているものについては、挙証責任は行政の側にある。したがって、これにより、これまで政治家の議論が地元の利益中心に考えていたものが、政策コストとその効果といったものについての議論も出始めている。そういう意味では、政策評価によりいい方向になりつつあるといえる。ただし、5年か10年ですぐに変わるかというと疑問がある。 (丹羽) 一つだけ申し上げたいと思うが、巨大な官僚組織は百数十年続いてきている。この官僚組織の中で、最も特徴的な文化は、前例踏襲である。官僚組織を変えていくことは、並大抵なことではなく、この評価制度も、やはり非常に遅々とした歩みになるだろう。ただ、この評価制度がまず自己評価し、それを元に官僚が国民というものを意識し始めた。これは、百数十年の日本の官僚組織の中において画期的なことでありそういう意味から言うと、この評価制度があるおかげで、国民を意識する、あるいは国民の批判に身をさらさなければいけなくなってきるということが、これからの日本の行政システムを考える上において、非常に意味を持つことになると思う。もしこの制度がなかったら、いまだに自己評価の気持ちもないし、国民というものの意識も、非常に薄かっただろうと思う。そういう意味で、ぜひこの評価制度というものを生かすように、いろんな御意見をいただいて、やはり官僚、あるいは行政というものを国民が見ているということを政府に認識させる必要があろう。 (木村) 政策評価は、民間で成功した経営者から見れば、公共部門はなぜもっと早くできなかったのかというようなことになるかもしれないが、諸外国においても始められたのが1970年代、80年代、90年代になってからであり、日本は法律を作って、今やっと3年目になった状況である。小さな一歩ではあるが、これを誠実に実行することで大きく行政が変わっていく。 本日は、評価したものをどのように予算等に結びつけていくのかとか、自己評価する側とそれをさらに評価する第三者側の緊張関係をどう保っていくかとか、それからどうやって国民に知らしめていくかとか、いろんな論点が出てきた。今日、我々が議論したものが、来場いただいた方々に少しでもお役に立ち、かつ、今後の政策評価の発展につなげていければと思う。 (以上)
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