〔総合評価〕 | |||
1 国の航空政策と関西国際空港株式会社の位置付け | |||
国は、航空の発達を図るため、直轄事業及び補助事業により空港の整備を行っているほか、空港の設置・管理主体として設立された法人に出資、貸付け等を行うことにより、空港の整備事業を推進している。 関西国際空港は、航空輸送需要の増大について、騒音問題による発着制限など厳しい運用制限がある大阪国際空港(伊丹)に代わって対応するために建設されたものである。 関西国際空港株式会社(以下「関空会社」という。)は、関西国際空港の設置及び管理を効率的に行うこと等を目的とする法人と位置付けられている。同社は、民間活力の積極的な導入、国、地方公共団体及び民間経済界が一体となった協力・責任体制の確立などの観点から、国、地方公共団体及び民間の出資による株式会社として、関西国際空港株式会社法(昭和59年法律第53号。以下「関空会社法」という。)に基づき、昭和59年10月に設立されたものである。 関西国際空港の設置及び管理は、関空会社法に基づき、運輸大臣が定める基本計画に適合するものでなければならないとされている。関空会社は、この基本計画に基づき、1期事業として滑走路1本(3,500メートル)等を整備し、平成6年9月から供用している。さらに、「第7次空港整備七箇年計画」(平成8年12月13日閣議決定。平成9年12月12日改定)により、2期事業として平行滑走路等の整備を推進することとされ、平成19年に2本目の滑走路(4,000メートル)の供用を開始する計画で、8年度から事業に着手し、11年7月に現地着工した。 なお、2期事業に係る空港用地の造成費用が1兆1,400億円と多額になると見込まれること等を踏まえ、供用当初における関空会社の用地費負担を軽減し、経営の健全性を確保するとの趣旨から、2期事業は、空港用地の造成を関空会社法に基づき運輸大臣が用地造成事業者として指定した関西国際空港用地造成株式会社(以下「用地造成会社」という。)が行い、滑走路等の空港施設の整備を関空会社が行う「上下主体分離方式」で実施されている。 関西国際空港の建設事業費は、1期事業で約1兆5,000億円、さらに、2期事業では、用地造成会社施工分を含めて1兆5,600億円となる計画である。このような空港建設投資の財源は、国、地方公共団体及び民間からの出資金、有利子資金(借入金、社債)の調達により賄われている。このほか、2期事業では、国、地方公共団体からの無利子借入金が投入されている。 以上のとおり、関西国際空港の設置・管理主体及び同空港の基本計画等は、国の責任において決定されているが、関空会社は株式会社形態をとっていることから、この枠組みの範囲内で、民間活力を導入し、空港の設置と管理を一括した効率的、効果的な事業運営を行うことが期待されている。これにより、空港建設投資資金の回収を進めるとともに、将来的には株式会社として出資者に配当を行うことを含め、健全な経営と円滑な空港運営を実現することが、同社の経営上の責務である。 |
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2 関西国際空港の設置・管理事業 | |||
(1) | 経営の現状 | ||
平成6年9月の関西国際空港開港から10年度までの間の関空会社の経営状況をみると、営業収益は、9年度までは伸びていたものの、10年度には減収に転じている状況にあり、減価償却費や支払利息の負担により収益で費用が賄えず、いわゆる「創業赤字」が続いている。この結果、累積欠損が拡大し、平成10年度末現在で1,333億円となっている。 このような経営状態となっている背景としては、次のような状況がみられる。 費用面については、1期事業の約1兆5,000億円に上るばくだいな建設投資のため、平成10年度には、1,419億円の費用のうち減価償却費が343億円(費用全体の約24パーセント)、支払利息が473億円(同約33パーセント)と、両者で全体の約57パーセントを占めている。費用は、航空輸送需要にかかわらない固定的なものが大半で、管理費の抑制等の経営努力のみでは、収支の好転につながるほどの費用の削減が困難であるのに対し、収入は、航空輸送需要に依存する。このことから、関空会社の収支は、航空輸送需要の動向に大きく左右される構造になっているが、空港使用料、施設使用料など関空会社の営業収益の源泉である航空機の発着回数、旅客数などの空港運営実績が、平成9年度までは伸びていたものの、10年度については伸び悩んでいる状況がみられる。 関空会社は、過去の実績を踏まえつつ、平成8年度に策定された第7次空港整備七箇年計画に基づく運輸省の需要予測を基に、経営見通しを立て、事業を行ってきている。運輸省は、平成12年度には航空機の発着回数が年間15万回程度に達するなどと予測しているが、開港後2年間はほぼ予測どおり推移していたものの、10年度の発着回数は8年度、9年度の実績とほぼ横ばいの11.8万回となっており、予測を下回っている。 また、長期債務の償還状況をみると、開港により営業収入が発生した平成6年度以降2,721億円を償還しているが、その償還財源は、自己資金が5年間で計629億円(うち営業収入167億円)、借換社債が計2,092億円となっている。この結果、長期債務の縮減までには至っておらず、平成10年度末現在の長期債務残高は約1兆円となっている。 |
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(2) | 今後の経営見通しと課題 | ||
2期事業は、航空輸送需要への対応及び国際的な競争力強化のために必要であるとして、国が決定した基本計画等に基づき実施されている。一方、当該事業は、巨額の投資を要する大型事業であり、今後の関空会社の経営に大きな影響を及ぼすものである。 このような事業に対応し、健全な経営を確保するためには、経営をめぐる諸要因に関する的確な将来見通しを行い、必要な収支の改善措置を講じていく必要がある。 関空会社は、2期事業の実施を踏まえた長期経営見通しとして、発着回数が年間21万回程度に達した時点(平成19年の平行滑走路供用開始後7年ないし8年程度)での単年度収支の黒字化、さらに、その2倍程度の期間での累積欠損の解消を目標としている。 このような中で、今後の関空会社の経営においては、次のとおり、その動向を注視していくべき様々な要因がある。 |
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1. | 経営見通しの前提である運輸省の航空輸送需要予測は、一定の経済成長、他空港との競合などを想定して算出されたものであるが、景気低迷の影響などから、現在、関西国際空港の航空輸送需要は予測を下回る動きで推移しており、また、今後の他の国際空港や近隣空港の整備による航空輸送需要への影響が予測される。 | ||
2. | 2期事業は、空港用地の造成(用地造成会社)と空港施設の整備(関空会社)とで事業主体が分離されている。 用地造成会社が造成した用地は、一定期間、関空会社に貸し付けた後、同社に譲渡することになっている。用地造成事業費の見込額からみて、用地の貸付料、譲渡代金の支払が関空会社の経営に与える影響は、長期にわたって極めて大きいものとみられるが、貸付料、貸付期間、譲渡代金、譲渡時期などの具体的条件は、両社の今後の協議事項とされている。 |
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3. | 関空会社が1期事業のために調達した借入金の返済は、今後、多い年で200億円から300億円、社債の償還は、年平均730億円程度になるものとみられる。その償還財源については、当面は借換えをしていかざるを得ず、長期債務の縮減には長期間を要するものと考えられる。 さらに、2期事業に当たって、関空会社は、有利子資金2,940億円(ほかに無利子借入金が2,850億円)を調達する計画である。また、用地造成会社が調達する有利子資金5,130億円について、その利息支払・償還は、関空会社が用地造成会社に支払う用地の貸付料、譲渡代金により賄われる仕組みである。 このため、関空会社では、1期事業による長期債務に、2期事業による有利子債務が加わり、また、将来的には用地造成会社の有利子債務が関空会社の費用に反映されることとなる。 |
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前述のとおり、2期事業は、航空輸送需要への対応及び国際的な競争力強化のために必要とされた事業であり、巨額の投資を必要とするものである。 一方、関空会社の収支構造は、巨額の長期債務を有するとともに、費用は固定的なものが大半で削減が難しいのに対し、収入は航空輸送需要に依存する部分が大きいため、同社の大幅な収支向上は制約が大きい状況となっている。 このように厳しい状況の下で、関空会社は、収支向上について最大限努力していかなければならず、同社の経営の現状、今後の経営見通しを踏まえて、同社が健全な経営を確保しつつ、2期事業の円滑な実施を図るためには、次のような点に留意する必要が認められる。 |
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1. | 今後の経営の在り方については、関空会社が厳しい経営環境にある中で、航空輸送需要の動向、用地造成会社の状況など、経営をめぐる諸要因の動きに対応して、適時、適切に経営見通しを見直していくことが必要である。 | ||
2. | 関空会社の収支改善のため、経費の削減対策を講ずるとともに、空港使用料の営業割引等により、増便や十分活用されていない深夜の発着枠の有効利用を図り、増収につなげることに加え、直営事業など非航空系の事業も含めて、空港全体として関空会社の増収につながる方策を推進することが重要である。 なお、営業収入の中核となっている空港使用料の見直しについては、需要に与える影響とこれに伴う収入の増減など、関空会社の経営に与える影響を勘案して判断すべきである。 |