[総合評価] | ||
1 国の環境保全政策と環境事業団の位置付け | ||
国は、環境基本法(平成5年法律第91号)に基づき、環境保全上の支障の防止を目的とする助成措置、環境の保全活動に自発的に取り組む民間団体等への支援措置などを講じている。 環境事業団は、このような政策の下、国民の生活環境の維持改善、自然環境の保全及び産業の健全な発展に資する事業を行う法人と位置付けられている。 環境事業団は、企業、地方公共団体等の依頼に応じて公害防止、環境保全のための施設を建設し、長期・低利の割賦支払の条件で譲渡する「建設譲渡事業」を行うほか、企業、地方公共団体等が産業公害防止施設を設置する場合等に必要な資金を長期・低利の条件で融資する「融資事業」を実施している。 なお、これらの事業は、財政投融資資金からの借入金等を原資として行われており、そこから生ずる利息収支の差は、政府交付金により補てんされている。 また、環境事業団は、政府出資金及び民間等からの資金拠出により基金を形成し、その運用収入を原資として、環境保全活動に取り組む内外の民間団体の活動に対して資金の助成等を行う「地球環境基金事業」を実施している。 |
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2 建設譲渡事業 | ||
(1) | 割賦譲渡元金残高の状況 | |
建設譲渡事業については、中小企業、地方公共団体等からの依頼に応じて施設を建設の上譲渡し、これらに要した用地費、工事費等の費用(割賦譲渡元金。平成8年度末現在の残高2,407億円)を割賦で回収している。これを債務者の内訳でみると、回収確実性の高い地方公共団体向けの残高は876億円、一定の回収リスクが見込まれる中小企業等の民間企業向けの残高は1,531億円となっており、後者のシェアが高い。 また、民間企業向けの残高の伸びは、昭和62年度から平成8年度までの10年間で1.5倍となっている。 |
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(2) | 多額の延滞債権等の発生 | |
地方公共団体向けの割賦譲渡元金については、利息の未収、元本償還の延滞等は発生していない。 一方、民間企業向けの割賦譲渡元金について利息未収額をみると、その期末残高は平成5年度末現在の19億円から8年度末現在の64億円に急増している。未収利息の急増は、元本の償還について延滞等の問題が発生していることを示唆しており、建設譲渡事業のリスクは増大化の傾向にある。 平成5年度から8年度における民間企業向けの割賦譲渡元金の償還状況をみると、景気後退に伴う経営環境の悪化等もあって、延滞債権(6か月以上元本の償還が延滞している債権)の割賦譲渡元金残高に占める割合は4パーセントと少ないものの、5年度末現在皆無であったものが8年度末現在で66億円と急増している。 また、利息が未収となっている債権(その9割以上は、債務者の経営状況の悪化等により元本の償還の猶予を受けている。)も、平成5年度末現在の518億円から8年度末現在の660億円に増大している。 さらに、利息は納付されているものの元本の償還が猶予中の債権もある。 このように、延滞債権及び延滞債権に結び付くおそれのある債権は、近年増大する傾向にある。 |
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3 融資事業 | ||
(1) | 貸付金残高の状況 | |
融資事業の平成8年度末現在の貸付金残高は1,922億円となっている。これを債務者の内訳でみると、地方公共団体向けの残高は245億円、民間企業向けの残高は1,677億円と後者のシェアが高い。また、民間企業向け残高は、昭和62年度末現在の1.6倍となっている。 | ||
(2) | 延滞債権等の状況 | |
地方公共団体向けの貸付金については、利息の未収、元本償還の延滞等は発生していない。 一方、民間企業向けの貸付金については、利息未収が生じており、建設譲渡事業における割賦譲渡元金に係る未収利息に比べると額的には小さいものの、未収額の期末残高は平成5年度末現在の2.6億円から8年度末現在の3.3億円に増大している。 平成5年度から8年度における民間企業向けの貸付金元本の償還状況をみると、延滞債権(6か月以上元本の償還が延滞している債権)の貸付金残高に占める割合は2パーセントと少ないものの、5年度末現在19億円であったものが8年度末現在で31億円と1.6倍に増大している。加えて、延滞期間が5年以上と長期化しているものが8億円と平成8年度の延滞債権額の4分の1を占めるに至っており、割賦譲渡元金に比べて債権の回収の困難性が高い面もみられる。 また、利息が未収となっている債権(その約4分の3は、債務者の経営状況の悪化等により元本の償還の猶予を受けている。)も、平成5年度末現在の52億円から8年度末現在の91億円に増大している。 さらに、利息は納付されているものの元本の償還が猶予中の債権もある。 このように、延滞債権及び延滞債権に結び付くおそれのある債権は、建設譲渡事業の場合に比べ、そのウエイトは小さいものの、近年増大する傾向にある。 |
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4 建設譲渡事業及び融資事業の財務運営上の課題 | ||
(1) | 貸倒引当金の状況 | |
環境事業団における貸倒引当金は、建設譲渡事業における割賦譲渡元金と融資事業における貸付金の合計額を対象に一括して計上されている。平成8年度末現在の貸倒引当金計上額は7.7億円であり、これは割賦譲渡元金と貸付金の合計残高の0.184パーセントとなっている。 まず、割賦譲渡元金と貸倒引当金との関係をみると、すべてが将来的に貸倒引当金による償却処理を必要とするものではないが、一定のリスクを内包している延滞債権の額(66億円)は貸倒引当金計上額の8.6倍に達している。 次に貸付金についてみると、延滞債権額(31億円)は貸倒引当金計上額の4倍に達しており、このうち延滞が5年以上に及ぶ長期の延滞債権額8億円すら引き当てられない状況にある。 さらに、これらの延滞債権のほか、延滞債権に結び付くおそれのある債権も相当額存在することに留意する必要がある。 このような状況から、今後、貸倒引当金計上額の充実の検討が必要である。 |
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(2) | 政策効果の確保と債権管理の在り方 | |
割賦譲渡元金及び貸付金については、その回収を確保するため、必要な担保の設定は行われている。ただ、その中には環境保全という政策目的に沿って形成された資産そのものが多く含まれており、債権回収を目的として抵当権を実行することは、政策目的と矛盾する結果を招くこととなりかねない。いずれにせよ、この種の事業に債権の回収リスクが伴うことは避けられず、これを明確に意識しつつ、公的資金の投入額とこれにより生ずる政策効果のバランスを保っていくことが重要である。 このため、譲渡・貸付契約に係る審査の一層の適正化を始めとして、譲渡施設の建設コストの合理化、債権リスクの軽減方策の検討、利息減免など新たな公的コストの負担の検討など、債権のリスクの軽減や政策コストを勘案した債権管理方策の検討を進めていくことが必要である。 |
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5 地球環境基金事業 | ||
地球環境基金事業は、民間団体による環境保全活動への資金の助成等を目的に平成5年度に創設されたものであり、政府出資金及び民間等からの資金拠出により基金を造成(平成8年度末現在の基金額は73億円)し、その運用収入により事業運営に必要な費用を賄うこととされている。 平成8年度における地球環境基金事業の損益の状況をみると、地球環境基金の運用収入は1.8億円にすぎず、事業費7.5億円及び一般管理費2.3億円を賄うまでに至っていない。その不足分8億円は国庫補助金により補てんされており、基金事業であるにもかかわらず、運営の財源を国庫補助金に依存している現状にある。 地球環境基金の運用収入だけで平成8年度並みの費用を賄うためには、8年度の運用利回り及び現行の基金積立てペース(毎年度政府出資金10億円、民間等出えん金8億円)を前提とすると18年間かかることになり、その間の公的資金投入額は250億円と試算される。しかし、仮に、平成8年度並みの公的資金投入額18億円(政府出資金10億円、国庫補助金8億円)の範囲で、本来、政府出資金の積み上げに伴い運用収入が増加した分逓減していくこととなる補助金分をも政府出資金に増額投入した場合、積立期間は15年間で済み、積立て完了後の3年間の運用収入を増額投入の効果とみてこれを控除して考えると、現在のスキームと同じ18年間の公的資金投入額は235億円となり、現行方式より投入効果が高いと試算される。 このように、公的資金の投入方法については見直しの余地があり、今後、より弾力的に国庫補助金依存体質からの脱却に向けた措置の検討が必要である。 |