1 不祥事案処理の的確化
   不祥事案を起こした警察職員に対する懲戒処分は、国家公務員たる警察職員については国家公務員法(昭和22年法律第120号)に基づき、また、地方警察職員については地方公務員法(昭和25年法律第261号)に基づき、それぞれの任命権者が行うこととされている。 このうち、警察庁職員及び都道府県警察(以下「県警察」という。)の警視正以上の階級にある警察官(以下「地方警務官」という。)の懲戒手続等については、「警察庁職員の懲戒の取扱に関する訓令」(昭和29年警察庁訓令第14号)及び「地方警務官の懲戒の取扱に関する規程」(昭和29年国家公安委員会規程第2号)にそれぞれ定められている。また、地方警察職員については、各都道府県の条例で定めるもののほか、各県警察において、上記2規程に準じた関係規程が制定されている。
  (1) 不祥事案に係る処分の適正化・迅速化
     警察庁は、平成11年9月の神奈川県警察における一連の不祥事案において、事案が県警察内部で隠ぺいされ、適切な事案の報告が行われていなかったこと等の反省に基づき、「不祥事案の未然防止と適正な処理について」(平成11年9月9日付け警察庁丙人発第130号・警察庁丙総発第47号警察庁長官官房長通達。以下「官房長通達」という。)により、不祥事案の適正な処理等を図るため、県警察等に対して、不祥事案を認知した場合には、速やかに事実関係を把握し、適正に処理しなければならないこと、その際には、厳正な事件捜査、厳正な懲戒処分等(注)について配意し、警察の事案処理について批判を受けることのないようにすることを指示している。また、「不祥事案対策の徹底について」(平成11年11月13日付け警察庁乙官発第33号警察庁次長通達。以下「次長通達」という。)においても、不祥事案発生時の厳正な事案処理に特に留意するよう求めている。
           
      (注)  「懲戒処分」とは、職員の服務上の義務違反に対して、任命権者が、公務員関係の秩序を維持するために、国家公務員法第82条又は地方公務員法第29条に基づき行う制裁的処分で、免職、停職、減給及び戒告の4種類がある。
 また、規律違反の内容、平素の勤務状況等を考察し、懲戒処分として免職させる程度には至らないが、停職、減給等の処分で警察に留めおくことが適当でないと認められる場合、本人に責めを負わせて辞職させる「諭旨免職」がある。
 なお、懲戒免職の場合は退職金は支給されないが、諭旨免職の場合は自己都合退職として退職金は支給される。これらの「懲戒処分」及び「諭旨免職」のほか、県警察内の措置として、警視総監及び道府県警察本部長による訓戒や注意など「その他の監督上の措置」が採られることがある。
           
     今回、懲戒処分の量定指針や手続等について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     懲戒処分の量定指針等
       13県警察において、平成9年1月から12年3月までの間に認知され警察庁に特異事案(注)として報告された事案のうち、計100件について懲戒処分が行われている。
           
      (注)  警察庁は、懲戒処分、諭旨免職及びその他の監督上の措置を要すると認められるもの並びにその他警察の信頼を失墜すると認められる事案を「特異事案」とし、県警察に対して、これら特異事案を認知する都度、可及的速やかに警察庁に報告するよう指示している。
           
       懲戒処分の量定については、これまで、法令上の基準等は示されておらず、個々の事案について、懲戒処分を実施するかどうか、また、どの程度の量定とするかについては、各任命権者が、懲戒事由に該当すると認められる行為の動機、態様、結果等のほか、当該公務員の処分歴、当該行為が他の公務員及び社会に与える影響等種々の事情を総合的に考慮の上、判断することとされてきた。このため、個々の事案における懲戒処分の実施状況と量定については、事案ごとに異なる事情を考慮した上での懲戒権者の判断に係るものとして、その結果のみを取り出して一律機械的に断ずることは困難であるとされている。
 このため、例えば、自動車による交通事故事案に関しても、減給処分等の懲戒処分が行われているものと行われていないものがある。このように懲戒処分の状況が区々となっている理由としては、1)懲戒処分は、個別事案ごとの事情を総合的に考慮の上判断されるため、結果として処分の有無や量定が異なったものとなったこと、2)懲戒権者ごとに、従前からの事例の蓄積等を踏まえつつ整合的な処分となるよう努めてきたものの、警察職員であれ一般の公務員であれ、そのような懲戒権者による努力を裏付け、判断の参考指針となるような客観的な基準の整理が遅れていたことが挙げられる。
 このうち後者について、人事院は、国家公務員倫理法(平成11年法律第129号)等に違反した場合に係る懲戒処分の基準が定められたことを契機として、平成12年3月に「懲戒処分の指針」(職職一68人事院事務総長通知。以下「人事院懲戒指針」という。)を各省庁に発出し、一般職の国家公務員に関して、公務員倫理に係るもの以外の場合の一般的な非違行為についても、公務外非行や監督責任も含めて、任命権者が懲戒の処分量定を決定するに当たっての指針を示している。
 また、一般の地方公務員についてみると、今回実態を把握した30地方公共団体の中には、客観的かつ厳正な処分の実施のため、懲戒処分等の基準を策定しているものが5団体(2県3市)みられ、この中には、交通事故等に限らず、あらゆる非行行為に係る処分基準を策定している例(1市)がある。 警察庁は、警察職員の規律違反行為に対する基本的な懲戒処分の種類を示すことによって、これを参考として、各任命権者において厳正かつ適正な懲戒権の行使がなされることに資するよう、平成12年9月、警察庁長官(各附属機関の長及び各地方機関の長を含む。)又は警視総監若しくは道府県警察本部長の任命権に係る警察職員を対象とした懲戒処分の指針(以下「警察庁懲戒指針」という。)を制定し、警視総監及び道府県警察本部長(以下「県警察本部長」という。)等に通達した(「懲戒処分の指針の制定について」(平成12年9月20日付け警察庁丙人発第105号警察庁長官官房長通達))。この警察庁懲戒指針が参考として活用されることにより、今後、全国警察における懲戒処分のより厳正かつ迅速な実施に資することが期待されるところである。
 この警察庁懲戒指針の内容をみると、人事院懲戒指針を参考に作成したとされているが、
      1.  国家公安委員会が任免権を有する警察庁長官並びに警視総監、道府県警察本部長及びその他の地方警務官(いずれも一般職の国家公務員)が対象とされておらず、これらの者の懲戒処分に係る基本的な指針等が明確にされていない、
      2.  人事院懲戒指針では、部下職員に対する指導監督の不適正、非違行為の隠ぺい・黙認等監督責任に係る処分の量定が明定されているが、警察庁懲戒指針では、犯罪に係るものを除き基本的な懲戒処分事案の種類として示されていない等の状況がみられる。
       一連の不祥事案においては、地方警務官を含む監督責任の立場にある者による関与や監督責任の在り方等について、国民からの厳しい批判を招いたところである。監督責任という事柄の性格上、一律類型的な処分の量定を示すことが困難であるとしても、不祥事案対策の徹底のためには、これらの職にある者の監督責任について厳しく問うていくという懲戒処分の適用の方針や考え方を明確にすることが重要であると考えられる。
     懲戒審査委員会の運営状況
       神奈川県警察における警察官による覚せい剤使用事案においては、本来必要な懲戒審査委員会への付議等の懲戒手続が行われていなかった。
 官房長通達においては、不祥事案の処理に当たって、厳正な懲戒処分等に配意し、警察の事案処理について批判を受けることのないようにすることを求めている。13県警察では、いずれも各県警察において定められている懲戒関係規程に基づき、規律違反に対する処分案について、県警察本部長からの諮問に応じて審査を行う懲戒審査委員会(県警察本部長又は警務部長を委員長として関係部長等で構成される。)が設置されている。
 懲戒審査委員会に付議することとしている不祥事案の範囲をみると、県警察本部長が同委員会への審査を命ずる場合は懲戒関係規程により「懲戒処分を必要とすると認めるとき」等と規定されていることもあり、懲戒処分を必要とすると認められる事案(以下「懲戒処分相当事案」という。)に限り付議するとしているものが9県警察ある。一方、懲戒審査委員会への付議案件の範囲に、懲戒処分相当事案のみならず諭旨免職相当事案も含めているとしているものが3県警察、懲戒処分及び諭旨免職相当事案に加えて県警察本部長注意等監督上の措置相当事案まで含めているとしているものが1県警察みられる。このように、懲戒審査委員会に付議する不祥事案の範囲を懲戒処分相当事案に限定する必然性は必ずしもないと考えられる。
           
     したがって、国家公安委員会及び警察庁は、不祥事案について適正かつ厳正な懲戒処分等の実施を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  国家公安委員会が任免権を有する地方警務官の懲戒処分等に係る基本的な方針を明確にするとともに、警察庁懲戒指針について、部下職員に対する指導監督の不適正、犯罪に限らない非違行為の隠ぺい・黙認等監督責任に係る処分についての適用関係を明確にするための措置を速やかに講ずること。
    2.  懲戒処分等のより厳正かつ迅速な実施に資するよう、警察庁懲戒指針に基づき、県警察に対し必要な指導等を行うこと。
    3.  懲戒審査委員会に不祥事案を積極的に付議し、その活用を図るよう県警察を指導すること。
           
  (2) 不祥事案の報告の励行
     警察庁は、従前から、要領を定め、特異事案を認知する都度、警察庁に報告を行うよう県警察等に対し指示していたが、官房長通達において、不祥事案の適正な処理等を図るため、県警察等に対して、不祥事案を認知した場合には、速やかに事実関係を把握し、適正に処理すること及び警察庁へ速やかに報告することを指示している。また、次長通達により、職員による不祥事案が発生した場合及び懲戒処分を行う場合等には、都道府県公安委員会(以下「県公安委員会」という。)に対する適時適切な報告を徹底するよう指示している。
 また、警察法(昭和29年法律第162号)第55条においては、地方警察職員の任免について県公安委員会の同意又は意見を聞くことを要することとされ、その懲戒処分についても県公安委員会が勧告権を有することとされている。
           
     今回、県警察から県公安委員会及び警察庁に対する不祥事案の報告内容、報告時期、報告方法等について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     県警察から県公安委員会への報告
      1.  県警察職員の懲戒処分等に際しては、事前に県公安委員会へ報告を行い、その議を経ることにより処分等の適正を客観的に担保することが重要である。
 平成11年度に、13県警察から警察庁に特異事案として報告されたものは計120件である。この120件から県公安委員会への報告状況が不明であった1県警察の12件を除く108件のうち、11件が県公安委員会に報告されていなかった。また、この120件以外に今回当庁が把握した不祥事案が6件あり、これら計126件のうち、懲戒処分又は諭旨免職が行われた事案は87件で、このうち17件(19.5パーセント)が県公安委員会に報告されていなかった。
      2.  各県警察が県公安委員会へ報告することとしている不祥事案の範囲をみると、懲戒処分及び諭旨免職に相当する事案に加えて県警察本部長訓戒及び県警察本部長注意に相当する事案まで幅広く対象としているものが5県警察、懲戒処分及び諭旨免職に加えて県警察本部長訓戒に相当する事案を対象としているものが1県警察、懲戒処分又は諭旨免職に相当する事案を対象としているものが5県警察(このうち、さらに社会的反響の大きい事案も対象としているものが2県警察)、懲戒処分相当事案及び社会的反響の大きい事案を対象としているものが1県警察などとなっている。
 こうした状況については、例えば、懲戒処分とせず県警察本部長訓戒等にとどめた不祥事案は、当該処分等の判断の妥当性を県公安委員会で検証するすべがないこととなるが、実際に、懲戒処分及び諭旨免職に相当する事案に加えて県警察本部長訓戒等に相当する事案まで対象に含めているとしているものが約半数に上ることからみても、報告対象とする不祥事案の範囲の拡大を図る余地があるものと考えられる。
      3.  県公安委員会は合議制の機関であり、県警察から県公安委員会への不祥事案に係る報告案件についても、県公安委員会の委員が一堂に会する会議の場で報告されることが原則であると考えられる。
 しかし、県警察から県公安委員会への不祥事案に係る報告(当初報告の場合)の方法をみると、報告方法が把握できた11県警察の平成11年度の報告事案計95件のうち、県公安委員会の会議の場で報告が行われているものは41件(43.2パーセント。うち資料報告33件、口頭報告8件)、会議前後の委員参集の場で報告されているものが25件(26.3パーセント。うち資料報告2件、口頭報告23件)、電話報告によっているものが29件となっている。また、この29件のうち、11件は電話による当初報告の後に会議で報告しており、18件(95件の18.9パーセント)は電話のみの報告となっている。
      4.  県公安委員会に対する不祥事案報告についての要領の策定状況をみると、13県警察のうち、報告要領を策定しているものが4県警察であり、9県警察においては県公安委員会への報告を義務付ける根拠規程を欠く状況となっている。さらに、これら9県警察のうち5県警察では、当面、報告要領を策定する予定はないが、警察庁から基準が示されれば策定するなどとしている。
 また、報告要領を策定している4県警察においても、県公安委員会への報告期限を要領に盛り込んでいないものがあるほか、報告の対象範囲を懲戒処分相当事案までとしているもの等がある。
     県警察から警察庁への報告
       県警察から警察庁への不祥事案の報告は、警察庁及び国家公安委員会が不祥事案発生の全国的な状況を把握するため最も重要な情報であり、また、一方では県警察における処分の適正性を担保する効果も有している。このため、警察庁は、従前から、懲戒処分及び警察の信頼を失墜すると認められる事案を特異事案とし、これらについて同庁に報告を行うよう県警察に指示してきており、平成11年9月の官房長通達においても、改めて警察庁への速やかな報告を指示している。さらに平成12年1月には、「定期報告要領及び特異事案報告要領について」(平成12年1月20日付け警察庁丙人発第7号警察庁長官官房長通達)により、特異事案として報告する範囲の明確化等を図っている。
 また、警察庁は、特異事案については、県警察に対し、事案が判明次第、書面による報告に先立ち、概要を電話等により速報することを指導している。
 速報期日が把握できた12県警察において、平成11年度の上期と官房長通達が発出された後の下期とで事案の認知から速報までの期間を比較すると、3日以内に速報されたものが上期では62.1パーセントであったものが下期では80.4パーセントとなっており、また、逆に1か月以上要したものが上期で17.2パーセントあったものが下期で7.1パーセントとなっているなど、速報までに要した期間の短縮化がみられる。
     警察署等から県警察への報告
       不祥事案の内部隠ぺい及び報告漏れを防止し、不祥事案の早期発見を促進するためには、不祥事案を起こした者が所属する警察署等のみならず、現行犯逮捕等により警察職員の不祥事案を認知した警察署等から警視庁又は道府県警察本部(以下、総称して「県警察本部」という。)への報告を義務付けることも有効であると考えられる。
 13県警察における警察署等から県警察本部への報告の仕組みをみると、規律違反者の所属する警察署等から県警察本部ヘの報告義務に加えて不祥事案を認知した警察署等からの報告も義務付けているものが4県警察、規律違反者の所属する警察署等からの報告を義務付けているとするものが9県警察となっている。
           
     したがって、警察庁は、不祥事案報告の的確かつ適正な実施を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  県警察から県公安委員会への不祥事案に係る報告について、報告の範囲、報告期限、報告方法等を盛り込んだ標準的な報告要領に係る指針(大綱)を示すこと。
 また、報告要領が未策定の県警察に対してその策定を指導するとともに、報告要領の内容の改善が必要な県警察に対してその改定を指導すること。
 さらに、報告要領に基づき、県公安委員会に対する不祥事案に係る報告を励行するよう県警察を指導すること。
    2.  県警察から警察庁への不祥事案に係る報告のより一層確実・迅速な実施を県警察に対し指導すること。
 また、このため、警察署等から県警察本部への不祥事案に係る報告について、不祥事案を起こした者の所属する警察署等のみならず、不祥事案を認知した警察署等にも県警察本部への報告を義務付けるよう県警察を指導すること。
           
  (3) 不祥事案及び不祥事案関係情報の積極的な公表
     一連の不祥事案に関して、警察に対する国民のかつてない厳しい批判が相次いだ理由の一つには、発生した事案そのものの重大性もさることながら、これら事案の公表が的確に行われなかったケースが続いたことにより、国民の不信感を増幅する結果となったことが挙げられる。また、年間を通じた不祥事案の発生傾向や処分の内容等の情報は、その経年比較等の分析を行うことによって、各種不祥事案対策の有効性を国民が判断するための重要な素材となり得るものであると考えられる。
 警察庁は、不祥事案の公表について、官房長通達により、事実関係を正確に把握した上で不祥事案の発生時における適切な報道対応に努めるよう県警察に対し指示している。また、民間有識者による懇談会形式の「警察刷新会議」が平成12年7月に国家公安委員会に提出した「警察刷新に関する緊急提言」(以下「警察刷新会議提言」という。)においては、情報公開への取組の一環として、懲戒事案の発表の範囲及び内容を明確にして情報の公開を進めていくこと、情報公開について県警察を指導していくことが提言されている。この提言を受けて平成12年8月に国家公安委員会及び警察庁が連名で公表した「警察改革要綱−『警察刷新に関する緊急提言』を受けて−」(以下「警察改革要綱」という。)においても、警察行政の透明性の確保と自浄機能の強化のための情報公開の推進の方策として、懲戒事案の発表基準の明確化と県警察の情報公開に関する指導が盛り込まれている。
           
     今回、不祥事案及び不祥事案関係情報の公表状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     県警察における不祥事案の公表状況
      1.  平成9年から11年までの3年間に13県警察から特異事案として警察庁に報告された計219件のうち、事案別の公表状況が把握できた11県警察において懲戒処分及び諭旨免職が行われた事案113件について、その公表率(事案の概要が公表された件数を特異事案報告件数で除したもの)をみると、3年間の平均で52.2パーセントとなっている。また、11県警察において懲戒処分又は諭旨免職を受けた者についての公表状況をみると、懲戒免職が100パーセント、停職が88.9パーセント、減給が77.1パーセント、戒告が77.1パーセント、諭旨免職が31.6パーセントで、全体の平均は73.3パーセントとなっている。
      2.  不祥事案についての公表基準の策定状況をみると、13県警察中策定しているものはみられない。
 ちなみに、今回実態を把握した30地方公共団体の中には、行政の透明性及び県民・市民の信頼の確保を図ることなどを目的として不祥事案についての公表基準を策定しているものが5団体(3県2市)みられる。これらの団体では、懲戒処分については、その事案の概要、管理職・一般職の別等を原則としてすべて公表することとしているが、さらに、諭旨免職及び分限処分(個人の事由によるものを除く。)についても公表することとしている例(1県)や処分を受けた者の氏名等を市報に掲載する等の措置を講じることとしている例(1市)がある。このような地方公共団体の不祥事案の公表に係る取組の状況からみて、職務内容の差異はあるとしても、各県警察において同様の基準を策定することは可能であると認められる。
     懲戒処分件数等の公表
      1.  警察庁は、これまで、懲戒処分件数及び諭旨免職件数の全国合計数に限り、要求に応じて情報提供を行っているとしている。しかし、警察職員の不祥事案の発生防止のためには、不祥事案の類型ごとの全体件数、主な事案の内容、不祥事案を起こした者の処分状況などの情報を公表することも有効であると考えられる。
 一方、文部省では、教育職員の服務規律の確保や地方教育行政の改善の取組に資する観点から、毎年、各都道府県教育委員会から情報を収集し、懲戒処分、訓告等の監督上の措置及び諭旨免職の件数を都道府県別及び処分の理由等別に公表している。
      2.  警察庁では、犯罪統計規則(昭和40年国家公安委員会規則第4号)に基づき全国の県警察本部から報告された資料を基に、毎年の犯罪発生件数等を公表している。
 この統計において、公務員については、公文書偽造、職権濫用、収賄、背任及び業務上横領の5類型の特定罪種に係る自衛官、教員、その他の公務員等の区分別の犯罪件数が公表されている。
 このうち警察関係(警察官及び職員)の犯罪件数については、平成7年までは公表対象であったものが、統計事務の合理化等を理由として、8年以降は公表されていない。しかしながら、i )防衛庁関係(自衛官及びその他)、文部省関係(教官及びその他)、教育関係(教員及びその他)等の犯罪件数は依然として公表されていること、ii )地方公務員中、警察職員は教育関係職員に次いで大きな職域をなしていること、iii)警察官が犯罪取締りについて特別の職責と職務権限を有していること、iv)犯罪統計原票上は引き続き犯行時の職業名の記入が行われており、その公表は集計作業の問題にすぎないことに加えて、v )警察職員に係る不祥事案が引き続き発生している状況の下で警察組織全体に係る不祥事案についての一層の情報公開への取組が要請されていることから、犯罪統計においても警察関係の犯罪件数を公表しないこととする合理的な理由はないものと考えられる。
           
       したがって、警察庁は、不祥事案に係る処分の透明性の確保等を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
      1.  不祥事案の公表について、標準的な公表基準に係る指針(大綱)を示すとともに、これに基づく基準の策定を県警察に対し指導すること。
 また、この指針の内容として、懲戒免職事案はすべての案件につき公表を義務付けること並びにその他の懲戒処分及び諭旨免職の事案については職務執行に関連する行為及び私的な行為であっても重大なものは原則として公表すること等を盛り込むこと。
      2.  警察職員に係る不祥事案についての情報公開を進める観点から、警察職員の年間不祥事案件数や処分の概要を公表するとともに、警察職員に係る年間特定罪種別犯罪件数の公表を復活させること。
           
  (4) 不祥事案対策に係る監察機能の充実強化
     各警察組織は、警察運営の実態を具体的に把握するとともに警察職員の服務の実情を明らかにし、警察の組織的かつ能率的な運営及び警察規律の振粛に資することを目的として内部監察の仕組みを設けている。警察庁では長官官房の首席監察官及び人事課において、管区警察局では総務部の監察官及び警務課において、また、各県警察では首席監察官室等においてそれぞれ監察が実施されている。
 このような警察における監察機能は、不祥事案の発生時においては、迅速、的確かつ厳格な実態の解明を行うこと等により、事案を的確に処理する役割を果たすとともに、通常時においても、業務運営や服務状況の監察を通じて、不祥事案の未然防止のための手段となっている。
 警察庁は、不祥事案の頻発を受けて、県警察本部長等に対し、平成11年11月の次長通達により「監察担当者の実務能力の向上に努める」こと等を指示している。また、国家公安委員会では、新たに監察に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第2号)を制定し、監察実施計画の作成等の基本的事項を定めている。
           
     今回、監察担当者への研修の実施状況及び監察結果の公表状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     監察担当者への研修等の実施状況
       監察担当者に対して、実効ある監察を可能とするための心構えや監察実務に関する知識、技能等に対する研修を実施するため、管区警察局では、平成8年度から、各管内で発生した事例等に基づいて不祥事案の発生時における適切な措置や対策についての検討を行う監察実戦塾を実施し、警察庁本庁及び管区警察局の監察担当者と管内各県警察の監察担当者を参集させ、議論・検討を行わせている。また、警察庁では、平成12年度から、新たに管区警察局及び県警察の警視クラスの監察担当者に対して監察業務管理運営専科を実施し、事例研究を行わせている。
 しかし、監察実戦塾の対象者を県警察の監察官クラス以上としており、県警察の課長補佐以下の実務担当者に対する研修の機会が確保されていないものが3管区警察局(関東、中部及び九州)ある。また、各県警察が自ら実施する研修の実施状況をみると、13県警察中6県警察では実施されておらず、次長通達による指示があるにもかかわらず、県警察での監察の実務能力向上のための取組が積極的に行われているとは認め難い。特に、このうち4県警察の監察担当の課長補佐以下の職員は、管轄の管区警察局においてもこれらの者を対象とする研修が行われておらず、監察実務能力の向上のための研修を受ける機会が全くないものとなっている。
 なお、関東管区警察局は、平成12年度から、これまでの監察官クラスまでを対象とした監察実戦塾に加え、新たに、課長補佐及び係長を対象とした監察実戦塾を実施する予定であるとしている。
     監察結果の公表状況
       警察庁・管区警察局及び13県警察の実施した監察結果の公表状況についてみると、警察庁・管区警察局が実施した特別監察に係る取りまとめ資料を警察庁が平成12年に公表した等の例はあるが、それ以外については、県警察による実施分を含め、監察結果の公表が行われた例はない。これについて警察庁では、内部的な業務にかかわることであり、また、公表を求める社会的な要請もなかったことをその理由としている。
 管区警察局が実施した服務一般の監察の中には、収賄事件を契機として「利害関係者との接触規制状況」について監察を実施したもの(東北管区警察局)や部外者との不適切な交際事案を契機として「部外交際の実態」について監察を実施したもの(中国管区警察局)がみられるが、これらについても結果の公表は行われていない。
 しかし、警察刷新会議提言を踏まえると、不祥事案対策に関する監察の結果について、捜査手法や内容を知らせるなどにより、現在又は将来の犯罪の予防、鎮圧又は捜査に支障を及ぼすおそれがある部分等を除き、平成13年度から国の機関において実施される情報公開制度の趣旨に沿って公表することが重要になると考えられる。
 なお、監察に関する規則に基づき、本年4月から、警察庁は国家公安委員会に対し、また、県警察は県公安委員会に対し、四半期ごとに少なくとも1回、監察の実施の状況を報告することとされている。
           
     したがって、警察庁は、監察機能の一層の充実強化及び警察行政の透明性の確保に資する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
   

1.

 管区警察局において、実務担当者を含む県警察の監察担当者を対象とした監察実務に関する研修を実施すること。また、県警察に対し、自ら監察担当者に対する研修を実施するよう指導すること。
    2.  職員の不祥事案対策に関する監察結果を積極的に公表すること。また、県警察に対しても、不祥事案対策に関する監察結果の積極的な公表を指導すること。
           
  (5) その他
     警察組織は警察官の階級制を基礎として編制されており、警察官が巡査部長以上に昇任するためには、基本的に昇任試験に合格することが必要となっている。このため、警察関係者を主たる購読者とする複数の専門紙誌等において、警察官の昇任試験問題とその解答例が継続的に掲載されており、全国の警察官に一定の読者を得ている。
 これに関しては、日刊専門紙に掲載された警察官の昇任試験の問題とその解答について、平成11年及び12年に国会での質疑でも取り上げられたことがある。その趣旨は、解答例の一部が警察の秘密主義を助長する内容となっており、警察は試験を通じて身内に甘い体質や秘密主義を育成しているのではないかと指摘するものであった。
           
     今回、本調査に関連してこの問題について実態を把握したところ、次のような状況がみられた。
    1.  同紙の出版社は、解答例については、作成過程において確認が必要な箇所があれば警察関係者に意見を求める場合もあるが、基本的には同社が主体となって作成しており、また、あくまで正解ではなく解答「例」として掲載しているものであるとしている。
    2.  警察庁では、上記の国会質疑を受けて、平成11年9月に同社に対し、解答例の作成に当たっては、警察が秘密体質を持っているかのごとき誤解を招かぬよう内容について十分検討するとともに、警察が同社の解答作成に関与しているとの誤解を与えないよう、解答例を記載する場合には、文責が同社にあることを明記することについて口頭で申入れを行っている。この申入れに基づき、同社は、それ以降、解答例の文末に文責は同社にある旨を表記している。
 なお、警察庁は、昇任試験の問題と解答例を掲載している他の出版社に対しても、同時期に同様の趣旨の口頭申入れを行っている。
    3.  しかしながら、同社の対外資料には、依然として、「警察の各級昇任試験問題を、正しい解答を付して報道」、「出題の解答は、警察当局の権威ある責任者の極めて懇切な解説」との記述がみられる。
           
     したがって、警察庁は、警察官の各級昇任試験の問題と解答を掲載している専門紙誌等の出版社に対して、今後とも警察の関与について一切誤解を生じさせることがないよう、表記の訂正等について一層の徹底を要請する必要がある。
           
2 不祥事案の未然防止対策の適切な実施
   不祥事案の発生を防止するため最も重要かつ基本的な対策は、問題兆候を早期に発見し、適切な措置を講ずることにより不祥事案に発展することを未然に防止することである。
 また、官房長通達が明確に指摘するとおり、不祥事案発生の最大の原因は、「基本的には職業倫理意識の欠如」にある。不祥事案の発生防止のためには、職員一人ひとりが警察職員としての誇りと高い倫理意識を持って、職務に精励するようにすることが肝要であり、そのために「警察は国民のためにある」との基本理念に立った職務倫理教養の徹底が求められる。
           
  (1) 不祥事案の前兆の的確な把握等
     不祥事案の兆候や不祥事案を早期に認知する主な方法としては、警察の内部において日常業務等を通じて行う身上監督(上司が部下の公私にわたる身上実態を把握し、必要に応じて指導を行うこと)や一般市民からの情報提供がある。
 また、不祥事案には、証拠品の不適正な持ち出しや捜査上の個人情報の漏えい等の事案が少なからずみられることから、証拠品や捜査上の個人情報の保管管理の徹底も、不祥事案の未然防止のための重要な対策の一つである。
 警察庁は、これらの点に関し、官房長通達において、「最近の不祥事案をみると一部関係者は事前に何らかの問題兆候を把握しているにもかかわらず、これらの情報が組織として把握されることなく、不祥事案に発展している。各級幹部は部下職員に対する的確な身上把握に努め、早期に問題兆候をつかみ、職員に対する必要な措置を講じるなど不祥事案の未然防止に努めること」として身上把握の徹底を指示し、また、「不祥事案の中には、平素から幹部による業務管理が的確になされていたら防ぎ得た事案も数多く認められる。各級幹部はそれぞれの段階でのきめ細かなチェック機能を十分に発揮し、適正な業務管理に努めなければならない。特に証拠品については、基本を厳守し、適正な保管管理を図ること」として業務管理の徹底を指示している。
           
     今回、警察内部における不祥事案の前兆や不祥事案の早期把握のための対策、一般市民からの県警察に寄せられた苦情への対応、証拠品及び捜査上の個人情報の保管管理に関して講じられた措置の状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     問題兆候や不祥事案の早期把握
      1.  平成9年度から11年度の3年間に発生した懲戒処分等を伴う不祥事案で13県警察から警察庁に報告されたものは計137件(発生日及び認知日が把握できた事案に限る。)となっている。これら不祥事案137件について、事案が発生してから県警察本部が認知するまでの期間をみると、平均日数は17.0日となっているが、発生から3日以内に認知された事案の比率が78.1パーセントを占めている。
 しかし、発生から認知までに31日以上を要している事案が14件(10.2パーセント)あり、その中には100日以上の長期間を要している事案が2県警察で4件みられる。このような事案について、発生から認知までに長期間を要した原因の分析を行うことにより、不祥事案の早期把握等のための方策を講ずることが重要であるものと考えられる。
      2.  警察庁は、平成10年以降、11年9月の官房長通達を含め、3度にわたり身上監督の徹底について通達を発出しているが、いずれも身上監督の方法等に関する具体的な指示は含まれておらず、その結果、身上監督の具体的な手法については各県警察等にゆだねられている。
 官房長通達を受けた13県警察の措置状況をみると、個別面接の実施による身上実態の把握や身上指導実施要領の作成など具体的な措置を講じているものがある一方、幹部会議等での同通達の趣旨の徹底を指示するのみにとどまっているもの、職務倫理教養の実施をもって措置に代えているものなどがみられる。また、今回実態を把握した警察署においては、個々に面接等を実施しているものがある一方、定例の会議等において同通達の趣旨の徹底を図るにとどまっているものなどがみられる。
     

3.

 最近の不祥事案をみても、警察署の留置場において特定の被留置者にたばこや飲食物を提供していたことが3か月も認知されなかった例や、証拠品の紛失を担当官が知りながら上司に報告しなかった例など、組織的な対応が行われていれば不祥事案を早期に把握し得たと考えられる事案がみられる。
     職務執行に関する苦情への対応状況
      1.  各県警察においては、県警察本部及び警察署単位に、警察行政の全般に関する総合的な相談窓口(以下「総合相談窓口」という。)や家出人、少年、交通事故などに関する専門的な相談窓口を設け、一般市民からの各種相談等に応じている。これらの窓口には、警察官の職務執行に係る苦情の申出がなされる場合があり、警察庁では、このような場合には、関係部門に引き継がれるとしている。
           
        (注)  警察業務においては、「相談」とは、国民が日頃から不安に感じているストーカー行為、少年非行問題等の相談に対して、指導助言、防犯対策、警告等の措置を講じ、主として犯罪等による被害の未然防止活動を行う「相談業務」を指し、「苦情」とは、警察職員の職務執行及びこれに伴う言動や非行について、投書、口頭、電話等により国民から申立てのあったものを指すとされている。
         
         13県警察のうち、平成11年に監察110番等(監察官室に「監察110番」等の名称を付して設置された警察職員の職務執行等に関する専門相談窓口を指す。以下「監察110番等」という。)を開設しているのは5県警察のみとなっている。
 これら監察110番等の5窓口及び総合相談窓口のうち、受付処理件数が把握できた計10窓口における平成11年の警察職員の非行等に関する苦情の受付件数をみると、総合相談窓口においては10窓口で計630件(受付総件数3万1,534件の2.0パーセント)であるのに対し、監察110番等においては5窓口で計674件(同1万1,235件の6.0パーセント)となっている。また、県警察ごとにこれをみても、総合相談窓口と監察110番等の双方の受付件数が把握できた3県警察において、警察職員の非行等に関する事案の受付件数はいずれも監察110番等の方が多い。
      2.  受け付けた苦情事案を的確かつ適切に処理するとともに、処理についての責任の所在を明確にするためには、受付事案の取扱いに係る規程等において、苦情の処理手順や手続等が明確にされていることが重要である。13県警察本部が開設している受付窓口計20窓口(うち、監察110番5窓口、総合相談窓口15窓口)について、受け付けた苦情に係る取扱規程等の有無をみると、1窓口を除いて規程を定めている。
 また、19窓口について定められている計18の規程の内容をみると、そのうち14規程については、事案の適正な処理の観点から必要と考えられる事項がおおむね盛り込まれているが、残りの4規程については、全般的な処理手順・手続が規定されていないものが2規程、処理方針の決定者、処理の最終決定者及び処理結果の内部報告手続が規定されていないものが1規程、申出人への報告・回答手続が規定されていないものが2規程となっている。
 なお、警察官の職務執行に係る苦情処理については、警察刷新会議提言が、個々の警察官に職責への自覚を促す観点から、窓口を担当する職員とその責任者が名札を着用することを提言している。この提言は、警察改革要綱に盛り込まれ、警察庁は、その具体化方策として、平成12年10月、官房長の通達により、窓口職員等の名札着用を13年6月から実施するよう県警察に対して指示している。
     証拠品及び捜査上の個人情報の保管管理
       証拠品及び捜査上の個人情報の適切な保管管理については、その所管部門自らが点検を行うことはもとより、同点検結果を県警察本部に報告させたり、監察において県警察本部が保管管理の状況をチェックするなど、当事者以外の者による監督を実施することが有効な手段になり得るものと考えられる。
 官房長通達を受けて、証拠品及び捜査上の個人情報の保管管理について13県警察が講じた措置の内容は、以下のとおりであるが、官房長通達以降も証拠品及び捜査上の個人情報に関する不祥事案が少なからずみられる。
 各県警察とも、証拠品の保管管理は規程や要領等に基づき実施しているとしているが、県警察本部における管内警察署の証拠品の保管管理についての確認状況をみると、監察の際に証拠品の管理状況を確認しているとするものが10県警察、運用状況を定期的に報告させているとするものが2県警察、巡回業務指導を実施しているとするものが13県警察となっている。
 また、各県警察とも、捜査上の個人情報の保管管理は規程や要領等に基づき実施しているとしているが、県警察本部における管内警察署の捜査上の個人情報の保管管理に関する確認状況をみると、監察の際にその状況を確認しているとするものが12県警察、運用状況を定期的に報告させているとするものが2県警察、巡回業務指導を実施しているとするものが8県警察となっている。
           
     したがって、警察庁は、不祥事案の未然防止の徹底を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  身上監督を効果的に実施するため、身上監督の実施方法についての標準的な要領等を作成して県警察に示し、これに基づく身上監督を行うよう県警察を指導すること。
    2.  警察職員の職務執行等に関する専門の苦情申出窓口を設置していない県警察に対し、専門窓口を設置すること等により苦情を受け付ける窓口を明確にするとともに、同窓口の一般市民への周知を図るよう指導すること。
    3.  苦情事案の確実な処理を図るため、苦情の処理に係る要領を作成していない県警察に対して要領の作成を指導するとともに、既に要領を作成している県警察に対して苦情の申出人への回答の義務付けを盛り込むなど要領の見直しと改善を指導すること。
    4.  証拠品及び捜査上の個人情報が適正に保管管理されるよう、管内警察署等に対する巡回業務指導の定期的な実施の徹底、監察等の活用等について県警察を指導すること。
           
  (2) 職務倫理教養の充実
     警察官には、法令に基づき、逮捕、武器の使用等の権限が与えられており、また、自らの判断と責任で緊急に事案を処理しなければならない場合も多い。このため、警察官の服務・職務倫理については厳正な遵守・保持が求められており、警察法第5条第1項に基づき国家公安委員会が統轄する警察教養(注)において行われている警察官の職務倫理の涵養は、警察行政において極めて重要な位置を占めている。
           
      (注)  警察職員の教育訓練・研修は「教養」と呼ばれている。
           
     警察教養は、その実施方法により、学校教養と職場教養に区分され、そのうち学校教養に関しては、警視庁警察学校及び道府県警察学校(以下「県警察学校」という。)における教育訓練に要する経費についても、警察法第37条に基づき国庫がその全額を直接支弁することとされている。
 学校教養を実施する機関としては、警察庁に附置される警察大学校、管区警察局に附置される管区警察学校、県警察の機関である県警察学校が設置されており、警察大学校が警部以上の上級幹部として必要な教育訓練を、管区警察学校及び道警察学校(北海道においては管区警察学校が置かれておらず、道警察学校がその任務を併せ担っているため、以下、管区警察学校及び道警察学校を合わせて「管区警察学校等」という。)が幹部として必要な教育訓練その他所要の教育訓練を、また県警察学校が警察官として採用された者に対する教育訓練その他所要の教育訓練を行うこととされている(以下、警察大学校、管区警察学校及び県警察学校を総称して「各級警察学校」という。)。
 各級警察学校には、警察官の階級、職、経験等の違いに応じた各種の課程が設けられており、職務倫理に関する教養は、県警察学校の「初任科」及び「初任総合科」、管区警察学校の「巡査部長任用科」及び「警部補任用科」、警察大学校の「警部任用科」、「警察運営科」及び「初任幹部科」等の全課程においてそれぞれ実施することとされている(以下、巡査部長任用科、警部補任用科及び警部任用科を総称して「昇任時教養課程」という。)。
 各級警察学校における課程別のカリキュラム(科目別教養時間数)については、警察庁が基準を示しており、各級警察学校は、この基準に基づいて科目別の教養時間数を設定することとされている。
 警察庁は、次長通達により、組織の根幹を担う幹部としての行動規範について再認識させるため、各級幹部に対して、管理者としての必要な基本的心構え、各業務運営に当たって把握すべき基本的事項等の教養を徹底することを、また、官房長通達により、不祥事案発生の最大の原因は、「基本的には職業倫理意識の欠如」であるとし、「あらゆる機会を通じて職業倫理教養の徹底を図る」ことを指示している。
           
     今回、学校教養における職務倫理教養の実施、長期未入校者に対する対策及び幹部教養の実施の状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     学校教養における職務倫理教養の充実
       警察官の職務倫理の涵養を図る上で、学校教養における職務倫理教養は根幹をなすものである。警察刷新会議提言においても、警察の精強な執行力の確保のため、現場の中核である警部補についてその適切な教育、配置、運用が必要であるとされるとともに、各級警察幹部の昇任時教育期間を延長すること等が重要であるとされている。
      (ア)  昇任時における学校教養の実施状況
        1.  現行の学校教養のカリキュラムの基準(望ましい標準的な時間数として示されているもの)は、平成5年に改定されたものであり、警部補等の定数拡大による昇任時教養の対象者の増加に伴い、昇任時教養の各課程の総時間数は、いずれも改定前に比べ大幅に減じられている。このため、昇任時教養課程において職務倫理教養が行われる科目の時間数は、巡査部長任用科の「基本実務」が42時間から30時間へ(28.6パーセント減)、警部補任用科の「基本実務」が70時間から30時間へ(57.1パーセント減)、また警部任用科の「訓育」が200時間から16時間へ(92.0パーセント減)と、それぞれ減少している。
 なお、警察庁は、平成12年10月に、13年度から教養の内容をより充実する方針を明らかにしている。
 一方、カリキュラム基準が改定された平成5年以降、警察官による不祥事案が年を追うごとに増加(警察職員の懲戒処分者数は、平成6年の87人が11年に276人へと増加)してきている。
        2.  各管区警察学校等の昇任時教養課程の平成12年度計画における職務倫理教養の時間数をみると、巡査部長任用科については、最長は東北管区警察学校の17時間、最短は四国管区警察学校の12時間となっている。また、警部補任用科については、最長は中部管区警察学校の27時間、最短は四国管区警察学校及び関東管区警察学校の16時間となっている。
 また、官房長通達において、「職業倫理教養の徹底」が示達されたことに関連し、平成11年度実績と12年度計画における職務倫理教養の平均実施時間数をみると、巡査部長任用科では平成11年度実績14時間から12年度計画15時間へ、警部補任用科では同じく20時間から22時間へと、それぞれ微増している。また、配分時間数の増加により職務倫理教養の充実を図ることとしているのは、8管区警察学校等中、巡査部長任用科では2管区警察学校等(東北及び中国)、警部補任用科では4管区警察学校等(東北、中部、近畿及び中国)であり、逆に、近畿管区警察学校においては、巡査部長任用科における時間数を17時間から15時間へ減少させることとしている。
        3.  職務倫理教養において、警察組織の外部から講師を招へいすることは、不祥事案に関し警察内部の通念とは異なる視点を受講者に与え、また、警察の在り方等に関する一般の見方に直接触れる機会ともなる点で重要な意義を有する。
 しかし、平成11年度に実施された昇任時教養課程における職務倫理教養について外部講師の招へい状況をみると、8管区警察学校等のうち、巡査部長任用科では3管区警察学校等(東北、近畿及び四国)が、警部補任用科では2管区警察学校等(関東及び四国)がこれを招へいしていない。さらに、平成12年度においても8管区警察学校等における両任用科計16課程のうち、3管区警察学校等(関東、近畿及び四国)における4課程では、外部講師を活用する計画を有していない。
        4.  不祥事案の再発防止等のためには、現実に発生した不祥事案の事例に即した教育・研修が重要であり、各不祥事案を系統的に収集し、その体系的かつ横断的な分析を通して発生原因や改善方策についての解説を加えたものを教材として使用することが有効である。
 しかし、管区警察学校等における事例研究の教材をみると、8管区警察学校等中2管区警察学校等において新聞記事の切り抜きのみとなっている。
 また、これらの記事の内容をみても、個人的な窃盗事例など警察官の職務に関連しない不祥事案を取り扱っているものが多いなど事例の選択についても改善の余地がみられる。
 なお、警察庁は、このような状況にかんがみ、平成12年における警察教養の重点事項として、効果的な学校教養を推進するため、外部講師の導入や効果的な教養実施のための工夫等を求めている。
        5.  平成9年1月から12年3月までの間に、各県警察から警察庁に報告された事案に係る懲戒処分及び諭旨免職を受けた警察官計382人(監督責任に伴うものを除く。)を年代・階級別にみると、40歳以上の警部補及び巡査部長が168人と全体の44.0パーセントを占めている。この年代・階級の警察官が、警察組織において人員規模で中核を占めていることや現場幹部警察官として重要な職責を担っていることにかんがみれば、これらの者に対する職務倫理教養が十全に実施されることが重要である。
 警察法上、警察職員に対して幹部として必要な教育訓練は、管区警察学校等において行われることとされているが、警察教養細則(昭和29年警察庁訓令第7号)により、警部補又は巡査部長昇任者(昇任予定者を含む。)については、同細則で規定されている管区警察学校等の警部補任用科又は巡査部長任用科を履修する者を除き、県警察学校において行うこととされている。
 警察庁では、「警視庁警察学校及び道府県警察学校における新任警部補及び巡査部長に対する教養の実施について」(平成5年4月1日付け警察庁丙教発第75号警察庁警務局長通達)を発出し、県警察学校における警部補任用科及び巡査部長任用科の教養の実施基準を県警察学校に指示している。
 また、この通達の運用に当たり、警察庁は、警部補任用科は46歳以上の者、巡査部長任用科は41歳以上の者を県警察学校における教養の対象者とするよう別途指示しており、県警察学校が警部補及び巡査部長への昇任時教養の大きな役割を担っている。平成11年度には、警部補任用科では全対象者約5,200人の約3分の1(約1,800人)、巡査部長任用科では全対象者約5,700人の約4分の1(約1,400人)が県警察学校で昇任時教養を受けている。
 管区警察学校等と県警察学校における両課程の基準時間数をみると、巡査部長任用科では管区警察学校等の160時間に対し県警察学校は40時間、警部補任用科では管区警察学校等の200時間に対し県警察学校は40時間となっている。さらに、このうち職務倫理教養が行われる「基本実務」の時間数は、両課程とも管区警察学校等の30時間に対し県警察学校は14時間と、県警察学校の時間数は管区警察学校等の時間数に比べ大幅に減じられている。
 幹部警察官に対しては各県警察のみでは行い得ない広い視野に立った教養を行うことに意義があることや、両課程の教養の実施について管区警察学校等が受講者・時間数共により多くの経験を有していることにかんがみれば、幹部警察官に対する教養は、できる限り管区警察学校等において実施されることが望ましい。さらに、限られた配分時間数において職務倫理教養の実効を一層上げていく観点からは、指導上の工夫の実例を全国的に共有していく仕組みを設けることが有効であると考えられる。
      (イ)  採用時における学校教養の実施状況
        1.  県警察学校における採用時教養課程の初任科及び初任総合科は、採用者の学歴により長期課程(高等学校卒業者対象)及び短期課程(大学卒業者対象)に区分されている。
 警察庁が県警察学校に示している採用時教養課程の教養時間数の平成11年基準は、長期課程が総時間数2,040時間で、このうち科目区分としての「訓育」(訓育及び一般教養等を含み、警察庁の説明によれば職務倫理教養に最も対応する科目区分とされている。)が272時間、短期課程が総時間数が1,280時間で、このうち「訓育」が68時間となっている。
 この基準時間数と県警察学校における長期課程の平成12年度計画による「訓育」の実施予定時間数を比較すると、13県警察学校のうち、基準以上となっているものが7県警察学校、基準を下回っているものが6県警察学校となっており、中には基準の約6割となっている県警察学校もみられる。
 また、短期課程では、13県警察学校のうち、基準以上となっているものが11県警察学校、基準を下回っているものが1県警察学校となっている。
        2.  他方、科目区分としての「訓育」に限らず、他の科目を含めた課程全体における職務倫理教養の実施内容をみると、長期課程及び短期課程の両者について、平成11年度に外部講師活用の実績があり、かつ、12年度も活用する予定があるものは、13県警察学校中6県警察学校となっている。また、事例研究はすべての県警察学校で実施されているが、新聞記事の切り抜き等による教材で扱う事例については、それぞれの講師まかせとしているものがほとんどである。
     長期未入校者に対する措置状況
       学校教養における職務倫理教養は、主に採用時教養及び昇任時教養において実施されるが、昇任試験を受験しない者や受験しても合格しない者などは、管区警察学校等に入校する機会がなく、長期間にわたり学校教養を受けないこととなる。
 警察庁は、これら長期未入校者への教養を徹底するため、「長期未入校者に対する教養の徹底について」(平成11年4月2日付け警察庁丙教発第60号・警察庁丙人発第49号警察庁長官官房長通達)を各県警察本部長あてに発出し、長期未入校者に対して教養を実施するよう指示している。
 同通達においては、当面、教養の対象者を10年以上の長期未入校者としているが、警察庁は、警部以上の階級の者は対象外とするよう口頭で指示を行っている。
      1.  13県警察における10年以上教養未実施の長期未入校者数の状況をみると、平成10年度末の12,743人(勤続10年以上の職員数の13.0パーセント。データが把握されていない1県警察を除く。)から大幅に減少しているものの、11年度末時点で3,222人(同3.3パーセント)となっている。
      2.  また、上記通達においては、長期未入校者を警察学校に積極的に入校させるとともに、専らこれらの者を対象とする専科教養及び研修を実施するよう指示しているが、各県警察における教養の実施状況をみると、学校教養として実施しているものが8県警察、学校教養と職場教養を併用しているものが3県警察、職場教養のみで実施しているものが2県警察となっている。この結果、13県警察における平成11年度の受講者数は、学校教養が6,976人、職場教養が8,368人となっている。
 さらに、同通達では、当面、未入校期間が10年以上の者を対象としているが、県警察における措置の状況をみると、5年以上の未入校者や8年以上の未入校者を学校教養の対象とするなど、通達における指導の内容よりも充実した教養を実施している県警察がある一方、巡査部長及び巡査長に対象を絞るなど通達の趣旨に合致していない例もみられる。
      3.  同通達に定める教養期間は1日間であり、「職務倫理」は必須項目とされているものの、その時間は1時限(80分)とされている。教養目的は異なるとしても、管区警察学校等において行われる昇任時教養課程における「基本実務」(訓育等)について警察庁が定める基準時間数が、巡査部長任用科、警部補任用科ともに30時間とされていることと比較して、長期未入校者に対する職務倫理教養の基準時間数は極めて少ないものとなっている。
 13県警察が平成11年度に行った長期未入校者に対する教養 の実施状況をみると、2県警察で行われた2研修では、この 基準を下回る短時間(1県警察は職場教養50分、1県警察は 学校教養60分)となっている。
     幹部教養の実施状況
      1.  警察庁は、現在、警察大学校において、全国の警察署長及び県警察本部の課長等(以下「所属長」という。)に就任する予定の者を対象とした「警察運営科」を実施し、管理者として必要な組織運営等に関する内容に重点を置いた教養を行っている。また、次長通達を受け、平成12年1月12日から14日までの3日間に、県警察本部長就任予定者16人に対し、組織管理者としての基本的な心構えや各種業務運営に当たって把握すべき事項等の教養を目的とする「組織管理者研修」を自ら実施するとともに、新任の所属長を対象として同様の幹部教養を実施するよう各県警察本部長に指示している。
 13県警察における平成11年度の新任所属長等への幹部教養(副署長、県警察本部の課の次長級を含む。)の実施状況をみると、すべての県警察で幹部教養が実施されており、計27研修の実施1回当たりの平均時間数は6時間22分となっているが、実施時間数が平均時間数の半分に満たないものが5研修あり、その中には実施時間数1時間となっているものもある。
 また、新任所属長に対する研修を含む幹部教養は、13県警察で計54研修実施されているが、そのうち内容が把握できた46研修についてみると、外部講師を招へいしているものは10研修(21.7パーセント)、教材を用いているものは6研修(13.0パーセント)にとどまっている。また、新任者のみを幹部教養の対象としており、現任者を対象とした教養を実施していない例が3県警察でみられる。
      2.  官房長通達において指示されているとおり、部下職員に対する的確な身上監督を行うことは幹部警察官の重要な責務である。全国の所属長就任予定者に対しては、警察大学校の実施する警察運営科において、身上監督に関する教養が実施されているが、各県警察にあっても、各級幹部に対して身上監督の具体的な方法を修得させることが重要となっている。
 しかしながら、平成11年度に13県警察が実施した幹部教養における身上監督に関する教養の実施の状況をみると、実施していないものが7県警察ある。身上監督に関する教養を実施している6県警察についても、6時間を費やして技術的な指導や事例研究を行っているものがみられる一方、実施時間が30分間であり、教材を用いず事例研究も行っていないものがみられる。
 また、幹部教養において身上監督に関する教養を行っていない7県警察のうち、当該県警察では身上監督の方法を修得させるための他の方策を講じていないとするものが3県警察ある。また、残りの4県警察では、幹部教養以外の方法により身上監督の方法を修得させているとしているが、その方法としては各種会議での伝達等によっているものが多く、身上監督の具体的な方法を修得するためには十分なものとなっていない。
 なお、平成9年1月から12年3月までの間の警察官の懲戒処分等の状況をみると、監督責任による処分者等の数は152人で、全体(534人)の28.5パーセントを占めている。
           
     したがって、警察庁は、警察教養の充実・強化を通じ、不祥事案未然防止の徹底を図る観点から、同教養が真に不祥事案の未然防止に寄与するものとなるよう、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  学校教養の各級課程のカリキュラム基準を速やかに改定し、職務倫理に係る教養科目の基準時間数の増加を図るとともに、外部講師の一層の活用、教材の充実など、より効果的に教養を実施するための方策を明記すること。
 また、改定したカリキュラム基準に沿って、管区警察学校等が実施する昇任時教養課程について内容の充実を図るとともに、県警察学校が実施する教養課程の充実について県警察を指導すること。
    2.  昇任時教養課程の県警察学校における実施分を計画的に縮小していくための措置を講ずること。また、県警察学校において昇任時教養を実施する場合であっても、管区警察学校等における昇任時教養と比べ、職務倫理教養の時間数を遜色ないものとすることなど、その実施内容の改善を計画的に進めるための措置を講ずるよう県警察を指導すること。
    3.  管区警察学校等の昇任時教養課程の実施状況や不祥事案の発生状況を踏まえ、長期未入校者に対する教養の実施基準の見直しを行い、教養内容の充実・強化を図ること。
 また、10年以上の未入校者については、全員を教養の対象とするよう県警察を指導すること。
 さらに、県警察に対し、長期未入校者に対する教養はできる限り学校教養として実施するとともに、長期未入校者が発生しないよう常時教養管理の徹底について指導すること。
    4.  各級幹部教養の実施に当たっては、新任幹部に対するもののみならず、現任所属長等に対する幹部教養についても教養時間を増加させるなど教養内容を充実させるとともに、身上監督の具体的な方法の修得に関する教養カリキュラムを設けることについて県警察を指導すること。
           
3 特別監察の厳正な実施
   警察庁は、平成11年11月の次長通達により、県警察本部による警察署等に対する特別監察及び警察庁・管区警察局による県警察に対する特別監察の随時実施について示達している。
 警察庁・管区警察局が実施する特別監察は、プロジェクトチームを編成し、官房長通達、次長通達等により示された「業務管理の徹底」、「職業倫理教養の徹底」、「県公安委員会に対する適切な報告」等8項目の不祥事案再発防止対策の実施状況について、県警察本部及び警察署における取組状況を把握するものである。
 特別監察は、警視庁、大阪府警察など11県警察に対しては警察庁が、残る36県警察に対しては当該県警察を管轄する各管区警察局が実施することとされ、平成11年12月13日から12年4月26日にかけて、すべての県警察を対象に実施されている。
 また、県警察本部も警察署等に対する特別監察を随時実施している。
           
  (1) 特別監察の的確な実施
     今回、警察庁・管区警察局及び県警察本部が行った特別監察の実施状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     警察庁・管区警察局
      (ア)  監察実施項目の選定
         警察庁・管区警察局が行う特別監察の目的は、「特別監察の実施について」(平成11年12月10日付け警察庁乙官発第38号警察庁次長通達)において、神奈川県警察を始めとする一連の重大な不祥事案の発生にかんがみ、平成11年11月の次長通達等により示された各種施策について、県警察における取組状況を具体的に把握し、より一層の効果的な推進を図ることとされている。また、「特別監察の実施要領について」(平成11年12月10日付け警察庁丙人発第174号警察庁長官官房長通達。以下「特別監察実施要領」という。)において、具体的な8項目の監察実施項目やその細目、着眼点等が定められている。
 このうち「業務管理の徹底」に関し、留置場管理業務についてみたところ、次のとおりであった。
        i )  留置場管理業務は、業務管理の徹底を要する警察としての重要業務の一つであり、警察庁・管区警察局は、平素から同業務について巡回視察を実施しているとしている。しかしながら、平成9年4月から特別監察が開始された11年12月までに、拘置中の女性にわいせつ行為を行った事例(11年2月)や捜査員の居眠り中に捜査用車両から被疑者が逃走した事例(11年2月)など留置場の管理や被疑者の事故・逃走に関する不祥事案・事故が、全国の18県警察で26件発生(12年に入ってからも3県警察で4件発生)している。
        ii )  各県警察における不祥事案対策の具体的な状況を把握し、不祥事案対策の徹底を図ることが特別監察の目的であることから、留置場の管理状況や被疑者の身柄管理状況等は、特別監察にとって欠かせない監察実施項目であると考えられるが、警察庁が示している監察項目等には、留置場管理や被疑者の身柄管理に着目した事項が含まれていない。
         これについて、警察庁は、平素から警察庁・管区警察局が県警察に対する留置場管理業務について指導を行っていることに加え、同業務に係る不祥事案の発生原因はいずれかの監察実施項目に関連するものであり、特別監察の実施項目として明示的に挙げられていなくとも留置場管理等について監察は行われているとしている。しかし、今回、警察庁・管区警察局の実施に係る特別監察のうち、26県警察(うち警察庁実施分11、管区警察局実施分15)に対する特別監察の実施結果を着眼点ごとに記載した特別監察結果表(以下「結果表」という。)を抽出してみたところ、3管区警察局(中部、四国及び九州)が計6県警察を対象に行った特別監察においては、留置場の管理状況等についての監察が実施されていない。
 また、警察庁及び4管区警察局(東北、関東、近畿及び中国)は、留置場の管理状況等についての監察を行ったとしているものの、これらの実施に係る計20県警察(うち警察庁実施分11、管区警察局実施分9)についての結果表をみると、留置場管理や被疑者の身柄管理の状況に関して何らかの記載がみられるのは5県警察(警察庁実施分4、管区警察局実施分1)のみであり、他の15県警察(警察庁実施分7、管区警察局実施分8)については記載はみられない。しかしながら、これら15県警察のうち7県警察では、平成9年4月以降11年12月までに留置場管理や被疑者の身柄管理に関連する不祥事案・事故が計13件発生しており、その中には、被疑者逃走、被留置者の死亡・負傷事故等5件の不祥事案・事故が11年中に発生している1県警察が含まれている。
      (イ)  特別監察の実施範囲等
        1.  一連の不祥事案は、生活安全、刑事、交通等警察のあらゆる部門において発生しているが、警察庁の実施した特別監察をみると、対象部局は、監察要員として対象県警察に派遣された同庁担当者が所属する部局に関連する県警察の部門に限られている。この結果、警察庁が特別監察を実施した11県警察のうち8県警察については、いずれも警務部以外の4部門(生活安全、刑事、交通及び警備)のうち2部門についてのみ監察が行われている。また、中国管区警察局が特別監察を実施した4県警察のうち3県警察は、監察の主管部局であることを理由に警務部のみ(残る1県警察に対しては警務部及び刑事部)が対象とされている。
        2.  不祥事案対策の取組状況を把握するには、第一線の警察職員への対策の浸透状況や現場の状況を確認する必要があるが、警察庁・管区警察局が実施した特別監察における対象警察署(方面本部及び市警察部を含む。)の数をみると、1県警察当たりの対象警察署数は平均で1.6署(最多の場合でも4署)となっており、4管区警察局(中部、近畿、中国及び四国)が計16県警察を対象に実施した特別監察の際に対象とした警察署の数は、1県警察当たりすべて1署となっている。この結果、警察庁・管区警察局が特別監察を実施した警察署は計74署と、全国の警察署1,282署(12年4月1日現在)の5.8パーセントにとどまっている。また、これらの警察署を選定した理由をみると、監察実施者側の便宜を考慮し、移動時間を基準の一つとしている管区警察局(中部及び近畿)があるなど、監察の客観性の確保や不祥事案対策の浸透状況の効果的な把握を考慮して、選定基準を統一するような方策は採られていない。
        3.  警察庁が作成した特別監察実施要領における監察実施項目中には、「次長通達を受けての警察本部による警察署に対する特別監察の実施計画及び実施状況はどうか」という着眼点があり、各管区警察局は管内県警察本部による特別監察の実施計画及び実施状況を把握する必要がある。しかし、1県警察から自主的に提出のあった例を除き、いずれの管区警察局においても各県警察本部の特別監察の実施計画を把握していない。
      (ウ)  特別監察の実施手法と実施時間
        1.  一般に監察・調査等の実施に当たっては、限られた日時・人員の範囲内で効果を上げるため、事前に監察・調査実施の通告を行い、相手方に資料作成等の準備を行わせておくことが適当な場合も多い。しかしながら、特に不祥事案に関する監察においては、関連する業務の実態をありのまま把握するため、予告をすることなく、抜き打ち的に実施する手法を取り入れることも必要であると考えられる。
 警察庁の策定した特別監察実施要領においては、「(監察の)個別の実施日は、実施のおおむね1週間前を目途に連絡する」とされている。警察庁・管区警察局は、送付日を把握できなかった警察庁実施分を除き、対象の各県警察に対し、最長で41日、平均で12.8日前に実施通知を送付している。また、特別監察の対象とする警察署については、一部事前通告なしで特別監察を行っている場合もみられるが、全体では74署中56署(75.7パーセント)に対して、事前に実施日が連絡されている。
 ちなみに、郵政監察では、「考査の実施について」(平成3年1月21日付け郵察三第1号郵政大臣官房首席監察官通達)により、「考査の実施期日の事前通告は、原則としてしない」と規定されており、郵便局に対する考査においても厳格に運用されているとしている。
        2.  特別監察に限らず監察の実施に当たって、監察対象の業務の実態を的確に把握するには、相手方幹部職員からの説明聴取にとどまらず、原資料や現場の確認、現品と管理帳簿との突合、現場職員に対する面談調査等に努める必要がある。
 この点について、警察庁・管区警察局の行った特別監察の実施状況をみると、警察署に対する特別監察に当たって、現場署員に対する面談調査を実施していない管区警察局(四国及び九州)がある等監察手法が十分なものとなっていない例がみられる。また、原資料の確認、帳簿等との突合等のためには監察会場の選定も重要である。この点に関しては、四国管区警察局が実施した特別監察において、県警察本部の建物は構造的に狭隘で会議室が無いとして、同本部外の集会・宿泊施設(警察共済組合運営)で行われた例がみられた。
        3.  警察庁・管区警察局が実施した特別監察は、監察実施項目の設定、対象警察署の数、実施手法等からみて必ずしも深度のあるものとなっていない。
 特別監察の実施時間をみても、平均で1県警察本部当たり4.7時間、1警察署(方面本部、市警察部を含む。)当たり平均で2.0時間となっており、多岐にわたる監察項目について実態を把握し、必要に応じ簿冊や現場等の確認を行うという特別監察の内容にかんがみて短いものとなっている。特に、中国管区警察局においては、各県警察本部に対する監察時間が1.5時間ないし2時間となっている。
      (エ)  特別監察実施後の不祥事案の発生状況
         結果表において良好と評価されている事項について、その後の状況をみると、「証拠品の取扱いに関する点検・指導が積極的に実施されている」とされながら、その後自動販売機荒らしの証拠品の変造硬貨を紛失(後に警察署員による窃盗と判明)した事例など、特別監察の結果では「良好」と評価されている事項に関してその後に不祥事案が発生している事例が3事例みられる。
     県警察本部
      (ア)  監察実施項目の選定
         警察庁は、次長通達により、県警察本部に対して「警察署等に対する特別監察を随時実施する」ことを指示しており、県警察本部の行う特別監察(以下「県警特別監察」という。)の目的は、警察庁・管区警察局が行う特別監察と同様に、次長通達等で示された不祥事案対策の各項目が十分浸透しているかを検証することにあると考えられる。
 警察庁では、警察庁・管区警察局が実施した特別監察は、神奈川県警察の集団警ら隊で発生した集団暴行事件や京都府警察における覚せい剤取締法違反事件等、業務管理や職業倫理教養の不徹底等を起因とした不祥事案の続発を契機として実施したものであり、監察実施項目もそれに対応するよう選定したものであるとしている。一方、県警特別監察は、各県の事情や各県で発生した不祥事案に応じて実施するものであり、各県警察本部が監察実施項目を決定すべきものであるとしている。
      (イ)  県警特別監察の進ちょく状況
         13県警察本部では、島部の警察署を特別監察の対象から除外している1県警察本部以外は、いずれも管内の全警察署を対象としてそれぞれ県警特別監察を実施するとしている。しかし、平成12年6月2日時点で、その進ちょく状況をみると、13県警察本部のうち11県警察本部ではすべて終了しているものの、残り2県警察本部では、進ちょく率(特別監察実施済警察署数を特別監察対象警察署数で除したもの)が、それぞれ22.2パーセント(13年2月までに終了予定としている。)及び6.1パーセント(終了までの目途は立っていないとしている。)となっている。
      (ウ)  県警特別監察の実施手法
         県警特別監察において、不祥事案対策の現場への浸透状況を把握するため、現場署員からの面談調査等を実施しているかどうかをみたところ、13県警察本部のうち12県警察本部において、警察署幹部職員からの包括的な説明聴取に加えて、警察署員に対する面談調査を実施したとしている。また1県警察本部においては、副署長から聴取することにより不祥事案対策の浸透方策等について調査したとしている。
      (エ)  県警特別監察実施後の不祥事案の発生状況
         既に県警特別監察が終了している11県警察における特別監察実施後の特異事案の報告の状況を平成12年6月末現在でみると、7県警察で計27件の報告があり、この中には、次のように、不祥事案対策が的確に行われていなかったため発生したと考えられる事例が3県警察で3事例みられる。
        i )  覚せい剤取締法違反の罪で起訴された無職女性から押収した証拠品の覚せい剤の一部を誤って廃棄した。
        ii )  暴行を受けた旨の被害届を受けたが、事件捜査に着手するまでに1か月以上を要した。
        iii)  留置場の巡回を約3時間怠り、被留置者の動静を監視しなかったため、被留置者が自殺した。
     警察庁における今後の取組方針
       警察庁においては、前述のように、平成11年12月から12年4月にかけてすべての県警察を対象に特別監察を終了しており、再度の特別監察は実施する予定はないとしているが、平成12年度第2四半期(3県警察に対しては第1四半期)に、特別監察において改善を指摘した事項の改善状況に限って、これをフォローアップするための業務監察を実施したとしている。
 しかしながら、これまで述べてきた点からみて、同庁の実施した特別監察の実施内容には必ずしも十分でない点がみられること、また後述するように、同監察の指摘事項も当庁の調査結果と照らし合わせれば必ずしも十分なものとはなっていないと認められることから、上記の警察庁の方針によってフォローアップ等を行うのみでは、今後不祥事案対策の浸透の徹底に十全を期することは困難であると考えられる。
           
     したがって、警察庁は、不祥事案の発生防止の徹底を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  不祥事案の発生が後を絶たない状況を踏まえ、不祥事案対策の徹底のための総合的な監察を新たに実施すること。なお、留置場の管理状況や被疑者の身柄の管理状況を監察実施項目として明確に盛り込むなど、実施計画の一層の充実を図ること。
    2.  新たな総合的監察の実施に当たっては、県警察の全部局を対象とすることとし、その旨を徹底すること。また、対象警察署等の選定に係る適切な基準を策定するとともに、対象数を増加させること。
    3.  新たな総合的監察の実施に当たっては、監察時間の延長、抜き打ち監察の実施、現場確認の励行、現場署員との面談等監察手法を充実させ、厳正かつ深度のある内容で実施されるよう、監察実施要領によりあらかじめ監察の方法、手順等を定めておくこと。
 また、このような監察実施要領が作成されていない警察庁・管区警察局が通常実施している業務監察及び服務監察についてもその策定を検討すること。
    4.  県警察本部に対して、警察庁の不祥事案対策の全項目を盛り込んだ新たな監察実施計画を作成し、同計画に基づき早急に管内全警察署等を対象とした総合的な監察を新たに実施するよう指導すること。また、この監察の実施に当たっては、現場職員への面談の徹底等について県警察を指導すること。
           
  (2) 特別監察の結果に基づく評価・通知等の充実
     特別監察の効果を確保するためには、監察によって把握された実態を的確に評価し、これに基づいて監察対象に所要の指示を適切に行うことが不可欠である。
           
     今回、こうした観点から、警察庁・管区警察局及び県警察本部の実施した特別監察結果の評価・指示等の状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     警察庁・管区警察局
      (ア)  評価等の状況
         警察庁・管区警察局は、8監察実施項目を細分化した74の着眼点に沿って監察を行い、その結果を着眼点ごとに結果表に記載し、「良好と認められる点」、「今後、一層の推進を要望する点」、「今後、改善を要すると認められる点」の3段階のいずれかの評価を付して県警察本部長等あてに送付している(監察結果の記述とそれについての評価は、1着眼点当たり複数の場合もある。)。
 今回、警察庁・管区警察局の実施に係る特別監察のうち26県警察(うち警察庁実施分11、管区警察局実施分15)についての結果表を抽出してみたところ、次のとおりとなっていた。
        1.  74着眼点から抽出した17着眼点について、26県警察の結果表における記載の状況をみると、次のように監察結果の記載がなされていないものがみられる。
         
i )  各県警察別の記載状況としては、近畿管区警察局が実施した1県警察に対する特別監察について、17の着眼点のうち「長期未入校者に対する職業倫理教養の実施状況」と「捜査関係事項照会等の捜査上の必要性の確認」等の7着眼点にしか監察結果の記載がみられないのを始め、記載のある着眼点の数は1県警察当たりの平均で14.2着眼点となっている。
 26県警察における結果表の延べ442着眼点のうち、結果表に記載があるのは368着眼点(83.3パーセント)であり、残りの74着眼点(16.7パーセント)については記載がない。
ii )  個別の着眼点についての記載状況をみると、最近発生した道路交通法違反の記録抹消事案に関連し重要な調査項目であると考えられる「運転者管理システムのデータ安全確保」については、26県警察のうち、結果表に何らかの記載があるものが15県警察(57.7パーセント)、記載のないものが11県警察(42.3パーセント)となっている。また、当庁の実態把握の結果では、県警察本部から県公安委員会に対する不祥事案の報告漏れの事例が4県警察で7件みられるが、これら4県警察についての結果表においては、この点についての指摘がない。
        2.  結果表に記載のある着眼点について、その記載内容をみると、「身上把握マニュアルが作成されているか」、「身上把握マニュアルによる取り組みが形骸化していないか」との着眼点に対して、「身上把握マニュアルは作成、活用されている」とのみ結果が記載されているもの(警察庁実施分)など、記載内容が不十分なものがみられる。
 また、記載内容が当庁の実態把握の結果と異なるものが次の2事例みられる。
         
i )  警察庁による特別監察の結果表では、当該県警特別監察の事後措置について、対象警察署から「改善結果の報告も徴している」と結果が記載されているものの、当庁の実態把握の結果では、当該警察本部は、実際には特別監察の当日又は翌日に監察を受けた警察署の署長から「指示事項があった事項について改善措置を講ずる」旨の連絡を受けているのみで、改善結果については報告を受けていない。
ii )  関東管区警察局が実施した特別監察の結果表では、当該県警特別監察が平成12年1月の時点で「5警察署」に対し実施され、「今後も順次実施することとしている」と記載されているが、当庁の実態把握の結果では、実際には同年6月の時点でも「2警察署」に対して実施されたのみで、これ以上の実施のめども立っていないとされている。
        3.  26県警察分の結果表には、74着眼点(延べ1,924着眼点)について計2,726点の評価結果が記載されているが、このうち「良好と認められる点」が2,213点(81.2パーセント)と大半を占め、「今後、一層の推進を要望する点」が438点(16.1パーセント)、「今後、改善を要すると認められる点」が75点(2.8パーセント)となっている。
 しかし、警察庁は、これらの評価について、どのような内容を「良好」とするか等について、あらかじめ統一した判断の基準を設けていないため、評価が担当者の個人的判断にゆだねられている。このため、結果表の内容をみると、県警察から県公安委員会への不祥事案に係る報告基準が作成されていないとの監察結果に対して「良好」という評価を与えているもの(4例)、身上把握に係る職員個々に対する面接の実施を定めた規定がないとの監察結果に対して「良好」という評価を与えているもの(7例)など、「良好」と評価していることが不適切であるか又はその評価の根拠が不明であるもの(16例)がみられ、客観的な評価が行われていない。
      (イ)  指示等の状況
         特別監察の効果を確実かつ迅速に確保するためには、対象機関に対し、指示の内容を早急に文書で通知するとともに、これに基づく改善措置の状況についても文書で徴収してこれを確認するなどの措置が必要である。
 特別監察における結果の通知状況をみると、すべての県警察に対し、文書による通知が行われているが、特別監察実施日から結果送付日までの期間をみると、警察庁の実施した特別監察で131日間を要しているものがあるなど、平均で33.1日を要している。しかしながら、通知事項の中には、「検挙時に違反者が確認した飲酒検知管と事件送致後の違反者に係る飲酒検知管との同一性を担保する措置が採られていない」など緊急に改善を要する事項が含まれていることから、このように要改善事項の通知に平均で1か月以上を要している現状は適切ではないと認められる。
  また、指示に対する改善措置の確認状況をみると、警察庁、管区警察局とも、平成12年度第2四半期に実施を予定(3県警察に対しては第1四半期に実施)しているフォローアップのための業務監察においてこれを確認する予定であることを理由として、文書による回答を徴していない。しかしながら、この方針によれば、業務監察において現地における確認ができるとしても、指示を行ってから確認するまでの期間が6か月以上になる場合があることとなり、緊急性を要する不祥事案対策の性格にかんがみれば、適切ではないと考えられる。
 ちなみに、郵政監察では、監察結果については2週間ほどで対象機関に指示又は勧告を行うとしており、これを受けた郵便局等の措置についても、「郵政省考査規程」(平成3年1月21日付け郵政大臣公達第3号)により、「指示又は勧告を受けた機関の長は、速やかに是正又は改善の措置を講じ、その結果を3週間以内に報告しなければならない」こととされている。
     県警察本部
      1.  県警特別監察の結果に基づく指示の実施状況をみると、13県警察本部のすべてが口頭による指示(主に現場又は翌日等に実施)を行っているとしている。また、口頭による指示に加えて文書で改善を指示をしているものが6県警察本部あるが、文書指示までの期間をみると、特別監察実施終了後38日を要している例がみられる。
      2.  改善指示に基づき警察署において採られた措置の確認方法をみると、改善指示を行った全警察署から文書の回答を徴するとしているものが6県警察本部、指示事項の内容により口頭説明及び現場確認を実施しているものが1県警察本部、指示事項の内容により文書又は口頭で回答を求めるとしているものが3県警察本部、口頭により確認するとしているものが1県警察本部、後日の随時監察等の際に確認するとして確認措置のための特段の仕組みを設けていないものが2県警察本部となっている。
 また、実際の確認状況をみても、全警察署から確認文書を徴しているものの、回答期限を定めていないことから回答を得るまでに4か月以上(128日)を要している例がみられる。また、口頭により確認するとしているものの、特別監察の当日又は翌日に監察を受けた警察署の署長から指示事項について改善措置を講ずる旨の連絡を受けているのみで、具体的な改善措置を確認していない例がみられる。
      3.  県警特別監察の結果に基づく指示内容の警察署内への周知状況をみると、文書及び口頭で署員に周知しているものもみられるが、多くの警察署では口頭による周知のみとなっている。
 特別監察における指示事項の内容を末端の署員まで正確かつ確実に周知するためには、口頭による周知に加えて、文書による周知も有効であると考えられる。
           
   したがって、警察庁は、不祥事案の発生防止の徹底を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
  1.  項目3(1)で指摘した新たな総合的監察の実施に当たっては、すべての着眼点について監察結果を記載し、評価を行うこと。また、評価の客観性を担保するため、あらかじめ一定の合理的な評価基準を定めておくこと。
  2.  新たな総合的監察の実効性を担保するため、一定期限内に結果を通知することや文書による回答を県警察に義務付けることなどを定めた処理要領を策定すること。
 また、このような処理要領が作成されていない警察庁・管区警察局が通常実施している業務監察及び服務監察についてもその策定を検討すること。
  3.  県警察本部が実施する新たな総合的監察について、一定期限内に文書をもって結果を通知することや警察署等に対して文書による回答を義務付けること及び改善指示事項の職員への周知方策等を内容とする処理要領の指針(大綱)を定め、これに沿って行うよう県警察を指導すること。
           
  (3) 特別監察の厳正・中立性の確保
     監察は、その目的にかんがみ厳正・中立な実施が求められるものであり、仮にも監察を実施する側と受ける側に「馴れ合い」があるかのような疑念を抱かせることがあっては、監察それ自体の意義が否定されることにもなりかねない。
 警察庁は、「警察庁の行う監察に関する訓令」(昭和33年警察庁訓令第14号。以下「監察訓令」という。)の中で、監察を行うに当たっては、厳正かつ公平を旨とすることと規定している。また、同庁は、「警察庁職員の服務に関する訓令の一部を改正する訓令の制定等について」(平成8年12月26日付け警察庁乙官発第40号警察庁次長依命通達。以下「服務訓令依命通達」(注)という。)において、一般的に、職員がその職務に利害関係のある官公庁(県警察を含む。)の職員等と接触するに当たっては、国民の疑惑や不信を招くようなことを防止することを基本として、職務上の必要性に留意することとし、接待を受けること、会食をすること、遊戯・旅行をすること、対価を支払わずに役務の提供を受けること等を原則として禁止している。
   
(注)  服務訓令依命通達は国家公務員倫理法の施行に伴い廃止され、その内容は同法及び国家公務員倫理規程(平成12年政令第101号)に引き継がれた。
     また、平成11年9月以降の神奈川県警察における一連の不祥事案等を受け、国家公安委員会は、平成12年1月25日に新たに監察に関する規則を制定(平成12年4月1日施行)し、警察庁及び県警察が実施する監察に関して、厳正かつ公平を旨とすること等を規定するとともに、同じく1月25日に警察職員の職務倫理及び服務に関する規則(平成12年国家公安委員会規則第1号)を制定(即日施行)し、「警察職員は、国民の信頼及び協力が警察の任務を遂行する上で不可欠であることを自覚し、その職の信用を傷つけ、又は警察の不名誉となるような行為をしてはならない」こととするとともに、「警察職員は、職務に支障を及ぼすおそれがあると認められる金銭、物品その他の財産上の利益の供与若しくは供応接待を受け、又は職務に利害関係を有する者と職務の公正が疑われるような方法で交際してはならない」ことを規定している。
 しかしながら、上記の2つの国家公安委員会規則の制定直後の平成12年1月に行われた関東管区警察局による新潟県警察に対する特別監察においては、監察の責任者である同管区警察局長と、監察を受ける(以下、監察を受けることを「受監」という。)側の最高責任者である同県警察本部長が、宿泊場所において私的な会食・遊興を行っていたことが明らかになり、国民からの厳しい批判を浴びた。このほか、関東管区警察局及び九州管区警察局が行った特別監察の際にも、それぞれ監察の責任者である管区警察局総務部長と受監県警察の最高責任者である県警察本部長が、夜間に会食を行ったことが明らかになっている。
           
     今回、警察庁・管区警察局及び県警察本部が実施した特別監察について、その厳正・中立性の確保状況について実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
     特別監察実施メンバーの選定状況
      (ア)  警察庁・管区警察局
         警察庁及び7管区警察局において、特別監察の実施メンバーの選定方法について、基準を設けているものはなかった。
 また、特別監察の実施メンバーの選定について、運営上、受監県警察からの出向者を除外する等の配慮をすることとしているかどうかをみたところ、警察庁及び3管区警察局(関東、近畿及び九州)では受監県警察からの出向者を基本的に一切除外するとしており、3管区警察局(東北、中部及び中国)では受監県警察からの出向者のうち警部以下の者等を除外するか又は監察補助者(課長)が受監県警察からの出向者である場合は除外するとしている。
 しかしながら、これらの6管区警察局における特別監察の実施メンバーの実際の選定状況をみると、受監県警察からの出向者は原則除外する方針であるにもかかわらず2県警察に対する特別監察で受監県警察からの出向者が3人選定されている例や、監察補助者(課長)についてのみ受監県警察からの出向者を除外することとしているため当該県の前県警察本部長であった総務部長が監察責任者となっていた例が2管区警察局(中部及び九州)でみられた。
 また、四国管区警察局では、上記6管区警察局と異なり、総務部長と公安部長の2人を監察責任者に据えているものの、同管区警察局の人的構成からみて、特別監察の実施メンバーの選定に当たり、受監県警察からの出向者を除外するという配慮を行うことができなかったとしている。このため、受監県警察の前本部長であった総務部長が監察責任者として監察の実施に当たっているなど選定された実施メンバー9人中当該県警察からの出向者や異動者が3人含まれている例や、同じく実施メンバー8人中当該県警察からの出向者が2人含まれている例がみられる。
      (イ)  県警察本部
         13県警察本部では、いずれも県警特別監察の実施メンバーの選定に関する規程を設けていないが、うち10県警察本部は、前任地が対象機関となる者は実施メンバーから除外する等の運用上の措置を講じており、中には、過去4年以内に対象機関に勤務経験があった者はメンバーから除外することとしている県警察もある。
 この一方、特段の措置を講じていないものも3県警察みられる。
     会食及び懇親会の禁止状況
      1.  調査した7管区警察局中、監察業務に関し、相手方との会食及び懇親会の禁止等を規程類等で定めている管区警察局はない。この理由について、警察庁は、監察担当者と受監機関の対応者の会食及び懇親会については、厳正公平を旨とするよう求める監察訓令や服務訓令依命通達により当然に禁止されているためと説明しているが、当庁が各管区警察局に対してその理由を調査したところ、服務訓令依命通達の存在を挙げたのは東北管区警察局のみであった。他の6管区警察局においては、受監者との会食及び懇親会を禁止する規程は存在しないと認識している状況にあり、特に九州管区警察局においては、服務訓令依命通達は監察従事者に対する会食の禁止規定とは考えていないとしており、同通達の趣旨が管区警察局の監察担当者に浸透していない状況がみられた。
 3県警察に対する特別監察の際に夜間の会食を行ったことが公になった後の平成12年3月、関東管区警察局及び近畿管区警察局は、懇親会等への出席を慎む旨の文書を発出したが、他の5管区警察局では依然として、受監県警察との会食及び懇親会について、厳正公平を旨とする監察訓令上当然であるとして文書による格別の徹底措置を講じていなかった。
      2.  警察庁が実施した11県警察及び管区警察局が実施した36県警察に対する特別監察の際の行程をみると、受監県警察との間で夜間に会食を行っているものは、既に公表されている3県警察に係る事例を除き、みられなかった。また、受監県警察との間での昼食時に会食を行っているものが、20県警察(うち警察庁実施分6、4管区警察局(関東、中国、四国及び九州)実施分14)に対する特別監察においてみられた。
 これらの昼食時の会食について、警察庁では、いずれも費用は参加者が全額自己負担したとしているものの、職務上の必要が無い限り費用負担の有無にかかわらず会食を禁止するのが服務訓令依命通達の趣旨である。また、業務の効率的遂行の観点から、監察実施途上に昼食時の会食を行うことが不適切とまで言い切れない場合はあり得るものの、これ以外の会食について職務上の必要性を認めることは適切ではないと考えられる。この観点から上記20県警察に対する特別監察において会食が行われた時間帯をみたところ、特別監察開始前の会食が5県警察に対する特別監察で、終了後の会食が3県警察に対する特別監察でそれぞれみられ、国民の不信を招かないよう十全な配慮が払われていたとは必ずしも認められない状況となっている。
     公用車の利用状況
       服務訓令依命通達では、対価を支払わずに役務の提供を受けることを原則として禁止している。
 なお、国家公務員倫理規程(平成12年4月1日施行)においても、立入検査、監査又は監察をする事務については、監察等を受ける事業者等(地方公共団体及びその職員も含まれる。)は、当該監察等を実施する者にとっての「利害関係人」に当たるとされており、職務としてそうした利害関係者を訪問した際に、当該利害関係者から提供される自動車を利用することは、周囲の交通事情その他の事情からやむを得ない場合を除いて禁止されている。
 警察庁及び7管区警察局が実施した特別監察の行程における受監県警察の公用車の利用状況をみると、3管区警察局(近畿、中国及び四国)では受監県警察の公用車を一切利用していないが、他の4管区警察局(東北、関東、中部及び九州)及び警察庁では、それぞれが担当した計36県警察のうち31県警察(86.1パーセント)に対する特別監察において、受監県警察の公用車を利用している。
 これらの中には、監察業務途上での県警察本部から警察署への移動など業務の効率的遂行の観点から公用車の利用がやむを得ないとみられる場合もあるものの、中には、監察業務開始前の空港から当該県警察本部までの移動に際して公共交通機関の利用が可能であるにもかかわらず当該県警察の公用車を利用するなど、必ずしもやむを得ないとは認め難いケースで利用しているものが、24県警察(うち警察庁実施分7、4管区警察局(東北、関東、中部及び九州)実施分17)に対する特別監察でみられた。このほか、監察業務の開始前や終了後に、県警察本部又は警察署から宿泊所までの間で利用しているものなど、職務遂行には直接かかわりがないにもかかわらず公用車を利用しているものが、13県警察(うち警察庁実施分5、2管区警察局(東北及び九州)実施分8)に対する特別監察においてみられた。
           
     したがって、警察庁は、不祥事案対策の新たな総合的監察の実施に際しては、厳正・中立な実施の確保を図るため、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  監察実施メンバーの選定について、受監県警察からの出向者や受監県警察を前任地とする者を除外することなどを盛り込んだ基準を作成し、同基準に基づきメンバーを選定すること。
 また、県警察本部に対しても、監察実施メンバーの選定について受監警察署等を前任地とする者を除外することなどを盛り込んだ基準を作成し、同基準に基づき選定するよう指導すること。
    2.  不祥事案対策の徹底を図るという特別監察の目的にかんがみ、引き続き会食及び懇親会の禁止措置を講ずるとともに、交通事情や監察業務の効率的遂行等の理由から真にやむを得ない場合を除き、受監県警察の公用車の利用を禁止すること。
 また、県警察本部に対しても、受監警察署との会食及び懇親会の禁止を一層徹底するよう指導すること。
           
4 国家公安委員会の運営の在り方の見直し
   国家公安委員会は、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るため、警察法第4条に基づき内閣総理大臣の所轄の下に置かれた合議制の機関であり、国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第3条に基づく国の行政機関である。同委員会は、国務大臣である委員長及び5人の委員によって構成されている。また、委員はいずれ も常勤である。
 国家公安委員会は、警察法第5条に基づき、国の公安に係る警察運営をつかさどり、警察教養、警察通信等に関する事項を統轄し、警察行政に関する調整を行うことを任務とし、これらの任務を遂行するために警察庁を管理することとされている。同委員会は、このほか、国家公安委員会規則の制定、地方警務官の任免等警察法の規 定に基づく権限及び道路交通法等警察法以外の法令の規定に基づく権限を有している。
 平成12年2月に第147回国会に提出された警察法一部改正案では、国家公安委員会に、監察に関する具体的・個別的な事項についての警察庁に対する指示権を付与することが盛り込まれた(第147回国会閉会に伴い審議未了)。また、警察刷新会議提言及びこれを受けた警察改革要綱では、警察に対する具体的・個別的な監察指示権を公安委員会に付与すること、その具体的・個別的な指示に関する監察の遂行状況を委員会として機動的に点検するため公安委員会の委員の中から監察担当委員を指名すること等を柱として、公安委員会の警察に対する管理機能の充実と活性化を図ることとされている。
           
   今回、国家公安委員会における会議の審議状況及び委員の勤務状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   国家公安委員会の審議状況
    1.  国家公安委員会は、国家公安委員会運営規則(昭和29年国家公安委員会規則第1号)により、「会議の議決により、その権限を行う」こととされており、その会議の開催形態として、同規則により、定例会議及び臨時会議が規定されている。このうち定例会議については、同規則により、毎週1回定例日時に開催することとされており、平成11年度の会議の開催回数は45回となっている。臨時会議は、「臨時必要がある場合に委員長が招集する」こととされているが、その開催実績をみると、防災訓練の一環として年1回開催されることが通例となっているほか、最近の3年間では平成11年度に1回開催された例がある。この結果、平成11年度の同委員会の開催実績は、臨時会議の開催分を合計しても47回(いわゆる「持ち回り」を除く。)となっている。
 また、同委員会の1回当たりの会議の開催時間は、平成11年度で平均約90分(防災訓練の一環として実施された臨時会議1回を除く。)となっている。同委員会に付議される案件は、不祥事案に関連するものだけではなく、叙位・叙勲の進達、交通安全対策等を始めとして広範多岐にわたっており、個々の案件について十分審議を尽くすためには、一定程度以上の延べ審議時間が自ずと必要となるものと考えられる。
    2.  不祥事案に関する国家公安委員会の審議状況をみると、地方警務官の懲戒処分の決定については、地方警務官が国家公安委員会の直接の任免に係る国家公務員であることから、すべての懲戒処分案件を審議案件とすることとされており、当庁の調査結果でも、すべての懲戒処分案件が付議されている。
 一方、地方警務官以外の警察職員は同委員会の任免に係るものではないが、これらの職員による不祥事案についても、全国的レベルでの対応を要する案件等について適時に対応するためには、同委員会においてその動向を定常的かつ的確に把握しておくことが求められる。
 しかし、地方警務官以外の警察職員の懲戒処分等を報告する場合の具体的な基準を警察庁が明確に定めていないこともあり、地方警務官以外の地方警察職員の懲戒処分等について同庁が国家公安委員会に報告した案件は、平成11年における懲戒免職案件36件のうち8件(22.2パーセント)、同じく11年における諭旨免職案件55件のうち1件(1.8パーセント)にとどまっており、また、12年1月から3月においても懲戒免職案件19件のうち6件のみとなっている。この結果、同委員会において、これらの地方警察職員が引き起こした不祥事案について十分な実態把握が行われているとは言い難い状況となっている。
   国家公安委員の勤務状況
    1.  国家公安委員会の委員は、常勤の職員とされており、特別職の職員の給与に関する法律(昭和24年法律第242号)においても常勤職員として給与が定められている。これは、同委員会委員が臨時・緊急に対応する必要がある事案等が発生した場合には、委員長の招集に応じて参集してその職務を行わなければならないためであるとされている。
 国家公安委員会と同じく常勤委員制をとっている国家行政組織法第3条に基づく3委員会(公正取引委員会、公害等調整委員会及び金融再生委員会)及び同法第8条に基づく2審議会等(原子力安全委員会及び証券取引等監視委員会)の常勤委員の勤務状況をみると、これらのうち4委員会等の常勤委員は、会議を開催する庁舎に会議開催時以外にも常駐している(平成11年度の各委員会ごとの委員の年間平均勤務日数は207日から236日(単純平均228日)、勤務時間はおおむね9時30分ころから17時ころまで)。このため、これらの4委員会等では持ち回り決裁が行われたことはない。また、残りの1委員会(単純平均145日)では、会議規程に持ち回り決裁の規定はあるが、あくまで例外として運営されており、定例日以外でも緊急時には委員会を招集し、必要な数の委員が参集できる限り会議を開催しているため、これまでの持ち回り決裁の実績は平成12年7月の1回のみとなっている。
 他方、国家公安委員会の委員については、現在までのところ、会議を開催する庁舎内に会議開催時以外に常に勤務し得る場所が確保されていないこともあって、緊急を要する場合等において、委員の参集ではなくいわゆる持ち回り決裁を行っている例が平成11年の4件を含めて8年以降計6件みられる。このうち2件は同委員会の直接の任免に係る地方警務官である県警察本部長等の懲戒処分に係る案件である。
    2.  国家公安委員会の委員は、定例会議及び臨時会議への出席以外にも行事出席等の公務を行っているが、平成11年度の実績をみると、全国警察本部長会議、全国公安委員連絡協議会、勲章・褒賞伝達式等年間1委員当たり17件(17日)程度になっている。この結果、同委員会の委員の年間勤務日数は、会議と各種行事を合わせても1委員当たり計64日程度となっている。
 なお、警察刷新会議提言及びこれを受けた警察改革要綱の具体化により、具体的・個別的な監察指示を国家公安委員会が行い、同委員会の委員である監察担当委員が当該具体的・個別的な指示に関する監察の遂行状況を機動的に点検すること等により、同委員会の機能の充実と活性化を図ることとなれば、当然、現在の勤務態勢の見直しが必要になるものと考えられる。
           
       したがって、国家公安委員会及び警察庁は、警察行政の透明性を確保しつつ、国家公安委員会がその任務である警察庁に対する管理機能を国民の代表として十全に発揮するため、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  警察官による不祥事案の動向を常に的確に把握するため、すべての懲戒処分案件が審議案件とされる地方警務官に加え、その他の警察職員の不祥事案についても、例えば、懲戒免職案件及び諭旨免職案件はしっ皆報告とするなど国家公安委員会への報告基準を定めて定常的に把握すること。
    2.  不祥事案案件の審議等を十分に行うため、臨時会議を臨機応変に招集すること等により必要に応じ国家公安委員会の開催頻度を高めるとともに、常勤の委員である同委員会の委員の勤務態勢に関して必要な措置を講ずること。
           
5 管区警察局の府県警察に対する監督機能の強化
   管区警察局は、警察庁の所掌事務を分掌する地方機関として、東北、関東、中部、近畿、中国、四国及び九州の7ブロック(北海道及び東京都は、管区警察局の管轄区域外)に置かれており、広域対応を必要とする警察事象その他の国の公安に係る警察事象に関する警察活動を始めとして、教育訓練や監察、警察情報通信等の業務を 担当している。
 管区警察局は、地理的にも各県警察に近接した位置に置かれていることから、各県警察の実情を的確に把握し、これに基づいて各県警察に対し適切な指導等を行う面では、警察組織の中で最も適した立場にある。
           
   今回、各県警察の実施する不祥事案対策等についての管区警察局における把握状況及びこれに基づく県警察に対する指示、指導等についての実態を把握した結果、次のような状況がみられた。
  1.  管区警察局が管内県警察に対し不祥事案対策について的確な指導等を行うためには、各県警察において発生する不祥事案の実態把握が不可欠である。
  しかし、項目1(2)で述べたとおり、現在の仕組みでは、県警察等において不祥事案等が発生した場合は、警察庁に対して報告を行うこととされており、県警察から管区警察局に対して報告が行われる仕組みとはなっていない。このため、各県警察から当該県警察を管轄する管区警察局への不祥事案の報告状況をみると、11県警察(13県警察のうち管区警察局の管轄区域外である北海道警察及び警視庁を除く。)が平成11年度に警察庁に対して行った特異事案報告計105件のうち9件(8.6パーセント)が管区警察局に報告されていない。
  2.  項目2(2)アで述べたとおり、巡査部長任用科及び警部補任用科は、幹部警察官にふさわしい広域的な視野を育成し、全国的に均質な水準の幹部警察官を確保するため、国の責務として教養を行うものであるが、県警察学校で実施されているこれらの昇任時教養課程の基準時間数(総時間)は、管区警察学校等で実施されるものと比べて、巡査部長任用科で4分の1、警部補任用科で5分の1となっている。警察の教養水準の統一的な保持向上を図ることは国の責務であり、その教養内容や修得状況の把握等についてはあくまで国が責任を持つ形で遂行する必要があると考えられる。
 しかしながら、7管区警察局中、県警察学校で実施されているこれらの昇任時教養課程の実施時期、実施時間数、受講者数等の実績を把握しているものは皆無であり、県警察に対する所要の指導等も行われていない。
  3.  項目2(2)イで述べたとおり、警察庁は、長期未入校者を警察学校に積極的に入校させるとともに、専らこれらの者を対象とする専科教養及び研修を実施するよう指示している。しかし、13県警察が平成11年度に行った長期未入校者に対する教養の実施状況をみると、職務倫理教養の時間が1時間以下となっているもの、複数の講座が開設されているがいずれの講座においても女性を除外しているものなどがみられる。管区警察局で、これら各県警察における長期未入校者に対する措置を6管区警察局が特別監察で把握したとしており、また、中国管区警察局では随時指導を行っているとしている。
 こうした状況について、各管区警察局では、長期未入校者に対する措置は警察庁の指導の下に各県警察が行う事務であると説明しているが、警察法上管区警察局は警察教養の実施等に関して警察庁の事務を分掌している。
  4.  次長通達による特別監察の実施効果を検証することは、警察庁及び管区警察局の責務であり、また、警察庁・管区警察局の行う特別監察においても、各県警察の県警特別監察の実施状況が監察の実施項目ともされている。
 しかし、項目3(1)で述べたとおり、県警特別監察の中には進ちょく率が低いものなどがみられるにもかかわらず、管区警察局では、県警特別監察は各県の事情を考慮して自主的に実施されるべきものであるとして、一部を除いて各県警察本部による特別監察の実施計画及び実施状況を把握しておらず、また、特段の指導等を行っていない。
           
   したがって、警察庁は、管区警察局が管内各県警察に対する監督機能を十全に発揮するよう、不祥事案防止対策に関して、次の措置を講ずる必要がある。
  1.  現在、県警察から警察庁に対して行うこととされている特異事案の報告については、管区警察局における管内県警察の動向把握に資するため、管区警察局へも併せて報告させる仕組みとすること。
 また、管区警察局への報告の確実な励行について県警察を指導すること。
  2.  県警察学校において実施されている巡査部長任用科及び警部補任用科の昇任時教養課程について、これらの教養課程の実施内容が管区警察学校等で実施される場合と比べ遜色のないものとするよう管区警察局が常時実態を把握し、これに基づき県警察に対して適切な指示、指導等を行うこと。
  3.  各級警察学校への長期未入校者の解消策として県警察において実施されている教養の実施状況について管区警察局がその実態を把握し、これに基づき県警察に対して所要の改善指導を行うこと。
  4.  県警察本部が警察署等に対し行う新たな総合的監察について、これが適正・確実に実施されるよう、管区警察局においてその実施状況を把握し、これに基づき県警察に対して適切な指導を行うこと。