国民健康保険事業に関する行政監察結果(要旨)

勧告日:平成12年6月30日
勧告先:厚生省
実施時期:平成10年12月〜12年6月

 

 

 

[監察の背景事情等]

 国民健康保険(以下「国保」という。)は、自営業者等の被保険者に対し療養の給付等を行う公的医療保険制度であり、国民皆医療保険を支える柱の一つ
 国保の支出額及び国保への国庫補助金等の額は、厳しい国家財政の下でも、年々増加の一途をたどり、平成10年度には、それぞれ8兆7,198億円及び3兆1,267億円に上っている。
 市町村が行っている国保事業は、高齢化の進行等による医療費の増加等を背景として、平成10年度では、経常収支で全国3,249市町村の約半数が赤字を計上しており、事業経営の健全化が課題
 調査対象機関:厚生省、都道府県(19)、市町村(102)、国民健康保険組合(23)、関係団体等
 担当部局 :行政監察局、管区行政監察局(7)、行政監察事務所(12)

[調査結果]

 市町村国保事業の運営の健全化
  (1)  適用事務の適正化
   
   調査した37市町村全体では、平成9年度に届け出られた者のうち3.5パーセントが1年間以上適用漏れ。全国の平成9年度の届出件数は約618万件であり、適用漏れ者は相当数存在の見込み
   調査した42市町村中21市町村は、適用漏れ者の把握措置を全く講ぜず。また、これを把握している21市町村中15市町村は、届出勧奨を1回のみ実施し、勧奨に応じない者を放置。一方、自ら工夫して、適用漏れ者の把握・適用勧奨業務を、国民年金部局が実施している被保険者の把握・適用勧奨業務と一体的に実施し、効果を上げている例あり。
 
  [ 勧告要旨 ]
 市町村における国民年金部局との連携等による的確、効率的な適用漏れ者の把握、届出勧奨の確保方策を検討すること。

  (2)  レセプト審査・点検の在り方の見直し
   
   平成10年度の診療報酬請求金額6兆8,496億円、レセプト審査による減額査定額は920億円
   調査した15国保連合会における診療内容に係る平成9年度の減額査定額は約150億円。このうち国保連合会の審査による減額査定が約61億円、国保連合会の審査済みのものにつき保険者の点検により疑義が認められて減額査定されたものが約89億円と、国保連合会の審査上の漏れ多数。この原因は、決められた審査期間(20日間)内に膨大な数のレセプト審査が必要となるが、職員数が不足
・ 国保連合会のレセプト審査時間は、事務職員1人1件当たり16.6秒、審査委員同3.5秒(平成9年5月)
   審査・点検の結果減額査定額が多額である等の市町村に対しては、昭和51年度から国庫補助金を交付(平成10年度約39億円)するなどレセプト点検を奨励
 調査した43市町村のうち、国庫補助を受けているもの32市町村、受けていないもの11市町村。これらの市町村のほとんどは、レセプト点検に要する経費に見合う減額査定が確保されることや、保険財政の健全化の観点から、レセプト点検の必要性を認識し積極的に実施するなど、レセプト点検は市町村の業務として定着。国庫補助の必要性等について検討の余地あり。
 
  [ 勧告要旨 ]
1.  国保連合会におけるレセプト審査の充実化方策を検討すること。
2.  市町村におけるレセプト点検奨励のための国庫補助について、廃止を含め、その在り方を検討すること。

 国民健康保険組合に対する国庫補助の見直し
   
   国庫補助金の組合別の補助率の算定基礎となる各組合の財政力は、組合の被保険者の所得と療養給付費等の額を基に算定。しかし、現在、各組合に適用されている補助率は、昭和58年度に実施した被保険者の所得調査の結果等から算定された組合の財政力に基づき59年度に定められたまま見直しが行われず。
   
 平成9年度の被保険者の所得に基づき組合の財政力を試算した結果、より財政力のある組合に高率の国庫補助率が適用されているなど財政力を適切に反映したものとなっていない例あり。
 
  [ 勧告要旨 ]
 国保組合の財政力を的確に把握することにより、財政力が高い国保組合に対する国庫補助率の引下げを検討するとともに、各組合に対する国庫補助率の適用の適切化を図ること。

 保健事業の効果的実施
   
   平成10年度に全国の保険者が支出した保健事業費は約590億円(同年度の保険料(税)収入の約1.7%)。これに対し、約189億円(事業費の32%)の国庫補助金を交付
   調査した44市町村における保険料(税)収入に占める保健事業費の率は、最低0.13%、最高17.9%と事業への取組に大きな格差あり。特に大都市圏で低調
   ほとんどの市町村は、厚生省の指導による事業効果の評価を行わないまま事業を実施。一方、一部の市町村では、事業内容に工夫を凝らし、また、必要に応じ、その評価を行うなど積極的に取り組んでいる結果、療養給付費の伸び率が抑制されているものあり。
   調査した43市町村では、すべて医療費通知を実施。このうち、36市町村は国庫補助を受け、年間5回以上の医療費通知を実施。しかし、厚生省では、医療費通知回数の多寡と医療費の適正化との関係など補助の効果やその必要性に関する評価未実施。また、調査した43市町村でも同様な状況にあり、国庫補助(平成10年度約26億円)の必要性に疑問
 
  [ 勧告要旨 ]
1.  保健事業の効果の評価方法及び地域の特性に応じた効果的な保健事業の在り方に関する調査研究を実施し、その成果の普及を図るなど効果的な保健事業の実施方策を検討すること。
2.  医療費通知制度の目的を踏まえつつ、同通知に係る国庫補助事業について、医療費の適正化の観点からの事業効果の評価を行い、その結果を踏まえ、国庫補助の廃止を含め、その在り方を見直すこと。

 診療報酬の減額に伴う支払済一部負担金の調整
   
   平成10年度の国保の全国の減額査定額は約920億円であり、これに係る一部負担金は相当な額
   調査した44市町村のうち、減額通知を実施しているのは10市町村のみ。また、このうち5市町村は、通知の中に減額に係る一部負担金を医療機関に請求できる旨の記載なし。
   調査した37医療機関のうち、減額に係る一部負担金の返還に応ずるとしているもの9機関、応じないとしているもの14機関
   厚生省は、一部負担金の返還について、保険医療機関等と被保険者との間の民事上の問題であるとの見解。しかし、保険者、被保険者及び保険医療機関等に対するこの見解の周知等が不十分
 
  [ 勧告要旨 ]
 診療報酬の減額に伴う支払済一部負担金に関し、減額通知の励行の確保及び診療報酬の減額と一部負担金の返還とに係る手続の周知を図ること。

 

 その他の勧告事項
  保険料(税)徴収事務の適正化