[総合評価]
1 日本勤労者住宅協会の位置付け
   日本勤労者住宅協会(以下「勤住協」という。)は、勤労者に居住環境の良好な住宅及び宅地を供給することを目的として昭和42年に設立された法人であり、その前身である財団法人日本労働者住宅協会の権利及び義務を引き継いで、事業を実施している。
 勤住協の事業の中心は住宅分譲事業であり、これは、1)住宅生活協同組合等(以下「住宅生協」という。)からの事業申請を受け、その内容を審査した上で、勤住協の事業として当該住宅生協に委託して住宅を供給する委託事業と2)勤住協が事業計画を立て、主に首都圏で直接住宅の供給を行う直轄事業の二つの事業方式により行われている。
 住宅分譲事業を実施するための資金は、住宅金融公庫及び雇用・能力開発機構から借り入れる公的資金並びに労働金庫(以下「労金」という。)から借り入れる民間資金で賄われており、その額は、平成10年度で住宅金融公庫から363億円、雇用・能力開発機構から23億円、労金から199億円となっている。平成10年度末における総資産は1,633億円となっている。
  なお、勤住協は、設立当初から国からの出資金や補助金を受けていない。
2 住宅分譲事業の現状と課題
  (1) 住宅分譲事業をめぐる状況
     勤住協の住宅分譲事業は、これまで約11万3,000戸の供給実績があり、そのうち委託事業が約10万6,000戸と全体の93パーセントを占めている。
 委託事業の事業実績をみると、年間の建設戸数は昭和50年代中ごろには約5,000戸であったものが、50年代後半に急激に減少しており、平成7年度以降は1,000戸から1,500戸で推移し、10年度には896戸となっている。勤住協が供給する住宅は、「住宅建設五箇年計画」(閣議決定)で定められている「住宅金融公庫の融資により建設する住宅」の一部を構成しており、勤住協では、おおむね3年間を計画期間とする中期経営計画を策定して建設計画戸数を定め事業を実施している。しかし、住宅市場が拡大し民間等による住宅供給量が増加する中で、勤住協のシェアは、設立当初の6.3パーセントから平成10年度には0.3パーセントに落ち込んでいる。
 また、建設戸数の減少に伴い、委託事業において勤住協が住宅生協に対し調達する公的資金の金額も、ピークであった昭和60年度の653億円から平成10年度には366億円と昭和60年度の約56パーセントにまで減少している。
 このようなことから、近年、公的資金調達のための機関としての勤住協の役割は相対的に低下している状況がみられる。
  (2) 財務の現況
     分譲事業における住宅の分譲価格は、原則として、分譲予定原価に約6パーセントの分譲事務費を上乗せして決定されている。この上乗せ分(分譲総利益)については、72パーセントが住宅生協等に対する委託手数料に充当され、残りの28パーセントが勤住協の収入とされている。勤住協では、この収入のうち25パーセント(上乗せ分の7パーセント)を住宅生協の経営破たん等に伴う損失処理のために積み立てる引当金に充て、残りで、人件費や物件費等の固定費を賄うこととしている。
 近年の損益の状況をみると、住宅の建設実績が減少傾向にある中、分譲戸数は、平成8年度の約2,300戸をピークに10年度には約1,500戸へと減少するとともに、1戸当たりの分譲原価もピークであった5年度の約3,900万円から10年度には約3,300万円まで下がり、1戸当たりの分譲総利益は平成5年度の221万円から10年度には187万円へと減少している。この結果、分譲事業の総利益は、平成5年度の39億円から10年度には30億円へと23パーセント減少し、分譲事業から得られる勤住協の収入は減少してきている。その一方で、固定費は増加傾向にあり、収入に占める割合は、平成5年度の48パーセントから10年度には73パーセントへと上昇している。
 このため、収入から固定費と義務的に繰り入れなければならない引当金を控除した実質的な事業利益は、平成5年度には約3億円であったが、10年度には1,300万円と減少してきており、事業収支に余裕がなくなってきている状況がみられる。
 なお、貸借対照表では、平成10年度末で剰余金が12億円計上されているが、これは主に預金利息等の事業外収入によるものであり、近年、事業外収入は減少傾向にある。
  (3) 委託事業に係る保有資産の状況
     委託事業は、勤住協が現地の住宅生協との間で業務委託契約を締結し、当該住宅生協が事業の計画から分譲までの実質的な業務を実施するものである。このため、これに伴う事業リスクについては、事業を受託する現地の住宅生協及び事業資金の融資を行う現地の労金が責任を負うとする考え方(現地解決主義)の下に事業が行われている。これを受け、勤住協の在庫住宅については、平成4年以降、竣工後3年を経過した時点で、現地の住宅生協が承継責任を負い、原価で買い取ることとされている。したがって、平成10年度末で竣工後2年以上経つ在庫住宅の保有はない。
 委託事業に係る事業用地の状況をみると、新規の用地取得面積は減少しているにもかかわらず、事業用地の保有面積は増加傾向にある。これを保有期間別にみると、平成10年度末では、保有用地143ヘクタールのうち約9割の126ヘクタールが保有期間5年未満の用地であり、保有期間が5年以上の長期保有用地の割合は低い。しかし、保有期間5年未満の用地の中に含まれている平成6年度に取得した大規模事業用地(面積61ヘクタール)は、事業期間が25年間と長期にわたるものであり、今後、その事業動向によっては、全体として用地保有期間の長期化が予想される。
  (4) 損失処理の仕組みとリスク管理の限界
     勤住協では最近10年間に2度、不良資産の処分に伴う損失処理を行っている。勤住協では、昭和60年度以降、在庫住宅や長期保有用地の増加に伴い、当期欠損金が発生し、既往債務の償還が困難となったため、昭和61年度から平成3年度にかけて、不良資産の処理を行い売却損が発生した。また、平成7年度及び8年度には、住宅生協の経営破たんに伴い、当該住宅生協が行っていた委託事業に係る資産を処分したことから、売却損が発生した。
 最初の損失処理においては、現地解決主義の下、住宅生協及び労金の負担能力を超えた損失76億円について、勤住協の分譲益や引当金の取崩し等により処理が行われ、勤住協は大きな欠損を計上せずに済んでいる。2度目においても、労金の負担能力を超えた10億円について、同様の処理が行われ、欠損を計上するには至らなかった。
 一方、勤住協の現在のリスク負担能力をみると、損失処理に用いるための引当金が18億円と利益剰余金が12億円あるのみである。同引当金については、分譲総利益の7パーセントと定率で積み立てることとされているが、分譲総利益は、分譲戸数や分譲原価に左右されるほか、在庫期間中の利息負担等によっても影響を受けるため、近年、同引当金への毎年度の繰入額は減少傾向にある。また、利益剰余金についても、分譲総利益が減少し、固定費が増加している状況下では、当期利益を生み出しにくい状況にある。
  (5) 今後の課題
     以上のように、近年、勤住協は、これまで担ってきた役割が全体として低下する中、事業収支に余裕がなくなってきている状況がみられる。
 このような状況の中、委託事業に係る勤住協のリスク負担能力には一定の限界があり、また、その負担額は住宅生協の経営内容や労金のリスク負担能力に影響されることから、今後、委託事業の動向によっては、勤住協の事業経営に影響が出るおそれがある。
 したがって、委託事業については、経営の安定化を図る観点から、事業申請に対する審査の厳格化、事業規模・内容の見直し、引当金の充実などリスク管理を徹底することが必要である。