[総合評価]
 国の開発援助と国際協力事業団の位置付け
   国は、開発途上国の経済開発や福祉の向上を支援するため、有償、無償の政府開発援助(ODA)を実施しており、国際協力事業団は、このような中で、二国間贈与(無償)による技術協力の中核的実施機関と位置付けられている。同事業団の事業は、毎年度国から指示される業務実施方針に基づき実施されることとされ、国の政策との整合性が確保される仕組みとなっている。
 国際協力事業団は、その柱となる「技術協力事業」のほか、「開発投融資事業」(開発途上国で開発事業を行う我が国の企業に対する資金の融資)、「移住投融資事業」(移住者に対する事業資金の融資)、「入植地事業」(入植地の造成・分譲)などを実施している。
 これらの事業の実施の基盤として、国から交付金及び出資金が支出されている。交付金の平成8年度末現在の累計は約2兆600億円に及んでいるが、これらは主に技術協力事業に充てられている。出資金は、開発投融資事業や移住関係事業(移住投融資事業、入植地事業等)の資金に充てられるほか、来日研修員の宿泊・研修施設等の整備資金に充てられ、平成8年度末現在の累計は1,200億円強に及んでいる。一方、事業からの収入は、投融資事業の元利返済金、宿泊・研修施設の使用料等に限られており、収入の9割以上を交付金等の公的資金に依存する財務内容となっている。
 また、資産の内訳をみると、流動負債が2割強であるのに対し、流動資産(現金・預金等)が4割強と多い状況がみられ、これが財務構造の一つの特色となっている。
   
 事業の現状とその評価
  (1)  技術協力事業
     多額の公的資金の投入
       国際協力事業団の技術協力事業には、同事業団設立以降平成8年度までの23年間で約1兆7,000億円の交付金が投入されている。同事業団分も含めた我が国の技術協力援助額は先進諸国中4番目の地位を占めており、これに占める同事業団のシェアは、52パーセントに上っている。
     主要事業の現状
       国際協力事業団の技術協力事業の中で最も基本的なものとされている「研修員受入事業」には、平成8年度末現在で約2,800億円の交付金が投入され、その受入者数は約11万人となっている(1人当たり交付金投入額は200万円強(訓練経費等の関連経費を含む。以下、1人当たり交付金投入額について同じ。))。
 この事業と並んで基本的な事業とされる「個別専門家派遣事業」は、相手国への技術移転のため、平成8年度末現在の累計で約2,300億円の交付金が投入されている。派遣者数は約1万8,000人に及び、1人当たり1,300万円弱の経費が投入されている。
 研修員受入れ、専門家派遣及び機材供与の三つの協力形態を総合的に組み合わせ、より効果的な技術移転を目的とする「プロジェクト方式技術協力事業」は、最も事業費規模が大きい。平成8年度末現在で約500件の案件に対し約4,700億円の交付金が投入されている(1件当たり交付金投入額は8億8,000万円強)。
 これに次ぐ事業費規模の「開発調査事業」をみると、開発途上国の公共的な開発計画の作成に対する支援のため、平成8年度末現在で約3,200億円の交付金が投入されている(1件当たり交付金投入額は3億2,000万円弱)。
 これらのほか、「青年海外協力隊派遣事業」には、平成8年度末現在の累計で約1,900億円の交付金が投入され、約1万5,000人が派遣されている(1人当たり交付金投入額は1,200万円強)。
 これらの主要事業について、単純な数値比較でみると、事業費は昭和62年度から平成8年度までの10年間で1.6倍から2倍程度に増加しているのに対し、この間の協力案件等数は1.2倍から1.7倍となっている。
 このように、技術協力事業は国際協力事業団の業務の中核を成すものであるが、人材の育成を基本とする事業の性格もあって、その費用対効果の状況が、こうした業務指標からおのずと明らかになるものとはなっていない。また、従来から、事業評価の実施に努力が払われてきているものの、実証的、総合的な評価としては必ずしも十分とはいえない。
 技術協力事業は多額の公的資金に依存するものであり、国民への説明責任を果たす上において、より客観的な事業効果の実証が検討課題となっている。
  (2)  開発投融資事業
     開発投融資事業は、平成5年度までに投入された出資金357億円が貸付け原資とされ、好調な事業収入にも支えられて、8年度末現在で92億円の利益剰余金を計上している。
 一方、資産の現況をみると、平成8年度末現在、276億円が貸付けに回っている反面、173億円に上る現金・預金を手元資金として保有している。昭和62年度(期首)の現金・預金の状況をみても、113億円と元々資金に余裕があった上、平成8年度に至るまで回収元本と利息が貸付けを45億円上回ったほか、62年度から5年度までの間に新たに15億円の出資金が投入されたため、資金的余剰が更に拡大したものである。現在の手元資金の残高比率(現金・預金と貸付金の合計額に占める現金・預金の額の割合)は40パーセント弱で、性格の違いはあるものの、この事業と同じように専ら資金の貸付けのみを業とするノンバンクのそれ(4パーセントから6パーセント)と比較しても極めて高いものとなっており、資金が有効に活用されていない状況にある。
 したがって、余裕金については、その有効活用の観点からの検討が必要となっている。
  (3)  移住関係事業
     出資金の現状
       移住投融資事業及び入植地事業は、平成8年度末現在の累計投入額が208億円にのぼる出資金を原資としている。
 しかし、資産の現況をみると、移住投融資事業の貸付金82億円、現金・預金14億円、入植地事業の未分譲地資産3億円、分譲済みの割賦元金7億円を合計しても105億円にすぎず、現在の出資金の実質価値は見掛けの半分に減少している。これは、両事業の開始以降、為替相場は大きく変動したが、大半が外貨建てで行われるこれら事業の実態と円建ての財務会計処理のギャップが拡大したことが一つの大きな要因と考えられる。
     移住投融資事業
       移住者に対する貸付金は、平成8年度末現在で82億円に達しているが、その37パーセント(30億円)が6か月以上返済が延滞しており、5年以上延滞しているものも11パーセント(9億円)に及んでいる。これらが回収不能になれば資金減少を助長し、移住投融資の資金需要への対応力を弱めることとなる。
     入植地事業
       国際協力事業団のアルゼンチンにおける入植分譲地は、昭和62年度までに5,850ヘクタールが造成され、平成8年度末現在、4,755ヘクタールが分譲されている。しかし、昭和62年度から平成8年度までの10年間では70ヘクタールしか分譲されておらず、なお1,095ヘクタールが売れ残っている。新規移住者の減少や円建て分譲等の背景事情からみて、今後も売れ残り分の分譲は困難とみられている。
 一方、既分譲入植地の割賦元金は、平成8年度末現在で7億円あるが、このうち実に63パーセントに当たる4億2,000万円が5年以上返済が滞っているなど、割賦元金の大半が延滞債権となっている。
 このように、入植地事業においては、見通しがないまま投下資金の回収が停滞している状況にある。
  (4)  財務運営上の課題
     移住関係事業については、出資金が実質的に半減し、かつ多額の長期延滞債権が発生するなど、健全な財務運営に向けて解決すべき課題がみられる。
 一方、開発投融資事業においては多額の余裕金が生じ、その有効活用が課題となっている。
 このような状況を踏まえ、開発投融資事業の余裕金については、投融資実績の拡大努力のほか、移住関係事業の財務内容の適正化に活用することも含め有効活用の観点からの検討が必要である。