市町村国保事業の運営の健全化
(1)  適用事務及び保険料(税)徴収事務の適正化
     国民健康保険は、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づき、市町村(特別区を含む。以下同じ。)又は国民健康保険組合を保険者とし、被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行う公的医療保険制度である。
 このうち、市町村が実施する国民健康保険(以下「市町村国保」という。)の財政状況を経常収支(収入には前年度からの繰入金等を含まない。)についてみると、平成10年度は、全国3,249市町村の55.9パーセント(1,817市町村)が赤字を計上しており、事業運営の健全化が大きな課題となっている。
     市町村国保の被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有する者であって、他の公的医療保険の被保険者(組合員)及びその被扶養者、生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護を受けている世帯(その保護を停止されている世帯を除く。)に属する者、国民健康保険組合の被保険者等国民健康保険法第6条各号のいずれかに該当する者以外の者とされている。平成10年度末現在の被保険者数は、4,102万人(2,034万世帯)となっており、その数は、近年の景気動向等を反映し増加傾向を示している。被保険者は、当該市町村の区域内に住所を有するに至った日又は国民健康保険法第6条各号のいずれにも該当しなくなった日からその資格を取得することとされており(同法第7条)、被保険者の属する世帯の世帯主は、世帯員が被保険者 の資格を取得したときには、14日以内に市町村に届け出なければならないこととされている(同法第9条第1項等)。
 厚生省は、この届出が必ずしも徹底されておらず、市町村自らが被保険者の適用促進を行う必要があるとの認識から、平成5年に、1)国民健康保険の被保険者資格と市町村民税の賦課データとの突合(市町村民税の賦課データにおいては、被用者医療保険の被保険者である可能性の高い「給与所得者」は「特別徴収」に、国民健康保険の被保険者である可能性の高い「給与所得者以外の者」は「普通徴収」に区分されていることから、普通徴収に区分されている者と市町村国保の被保険者を突合することにより適用漏れ者の把握が可能)、2)国民健康保険の被保険者資格と国民年金の第1号被保険者資格との突合(市町村が適用業務を実施している国民年金の第1号被保険者は、国民年金の第1号被保険者が20歳以上の者であること等を除けば、市町村国保の被保険者とほぼ同一であることから、国民年金被保険者リストを活用することにより適用漏れ者の把握が可能)の二つを定期的に行うことにより、適用漏れ者の把握を行うよう都道府県を通じ市町村を指導している。さらに、厚生省は、平成8年に、被保険者の中に存在する退職被保険者(被用者年金各法に基づく年金の受給権者であって、退職して市町村国保の被保険者となったもの。退職被保険者及びその被扶養者に関しては、市町村が負担した療養給付費から当該退職被保険者が納付した保険料を控除した額が、被用者医療保険の保険者から市町村に交付される。)を把握することを主たる目的として、各被用者年金保険者から送付される被用者年金受給権者一覧表等を活用(この方法により適用漏れ者の把握も可能)するよう都道府県を通じ市町村を指導している。
     市町村は、市町村国保事業の運営に要する費用に充てるために、世帯主から保険料又は国民健康保険税(以下「保険税」という。)を徴収しなければならないこととされている。
 保険料(税)を納期限までに納付しない者については、1)保険料の場合は、市町村が期限を指定して納付督促し、指定された期限までに保険料を納付しないときは、地方税の滞納処分の例により処分することができることとされており(地方自治法(昭和22年法律第67号)第231条の3)、また、2)保険税の場合は、徴税吏員は、納期限後20日以内に督促状を発し、督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに保険税を完納しないときは、当該保険税につき滞納者の財産を差し押さえなければならないこととされている(地方税法(昭和25年法律第226号)第726条、第728条)。その徴収権の時効消滅までの期間は、保険料は2年間、保険税は5年間とされている。
 厚生省は、保険料(税)の滞納者に対して、早期の実態把握及びこれに基づく適切な対応、例えば休日夜間の戸別訪問による徴収等積極的な徴収活動を行い、再三の督促、催告にもかかわらずこれに応じない場合には、負担の公平の観点から、積極的に差押えを行うよう都道府県を通じ市町村を指導している。
           
     今回、厚生省、14都道府県及び42市町村における市町村国保の適用事務及び保険料(税)徴収事務の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
     適用事務の実施状況
      (ア)  市町村国保の適用漏れ者が全国にどの程度存在するかは把握されていない。調査した42市町村のうち被保険者資格取得届の届出状況を整理している37市町村(平成9年度末現在の被保険者総数138万1,107人)について、平成9年度の届出状況を調査したところ、すべての市町村において世帯主からの届出が徹底されておらず、届出総数17万6,809件の10.8パーセントは、資格取得後3か月以上経過した後に届出が行われており、1年以上経過しているものも3.5パーセントに上っている。これらの者は、未届けの期間中は適用漏れ者であったことになる。
 平成9年度における全国の被保険者資格取得者数は618万人であり、上記の調査結果を踏まえれば、全国的には、届出までに長期間を要している者や資格を取得しながら未届けのままとなっている者が相当数存在するものとみられる。
      (イ)  平成9年度における全国の市町村国保の被保険者資格取得者の取得理由をみると、被用者医療保険の被保険者資格の喪失による者が65.0パーセント、他の市町村からの転入による者が22.1パーセント、出生による者が3.5パーセントの順となっており、これらで全体の約9割を占めている。
 調査した42市町村では、転入者については転入届(国民健康保険の被保険者資格を取得した者は、その旨を付記することとされている。)により、また、出生者については母子手帳の交付等によりすべてを把握し、適用している。このような状況からみて、適用の適正化を図るには、市町村国保の被保険者資格取得者の半数以上を占める被用者医療保険の被保険者資格喪失者について、資格取得者の把握・適用を的確に行うことが重要である。
 調査した42市町村について、転入者及び出生者以外の適用漏れ者の把握状況をみると、把握措置を講じているものが21市町村、把握措置を全く講じていないものが21市町村となっている。把握措置を講じていない市町村は、その理由として、1)厚生省から示されている適用漏れ者の把握方法では的確な把握ができないこと、2)これらの方法で適用漏れ者を特定するためには、本人に照会するなどの煩瑣な作業が必要になり、これを実施する時間的余裕がないこと、3)国民年金担当部局の協力が得られないこと等を挙げている。
 また、把握措置を講じている21市町村について、厚生省が指導している適用漏れ者の把握方法の励行状況をみると、1)課税データのみを活用しているものが1市町村、2)国民年金被保険者リストのみを活用しているものが1市町村、3)1)と2)の両方を活用しているものが2市町村、4)被用者年金受給権者一覧表のみを活用しているものが6市町村、5)1)と4)を活用しているものが1市町村となっており、計11市町村(調査した42市町村の26.2パーセント)が励行しているにすぎない。
 一方、厚生省が指導している把握方法によらず、独自の方法により把握措置を講じている11市町村では、社会保険庁から送付されている被用者年金被保険者資格喪失者一覧表を活用しているものが5市町村、市町村の国民年金担当部局が把握した国民年金第1号被保険者適用漏れ者リストを活用しているものが6市町村となっている。
 調査した42市町村では、厚生省が指導している把握方法の活用に当たっての隘路として、次の諸点を挙げている。
        1)  課税データの活用については、(i)データが前年度所得に基づくものであるため、既に被用者医療保険の被保険者となっている者等も多く、市町村国保の被保険者であるこ との確認作業が煩瑣であること(11市町村)、(ii)課税データを他の目的に利用することは目的外使用と考えられ ること(10市町村)。
        2)  国民年金被保険者リストの活用については、(i)同リストを他の目的に利用することは、目的外使用になるとして国民年金担当部局の協力が得られないこと(4市町村)、(ii)市町村国保よりも国民年金第1号被保険者の方が適用漏れ者が多いと考えられることから、同リストは、市町村国保の適用漏れ者を把握する資料として適当でないこと(2市町村)。
         
(注)  ただし、(ii)については、市町村は、平成7年度以降、被用者年金の被保険者資格喪失者の把握等により、積極的に国民年金第1号被保険者の適用漏れ者の把握・適用を推進してきており、現在においては、市町村国保の適用漏れ者の把握にも有効な資料と考えられる。
        3)  被用者年金受給権者一覧表の活用については、(i)当該リストの利用目的は、誤って一般被保険者として適用されている退職被保険者を把握し、適正に適用するためのものであると理解していること(10市町村)、(ii)当該リストの登載者は、比較的高齢で受診の機会も多いことから、既に市町村国保の被保険者又は被用者医療保険の任意継続被保険者となっている者が多く、適用漏れ者の把握資料としては適当でないと考えていること(8市町村)。
      (ウ)  被保険者資格取得届の届出の徹底を図るためには、地域の実情及びこれまでの勧奨方法と届出実績等の成果を分析・検討し、その結果を踏まえ、効果的と思われる方法によって届出を勧奨していくことが重要である。
 調査した42市町村のうち、適用漏れ者を把握している21市町村における届出勧奨の実施状況をみると、同一人に対して、1市町村は年3回(文書2回、電話1回)、5市町村は年2回(文書、口頭(電話等))勧奨を実施するなど、相当な労力を要して、届出の促進を図っている。
 残る15市町村は年1回しか届出勧奨を実施しておらず、その勧奨内容をみると、12市町村は、把握した適用漏れ者数、勧奨実施者数(届出勧奨の方法は、5市町村は文書により実施しているが、10市町村は口頭(電話等)により実施している。)及び勧奨による届出状況を整理していないため勧奨の効果が分からないものとなっており、残りの3市町村は、適用漏れ者であることの確認と届出の勧奨を兼ねた文書を送付しているが、これに対して回答のない者等について特段の措置を講じていない。これら15市町村は、適用漏れ者に対して届出を徹底させることは現在の体制では困難であるとしている。
 一方、調査した42市町村の国民年金担当部局は、国民年金の第1号被保険者の適用漏れ者の適用を促進するため、独自に、前述の被用者年金被保険者資格喪失者一覧表を活用して、適用漏れとみられる者に対して、文書により適用勧奨等を実施している。この中には、自ら工夫して、国民健康保険担当部局と国民年金担当部局が連携を図って、市町村国保の適用勧奨と国民年金の適用勧奨とを一体的に実施し、その結果、平成9年度の被用者年金被保険者資格喪失者一覧表の登載者(1,226人)で市町村国保の被保険者の該当者であることが判明した1,195人のうち1,060人(88.7パーセント)に届け出させるなど勧奨効果を上げているものが1市町村みられる。 しかし、他の市町村では、このような関係部局間の密接な連携が図られていない。このような連携を図ることについて、厚生省は、特段の指導を行っていない。
     保険料(税)徴収事務の実施状況
      (ア)  全国における平成元年度から10年度までの間の市町村国保の保険料(税)収納率は、2年度の94.2パーセントを最高に毎年度低下し、10年度は91.8パーセントとなっている。また、当該収納率の低下に伴い、保険料(税)の時効消滅額は、毎年度増加し、10年度では848億円に達している。
      (イ)  調査した42市町村では、いずれも、滞納者に対し、1)年3回から12回の納期限ごとに、当期保険料(税)納付の督促状を、2)滞納保険料(税)全額について、年1回から12回催告状を送付するとともに、必要に応じ、平日夜間や休日を含め電話や戸別訪問による納付督促を実施している。
 しかしながら、このように納付督促を積極的に実施しても納付に応じない者が多数存在し、42市町村における平成9年度の時効消滅額は、全体で67億9,400万円と、保険料(税)調定額(徴収することを決定した保険料(税)の額)1,521億4,100万円の4.47パーセントに及んでおり、納付督促のみでは保険料(税)徴収に限界があると考えられる。
      (ウ)  このようなことから、納付督促に応じない者に対しては滞納処分(差押え)の実施が不可欠であると考えられるが、調査した42市町村における滞納処分等の実施状況をみると、次のとおり、極めて消極的な実態がみられる。
        1.  42市町村のうち30市町村においては、平成7年度から9年度までの間において、合計6,578件、18億2,700万円の滞納処分を実施している。
 しかし、他の12市町村は、平成7年度から9年度までの間において、滞納処分を全く実施しておらず、そのこともあって、この3年間の時効消滅額が合計31億3,389万円(2市町村は時効消滅額が発生していない。)に上っている。また、滞納処分を実施している30市町村にあっても、12市町村は、平成9年度末現在の滞納世帯数に対する7年度から9年度までの間に滞納処分を実施した世帯数の割合(滞納処分実施率)が0.5パーセント以下(この3年間の時効消滅額は132億128万円)と低いものとなっており、中には、9年度において、保険料調定額約430億円の8.4パーセントに当たる約36億円の時効消滅額が生じているにもかかわらず、1件しか滞納処分(差押えに係る金額29万4,000円)を実施していない市町村もある。
 ちなみに、滞納処分を実施していない市町村は、その理由として、(i)滞納処分を実施すると被保険者の感情を害し、トラブルの発生が懸念されること(7市町村)、(ii)担当部署に滞納処分の実施に係るノウハウがないこと(3市町村)、(iii)滞納者に有効な差押財産がない場合が多いと考えられること(3市町村)を挙げている(複数回答)。
        2.  一方、滞納処分実施率が0.51パーセント以上の18市町村の中には、(i)平成9年度において、同年度末現在の滞納世帯数の1割強に当たる840世帯について滞納処分を実施し、同年度の時効消滅額1億853万円の約3倍に当たる3億775万円を差し押さえているもの、(ii)9年度から滞納処分の実施を含め保険料収納率の向上に積極的に取り組んだ結果、保険料収納率が7年度の90.9パーセントから9年度には94.7パーセントに向上しているもの、(iii)電話債権や税の還付金を中心に差押えを実施し、中には、電話債権(約3万円)の差押えにより92万円の滞納額を完済させる等滞納処分を積極的に実施し、効果を上げている例がある。
        3.  同一都道府県内において、被保険者数が20万人規模の3市における平成9年度の保険料調定額に対する保険料時効消滅額の割合を比較してみると、滞納処分を実施している2市は3.10パーセント及び3.24パーセントであるのに対し、滞納処分を実施していない市は4.37パーセントと1ポイント以上高いものとなっており、滞納処分の実施が保険料の時効消滅額の減少に寄与していると考えられる。
           
     したがって、厚生省は、市町村国保の保険財政の健全化を推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  市町村において、国民年金部局との連携等による的確、効率的な適用漏れ者の把握、届出勧奨の確保方策を検討すること。
    2.  市町村職員に対する滞納処分制度の意義、実務等に係る研修の実施、効果的な滞納処分の実施事例の収集・配布等による厳正な滞納処分の確保方策を検討すること。
     

  (2)  レセプト審査・点検の在り方の見直し
     保険医療機関又は保険薬局(健康保険法(大正11年法律第70号)第43条第3項第1号に規定する保険医療機関又は保険薬局をいう。以下「保険医療機関等」という。)は、国民健康保険の被保険者の疾病及び負傷に関して、診察、治療、薬剤等の支給等療養の給付を行ったときは、これに要する費用の額から当該被保険者が支払う一部負担金(一般被保険者の場合、総額の3割以下の額と薬剤についての一定の額)に相当する額を控除した額を保険者に請求することができることとされている。
 一方、保険者は、保険医療機関等から療養の給付に関する費用の請求があったときは、これを審査した上で支払うこととされているが、すべての保険者は、厚生省の方針を踏まえ、審査及び支払に関する事務を国民健康保険団体連合会(以下「国保連合会」という。)に委託している。また、国保連合会は、診療報酬請求点数が42万点以上のものに係る審査を国民健康保険中央会に再委託している。
 国保連合会は、国民健康保険法第84条第1項に基づき、都道府県知事の認可を受けて保険者が設立する法人であり、現在、全都道府県において設立され、すべての保険者が加入している。国保連合会には、保険者から受託した診療報酬請求書(以下、診療報酬請求書に添付されている診療報酬明細書を含め「レセプト」という。)の審査(以下「レセプト審査」という。)を行うため、都道府県知事が委嘱するそれぞれ同数の保険医・保険薬剤師、保険者、公益を代表する委員をもって構成する国民健康保険診療報酬審査委員会(以下「審査委員会」という。)が置かれている。
 また、厚生省は、保険者に対し、診療報酬の支払の適正化を図るため、自らレセプトの点検調査(以下「レセプト点検」という。)を的確に行うよう指導しており、レセプト点検の重点項目として、1)被保険者資格の点検(以下「資格点検」という。)、2)縦覧点検(同一被保険者が複数月にわたり同一の保険医療機関等で同一の病名による療養の給付を受けている場合等における重複請求等の有無の突合を行うもの)、3)交通事故等第三者の行為が給付発生原因となっているものの把握、4)診療報酬請求点数の点検等を挙げている。
 保険者が保険医療機関等に支払う療養給付費に対しては、国庫補助金(市町村国保の場合、補助率は4割以上)が交付されることとなることから、レセプト審査及びレセプト点検が的確に実施されることは、国民健康保険事業の健全化はもとより、国庫補助の適正化にも資するものであり、重要であると考えられる。
           
     今回、厚生省、15都道府県15国保連合会及び43市町村におけるレセプト審査等の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
     国保連合会における平成10年度の国民健康保険に係るレセプト審査の実施状況をみると、レセプト受付件数が3億3,474万件、請求額が6兆8,496億円であるのに対し、確定件数が3億3,137万件、支払額が6兆7,576億円であり、請求点数の誤り等を訂正した過誤調整件数は243万件、これによる減額査定額は920億円(請求額に対する割合(減額査定金額率)は1.34パーセント)と多額に上っている。
     国保連合会が行っているレセプト審査及び保険者が行っているレセプト点検の一般的な流れ等は、おおむね次のとおりである。
      1.  国保連合会は、保険医療機関等から提出されたレセプトについて、
       
(i )
 事務局(審査担当事務職員)が、保険医療機関コードの確認等の形式審査、レセプトに記載されている診療報酬点数の検算、診療報酬点数表との照合等のレセプト各欄の記載事項の確認等を行う。
       
(ii)
 審査委員会が、診療内容の妥当性等の審査を実施する。ただし、高額なレセプト(従前は請求点数が10万点以上を目途としていたが、平成10年7月以降8万点以上を目途)については、審査委員会の中に設けられている審査専門部会において専門的な見地から集中的に審査を実施する(以下、(i)と(ii)の審査を併せて「1次審査」という。)。
       
(iii)
 1次審査の結果、記載内容に不備がある等のレセプトは保険医療機関等に返戻し、請求内容が適正であると決定したレセプトや過誤調整済みのレセプトを保険者に送付する。
      2.  保険者は、国保連合会から送付されたレセプトについてレセプト点検を実施し、その結果、請求内容が適正なレセプトについては支払を決定し、誤り又は疑義のあるものについては、資格や計算間違い等明確な誤りは直ちに過誤調整を行うよう、また、診療内容に疑義があるものは、審査委員会による再審査(以下「2次審査」という。)及びその結果に基づく過誤調整を行うよう国保連合会に申し出る。
      3.  国保連合会は、保険者から、過誤調整や2次審査の申出のあったレセプトを受領し、2次審査等を実施する。
     調査した15国保連合会においては、専門的立場から的確な審査が期待されているレセプトの診療内容に関する減額査定額は平成9年度において149億7,175万円である。このうち、国保連合会の1次審査による減額査定が61億618万円(40.8パーセント)、国保連合会の審査済みのものに対して保険者の点検により疑念が認められ2次審査により減額されたものが88億6,557万円(59.2パーセント)となっており、国保連合会での審査上の漏れが多いものとなっている(ちなみに、資格審査等を含む2次審査全体の減額査定額は354億8,820万円である。)。
 また、調査した15国保連合会における1次審査の実施状況をみると、本来、すべてのレセプトについて審査委員会で審査することとされているが、実際には、審査担当事務職員が事前に審査した上、請求内容に疑問のあるものや請求点数が高点数のもの等について審査委員会又は審査専門部会が審査している。
 調査した43市町村のうち、平成9年度において請求点数10万点以上のレセプト(国保連合会の審査専門部会の審査対象レセプト)のレセプト点検を実施している38市町村について、当該レセプトの中から1,749件を抽出し、診療内容に関する減額査定状況を調査した結果、減額査定されたものは1,070件、3,766万円であり、1次審査による減額査定が705件、3,166万円、2次審査による減額査定が365件、600万円となっている。このうち、2次審査による減額査定の理由を把握できた23市町村についてみると、2次審査により減額査定されたものの約9割は、検査の必要回数等1次審査の主要な審査事項である診療内容の妥当性に係るものであり、国保連合会の1次審査が不十分となっている実態がみられた。
 このような状況となっている原因は、1)次審査の審査期間が20日間(保険医療機関等から診療月の翌月10日までに提出されたものをその月末までに審査。平成10年3月以前は、提出された月の25日までの15日間で審査)と決められていること、2)一方、レセプトの審査件数に比して職員数が十分確保されていないこともあって、平成9年5月における全国のレセプト審査の事務担当職員及び審査委員(医師、歯科医師及び薬剤師)の1人1件当たり審査時間は、それぞれ16.6秒及び3.5秒(いずれも当庁の試算)と少ないなど、レセプト審査体制が弱体であること等が考えられ、国保連合会のレセプト審査に係る機能が十分果たされていない状況となっている。
 国保連合会は、レセプト審査事務担当職員数の増員については、レセプト審査の電算システムの高度化構想を有しており、これが実現された場合には余剰人員を抱え込むことになることを懸念している。しかし、これについては、非常勤職員の活用(実際にも、ほとんどの国保連合会で活用されている。)などの対策が考えられる。
 なお、国保連合会におけるレセプト審査に要する経費は、主として保険者からの委託手数料で賄っており、平成9年度における全国47国保連合会に対する保険者からの委託手数料(支払事務に係る手数料を含む。以下同じ。)は、215億7,281万円(このうち、調査した15国保連合会における委託手数料は86億9,813万円)となっている。
     厚生省は、レセプト審査を国保連合会に委託している各保険者に対し自らもレセプト点検を実施するよう指導している。
 厚生省は、その理由として、国保連合会のレセプト審査に係る現在の電算処理システムでは、縦覧点検及び交通事故等第三者行為の特定ができず、また、資格点検については、市町村からの資格の取得・喪失に係るデータの提供が即時に行われていないことなどから、保険者において実施せざるを得ないこと、さらに、国保連合会のレセプト審査に限界があることを挙げている。
 調査した43市町村すべてにおいて、嘱託職員や外部委託の活用によりレセプト点検を実施しているが、その実施内容をみると、1)内容点検の対象範囲については、すべてのレセプトを対象としているものが34市町村(79.1パーセント)ある一方、請求点数が7,000点以上のもの等と対象を限定しているものが9市町村(20.9パーセント)ある。2)保険者しか実施できないとされている点検については、資格点検及び交通事故等第三者の行為が給付発生原因となっているものの把握はすべての市町村が、縦覧点検は40市町村が実施している。3)国保連合会でも実施している審査については、診療報酬点数の検算を実施しているものが36市町村、診療報酬点数表との照合を実施しているものが42市町村、診療内容の妥当性に係る点検を実施しているものが40市町村ある。
     調査した43市町村のうち、内容点検等を外部委託しており、その経費が明らかな15市町村における平成9年度の委託経費は、全体で4,082万円である。これに対し、委託したレセプト点検により減額査定された額は、委託経費を大きく上回る2億3,322万円に上っている。
     国は、レセプト審査・点検により医療費の請求が適正化される結果、療養給付費等に対する国庫補助金が削減されることから、当該審査・点検に要する経費について、昭和51年度から国庫補助金を交付している。平成10年度においては、国保連合会に対して20億198万円(国民健康保険団体連合会等補助金。支払事務に対する補助を含む。)、市町村に対して39億4,333万円(国民健康保険助成費の財政調整交付金)を交付している。
 このうち、市町村に対する国庫補助金は、被保険者1人当たりの減額査定額が多額である市町村又はレセプト点検事務を充実強化した市町村に対して交付されているものである。調査した43市町村のうち、国庫補助金の交付を受けているものが32市町村、受けていないものが11市町村となっている。しかし、42市町村では、レセプト点検に要する経費に見合う減額査定額が確保されることや、市町村国保の財政が極めて厳しく保険財政の健全化を迫られている現状から、レセプト点検を充実する必要性を認識し、国庫補助の有無にかかわらず、これに積極的に取り組んでおり、これらの市町村においては、レセプト点検は業務としてほぼ定着している。その一方で、残りの1市町村は、国庫補助制度を通じて、長年、厚生省からレセプト点検の充実を奨励されているにもかかわらず、一部の事項や一部のレセプトについてしか点検していないなど、レセプト点検に対する対応が不十分となっている。このようなことから、国庫補助の必要性等について検討の余地が認められる。
           
     したがって、厚生省は、国保連合会及び保険者におけるレセプト審査・点検の効率化等の観点から、次の措置を講ずる必要がある。
    1.  国保連合会におけるレセプト審査の充実化方策を検討すること。
    2.  市町村におけるレセプト点検奨励のための国庫補助について、廃止を含め、その在り方を検討すること。

 国民健康保険組合に対する国庫補助の見直し
   国民健康保険組合(以下「国保組合」という。)は、同種の事業又は業務に従事し、当該組合の地区内に住所を有する者を組合員とし、都道府県知事の認可を受けて設立されるものであり(国民健康保険法第13条第1項及び第17条第1項)、組合員及び組合員の世帯に属する者を被保険者として、療養の給付等の国民健康保険事業を実施している。
 国保組合は、1)旧国民健康保険法(昭和13年法律第60号)が制定された当時、健康保険法に基づく健康保険の対象業種が制約されていたこと、2)旧国民健康保険法においては、市町村国保は任意実施とされていたことを背景として、健康保険の対象とされていなかった業種に属する者に対して医療保険を給付するものとして創設された。その後、新国民健康保険法の制定(昭和33年)により、市町村を国民健康保険の実施主体と位置付け、国民皆医療保険を実現した昭和36年度以降においても、職域の国保組合として存続している。厚生省は、市町村を国民健康保険の実施主体と位置付けた後は、市町村国保の運営に与える影響を考慮し、国保組合の新設については慎重に対応するよう都道府県を指導しており、建設業のいわゆる一人親方について、健康保険法の適用を廃止し、国民健康保険の適用対象とした制度改正に伴う建設業関係組合の設立(昭和45年)及び沖縄の復帰に伴う沖縄県を地域とする組合の設立(昭和49年)を除き、国保組合は新設されていない。
 国保組合は、平成12年4月末現在、166組合が設立されており、その内訳は、医師を組合員とするものが47組合、建設業従事者を組合員とするものが33組合、歯科医師を組合員とするものが27組合、薬剤師を組合員とするものが18組合、その他のものが41組合となっている。
 国保組合に対しては、国庫補助として、次のものが交付されており、その総額は3,152億円に及んでいる。
 
1.
 療養給付費、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づく老人医療費拠出金及び介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく介護納付金について、それぞれ原則33.5パーセントから52パーセントを交付する(i)療養給付費補助金(平成12年度予算額1,762億円)、(ii)老人保健医療費拠出金補助金(同1,068億円)、(iii)介護納付金補助金(同226億円。平成12年度新設)
 
2.
 出産育児一時金(1件当たり基準額30万円)に対し、7万5,000円を定額補助する出産育児一時金補助金(同26億円)
 
3.
 国保組合の事務に要する費用の一部(定額)を交付する事務費負担金(同30億円)
 
4.
 保健事業等に要する経費の一部(定額)を交付する国民健康保険特別対策費補助金(同40億円)
     
   今回、厚生省、23国保組合における国庫補助の実施状況、財政状況、被保険者の状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。
   平成12年度の国保組合に係る療養給付費補助金、老人保健医療費拠出金補助金及び介護納付金補助金の予算額は3,056億円であり、国保組合に対する国庫補助金の予算総額3,152億円の約97パーセントを占めている。
 療養給付費補助金、老人保健医療費拠出金補助金及び介護納付金補助金は、1)療養給付費、老人保健医療費拠出金又は介護納付金のそれぞれ原則32パーセント(全国土木建築国民健康保険組合については、日雇労働者及び事業主、役員、常用従業員の家族のみが補助対象であり、また、各組合とも、一部の被保険者については、13.7パーセント又は16.4パーセント(注参照)である。)に相当する額(定率補助)と、2)各組合の財政力に応じて、療養給付費、老人保健医療費拠出金及び介護納付金補助金の原則1.5パーセントから20パーセント(5区分)に相当する額(以下「普通調整補助金」という。全国土木建築国民健康保険組合については交付されていない。)等を合算したものであり、全組合に交付されている。
 なお、普通調整補助金は、全組合の療養給付費、老人保健医療費拠出金総額及び介護納付金補助金の15パーセントを上限としている。
(注)  健康保険の被保険者に該当する者であっても同法の被保険者にならないことについて健康保険の保険者の承認を受けた者は国保組合の被保険者となることができるとされている(健康保険法第13条の2及び第69条の8。以下、この承認を受けた者とその世帯に属する当該組合の被保険者とを「組合特定被保険者」という。)。
 組合特定被保険者に対する療養給付費補助金及び老人保健医療費拠出金補助金については、政府管掌健康保険における国庫負担(13パーセント又は16.4パーセント)との整合性を図る観点から、平成9年9月1日にその補助率がそれぞれ13.7パーセント及び16.4パーセントに引き下げられた。
 ただし、国保組合経営の激変を緩和するため、平成9年法律第94号附則第7条に基づき、9年8月31日以前に加入した組合特定被保険者については、なお従前の例によるとされている。
 普通調整補助金の交付額(補助率)の算定基礎となる国保組合の財政力については、各組合の被保険者の所得調査の結果を基に、被保険者の所得と国保組合が負担している療養給付費、老人保健医療費拠出金及び介護納付金補助金の額とから算定するものとされている。しかし、現在、各組合に適用されている補助率は、昭和58年度に実施した被保険者の所得調査の結果等から算定された国保組合の財政力に基づき59年度に定められたものであり、その後見直されていない。
 このため、調査した23国保組合のうち、被保険者の所得を把握している4組合についてみると、被保険者1人当たりの所得に対する補助対象療養給付費(国保組合の療養給付費負担割合を9割を上限として算定した額)の割合が34.1パーセントである国保組合の補助率が42パーセントであるのに対し、この割合が19.6パーセントとより財政力のある国保組合の補助率が47パーセントとなっており、補助率の適用が現在の国保組合の財政力を反映したものとなっていない状況がみられる。
   被用者医療保険に対する国庫補助をみると、健康保険組合については、平成9年度の全国の被保険者(家族は含まれていない。)の平均所得(標準報酬月額による推計額)は約605万円であるが、国庫補助は原則として交付されていない。また、政府管掌健康保険については、平成9年度の全国の被保険者(家族は含まれていない。)の平均所得は約414万円であるが、国庫補助は、療養給付費の13パーセント及び老人医療費拠出金の16.4パーセントとなっている。
 一方、国保組合の中には、平成9年度において、組合員1,189人のうち中心となる職種の者607人(51.1パーセント)の1人当たりの年間所得が約2,600万円と高額であり、組合員については療養費に対する一部負担がないなど、財政力が高い組合であるにもかかわらず、療養給付費補助金及び老人保健医療費拠出金補助金の適用率は、普通調整補助金としての1.5パーセントが加算された33.5パーセント(補助金額は8,355万円)となっているものがある。
   国民健康保険の療養給付費における被保険者の一部負担金は、療養給付費の3割以下の額とされており、調査した110市町村国保のうち、3割を下回っているのは1市町村(本人及び家族とも2割)のみである。
 しかし、国保組合においては、組合員等の一部負担金の割合を低減しているものが多く、平成11年4月1日現在、組合員について3割負担としているものは166組合中40組合(24.1パーセント)にすぎず、87組合(52.4パーセント)が1割以下(負担なしのものは14組合)の負担となっているなど、総じて保険財政が豊かな状況がうかがわれる。
     
   したがって、厚生省は、国保組合に対する国庫補助の適切化を図る観点から、国保組合の財政力を的確に把握することにより、財政力が高い国保組合に対する国庫補助率の引下げを検討するとともに、各組合に対する国庫補助率の適用の適切化を図る必要がある。

 保健事業の効果的実施
   国民健康保険の保険者は、健康教育、健康相談、健康診査その他の被保険者の健康の保持増進のために必要な事業(以下「保健事業」という。)を行うように努めなければならないこととされている(国民健康保険法第82条第1項)。
 厚生省は、保健事業の実施について、従来から、次のとおり保険者を指導している。
 
1.
 保健事業の内容は、被保険者の適正受診等に関する教育指導 (受診等に際して必要な知識・情報の提供等)、健康管理事業(健康相談等)、疾病予防、重症化防止に関する事業(中高齢者検診と事後継続管理等)等に重点を置いて実施すること。
 
2.
 保健事業の実施に当たっては、明確かつ具体的な保健事業実施計画を策定すること。また、レセプトによる病類別疾病統計等の関係諸統計、地区別世帯別受診状況等の関係諸資料及び関係諸情報を整備、収集、分析して、保健事業の必要度を把握し、これを実施計画の策定、事業の実施に活用すること。
 
3.
 保健事業の実施結果について、必要な分析を行うとともに効果の測定を行い、事後における実施計画の策定、事業の実施に活用すること。また、効果の測定は、できる限り数量化し得る指標を用いて、比較分析することが望ましいこと。
 
4.
 保健事業費は、保険料(税)収入の1パーセント以上とすること。
   さらに、厚生省は、平成7年度からは、市町村の保健事業をより総合的に展開させるため、国民健康保険法による保健事業と老人保健法等による保健事業との連携を図り、市町村の保健事業の水準を全体として向上させることを目的として、「国保総合健康づくり推進事業」を実施するよう指導している。厚生省は、これによる具体的な事業内容として、1)各種健康教育、2)各種健康相談、3)健康診査事業、4)高齢者対策事業(寝たきり老人防止事業と高齢者の生きがいづくり)、5)健康の保持増進、体力増進事業、6)生活習慣改善事業、7)地域活動等組織の育成事業等を挙げている。
 また、厚生省は、昭和55年度から、経営主体としての保険者が被保険者に健康に対する認識を深めさせ、ひいては国民健康保険事業の健全な運営に資することを目的として、受診年月(施術年月)、受診者名(施術を受けた者の氏名)、医療機関等の名称、入院・通院・歯科・薬局・柔道整復師の施術の別、入院・通院・柔道整復師の施術の日数、医療費の額について、全受診世帯に通知(以下「医療費通知」という。)するよう指導している。
       
   今回、厚生省、15都道府県及び44市町村における保健事業の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
  (1)  保健事業の実施状況
     平成10年度に全国の保険者が支出した保健事業費は、保険料収入3兆4,199億円の約1.7パーセント(以下、保険料収入に対する保健事業費の割合を「保健事業費率」という。)に当たる約590億円(市町村分約453億円、国保組合分約137億円)となっている。国は、市町村のうち、1)効果的とみられる個別の保健事業を実施しているもの、2)保健事業に積極的に取り組み、事業効果を上げていることが客観的に判断できるもの、3)保健事業費が多額であるものに対して、昭和52年度から財政調整交付金を交付しており、また、保健事業を実施している国保組合に対して、平成9年度から国民健康保険特別対策費補助金を交付している。
 全国における保健事業に対する国庫補助金の交付実績をみると、平成10年度においては、市町村に対する財政調整交付金は、保健事業費の総額約453億円の41パーセントに当たる185億7,700万円が、国保組合に対する国民健康保険特別対策費補助金は、保健事業費の総額約137億円の2.5パーセントに当たる3億5,000万円がそれぞれ交付されており、交付額の合計は、189億2,700万円(保健事業費の総額の32パーセント)と多額に上っていることから、保健事業の効果的な実施が求められている。
     調査した44市町村における平成9年度の保健事業費の総額は、保険料収入1,299億9,420万円に対し、9億5,820万円(保険事業費率0.74パーセント)であるが、市町村により、保健事業費率については、最低0.13パーセント、最高17.90パーセント、また、保健事業の種類についても、最少1事業、最多12事業(平均6事業)と保健事業への取組に大きな格差がある。
 これを地域的にみると、特に、大都市圏の市町村において保健事業の実施が低調な状況がみられる。このことについて、各市町村は、1)住民に対する地域保健事業を実施しており、国民健康保険の被保険者のみを対象とした保健事業の必要性が乏しいこと、2)体制上の制約もあり、多数の被保険者を対象とした効果的な保健事業が見いだせないこと等の理由を挙げている。
     調査した44市町村のうち、保健事業の効果についての評価を実施しているものは、14市町村(31.8パーセント)と少なく、他の30市町村は、評価方法が分からない等として実施していない。評価を実施している14市町村における評価方法をみると、客観的なデータ等に基づき評価を行っているものは6市町村(13.6パーセント)のみであり(このうち、4市町村は評価の対象を一部の事業に限定している。)、他の8市町村は、医療費の抑制、適正化等の点で効果が顕著であるとしているが、客観性、具体性に欠けるものとなっている。
 このように、保健事業については、多くの市町村が、事業実施が医療費の抑制、適正化にどの程度の効果をもたらしているのかが分からないまま、厚生省の指導に基づいて継続的に実施している状況がうかがわれる。
 一方、調査した市町村の中には、1)多発する生活習慣病の原因分析を行い、その結果に基づき、住民の食生活の改善に組織的に取り組むとともに、健康に特に留意が必要な者の自宅にコンピュータの端末を設置し、日常的な健康管理及び異常値を示した者に対する迅速な対応等を実施した結果、療養給付費の伸び率が抑えられ、保険料の引下げを行い得たと評価しているもの、2)保健事業費率は低いものの、重複受診者、多受診者に対し、保健婦による保健指導を実施した結果、指導を受けた者に係る医療費が減少していると評価しているものがみられる。
     なお、財政調整交付金のうち、受診率(若人)の伸び率が低くなったことを要件として交付されているもの(平成10年度交付金51億4,900万円)については、保健事業の効果との相関関係が必ずしも明確ではないこと等から、平成11年度に廃止されている。
  (2)  医療費通知の実施状況
     厚生省は、被保険者に対し、受診後速やかに受診に係る医療費情報を提供することにより、健康に対する認識を深めさせ、医療費の適正化を通じて国民健康保険事業の健全な運営に資することを目的として、昭和55年度から、所定の回数以上医療費通知を実施した保険者に対して、市町村に対しては財政調整交付金を、国保組合に対しては国民健康保険特別対策費補助金を交付している。
 両補助金は、平成9年度においては、年間5回以上(平成10年度から年間6回以上)医療費通知を実施している保険者に対して交付することとされており、その額は、医療費通知を5回実施した場合には、通知延べ世帯数に50円を乗じて算出した額等とされている。
     全国における医療費通知に対する国庫補助金の交付実績をみると、平成10年度においては、市町村に対する財政調整交付金は22億2,400万円(2,639市町村を対象に1市町村平均84万円)が、国保組合に対する国民健康保険特別対策費補助金は3億2,688万円(166組合を対象に1組合平均197万円)がそれぞれ交付されており、交付額の合計は25億5,089万円に上っている。
 なお、調査した43市町村については、平成9年度において、36市町村に対し9,481万円の財政調整交付金が交付されており、このうち、交付額が100万円未満のものが15市町村(最低24万円)となっている。
     調査した43市町村における平成9年度の医療費通知の実施状況をみると、全市町村で1回から12回実施されているが、5回以上実施することが補助の要件となっていることもあって、5回以上実施しているものが90.7パーセント(39市町村)を占めている。
 しかしながら、厚生省は、医療費通知の実施回数の多寡と医療費の適正化の関係など補助事業の効果やその必要性に関する評価を行っていない。また、調査した15都道府県の中には、医療費通知の実施回数の多寡と医療費の相関関係について分析を行っているものが1都道府県あるが、当該都道府県では、通知回数の多寡と医療費の抑制効果との相関関係について明確な結論は得られなかったとしており、残りの14都道府県では、このような分析を全く行っていない。さらに、調査した43市町村では、医療費通知の実施回数の多寡と医療費の適正化の関係などの評価を行わないまま、厚生省の指導等に従って、医療費通知を上記のとおり多数回実施している。これらの市町村の中には、医療費情報が漏れなく盛り込まれているのであれば、通知回数は年2回程度でよいのではないか等としているものが5市町村(11.6パーセント)ある。
       
     したがって、厚生省は、療養給付費の抑制、適正化に資する効果的な保健事業を実施する観点から次の措置を講ずる必要がある。
    1.  保健事業の効果の評価方法及び地域の特性に応じた効果的な保健事業の在り方に関する調査研究を実施し、その成果の普及を図るなど効果的な保健事業の実施方策を検討すること。
    2.  医療費通知制度の目的を踏まえつつ、同通知に係る国庫補助事業について、医療費の適正化の観点からの事業効果の評価を行い、その結果を踏まえ、国庫補助の廃止を含め、その在り方を見直すこと。

 診療報酬の減額に伴う支払済一部負担金の調整
   国民健康保険において、保険医療機関等から請求された診療報酬(医療費)が審査支払機関である国保連合会の審査により減額された場合には、患者(被保険者)が既に保険医療機関等に支払った一部負担金の調整問題が発生する。
 厚生省は、従来、保険者から被保険者に対してその医療費が審査支払機関で減額されたことを通知する仕組みがなかったため、減額に係る一部負担金がほとんど保険医療機関等に返還請求されていなかったことから、昭和60年4月、各保険者に対し、審査支払機関の診療報酬の審査により医療費の額に減額があった場合には、保険者の事務量等を勘案しつつ、一部負担金の額の減額の大きいケースについては、医療費通知にその額を付記するよう指導している。
 この厚生省の指導に伴い、国保連合会を会員として構成されている国民健康保険中央会は、各国保連合会に対し、昭和60年7月、1)医療費通知に減額された医療費を付記するとともに、減額により一部負担金に過払いが生じている場合には、その分を保険医療機関等と話し合って返還してもらうことができる等の説明を添付すること、2)医療費通知に付記する対象は、保険者の事務量等を考慮し、差し当たり、査定額に係る自己負担相当額が1万円以上のレセプトとすること等の実施方針を示している。
       
   今回、厚生省、15都道府県、44市町村及び36保険医療機関における診療報酬の減額に伴う支払済一部負担金の返還状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。
   国民健康保険における全国の平成10年度の減額査定額は、前記項目12)のとおり920億円であり、これに係る一部負担金(原則医療費の3割)は相当額に上っている。
   調査した44市町村における減額された医療費の医療費通知への付記(以下、減額された医療費が付記された医療費通知を「減額通知」という。)の実施状況をみると、減額通知を実施しているものは10市町村(22.7パーセント)と少ない。残る34市町村のうち11市町村は、高額療養費の支給対象者に対して窓口で説明等を行っているとしている。減額通知を実施していない市町村は、その理由として、減額通知により患者が一部負担金の返還を求めたにもかかわらず保険医療機関等が返還しなかった場合には、市町村もトラブルに巻き込まれるおそれがあること等を挙げている。
 また、減額通知を実施している10市町村におけるその実施状況をみると、1)減額通知の対象を国民健康保険中央会の実施方針に従って、一部負担金の減額が1万円以上の場合としているものが9市町村、2)独自に対象範囲を拡大して、5,000円以上の場合としているものが1市町村となっている。しかし、減額通知の内容については、1)10市町村中5市町村が、国民健康保険中央会の実施方針どおり、審査支払機関において減額された医療費の額とその額に対応する一部負担金について保険医療機関に返還請求できる旨を記載しているが、2)残りの5市町村では、減額された額については記載しているものの、その額に対応する一部負担金について保険医療機関に返還請求できる旨の記載がなく、患者は、減額通知を受領してもその趣旨、目的が理解できないものとなっている。
 なお、後述ウのとおり、調査した保険医療機関の中には、患者から診療報酬の減額に係る一部負担金の請求があれば返還する、あるいは場合によっては返還することもあるとしているものがある。しかし、前述のとおり、当該保険医療機関が所在する市町村が患者に対して減額通知を行っていない、又は高額療養費の支給対象者に限定して説明している市町村に住所を有する患者の中には、必要な情報の提供が得られないことから、診療報酬の減額に係る一部負担金の返還請求の機会を失するものが生ずることとなる。
 ちなみに、減額通知を実施していない23市町村において、レセプト1件当たりの請求点数が10万点以上のもの1,034件を抽出し、国保連合会における審査の結果をみると、減額査定による一部負担金額が1万円を超えるものが20市町村で113件(10.9パーセント)みられ、これに係る減額査定額の合計額は1,652万円(1件当たり15万円、最高額224万円)であり、一部負担金は医療費の原則3割であることから、診療報酬の減額に係る一部負担金は少なくない額となっているものとみられる。
   調査した37保険医療機関(国立4機関、公立20機関、私立13機関)について、診療報酬の減額に係る一部負担金の調整に関する方針等を調査したところ、次のとおり、返還しないとしているもの又は返還に消極的なものが多数を占めており、この中には国立の医療機関も2機関ある。
    1.  無条件で診療報酬の減額に係る一部負担金を返還するとしているものが9機関(24.3パーセント。国立2機関、公立6機関、私立1機関。平成9年度の返還実績は、4機関で30件・253万9,000円)ある。
    2.  保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)等では認められなかった診療行為であったとしても、患者に対しては実際に診療行為を行っているため、その経費の一部負担金については、患者に返還する必要はない等の理由で返還しないとしているものが14機関(37.8パーセント。国立2機関、公立7機関、私立5機関)ある。
    3.  上記 2.の理由から、原則として返還しないこととしているが、患者に説明しても理解が得られない場合には、やむを得ず返還することもあるとしているものが13機関(35.1パーセント。公立7機関、私立6機関)ある。
    4.  診療報酬の減額に係る一部負担金の調整について説明を差し控えたいとしているものが1機関(2.7パーセント。私立)ある。
     ちなみに、診療報酬の減額に係る一部負担金の返還に消極的な3病院(同一都道府県内)について、平成9年度の国保連合会における減点査定の状況をみると、診療報酬の減額に係る一部負担金が1万円以上となっている事例が、それぞれ13件、1件、1件の合計15件(一部負担金の合計額は20万3,000円)みられる。
 なお、調査した15都道府県は、管内の保険医療機関等に対し、診療報酬の減額に係る一部負担金の調整に関して特別の指導を行っておらず、その理由として、厚生省からその旨の指導がないこと、また、診療報酬の減額に係る一部負担金の調整問題は患者と保険医療機関等との間の民事上の問題であるため、行政上、特別の指導を行うことができるのか疑問があることなどを挙げている。
   このことに関し、厚生省は、被保険者が保険医療機関等において保険証を提示して受けた療養に係る診療報酬が減額された場合において、当該減額に係る一部負担金を患者と保険医療機関等とのいずれが負担すべきかは、両者が個々のケースに応じて争い得る民事上の問題であるとしている。このため、行政としてこれに介入し、一律に保険医療機関等に対して返還を指導することは適当でないとしている。
 しかし、この見解は、保険者、被保険者及び保険医療機関等に十分周知されていない。
       
   したがって、厚生省は、診療報酬の減額に伴う支払済一部負担金に関し、減額通知の励行の確保及び診療報酬の減額と一部負担金の返還とに係る手続の周知を図る必要がある。