米の生産・流通等に関する行政監察結果(要旨)

勧告日: 平成10年12月15日
勧告先: 農林水産省

〔監察の背景事情等〕

1.  主要食糧である米については、戦後一貫して国が全量管理することとされていたが、米の生産・流通・消費をめぐる情勢の変化やガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意に対応するため、平成6年12月に、食糧法(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律)が制定され、民間の自主流通米を主体とする計画流通制度とされた。
 同法により、政府米の役割は備蓄等に限定。従前のいわゆるヤミ米は計画外流通米として販売できるほか、流通ルートの多様化・弾力化や販売業者の許可制から登録制への移行など各種規制の緩和
2.  米の全体需給は、平成5年には戦後最大の不作を経験したが、その後4年連続の豊作等により過剰基調
3.  食糧検査等については、行政改革会議最終報告(9年12月)において、積極的に民営化等を検討する必要があるとされ、農林水産省は、具体策を検討中
 このような状況を踏まえ、関係行政の改善に資するため監察を実施
対象機関: 農林水産省、道府県(21)、市町村(32)、関係団体等
担当部局: 行政監察局、管区行政監察局(6)、四国行政監察支局、行政監察事務所(13)

〔調査結果〕

米の備蓄量の適正化の推進
国の適正備蓄量は政府米・自主流通米合わせて 150万トン(上限 200万トン)で運用
150 万トンの根拠:戦後の不作年の平均(作況92)が2年連続した場合に対応
 平成6年以降連年豊作。9年10月末の国全体の持越在庫量は適正備蓄量を大幅に超える352万トン(うち政府米267万トン)。持越在庫量の有効な削減策を打ち出せなかったことや政府米は、売却が計画の半数程度(8米穀年度計画約110万トン実績59万トン、9米穀年度計画約120万トン実績71万トン)であったにもかかわらず、買入れを計画どおり実施したことが要因
 このような状況から、農林水産省は、新たな米政策大綱(平成9年11月)により、i)生産調整目標面積の拡大(9年度 787千ha→10・11年度 963千ha、年間約86万トンの縮減) 、
ii) 政府米売却量に応じた買入れ(備蓄運営ルール) や銘柄ごとの買入量の制限
 同大綱による施策の効果は現れているが、依然として、10米穀年度末(10年10月末)の米の持越在庫量は 344万トン(うち政府米 297万トン)と高水準であり、引き続き、在庫水準の適正化に努めることが必要

<勧告要旨>

 新たな米政策大綱に定める備蓄運営ルールなどの基本的考え方、方針の定着化を図り、引き続き、過剰基調にある在庫水準を速やかに適正備蓄水準にするよう努めること。
計画による需給調整方法の見直し等
(1)  指針公表後の計画出荷希望数量の把握業務の見直し
米の全体需給の調整は、食糧法に基づき、11月の「米穀の生産及び出荷の指針」及び3月の「米穀の需給及び価格の安定に関する基本計画」により、需給見通し、生産調整目標面積、計画出荷数量、政府買入数量等を策定することにより実施
 農林水産省では、基本計画策定時よりも早い段階から生産者の意向を把握し、基本計画に反映することを目的として、食糧庁長官名の協議・調整通達等により、指針公表後の11月以降、i) 計画出荷目標数量を、自主流通法人(全農及び全集連) 、都道府県等に示し、ii)都道府県・市町村段階における調整を経て、iii)生産者ごと、都道府県・市町村段階ごとの計画出荷目標数量に対応した希望数量を把握し、取りまとめるよう関係者を指導
 自主流通法人、20道府県及び27市町村における同通達に基づく協議・調整状況をみると、出荷希望数量の取りまとめは、i)4月以降同様の内容の法令に基づく手続がある、ii)実際上生産調整面積が確定していないなどから困難として、生産者間、市町村間の協議・調整を行っておらずほとんど形骸化

<勧告要旨>

 事務の合理化、地方公共団体等の負担の軽減等を図る観点から、協議・調整通達等に基づく計画出荷希望数量の把握業務について廃止を含め抜本的に見直すこと。
(2)  自主流通計画に関する規制の見直し
食糧法第30条により、自主流通法人(2)は、自主流通計画(県別の年間及び期別(3期)の販売数量等)を策定。農林水産大臣の認可(変更認可を含む。)
 計画と実績を対比すると、i)平成7〜8年の年間計画(4)(全国ベース)では、最低 14.5%から最高21%乖離、最高の例の県別内訳では、14県で30%以上乖離(最高41.8%)、 ii)平成7年以降の期別計画(16)では最高33%乖離、その県別内訳では31県が30%以上乖離
 このようなことから、変更認可も計画期間終了後に遡及処理し形式的な運用。農林水産 省は、同計画の変更認可を随時弾力化。厳格な運用から形骸化したともとれる運用まで需 給の状況に応じて、認可制度を裁量的に運用するのは問題
 自主流通計画の内容については、法令によるほか、食糧庁長官通達で、さらに、売り手 (第1種・第2種出荷取扱業者等)別販売数量等詳細な計画の策定を指導

<勧告要旨>

 自主流通計画の認可制度について、需給の状況をも踏まえて、同計画の策定内容及び認可、変更認可の要件、手続等を必要最小限なものとするなど抜本的に見直すこと。
(3)  出荷取扱業者及び販売業者の登録の有効期間の延長等
販売業者は知事、出荷取扱業者は農林水産大臣の登録(更新を含む。)。有効期間はいずれも3年(食糧法第10条等)
出荷取扱業者の申請受付期間は6/1 〜14日、6/30日に登録。販売業者は3/15〜4/30及び9/15〜 10/31の受付で 6/1及び12/1の年2回登録(施行規則第15条等)
登録出荷取扱業者数 3,000、登録販売業者数 116,189 (平成10.6.30 現在)
 食糧法施行後、出荷取扱業者及び販売業者に対しては、軽微な表示違反等による改善命令が年2〜5件程度あるのみで、登録の拒否・取消、業務停止の例は皆無
 登録の有効期間の延長は、食糧法施行後3年を経過していないとして、許認可等の有効期間の延長に関する法律(平成9年法律第105号)による改正の対象外
 販売業者の登録の申請受付期間及び登録期日について、県の事務面に対する配慮等を理由に制限することは実質的に新規参入を抑制する効果を持ち問題

<勧告要旨>

 申請者の負担軽減等を図る観点から、出荷取扱業者及び販売業者の登録の有効期間について、倍化等延長すること。また、販売業者に係る登録の申請受付期間及び登録期日の通年化を図ること。
農産物検査業務の民営化に向けた積極的な検討及び業務の合理化
食糧事務所 支所 出張所 職員数 (うち農産物検査官)
・昭和53年度 47 423 292 20,523人 (13,764人)
・平成9年度 41 270 0 10,149人 ( 4,286人)
(平成11年度 36 201  0)
農産物検査法(昭和26年法律第 144号。「農検法」)
・検査実施者:農産物検査官(食糧事務所・支所の職員の中から食糧事務所長が任命)
・検査対象品目:米(3)、麦(3)、いんげん、あわ、ひえ、はっか等22品目
・義務検査:政府米、自主流通米、政府買入麦
・検査項目:種類(うるち米等)、銘柄、量目、荷造り・包装、品位(等級)等
(1)  農産物検査業務の民営化に向けた積極的な検討
農産物の検査業務については、行政改革会議最終報告(9年12月3日)において、「食糧検査等については、積極的に民営化、民間移譲を検討する必要がある」と指摘。
 これを受けて、農林水産省は、「農産物検査の実施業務の民営化検討会」を設け、同検討会は、10年6月29日に、1.検査業務は農協等の民間組織に委ねる、2.国は制度運営の企画立案、検査規格の設定、指導監督業務を実施、3.資格制度を整備する等を内容とする意見を公表
 農林水産省は、農産物検査業務の民営化に向けた検討を進めているが、民営化については、今後、i)検査の公正・公平性の確保、ii)消費者利益の擁護、iii)採算性等の観点を基本として総合的に検討するとしている。
 しかし、具体的に新たな制度の創設などの移行目標時期等は、明示していない。
(2)  輸入米の検査業務における国の役割の限定
 現在輸入米に関し、農産物検査官が会計法上の検収検査と農産物検査を一体的に実施
 会計法による検収検査のうち、米の品質内容に係る検査は農検法の検査結果を活用。国内産米の農産物検査の民営化に合わせ、輸入米の検査についてもできる限り民間能力を活用する必要
 なお、農検法の検査規格と異なる品質条件の米が輸入された場合は、農検法の品質内容の検査はできず、現行制度上会計法上の検収検査が必要
(3)  農産物検査の対象品目の見直し
検査対象品目
(22):
米(もみ、玄米、精米)、麦(小麦、大麦、はだか麦)、大豆、小豆、えんどう、いんげん、とうもろこし、なたね 、かんしょ、ばれいしょ、かんしょ生切干、あわ、ひえ、そば、精大麦、精はだか麦、でん粉、はっか
 他の法令等において農検法による 検査結果が活用されている農産物を除く検査対象12品目について、個別品目ごとの生産量、農検法に基づく受検状況等をみると、国自らが検査を行うことはもちろん、国が検査規格を定める必要性も乏しいとみられるもの有り
 
受検率が低調:かんしょ(1%以下)、ばれいしょ(1%以下)、えんどう(1〜20%)、そば(30%以下)
産地(受検地)が限定:ばれいしょ 、いんげん、えんどう、とうもろこし、あわ、 ひえ、はっか
(4)  国が行う国内産米麦の成分検査業務の在り方の見直し
米又は麦の成分(たんぱく質、アミロース又はでん粉)に関する検査(「成分検査」)は、農検法改正により、平成8年度から農産物検査項目に追加。関係者からの請求により行う任意検査
 食糧事務所の成分検査分析業務担当職員は全国で9食糧事務所17人程度。成分検査の受検申請が一時期に集中した場合などには、指定検査機関に委託している例有り
〔8年度:受検申請 3,260件中委託 152件、9年度:同 5,298件中769件〕
 民間指定検査機関が技術的、能力的に実施可能な業務はこれを活用することが適当

<勧告要旨>

 農産物検査業務の民営化の早期かつ円滑な実現及びこれに合わせた業務の合理化等を図る観点から、
  1.  農産物検査業務の民営化への移行目標時期等を明らかにし、これに合わせて計画的かつ積極的に検討を進めること。
  2.  農産物検査業務の民営化に合わせ、検収検査との関係を踏まえつつ、輸入米の検査に係る業務における国の役割を必要最小限なものに限定すること。
  3.  農検法に基づく検査対象品目として検査規格を国が定めるものは、政府が買い入れるものなど真に国が行う必要のあるものに限定すること。
  4.  国自らが実施している成分検査の分析業務については、民間能力の活用を図り、これを廃止する方向で見直すこととし、成分検査業務に係る国の役割を分析精度に関すること等に限定すること。
 食糧事務所及び支所の組織・体制の合理化
・食糧事務所: おおむね3部(総務部、計画流通部、検査部)、8課(企画調整課、庶務課、経理課、計画流通課、業務課、食品課、検査課、調査課)
・食糧事務所支所: おおむね4課(庶務課、業務課、検査課、調査課)
 13食糧事務所(平成9年4月1日現在 1,568人) 及び17支所(同 388人)において、主な業務・部門別に業務の効率性の比較が容易な業務を抽出調査したところ、当面、農産物検査業務の民営化等にかかわらず、より一層の合理化の余地
平成8年度における従事人員、日数等を個別、具体的に聴き取りにより調査。地域の実情の相違等もあるが、次のとおり、食糧事務所、支所ごとの業務量に大きな格差
 
  〔抽出調査した業務〕 〔業務指標〕 〔格差(1人当たり)〕
i) 総務関係業務(給与等) 所属職員数 食糧事務所13〜39人 支所11〜22人
ii) 農産物検査業務 検査数量 支所 3〜44トン
iii) 政府米の売渡業務 政府米売渡数量 食糧事務所 1,900〜13,000トン
iv) 統計調査関係業務 農家戸数 支所 1,000〜 6,100戸

<勧告要旨>

 総務部門等の各部門、業務の単位等ごとの要員配置が業務量に見合ったものになるよう徹底した見直しを行い、合理化を図ること。
 なお、その際、極力、各部門、業務の単位等ごとに業務量指標及びこれに対応した要員配置の基準を策定して見直しを行うこと。
その他の勧告事項
 
  1.  需給等の緊急時における対応方策等について、ガイドライン、マニュアルなどを策定
  2.  基本計画における地域別・期間別の計画流通数量について、供給実績、流通実態等を十分勘案した策定方法に改めること
  3.  常温倉庫の廃止等政府倉庫の整理計画の策定、政府米の効率的輸送等政府米の保管の効率化
  4.  食糧事務所及び支所における食品流通改善巡回点検指導事業等16業務の廃止・合理化
  5.  その他本勧告で廃止又は合理化すべきと指摘した事項の実施に対応した組織・体制の合理化