高齢者雇用対策に関する行政評価・監視

結果に基づく勧告


 

 

 

 

 

 

 

 

平成14年3月

 

総務省

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前書き

   近年、我が国においては、急速に高齢化が進行しており、15歳以上の就業者と完全失業者を合計した労働力人口に占める60歳以上の高齢者の割合は、平成12年の7.4人に1人から22年には5.3人に1人へと増加するものと予想されている。また、厚生年金の基礎年金に係る支給開始年齢の段階的引上げが平成13年度から開始され、最終的に厚生年金は65歳から支給されることが決定している。このような状況の下で、我が国経済社会が活力を維持していくためには、高齢者が長年にわたり培ってきた知識・経験をいかし、65歳まで働けるような雇用環境を早急に整備していくことが極めて重要な課題となっている。
   このため、平成6年には、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)が改正され、事業主に60歳定年制が義務付けられ(10年4月施行)、12年には、65歳未満の定年の定めをしている事業主に、当該定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善その他の65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置を講ずる努力義務が課されている(1210月施行)。さらに、平成13年には、高齢者の雇用を促進する観点から雇用対策法(昭和41年法律第132号)が改正され、事業主は、採用条件に年齢制限を設けない努力義務が課されたところである(1310月施行)。
   一方、国は、個別企業に対し、各種の助成を行うとともに、公共職業安定所による定年の引上げ及び継続雇用制度の導入の促進を図っている。また、都道府県高年齢者等雇用安定センターは、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律に基づき、相談・助言を行っている。
   しかし、企業における65歳までの継続雇用はいまだ十分に定着しておらず、この促進が大きな課題となっており、「高齢社会対策大綱」(平成131228日閣議決定)においても、その確保を図るとされている。また、景気の低迷を背景に、高齢者の失業率及び有効求人倍率は恒常的に厳しい状況にあり、高齢者の雇用の安定を図るための各種助成金等の効果的な支給や、公共職業安定所又は都道府県高年齢者等雇用安定センターによる求人開拓、職業相談・職業紹介等、雇用・能力開発機構による職業訓練の効果的かつ効率的な実施が求められている。さらに、高齢者のニーズに応じた多様な形態による就業を促進するためのシルバー人材センター事業を適切に推進することも課題となっている。
   この行政評価・監視は、高齢者の雇用対策を推進する観点から、高齢者の雇用確保措置の促進、高齢者の再就職の促進及び就業機会の確保並びに高齢者の職業能力開発の効果的実施に係る各種施策の状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施したものである。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次


 高齢者の雇用確保措置の促進
  (1)   定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善に係る公共職業安定所等における業務の適切な実施
(2)   各種助成金等の効果的支給

 高齢者の再就職の促進及び就業機会の確保
  (1)   公共職業安定所における業務の適正な実施
   求人開拓等業務の適正な実施
 高齢期雇用就業支援センター等の運営の見直し
(2)   シルバー人材センターにおける業務運営等の見直し

 高齢者の職業能力開発の効果的実施

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 高齢者の雇用確保措置の促進
  (1)  定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善に係る公共職業安定所等における業務の適切な実施
  雇用される労働者の定年等については、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号。以下「高年齢者雇用安定法」という。)において、1.事業主がその雇用する労働者の定年を定める場合には、60歳を下回ることができない(第4条)、2.65歳未満の定年を定めている事業主は、「当該定年の引上げ、継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。)の導入又は改善その他の当該高年齢者の65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)を講ずるように努めなければならない」(第4条の2)とされている。
    (注)   高年齢者の年齢については、高年齢者雇用安定法施行規則(昭和46年労働省令第24号)第1条において、55歳以上とされている。
  高年齢者雇用確保措置の円滑な実施を図るため、高年齢者雇用安定法第2条の5の規定に基づき厚生労働大臣が策定した高年齢者等職業安定対策基本方針(平成12年労働省告示第100号。対象期間は平成12年度から16年度までの5年間)では、高年齢者の雇用機会の増大の目標に関する事項として、1.各企業が、65歳までの安定した雇用の確保を図るための措置について、計画的かつ段階的に取り組むことが不可欠であり、これを積極的に促進すること、2.これにより、向こう10年程度の間に、原則として希望者全員が、その意欲及び能力に応じて65歳まで継続して働くことができる制度の普及を図ること等とされている。また、65歳未満定年の定めのある企業において、高年齢者の職域開発等に関する自主的かつ計画的な取組が促進されるよう、高年齢者等職業安定対策基本方針で定める高年齢者雇用確保措置に関する指針の内容の周知徹底を図ることとされている。さらに、都道府県労働局、公共職業安定所(以下「安定所」という。)及び高年齢者等雇用安定センター(後述参照)において、高年齢者雇用確保措置についての啓発や各企業の取組の促進を図るため、賃金・人事処遇制度の見直しに関する技術的事項についての相談等の事業主等に対する助言、指導を充実し、積極的に取り組むこととされている。
   なお、高齢者雇用に関する企業の自主的な活動を促進するため、昭和61年5月、労働大臣(現厚生労働大臣)は、高年齢者雇用安定法第24条の規定に基づき、財団法人高年齢者雇用開発協会(以下「中央協会」という。)を中央高年齢者等雇用安定センターとして指定し、61年5月以降、都道府県知事(現都道府県労働局長)は、同法第40条等の規定に基づき、都道府県ごとに設立されている公益法人である高年齢者雇用開発協会等(以下「都道府県協会」という。)をそれぞれ都道府県高年齢者等雇用安定センターとして指定している。
   中央協会は、高年齢者雇用安定法第25条において、各種助成金の支給業務、都道府県協会の指導・援助のほか、高年齢者の雇用の安定に関する調査研究、情報及び資料の総合的収集・提供等を行うこととされている。また、都道府県協会は、高年齢者雇用安定法第41条において、事業主に対する高年齢者の雇用に関する講習、情報及び資料の収集・提供、中央協会の委託を受けて事業主その他の関係者に対する相談・助言の援助等を行うこととされている。

   今回、厚生労働省、23都道府県労働局、24安定所、中央協会及び23都道府県協会における定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善に関する企業への指導、相談・助言活動等の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る啓発・広報活動の実施状況
   企業における定年の引上げ、継続雇用制度の導入割合は近年増加してきており、平成13年1月現在の「雇用管理調査」(厚生労働省が毎年、従業員数30人以上の規模の企業を抽出して実施)結果では、「希望者全員について65歳までの雇用を確保している企業」の割合は28.0パーセント、「企業が認める者を対象とする企業」の割合は40.2パーセントで両者の合計は68.2パーセントとなっている。
   厚生労働省は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る啓発・広報活動について、職業安定局長通知により毎年10月を「高年齢者雇用促進月間」と定め(平成12年度の場合は、平成12年6月22日付け職発第449号)、本省を始め都道府県労働局等において、集中的に業種団体への集団指導や国民の理解と協力を求めるための普及啓発に取り組んでいる。また、中央協会においても高年齢者雇用安定法第26条の規定に基づき、啓発広報活動を実施している(平成12年度啓発活動実施費は3億6,473万円)。
   しかしながら、上記のように希望者全員について65歳までの雇用が十分に確保されていないことについては、次のとおり、定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る合理性ないしメリットや、各種問題・懸念が解消可能なものであることが事業主に十分理解されていないことが一因になっていると考えられる。
  1.   中央協会の「高年齢従業員の継続雇用に関する企業調査」(平成10年1月から2月にかけて実施。1112月公表)結果によると、「希望者全員の65歳までの継続雇用を今後10年程度までに実施するのが難しい」としている企業がその理由として重要と考えているもの(回答企業数:5,345社。複数回答)は、(i)個々の高齢者間の(能力の)ばらつきが大きすぎ、全員を一律に処遇するのが難しいこと(2,753社。51.5パーセント)、(ii)職務内容が高齢者の能力・適性に応じて変更できないこと(1,786社。33.4パーセント)、(iii)健康問題や新技術等への適応も含め、高齢者の労働能力の低下が著しいこと(1,756社。32.9パーセント)等となっている。
2.   一方、日本労働研究機構の「職場における高年齢者の活用等に関する実態調査」(平成1112月に実施。12年6月公表)結果によると、継続雇用制度を導入済みの企業が「定年後の高齢者を継続して雇用する」理由(回答企業数1,478社。複数回答)は、(i)定年到達者の知識・経験を活用するため(1,146社。77.5パーセント)、(ii)高年齢者でも働ける仕事であるため(573社。38.8パーセント)、(iii)定年到達者に就業機会を提供するため(263社。17.8パーセント)等となっている。
   さらに、同調査結果によると、「45歳から65歳までの職務遂行能力の全体的変化」に係る企業側の回答(回答数1,421件)は、「年齢に伴い能力も上がるが、ある年齢以降は一定水準に落ち着く」(566件。39.8パーセント)が最も多く、次いで「年齢には関係ない」(302件。21.3パーセント)、最も少ないものが「年齢とともに能力は下がる」(93件。6.5パーセント)となっている。
3.   日本労働研究機構の調査結果からみると、中央協会が実施した調査において、継続雇用制度を導入していない企業が、その主な理由の一つとしている「高齢者の労働能力の低下が著しい」は、必ずしも継続雇用制度の導入等を行わないとする現実的な阻害要因には該当しないものと考えられる。
   なお、当省が調査した企業(250社)の中で、国の施策に関し意見を述べた47社のうち13社(27.7パーセント)が「国は高齢者雇用の実態、雇用の必要性等施策に関する周知を十分に行い、社会的な意識改革を進めるべき」旨の要望を提示している。
   個別企業における定年の引上げ、継続雇用制度導入の促進状況
   厚生労働省は、定年の引上げ、継続雇用制度の導入について、「継続雇用の推進等に係る指導等について」(平成10年4月8日付け職発第267号労働省職業安定局長通知)により、都道府県知事(現都道府県労働局長)に対し、1.60歳以上定年を定める企業における継続雇用の実情を把握すること、2.希望者全員を対象とする継続雇用制度を有しない従業員300人以上の規模の企業に対する個別指導(以下「企業訪問」という。)を実施し、必要に応じ、都道府県協会との連携の下に、高年齢者雇用アドバイザー(企業に対する相談・援助活動を行わせるため、都道府県協会長が社会保険労務士、中小企業診断士等に委嘱するもの。平成12年度末現在、全国に466人を配置。以下「アドバイザー」という。)を同行させ、専門的な相談・援助を行い、指導の効果を高めるものとすること、3.個別指導後には、定年の引上げ、継続雇用制度導入に係る阻害要因の分析を行い、その結果を踏まえて次回以降の指導を行うものとすること等を指示している。さらに、アドバイザーの同行については、「高年齢者雇用アドバイザー関係業務の効果的な実施について」(平成7年3月28日付け労働省職業安定局高齢者雇用対策課長補佐通知)により、都道府県(現都道府県労働局)職業安定主管課において、各安定所から提出されたアドバイザーの年間利用希望数に基づき、都道府県協会と十分協議の上、アドバイザーの年間利用計画を作成するよう指示している。
   しかし、今回の調査の結果、都道府県労働局、安定所等における継続雇用の推進等に係る指導状況等について、次のような状況がみられた。
  1.   23都道府県労働局における平成11年度のアドバイザーの年間利用計画の作成状況をみると、都道府県協会が作成していること、アドバイザーの利用は個々の安定所が対応すべき事項であること等を理由として、作成していないものが5労働局(21.7パーセント)みられた。ちなみに、アドバイザーの同行状況については、安定所職員が企業訪問の際にアドバイザーを同行させた割合が未把握となっていることから、アドバイザーが企業訪問した件数のうち安定所職員に同行した件数の割合(平成11年度)をみると、年間利用計画を作成している18労働局管内では35.2パーセント(企業訪問数1万3,880件のうち同行件数4,888件)であるのに対し、年間利用計画を作成していない5労働局管内では5.2パーセント(企業訪問数2,047件のうち同行件数107件)となっている。
2.   24安定所における平成11年度の企業訪問状況をみると、(i)3安定所は、アドバイザーを管理している都道府県協会との連携を図っていないため、企業訪問の際にアドバイザーの同行がなく、このうち2安定所は、企業訪問の結果を記録しておらず、訪問結果の分析を踏まえた今後の計画や指導方針の検討を行っていない、(ii)2安定所は、企業規模に応じて重点的に訪問すべき企業を選定しているが、障害者雇用未達成企業と併せて指導することとしているため、選定した企業が障害者雇用未達成企業に該当している場合にのみ企業訪問を行っている(うち1安定所については(i)と重複)。
   なお、これら4安定所のうち、3安定所は、上記1.の年間利用計画を作成していない都道府県労働局管内の安定所である。
3.   安定所の職員による平成11年度の企業訪問後、当該企業が講じた措置を把握している13安定所のうち、上記2.の4安定所が訪問した企業において「定年の引上げなしや継続雇用制度なし」から「企業が認める者について65歳までの継続雇用制度」の導入等を行った、「企業が認める者について65歳までの継続雇用制度」から「希望者全員について65歳までの継続雇用制度」へ改善したなど、何らかの改善に至った例は皆無となっている。残りの9安定所(訪問企業数794社)においては、66社(8.3パーセント)が何らかの改善を行っている。
   都道府県協会の企業に対する企画立案サービス等の実施状況
   中央協会は、企業における継続雇用を推進するため、高年齢者雇用アドバイザー設置運営要領(昭和61年5月1日付け要領第3号)及び企画立案実施要領(昭和61年5月1日付け要領第7号)により、アドバイザーによる「企画立案サービス」や「相談・助言」を都道府県協会に委託して実施している。
   「企画立案サービス」は、高年齢者の継続雇用のための条件整備として、企業に対し有料(事業主と都道府県協会が折半して、当該アドバイザーに対し1件当たり平均約20万円の謝金を支払う)で就業規則等の改正案を企画立案して提供することにより、定年の引上げ、継続雇用制度の導入又は改善に資するもので、平成12年度の全国における実績は423件となっている。
   また、「相談・助言」は、アドバイザーが企業を訪問し、継続雇用の推進に関する相談・助言を無料で行うもので、平成12年度の全国における実績は2万9,178件となっている。
   これら「企画立案サービス」及び「相談・助言」に係るアドバイザーの平成12年度の活動経費は、全国で4億6,829万円となっており、その全額が国(労働保険特別会計(雇用勘定))から支給されている。
   今回の調査の結果、アドバイザーの「企画立案サービス」及び「相談・助言」について、次のような状況がみられた。
  1.   厚生労働省は、「高年齢者雇用アドバイザー関係業務の効果的な実施について」(平成7年3月13日付け高雇発第10号労働省高年齢者雇用対策課長通知)により、中央協会に対し、アドバイザーによる「企画立案サービス」は、当該事業所における高年齢者の継続雇用の推進につながることを目的とすることから、サービスの内容は、例えば、既に定年を65歳としている企業が育児休業制度の導入に伴う就業規則の見直しを行う場合のように、高年齢者の継続雇用のための条件整備とは関連が乏しいものは対象としないとしている。中央協会は、この通知を受け、都道府県協会に同じ内容の通知を行っている。
   しかしながら、アドバイザーの業務マニュアルとして中央協会が策定した企画立案実施要領は、企画立案の対象範囲については、「高年齢者の継続雇用のための条件整備に資すると都道府県協会会長が認めたもの」とするのみで、具体的に明記していない。
   このようなことから、23都道府県協会のアドバイザーが平成11年度に実施した「企画立案サービス」181件についてその内容をみると、5協会分16件(8.8パーセント)が継続雇用制度の改善に直接関連する事項が含まれていない、あるいは継続雇用のための条件整備に資すると見込まれないものとなっている。
   また、希望者全員について65歳までの雇用を確保していない企業が約7割存在する中で、3協会分8件(うち2協会分5件は上述の制度の改善に直接関連する事項が含まれていない等の事例と重複)は、提供の優先度が低いものと認められる、希望者全員について65歳までの雇用を確保済みの企業を対象とするものとなっている。
2.   中央協会は、「相談・助言」について、高年齢者雇用アドバイザー設置運営要領に基づき、継続雇用に伴う人事管理制度の整備等に関する事項を行うこととされている。
   しかし、調査した23都道府県協会における平成11年度のアドバイザーの「相談・助言」の実施状況をみると、実施の優先度が低いものと認められる、既に希望者全員について65歳までの雇用を確保済みの企業を訪問の対象としているものが、5協会分25件みられる。

     したがって、厚生労働省は、65歳までの安定した雇用の確保を効果的かつ効率的に推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
  1.   希望者全員について65歳までの雇用を確保していない企業に対し、定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る合理性ないしメリットの浸透、各種問題・懸念の解消に重点をおいた啓発・広報活動を推進すること。
2.   都道府県労働局において、都道府県協会と協議した上での年間利用計画の作成の励行、安定所職員の企業訪問に際してのアドバイザーの同行、並びに企業訪問結果及び定年の引上げ、継続雇用制度の導入に係る当該企業における阻害要因の分析結果を踏まえた次回の企業訪問方針の検討について徹底すること。
3.   中央協会に対し、アドバイザーによる「企画立案サービス」については、業務本来の目的に沿って行うとともに、「企画立案サービス」及び「相談・助言」のいずれについても、希望者全員について65歳までの雇用を確保していない企業に重点化して行うよう指導すること。

  (2)   各種助成金等の効果的支給
   高年齢者等の雇用の安定を図るため、1.雇用保険法(昭和49年法律第116号)第62条及び労働保険特別会計法(昭和47年法律第18号)第5条の規定に基づき、労働保険特別会計(雇用勘定)から雇用安定事業費として、各種の助成金が中央協会又は安定所を通じて事業主へ支給されており(平成12年度支給額1,086億9,600万円)、また、2.一般会計から予算補助としての助成金が中央協会を通じて事業主へ支給されている(同9億6,300万円)。
   平成12年度における事業主に対する各種の助成金のうち、中央協会を通じて支給されるものとして、1.定年の引上げ、継続雇用制度の導入及び定着を促進するための継続雇用制度奨励金(平成12年度支給額275億8,900万円)、2.60歳以上の高齢者の多数雇用を促進するための多数継続雇用助成金(同85億5,600万円)、3.定年延長制度の円滑な運用を促進するための定年延長職業適応助成金(同150万円)、4.高齢者の職場環境の改善を図り、雇用の維持・拡充を図るための高年齢者雇用環境整備奨励金(同1億7,200万円)、5.高齢者自らの職業経験を活用し、継続的な就業機会の創出を図るための高年齢者共同就業機会創出助成金(同9億6,200万円)等の10種類がある。また、安定所を通じて支給されるものとして、1.平成11年度限りで廃止された、労働者に高齢期の就業準備の休暇を与える事業主を支援するための高齢期就業準備奨励金の経過措置分(同14億5,200万円)、2.就職が特に困難な者の雇用機会の増大を図るための特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分及び45歳以上55歳未満の者の分。同709億2,400万円)の2種類がある。以上55歳未満の者の分。同709億2,400万円)の2種類がある。
   このほか、雇用保険法第10条、第61条及び第61条の2の規定に基づき、労働保険特別会計(雇用勘定)から雇用保険の被保険者に対し、60歳以後の賃金が60歳時点の賃金の85パーセント未満に低下した場合に、「高年齢雇用継続給付」として、85パーセント未満となった賃金(新賃金)にその低下した率に応じ、最高25パーセントを乗じた額が安定所を通じて支給されており、その平成12年度の支給額は1,086億円となっている。

   今回、厚生労働省、24安定所、中央協会及び23都道府県協会における事業主に対する助成金と被保険者に対する支給金(両者を合わせて、以下「各種助成金等」という。)の支給状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。
   各種助成金等の支給状況等
  1.    各種助成金等の支給総額の推移は、平成8年度に2,004億400万円であったものが12年度には2,182億5,900万円となっており、178億5,500万円増加している(平成8年度比8.9パーセント増)。
   厚生労働省は、各種助成金等の予算額は、過年度の支給実績や過去の同種の助成金の支給実績等をベースに積算しているとしている。
   各種助成金等については、予算額から支給実績額及び明許繰越額(国会の議決を経て翌年度への繰り越しが認められている額)を差し引いた不用額が毎年度生じており、平成12年度は133億1,800万円となっている。その内訳をみると、多数継続雇用助成金が76億4,300万円と最も多く、不用額全体の57.4パーセントを占めている。また、45歳以上65歳未満で離職する高齢者等を新たに雇い入れる事業主を支援するための在職求職高年齢者等受入給付金(平成1210月創設。平成12年度予算額27億円)等については、支給実績がない。
2.    継続雇用制度奨励金は、雇用保険法第62条の規定及び中央協会の継続雇用定着促進助成金支給要領(平成1210月1日付け要領第19号)に基づき、定年の引上げ、継続雇用制度の導入及び定着の促進を目的とし、定年を61歳以上の年齢に引き上げることにより、引上げ前の定年を超える年齢の者を引上げ後の定年に達するまで雇用したり、又は希望者全員について65歳以上までの継続雇用制度を新たに導入した事業主に対して、企業規模及び継続雇用する期間に応じ、単年度で最低40万円から最高300万円までを、最長5年間(5年間の最高限度総額は1,500万円)の範囲で支給するものである(本奨励金は、平成8年度末に廃止された継続雇用制度導入奨励金の趣旨を引き継いで9年度に創設されたもの)。
   本奨励金の支給実績は、雇用保険財政が厳しい中で、平成9年度に56億100万円であったものが12年度には275億8,900万円と4.9倍へと著しく増加しており、今後における定年の引上げ、継続雇用制度の導入の進展状況によっては、財政圧迫の要因となることが懸念される。また、このような財政状況下において、1事業主当たりの支給額の水準が定年の引上げ、継続雇用制度の導入のインセンティブとして適切であるか否かについて検討する余地がある。
3.    特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)は、雇用保険法第62条の規定及び特定求職者雇用開発助成金支給要領(昭和56年6月8日付け職発第320号職業安定局長通知)に基づき、対象労働者をその支給対象期間(雇入れ後1年間)経過後も引き続き相当期間雇用することが確実であると認められる事業主に対して支給されるものであり、その趣旨は、対象労働者の雇用を相当期間確保することにある。
   24安定所が特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)を支給した163事業所を抽出し、平成9年度及び10年度に新規に助成の対象となった55歳以上65歳未満の高齢労働者(9年度963人、10年度822人)の雇用の継続状況をみると、9年度の対象者のうち19.4パーセント(187人)が、また、10年度の対象者のうち20.6パーセント(169人)が同助成金の支給対象期間(1年間)内に離職(自己都合退職を含む。)しており、助成金の趣旨からみて、その支給効果を疑わせるものとなっている。
   助成金等の支給申請手続の改善
  厚生労働省は、特定求職者雇用開発助成金支給要領により、特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の支給申請書を提出する事業主は、1.対象労働者の出勤状況が日ごとに明らかにされた出勤簿等の書類、2.対象労働者に対して支払われた賃金について基本賃金とその他の諸手当とが明確に区分されて記載された賃金台帳、3.当該事業所を離職した常用労働者の氏名、離職年月日、離職理由等が明らかにされた労働者名簿等の書類及び4.総勘定元帳等の管轄安定所の長が必要と認める書類等を添付しなければならないとしている。
  今回の調査の結果、18安定所が添付させている書類等について、次のような状況がみられた。
  安定所が特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の第1期申請(年2回の支給における最初の支給申請)時に添付させている書類は、全体で18種類ある。このうち、「雇用契約書」、「特定求職者の雇用に関する証明」、「特定求職者の雇用に関する賃金証明」、「事業所基礎調査表」、「源泉徴収書」、「雇用保険適用事業所設置届事業主控」及び「企業の事業案内」の7種類の書類は、1安定所のみが添付させているものであるが、個別の審査に際して、他の書類の添付をもってしては事実の確認ができない場合にのみ添付を求めることで足りる。また、「特定求職者雇用開発助成金賃金支払内訳書又は同支給対象額計算書」は、複数の安定所が添付させているが、その情報は賃金台帳に含まれている。このことから、これら8種類の書類については申請の当初から一律に添付させる必要性が認められない。
  また、「雇用保険被保険者資格取得確認通知書及び標準報酬決定通知書」、対象労働者が離職している場合の「雇用保険被保険者資格喪失確認通知書及び離職証明書」及び「安定所からの特定求職者雇用開発助成金に係る通知文書」の3種類の書類により確認しようとする事項は、安定所が既に把握し、コンピュータシステムに入力されている。ちなみに、一部の安定所では、これらの書類に記載されている事実をコンピュータの活用により確認している。

     したがって、厚生労働省は、高齢者等の雇用の安定を図ることを目的とする各種助成金等について、効果的かつ効率的な運用及び申請者の負担の軽減を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
  1.   各種助成金等に係る不用額の発生要因や支給の実態について分析・評価し、予算規模、支給要件、支給額の見直し等助成金の在り方を検討すること。
2.   特定求職者雇用開発助成金(高年齢者分)の申請に際して、当初から一律に添付させる必要性が認められない書類及び審査に必要であっても安定所においてコンピュータシステムで把握可能な事実に関する書類を添付させないこととするなど、添付書類の簡素化を図ること。


 高齢者の再就職の促進及び就業機会の確保
  (1)  公共職業安定所における業務の適正な実施
   求人開拓等業務の適正な実施
  安定所は、高年齢者雇用安定法第7条において、高年齢者等の再就職の促進等を図るため、高年齢者等の雇用の機会が確保されるように求人の開拓等を行うとともに、高年齢者等に係る求人及び求職に関する情報を収集し、高年齢者等である求職者及び事業主に提供するよう努めるものとするとされている。
  厚生労働省は、これら求人開拓業務について、一般職業紹介業務取扱要領(平成6年7月1日付け職発第495号労働省職業安定局長通知)により、安定所に対して、安定所が実施すべき求人開拓業務が効果を上げるために必要と考えられる具体的な内容や手続等を示している。

  今回、24安定所における求人開拓及び開拓後の業務の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
  1.   一般職業紹介業務取扱要領では、業務上必要ないし重要と考えられる業務として、安定所は、(i)求人開拓を必要とする求職者のニーズを十分把握し、その内容を職種別、年齢別等に分析し、この分析により得た職種又は作業内容の職務を有する事業所の採用意向を調査把握し、求人開拓対象事業所を選定するなどして、求人開拓計画を作成すること、(ii)求人開拓の実施に当たっては、日常から事業所訪問等により進んで事業主との接触を図り、安定所利用の気運の醸成を図っておくこととされている。
  しかし、例えば求人開拓計画については、4安定所は、雇用情勢が厳しいため求人開拓計画を作成しても計画どおりに実行できないこと、関係部門の負担が加重となること等を理由として作成していない。また、平成11年度の新規求人数に占める安定所自らが開拓した求人数をみると、求人開拓計画を作成していない4安定所では、新規求人数に占める自ら開拓した求人数の割合が13.3パーセント(新規求人数11万8,914人のうち1万5,798人)と、同計画を作成している20安定所の割合19.7パーセント(新規求人数70万807人のうち13万8,009人)の3分の2程度となっている。また、求人開拓の実施に当たっての工夫についてみると、1安定所は、開拓した求人の充足の可能性が高くなるよう、例えば、過去に安定所を経由した求人実績の多い企業であって、最近においても求人ニーズがあると思われるものを優先的に訪問するなど、開拓方法に工夫を凝らしているが、残る23安定所は、このような工夫を凝らした方法を特段講じていない。ちなみに、開拓方法に工夫を凝らしている安定所が平成11年度に開拓した求人の充足率は59.7パーセントとなっているのに対して、開拓方法に工夫を凝らしていない安定所のうち、開拓した求人の充足状況を集計している安定所(1安定所)における同充足率は13.2パーセントと低い。
2.   一般職業紹介業務取扱要領では、安定所は、求職と結合しないまま求人の有効期間満了が間近となった、あるいは満了に至った「未充足求人」については、充足に至らなかった原因について十分に検討を加え、事業主に対して充足のための相談・援助を行うことが重要であるとされている。
  しかし、24安定所のうち14安定所については、未充足となった原因の分析・検討を組織的に行っておらず、このうち、8安定所は、自ら開拓した求人で未充足の原因の分析・検討が容易であるものについてもこれを行っていない。ちなみに、安定所における平成10年度及び11年度の55歳以上の月間有効求職者数に占める就職者の割合をみると、未充足となった原因の分析・検討を組織的に行っている10安定所のうち9安定所(90パーセント)においては前年度を上回っているのに対し、これを行っていない14安定所のうち6安定所(42.9パーセント)においては前年度を下回っている。
   (注) 「月間有効求職者数」とは、前月から繰り越された有効求職者数と当月の新規求職者数を加えたものをいう。

  したがって、厚生労働省は、高齢者の雇用を促進する観点から、安定所において、求職者のニーズや開拓した求人に係る分析、その結果を踏まえた適切な求人開拓計画の作成及び未充足求人の原因の分析・検討等一般職業紹介業務取扱要領で定める業務について、その確実な実施を指導徹底する必要がある。

   高齢期雇用就業支援センター等の運営の見直し
  安定所は、高年齢者雇用安定法第8条の2において、労働者がその高齢期における職業生活の設計を行うことを容易にするため、労働者に対して、必要な指導又は助言を行うことができるとされている。
  これらの業務を行うため、厚生労働省は、全国の主要都市を管轄する安定所の内部組織として、高齢期雇用就業支援センター(以下「支援センター」という。)及び支援センターと同様の機能を有するが比較的規模の小さい高齢期雇用就業支援コーナー(以下「支援コーナー」という。)を「高齢期雇用就業支援センター及びコーナーの設置について」(平成6年10月1日付け職発第711号労働省職業安定局長通知。以下「旧設置要領」という。)により設置した。これらの支援センター等の運営は、今般、「高齢期雇用就業支援センター及びコーナーの設置運営について」(平成131130日付け職発第722号厚生労働省職業安定局長通知。以下「設置要領」という。)により、その見直しが図られた。
  平成12年度末現在、支援センターは25か所、支援コーナーは16か所、それぞれ設置されている。
  支援センター等の業務は、設置要領において、具体的には次のとおりとされている。
  1.   在職者を中心とした中高年齢者に対する業務については、(a)「利用者登録」した者に対し、高齢期における職業生活設計等に資するための再就職、職業生活設計、退職準備等について個別相談及び各種情報の提供を行うこと、(b)高齢期における職業生活設計等に資する各種セミナー・講演会を開催すること、(c)管轄安定所の関連部局等と連携し、職業相談・職業紹介及び求職登録を行うこと、とされている。
2.   事業主に対する業務については、(a)支援センター等の業務内容の説明、利用の勧奨等のための活動として、職員又は高齢期雇用就業支援相談員による事業所及び事業主団体等への訪問、(b)再就職援助計画を策定又は実施しようとする事業主等への再就職援助に関する各種相談、援助の実施、(c)事業主による再就職援助及び退職準備援助に資する各種情報の提供及び各種セミナー・講演会の開催、(d)管轄安定所の関連部局等と連携した求人登録及び求職者のあっせんを行うこととされている。

    今回、平成9年度から11年度までの間における15支援センター等(14支援センター及び1支援コーナー)の運営状況について調査した結果、以下のような状況がみられた。
  1.   支援センター等は、おおむね交通の便の良好な市街地に所在しているが、平日の午前9時から午後4時ないし5時までの間しか開設されていない。このようなこともあって、平成11年度の来訪者数は、15支援センター等で1万1,199人であり、1支援センター等の開設日1日当たりの来訪者数は平均3.1人(最多10.9人、最少0.4人)と極めて少ない。
  また、これら平成11年度の来訪者のうち、支援センター等の業務の主な対象者である在職者の人数を、これを把握している14支援センターについてみると、来訪者に占める在職者数の割合は35.7パーセント(3,970人)であり、1支援センター等の開設日1日当たりの来訪在職者数は平均1.2人(最多3.3人、最少0.2人)にすぎない。
2.   高齢期に向けた職業生活の設計を行おうとする在職中の中高年齢者の登録の状況を、これを受け付けている14支援センター等についてみると、平成11年度の登録者累計は全体で4,814人であり、1支援センター等当たりでは、343.9人(最多1,922人、最少16人)となっている。このうち最多の1支援センターの登録者が全体の約4割を占めており、当該支援センターを除いた13支援センター等での登録者数の平均は222.5人にすぎない。
  また、14支援センター等の登録者数の推移をみると、平成9年度の3,980人に対し、10年度は4,919人と増加しているが、6支援センターで登録者が減少傾向にあり、支援センター等全体でみても、11年度には4,814人と減少に転じている。
  なお、登録者が減少している支援センターでは、その理由として、事業主に対し登録制度の周知を行っているが、事業主は、従業員に対し支援センターの活用について働きかけを行うことが、早期退職を勧奨しているように受け取られることを危惧して、働きかけに積極的ではないことを挙げている。
3.   また、平成11年度における事業主による再就職援助を促進させるための需要事業所(他の事業所が雇用している定年退職予定者を新たに受け入れたいとする事業所)及び供給事業所(自ら雇用している定年退職予定者を退職後に他の事業所へ再就職させるためのあっせんを希望する事業所)の登録並びに再就職援助協議(登録した需要・供給事業所間のマッチングについての話合い)の業務の実施状況をみると、登録の実績が低調であり、また、再就職援助協議の業務は全く行われていない。
4.   平成1311月に策定された設置要領をみると、上記3.のように形骸化していた需要・供給事業所の登録業務及び再就職援助協議業務は廃止された。また、新たな取組として、高齢期における職業生活設計を支援する観点から、定年等による離職者が毎年生ずる規模の事業所を重点的に訪問すること、再就職援助計画を策定あるいは実施しようとする事業主への支援を行うこと等が盛り込まれている。
  しかしながら、上記1.で指摘した支援センター等への来訪者を増加させる具体的な改善策は十分にはとられておらず、また、上記2.の高齢期に向けた職業設計を行おうとする在職中の中高年齢者の登録者を増加させ、支援センター等のより一層の利用を促進させるための抜本的な方策は盛り込まれていない。

    したがって、厚生労働省は、労働者の高齢期における職業生活の一層の充実に資する観点から、支援センター及び支援コーナーについて、今般の運営の見直しに加え、在職中の中高年齢者の来訪の利便性及び登録者の確保に配慮した運営を行い、その成果の分析・評価を行う必要がある。

  (2)  シルバー人材センターにおける業務運営等の見直し
  都道府県知事は、高年齢者雇用安定法第46条において、高年齢退職者の就業を援助して、これらの者の能力の積極的な活用を図ることができるようにし、もって高年齢者の福祉の増進に資することを目的として設立された公益法人を、その申請により、シルバー人材センターとして市町村(特別区を含む。)の区域ごとに1個に限り指定することができるとされている。
  シルバー人材センターは、高年齢者雇用安定法第47条において、臨時的かつ短期的な就業(雇用によるものを除く。)又はその他の軽易な業務に係る就業(雇用によるものを除く。)を希望する高年齢退職者のために、これらの就業の機会を確保し、組織的に提供する等の業務を指定区域において行うものとするとされている。シルバー人材センターは、平成12年度末現在、全国で1,577団体(会員数約64万人)が指定され、12年度においては、仕事の請負契約件数が約251万件、契約金額が約2,435億円となっている。これらの団体のうち、817団体(会員数約55万人)に対しては国庫補助(約122億円)が行われている。
  また、高年齢者雇用安定法第48条の2において、都道府県知事は、2以上のシルバー人材センターを会員とする公益法人を、その申請により、会員であるシルバー人材センターの指定区域とその他の必要と認められる市町村の区域を併せた区域ごとに1個に限り、シルバー人材センター連合として指定することができるとされており、平成12年度末現在、すべての都道府県においてそれぞれ一つのシルバー人材センター連合が指定されている。
  シルバー人材センター連合は、高年齢者雇用安定法第48条の3において、シルバー人材センターが行うこととされている業務等をその指定区域において行うこととされている。
  なお、高年齢者雇用安定法第49条の規定に基づき、厚生労働大臣は、シルバー人材センター及びシルバー人材センター連合の健全な発展を図るとともに、定年退職者その他の高年齢退職者の能力の積極的な活用を促進することにより高年齢者の福祉の増進に資することを目的として設立された公益法人(社団法人)を、全国シルバー人材センター事業協会として指定している。全国シルバー人材センター事業協会は、高年齢者雇用安定法第50条において、シルバー人材センター及びシルバー人材センター連合の業務に関し、啓発活動、研修、連絡調整、指導その他の援助等を行うこととされている。

  今回、厚生労働省、14シルバー人材センター連合及び15シルバー人材センターにおける就業機会の確保及び提供に関する業務等の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   就業機会の公平の確保
  厚生労働省は、「高年齢者労働能力活用事業の実施について」(昭和55年4月26日付け職発第217号労働省職業安定局長通知)により、「シルバー人材センターは、その会員に対して、当該センターが引き受けた仕事を、会員の能力と希望に応じて公平に提供するよう配慮するものとする」よう指示しており、また、「シルバー人材センターの適正な事業運営の確保について」(昭和56年9月1日付け企発第22号労働省職業安定局失業対策部企画課長通知)においても、「会員は、本来雇用関係を有しない補助的、短期的な就業を通して自己の労働能力を活用するというセンターの目的に賛同して加入した高年齢者であるので、センターは会員に対する仕事の提供に際し、特定の会員を特定の業務に長期間、継続して就業させることなく、できるだけ多くの会員が、就業の機会が得られるようローテーションを組むなど十分な考慮が払われることが必要」としている。
  しかし、シルバー人材センターが固定した会員に対し、長期間、継続して仕事を提供しているため、1.公的研修・宿泊施設の清掃業務について、当該業務に就業することを希望しながら就業できなかった者が生じている例、2.放置自転車等の撤去及び保管等業務に4人の会員がそれぞれ1日当たり8時間、月10日平均従事している例(4人のうち、最も長期間当該業務に従事している者の就業期間は3年5か月)、3.1人の会員が屋内清掃業務に年間200日程度、2年以上就業し続けている例等がみられる。
  これらの原因は、シルバー人材センターが就業機会の提供に際して発注元の希望や既就業会員の意向をそのまま受け入れてしまうことにあるとみられる。
 就業機会の開拓事業の見直し
  厚生労働省は、平成11年1月から13年3月にかけて、「緊急経済対策」(平成101116日経済対策閣僚会議決定)における「雇用活性化総合プラン」の一環として、平成10年度シルバー就業機会開発プロジェクト事業実施要領(平成101221日付け職発第862号労働省職業安定局長通知)等により、就業機会開拓専門員の配置及び就業機会の開拓のための広報を行うシルバー就業機会開発プロジェクト事業(以下「プロジェクト事業」という。)を各シルバー人材センター連合に委託(平成10年度から12年度の委託費累計82億円)し、実施した。就業機会開拓専門員については、(i)シルバー人材センターが設立されている市町村においては、シルバー人材センターにより採用され、配置されており、(ii)シルバー人材センターが設立されていない市町村においては、シルバー人材センター連合により直接採用され、配置されている。
  今回の調査の結果、プロジェクト事業の実施状況について、次のような状況がみられた。
  1.   シルバー人材センター連合全体における平成11年度のプロジェクト事業の実施状況をみると、全国に配置された2,409人の就業機会開拓専門員が、就業機会を開拓するために事業所等を訪問した回数は517万1,333回、仕事の請負契約件数は10万3,487件、契約金額は66億2,104万円となっており、シルバー人材センター連合の全契約件数198万4,022件のうち、プロジェクト事業による契約件数は5.2パーセントを占めている。
2.   調査した14シルバー人材センター連合における平成11年度のプロジェクト事業の実施状況をみると、(i)就業機会開拓専門員1人当たりの契約件数は平均40件であるが、最多は77件、最少は15件と格差があり、また、(ii)契約金額は平均で委託費の2.2倍となっているが、1シルバー人材センター連合では、0.8倍と契約金額が委託費を下回っている。
3.   抽出したシルバー人材センター連合について、その会員となっているシルバー人材センターにおける就業機会開拓専門員1人当たりの契約件数は、最多のシルバー人材センターで76件、最少のシルバー人材センターで0.3件と大きな格差が生じている。
  これに関し、契約件数が最多となっているシルバー人材センターでは、事業所等を訪問し、担当者等と面談した後に会議を開催し、面談の状況から受注の可能性の分析を行った上、見込みのあるものについて再訪問する等の工夫を凝らしているのに対し、契約件数が最少となっているシルバー人材センターでは、事業所等を訪問し、リーフレット等を配布しているが、担当者等との面談による具体的な依頼は行っていない。
4.   以上のとおり、各シルバー人材センター及びシルバー人材センター連合の取組は大きく異なっている状況にあり、その効果においても大きな格差が生じている。しかし、厚生労働省は、プロジェクト事業が平成10年度補正予算による緊急対策であり、事業の実施の実態やその効果についての把握・分析・評価を十分行うための期間がなかったこともあって、シルバー人材センター連合に対し、事業実施の実態やその効果を反映した指導を行っていない。
  プロジェクト事業は平成12年度末に終期を迎え、終了している。厚生労働省は、平成13年度に高齢者就業機会確保事業を創設しているが、これは、シルバー人材センターが就業機会の確保を担当する「就業機会創出員」を職員として配置する場合に人件費の一部を補助するものであり、プロジェクト事業と同様の内容となっていることから、この事業が効果を上げるためにはプロジェクト事業と同様の配慮が必要と考えられる。
   シニアワークプログラムの見直し
  厚生労働省は、平成10年度から、高齢者の雇用就業機会の確保を促進することを目的として、シニアワークプログラム実施要領(平成10年4月8日付け職発第286号労働省職業安定局長通知)に基づき、60歳台前半の高齢求職者等(被雇用者であったか否かを問わない。)を対象に、地域の事業主団体等の参画の下、雇用を前提とした技能講習、合同面接会等を実施すること及び介護サービス分野を中心にシルバー人材センター事業における就業機会拡大のための技能講習等を実施することを内容とするシニアワークプログラムを、シルバー人材センター連合に委託している(平成10年度から12年度までの間の委託費累計143億円)。
  シルバー人材センター連合では、1.高齢者の再就職を促進するため事業主団体と連携を図って実施する技能講習(第1種技能講習)、2.シルバー人材センターが実施する講習のうち、受講後に雇用に結び付き得ると認められる技能講習(第2種技能講習)、3.ホームヘルパー3級以上の資格を取得するための介護講習(第1種介護講習)、4.シルバー人材センターが実施する福祉・家事援助サービス講習(第2種介護講習)を開催することとしている。
  また、第1種技能講習修了者を対象として、当該事業主団体傘下の事業主の参加を得て合同面接会を開催するとともに、講習修了者に対しては合同面接会に参加するよう勧奨することとしている。
  シルバー人材センター連合全体における平成11年度のシニアワークプログラムの実施状況をみると、委託費は49億円で、5,116講座開設され、受講者数は18万7,394人、修了者は18万3,115人となっている。開催経費は、1講座当たりでは95万8,000円、修了者1人当たりでは2万7,000円を要している。この経費は労働保険特別会計(雇用勘定)から支弁されており、その原資は事業主の保険料により賄われている。
  シニアワークプログラムは、高齢者の雇用就業機会を確保することを目的とするものであり、その効果を把握・評価するためには、講習修了者の雇用就業実績を把握することが不可欠である。
  しかし、厚生労働省は、シニアワークプログラムで行う4種類の講習については、第1種技能講習修了者(1万2,642人)のうち、合同面接会を通じて就職した者の数(平成11年度就職者955人、就職率7.6パーセント)を把握しているのみであり、事業効果として把握されるべき各講習の修了者の雇用就業実績は把握していない。

     したがって、厚生労働省は、シルバー人材センター会員の公平な就業機会を確保するとともに、シルバー人材センター連合に対する国庫補助事業等を効果的かつ効率的に実施する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
  1.   シルバー人材センターの会員が雇用関係を有しない就業を通して自己の労働能力を活用するという本来の趣旨に沿って、会員の能力と希望に応じて公平な就業が実現するよう都道府県に対し助言・指導すること。
2.   プロジェクト事業の全国における実施状況や実施効果、就業機会開拓専門員の活動状況について分析・評価し、その結果を高年齢者就業機会確保事業の運営に反映させること。
3.   シニアワークプログラムについて、事業効果を明らかにするため、各種講習の修了者の雇用就業状況を把握し、分析・評価すること。


 高齢者の職業能力開発の効果的実施
  国及び都道府県は、職業能力開発促進法(昭和44年法律第64号)第15条の6において、労働者が段階的かつ体系的に職業に必要な技能及びこれに関する知識を習得できるように、職業能力開発校、職業能力開発短期大学校等の職業能力開発施設を設置して職業訓練を行うものとするとされている。このうち、国が行うこととされている職業訓練は、雇用・能力開発機構法(平成11年法律第20号)に基づき設立された雇用・能力開発機構(以下「機構」という。)が同法に基づいて実施している。
  機構が実施している職業訓練においては、55歳以上の離転職者のみを対象とするコースは設定されていないが、これらの者も対象者とするコースが設定されており、その一つとして、就職支援コースがある。この就職支援コースは、事業主団体等に委託して行われており、訓練生の募集や委託に係る業務は、主として、機構の地方機関である都道府県センター(以下「機構センター」という。)が実施している。

  今回、17機構センターにおける就職支援コースに関する業務の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
    17機構センターにおける平成11年度の就職支援コースの受講者は1,115人となっており、このうち55歳以上の受講者は525人(47.1パーセント)で修了者は425人(このうち就職者は189人(就職率44.5パーセント))となっている。
  就職支援コースは、就職支援能力開発事業実施要領(平成8年5月11日付け職発第319−2号・能発第136号労働省職業安定局長・職業能力開発局長通知)に基づき実施されており、いずれの機構センターも事業主団体等への委託により実施している。
  厚生労働省は、事業主団体等への委託訓練を、職場実習により就職に必要な能力を実践的に身に付けることができ、訓練委託先事業主等への就職を見込める利点があるとしており、就職支援コースの訓練科を設定する際は、機構センター自ら事業所等へのアンケート調査等を実施することにより、どのような訓練科が必要か等の情報を収集するとともに、訓練受託の可能性のある事業所、離職者の訓練ニーズ等に係る情報を分析し、就職に結び付く訓練科を設定するよう指示している。
  今回の調査の結果、就職支援コースにおける訓練科の設定状況等について、次の状況がみられた。
  1.   調査した17機構センターにおける就職支援コースの訓練科は、機構センターが地域の実情に合わせ開設している。その開設形態をみると、事前に訓練委託先を開拓した上で当該職種の訓練希望者を募って開設するもの(以下「常設科」という。)と、機構センターが独自に訓練希望者について希望職種を確認した上で、訓練委託先を開拓し開設するもの(以下「随時科」という。)の2形態があり、平成11年度は、常設科が74訓練科、随時科が95訓練科、常設科と随時科の混合したものが3訓練科の計172訓練科が開設されている。
  常設科については、社会経済情勢の変化に伴って訓練希望職種が変化する可能性があることから、就職に結び付く訓練科を設定するためには、適時適切に見直す必要がある。しかしながら、平成11年度には74訓練科のうち13訓練科(17.6パーセント)において就職者が皆無であったにもかかわらず、この13訓練科のうち5訓練科は12年度においても引き続き開設されている。この5訓練科における平成12年度の就職率をみると、1訓練科は50パーセントを超えているが、33.3パーセントが1訓練科、20パーセントが1訓練科、就職者が皆無となっているのが2訓練科となっており、訓練科の見直しが必ずしも的確に行われていない。
2.   17機構センターでは、就職に結び付く訓練科を設定することなどを目的として、就職支援コースについて、安定所等と意見交換を行っており、また、訓練修了者の就職状況を把握するための追跡調査を実施している。しかし、この追跡調査の内容をみると、就職の有無、就職している場合の就職先の企業規模・雇用条件等を把握しているのみであり、当該訓練が就職に貢献したのかを把握するために必要な、訓練科を修了したことによる企業からの評価及び個人としての評価には及んでいない。
  一方、厚生労働省は、常設科に関して、改廃等見直しを行う際の指針を作成していない。
3.   なお、都道府県の中には、職業能力開発施設の修了生に係る「就職状況」、「修了科目との関連」、「就職が内定した時期及び経路」、「専門校(職業能力開発施設)を修了したことによる会社からの評価」、「専門校(職業能力開発施設)を修了したことによる個人としての評価」等を把握し、職業訓練の効果的実施方法の検討、科目の開発等の研究資料とすることを目的とした実態調査を毎年実施するとともに、職業訓練に関する評価項目等を作成し、これに基づき訓練科の見直しを図っているところがある。
    平成11年度における就職支援コースの訓練を修了した55歳以上の者の就職状況について、訓練科の開設形態別にみると、常設科については、修了者570人のうち就職者が236人(41.4パーセント)となっているのに対し、随時科については、修了者178人のうち就職者が119人(66.9パーセント)とその割合が高い。
  常設科は、事前に訓練委託先を開拓した上で当該職種の訓練希望者を募って開設するものであることから、個人のニーズに着目して調整を行うことには困難な面がある。
  一方、随時科は、訓練希望者について希望職種を確認した上で訓練委託先を開拓し、開設する訓練科であり、主として訓練生を従業員として採用する意思のある個別企業に訓練を委託している。また、機構センターが随時科を設定するに当たっては、訓練後に採用される可能性が高くなるよう訓練希望者の就職希望条件と委託先企業の採用条件とをきめ細かに調整しているなど工夫を凝らしていることから、随時科修了者の就職率は高いものとなっている。
  しかし、17機構センターの中には、随時科を全く開設していないものが6センターみられる。
    したがって、厚生労働省は、高齢者の職業能力開発の効果的な実施を確保する観点から、次の措置を講ずる必要がある。
   1.   就職支援コースの常設科について、就職に結び付く訓練科の設定を確保するための改廃等の見直しを行う際の指針を作成した上、機構に対し、これに基づいて訓練科の見直しを行うよう指導すること。
   2.   機構に対し、就職支援コースの実施に当たっては、随時科の開設に積極的に取り組むよう指導すること。