第1 行政手続法の運用実態

 行政手続法の施行及び運用に係る推進体制、取組状況
 行政運営における公正の確保と透明性の向上を図り、国民の権利利益の保護に資することを目的として、行政庁の処分、行政指導及び届出に関する手続について、次のような共通する事項を定めた行政手続法(平成5年法律第88号。以下「手続法」という。)が平成6年10月1日に施行されている。
1.  申請に対する処分(許認可等):審査基準及び標準処理期間の設定及び公表、申請が到達したときの審査開始義務、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合の理由の提示等
2.  不利益処分(許認可等の取消し、営業停止等):処分基準の設定及び公表、聴聞及び弁明の機会付与のための手続、不利益処分をする場合の理由の提示
3.  行政指導:一般原則、明確化原則等
4.  届出:法令に定められた形式上の要件に適合している場合、提出先機関に到達したときに手続上の義務が履行される旨規定
 手続法については、成立後の「今後における行政改革の推進方策について」(平成6年2月15日閣議決定)において、「円滑かつ的確な施行を図るため、施行前準備の万全を期すとともに、国民に対する積極的な周知、地方公共団体への的確な指導・助言に努める」こと及び「同法の施行後にあっては、その施行状況調査等の充実を図り、同法の定着に努める」こととされている。また、その後も、手続法の定着とその活用を図るため、職員研修の実施、審査基準の設定及び見直しの推進、標準処理期間の短縮等について閣議決定が行われてきている。

 今回、手続法の施行及び運用の状況を全体的に把握するため、23省庁及びその地方支分部局78機関、19都道府県、 331市の計451機関について調査表による概況調査を、また、運用の詳細を把握するため、451機関のうち289市を除く162機関、453事業者等について実地調査を実施した結果、手続法の的確な施行及び運用を推進するための体制、取組について、次のような状況がみられた。

(1)  行政手続法の施行及び運用に係る推進体制
 当該行政機関における手続法の施行及び運用を中心となって推進する部局(以下「推進部局」という。)を設けている行政機関は、実地調査した162機関のうち143機関(88.3パーセント)となっているものの、国の地方支分部局においては、推進部局を設置していない機関が78機関のうち19機関(24.4パーセント)みられる。また、143機関の中には、推進部局が審査基準等の設定手続に関する規程を定め、審査基準等の設定時に所管課から協議を受け内容の審査を行うなど、手続法の施行及び運用に機関全体として積極的に取り組んでいる行政機関が一部みられる反面、大半の行政機関では、推進部局が審査基準等の設定状況を形式的に把握しているにとどまっており、 機関全体として取り組んでいない。
 手続法に関する職員研修の実施状況をみると、手続法の趣旨等の徹底のため、職員研修のプログラムの中に手続法の講義を取り入れている行政機関は実地調査した162機関のうち19機関(11.7パーセント)にすぎず、143機関(88.3パーセント)では、手続法に関する職員研修は行われていない。
(2)  審査基準等の設定のための取組状況
 総務庁行政管理局は、国及び地方公共団体における手続法の円滑かつ的確な施行の確保に資することを目的として、手続法の対象となる行政処分について、審査基準等の設定及び公表の状況などを把握するため、「行政手続法の施行状況に関する調査」(以下「施行状況調査」という。)を、国(本省庁及び一部の地方支分部局)及び地方公共団体(全都道府県、全政令指定都市及び全県庁所在市)を対象に実施している。
 施行状況調査の対象とされている国及び地方公共団体においては、同調査への対応もあって、手続法の適用対象となる行政処分の一元的な把握や、審査基準、 標準処理期間、処分基準の設定等に取り組んできているが、施行状況調査の対象とされていない市の中には、次のように手続法への対応が必ずしも十分とはいえない状況がみられる。
 今回、331市における審査基準等の設定のための取組状況について概況調査を行ったところ、審査基準、標準処理期間及び処分基準の設定状況については、大半の市ですべての処分について一元的に把握できているが、施行状況調査非対象市の中には、一元的に把握することが困難としている市が16市みられた。また、 これ以外にも、 審査基準等の設定状況を一元的に把握する体制が十分に整っていなかったため、その把握に3か月から6か月の期間を要した市が15市みられた。
 審査基準、標準処理期間及び処分基準の設定状況についてみると、施行状況調査非対象市における審査基準、標準処理期間及び処分基準の設定率(該当処分数に占める設定済処分数の割合。なお、審査基準及び処分基準については、判断基準が法令の規定に言い尽くされているとしている処分は設定済みとみなす。)の平均値は、それぞれ65.7パーセント、45.9パーセント及び57.9パーセントであり、施行 状況調査対象市の79.4パーセント、51.1パーセント及び 67.1パーセントに比べ、それぞれ13.7ポイント、 5.2ポイント及び 9.2ポイント低くなっている。
(3)  行政手続法の周知状況等
 総務庁行政管理局は、手続法施行時からポスター、パンフレットの作成・配布を行い国民への周知を図ってきている。しかしながら、今回、国及び地方公共団体による手続法の周知状況や、事業者等が手続法の趣旨を承知しているかについて実地調査した結果、次のような状況がみられた。
 行政機関による周知状況
 事業者等に対し、手続法の趣旨について、周知のための広報活動等を行っているとしている行政機関は、国においては総務庁及び自治省のみであり、地方公共団体においても61団体のうち25団体(41.0パーセント)となっている。また、広報活動等を行っているとしている行政機関においても、手続法施行時や各地方公共団体の行政手続条例制定時に広報誌等への掲載を行っただけの短期的なものにとどまっている機関が多い。
 事業者等における手続法の趣旨の承知の有無
 今回調査した許認可等の申請を行った事業者等から、手続法の趣旨を承知しているかを聴取したところ、手続法の趣旨を承知しているとしている事業者等は、 453事業者等のうち79事業者等(17.4パーセント)にすぎず、事業者等の大半は、手続法の趣旨を承知していないと回答している。また、手続法の趣旨を承知していないとする事業者等の中には、行政機関による周知のための活動を求める意見がみられた。
 審査基準、標準処理期間及び処分基準の設定及び公表の状況
(1)  審査基準
 手続法第5条において、行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するための審査基準を定めるものとされ、また、行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないこととされている。さらに、行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならないこととされている。
 一方、「行政手続法の施行に当たって」(平成6年9月13日付け総管第 211号総務事務次官通知。以下「施行通知」という。)において、 「審査基準は、許認可等を付与する権限を有する行政庁(処分庁)において定めるものであるが、地方公共団体等同一の許認可等について多数の処分庁が存在する場合には、法令所管省庁においても、地域の事情等も考慮しつつ、できる限りその参考となる指針を処分庁である地方公共団体等に示すことが望ましい」とされている。
   
 法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示状況
 今回、実地調査した申請に対する処分60法律166事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分56法律145事項について、法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示状況をみると、審査基準の設定の根拠又は参考となり得る関連通達名等を提示することなどにより、何らかの形で指針が示されている処分は、44法律102事項(70.4パーセント)となっている。
 上級庁である法令所管省庁からの運用通達等に示された基準、方針等を行政庁自らの審査基準とするためには、当該行政庁の審査基準が当該運用通達等と同内容である旨、当該運用通達等のどの箇所が審査基準に該当するかを申請をしようとする者に明確に分かるようにしておくことが必要とされている。また、法令所管省庁における審査基準等の設定に関する指針は、各行政庁がこのような措置を確実に講じることができるようなものでなければならない。
 しかしながら、法令所管省庁による審査基準の設定に関する指針において、行政庁が法令所管省庁の運用通達等を自らの審査基準として設定する必要性の有無や審査基準とすべき運用通達等の該当箇所が不明確となっている処分も6法律14事項みられる。このように、法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示は、必ずしも十分なものとはなっていない。
 なお、都道府県又は市町村が処分権限を有する処分48法律 122事項のうち、 施行状況調査の参考情報として、法令の規定に言い尽くされ審査基準の設定は不要と法令所管省庁が整理している処分は、30法律62事項と半数以上を占めているが、法令所管省庁において都道府県や市町村に対し審査基準の設定に関する具体的な指針を実際には示しているものが7法律15事項あり、整合性に欠ける状況がみられる。
 行政庁における審査基準の設定状況等
(ア)  審査基準の設定状況
1.  申請に対する処分60法律166事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における審査基準の設定状況を実地調査した結果、実際に審査基準を設定しているものは、調査事例1,369件(注)のうち 957件 (69.9パーセント)であるが、この中には、法令の規定のみで足りるとして別途の審査基準を設定せず形式的に設定済みとされているものも含まれており、これらを除くと 857件(62.6パーセント)にとどまっている。
(注)  調査事例の件数は、事項数に行政機関数を乗じたものであり、以下の事例の件数についても、同様である。
2.  また、法律及び事項ごとに審査基準の設定状況をみると、 60法律166事項のうち20法律46事項(166事項の27.7パーセント)については、各事項ごとの調査対象機関(平均8機関)のすべてにおいて審査基準が設定されている。これに対して、14法律23事項(同13.8パーセント) については、いずれの調査対象機関においても審査基準が設定されていない。残る40法律97事項(同58.5パーセント)についても、調査対象機関により審査基準を設定しているものと設定していないものがあるなど、審査基準の設定状況は、事項によっては必ずしも良好とはいえない。
3.  さらに、 法令所管省庁と行政庁とで審査基準設定の要否についての判断が異なるような状況が次のとおりみられる。
i  法令所管省庁が審査基準の設定に関する指針を示しているなど、審査基準の設定が可能とみられる事項について、行政庁によっては法令の規定に言い尽くされているとして審査基準の設定を不要と判断するなどにより、審査基準を設定していないものがある事項がみられた(18法律39事項81件)。審査基準の設定を不要と判断している行政庁の中には、申請者から照会があった場合に法令所管省庁の運用通達等を説明すればよいと考え、あらかじめ当該行政庁の審査基準として設定する必要がないと解しているものや、運用通達等が公表されている場合には、これを踏まえた当該行政庁の審査基準を設定する必要がないと解しているものがある。
ii  法令所管省庁が法令の規定に言い尽くされており審査基準の設定を不要としている事項についても、行政庁によっては、法令所管省庁の運用通達等に基づき審査基準を設定しているものがある事項(14法律27事項 104件)や、審査基準は設定していないものの、運用通達等を審査に活用しているものがある事項(10法律18事項41件)もみられる。これらの事項については、手続法の趣旨からみて、運用通達等を踏まえて審査基準を設定すべきものと考えられる。
(イ)  審査基準の内容
 各行政庁において設定・公表されている審査基準の内容をみると、不十分又は不適切な内容となっているものが次のとおりみられる。
1.  法令所管省庁が審査基準の設定に関する具体的な指針を示しているなど、具体的な審査基準の設定が可能とみられるにもかかわらず、審査基準として設定・公表しているものは法令の規定のみとなっているもの (12法律26事項47件)
2.  審査基準として通達集等の名称をそのまま列挙するのみであり、どの通達等のどの箇所が審査基準に該当するのか明確にされていないもの(5法律8事項8件)
3.  法令の規定以外の内規・通達等を参考事項としてのみ掲げているなど、審査基準としての位置付けを明確にしていないもの(2法律3事項3件)
4.  審査基準として設定・公表されているもののみでは申請者にとって当該許認可等について確たる見通しをつけることが困難な状況であり、その前提となる地域区分や、基準を満たすかどうかの判定方法等についても審査基準に含めて設定・公表するなどにより、審査基準の明確化を図る必要があるもの(1法律2事項14件)
5.  本来法令の規定に基づくものではない行政指導指針や利害関係者の同意の有無等を審査基準として設定しているもの(6法律10事項11件)
(ウ)  審査基準の公表
 行政庁における審査基準の公表についても、申請の提出先機関に審査基準が備え付けられていないなど、申請者の求めがあっても提示し得る状況にないものがみられた(6法律12事項16件)。
(2)  標準処理期間
 手続法第6条において、行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならないこととされている。
 また、施行通知において、法令所管省庁は、同一の許認可等について多数の行政庁が存在する場合において、その審査がいずれの行政庁においても同一の期間に終了すると見込まれるものであるときは、あらかじめ一応の目安を示すなど、標準処理期間の設定が円滑に行われるよう努めるものとされている。
 なお、標準処理期間については、「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)において、「許認可等の審査・処理期間の半減を目指し、半減できない場合でも、できる限り短期化する。このため、平成10年(1998年)9月末までに具体的措置事項を確定し、速やかに措置する」こととされた。これに基づき、平成10年9月29日、国が直接審査・処理することとされている許認可等で標準処理期間が設定されている 3,602種類のうち 1,380種類(38パーセント)について、審査・処理期間の半減化を含め短期化すること等を内容とした「許認可等の審査・処理期間の半減・短期化について(とりまとめ結果)」が総務庁から公表されている。
 法令所管省庁における標準処理期間の設定に関する指針の提示状況
 今回、実地調査した申請に対する処分60法律 166事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分56法律 144事項(法令上処理期間が定められているため、指針の対象とならない1事項を除く。)について、法令所管省庁における標準処理期間の設定に関する指針の提示状況をみると、手続法の施行前から処理の目安となる期間を定めるよう指導していることもあって、改めて指針を示している処分は25法律63事項(43.8パーセント)にとどまっている。
 行政庁における標準処理期間の設定状況等
(ア)  標準処理期間の設定状況
 申請に対する処分60法律 166事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における標準処理期間の設定状況を実地調査した結果、実際に標準処理期間を設定して いるものは、調査事例 1,369件のうち 1,121件(81.9パーセント)となっている。
 法律及び事項ごとに標準処理期間の設定状況をみると、次のとおり、標準処理期間の設定が可能とみられるにもかかわらず未設定となっているものがある。
1.  類似する他の処分においては標準処理期間が設定されており、処理の態様からみても設定可能であるとみられるもの(1法律1事項1件)
2.  いずれの行政庁においても一定の期間に審査が終了することが見込まれるとして、法令所管省庁が指針を示し、標準処理期間を設定するよう行政庁を指導しているが、事実関係の認定に難易差があり設定が困難であること等を理由として標準処理期間を設定していない行政庁が一部にみられるもの(5法律6事項12件)
3.  法令所管省庁の指針は示されていないが、同一の許認可等の処分について標準処理期間を設定している行政庁がみられることから、標準処理期間を設定していない行政庁においても設定可能であるとみられるもの(7法律14事項29件)
(イ)  各行政庁において設定・公表されている標準処理期間の内容をみると、次のとおり処理の実態に即したものとなっておらず、設定された標準処理期間が必ずしも申請者にとっての目安とはなっていないとみられるものがある。
1.  申請から処分までの間に関与する機関ごとの標準処理期間を設定していないもの(7法律12事項58件)
2.  実際の処理期間よりもかなり長い標準処理期間を設定しているもの
i  法令所管省庁による設定指針があるもの(8法律11事項49件)
ii  法令所管省庁による設定指針がないもの(1法律1事項4件)
3.  法令所管省庁の指針に基づき、申請から処分決定までの標準処理期間を設定しているが、処分の施行まで相当の期間を要し、申請者にとって処理期間の目安となっていないもの(1法律2事項8件)
4.  同一の許認可等の処分であっても、専決処理の有無等により事務処理の態様が異なるが、一律の標準処理期間を設定しているもの(3法律4事項14件)
5.  行政庁によって標準処理期間を設定すべき期間の考え方が大きく異なっているもの(1法律1事項3件)
(ウ)  標準処理期間の公表
 行政庁における標準処理期間の公表についても、申請の提出先機関に標準処理期間が通知されていないことなどにより、申請者に対し手続法の趣旨に沿った公表措置 が講じられていないものがみられた(5法律8事項12 件)。
(3)  処分基準
 手続法第12条において、行政庁は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについて、その法令の定めに従って判断するための処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならないこととされている。また、行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、当該不利益処分の性質に照らし、できる限り具体的なものとしなければならないこととされている。
 また、施行通知において、処分基準の設定については、一般に、処分に関係する行政庁の裁量が比較的広く、また、処分の原因となる事実の反社会性や処分の名あて人となるべき者の情状等を個別の事案ごとにどう評価するのかといった問題もあることから、努力義務とされているが、その設定に当たっては、基本的には、審査基準の設定に準じて、その運用を行うこととされている。さらに、処分基準を公にしておくことについては、これにより脱法的な行為が助長される場合も想定されることから、努力義務とされているが、処分基準の設定も含めて、法の趣旨を十分に踏まえ、適切な対応に努めることとされている。

 法令所管省庁における処分基準の設定に関する指針の提示状況
 今回、実地調査した不利益処分61法律 621事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分55法律 507事項について、法令所管省庁における処分基準の設定に関する指針の提示状況をみると、処分基準の設定の根拠又は参考となり得る関連通達名等を提示する ことなどにより、何らかの形で指針が示されている処分 は、32法律 169事項(33.3パーセント)となっている。
 上級庁である法令所管省庁からの運用通達等に示された基準、方針等を行政庁自らの処分基準とするためには、当該行政庁の処分基準が当該運用通達等と同内容である旨、当該運用通達等のどの箇所が処分基準に該当するかを明確に分かるようにしておくことが必要とされている。また、法令所管省庁における処分基準等の設定に関する指針は、各行政庁がこのような措置を確実に講じることができるようなものでなければならない。
 しかしながら、行政庁が法令所管省庁の運用通達等を自らの処分基準として設定する必要性の有無や処分基準とすべき運用通達等の該当箇所が不明確となっている処分が6法律43事項みられる。
 なお、都道府県又は市町村が処分権限を有する不利益処分47法律 420事項のうち、施行状況調査の参考情報として、法令の規定に言い尽くされ処分基準の設定は不要と法令所管省庁が整理している処分は、40法律 217事項となっているが、法令所管省庁が都道府県や市町村に対し処分基準の設定に関する具体的指針を実際には提示しているものが8法律22事項あり、整合性に欠ける状況がみられる。
 行政庁における処分基準の設定状況等
(ア)  処分基準の設定状況
1.  不利益処分61法律621事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における処分基準の設定状況を実地調査した結果、処分基準の設定率は31.3パーセント(調査事例3,834件のうち1,201件)と審査基準の設定率よりも低い(法令の規定に言い尽くされており基準設定不要とされている処分を含めた場合(2,553件)の設定率は66.6パーセント)。これは、処分基準については、その性質上、あらかじめ具体的な基準として画一的に定めることが技術的に困難な場合もあるので、その設定は手続法上努力義務にとどめられていることや、不利益処分の前例がなく、あらかじめ基準を設定することが困難とされている場合も多いことなどによる。
2.  また、法律及び事項ごとに処分基準の設定状況をみると、61法律621事項のうち14法律58事項( 621事項の9.3パーセント)については、各事項ごとの調査対象機関(平均6機関)のすべてにおいて処分基準が設 定されている。これに対して、45法律283事項(同45.6パーセント)については、いずれの調査対象機関においても処分基準が設定されていない。残る44法律280事項(同45.1パーセント)についても、調査対象機関により処分基準を設定しているものと設定していないものがある。
3.  さらに、法令所管省庁と行政庁とで処分基準設定の要否についての判断が異なるような状況が次のとおりみられる。
i  法令所管省庁が処分基準の設定に関する指針を示しているなど、処分基準の設定が可能とみられる事項について、行政庁の一部には、法令の規定に言い尽くされているとして処分基準の設定を不要と判断するなどにより、処分基準を設定していないものがある事項がみられた(20法律71事項171件)。これらの行政庁の中には、法令所管省庁の通達等は法令の規定と一体のものとみなし、これらで言い尽くされているとして処分基準の設定を不要としているものや、法令所管省庁の運用通達等が公表されているため当該行政庁の処分基準を改めて設定する必要がないと判断し、 設定していないものがある。
ii  法令所管省庁が法令の規定に言い尽くされ処分基準の設定を不要としている事項についても、行政庁によっては、法令所管省庁の運用通達等や独自の判 断により処分基準を設定しているものがある事項(19法律78事項235件)や、処分基準は設定していないものの、法令所管省庁の運用通達等や行政庁が独自に作成した内規等を不利益処分の判断に際して活用するとしているものがある事項(9法律38事項58件)もみられる。これらの事項については、法令所管省庁の運用通達等又は行政庁の内規等に基づき処分基準を設定する余地があると考えられる。
(イ)  処分基準の内容
 各行政庁において設定されている処分基準の内容をみると、不十分な内容となっているものが次のとおりみられる。
1.  法令所管省庁が処分基準の設定に関する具体的な指針を示しているなど、具体的な処分基準の設定が可能とみられるにもかかわらず、処分基準として設定しているものは法令の規定のみとなっているもの(9法律23事項35件)
2.  処分基準として通達集等の名称をそのまま列挙するのみであり、どの通達等のどの箇所が処分基準に該当するのか明確にされていないもの(1法律23事項46件)
(ウ)  処分基準の公表
 処分基準の公表は、処分基準そのものが設定困難である場合があることに加えて、公表により脱法的な行為が助長される場合も想定されるため、手続法上努力義務にとどめられていることもあり、設定された処分基準のうち公表されている処分基準(基準の一部のみが公表されているものを含む。)の割合は82.4パーセント(1,201件から法令の規定のみを基準として設定しているものを除く946件のうち 779件) となっている。
 しかし、同一処分でありながら、処分基準を全面的に公表している行政庁がある一方で、同様な内容の処分基準を全く公表していない行政庁があるなど、処分基準の公表の有無、公表の範囲が行政庁により区々となっている処分が10法律46事項みられる。 このように、行政庁における処分基準の公表の取扱いについては、処分基準のうちのどの事項の公表が脱法行為を助長するおそれがあるのかといった、公表の可否及び可能な範囲についての統一的な検討が必ずしもなされていない状況がうかがえる。
 なお、法律及び事項ごとに処分基準を設定しかつ公表しているものの割合をみると、61法律 621事項のうち、各事項ごとの調査対象機関の半数以上が処分基準を設定しかつ公表している事項は30法律93事項(14.9パーセント)にとどまっている。このうち、調査対象機関のすべてにおいて処分基準を設定しかつ公表している事項は12法律40事項(621事項の6.4パーセント)にすぎない。これに対して、処分基準を設定していない場合を含め、いずれの調査対象機関においても処分基準の公表が行われていない事項は48法律339事項(621事項の54.6パーセント)となっている。 
 処分に係る行政手続法の運用状況
(1)  申請に対する処分
 申請に対する審査、応答
 手続法第7条において、行政庁は、申請がその事務所に到達したときは、遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること等法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならないこととされている。
 今回、実際に行われた申請に対する処分について、申請に対する審査・応答義務の遵守状況を実地調査した結果、次のとおり、行政庁等における申請に対する審査、応答が必ずしも適切とはいえない状況がみられた。
1.  申請が到達した時点での受付
 行政庁及び申請の提出先機関・経由機関では、申請が形式上の要件を満たした時点をもって当該申請を正式なものとして受け付ける取扱いをしているもの、申請内容を事前審査し、許認可等の要件を満たす見込みのある申請に限って正式に受け付ける取扱いをしているものがみられるなど、申請が到達した時点で直ちに正式な申請として取り扱うという手続法の趣旨は必ずしも徹底されていない(13法律27事項延べ34機関における事例)。
 これらの事例の中には、受付印の押印、受付簿への登載を行わず申請書を返戻していることから、申請が到達した時点が不明確となっているものや、申請が形式上の要件に適合しない場合の補正指示等の経緯がほとんど記録に残されていないものがある。
2.  形式上の要件に適合しない申請の補正指示等
 申請が形式上の要件を満たさない場合に、申請者に期限を示して補正を指示している行政庁等はほとんどみられない。また、申請者が補正に応じない場合、個別法の運用実態や申請者の利益からみると、手続法第7条に基づき直ちに拒否処分につなげることは難しい面もあると考えられるが、許認可等の拒否処分を行わず、長期間申請を放置している例や申請書を申請者に返戻する取扱いをしているものがある(2法律3事項延べ5機関における事例)。
 また、同一の許認可等の処分であっても、形式上の要件に適合しない申請に対する取扱いが、補正指示、申請書の取下げ指導、拒否処分等各行政庁によって区々とな っているものがある(1法律1事項7機関における事例)。
 申請から処分に至るまでの事務処理
 手続法第11条において、行政庁は、申請の処理をするに当たり、他の行政庁において同一の申請者からされた関連する申請が審査中であることをもって、自らすべき許認可等をするかどうかについての審査又は判断を殊更に遅延させるようなことをしてはならないとされている。また、一の申請又は同一の申請者からされた相互に関連する複数の申請に対する処分について複数の行政庁が関与する場合においては、当該複数の行政庁は、必要に応じ、相互に連絡をとり、当該申請者からの説明の聴取を共同で行う等により審査の促進に努めるものとされている。
 今回、申請から処分に至るまでの事務処理の状況について、処理の迅速化の観点から、複数の行政庁が関与する処分のほか、単一の行政庁が行う処分も実地調査した結果、次のとおり、関係行政庁間の連絡調整が不適切であること等により事務処理が遅延している例などがみられた。
1.  関係する他の行政機関との連絡調整が不適切であることや、関係機関への意見照会と審査との並行処理や回答期限の設定を行っていないことにより、事務処理が長期化しているもの(2法律2事項2機関における事例)
2.  行政庁や申請の提出先機関における事務処理が適切でないため遅延しているもの(5法律5事項5機関における事例)
i  申請事案を必要以上に一括して処理することとしているため、申請事案が長期間放置されているもの
ii  処理に長期を要する申請と比較的短期間で処理可能な申請を区分して処理していないため、本来短期間で処理可能な申請まで事務処理が長期化しているもの
iii  他の行政庁における取扱いからみて、省略可能とみられる事項についてまでも関係機関への照会を行っているため、事務処理が長期化しているもの
iv  行政庁における審査後、許認可等の情報システムを管理する上級庁におけるシステムへの入力、再チェック等が行われているため、最終的に処分決定されるまで期間を要しているもの
3.  許認可等の有効期間の更新等本来的には有効期間の満了日までに処理されることが望ましい場合において、当該期日までの処理がなされず、処分の遅れが生じているもの(2法律2事項2機関における事例)
4.  申請の提出先機関において実質的に審査がなされていることから、当該機関に処分権限を委任することなどより、更に事務処理の迅速化が可能とみられるもの(1法律1事項5機関における事例)
 拒否処分の理由の提示
 手続法第8条において、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならず、処分を書面でするときは、理由についても書面で示さなければならないこととされている。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りるとされている。

 今回、申請により求められた許認可等を拒否する処分を行う場合の理由の提示状況について実地調査した結果、書面において法令上の根拠条項のみを示し、拒否処分に該当する事実を示していないなど理由の提示が不十分なものがみられた(2法律2事項8機関における事例)。

(2)  申請に関連する行政指導
 手続法第32条において、行政指導の一般原則として、行政指導に携わる者は、行政指導の内容が、あくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならず、相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならないとされている。
 また、手続法第33条において、行政指導に携わる者は、申請者が従う意思がない旨を表明したにもかかわらず、申請の取下げ又は内容の変更を求める行政指導を継続すること等により、当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならないとされている。
 なお、地方公共団体が行う行政指導については、手続法の規定は適用されないが、同法第38条において、同法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならないとされている。
 今回、申請に基づく処分に関連して行われる行政指導について実地調査した結果、次のような状況がみられた。
1.  行政指導による申請の制限
 国に処分を求める申請に関連し、i)申請に先立ち、申請者に申請内容の事前協議等を求め、実質的な審査を行っているもの、ii)有効期間の更新許可申請の際に、次回更新時の申請範囲を制限することを目的とした念書を申請者から徴収しているものがみられ、必ずしも任意によるものとはいえない行政指導により、許認可等の申請に係る事務処理を行っているものがある(2法律2事項2機関における事例)。
 なお、地方公共団体に処分を求める申請に関連し、申請者が、事前の行政指導に従わないことを理由として申請の受付拒否や取下げ指導が行われた結果、当該申請者から、手続法第7条の審査開始義務に違反するとして訴訟が提起されているものがある(2法律2事項2機関における事例)。
2.  許認可等の要件に適合していない申請に対する取下げ指導等
 地方公共団体に処分を求める申請に関連し、許認可等の要件を満たさない場合に拒否処分を行わず、申請の取下げ指導又は申請書を返戻しているものがある(4法律6事項延べ7機関における事例)。
3.  許認可等の申請の要件と認識させるような行政指導
 地方公共団体に処分を求める申請に関連し、当該書類の添付等が法令に定められた申請の要件と申請者に認識させるような行政指導を行っており、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであるという手続法の趣旨がいかされていないものが、次のとおりみられる(11法律12事項延べ42機関における事例)。
i  法令上申請の要件とされておらず、 法令所管省庁においても見直しを指示しているにもかかわらず、 近隣利害関係者の同意書の添付を事実上義務付けているもの
ii  行政庁が行うべき市町村長からの意見聴取等について、申請者に当該意見書の添付等を要求し、事実上代行させているもの
iii  法令上申請の要件とされていないにもかかわらず、行政指導により利害関係者の同意書の添付を事実上義務付けているもの
iv  法令上申請の要件とされておらず、 法令所管省庁においても手続法の趣旨を踏まえた指導要綱にするよう見直しを指示しているにもかかわらず、 いまだ指導要綱の見直しを行っておらず寄付、負担金を義務付けているもの
(3)  不利益処分
 不利益処分に際しての事前の意見陳述手続
 手続法第13条において、行政庁は、不利益処分をしようとする場合には、聴聞(許認可等の取消し、名あて人の資格又は地位のはく奪等の場合)又は弁明の機会の付与により、当該不利益処分の名あて人となるべき者について、意見陳述のための手続を執らなければならないこととされている。ただし、公益上、緊急に不利益処分をする必要があるため、意見陳述のための手続を執ることができないとき等においては、その適用を受けないこととされている。
 また、手続法第24条において、聴聞主宰者は、聴聞の審理の経過を記載した調書を作成し、当該調書において不利益処分の原因となる事実に対する当事者及び参加人の陳述の要旨を明らかにしておかなければならず、聴聞の終結後速やかに、不利益処分の原因となる事実に対する当事者等の主張に理由があるかどうかについての意見を記載した報告書を作成し、当該調書とともに行政庁に提出しなければならないこととされている。さらに、施行通知において、聴聞主宰者については、不利益処分を行う立場にある課等の責任者を主宰者に指名することを排除するものではないが、当該責任者以外の職員を主宰者に指名するなど配慮することが望ましいとされている。
 今回、不利益処分に際しての事前の意見陳述手続について実地調査した結果、次のような例がみられた。
1.  意見陳述手続の不徹底
i  行政庁が不利益処分に際しての事前の聴聞又は弁明の機会の付与の手続を執ることが必要な場合において、当該手続が執られていないもの(3法律4事項5機関における事例)
ii  意見陳述の手続を執ることを要しない事案かどうか個別に判断を要する不利益処分について、一律に手続不要とみなしているもの(1法律1事項4機関における事例)
2.  聴聞主宰者による聴聞報告書等の作成不適切
 聴聞報告書に聴聞主宰者としての意見、判断を記載しておらず、聴聞の運営に疑問のあるもの(1法律2事項延べ2機関における事例)
 不利益処分の理由の提示
 手続法第14条において、行政庁は、不利益処分をする場合には、その名あて人に対し、同時に、当該不利益処分の理由を示さなければならず、処分を書面でするときは理由についても書面で示さなければならないとされている。

 今回、不利益処分の理由の提示状況について実地調査した結果、書面において法令上の根拠条項のみを示し、不利益処分の要件に該当するその原因となる事実を示していないなど理由の提示が不十分なものがみられた(6法律7事項延べ10機関における事例)。

第2 改善を要する事項

 行政手続法の施行及び運用に係る推進体制、取組の充実
 手続法を所管する総務庁は、その的確な施行及び運用を図るため、次の措置を講ずる必要がある。
1.  各省庁の推進部局において、審査基準等の設定及び見直し、職員研修等を通じた手続法の趣旨の徹底を更に推進するとともに、その地方支分部局においても、 推進部局を明確にした上で、手続法の的確な運用を図るよう、各省庁に要請すること。
 また、地方公共団体においても、推進部局が中心となって、審査基準等の設定及び見直し、職員研修等を通じた手続法の趣旨の徹底が図られるよう、自治省に対して必要な要請を行うこと。
2.  審査基準、標準処理期間及び処分基準の設定及び見直しを推進するため、施行状況調査の対象となる国の地方支分部局や地方公共団体の範囲を見直すなどにより、同調査の充実を図ること。
3.  各省庁との連携の下に、地方公共団体の協力も得ながら、国民に対し手続法の趣旨を周知するための活動を強化すること。
 審査基準等の設定・公表及び見直しの推進
 各省庁は、所管の申請に対する処分に係る審査基準及び標準処理期間並びに不利益処分に係る処分基準について、次により、設定及び見直しを図るとともに、法令所管省庁として、現行の指針の見直しも含め、的確な内容の指針を提示することにより、関係行政庁を指導していく必要がある。
(1)  審査基準等の設定の推進
 審査基準、標準処理期間及び処分基準は各行政庁ごとに設定するものであることを徹底すること。
 審査基準や処分基準の設定を不要としている処分又は設定が困難としている処分については、処分の実態、各行政庁における基準の設定状況等を踏まえ、設定を極力推進すること。
 また、標準処理期間を設定していない処分についても、処理期間の実態等を踏まえ、設定を極力推進すること。
(2)  審査基準等の内容の見直し
 審査基準
 申請に対する処分を行う場合の法令所管省庁の運用通達等や行政庁の内規等が設けられている場合には、これらを審査基準の内容に含めるなど、審査基準の内容をより具体的で明確なものとする観点からの見直しを行うこと。
 標準処理期間
1.  実際の処理期間からみて、短期化等より合理的な期間設定の余地がある標準処理期間については、一層実態に即した見直しを行うこと。
2.  申請から処分までの間に関与する機関ごとの処理期間を示した標準処理期間を設定すること。
 処分基準
 不利益処分を行う場合の法令所管省庁の運用通達等や行政庁の内規等が設けられている場合には、これらを処分基準の内容に含めるなど、処分基準の内容をより具体的で明確なものとする観点からの見直しを行うこと。
(3)  審査基準等の公表の推進
 審査基準及び標準処理期間については、処分を行う行政庁にとどまらず、申請の提出先機関も含め、備付け等により公表することを徹底するとともに、非公表扱いとしている処分基準については、各行政庁における取扱いの実態を踏まえ、極力公表する方向で再検討すること。
 また、審査基準等の公表を通じて、手続法の趣旨を国民に浸透させるよう努めること。
 行政手続法の趣旨の徹底
 各省庁は、手続法に沿った事務処理の推進を図るため、次の点に留意しつつ、同法の趣旨を徹底するとともに、法令所管省庁として、関係行政庁を適切に指導していく必要がある。
(1)  申請に対する処分
 審査開始義務の遵守
 申請が到達した場合には遅滞なく審査を開始することとし、事前審査的な取扱いを行い許認可等の要件を満たす見込みが明らかになったものに限って正式な申請として取り扱うなどといった審査開始義務に違反するようなことを行わないこと。
 申請に対する的確な応答
 申請が形式上の要件に適合していない場合、申請者に対して書面で補正期限を明示するなど、申請に対する応答を的確に行うよう徹底すること。
 処理経過の明確化
 申請の到達日、補正に係る経緯等を記載した受付処理簿等の整備を行うことにより、処理経過の明確化を図ること。
 他の行政機関との連絡調整その他事務処理の迅速化
1.  他の行政機関との連絡調整の適時、適切な実施、関係機関への意見照会の審査との並行処理、回答期限の明確化を図ること。
2.  申請の提出先機関における審査に係る役割分担の明確化と行政庁への早期進達の推進、申請に対する処分のうち簡易なものの出先機関等への権限委任、複数の申請を一括して処理する場合においてその単位となる期間の短期化を図ること。
3.  許認可等の有効期間がある場合の更新等有効期間満了日までに処理を終了することが望ましいものについては、当該期日までに事務処理を行うよう努めること。
 拒否処分の理由の提示の徹底
 拒否処分を行う場合、その法令上の根拠条項だけでなく、どのような事実を基に拒否処分が行われるのか申請者において十分に認識し得る程度に理由を示すこと。
(2)  申請に関連する行政指導
 行政指導の任意性の徹底
 申請に対する処分に関連する行政指導について、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであるという認識を徹底すること。
 申請の取下げ指導の自粛
 申請の取下げ指導は、相手方が当該指導に従う意思のない旨を表明した後も審査を行わずに指導を継続するなど、その態様によっては審査開始義務違反となるおそれがあり、行政庁としての責任を回避し、不透明な行政との批判を浴びかねないものであることにかんがみ、軽々にこれを行わないこと。
 法令上許認可等の申請の要件とされていない事項に関する行政指導の自粛
 申請に先立つ事前協議や法令の規定では申請の要件とされていない事項に関する書類の提出要求等について、従うことが当然であると申請者に思い込ませるような行政指導を行わないよう努めること。
(3)  不利益処分
 意見陳述手続の適正化
1.  不利益処分を行う場合の事前の意見陳述手続の励行を徹底すること。また、意見陳述手続を省略できるかどうかについての判断は、手続法の趣旨及び規定を踏まえ、各処分事案の内容を十分検討の上行うものとすること。
2.  聴聞主宰者の指名や聴聞報告書等の作成について、手続法の趣旨を踏まえ、公正かつ透明な聴聞の運営を図ること。
 不利益処分の理由の提示の徹底
 不利益処分を行う場合、その法令上の根拠条項だけでなく、どのような事実を基に不利益処分が行われるのか名あて人において十分に認識し得る程度に理由を示すこと。