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(1) |
審査基準 |
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手続法第5条において、行政庁は、申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するための審査基準を定めるものとされ、また、行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないこととされている。さらに、行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならないこととされている。
一方、「行政手続法の施行に当たって」(平成6年9月13日付け総管第 211号総務事務次官通知。以下「施行通知」という。)において、 「審査基準は、許認可等を付与する権限を有する行政庁(処分庁)において定めるものであるが、地方公共団体等同一の許認可等について多数の処分庁が存在する場合には、法令所管省庁においても、地域の事情等も考慮しつつ、できる限りその参考となる指針を処分庁である地方公共団体等に示すことが望ましい」とされている。
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ア |
法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示状況 |
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今回、実地調査した申請に対する処分60法律166事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分56法律145事項について、法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示状況をみると、審査基準の設定の根拠又は参考となり得る関連通達名等を提示することなどにより、何らかの形で指針が示されている処分は、44法律102事項(70.4パーセント)となっている。
上級庁である法令所管省庁からの運用通達等に示された基準、方針等を行政庁自らの審査基準とするためには、当該行政庁の審査基準が当該運用通達等と同内容である旨、当該運用通達等のどの箇所が審査基準に該当するかを申請をしようとする者に明確に分かるようにしておくことが必要とされている。また、法令所管省庁における審査基準等の設定に関する指針は、各行政庁がこのような措置を確実に講じることができるようなものでなければならない。
しかしながら、法令所管省庁による審査基準の設定に関する指針において、行政庁が法令所管省庁の運用通達等を自らの審査基準として設定する必要性の有無や審査基準とすべき運用通達等の該当箇所が不明確となっている処分も6法律14事項みられる。このように、法令所管省庁における審査基準の設定に関する指針の提示は、必ずしも十分なものとはなっていない。
なお、都道府県又は市町村が処分権限を有する処分48法律 122事項のうち、 施行状況調査の参考情報として、法令の規定に言い尽くされ審査基準の設定は不要と法令所管省庁が整理している処分は、30法律62事項と半数以上を占めているが、法令所管省庁において都道府県や市町村に対し審査基準の設定に関する具体的な指針を実際には示しているものが7法律15事項あり、整合性に欠ける状況がみられる。 |
イ |
行政庁における審査基準の設定状況等
(ア) |
審査基準の設定状況 |
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1. |
申請に対する処分60法律166事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における審査基準の設定状況を実地調査した結果、実際に審査基準を設定しているものは、調査事例1,369件(注)のうち
957件 (69.9パーセント)であるが、この中には、法令の規定のみで足りるとして別途の審査基準を設定せず形式的に設定済みとされているものも含まれており、これらを除くと
857件(62.6パーセント)にとどまっている。
(注) |
調査事例の件数は、事項数に行政機関数を乗じたものであり、以下の事例の件数についても、同様である。 |
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2. |
また、法律及び事項ごとに審査基準の設定状況をみると、 60法律166事項のうち20法律46事項(166事項の27.7パーセント)については、各事項ごとの調査対象機関(平均8機関)のすべてにおいて審査基準が設定されている。これに対して、14法律23事項(同13.8パーセント)
については、いずれの調査対象機関においても審査基準が設定されていない。残る40法律97事項(同58.5パーセント)についても、調査対象機関により審査基準を設定しているものと設定していないものがあるなど、審査基準の設定状況は、事項によっては必ずしも良好とはいえない。 |
3. |
さらに、 法令所管省庁と行政庁とで審査基準設定の要否についての判断が異なるような状況が次のとおりみられる。
i |
法令所管省庁が審査基準の設定に関する指針を示しているなど、審査基準の設定が可能とみられる事項について、行政庁によっては法令の規定に言い尽くされているとして審査基準の設定を不要と判断するなどにより、審査基準を設定していないものがある事項がみられた(18法律39事項81件)。審査基準の設定を不要と判断している行政庁の中には、申請者から照会があった場合に法令所管省庁の運用通達等を説明すればよいと考え、あらかじめ当該行政庁の審査基準として設定する必要がないと解しているものや、運用通達等が公表されている場合には、これを踏まえた当該行政庁の審査基準を設定する必要がないと解しているものがある。 |
ii |
法令所管省庁が法令の規定に言い尽くされており審査基準の設定を不要としている事項についても、行政庁によっては、法令所管省庁の運用通達等に基づき審査基準を設定しているものがある事項(14法律27事項
104件)や、審査基準は設定していないものの、運用通達等を審査に活用しているものがある事項(10法律18事項41件)もみられる。これらの事項については、手続法の趣旨からみて、運用通達等を踏まえて審査基準を設定すべきものと考えられる。 |
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(イ) |
審査基準の内容 |
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各行政庁において設定・公表されている審査基準の内容をみると、不十分又は不適切な内容となっているものが次のとおりみられる。
1. |
法令所管省庁が審査基準の設定に関する具体的な指針を示しているなど、具体的な審査基準の設定が可能とみられるにもかかわらず、審査基準として設定・公表しているものは法令の規定のみとなっているもの
(12法律26事項47件) |
2. |
審査基準として通達集等の名称をそのまま列挙するのみであり、どの通達等のどの箇所が審査基準に該当するのか明確にされていないもの(5法律8事項8件) |
3. |
法令の規定以外の内規・通達等を参考事項としてのみ掲げているなど、審査基準としての位置付けを明確にしていないもの(2法律3事項3件) |
4. |
審査基準として設定・公表されているもののみでは申請者にとって当該許認可等について確たる見通しをつけることが困難な状況であり、その前提となる地域区分や、基準を満たすかどうかの判定方法等についても審査基準に含めて設定・公表するなどにより、審査基準の明確化を図る必要があるもの(1法律2事項14件) |
5. |
本来法令の規定に基づくものではない行政指導指針や利害関係者の同意の有無等を審査基準として設定しているもの(6法律10事項11件) |
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(ウ) |
審査基準の公表 |
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行政庁における審査基準の公表についても、申請の提出先機関に審査基準が備え付けられていないなど、申請者の求めがあっても提示し得る状況にないものがみられた(6法律12事項16件)。 |
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(2) |
標準処理期間 |
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手続法第6条において、行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならないこととされている。
また、施行通知において、法令所管省庁は、同一の許認可等について多数の行政庁が存在する場合において、その審査がいずれの行政庁においても同一の期間に終了すると見込まれるものであるときは、あらかじめ一応の目安を示すなど、標準処理期間の設定が円滑に行われるよう努めるものとされている。
なお、標準処理期間については、「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)において、「許認可等の審査・処理期間の半減を目指し、半減できない場合でも、できる限り短期化する。このため、平成10年(1998年)9月末までに具体的措置事項を確定し、速やかに措置する」こととされた。これに基づき、平成10年9月29日、国が直接審査・処理することとされている許認可等で標準処理期間が設定されている 3,602種類のうち 1,380種類(38パーセント)について、審査・処理期間の半減化を含め短期化すること等を内容とした「許認可等の審査・処理期間の半減・短期化について(とりまとめ結果)」が総務庁から公表されている。
ア |
法令所管省庁における標準処理期間の設定に関する指針の提示状況
今回、実地調査した申請に対する処分60法律 166事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分56法律 144事項(法令上処理期間が定められているため、指針の対象とならない1事項を除く。)について、法令所管省庁における標準処理期間の設定に関する指針の提示状況をみると、手続法の施行前から処理の目安となる期間を定めるよう指導していることもあって、改めて指針を示している処分は25法律63事項(43.8パーセント)にとどまっている。 |
イ |
行政庁における標準処理期間の設定状況等
(ア) |
標準処理期間の設定状況
申請に対する処分60法律 166事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における標準処理期間の設定状況を実地調査した結果、実際に標準処理期間を設定して いるものは、調査事例 1,369件のうち 1,121件(81.9パーセント)となっている。
法律及び事項ごとに標準処理期間の設定状況をみると、次のとおり、標準処理期間の設定が可能とみられるにもかかわらず未設定となっているものがある。
1. |
類似する他の処分においては標準処理期間が設定されており、処理の態様からみても設定可能であるとみられるもの(1法律1事項1件) |
2. |
いずれの行政庁においても一定の期間に審査が終了することが見込まれるとして、法令所管省庁が指針を示し、標準処理期間を設定するよう行政庁を指導しているが、事実関係の認定に難易差があり設定が困難であること等を理由として標準処理期間を設定していない行政庁が一部にみられるもの(5法律6事項12件) |
3. |
法令所管省庁の指針は示されていないが、同一の許認可等の処分について標準処理期間を設定している行政庁がみられることから、標準処理期間を設定していない行政庁においても設定可能であるとみられるもの(7法律14事項29件) |
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(イ) |
各行政庁において設定・公表されている標準処理期間の内容をみると、次のとおり処理の実態に即したものとなっておらず、設定された標準処理期間が必ずしも申請者にとっての目安とはなっていないとみられるものがある。
1. |
申請から処分までの間に関与する機関ごとの標準処理期間を設定していないもの(7法律12事項58件) |
2. |
実際の処理期間よりもかなり長い標準処理期間を設定しているもの
i |
法令所管省庁による設定指針があるもの(8法律11事項49件) |
ii |
法令所管省庁による設定指針がないもの(1法律1事項4件) |
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3. |
法令所管省庁の指針に基づき、申請から処分決定までの標準処理期間を設定しているが、処分の施行まで相当の期間を要し、申請者にとって処理期間の目安となっていないもの(1法律2事項8件) |
4. |
同一の許認可等の処分であっても、専決処理の有無等により事務処理の態様が異なるが、一律の標準処理期間を設定しているもの(3法律4事項14件) |
5. |
行政庁によって標準処理期間を設定すべき期間の考え方が大きく異なっているもの(1法律1事項3件) |
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(ウ) |
標準処理期間の公表 |
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行政庁における標準処理期間の公表についても、申請の提出先機関に標準処理期間が通知されていないことなどにより、申請者に対し手続法の趣旨に沿った公表措置 が講じられていないものがみられた(5法律8事項12
件)。 |
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(3) |
処分基準 |
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手続法第12条において、行政庁は、不利益処分をするかどうか又はどのような不利益処分とするかについて、その法令の定めに従って判断するための処分基準を定め、かつ、これを公にしておくよう努めなければならないこととされている。また、行政庁は、処分基準を定めるに当たっては、当該不利益処分の性質に照らし、できる限り具体的なものとしなければならないこととされている。
また、施行通知において、処分基準の設定については、一般に、処分に関係する行政庁の裁量が比較的広く、また、処分の原因となる事実の反社会性や処分の名あて人となるべき者の情状等を個別の事案ごとにどう評価するのかといった問題もあることから、努力義務とされているが、その設定に当たっては、基本的には、審査基準の設定に準じて、その運用を行うこととされている。さらに、処分基準を公にしておくことについては、これにより脱法的な行為が助長される場合も想定されることから、努力義務とされているが、処分基準の設定も含めて、法の趣旨を十分に踏まえ、適切な対応に努めることとされている。
ア |
法令所管省庁における処分基準の設定に関する指針の提示状況 |
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今回、実地調査した不利益処分61法律 621事項のうち、都道府県、市町村又は国の地方支分部局が処分権限を有する処分55法律 507事項について、法令所管省庁における処分基準の設定に関する指針の提示状況をみると、処分基準の設定の根拠又は参考となり得る関連通達名等を提示する ことなどにより、何らかの形で指針が示されている処分 は、32法律 169事項(33.3パーセント)となっている。
上級庁である法令所管省庁からの運用通達等に示された基準、方針等を行政庁自らの処分基準とするためには、当該行政庁の処分基準が当該運用通達等と同内容である旨、当該運用通達等のどの箇所が処分基準に該当するかを明確に分かるようにしておくことが必要とされている。また、法令所管省庁における処分基準等の設定に関する指針は、各行政庁がこのような措置を確実に講じることができるようなものでなければならない。
しかしながら、行政庁が法令所管省庁の運用通達等を自らの処分基準として設定する必要性の有無や処分基準とすべき運用通達等の該当箇所が不明確となっている処分が6法律43事項みられる。
なお、都道府県又は市町村が処分権限を有する不利益処分47法律 420事項のうち、施行状況調査の参考情報として、法令の規定に言い尽くされ処分基準の設定は不要と法令所管省庁が整理している処分は、40法律 217事項となっているが、法令所管省庁が都道府県や市町村に対し処分基準の設定に関する具体的指針を実際には提示しているものが8法律22事項あり、整合性に欠ける状況がみられる。 |
イ |
行政庁における処分基準の設定状況等
(ア) |
処分基準の設定状況
1. |
不利益処分61法律621事項について、当該法律及び事項ごとに各行政庁における処分基準の設定状況を実地調査した結果、処分基準の設定率は31.3パーセント(調査事例3,834件のうち1,201件)と審査基準の設定率よりも低い(法令の規定に言い尽くされており基準設定不要とされている処分を含めた場合(2,553件)の設定率は66.6パーセント)。これは、処分基準については、その性質上、あらかじめ具体的な基準として画一的に定めることが技術的に困難な場合もあるので、その設定は手続法上努力義務にとどめられていることや、不利益処分の前例がなく、あらかじめ基準を設定することが困難とされている場合も多いことなどによる。 |
2. |
また、法律及び事項ごとに処分基準の設定状況をみると、61法律621事項のうち14法律58事項( 621事項の9.3パーセント)については、各事項ごとの調査対象機関(平均6機関)のすべてにおいて処分基準が設 定されている。これに対して、45法律283事項(同45.6パーセント)については、いずれの調査対象機関においても処分基準が設定されていない。残る44法律280事項(同45.1パーセント)についても、調査対象機関により処分基準を設定しているものと設定していないものがある。 |
3. |
さらに、法令所管省庁と行政庁とで処分基準設定の要否についての判断が異なるような状況が次のとおりみられる。
i |
法令所管省庁が処分基準の設定に関する指針を示しているなど、処分基準の設定が可能とみられる事項について、行政庁の一部には、法令の規定に言い尽くされているとして処分基準の設定を不要と判断するなどにより、処分基準を設定していないものがある事項がみられた(20法律71事項171件)。これらの行政庁の中には、法令所管省庁の通達等は法令の規定と一体のものとみなし、これらで言い尽くされているとして処分基準の設定を不要としているものや、法令所管省庁の運用通達等が公表されているため当該行政庁の処分基準を改めて設定する必要がないと判断し、 設定していないものがある。 |
ii |
法令所管省庁が法令の規定に言い尽くされ処分基準の設定を不要としている事項についても、行政庁によっては、法令所管省庁の運用通達等や独自の判 断により処分基準を設定しているものがある事項(19法律78事項235件)や、処分基準は設定していないものの、法令所管省庁の運用通達等や行政庁が独自に作成した内規等を不利益処分の判断に際して活用するとしているものがある事項(9法律38事項58件)もみられる。これらの事項については、法令所管省庁の運用通達等又は行政庁の内規等に基づき処分基準を設定する余地があると考えられる。 |
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(イ) |
処分基準の内容
各行政庁において設定されている処分基準の内容をみると、不十分な内容となっているものが次のとおりみられる。
1. |
法令所管省庁が処分基準の設定に関する具体的な指針を示しているなど、具体的な処分基準の設定が可能とみられるにもかかわらず、処分基準として設定しているものは法令の規定のみとなっているもの(9法律23事項35件) |
2. |
処分基準として通達集等の名称をそのまま列挙するのみであり、どの通達等のどの箇所が処分基準に該当するのか明確にされていないもの(1法律23事項46件) |
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(ウ) |
処分基準の公表
処分基準の公表は、処分基準そのものが設定困難である場合があることに加えて、公表により脱法的な行為が助長される場合も想定されるため、手続法上努力義務にとどめられていることもあり、設定された処分基準のうち公表されている処分基準(基準の一部のみが公表されているものを含む。)の割合は82.4パーセント(1,201件から法令の規定のみを基準として設定しているものを除く946件のうち 779件) となっている。
しかし、同一処分でありながら、処分基準を全面的に公表している行政庁がある一方で、同様な内容の処分基準を全く公表していない行政庁があるなど、処分基準の公表の有無、公表の範囲が行政庁により区々となっている処分が10法律46事項みられる。 このように、行政庁における処分基準の公表の取扱いについては、処分基準のうちのどの事項の公表が脱法行為を助長するおそれがあるのかといった、公表の可否及び可能な範囲についての統一的な検討が必ずしもなされていない状況がうかがえる。
なお、法律及び事項ごとに処分基準を設定しかつ公表しているものの割合をみると、61法律 621事項のうち、各事項ごとの調査対象機関の半数以上が処分基準を設定しかつ公表している事項は30法律93事項(14.9パーセント)にとどまっている。このうち、調査対象機関のすべてにおいて処分基準を設定しかつ公表している事項は12法律40事項(621事項の6.4パーセント)にすぎない。これに対して、処分基準を設定していない場合を含め、いずれの調査対象機関においても処分基準の公表が行われていない事項は48法律339事項(621事項の54.6パーセント)となっている。 |
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