[総合評価] | |||
1 国の雇用政策と雇用促進事業団の位置付け | |||
国は、労働者の職業の安定に資することを目的として、雇用保険法(昭和49年法律第116号)に基づき、労働者が失業した場合に必要な失業給付を行うとともに、1)失業の予防、雇用機会の増大を図る雇用安定事業、2)労働者の能力の開発・向上を図る能力開発事業、3)労働者の福祉の増進を図る雇用福祉事業を行っている。 雇用促進事業団(以下「雇用事業団」という。)は、労働者の福祉の増進と経済の発展に寄与することを目的として、雇用保険法等に基づき、職業能力開発施設の設置・運営等の能力開発事業及び福祉施設等の設置・運営等の雇用福祉事業を主として実施している。 国は、労働保険特別会計から、雇用事業団に対し、施設・設備等の整備のために出資金を、また、同事業団の運営費の一部や各種助成金に充てるために交付金をそれぞれ支出している(平成8年度の出資金851億円、交付金1,313億円)。 |
|||
(注) | 平成11年10月1日をもって雇用事業団は解散し、新たに雇用・能力開発機構が設立された。雇用事業団の行っていた業務は、移転就職者用宿舎及び福祉施設の設置業務等を除き、雇用・能力開発機構に移管された。 | ||
2 職業能力開発業務(職業能力開発施設の設置・運営)とその課題 | |||
雇用事業団は、職業能力開発業務として、職業能力開発施設(平成8年度末現在で職業能力開発大学校1校、職業能力開発短期大学校26校、職業能力開発促進センター65校の計92校)を設置・運営するとともに、事業主等の行う職業訓練等を振興するために必要な助成及び援助等を行っている。これらの業務に対し、労働保険特別会計から、職業能力開発施設の施設整備費として出資金が、運営費の一部及び助成金等の財源として交付金が支出されている。 職業能力開発施設の平成8年度の損益状況をみると、収益は566億円、費用は654億円で損失が88億円となっている。収益の主なものは、離転職者等に対する職業訓練のほか、新規高卒者等や在職者の職業訓練を行うための費用(運営費)として国から支出される交付金である。また、自己収入は、新規高卒者等や在職者から徴収する実習負担金(実費負担相当額)がほとんどであり、収益全体の6パーセントとなっている。この結果、収益で減価償却費を賄えずその相当額が損失となっている。 労働省では、新分野への事業展開等にも対応できる人材を育成するための職業訓練の高度化に取り組んでいる。このような中で、新規高卒者等や在職者に対する職業訓練等を実施している職業能力開発短期大学校(以下「短大校」という。)について、全国を10ブロックに分け、平成11年度から13年度にかけて各ブロック内の短大校1校を新たな職業能力開発大学校(注)に転換し他校はその附属短大校とする再編を進めている。 |
|||
(注) | 平成11年度から設置されている職業能力開発大学校は、職業訓練の高度化を図ることを目的として、従来短大校で行っていた専門課程(2年)のほかに、同課程を修了した者等を対象とした応用課程(2年)を設置している。また、新規高卒者等を対象とした職業訓練指導員の養成のための訓練等を実施している従来の職業能力開発大学校(以下「旧大学校」という。)は、平成11年度から職業能力開発総合大学校に転換した。 | ||
短大校と旧大学校について、運営費(減価償却費を除く。)に占める人件費の割合及び学卒訓練生100人当たりの職業訓練指導員数を比較すると、運営費に占める人件費の割合は、短大校は68パーセントとなっているのに対し、旧大学校は52パーセントとなっている。また、学卒訓練生100人当たりの職業訓練指導員数は、短大校は16人であるのに対し、職業訓練指導員の養成を目的とした旧大学校は12人となっている。 短大校において職業訓練指導員の配置が多くなっている要因としては、新規高卒者等に対する訓練以外に、旧大学校で実施していない在職者に対する訓練、講師の派遣など地域企業に対する各種支援を行っていること、地域に密着した訓練を実施するため分散して配置されていることなどの事情があるとしても、短大校及び再編後の職業能力開発大学校の今後の運営に当たっては、より一層の経営の効率化を進めていく余地があると考えられる。 |
|||
3 雇用促進融資業務とその課題 | |||
雇用事業団は、財政投融資資金を財源として、事業主等に対して、社宅、福祉施設等の整備に必要な資金を貸し付ける雇用促進融資業務を行っている(平成8年度末現在の貸付残高631億円)。同業務においては、近年、市中金利の低下に伴い、貸付先から多額の繰上償還(平成8年度の繰上償還額は81億円で回収金の68パーセントに相当)が発生しており、将来得られるはずの利息が失われ、利息収支差(マイナス)が拡大している状況にある。この利息収支差は、労働保険特別会計からの交付金で補てんされている。 したがって、今後、雇用事業団は、雇用促進融資業務について、交付金の投入の抑制を図るため、貸付先から繰上償還があった場合に対応する制度の導入についての検討が必要である。 |
|||
4 特例業務とその課題 | |||
(1) | 移転就職者用宿舎設置・運営業務 | ||
雇用事業団は、公共職業安定所の紹介によって住居を移転して就職する者(以下「移転就職者」という。)等のため、移転就職者用宿舎(平成8年度末現在14万3,102戸)の設置・運営を行っている。これらの宿舎の建設費には、労働保険特別会計から出資金(平成8年度末現在の累計額は8,879億円)が投入され、これにより宿舎の土地、建物等の資産(平成8年度貸借対照表計上額は7,208億円)を形成している。 移転就職者用宿舎設置・運営業務の平成8年度の損益状況をみると、収益は入居者からの宿舎施設等収入(370億円)、費用は運営費(370億円)と減価償却費(105億円)とから成り、105億円の損失が発生している。この損失額は減価償却費とほぼ同額となっており、減価償却費に見合う収入がないため資産価値の減少分が欠損として累積する形となっている。 |
|||
(2) | 福祉施設設置・運営業務 | ||
雇用事業団では、中小企業を中心とする勤労者の福祉を向上させることを目的として、会館、体育施設等の福祉施設(平成8年度末現在2,020施設)を設置し、その運営を関連公益法人及び地方公共団体に委託している。これらの施設の建設費には、労働保険特別会計から出資金(平成8年度末現在の累計額は5,014億円)が投入され、これにより施設の土地、建物等の資産(平成8年度貸借対照表計上額は4,235億円)を形成している。 福祉施設設置・運営業務の平成8年度の損益状況をみると、収益は126億円、費用は193億円で損失が67億円となっている。その内訳をみると、事業費126億円に対し施設等収入は89億円であり、不足分37億円は交付金等収入で補てんされている。また、費用のうち残りの減価償却費67億円については、これに見合う収入がないためその相当額が損失となっている。 運営委託先に対する雇用事業団の平成8年度の支出をみると、関連公益法人に対しては委託費95億円が交付されている(注)一方、施設収入は89億円となっており、その差の6億円については雇用事業団が負担している。また、地方公共団体に対しては、施設収入が運営受託者に帰属することから委託費は交付されていない。 |
|||
(注) | 関連公益法人に対する施設運営に係る委託費の交付は平成11年4月以降行われておらず、関連公益法人が独立採算で運営することになっている。 | ||
(3) | 特例業務の課題 | ||
移転就職者用宿舎及び福祉施設の設置・運営業務については、近年、地方公共団体等による公営住宅や余暇・体育施設の整備が進展しており、国自らが雇用政策の一環として設置・運営する必要性が低下してきていることなどを背景として、平成9年6月6日の閣議決定に基づき廃止することとされた。 このような改革を受けて設置された雇用・能力開発機構は、移転就職者用宿舎及び福祉施設の新たな設置は行わず、また、雇用事業団が設置していた移転就職者用宿舎及び福祉施設については、地方公共団体等に譲渡することとし、それまでの間は引き続き管理運営を行う(特例業務)ことができることとされている。 労働省では、これらの施設を鑑定評価の上、有償で譲渡することとしているが、移転就職者用宿舎には現に入居しているものが多く、また、福祉施設は地方公共団体の所有する土地に設置している施設が多いことから、譲渡に際しては、これらの点に十分配慮しなければならない状況にある。他方、これら施設の譲渡が進展しない場合には、建物等の資産価値が減少していくだけでなく、引き続き管理運営を行う場合は、維持管理に伴う修繕費等の費用負担が続くことになり、労働保険特別会計の負担が大きくなる。 したがって、移転就職者用宿舎及び福祉施設の譲渡については、土地の所有形態や施設の利用形態等を考慮しつつ、労働保険特別会計に与える影響を勘案し、速やかに行う必要がある。 |