介護保険の運営状況に関する実態調査の
勧告に伴う改善措置状況(その後)の概要



   【調査の実施時期等】
実施時期 平成13年4月〜14年4月
調査対象機関 厚生労働省、都道府県、市町村、関係団体等

【勧告日及び勧告先】 平成14年4月 9日 厚生労働省に対し勧告
【回答年月日】 平成15年5月20日
【その後の改善措置状況に係る回答年月日】 平成17年4月1日


[実態調査の背景事情等]
   
  本格的な高齢社会を控え、寝たきりや痴呆性高齢者の増加、介護期間の長期化など、介護ニーズはますます増大することが見込まれている。一方、核家族化の一層の進行、介護する家族の高齢化、子供の数の減少などから、介護の問題が、家族にとって、身体的、精神的にも負担が大きくなってきており、このような状況を背景に、加齢に伴って介護を要する状態になった者に対し、必要な介護サービスに係る給付を行うことを目的として、介護保険法(平成9年法律第123号)が制定され、平成12年4月から介護保険制度が開始
  介護保険制度は、介護保険法の施行後5年を目途として検討を加え、必要な見直し等の措置を講ずるものとされている。
  しかし、介護保険制度開始後において、1)痴呆性高齢者に対する要介護等認定(一次判定)が実態を十分に反映していない、2)一部の市町村においては、保険料の徴収に当たり、介護保険制度の趣旨に反した軽減措置が講じられている等、介護保険の制度及びその運用に関して、様々な指摘あり
  この実態調査は、介護保険制度の適正かつ円滑な実施に資する観点から、介護サービスの実施状況、保険料の徴収状況等介護保険の運営状況を明らかにするため実施したもの。

主な勧告事項 厚生労働省が講じた改善措置状況
  介護サービスの実施の適切化
(1)   要介護等認定の適切な実施
  (勧告)
  → 「回答」時に確認した改善措置状況
  ⇒ 「その後の回答」時に確認した改善措置状況
  要介護等認定(「要介護認定」と「要支援認定」とを併せて「要介護等認定」という。以下同じ。)の一次判定に係る調査の項目について、市町村等の意見を聴取するなどして、申請者の身体上又は精神上の障害の状況を的確に反映するものとなるよう見直しを行うこと。
   また、二次判定において加味される認定調査票の特記事項及び主治医の意見書について、申請者の身体上又は精神上の障害の状況が的確に記載されるよう、市町村に対して技術的助言を行うこと。
   (説明)
  介護保険の保険者は、市町村及び特別区(以下、広域連合等により実施しているものを含め「市町村」という。)
  被保険者は、市町村の区域内に住所を有する、1)65歳以上の者(第1号被保険者)及び2)40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)
  介護サービスを利用しようとする被保険者は、市町村の認定(要介護等認定)を受けなければならない。
  要介護等認定は、一次判定において、厚生労働省が示した認定調査票に基づき、申請者の心身の状況を調査し、その結果を数値化して「要支援」及び「要介護(1〜5の5区分)」を判定。二次判定は、これを踏まえ、かつ、認定調査票の特記事項(要介護等認定を行う上で重要と考えられる事項)及び主治医の意見書を加味して最終決定

  調査した87市町村及び193事業者の多くは、1)一次判定は、痴呆性高齢者の要介護状態等区分が低く出る傾向がある(42市町村、71事業者)、2)施設入所者と在宅者とでは必要な介護の内容は異なるが、一次判定ではこれらが十分に反映されていない(37市町村、45事業者)等から一次判定調査項目の見直しを求めている。
  調査した市町村の中には、認定調査票の特記事項や主治医の意見書が、申請者の心身の状況について十分に記載されておらず、情報が不十分なまま二次判定を行っているとする意見あり
1)   要介護等認定(「要介護認定」と「要支援認定」とを併せて「要介護等認定」という。以下同じ。)の一次判定に係る調査項目については、要介護認定調査検討会(老健局長の懇談会)で調査項目の変更を検討し、一次判定ソフト改訂版(以下「改訂版ソフト」という。)(案)を作成
  この改訂版ソフト(案)について、平成14年5月〜12月に二度にわたり市町村において試行実施するとともに、総務省の指摘を踏まえ、一次判定に係る調査項目について6項目の追加、12項目の削除等の変更を行った改訂版ソフトによる要介護等認定の一次判定を15年4月から導入
    一次判定ソフトの改訂版の導入により、一次判定(認定調査等の結果)と二次判定(介護認定審査会の審査判定結果)との間で要介護度が変更した割合は、導入前の32.5%(平成14年度)から29.3%(15年度)へと減少

2)   二次判定において加味される認定調査票の特記事項及び主治医意見書の記載については、申請者の身体上又は精神上の障害の状況が的確に記載されるよう、各種研修に用いる標準的なテキストを作成したところであり、平成14年12月25日に都道府県に対してこれを配布し、市町村に対する技術的助言を要請
    市町村における要介護認定の実態把握を目的として実施した「要介護認定実態調査事業」(平成15年度)の結果を基に、標準的なテキストの改訂版を作成し、平成16年4月に都道府県及び市町村に配布
  さらに、上記実態調査の結果を踏まえ、認定調査票及び主治医意見書に基づく介護認定審査会における適正な審査判定に資するため、「要介護認定審査判定事例集」を作成し、平成16年12月に都道府県及び市町村に配布

    今後とも、要介護等認定の実施に当たって、申請者の心身の状況が的確に反映されるようその適正化に努めてまいりたい。

  
(2)   介護サービス及び居宅介護支援の適切化等
ア  重要事項説明書
   (勧告)
  都道府県に対し、事業者の指定を行う際には、重要事項説明書の作成・交付の必要性について十分周知するよう、技術的助言を行うこと。
  また、都道府県等に対し、事業者に対する指導監査等あらゆる機会を通じて重要事項説明書の交付状況を確認するとともに、同説明書の交付の励行を図るよう、技術的助言を行うこと。
   (説明)
  事業者は、介護サービス等の提供の開始に際し、利用申込者又はその家族に対して、 当該事業者が行う事業運営規程の概要、事故発生時の対応、苦情相談処理体制等の事項を記した文書(重要事項説明書)を交付して説明を行い、利用申込者の同意を得なければならない。
  調査した193事業者のうち、25事業者は、多忙であることや介護保険制度開始前か らの施設利用者であり必要ないと判断していた等の理由から重要事項説明書を未作成 又は未交付



     重要事項説明書の作成及び交付の必要性の周知については、平成14年6月4日開催の全国介護保険担当課長会議において、技術的助言を実施
    重要事項説明書交付状況の確認及び交付励行については、上記課長会議や平成14年5月13日、15年5月16日開催の全国介護保険指導監査担当係長会議、都道府県等に対する実地指導の際など、あらゆる機会をとらえ、都道府県等に対し技術的助言を実施
  なお、介護保険制度発足以来、介護給付費の不正請求等により指定の取消処分を受ける事業者が年々増加してきている状況を踏まえ、平成16年1月21日開催の全国厚生労働関係部局長会議、9月14日開催の全国介護保険担当課長会議等において、16年度においては、指定居宅サービス、施設サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(厚生労働省令)の遵守、無資格者によるサービス提供の排除、真にサービスを提供したことを明らかにした書類の整理等に重点を置いて事業所に対する実地指導を行うよう技術的助言を実施

  
   イ  身体的拘束等
   (勧告)
  介護保険施設等において身体的拘束等を行うことは原則として禁止されていること及びその趣旨について周知徹底を図ること。
  また、都道府県に対し、介護保険施設等において、身体的拘束等を「緊急やむを得ない場合」として行う場合は、その記録の作成・保存を励行するとともに、身体的拘束等の廃止に向け、これら記録を積極的に活用する旨指導するよう、技術的助言を行うこと。
   (説明)
  施設サービス等の提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならず(原則禁止)、これを行う場合には、その態様及び時間、緊急やむを得なかった理由等を記録しなければならない。
  記録の作成・保存は、施設等として身体的拘束等の実施状況を把握・分析し、その廃止に取り組むためにも重要
  調査した84介護保険施設等のうち、33施設等は、緊急やむを得ない場合に限り身体的拘束等を実施しているとしている。しかし、このうち6施設等は、軽度の身体的拘束等を行っているが、これについてまで記録を残しておく必要があることを認識していなかった等の理由から、身体的拘束等の態様及び時間、緊急やむを得なかった理由等を記録しておらず、それが緊急やむを得ないものであったか否かを確認できず。



  厚生労働省補助事業として、高齢者痴呆介護研究・研修東京センターにおいて、具体的事例を通して身体的拘束等の廃止への取組を紹介する内容のビデオを作成したところであり、平成14年7月に都道府県に対して、これを配布し、当該ビデオを活用して身体的拘束等の廃止に向けた積極的取組を進めるよう要請
  さらに、平成14年6月4日開催の全国介護保険担当課長会議において、i1)介護保険施設等において身体的拘束等を行うことは原則として禁止されていること及びその趣旨並びにii2)「緊急やむを得ない場合」として身体的拘束等を行ったときの記録の作成及び保存の重要性について、介護保険施設等に対し周知徹底を図るよう技術的助言を実施
  なお、「緊急やむを得ない場合」として身体的拘束等を行ったときの記録の作成及び保存については、従来、各介護保険施設等の運営等に関する基準(厚生労働省令)の解釈通知(担当課長通知)において規定していたが、当該記録の作成及び保存に係る義務を、各介護保険施設等の運営等に関する基準そのものに明記し、平成15年4月1日から施行
  各都道府県の身体拘束廃止の取組を支援するため、平成17年度予算において次の事業を新たに盛り込んだところ
  施設長など、指導的な立場にある者に対する、実践的な身体拘束廃止にかかる研修の実施(621千円)
  施設の看護職員に対する、医療的な視点も含めた身体拘束の廃止に関する実践的、専門的手法を習得するための研修の実施(1,072千円)
  今後とも、これらの事業の実施等を通じて、介護保険施設等における身体拘束廃止の取組の推進を図ってまいりたい。
  保険料の徴収等の適切化
    (勧告)
  低所得者について、三原則の趣旨を踏まえずに保険料減免を行っている市町村に対しては、6段階制の導入や料率の変更の検討も含め、保険料の減免の適正化を図るよう技術的助言を行うこと。
   (説明)
  第1号被保険者に係る保険料は、介護保健法第129条、同法施行令第38条等により、一般的には、基本となる保険料(以下「基準額」という。)を算定し、当該基準額に、0.5(第1段階)〜1.5(第5段階)を乗じて得た額とされている。なお、市町村の独自の判断により、6段階制の導入や5段階であっても料率の変更等を行うこともできるとされている。
  厚生労働省は市町村に対し、保険料の減免を行う場合には、1)保険料の全額免除は不適当(第1原則)、2)負担能力を収入のみで判断して一律に減免することは不適当(第2原則)、3)保険料の減免分を一般財源からの繰入れにより補てんすることは不適当(第3原則)、の「三原則」の趣旨を踏まえるよう技術的助言
  全国3,247市町村のうち118市町村は、上記三原則の趣旨を踏まえない形で保険料減免(厚生労働省調査。平成13年10月1日現在)
  当省が調査した87市町村のうち、7市町村は上記三原則の趣旨を踏まえない形で保険料減免(第1原則違反5市町村。第2原則違反2市町村。第3原則違反6市町村。すべてに違反しているもの2市町村)



  平成14年6月4日開催の全国介護保険担当課長会議において、低所得者について、三原則の趣旨を踏まえて保険料減免を行うよう市町村に対する技術的助言を要請するとともに、14年9月4日開催の同課長会議においても、6段階制の実施の検討等も含め、重ねてその適切な実施について市町村に技術的助言を行うよう要請
  平成15年9月8日開催の全国介護保険担当課長会議、16年2月19日開催の全国高齢者保険福祉・介護保険担当者会議等において、低所得者について、三原則の趣旨を踏まえて保険料減免を行うことについて市町村に対する技術的助言を行いその徹底を図るよう要請
  単独で介護保険料の減免を行っている市町村のうち三原則を遵守しているものの割合は、平成14年の73.3%から16年の89.7%に増加
  今後とも、介護保険料の減免を行う場合は三原則を遵守するよう、市町村に対する技術的助言を適切に行ってまいりたい。