[総合評価] | ||
1 国の道路政策と日本道路公団の位置付け | ||
国は、道路政策の一環として、全国道路交通網の整備に取り組んでいる。このため、直轄事業として国道の整備を行う一方、限られた財政資源の下で道路の整備を円滑に進めるため、財政投融資資金等を活用し、有料道路事業を推進している。有料道路事業は、社会資本の整備を行うものであり、その公共的性格を踏まえ、国や地方公共団体は、関係各公団の資金コストを軽減し、利用者負担の軽減も図っている。 日本道路公団(以下「道路公団」という。)は、このような政策の下、有料道路事業としての「高速道路事業」及び「一般有料道路事業」を行う法人と位置付けられている。 道路公団の行う高速道路事業は、国土開発幹線自動車道建設法(昭和32年法律第68号)により定められた路線(総延長1万1,520キロメートル)について基本計画が策定されている。この計画に基づく路線延長は1万595キロメートルに及んでいるが、国は、道路整備の優先度を考慮しつつ、事業の施行命令(7,944キロメートル)を発し、道路公団は、これに基づいて事業を実施することとなる。 このように、個々の高速道路の整備の具体的な選択は、国の責任において決定されており、このような枠組みの中での道路公団の経営状況が、今回の調査の対象である道路公団の財務内容として表れてくるものとなっている。 また、道路公団のもう一つの事業である一般有料道路事業は、高速道路事業と異なり、地方公共団体の要望等を踏まえつつ、道路公団が自ら申請し、建設大臣の許可を得て一般有料道路が建設される仕組みとなっている。 道路公団の事業の資金は、公団債を発行することなどにより調達されるが、その大半は財政投融資資金が引受け手となっている。平成8年度末現在の公団債発行残高は22兆円に達し、これを円滑に償還していくことが、道路公団の基本的な任務である。 |
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2 高速道路事業 | ||
(1) | 償還のシステム | |
高速道路は平成8年度末までに6,114キロメートルが供用されているほか、1,830キロメートルが建設中であるが、これらの建設資金は、高速道路事業の収益により償還することとされている。高速道路の通行料金は、全路線を対象として設定され、償還に充てられる(いわゆる「プール制」。償還期間は40年※)こととされている。※平成11年4月2日認可により償還期間は45年に延長 償還の姿を具体的に明らかにする「償還計画」は、道路公団の行う交通量推計を基にした収入見通しと費用見通しにより策定されているが、経済情勢の変化等の中で、収入見通しは実績との乖離が生じることが避けられない。また、「償還計画」は、新たな路線の整備の施行命令が発せられ料金も改定される際に改定される仕組みであり、その際、前回の計画値は実績値に修正されている。なお、これまで交通量の計画値と実績値の乖離のみに基づき計画改定がなされたことはない。 このように、短期間(2年から5年)で「償還計画」の改定が繰り返され、期間中に計画が順調に達成されているか否かが意識されにくく、その達成状況について常に意識していく必要がある。 さらに、「償還計画」は、まず収入を見積り、利息等を返済した剰余の部分を未償還残高(平成6年改定の計画では、ピーク時に約27兆1,000億円)の返済に充てる、いわば収入見通しを出発点としたスキームである。このような仕組みの下では、収入が見込みを下回った場合、未償還残高が増嵩せざるを得ず、収入の不足を管理費の抑制等の経営改善努力のみによって補うことは相当に困難でもあり、計画自体もそれを想定してはいない。 また、「償還計画」における支払額は、交通量需要の伸び等により料金収入が経年的に増加することを見込み、後年度ほど多くなるよう設定されている。このため、経年的に交通量見通しとその実績との乖離が進み収入が見込みを下回った場合、計画自体が達成できないリスクも高い。 |
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(2) | 収支の状況 | |
高速道路事業全体の収支状況をみると、平成8年度において100円の収入を得るのに57円の経費を要しており(収支率57)、収入の40パーセント強は償還に回せることから、償還は、現状においては順調な様相を呈している。 一方、営業中の35路線について、平成8年度における路線別の収支状況をみると、プラスの収支となっているものが14路線、マイナスの収支となっているものが21路線と路線ごとの格差があり、また、新しい路線ほど収支率が悪い傾向もみられる。 このような中で、高速道路全体の収支率が57と順調なのは、昭和43年に開通した東名(収支率14)及び昭和38年に開通した中央・名神(収支率16)の収益が大きく寄与している結果であり、いわば、この2路線から他の路線に向けられる、いわゆる「内部補助効果」が全体の収支率を支えている状況にある。 このようなことが可能なのは、プール制により、全路線を対象として採算が確保されるよう料金が設定されるためであり、結果として採算性の良い路線について、そのコストとは一致しない料金設定ができるからである。 |
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(3) | 事業をめぐる状況 | |
高速道路の建設をめぐる状況をみると、最近の建設コスト(昭和60年代以降)は昭和40年代のそれと比べ、約5倍に増嵩した。 このような状況の下、道路資産が収益を確保する効率(資産効率)は次第に低下してきており、高速道路事業全体の収支基盤へ与える影響が懸念される。 現在の順調な収支率は、採算性の高い東名、中央・名神の2路線に支えられている面が強いが、今後、採算性の低い路線の建設が進むほど、これらの2路線の全体への貢献度は低下していかざるを得ず、内部補助効果にもおのずと限界がある。 また、採算性の向上のための手段としては、料金値上げ、償還期間の延長などが考えられるが、料金値上げは適正な利用者負担の範囲内で行う必要があり、償還期間の延長は値上げ抑制効果はあるものの、道路資産の耐用年数を考慮する必要があり、際限なく延長が可能なものでもない。 このような中で、今後、採算性の低い路線について、新たに償還の対象への編入が進むこととなれば、高速道路事業の経営に及ぼす影響が懸念される。 |
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3 一般有料道路事業 | ||
(1) | 償還のシステムと収支の現状 | |
一般有料道路事業は、「個別採算制」(道路別収支)を採っており、道路ごとに「償還計画」を立て、償還期間満了後に、道路が本来の道路管理者に移管される仕組みとなっている。 したがって、道路ごとの収支管理が重要であるが、これまで償還期間を満了した76道路のうち40道路は未償還額が残り、自力で建設資金の償還が達成できなかった。また、営業中の46道路をみても、16道路は償還が進んでいるものの、30道路については建設資金を償還するまでに至っていない。 |
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(2) | 損失補てん引当金制度 | |
このような償還リスクがあることから、一般有料道路事業では、「損失補てん引当金制度」が設けられており、各道路の料金収入の15パーセント(又は20パーセント)を積み立て、償還期間満了時に、償還不能となった道路の未償還額を引き当てることとされている。これまでの補てん累計額は1,333億円にのぼっており、平成8年度末現在の損失補てん引当金残高は2,314億円となっている。 |
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(3) | 事業のリスク構造の変化 | |
民間と関係地方公共団体の資金を導入するため、特別法の定める仕組みの下で建設が行われた東京湾横断道路が、平成9年、一般有料道路事業の一環として管理運営されることとなった。東京湾横断道路の平成9年度末償還対象総額は1兆4,058億円に達しており(一般有料道路全体の平成8年度末償還対象総額の約40パーセントに当たる。)、一般有料道路事業全体の償還のリスク構造に大きな変化を与えるものとなっている。 したがって、東京湾横断道路の収支の動向は、一般有料道路事業の今後に大きな影響を与えることとなるが、東京湾横断道路の開通後6か月の通行量は見込みを下回る状況にある。 一般有料道路事業全体の経営の健全性の確保のため、東京湾横断道路の的確な収支管理が不可欠である。 |