平成13年3月26日
総    務    省

国民年金の保険料納付特例制度の対象とする学生等の範囲の見直し(概要)
《行政苦情救済推進会議の検討結果を踏まえたあっせん》

 

 総務省行政評価局は、次の行政相談を受け、行政苦情救済推進会議(座長:味村治)に諮り、その意見(別添要旨参照)を踏まえて、平成13年3月27日、厚生労働省に対して、改善を図るようあっせん。
   
 行政相談の申出要旨は、「20歳になる息子は、県立高校の昼間定時制課程に在学している。国民年金の加入年齢となったが、無収入であることから自ら保険料を払い込むことは困難である。親が払い込むとすれば、その負担が大きいので、保険料の免除について社会保険事務所に相談したところ、「国民年金法の規定により、夜間部、定時制及び通信制の学生については、学生納付特例制度の対象とされておらず、昼間定時制も定時制であることから対象とならない。」とのことであった。息子の収入がないことは明白であり、学生納付特例制度が適用されるようにしてほしい。」というもの。
   
 本件申出に係る高等学校の定時制課程の在学者が学生納付特例制度の対象から除外されている理由は、同課程に在学する者は既に社会に出て働いている者であるとの考え方に基づくものである。しかし、高等学校の定時制課程を始め、同じような考え方に基づき学生納付特例制度の対象から除外されている高等学校の通信制課程、大学又は短期大学の夜間、通信制の課程に在学する学生等(以下「定時制課程の学生等」という。)については、国民年金制度の発足以降40年が経過する中で、勤労青少年という特質が多様化し、その生計を親の負担に頼る者が増えている状況がうかがわれる。学生納付特例制度は、法律上世帯主等に保険料の連帯納付義務が課せられている国民年金にあって、例外的、限定的な制度として、本人の所得のみを基に保険料の納付猶予を判断することとしたものであり、親に負担を求めることなく、学生等が社会人になってから保険料を追納することを期待する合理的な制度である。
 当省のあっせん内容は、このような学生納付特例制度の趣旨を踏まえ、国民年金の被保険者である20歳以上の定時制課程の学生等の実態把握に努め、その対象範囲の在り方について検討することを求めるもの。

 

資 料
 
1 制度の概要
  (1)  制度の沿革と被保険者の種類
     国民年金制度は、国民年金法(昭和34年法律第141号。以下「法」という。)に基づき、「老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的」とし、会社員、公務員等の被用者を対象とする被用者年金制度に加入していない自営業者等を対象として、昭和36年4月に発足した。
 昭和61年4月、国民年金を含め公的年金制度全体について、その長期的な安定と整合性ある発展を図るため抜本的な改正が行われ、全国民に基礎年金(国民年金)を支給するとともに、被用者年金の被保険者には基礎年金に上乗せした報酬比例部分の年金を支給する2階建ての年金制度に改められた。このとき以降国民年金の適用の範囲が、被用者年金の被保険者(又は組合員)及びその配偶者を含め、20歳以上60歳未満のすべての国民に拡大され、被用者年金制度の被保険者(又は組合員)は厚生年金(又は共済組合)とともに国民年金にも加入することになり、同時に二つの年金制度に加入することになった。
 現行の国民年金制度における被保険者の種類は、表1のとおりである。
     
    表1 国民年金の被保険者の種類
   
種     類
(根拠条項)
対   象   者 被保険者数
 第1号被保険者
(法第7条第1項第1号)
 自営業者、農業、学生などの日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の者
2,118万人
 第2号被保険者
(法第7条第1項第2号)
 厚生年金保険法などの被用者年金制度の加入者本人
3,778万人
 第3号被保険者
(法第7条第1項第3号)
 厚生年金保険法などの被用者年金制度の加入者の被扶養配偶者で20歳以上60歳未満の者
1,169万人
   
(注) 1  被用者年金制度には、厚生年金のほか、国家公務員共済、地方公務員共済、私立学校教職員共済、農林漁業団体職員共済がある。
  2  被保険者数は、平成12年3月末現在のものであり、第1号被保険者には任意加入被保険者を含む。
     
  (2)  学生納付特例制度
     学生又は生徒(以下「学生等」という。)については、一般に稼得能力がないこと、学生等である期間は比較的短期間であること及び卒業後は社会人となり稼得能力を得る可能性が高いことという学生等の特性を踏まえた上で、本人の前年の所得が68万円以下の場合には、親に保険料の負担を求めることなく学生等が社会人になってから保険料を支払うことを期待し、学生等である期間は保険料納付を要しないという学生納付特例制度が平成12年4月に創設された。
 学生納付特例制度は、法律上世帯主等に保険料の連帯納付義務が課せられている国民年金にあって、例外的、限定的な制度として、本人の所得のみを基に保険料の納付猶予を判断することとしたものであり、親に負担を求めることなく、学生等が社会人になってから保険料を追納することを期待する保険料納付についての特例的な制度である。
     
  (3)  学生納付特例制度における学生等の範囲
     平成12年4月に創設された学生納付特例制度の適用対象の者は、学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する高等学校、高等専門学校、短期大学、大学(大学院)、専修学校又は各種学校等に在学する学生等(以下「昼間部の学生等」という。)であるが、夜間、定時制又は通信制の課程等に在学する学生等(以下「定時制課程の学生等」という。)は除外されている。
 国民年金制度における被保険者としての適用関係あるいは保険料の納付についての学生等の取扱いについてみると、国民年金制度発足以来今日に至るまでの約40年間、幾度か変遷しているが、「学生等」の範囲から定時制課程の学生等を除外する取扱いは変わっていない。
 すなわち、国民年金制度は、原則としてすべての国民が年金保障の対象となる皆年金の仕組みを整えるために昭和36年に発足し、この発足時において、学生等については任意加入とされたが、定時制課程の学生等はこの任意加入の「学生等」の範囲から除外され、強制適用とされた。このような取扱いは、昼間部の学生等については、学校を卒業してから社会に出て働き被用者年金に加入する者が多いのに対し、定時制課程の学生等については、既に社会に出て働いていて被用者年金に加入している場合が多いが、被用者年金の適用を受けていない場合においては国民年金制度の適用を受けるべきものと考えられたことによる。
 国民年金制度は、昭和61年に、全国民共通の基礎年金を支給する制度に抜本的に改められ、被用者年金の被保険者及びその被扶養配偶者を含め、適用範囲が大幅に拡大されたが、学生等については任意加入のままとされた。その後、平成3年4月からは、国民年金未加入の間に障害者となった場合無年金となること、40年間加入して満額の老齢基礎年金を受給できるようにすること等の理由から、加入が義務付けられることとなった。同時に、保険料を負担できない場合の納付の申請免除について、一般の基準よりゆるやかな基準が設けられた。このように学生等の被保険者としての適用関係及び保険料の納付についての取扱いは、国民年金制度発足以降、社会情勢の変化に伴い変更してきているが、この間、「学生等」の範囲から定時制課程の学生等を除外する取扱いは変わっていない。
     
    表2 学生納付特例制度の対象となる学生等の範囲
   
教育機関の名称 学校教育法の根拠条項 学生納付特例制度の対象から除外される者
高等学校 第41条 定時制・通信制の課程の生徒
中等教育学校 第51条の2 定時制・通信制の課程の生徒
大学、大学院 第52条、第62条 夜間部・通信教育の学生
短期大学 第69条の2第2項 夜間部・通信教育の学生
高等専門学校 第70条の2  ―――
盲学校、聾学校 第71条  ───
専修学校 第82条の2 夜間学科の生徒
各種学校 第83条第1項 夜間部・通信教育の生徒又は学生
     
2 定時制課程の学生等の実態
   昭和36年の国民年金制度発足以降40年が経過し、次のように、定時制課程の学生等の特質は勤労学生を主体とするものから大きく様変わりしてきている。
  (1)  文部科学省及び全国定時制通信制高等学校長会等の関係団体は、この10年間の定時制・通信制教育の変遷について次のように述べており、また、そのような傾向は各都道府県にほぼ共通するものとなっている(「全国定通教育五十周年記念誌」による。)
   
1.  近年、生徒の質的変化が著しく、経済的な理由により働きながら学ぶという生徒が著しく減少しており、全日制に入学を希望したがそれが果たせなかった者、様々な理由により全日制高校を中途退学した生徒、中学校時代に不登校傾向にあった者の増加が顕著となっている。
2.  経済的に裕福になったこともあいまって、定職に就いていない生徒や無職でいる生徒の比率が高くなっている。
3.  生徒の多様化に対応し、単位制の導入と修業年限の弾力化(4年以上を3年以上に)、昼間定時制の増設、三部制授業(午前中、午前から午後まで、夜間)の導入等が進んでいる。
     
  (2)  次に、短期大学の通信制の学科に学ぶ者についてみると、18歳から22歳までの年齢層で無職の者が、昭和54年度の全年齢層約1万9,000人の4.3パーセント(約800人)にすぎなかったが平成11年度には同約3万人の52.6パーセント(約1万6,000人)へと飛躍的に増加し、逆に有職者は、昭和54年度には28.4パーセント(約5,400人)だったものが平成11年度には7.3パーセント(約2,200人)へと大きく減少している。また、同じく大学の通信制についてみても、短期大学ほど顕著ではないが、同様の傾向がみられる(文部科学省「学校基本調査報告書」による。)。
     
  (3)  なお、高等学校卒業生のうち大学・短期大学の夜間の学部・学科又は通信制課程に進んだ者のうち就職進学者(定職に就きつつ進学した者)の割合は、昭和61年の23.8パーセントから平成11年度の5.7パーセントへと減少している(文部科学省「学校基本調査報告書」による。)。
     
  (4)  また、大学の夜間部の学生の生計について、昭和61年度と平成10年度の収入構造の変化をみると、定職による収入の割合が34.3パーセントから21.0パーセントに減少する一方、家庭が負担している割合が24.6パーセントから41.1パーセントへと増大している(文部科学省「学生生活調査報告」による。)。
     
  (5)  社会保険庁では、国民年金の事業運営のための基礎資料を得ることを目的とし、平成4年から3年ごとに「公的年金加入状況等調査」を実施しているが、平成10年の調査において初めて、夜間の学部・学科又は通信制に在学している学生等(以下「夜間・通信制の学生等」という。)を他の学生等と区分して調査している。当該調査結果によると、夜間・通信制の学生等の被保険者種類別構成割合は、第1号被保険者すなわち無職の学生等又は自営業・アルバイトなどに従事する学生等が71.6パーセントを占めているのに対し、第2号被保険者すなわち厚生年金等の被用者年金に加入している学生等は16.8パーセントとなっている。上記71.6パーセントの中には、無職の学生等のほかに自営業・アルバイトなどに従事する学生等も存在すると考えられるものの、夜間・通信制の学生等については一律に社会に出て働いている者であるととらえることは、必ずしも妥当とはいえない状況となっている。
     

 

参 考
 
 行政苦情救済推進会議における意見要旨
 厚生労働省は、高等学校の定時制・通信制、大学・短期大学の夜間・通信制の学生等については、既に社会に出て働いている者としているが、近年、これらの学生等の態様は変化し、無職の者が多くなってきており、定時制・通信制の高等学校及び通信制・夜間の大学・短期大学等が勤労青少年のための教育機関であるという概念と実態とでズレが生じていることがうかがえる。
   
 学生納付特例制度において、全日制の生徒については申請が認められる一方、昼間定時制の生徒は入口から除外されている。昼間定時制も定時制だからということでは理屈が立たない。
   
 学生納付特例制度は、保険料の追納が原則となっており、社会に出て稼得能力を得た段階で保険料を納付するいわば「出世払い」である。学生等の特性に応じたこのような制度は理にかなったものであり、それだけに、一律に定時制、夜間の学部・学科、通信制の学生等を除外していることについて何か手だてを講じるべきだ。
   
定時制課程の学生等であっても、この納付特例制度の対象となる学生等の特性として掲げている三つの基準( 1.学生は一般に稼得能力がないこと、 2.学生である期間は比較的短期間であること、 3.卒業後は社会人となり稼得能力を得る可能性が高いこと)に当てはまる者はかなりいるものと考えられる。一つの理念として、定時制課程の学生等は働く者であり収入があるという前提に立っているが、本人の所得が一定額以下かどうかという点の判断においては、昼間部の学生等と定時制課程の学生等で差異は無いのではないか。
《行政苦情救済推進会議》
   総務省に申し出られた行政相談事案の処理に民間有識者の意見を反映させるための総務大臣の懇談会(昭和62年12月発足)  
 会議の現在のメンバーは、次のとおり。
 
座長 味  村   治 元内閣法制局長官、元最高裁判所判事
  大  森   彌 千葉大学法経学部教授
  加賀美 幸 子 千葉市女性センター館長
  加 藤 陸 美 財団法人健康・体力づくり事業財団理事長
  塩  野   宏 東亜大学大学院総合学術研究科教授
  田 村 新 次 中日新聞社論説顧問
  堀  田   力 さわやか福祉財団理事長、弁護士