年金に関する行政監察結果
−国民年金を中心として−
(要旨)

勧告日:平成10年6月8日
勧告先:厚生省

[監察の背景事情等]

 公的年金制度は、国民の老後における所得保障の主柱。国民年金制度は、65歳以上の全国民に基礎年金を支給するものであり、基本的には賦課方式(給付に必要な費用を現役世代の保険料で賄う方式)
 少子化・高齢化の進行に伴い、現在の基礎年金給付水準を維持するためには、平成27(2015)年度には現在の2倍の水準の保険料負担が必要(厚生省試算)
 多数の未適用者、保険料免除者及び保険料未納者が存在し、国民年金の財政基盤を危うくしている。
 対象機関:厚生省、都道府県(15)、社会保険事務所(30)、市区町村(45)、福祉施設(20)、基金(10)等
 担当部局:行政監察局、管区行政監察局(7)、行政監察事務所(8)

[勧告事項]

国民年金業務の適正化
(1) 第1号被保険者の適用の促進
 国民年金の第1号被保険者は、国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって、被用者年金の被保険者・組合員及びその被扶養配偶者を除いた者
 第1号被保険者は資格取得時に届出が必要。しかし、これが励行されていないことから、厚生省は、市区町村に対し、第1号被保険者に対する適用勧奨や認定適用を行うよう指導
 平成8年度末現在、第1号被保険者 1,936万人、未適用者数(推計) 158万人、未適用者率 8.2%
 厚生省は、未適用者の把握に、基礎年金番号(9年1月導入)を含む被保険者ファイル未活用
 25年以上公的年金に加入していない者には、基礎年金は支給されず
 厚生省は、25年以上の加入期間を満たすことが見込まれない者にも当然適用すべきとの見解。しかし、加入期間が不足し基礎年金そのものの受給権は発生しない者が、少なくとも4万人存在。これらの者に対し何らかの適切な措置が必要。これにより適用促進の効果もあり
<勧告要旨>
  1.  基礎年金番号を付した被保険者ファイルを活用することにより、全国的に第1号未適用者を把握するシステムを開発し、これに基づき、年金適用を的確に実施すること。
  2.  適用しても加入期間が不足するため基礎年金の受給権が生じない者について、特例的に保険料納付期間に応じた減額年金を支給する制度を導入することについて検討すること。
(2) 保険料納付の徹底等
 国民年金保険料の納付期限は翌月末。現年度分は市区町村に、過年度分は社会保険事務所に納付過年度保険料滞納者に対しては、督促を行い、なお納付しない場合には滞納処分可
 督促を行わない限り、保険料は納付期限の翌月から起算して2年を経過したときは時効にかかる
 現年度保険料の全国の納付率(検認率)は、近年、年々低下し8年度は82.9%
 保険料の時効消滅額は、毎年増加し、8年度 4,703億円(8年度保険料徴収額の24.5%に相当)
  • 保険料納付は都市部が低調。検認率が著しく低いものや急速に悪化している市区町村あり
 保険料の納付督励措置は不十分
  • 調査した市区町村においては、検認率の低下原因に対応した適切な対策を実施せず
  • 調査した社会保険事務所においては、滞納処分の実施例なし
 第1号被保険者となるべき者のうち、結果的に保険料を納付していない者は3分の1超(未適用者8%、免除者16%、全期間未納者10%)。このような状況は公正・公平を害し、国民年金制度に対する信頼を損なうとの意見多数
 検認率の低調は、個々の被保険者が自ら保険料を納付する現行の仕組みの限界に起因する面あり
<勧告要旨>
 国民年金の保険料徴収の確保の観点から、納付方式並びに納付確保のための手続及び執行体制に関し、抜本的な見直しを行うこと。また、当面、次の措置を講ずること。
  1.  都道府県に対し、検認率の低い地域等について地域の特性に応じて原因分析を実施し、これを踏まえ、効果的な保険料収納対策を実施するよう指導すること。
  2.  社会保険事務所において、未納者に対する納付督促の的確かつ効果的な実施を図り、納付督促に応じない者については法令に定められた滞納処分手続を厳正に実施するよう、都道府県を指導すること。
(3) 学生の保険料納付の在り方の見直し
 20歳以上の学生については、従来は任意加入制であったが、在学中に生じた障害に対する年金給付の保障や満期(加入期間40年)基礎年金の確保などを目的として、法を改正し、平成3年度に第1号被保険者としての加入を義務付け。学生に係る保険料の納付義務者は本人及びその世帯主
 学生に係る保険料は親が負担している実態(保険料納付学生のうち9割以上は親が負担)
 国民年金が適用されるべき学生のうち、免除者31%、保険料未納者10%、未適用者11%と、半数以上の者が保険料を支払っていない実態あり
 通常収入のない学生に保険料納付を義務付け、実質的に親に保険料を負担させることとなる仕組みに疑問を呈する有識者あり
<勧告要旨>
 第1号被保険者であって収入のない学生について、例えば在学期間中は一律に保険料納付を猶予する仕組みの導入を検討すること。
国民年金福祉施設事業の見直し
 第1号被保険者等の福祉を増進するため、国民年金福祉施設(宿泊施設)を、平成10年3月末現在57施設設置。施設の整備は、保険料を財源として厚生省が実施し、その経営は、公益法人に委託(4施設は全国団体に、53施設は都道府県単位の法人に委託)しており、経営受託法人が独立採算により行うことを契約。施設経営に関する厚生省の運営費助成なし
 調査した施設(20)の平均宿泊利用者数は過去5年間で1割強減少。施設の老朽化が進み、類似施設との競合が生じている施設もある現状から、今後も宿泊利用者数の増加は期待できない。
 単年度収支において赤字を計上する施設増加(平成8年度8施設)。また、累積赤字を計上している施設6施設
 国民年金の財政見通しが厳しい一方で、施設整備費は年々増加し、8年度89億円(4年度68億円) 。
 8年度の施設整備費は、建て替えに係る経費が9億円、大規模修繕工事等の修繕経費が20億円増加
 厚生省は、今後、新設を行わない方針としているが、築後20年を経過した施設が多い(全体で11施設) ことから、建て替え、大規模修繕工事を要する施設が増加の見込み
  <勧告要旨>
  1.  累積赤字を計上している施設については、早急に収支改善を図り、収支改善の見込みのない施設については廃止を検討すること。その他の施設については、中期の収支改善計画を立て、これに基づき収支改善を図るとともに、計画達成が困難と認められる施設及び計画最終年度までにおいて計画達成ができなかった施設については、同様に廃止を検討すること。
  2.  施設の建て替えは、利用状況や周辺地域における類似施設の立地状況を勘案し、収支の改善が確実に見込まれるものに限定して行うこと。
国民年金基金の運営等の見直し
   平成元年に、国民年金制度を補完するものとして、加入者に対して年金や一時金の支給を行う国民年金基金制度を整備
 基金の種類は、1)都道府県ごとに一つ設立される地域型基金と、2)同種の事業又は業務に従事する者により全国に一つ設立される職能型基金の2種類。地域型基金は、平成3年に全都道府県に設立
 基金脱退者に係る年金支給等を行うため、国民年金基金連合会が設立
 地域型基金の現存加入者は、8年度末現在、59万 6,000人(加入率 3.9%)。新規加入者は年約6万人にとどまっており、今後とも加入者の大幅な増加は期待し難い。
 各地域型基金が実施している業務は主として加入勧奨(広告、ダイレクトメール発送、個別訪問等)これらは基金が都道府県ごとに存在しなくとも実施可能
 調査した基金においては、小規模基金ほど固定経費である人件費の割合が高く、効率性に欠ける。
 中小規模の地域型基金は、補助金及び委託費の交付なしでは運営できない実態
 連合会に対し、3年度以降、一般会計から、補助金を交付(8年度交付額約14億円)。連合会は、この中から、約3億円を地域型基金に交付
 地域型基金に対する交付金は、実際には、運営が非効率な中小規模基金に対する運営助成金化
 連合会及び地域型基金に対し、3年度以降、国民年金特別会計から、基金加入者に対する国民年金保険料の口座振替の促進等の事業に係る委託費を交付。8年度委託費は約4億 7,000万円
 本委託費は、委託に係る事業費の積算を求めることなく交付され、地域型基金には一定額を一律交付。委託内容も具体的に特定されず
  •  委託事業は、基金自体の加入勧奨と区分できず、経費算定も不可能。事業の合理性・適切性に疑問
  •  委託費の効果評価の試みもなく、委託の必要性が認めがたい
  <勧告要旨>
  1.  地域型基金について、小規模基金の統合を可能とするなどその設立単位の在り方を見直し、効率的な運営を図り、補助金を縮減すること。
  2.  委託費の廃止について検討すること。
その他の勧告事項
 保険料免除制度の運用の適切化
 保険料納付に係る印紙制度の見直し 等