[総合評価]
1 公的年金制度と年金福祉事業団との関係
   国は、公的年金制度に基づき受け入れた資金を厚生保険特別会計及び国民年金特別会計(以下、両特別会計を併せて「年金特別会計」という。)を設けて管理しており、年金特別会計の積立金(平成9年度末現在で約134兆円)については、その全額が資金運用部に預託され、財政投融資の財源とされている。
 年金福祉事業団(以下「年福事業団」という。)は、財政投融資からの借入金、年金特別会計からの出資金や交付金により、資金運用事業、貸付事業及び施設事業を行っている。平成9年度末現在、年福事業団の資産は34兆4,082億円に上っており、その7割近くが資金運用事業の運用資産、3割が貸付事業資産であり、これら2事業に関する資産が年福事業団の資産のほとんどを占めている。
     
2 資金運用事業
  (1)  資金運用事業の現状
     年福事業団が行う資金運用事業は、その実施目的により、年金財源強化事業(運用収益を国庫納付することにより年金の給付財源を強化するための事業。昭和62年度開始)と資金確保事業(年福事業団が行う貸付事業等の資金を確保するための事業。昭和61年度開始)の二つに分かれている。
 両事業の運用資産額は、平成9年度末現在、簿価ベースで、年金財源強化事業が16兆3,175億円(時価ベースでは16兆6,921億円)、資金確保事業が7兆882億円(同7兆3,900億円)となっている。これらの運用原資には、財政投融資資金(資金運用部に対する年金特別会計の積立金の預託金利と同率の金利で年福事業団が借入れ)が充てられているが、貸付期間が長期で貸付利率が固定の有利子資金であるため、金利低下局面において過去の高い借入利率の資金を運用せざるを得ない状況が生じ、資金運用部への利払いが収支を圧迫する構造となっている。
 資金運用事業の実績(簿価ベース)をみると、年金財源強化事業は平成3年度から、資金確保事業は4年度からそれぞれ利差損が生じている。その結果、両事業とも、それまでの利益剰余(平成3年度末現在において、年金財源強化事業が663億円、資金確保事業が1,130億円)を取り崩し、累積欠損(平成9年度末現在において、年金財源強化事業が9,631億円、資金確保事業が4,804億円)を計上するに至っている。
 時価ベースでみても、両事業とも、累積欠損(平成9年度末現在において、年金財源強化事業が6,423億円、資金確保事業が2,010億円)が計上されている。
 なお、平成10年度末現在において1兆2,381億円の累積欠損が計上されているが、厚生省は、11年度に入ってからは株価が好調であったことにより収益は改善し、11年度決算において、これまでの累積欠損は解消され、黒字に転じる見通しであるとしている。
 年福事業団の運用資産の構成割合については、いわゆる5:3:3:2規制(国内債券等5割以上、国内株式3割以下、外貨建資産3割以下、不動産2割以下)が設けられており、実際の主な運用資産(時価ベース)は、平成9年度末現在において、国内債券等が12兆6,797億円(資産全体の52.7パーセント)、国内株式が5兆9,537億円(同24.7パーセント)、外国株式が3兆6,637億円(同15.2パーセント)となっている。
 これら運用資産ごとの収益率(注)の推移をみると、平成7年度から9年度にかけて、国内債券の収益率は低いながらも比較的安定して推移(5パーセント台)しているのに対し、国内株式はプラスからマイナスに転じている(26パーセント台がマイナス13パーセント台)。また、外国株式は高めで推移しているものの、その振幅は大きいものとなっている(50パーセント台から37パーセント台)。これは、国内債券の利回りの低下傾向、国内株価の低迷、米国株価(年福事業団の保有外国株式の大半は米国株)の好調といったそれぞれの運用資産の市場の動向を反映した結果となっている。
(注)  収益率は、運用元本に対する運用後の元本の増減(評価損益を含む。)の割合を表すものであり、年福事業団では、運用資産ごとの収益率の公表を平成7年度から行っている。
 このような運用状況の下で、年金財源強化事業の運用目的である運用収益の国庫納付は平成4年度に133億円行われており、資金確保事業の運用収益の貸付事業等への繰入れは行われていない。
  (2)  資金運用事業の課題
     このような現状にある資金運用事業の在り方については、「特殊法人等の整理合理化について」(平成9年6月6日閣議決定)において、年金資金の運用の新たな在り方につき結論を得て、年福事業団を廃止し、資金運用部との関係を含め、担当機関の在り方を長期的かつ専門的な見地に立って、別途検討することとされた。これを受けて、厚生省は、年福事業団の解散(平成13年4月予定)と同時に設立予定の年金資金運用基金(以下「新法人」という。)に新たな資金運用事業(厚生労働大臣から寄託された年金資金の管理及び運用を行い、その収益を国庫に納付することにより、公的年金制度の運営の安定化に質することを目的とする事業)を担わせることとしている。この新制度の開始に伴い、年福事業団の年金財源強化事業及び資金確保事業は終了(注)することとなる。
(注)  新法人は、年福事業団から承継する年金財源強化事業及び資金確保事業の資金については、両事業に係る財政投融資資金の償還が終了するまでの間、管理及び運用を行うこととされている。
 資金の運用成果は、運用資産の種類及びその構成割合など運用手法の選定や経済動向に左右されるものであるが、資金運用事業が年金事業を安定的に実施するための収益の確保に資するものである以上、これらについて適切な判断が求められる。新法人においては、年福事業団におけるこれまでの事業実施から得られた経験を踏まえ、新たな資金運用事業を効果的に運用していくことが課題である。
     
3 貸付事業
   年福事業団は、財政投融資資金を主な財源として、厚生年金保険又は国民年金の被保険者等に対する住宅資金、老人福祉施設等の設置又は整備に要する資金等の貸付けを行っており、平成8年度末現在の貸付残高は10兆5,417億円に上っている。
 近年、市中金利の低下に伴い、貸付先から年間1兆円を超える多額の繰上償還が行われているが、繰上償還された貸付金は、金利低下局面においては従前より低い利率で新たな貸付けに充当せざるを得ない状況となっている。このように長期・固定による金利リスクを年福事業団が一方的に負う構造の下で、利息収支の損失は拡大傾向で推移し、この損失は、年金特別会計からの交付金により補てんされる仕組みであることから、年金特別会計の負担も増大する状況となっている。
 これに対し、年福事業団は、従来、財政投融資資金の借入利率とほぼ同じ利率で貸付けを行っていたが、平成8年度後半から、借入利率に上乗せした利率で貸付けを行い、年金特別会計の負担の抑制に努めている(上乗せ金利差を一般住宅貸付けでみると、平成9年1月は0.31パーセント、12年3月は1.43パーセント)。
 なお、貸付事業については、平成9年6月6日の閣議決定において、適切な経過措置を講じた上、撤退することとされている。これを受けて、厚生省では、次々回以降の公的年金制度の財政再計算の際に、事業の実施状況等を踏まえて検討することとし、別に法律で定める日までの間、新法人に住宅資金の貸付けを行わせる方針である。
     
4 施設事業
  (1)  事業に係る資金の流れ
     年福事業団は、厚生年金保険又は国民年金の被保険者、被保険者であった者又は受給権者の福祉の増進等を目的として、大規模年金保養基地(以下「保養施設」という。)を設置(13か所)しており、保養施設の運営についてはすべて財団法人年金保養協会又は県に委託している。
 保養施設の整備に要する費用は、財政投融資資金の借入れ(平成8年度末までの累計額1,893億円)で賄われており、その元金の償還には、年金特別会計からの出資金(同873億円)が充てられ、また、利息の償還(同1,129億円)及び修繕費等の保養施設の維持管理費(同116億円)には、年金特別会計からの交付金が充てられている。
 このように年金特別会計からの出資金は、保養施設の土地・建物等に置き換えられるもので、資産形成に充てられる資金である。一方、交付金は毎年の経費として費消される性質の資金である。
  (2)  事業運営の状況
     施設事業に係る年福事業団の損益の状況をみると、収益(平成8年度までの累計額1,248億円)のほとんどすべてが年金特別会計からの交付金(同1,246億円)であり、これにより、費用(同1,726億円)のうち、借入金利息(同1,129億円)及び施設の維持管理費(同116億円)が賄われている。しかし、保養施設の減価償却費(資産の除却損を含む。)については、これに見合う収益がないことから、毎年度、減価償却費相当額分の損失が発生しており、その累計(同478億円)が欠損となっている。これは、年金特別会計からの出資金により形成された建物等の資産の価値の減少分であり、実質上、年金特別会計からの出資金の価値が年々減少していくことを意味している。
 次に、保養施設の運営委託先の経営状況について、その損益を平成8年度までの累計額でみると、収益が1,255億円、費用が1,251億円とほぼ均衡している。しかし、年福事業団の費用(借入金利息、維持管理費及び減価償却費)として計上されている1,726億円を運営委託先の費用に加えて損益をみると、1,722億円の赤字である。
  (3)  施設事業の課題
     施設事業については、平成9年6月6日の閣議決定により、撤退が決定されている。これを受けて、厚生省では、年福事業団の解散までに譲渡できない保養施設については、新法人が施設事業を承継した後、政令で定める日までの間に譲渡を行うこととする方針である。年福事業団では、現在、雇用や地域経済等への影響に十分配慮しつつ撤退する観点から、公的な利用を前提として、まず施設所在道県への譲渡を働き掛けているが、これまでのところ譲渡が実現した保養施設はない。
 保養施設の譲渡が進まない場合は、建物等の資産価値が減少していくとともに、引き続き管理運営を行う間、維持管理費の年金特別会計による負担が続くこととなる。
 したがって、保養施設の譲渡については、雇用や地域経済等に与える影響を考慮しつつも、年金特別会計に与える影響を勘案し、速やかに行う必要がある。
(注)  年福事業団の施設事業については、平成10年9月18日、総務庁長官から厚生大臣に対し、1)保養施設の土地・建物について、施設所在道県に対し、早急に具体的な譲渡条件を提示・協議することによりその速やかな処分を図ること、2)施設所在道県等地方公共団体からの譲渡要望のないものについては、民間等への売却による処分を検討することにつき年福事業団を指導するよう勧告を行っている。