〔総合評価〕
1 農用地整備公団(現緑資源公団)の位置付け
   国は、農業の生産性の向上と農業構造の改善に資するため、農業生産基盤の整備を進めている。その手段として、自ら国営事業を実施し、また、地方公共団体の行う事業に対して補助金を交付しているほか、限られた財政資金の下で基盤整備を円滑に進めるため、財政投融資資金を活用した事業を推進している。
 農用地整備公団(以下「農用地公団」という。)は、このような施策の下、緊急に基盤整備を実施すべき地域を対象に、財政投融資資金と技術者を集中的、機動的に投入して、農業生産基盤整備事業を行う法人と位置付けられている。
  (注)  農用地公団は、昭和63年7月に、農用地開発公団が改称されたものである。
   農用地公団の行う主な事業は、1)優良な農地が広範囲に潜在し、かつ、周辺において交通網の整備が図られ農産物の流通形態が大きく変化するなど、農業の活性化が見込まれる地域において、ほ場や農業用道路等の整備を行う「農用地総合整備事業」、2)石狩川中・下流域(北海道)におけるたん水被害解消のための排水施設の整備と宮古島(沖縄県)における干ばつ被害解消のための水源施設(地下ダム)の整備を行う「農用地等緊急保全整備事業」である。このほか、同公団は、3)旧農用地開発公団が行っていた畜産経営のための草地開発、農業用施設整備などの基盤整備事業である「濃密生産団地建設事業」の残事業を実施している。
 国は、都道府県から公団事業を行うべき旨の申出を受けて事業実施方針を定め、これを農用地公団に指示し、同公団は、これに基づいて事業実施計画を策定し、国の認可を受けて事業を実施している。
2 事業資金と財務の構造
   農用地公団の事業資金には、国庫補助金が充てられるほか、受益者負担に相当する分について、同公団が財政投融資資金から借り入れた資金が充てられている。
 この借入金については、事業完了後に、元本及び利息の全額を受益者から負担金として割賦で徴収し、財政投融資資金に返済する仕組みとなっている。負担金は、都道府県、市町村及び受益農家に課せられているが、一括して都道府県から徴収しており、これまで、その徴収に滞りはない。
 一方、借入金の償還条件(元金均等)と負担金の徴収条件(元利均等)の違いから、償還期間の前半は、償還額が負担金徴収額を上回り、後半は逆に、負担金徴収額が償還額を上回ることとなる。この結果、前半においては、財政投融資資金への償還額が不足し、借換えが必要となることから、この借換えに伴う利息が費用として発生することとなる。
 負担金を徴収する際の金利は、農林水産大臣が事業実施期間中の借入金の利率を基に設定することとされており、これまで借入金利と同率に定められてきた。これは、償還に必要な資金の借換えを上記の徴収金利と同水準で行えば、最終的に収支の均衡が確保されることを意味している。しかし、実際の借換えは、その時々の金利変動の影響を受けることから、毎年度収支差が生じることとなる。昭和62年度から平成8年度までの10年間でみると、約6億円の収支差損が発生しており、最終的に損失が生じないような方策の検討が必要である。
3 事業の現状とその評価
  (1)  事業の現状
     農用地公団の事業のうち、昭和49年に開始された濃密生産団地建設事業は、平成8年度末現在、70区域で事業が完了し、3区域で実施中であるが、11年度中にすべて完了する予定となっている。昭和63年に開始された農用地等緊急保全整備事業は、平成8年度末現在、3区域で事業が完了し、3区域で実施中であるが、11年度中にすべて完了する予定となっている。同じく昭和63年に開始された農用地総合整備事業は、平成8年度末現在、14区域で事業が実施されているほか、同年度末現在、21区域について事業実施に向けた調査が行われている。これら三事業については、平成8年度までの累計で5,196億円の国庫補助金が投入されている。
 なお、農用地公団は、特殊法人の整理合理化の推進の観点から、森林開発公団法の一部を改正する法律(平成11年法律第70号)に基づき、平成11年10月1日をもって解散し、残事業(調査中のものを含む。)については、同日付けで森林開発公団を改称した緑資源公団に承継された。
  (2)  事業実施市町村の農業生産の動向と事業の評価
     このように、農用地公団の事業については、多額の国庫補助金と財政投融資資金からの借入金が投入されているが、これまで、事業完了後に、投入された費用に対する効果は検証されていない。このため、当庁において、事業が完了した区域が多数ある濃密生産団地建設事業について、事業効果を分析する端緒として、公表されている生産農業所得統計を基に、事業の実施区域が所在する道県の農業粗生産額に占める当該事業の関係市町村分のシェアの推移を事業着工前年と事業完了5年後とで比較(注)すると、10ポイント以上上昇しているものが約6割、逆に10ポイント以上低下しているものが約2割みられ、その他はほぼ横ばいの状況にある。
    (注)  比較は、昭和53年度から平成2年度までに完了した63区域の中から3年ごとに合計25区域を抽出して行った。
     農用地公団が実施する事業の評価について、農林水産省は、同公団が事業実施区域ごとに策定する事業実施計画の認可に際し、事前評価を行っている。濃密生産団地建設事業については、本事業が農畜産物の安定的供給と農業経営の合理化に資することを目的とするものであることから、事業実施計画において設定されている達成すべき生産量、経営規模、技術水準等の目標の当否を審査している。また、農用地総合整備事業及び農用地等緊急保全整備事業については、経済効果として、ほ場整備や道路の建設等によって生じる直接的な効果(純益の増減、労働費、輸送費等の増減等)を中心に金銭評価して予定する総事業費に対する割合(投資効率)を算出し、それが1以上である場合に事業を採択している。しかし、これらのうち事業完了地区について、当初予定された目標の達成状況や経済効果の確保状況の検証は行われていない。
 以上のことから、農用地公団の事業については、今後、費用対効果の観点から事業効果を検証していくことが課題である。