経済協力(政府開発援助)に関する行政監察

−有償資金協力を中心として−結果(要旨)

勧告日: 平成9年3月14日
勧告先: 経済企画庁、外務省、大蔵省、
文部省、農林水産省、通商産業省

【調査の実施時期等】

○  実地調査時期: 平成7年8月〜8年3月
対象機関  : 4省庁(経済企画庁、外務省、大蔵省、通商産業省)及び農林水産省等14省庁、海外経済協力基金、日本輸出入銀行、国際協力事業団、関係団体等
担当部局  : 行政監察局



【監察の背景事情】

 昭和62年度以降、政府開発援助(ODA)については、3回にわたり監察を実施し、国別援助方針の策定、基金等の在外事務所への権限・業務の委譲の推進、情報公開の推進等を勧告。
(無償・技協:昭和63年7月、平成7年4月、有償:平成元年9月)。
 ODAの対外政策上の重要性は一層増大、量的にも拡大(平成3年以降5年連続世界第一位)。
 開発途上国のニーズを踏まえ、真にその社会経済の発展に資するような質の高いODAとするためにも、一層の効果的・効率的な実施が必要。「政府開発援助大綱」(平成4年6月閣議決定)においても、環境問題への配慮、各援助形態間の連携の強化、情報公開の促進等が課題と位置付け。
 このような状況を踏まえ、有償資金協力について、開発途上国のニーズを踏まえた適切かつ効果的・効率的な援助の実現を図る観点から援助業務全般にわたり既勧告事項のフォローアップを含め、その実施状況を調査するとともに、援助の総合性・計画性、透明性の確保の観点から新たな課題への対応状況を調査。



【勧告の要旨】

1 援助の効果的・効率的実施
 円借款案件の発掘・形成、要請、審査・決定、実施監理、事後監理等の全般にわたり、適切かつ効果的・効率的な援助の実施の観点から、改善すべき20事項について指摘。主な例は、次のとおり。
1)
 非年次供与国については、当該国の社会・経済開発計画や援助ニーズ等について協議を行う政府調査団が、必ずしも計画的に派遣されていないこと等から、援助要請案件の内容確認等に時間を要し、援助決定までに長期を要した例あり(平成4〜6年度の間で、3年以上を要した案件は9件)。
2)
 開発途上国からの円借款の要請は、通常、要請状、プロジェクト実施計画書、F/S(フィージビリティ調査) 報告書により行なわれるが、具体的な様式、要記載事項等が定められておらず、要請内容が抽象的で確認に手間取り、審査に長期を要した例あり。
 また、基金の対外説明資料では、要請案件の審査に最も重要な F/S報告書について、その正確性等の評価に必要な同調査の調査方法、事業費用の積算方法等が要記載事項とされていない。
3)
 円借款の要請書の受理等の時期が毎年一定していない一部の年次供与国や非年次供与国については、審査が長期化(3〜6年程度)した例あり。
4)
 基金の内部審査マニュアルには、i)未作成となっているもの (ノン・プロジェクト型借款) やii)作成後長期にわたり見直しが行われていないもの (水道セクター編、港湾セクター編等) あり。
5)
 円借款案件の中には、借款契約締結後、開発途上国(実施機関)の入札手続の遅延等により、本体事業の実施が大幅に遅延している例あり。
6)
 平成元年9月に、既往円借款案件に対する小規模なアフター・ケア援助制度を創設するよう勧告したことを踏まえ、平成2〜4年度に老朽化等により施設・設備等の稼働状況が低調となっている案件等を対象にリノベーション借款を実施したが、30億円以上の高額な案件が大半。その後も、プロジェクト借款として、アフター・ケア案件を採択しているが、数億円以下の小規模な案件は少数。
 しかし、既往円借款案件の中には、改善費用は少額(数億円以下)でも開発途上国では自己財源が確保できず、施設・設備の補修、スペアパーツの補充等が不十分で稼働状況が低調となっている例はいまだあり。現行制度下では、要請額数億円以下の案件は、単独では採択されにくいこと、借款供与までに期間を要することもあり、開発途上国から積極的に要請が行われない等の事情もある。

1)
 4省庁は、非年次供与国について、国別の協議頻度基準の策定等により計画的に政府調査団を派遣すること。
2)
 4省庁は、円借款の要請に当たって提出すべき書類の記載事項、添付資料の内容等について標準例をも掲載したマニュアルを作成し、開発途上国の窓口機関等に周知すること。
 経企庁は、基金に対し、フィージビリティ調査の調査方法等を含めた調査結果報告書の要記載事項についての解説書を作成させ、開発途上国の窓口機関等に周知させること。
3)
 4省庁は、審査に係る標準処理期間を設定するとともに、開発途上国と協議し、事務処理に係るスケジュールを作成し、的確な進行管理を行うこと。
4)
 経企庁は、基金に対し、ノン・プロジェクト型借款に係る審査マニュアルの作成、現状に合わない審査マニュアルの補正・改定を行わせること。
5)
 経企庁は、基金に対し、事業実施が遅延している案件について、その原因を把握・分析させるとともに、開発途上国(実施機関)に対し、事業の円滑な実施を積極的に働き掛けさせること。また、4省庁は、必要に応じ、開発途上国に対し、事業の円滑な実施又は事業計画の見直しについて政府レベルで積極的に働き掛けること。
6)
 4省庁は、既往の円借款案件のアフターケアに係る案件であって、現地のニーズが高く要請額が数億円以下の小規模なものについては、基金の意見等を基に、通常の要請案件とは別に、迅速な援助が可能となる仕組み・方法について検討すること。

2 援助の総合性・計画性、透明性の確保
 (1) 円借款事業と技術協力事業との連携の強化
 政府開発援助を効果的に実施するためには、円借款等の有償資金協力、無償資金協力及び技術協力の各援助形態の事業の有機的な連携を図ることが必要。
1)
 4省庁は、円借款及び無償資金協力・技術協力のそれぞれの政府調査団に原則として基金と事業団の両者を参加させること。
2)
 外務省は、技術協力に係る要望調査の実施等に当たって、在外公館において、基金の在外事務所からも原則意見を聴取するとともに、開発途上国に対し、円借款案件で必要となっている技術協力案件の要望の提出を働き掛けること。
3)
 経企庁は、基金に対し、技術協力との連携実績が少ない開発途上国を管轄する在外事務所を中心に、円借款案件の技術協力に対するニーズが開発途上国の要請に効果的に反映されるよう、在外公館及び事業団在外事務所との連携を強化させること。

 (2) 環境問題への積極的な対応
1)
 開発途上国の安定と持続的開発のためには、環境問題の解決に向けての開発途上国側の自助努力と先進諸国の積極的支援が重要。我が国は、平成元年及び3年のサミットにおいて、環境援助政策として、公害対策や森林保全等の分野への協力を重視する姿勢を表明し、努力中。

 4省庁は、円借款による環境案件の実施に当たり、公害対策や自然環境の保護に係る案件についても開発途上国から積極的に要請されるよう、開発途上国との一層の政策対話の推進、案件の発掘・形成活動の一層の充実を図ること。
 また、4省庁は、これら案件について、開発途上国からの要請を誘導するため、借款条件の緩和等効果的な措置について検討すること。

2)
 円借款案件を効果的かつ円滑に実施するためには、事業の実施によって移転を余儀なくされる住民への配慮が重要。

 4省庁は、住民移転を伴う円借款案件の審査に当たり、移転住民数を必要最小限とするための最適な開発手法や移転対象住民の意向等を開発途上国に十分確認するとともに、必要に応じ、在外公館、基金在外事務所を通じた現地確認を十分行うなどにより、審査の強化を図ること。

 (3) 援助の透明性の確保
 厳しい財政状況下において、今後ともODAを着実に推進するためには、従来にも増して、広く国民の理解と支持を得ることが不可欠であるが、情報公開は不十分。
1)
4省庁は、円借款の金利、償還期間等に係る標準条件についての情報を公表すること。
2)
経企庁は、基金に対し、原則として円借款案件の全受注企業名を公表させること。

3 その他
(1)
 基金の在外事務所(開発途上国は14所)の配置状況等をみると、i)援助額の増大等に伴い設置の必要性が高まっている国がある一方、ii)援助事務量が減少しつ つある在外事務所があるなど、設置箇所の見直しが必要。

 経企庁は、基金に対し、在外事務所について、援助に係る需要動向等を踏まえ、長期的観点に立って、再編成を行わせること。

(2)
 農水省所管の(財)海外漁業協力財団は、国庫補助金を積み立てた貸付事業資金を基に、本邦漁業者が海外漁場の確保及び開発途上国等の水産業の開発・振興のために行う海外漁業協力事業(技術協力事業、海外合弁企業への投資等)への貸付けを実施。

 農水省は、(財)海外漁業協力財団の資金貸付事業について、毎年度の資金需要を的確に把握するとともに、長期的な資金需要の動向等を踏まえつつ、財団の事業計画が貸付対象となる事業の実現性や優先度を踏まえた適切なものとなるようその策定方法を改めさせるなど同事業について抜本的な見直しを行うこと。
 貸付資金の運用益の使途についても見直しを行い、その剰余金については原則貸付事業資金に積み増すこと。

(その他の勧告事項)
開発途上国からの完成報告書の提出の励行確保やそのための内容の簡素化等徴収方式の見直し
教科書のODAに関する記述の適正化等

【資料編】
資料1 我が国の経済協力の形態及び予算額
資料2 ODA形態別30大供与国
資料3 円借款のプロジェクト・サイクルの概略
資料4 DAC諸国の政府開発援助
資料5 政府開発援助中期目標の達成状況
資料6 政府開発援助大綱



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