生活保護に関する行政監察の勧告に伴う改善措置状況の概要

 

【調査の実施時期等】  
 1 実地調査時期:  平成7年12月〜8年3月
 2 調査対象機関:  厚生省、都道府県、政令指定都市、市区、福祉事務所等
   
【勧告日及び勧告先】  平成8年12月17日、厚生省に対し勧告
   
【回答年月日】  平成9年12月24日
   
【その後の改善措置状況】  平成11年7月14日
  〔監察の背景事情〕
 生活保護の被保険者数は、平成5年度までは減少傾向。6年度は横ばい(被保護者数88万 5,000人、生活保護費1兆 4,000億円)。資産調査等を適切に行うことや福祉事務所における保護事務の組織的な実施を図ることが課題
 生活扶助額等を定めた保護の基準は、地域の生活水準の変化や高齢化の進行を十分に踏まえて設定することが必要

 

主な勧告事項
関係省庁が講じた措置
福祉事務所における保護事務の適切化
(1) 要保護者に対する事務の適切な実施
(勧告)
1.  保護決定時における手持金及び保険の保有を容認する限度額の判断基準を策定し、保護の実施機関に示すこと。
(説明)
 厚生省は、保護決定時における要保護者の手持金・保険の保有限度額の判断基準を未策定
 調査した福祉事務所における保護決定時の手持金の保有容認限度額は、最低生活費の3割又は5割と区々
 調査した福祉事務所では、保険の保有を認めないものと認めるものとがあり取り扱いが区々。更に、保険の保有を認めているものに係る保有容認限度額は区々(最高:保険料2万 3,000円、保険金約 3,000万円)
     
     
     
→○  保護決定時において保有を容認する手持金の限度額の判断基準については、「「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」及び「生活保護法による医療扶助運営要領に関する疑義について」の一部改正について」(平成11年3月31日付け社援保第16号厚生省社会・援護局保護課長通知) により、最低生活費の5割と定め、保護の実施機関に提示
   
→○  保護決定時において保有を容認する保険の限度額の判断基準については、上記保護課長通知及び厚生省手引集(生活保護手帳別冊問答集。平成11年4月1日から適用)により、保険料は最低生活費の1割程度以下、返戻金は最低生活費の3か月程度以下とするよう保護の実施機関に提示
(勧告)
2.  以下の事項について定期的に調査を実施するシステムを盛り込んだマニュアルを作成し、その上で、保護の実施機関に対し、これらの調査及び検討を的確に行うよう指導すること。
(i) 預貯金及び保険、(ii) 不動産及び自動車の保有、(iii) 扶養能力、(iv) 他法他施策、(v) 収入
(説明)
 調査した福祉事務所における保護決定時の預貯金・保険調査の区域は、所轄区域全域、一部区域、全く定めていないものと区々。また、すべての福祉事務所が保護開始後の預貯金・保険調査の区域・時期を定めていない。
 保護決定時に保有を認めた生命保険から遺族給付金が支払われていたが、保護開始後に調査を行っておらず、未把握の例あり。
   
 不動産・自動車、扶養能力、収入の調査及び他法他施策の活用が不適切なため、次のような事例あり。
 ローン付き住宅の処分を指導した後長期間未確認で、未処分の例
 自動車の処分を指導した後約4年間処分状況を未確認の例
 就労収入がありながら、収入がないとする申告に基づき処理している例
   
→○  各種調査及び検討の指導について、平成9年1月〜3月に開催した都道府県及び政令指定都市(以下「都道府県等」という。)の担当部長会議、担当課長会議及び担当係長会議において、的確に実施するよう指示
   
→○  これを受けて、次のとおり措置
 
 預貯金調査及び保険調査については、福祉事務所において当該地域の実情に応じた適切な手法を創意工夫することが効果的であるこ とから、これができるよう、平成11年度末を目途に、適切な事例を示 す予定
 不動産及び自動車の保有調査並びに扶養能力調査については、基本的な調査手法は示していることから、今後は地域の実情に応じた 適正な実施が図られるよう査察指導の充実を図ることとし、そのために査察指導台帳の作成等査察指導体制を確立するための具体策に取り組むことについて、平成10年3月4日開催の都道府県等担当課長会議で都道府県等に指示
 また、上記具体策に取り組むことを、「生活保護法施行事務監査並びに指定医療機関に対する指導及び監査について」(平成10年3月25日付け社援第 704号厚生省社会・援護局長通知。以下「平成10年社会・援護局長通知」という。)により、監査指導の着眼点として提示
 他法他施策の活用の検討については、平成11年度末を目途にマニュアルを示す予定
 収入調査については、その効果的な実施方法を検討した結果、一斉課税調査(原則として毎年実施)が効果的であることから、平成11年3月4日に開催した都道府県等担当課長会議でその実施を指示
(2) 福祉事務所の業務運営の見直し
(勧告)
  都道府県等に対し、次のことを指導すること。
1.  管内福祉事務所において具体的に講ずるべき対策を包含した指針を毎年度作成し、これを福祉事務所に示すこと。
2.  運営方針に具体的に講ずるべき対策等を盛り込むよう福祉事務所を指導すること。
3.  また、都道府県等が指導監査を行うに当たっては、福祉事務所における業務運営が運営方針に基づき的確に行われているかどうかを評価すること。
(説明)
 厚生省は、都道府県等(都道府県及び政令指定都市)に対し、保護事務の基本事項を網羅した運営方針を福祉事務所に毎年度作成させるよう指示
 調査した22都道府県等のうち、12は独自に福祉事務所運営方針作成のための指針を作成しているが、10は未作成
 運営方針に明記していないこともあって、次のとおり、保護に係る事務に適切を欠く福祉事務所あり
 監査の指摘事項の具体的な改善方策を明記していないことから、繰り返し監査で指摘を受けている事項が未改善の例
 レセプトの審査・点検の実施を明記していないことから、実施していない例
 不正受給防止対策に係る要保護者への届出事項や罰則規定の周知方策等を明記していないことから、周知が不十分な例
   
   
→○  平成10年3月4日及び11年3月4日に開催した都道府県等担当課長会議において、都道府県等に対し、福祉事務所を具体的に指導する指針を作成し、これを福祉事務所に示すよう指示。
 その結果、すべての都道府県等が指針を作成し、福祉事務所に提示
→○  上記都道府県等担当課長会議において、各福祉事務所が、上記指針を踏まえ、福祉事務所として取り組むべき問題点、対処方針等を具体的に盛り込んだ運営方針及び事業計画を作成し、これに基づいた事務運営に向けて全職員が一体となって組織的に取り組むよう福祉事務所を指導するとともに、これに基づいて指導監査を実施するよう都道府県等に指示
 さらに、平成10年社会・援護局長通知により、都道府県等の指針を踏まえた適切な運営方針の策定を指導監査の着眼点として提示
保護基準の見直し等
(勧告)
1.  前回指定後の社会状況の変化、「全国消費実態調査」の結果等を踏まえ、一定期間(例えば5年)ごとに級地の指定を見直す仕組みを導入する等生活扶助の在り方について検討すること。
(説明)
 生活扶助の基準額は、市町村を単位とした級地(6区分)ごとに設定。
 現行の級地の指定は、昭和59年全国消費実態調査結果や各種指標を踏まえて、昭和62年4月に実施
 平成元年及び6年の全国消費実態調査結果によると、現行の級地区分と消費支出額の実態との格差が拡大しているとみられる。
   
   
   
→○  原則として、5年ごとに実施される全国消費実態調査の結果が取 りまとめられた際に、級地の妥当性を検証し、必要な場合には、級地の見直しを行う方針。
(勧告)
2.  高齢化の進行を踏まえ、被保護者の福祉に資するため、例えば、おむつ費の限度額や遠近両用眼鏡の給付など各扶助の基準額及び品目を見直すこと。
(説明)
 紙おむつの基準額は、月2万 1,000円とされているが、入院中の高齢者の紙おむつ使用額が月平均3万円で、毎月不足が生じている例
 遠近両用眼鏡の給付の可否について厚生省の指導が不明確なため、遠近両用眼鏡を給付している例がある一方、これを給付せず遠用及び近用の2つの眼鏡を支給している例

 

   
→○  「生活保護法による保護の実施要領について」(平成9年3月31日付け社援保第84号厚生省社会・援護局長通達)等により、以下のとおり改正
 
 おむつ費については、実勢価格等を踏まえて限度額の見直しを実施(紙おむつの基準額は、平成8年度月額21,000円→9年度24,000円 )
 遠近両用眼鏡については、支給しても差し支えないという取扱い の周知徹底を実施
 このほか、次のような見直し(引き上げ)を実施
1.  老人保健施設入所者が給食を受ける場合の基準生活費
2.  障害者の介護人費用
3.  入院に際し寝巻等がない場合の被服費
→○  高齢化の進行により要介護者の急速な増大が見込まれること等を背景に平成12年度から介護保険制度が導入されることになるが、これに伴い生活保護法を改正して、介護保険の利用者負担を自ら負担できない低所得者についても介護保険給付の対象となる介護サービスが受けられるようにするため、新たに介護扶助を創設(平成12年4月1日から施行)した。