生活保護に関する行政監察改善措置状況調査結果(要旨)

  局長通知日:平成12年12月27日
局長通知先:厚生省
実施期間:平成12年4月〜12月
調査の背景事情等
 総務庁は、平成8年12月、「生活保護に関する行政監察」の結果に基づき、保護事務の適切化、要保護者の自立助長対策の推進等について、厚生省に対し勧告

 勧告以降、生活保護の受給者数は増加傾向(平成8年度被保護者数88万7千人、保護に要する費用1兆5,000億円、平成10年度同94万7千人、同1兆7,000億円)。また、生活保護費の不正受給も、厚生省把握分で平成8年度が約 2,800件(約23億円)、平成10年度が4千件(約30億円)と年々増加し、保護事務の一層の適正化が求められている。

 この調査は、勧告で指摘した事項に関する改善状況を調査し、一層の改善を求めることにより保護事務の適正化を図る観点から実施
調査対象機関: 厚生省、11道府県、24市(道府県又は市が設置した36福祉事務所を実地調査)
調査担当部局: 行政監察局、管区行政監察局(2)、四国行政監察支局、行政監察事務所(8)
調査結果
1 要保護者に対する保護事務の適正化
 
【8年勧告の要旨】
 各種調査を定期的に実施するシステムを盛り込んだマニュアルを作成した上で、保護の実施機関に対し、調査・検討を的確に行うよう指導する必要
 収入の認定に当たっては、挙証資料に基づいて収入等の状況を的確に把握し、適正に行うよう指導する必要
 最低生活費の認定に当たり、保護の基準を誤って運用している福祉事務所について早急にこれを是正するよう指導する必要
【厚生省の改善措置】
 各種調査の実施について適切な事例を示すことにより対応することとし、「生活保護の査察指導」(事例集)を作成し、都道府県、指定都市等に配布、指導
 最低生活費の認定誤りの是正、収入認定等の適切な実施について、本省及び都道府県の監査時において確認するほか、都道府県等に対し初任者研修等の充実を指導
 
 保護決定時又は保護開始後において、保護認定の基礎となる扶養能力調査、収入調査等を的確に実施していない福祉事務所あり
(扶養義務者の存在の確認、扶養義務者への照会等を的確に行っていないもの:調査対象36福祉事務所中34事務所199例)
(被保護者から収入申告書等を徴収せず、収入の実態を的確に把握していないもの:8事務所21例)
 最低生活費及び収入の認定事務を適正に実施しておらず、保護費の過大・過少支給につながっている福祉事務所あり(13事務所36例)
 不正受給を行った者に対し法の運用を誤り、返還させるべき費用を適正に徴収していない福祉事務所あり(6事務所7例)
 <改善所見要旨>
1.
扶養能力調査等の各種調査の的確な実施について、福祉事務所に対し徹底
2.
最低生活費認定事務の誤りを未然に防止するよう措置
3.
不正受給の再発防止に資するため、不正受給案件に対し法第78条を厳正に適用

2 自立助長対策の推進
【8年勧告の要旨】
 自立助長対策を効果的に推進している例を集めた事例集を作成し、保護の実施機関に提示する必要
 疾病を理由に就労していない者に対する病状把握及び就労指導の実施方法等に係る事務処理要綱を早急に作成した上、適切に事務を遂行するよう保護の実施機関に対し指導する必要
【厚生省の改善措置】
 自立助長対策の効果的推進事例を集めた「生活保護ケースワーク事例集」を作成し、都道府県、指定都市を通じて福祉事務所に配布、指導
 自立助長ケースの選定を積極的に行い、自立助長対策等についてみるべき成果を上げていると認められるものは少ない。(調査対象36福祉事務所中6福祉事務所)
 個別のケースについての就労指導等、自立助長に向けての指導措置を的確に講じていない福祉事務所あり
(検診指導等を長期間行っていない、主治医に対し病状調査を行っていない等就労の可否の把握を行っていないもの、稼働能力がありながら就労指導に従わない者に対しての指導を的確に行っていないもの:17事務所32例)
 <改善所見要旨>
1.
組織的な対応によるケース選定や的確な就労指導等により、福祉事務所における自立助長対策を 効果的に推進
2.
自立助長対策の実施に当たって、稼働能力の確認等を的確に行い、稼働能力がありながら就労指導に従わない者に対して、必要に応じた保護の変更等効果ある措置を実施

3 保護基準(級地)の見直し
【8年勧告の要旨】
 一定期間ごとに級地の指定を見直す仕組みを導入する等生活扶助の在り方について検討する必要
【厚生省の改善措置】
 平成6年全国消費実態調査結果をもとに級地区分の検討を行ったが、級地の変更を伴う見直しは未実施
 現行級地指定(昭和62年)後、生活扶助費が適正であることを確保するための級地の見直しは行われていない。このため、その後における社会経済情勢の変化に伴い、現行の級地指定は「1人当たり消費支出額」やその他の要素である「1人当たり所得額」、「人口規模」等の変化の実態を十分に反映したものとなっていない。
 生活扶助の基準額の低い級地に指定されている市と基準額の高い級地に指定されている市との間で「1人当たり消費支出額」が逆転している状況(調査対象156市のうち66市(42.3パーセント))
 <改善所見要旨>
 生活水準等の地域差が十分反映されたものとなるよう検証方法を検討し、必要な級地の見直しを実施