[総合評価] | ||||
1 | 石油公団の位置付け | |||
石油公団は、自主開発原油の獲得に向け石油開発会社に対する資金の提供等を行う「探鉱投融資・債務保証事業」を実施する法人として昭和42年に設立されたが、その後二度にわたるオイルショックを経て、53年に「国家石油備蓄事業」も行うこととされ、現在に至っている。 「探鉱投融資事業」は、石油開発会社の探鉱事業に対する出資及び融資を行うものであり、「債務保証事業」は、石油開発会社が開発事業に必要な資金を金融機関から借り入れるに際し、その債務を保証するものである。これらの資金提供等は一定の限度内で実施される仕組みとなっているが、その回収可能性は、探鉱の成否に大きくかかわっているほか、開発(生産)に移行した場合でも油価や為替の変動等に大きく左右され、事業のリスクは極めて高い。しかし、石油の供給を海外に大きく依存している我が国が自主開発原油を量的に確保するという政策目標の下、石油公団の事業は推進されてきている。 なお、これら事業に係る石油公団の資産規模は、出資金、貸付金、保証債務見返などを合わせて約1兆4,000億円に上っており、その損益の状況をみると、利益相当額を投融資損失引当金に繰り入れる処理をしている結果、収支は均衡している。 また、国家石油備蓄事業は、石油の供給途絶に備えるための対策として、昭和52年に総合エネルギー調査会において石油の国家備蓄が求められたことを受け実施されてきており、目標とする5,000万キロリットルの備蓄を平成9年度に達成している。 なお、この事業に係る石油公団の資産規模は、備蓄されている石油資産が約1兆3,000億円、このほか国家石油備蓄基地建設のための貸付け等を合わせ、約2兆8,500億円に達している。 |
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2 | 探鉱投融資・債務保証事業 | |||
(1) | 出融資等の実績 | |||
探鉱投融資事業の原資は、「石炭並びに石油及びエネルギー需給構造高度化対策特別会計」(以下「石特会計」という。)からの出資金や石油公団の事業収入等が充てられ、また、債務保証事業も石特会計からの出資金や事業収入等を債務保証基金に繰り入れて行われており、借入金はない。 出融資の累計額は平成8年度末現在で1兆7,261億円に達しているが、これまでの間、両事業により、利息や配当、債務保証料など7,074億円の収益が得られた一方、出融資先会社の解散による損失や保証債務の代位弁済に伴い得た求償権の償却等による損失の累計額は4,081億円に及んでいる。 平成8年度末までに得た債務保証料収入は231億8,595万円であるのに対し、保証債務の代位弁済は231億9,489万円となっており、債務保証事業のみの資金収支をこの両者で比較すれば、累計で約900万円代位弁済額が債務保証料収入を上回っている。なお、石油公団は代位弁済に伴いこれと同額の求償権を得るが、このうち、平成8年度末までに損失処理した額は37億円である。 出融資及び債務保証に伴う損失の処理は投融資損失引当金の取崩しにより行われているが、出融資先会社の解散が近年増加している中で、同引当金への繰入れを上回る取崩しが続いている。この結果、同引当金の残高は1,179億円(平成8年度末現在)にとどまっている。 |
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(2) | 財務の現状(財務諸表等の分析) | |||
探鉱投融資・債務保証事業について、財務諸表を中心に平成8年度の石油公団の財務の状況をみると、出融資先会社への貸付金(長期未収金を除く。)は6,286億円、保証債務は1,937億円、出資金は4,988億円、長期未収金は706億円、代位弁済に伴う求償権は195億円となっている。これらを単純に足し上げた合計1兆4,112億円(146社)のうち、現時点において既に解散の方針が明らかにされている会社に係る貸付金等3,547億円(61社)を除いた1兆565億円(85社)について、その内容を分析し、財務諸表から読み取れる問題点の検討を行った。 以下、資金等の回収可能性につき、石油公団の財務諸表に顕在化してくる段階を考慮し(注)、融資、保証債務、出資金の順にその現状をみると、次のとおりである。 |
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まず、融資(4,485億円)については、元利支払が進んでいる債権が333億円ある一方、利息が棚上げとなっている債権が3,692億円あり、これによる長期未収金が706億円存在する。 また、探鉱段階にあることなどにより元本据置期間中にある債権が459億円存在する。これらのほか、非計上の棚上利息が1,661億円存在する。 次に、保証債務(1,669億円)について、その保証額の解除の状況でみると、償還開始前にあるものが325億円みられ、残りの1,344億円は償還が進んでいるとみられる(このうち、石油公団の融資につき利息を棚上げしている会社に係るものは514億円)。このほか、代位弁済に伴う求償権が115億円ある。 さらに、出資金は、その累計額が3,591億円に及んでいる。 ところで、探鉱投融資の対象となる探鉱事業はリスクが高く、石油公団による融資は、石油公団の業務方法書において、貸付けに係る探鉱事業が開始されてから原則8年以内に恒常的生産に達しないときには、元本の全部又は一部を免除することができる旨が規定されているように、いわゆる「成功払い制度」となっている。このような背景事情の下、利息が棚上げとなっている債権3,692億円のうち3,550億円(注)について、石油公団は、現在融資先会社が貸付金の返済や利息の支払に困難を来す状況にあるものの、石油の生産が軌道に乗り資金回収が将来的に円滑に進むことが見込まれるとして、債権確保の観点から、元本の返済猶予、利息の棚上げなどの措置を講じている(なお、将来の回収見込みが低いとみられる棚上利息については、損益として計上されていないため、最終的に回収できない場合でも、石油公団の会計処理上損失として扱われない。)。 |
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このほか、元利支払は進んでいないが、国際的な取決めにより、相手国政府から返済が合意されているものがある。 このような事情を考慮しつつ、出融資先会社に対する融資についてみると、探鉱段階にあることなどにより元本据置期間中にあるものは、債権の回収可能性について判断できる状況には至っていないと考えられる。他方、利息が棚上げされている債権3,550億円及び長期未収金696億円については、融資先の石油開発会社からの将来的な回収可能性について注意深く見守っていく必要がある。 これらを単純に合計すると4,245億円となり、すべての出融資等(1兆565億円。既に解散の方針が明らかにされ、相当部分について回収の見込みが立っていないものを除く。)の約4割を占めている。 なお、代位弁済に伴う求償権115億円については、公的債務の繰延べ交渉を行う債権国会議(通称パリクラブ)において、返済繰延べの合意がなされているものである。 以上、出融資先会社からの資金償還等の状況は、石油公団の財務内容にこのような形で表れており、資金の回収可能性に注意を喚起するものとなっている。 ところで、石油開発会社の事業は、探鉱段階や開発初期段階での多額の先行投資に伴う減価償却費等により、損益計算の上で大きな赤字となっていても、資金収支に余裕があれば石油公団への返済も可能な場合があり、また、生産が軌道に乗れば石油公団の投融資等の最終的な損益がプラスとなる場合もある。したがって、財務諸表分析によって提起された問題点について、中長期的な観点から対処すべき課題を検討するには、石油開発会社ごとの損益の動向を見通すという別個の手段で分析することが意義あるものとなる。 |
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(3) | 出融資・債務保証先会社の営業収支(キャッシュフロー)の分析からみた損益見通し | |||
石油公団の損益について、通商産業省は、「キャッシュフロー分析」を行って出融資・債務保証先会社の将来にわたる収支の状況を分析し、2020年ごろまでの損益を見通している。 この分析は、出融資・債務保証先会社各社の生産収入など営業収入から、開発費や操業費など営業支出を差し引いた営業収支を見通し、それに基づき石油公団への支払に充てることができる資金の見通しを立てるものである。このため、油価や為替について一定の前提を置いた上で(注)、確認可採埋蔵量をベースとした生産見通しに基づき分析を行っている。 |
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なお、このキャッシュフロー分析と当庁による財務諸表分析とは、用いたデータに年度の違いはあるものの、両者の対照は可能と考えられる(注)。 | ||||
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キャッシュフロー分析の結果は、回収不能となるものを5,140億円から6,870億円とする一方、石油公団が出融資・債務保証先会社から得られる収益(利息収入や配当金あるいは含み益等)を4,380億円から8,900億円と見込んでいる。この結果、最終的に、油価や為替が厳しい条件で推移した場合には2,490億円の損失が発生するおそれがある一方、有利な条件で推移した場合には3,760億円の収益が発生することとなる(注)。 | ||||
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このように、最終的な損益の額がプラスに転ずるかマイナスに終わるかはキャッシュフロー分析の前提条件である油価及び為替の変動によるところが大きいことから、石油公団は、これらの変動要因の推移に注意を払いつつ、適時適切に損益の動向を見通し、出融資先会社について的確な措置を講ずることが必要である。 また、投融資損失引当金についても、合理的な将来予測に基づき、適切な計上が必要である。この点について、石油公団では、平成10年度決算から、個別プロジェクトごとの分析結果に基づく引当金の計上を予定している。 |
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(4) | 投融資効果と今後の課題 | |||
自主開発原油の確保を目的とした探鉱投融資・債務保証事業は、輸入原油総量の約15パーセントに当たる自主開発原油を確保するという成果に結び付いている。 これを、石油公団の投融資額当たりの原油輸入累計量を出融資先会社の設立年次ごとに比較してみると、昭和40年代に比べ、50年代以降は低下している。また、配当収入の状況をみると、そのほとんどが昭和40年代に設立された会社からのものとなっている。この背景として、設立から長期間経過している昭和40年代の石油開発会社は生産が軌道に乗ってからの期間が長いのに対し、その後に設立された石油開発会社は生産開始後相対的に短期間しか経過していないために、生産が収益に結び付いていないという事情もあるものの、50年代の設立会社からの原油輸入累計量よりも60年代以降の設立会社からの原油輸入累計量の方が多い現状にも注目すべきである。 このような状況を踏まえ、今後、石油公団の事業の政策目標である自主開発原油の輸入を確保する上で、投融資の重点化を図ることを検討することが必要である。 また、これに当たっては、探鉱開発コストの検討が不可欠であるが、通商産業省は、公団出融資先会社のコストは、メジャーのコストと遜色ないものと試算している。しかし、コスト算出方法の共通化が必要であり、その上でコストの比較を行うべきである。 さらに、探鉱投融資・債務保証事業は多額の公的資金に依存する事業であることから、投融資の効果の検証を進めることが不断の課題であるとともに、国民への説明責任を果たすことも必要である。このうち、ディスクロージャーについて、石油公団は、平成9年度から各石油開発会社の経営状況を含めた取組を行っているが、その後、石油審議会の下に置かれた委員会(学者、公認会計士等で構成)の提言(平成11年2月)を受け、現在、石油公団と出融資先会社との連結決算などディスクロージャーの拡充に向けた検討が進められており、これらをも含め、今後とも、ディスクロージャーの一層の推進が求められる。 |
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3 | 国家石油備蓄事業の公的負担と今後の課題 | |||
国家石油備蓄事業に係る備蓄石油の購入元本(約1兆3,000億円)は、財政投融資資金及び民間からの借入金や公団債により賄われている。そもそも石油自体は貯蔵タンク内では経年的に劣化しないため、元本の償還は必要なく(借換えによって継続して借り入れている形態)、発生利息は国庫からの補給金で支弁される。 また、国家石油備蓄のため民間との共同出資により設立された国家石油備蓄会社に対して石油公団が貸し付けている国家石油備蓄基地建設資金の元本(約1兆300億円)の償還は、当該会社からの回収金で賄われ、発生利息は国庫からの補給金で支弁される仕組みとなっている。 なお、国家石油備蓄は国家石油備蓄基地のほか民間会社からのタンクの借上げによっても行われており、これらへの施設利用料は国からの交付金をもって賄われている。両者の保管コストを比較してみると、建設時期が比較的最近であるため減価償却費額が大きい国家石油備蓄基地が割高となっている。一方、実質的なコストを比較する観点から、減価償却費等を除いた経費で比較すると、逆に、国家石油備蓄基地の方が民間タンクの借上げに比べ割安となっている。 平成8年度において、補給金は900億円、また、交付金で賄われている施設利用料は1,760億円に上っており、今後約20年間に必要となる補給金の総額は1兆円程度に達するとの石油公団の試算もある。 このように、国家石油備蓄を継続するには多額の公的資金が必要となることから、国家石油備蓄事業については、緊急時対策としての重要性を踏まえつつ、引き続き、事業の一層の効率的な実施に努めることが課題である。 |