船員行政監察結果に基づく勧告


 

 

 

 

 

 

 

 

平成12年4月

 

総務庁

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前書き

   我が国の外航海運は、海上貿易において輸入量の約70パーセント、輸出量の約40パーセントを占めるなど、産業活動や国民生活に重要な役割を担っている。また、内航海運も、石油、鉄鋼、セメント等の産業基礎資材の輸送を支えるなど、国内物流の基幹的輸送機関として重要な役割を担っている。これら我が国の海運を支える船員について、国は、その教育・養成、雇用対策等の諸施策を一体的に推進してきている。
   近年、外航海運については、日本籍船の運航コストが高いこと、円高等から、我が国商船隊の構成は、海外からの用船が増加する一方、日本籍船が減少する構造変化が続いている。これに伴い、昭和60年には約3万人であった外航船の船員は、平成10年には約6,500人に減少している。また、国際協定に基づく漁業規制の強化による減船等に伴い、昭和60年には約9万人であった漁船の船員は、平成10年には約4万4,000人に減少している。
   内航海運についても、昭和60年に約6万人であった船員は、船舶数の減少に伴い、平成元年には約5万6,000人まで減少した。その後、平成2年及び3年には船員数が若干増加したこと、船員の高齢化が著しくなってきたこと等を背景として、海員学校の教育内容の外航部員養成から主として内航職員養成への変更、漁業離職者の内航船員への転換促進等の対策が講じられてきている。しかしながら、内航海運における船舶の大型化・近代化の進展等により、内航海運の船員需要は減少に転じ、平成10年には船員数が約4万人に減少するとともに、船員職業安定所における有効求人倍率も2年の1.1810年には0.18に低下するなど、船員の雇用情勢は悪化している。
   一方、船員行政に係る組織、体制については、船員数が昭和60年の約20万人から平成10年には約11万5,000人に減少している状況の下で、その簡素・効率化を図る観点から、見直しが必要となっている。また、離職船員の再就職については、今後も船員の雇用情勢は厳しいと見込まれることから、雇用対策の効率的かつ効果的な実施が求められている。さらに、平成13年4月に独立行政法人に移行することとされている海技大学校、航海訓練所及び海員学校についても、その業務を効率的かつ効果的に実施することが要請されている。
   この監察は、このような状況を踏まえ、船員行政の実施体制、業務の実施状況を調査し、関係行政の改善に資するため実施したものである。


        目次


 船員行政の抜本的見直し
(1)  船員労務官の業務運営の見直し
(2)  船員職安の業務運営の見直し
(3)  海運支局の再編整理
 船員教育機関の組織及び業務運営の簡素・効率化
(1)  海員学校
(2)  海技大学校
(3)  航海訓練所


 
   船員行政の抜本的見直し
  (1)     船員労務官の業務運営の見直し
   監査業務
   平成11年3月末現在、運輸省は10地方運輸局(神戸海運監理部を含む。以下同じ。)及び62海運支局に144人、沖縄開発庁は沖縄総合事務局に2人の船員労務官を配置している(以下、地方運輸局、海運支局及び沖縄総合事務局を「地方運輸局等」という。)。船員労務官は、船員法(昭和22年法律第100号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)に基づき、船舶その他の事業場の立入検査を行い、法令の遵守に関する注意喚起、勧告を行う監査業務をつかさどる職員である。監査業務は、監査計画に基づき行う通常監査、災害発生時監査、海難発生時監査等に区分され、また、監査の場所により、船舶監査と船舶以外の事業場において行う事業場監査とに区分されている。
   今回、監査業務の実施状況及び船員労務官の配置について調査した結果、次のような状況がみられた。
  .    監査業務は船舶への立入りが基本となるものであり、平成元年から9年までの監査総件数の95パーセントは船舶監査となっている。平成元年の船舶監査件数は1万1,089件、9年は9,543件であり、毎年、船員法が適用される約2万隻の船舶に対して約1万件の船舶監査が実施されてきている。
   運輸省は、地方運輸局配置の運航監理官が行う旅客航路事業者に対する立入検査については、原則、中長距離フェリーは各航路毎年1回、その他のフェリー航路は隔年に1回実施することを定めている。これに対し、船員労務官が行う船舶監査については、前回監査から3か月を経ない場合は、原則、監査を避けることとしているものの、次に監査を実施するまでの期間については、基準を定めていない。また、船舶監査の対象について、どのような船舶を監査するかについての基準はなく、船員労務官が港に出向き、当日係留中の船舶を適宜選んで立ち入り、航海日誌により前回監査の実施時期、指摘事項等を確認した上で、必要があれば監査を実施する方法によっている。
   このため、船舶監査業務は、次のような状況となっている。
  )   調査した32地方運輸局等で平成9年度に実施された船舶監査(4,238件)の45パーセント(1,896件)は、同一船舶に対し1年間に複数回実施したものとなっており、監査実施船舶でみると、3,144隻のうち802隻が複数回の監査を受けている。中には、異なる地方運輸局、海運支局に配置された船員労務官により、1年間に計5回の監査を受けている船舶がみられる。また、複数回の監査を受けた802隻から抽出した156隻に対する注意喚起又は勧告の実施状況をみると、2回目に当たる監査で注意喚起又は勧告を実施したものは10隻(6パーセント)と少なく、3回目から5回目の監査で注意喚起又は勧告を実施したものは全くない。一方、66船舶所有者を抽出し、その所有船舶252隻の前回監査の実施時期をみると、3年以上監査を受けていない船舶が156隻(62パーセント)あり、中には、10年以上監査を受けていないものがみられる。
i)   調査した37地方運輸局等の船員労務官が船舶監査のため港に出向いた年間延べ日数(6,930人日)の11パーセント(787人日)は、前回監査から一定期間を経過していない等の理由により監査を行うには至っていないものとなっている。
     なお、船舶監査の類似業務として外国船舶監督官が行う外国船舶の監督があるが、これについては、入港船舶情報の事前収集及び外国船舶監督官の間での監督実施結果情報の共有を行い、これらを監督対象船舶の選定に活用しているが、船舶監査にはこのような仕組みは設けられていない。
  .    船員法に基づき、船長は海難等が発生したときに遅滞なく航行報告を行うことが、船舶所有者は前年度に発生した災害について、その状況を報告することが、それぞれ義務付けられており、これらの報告を監査に活用することが可能である。しかしながら、地方運輸局等においては、これらの報告を監査に活用する仕組みがなく、船員法違反が原因とみられる座礁事故を起こした船舶に対し海難発生時監査が実施されていない例がみられる。また、船員災害が多発している船舶所有者に対し、事業場監査が実施されていない例もみられる。
.    船員労務官は、平成元年度の141人から9年度の147人に増加している一方、監査対象となる船舶の総数は16パーセント減少している。
   船員労務官は、入港船舶数、管内の船舶所有者数等の多寡に応じて地方運輸局等に配置されており、年間監査件数等の実績に基づく要員算定や配置は行われていない。
   このため、船員労務官1人当たりの年間監査件数について、地方運輸局間で最大2.2倍の格差が生じている。また、1人当たりの年間監査日数は約77日にすぎず、さらに、1人当たりの年間監査等日数について、地方運輸局間で最大1.3倍、海運支局間で最大2.5倍の格差が生じている。
     災害防止対策
   船員災害の防止について、地方運輸局長は、船員災害防止活動の促進に関する法律に基づき、船員災害が頻繁に発生している船舶所有者又は大規模な船員災害が発生している船舶所有者に対し、船員の安全又は衛生に関する改善計画(以下「安全衛生改善計画」という。)を作成すべきことを指示することができることとされている。
   今回、安全衛生改善計画の作成指示の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   近年、船員災害の発生件数は減少してきているが、平成9年度の災害発生率は陸上労働者の5倍となっており、船舶所有者が適切な措置を自ら講じるよう、安全衛生改善計画の作成指示を通じて、その安全衛生意識を向上させることが重要かつ効果的である。
   しかしながら、安全衛生改善計画の作成指示を行う場合の基準が不明確であるため、災害の発生状況が同様である船舶所有者に対して、作成指示を行っている地方運輸局がある一方、作成指示を行っていない地方運輸局がみられるなど、地方運輸局間で安全衛生改善計画の作成指示に係る運用が統一性を欠いている状況にある。
         したがって、沖縄開発庁及び運輸省は、監査業務及び安全衛生改善計画の作成指示業務について、適正化・効率化を図る観点から抜本的に見直し、次の措置を講じる必要がある。
  .   監査実施結果情報の一元化、共有化及びその利活用を行う仕組みを設けるとともに、監査対象の選定に関する基準を策定することにより、監査を計画的かつ効率的に実施すること。
   また、航行報告及び災害発生状況報告を必要に応じ監査に活用する手続を執務要領に明定すること。(沖縄開発庁及び運輸省)
.   監査の対象となる入港船舶数、年間監査件数等に基づく要員算定方法を導入し、船員労務官の配置の見直しを行うことにより業務量に対応した適正な要員配置を図ること。(沖縄開発庁及び運輸省)
.   安全衛生改善計画の作成指示の実施基準を明定することにより運用の統一を図ること。(運輸省)
  (2)      船員職安の業務運営の見直し
     平成11年3月末現在、運輸省は10地方運輸局及び49海運支局に92人、沖縄開発庁は沖縄総合事務局に1人の職員を配置し、船員職業安定法(昭和23年法律第130号)に基づく船員職業紹介、船員保険法(昭和14年法律第73号)に基づく失業認定、職業補導の指示等の業務(以下、これらの業務を行う船員職業安定所、船員課等を「船員職安」という。)を実施している。
   今回、船員職安の業務の実施状況及び要員配置について調査した結果、次のような状況がみられた。
 
  1 .   統計上船員の採用状況の把握が可能な保有船舶の総トン数が1,000トン以上の船舶所有者についてみると、船員職安の職業紹介により採用した船員は、平成7年から9年までの平均で約1,200人と採用した総船員数の15パーセントとなっている。これ以外の方法による採用は、知人、友人等の紹介によるものが約2,100人で26パーセント、船員職安を介さない船員自らの雇用の申出によるものが約1,500人で18パーセント等となっている。
   船員職安における船員職業紹介については、以下のとおり、十分に機能しておらず、適正な事務処理が行われていない状況がみられた。
)   調査した33船員職安における職業紹介の実施状況を求人票及び求職票からみると、管内で求人条件と求職条件が適合したもの230件について、求人者に紹介を行ったものは60件(26パーセント)にとどまり、紹介を行っていないものが11件(5パーセント)あり、船員職業安定法事務取扱要領(以下「事務取扱要領」という。)に定める記録を行っていないため、紹介したか否か不明なものが159件(69パーセント)となっている。
   また、事務取扱要領に定める求職者への紹介状(紹介状と採否通知用のはがきが一体となっている。)の交付を行っている船員職安はなく、採否結果の把握は、求人者又は求職者への電話照会を行っている3船員職安以外は、不十分となっている。
i)   船員職業安定法に基づき、地方運輸局長には、求人開拓に関する努力義務が課されているが、事務取扱要領にその実施に係る定めがないことから、船員職安の中には、求人開拓の余地があるにもかかわらず、これを積極的に行っていない例がみられる。
ii)   事務取扱要領において、複数の船員職安が連携して実施する広域職業紹介については、地方運輸局及び運輸省本省を経由して求人情報、求職情報等の連絡を行うこととされている。しかしながら、ファクシミリの整備により船員職安間での直接の連絡が事実上行われており、事務取扱要領に定める連絡方式は実態に合っていない。また、事務取扱要領上、求人票及び求職票の写しの送付手続は定めがあるが、紹介状の交付や採否結果の把握等については定めがない。
   調査した33船員職安における広域職業紹介の実施状況を求人票及び求職票からみると、求人条件と求職条件が適合したもの167件について、求人者に紹介を行ったものは57件(34パーセント)にとどまり、紹介を行っていないものが9件(5パーセント)あり、事務取扱要領に定める記録を行っていないため、紹介したか否か不明なものが101件(61パーセント)となっている。
   また、紹介状の交付を行っている船員職安はなく、採否結果の把握が不十分となっている。
   さらに、採否結果が関係船員職安に連絡されていないために、広域職業紹介の求人票を受理していた船員職安が、既に採用を決定した求人者に求職者を紹介した例がみられる。
     このような状況の下、船員職安の紹介による雇用の成立は、平成8年から10年までの平均で、求人数の19パーセント、求職数の5パーセントであり、民間の船員職業紹介所における雇用の成立が、求人数の36パーセント、求職数の13パーセントであるのに比べ、低調となっている。
  .   運輸省は、職業補導の指示に関し、運用方針を策定していない。船員職安においては、就職指導の中で、失業保険金受給者からの希望がある場合に職業補導の指示が行われている。
   このようなことから、50歳を超える者に対する求人があるにもかかわらず、職業補導の指示は50歳以下に限って行っている船員職安の例、失業保険金の所定給付日数内における職業補導の指示回数に船員職安間で相違があり、離職船員に対する取扱いの公平を欠いている例、各地で開催されている同内容の講習会の受講について、同一の船員職安のみが指示を行っている例がみられる。
   このほか、船員職安の中には、職業補導の指示を行ったのみで、当該指示を受けた者の受講状況、海技従事者国家試験の受験状況、海技免状の取得状況等を把握していないものがあり、中途で受講を取りやめた者について、必要な指導を行っていない例がみられる。
 
  3 .   船員職安の業務量を表す新規求人数、新規求職数及び失業保険金受給者に対する失業認定件数をみると、新規求人数は平成元年の1万4,065人から9年の7,018人に50パーセント、新規求職数は1万4,332人から1万1,485人に20パーセント、失業認定件数は4万2,804件から2万4,004件に44パーセント、それぞれ減少している。
   しかしながら、船員職安の配置要員は、平成元年度の99人から9年度の93人に6人(6パーセント)の減少にとどまっており、非効率な要員配置となっている。
   このような状況の下で、船員職安については、取扱件数、求人開拓件数等に基づく要員算定が行われておらず、このため、以下のような例がみられる。
)   ほぼ同数の要員を配置している海運支局間で、要員1人当たりの年間取扱件数に5.8倍の格差が生じている例
i)   他業務との兼務の職員が対応している船員職安より年間取扱件数が少ない船員職安に専任の職員を配置している例
    したがって、沖縄開発庁及び運輸省は、船員職安について、その機能の発揮と業務の適正化・効率化を図る観点から、次の措置を講じるほか、内部監査を実施することにより、業務運営の実態を把握するとともに、措置後においてなお船員職安としての機能を果たさない場合は、その在り方について抜本的に見直す必要がある。
  .   事務取扱要領に求人開拓に関する定めを置くとともに、広域職業紹介に関して、求人情報、求職情報等の関係船員職安への適時の連絡を確保するよう仕組みを見直し、規定を整備すること。あわせて、船員職安業務を事務取扱要領に基づいて実施するよう徹底することにより、的確な事務処理を図ること。(沖縄開発庁及び運輸省)
.   職業補導の指示に関し、制度の趣旨を踏まえた統一的な運用方針を策定し、その実施を徹底することにより的確な運用を図るとともに、職業補導の指示後の失業保険金受給者の状況を把握する仕組みを導入すること。(運輸省)
.   年間取扱件数、求人開拓件数等に基づく要員算定方法を導入し、要員配置の見直しを行うとともに、年間取扱件数等が極めて少ない場合には他業務との兼務職員で対応させる運用を拡大することにより、業務量に対応した適正な要員配置を図ること。(運輸省)
  (3)      海運支局の再編整理
     平成11年3月末現在、船員、船舶及び運航の海事行政に関する業務を実施するため、10地方運輸局の下に67海運支局、沖縄総合事務局の下に2海運事務所が設置されており、地方運輸局又は沖縄総合事務局の管轄区域の一部を管轄している。このうち、海運支局については、地方運輸局等海運支局組織規程(昭和26年運輸省令第50号)によれば、29海運支局は船員、船舶及び運航関係業務を、24海運支局は船員及び船舶関係業務を、14海運支局は船員関係業務を主に分掌することとされている。
   船員関係業務は、i)航行報告の受理及び証明、船員の雇入契約の公認等船員法に基づく業務(以下「船員法業務」という。)並びに海技免状の交付、更新等船舶職員法(昭和26年法律第149号)に基づく業務(以下「船舶職員法業務」という。)、ii)船員の職業の紹介、失業認定等船員職安業務、iii)船員労務官による監査業務等に大別される。船員関係業務のうち、船員法業務及び船舶職員法業務は67海運支局及び2海運事務所で、船員職安業務は49海運支局及び2海運事務所で、監査業務は62海運支局で実施されている。
   また、外国船舶の施設、設備や乗組船員の資格に関する外国船舶の監督業務は、船員労務官及び船舶検査官のほか、7海運支局に配置された外国船舶監督官により実施されている。
   従前、運輸省は、海運局(現在の地方運輸局)及び支局(現在の海運支局)の下に82出張所を設置していたが、行政の簡素・効率化を図る観点から、昭和44年度から57年1月までに74出張所を廃止し、8出張所を支局に組織変更している。これにより支局の設置数は67局となり、その後、海運支局の設置数及び所在地に変更はない。また、海運支局の定員は、昭和57年度の764人が平成10年度には743人(昭和57年度の97パーセント)となっている。
   一方、船員行政の対象については、昭和57年から平成9年までに、船員数は約22万人から約13万人に44パーセント、船舶数は約2万4,000隻から約1万9,000隻に20パーセント、それぞれ減少している。
   なお、2001年1月の新体制への移行を目標とする「中央省庁等改革に係る大綱」(平成11年1月26日中央省庁等改革推進本部決定)では、地方支分部局の整理合理化について引き続き検討を行うこととされている。
     船員法業務及び船舶職員法業務の効率化
   今回、地方運輸局(沖縄総合事務局を含む。)、海運支局(海運事務所を含む。)における船員法業務及び船舶職員法業務に係る要員配置及びこれらの実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
   船舶所有者は平成元年の1万2,194人から9年の1万180人に16パーセント、船舶は2万2,719隻から1万9,085隻に16パーセント、船員は16万4,011人から12万5,382人に23パーセント、それぞれ減少している。一方、船員法業務及び船舶職員法業務に係る配置要員は、平成元年度の195人が9年度の182人へと7パーセントの減少にとどまり、要員1人当たりの船舶所有者数は63人から56人に11パーセント、同船舶数は117隻から105隻に10パーセント、同船員数は841人から689人に18パーセント、それぞれ減少している。
   船員法業務及び船舶職員法業務は、船員法事務取扱要領等により実施手順、実施内容が定められているが、取扱件数等に基づく要員算定が行われておらず、取扱件数又は配置要員数が同程度の地方運輸局間で要員1人当たりの取扱件数に2倍の、同じく海運支局間で2倍の格差が生じている例がみられる。
   海運支局の再編整理
   今回、船員行政に係る海運支局の体制及び業務の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
 
.   海運支局は、行政需要と利便を考慮して主要港に設置されてきたものであるが、その配置をみると、海運支局所在地から100キロメートルを超える遠距離にある複数の重要港湾を一つの海運支局で管轄しているものがある一方、船員関係業務を主に分掌している海運支局であって、他の海運支局に近接して配置され、管轄している港が漁港であるものがある。
   また、管轄する行政対象をみると、67海運支局の平均で、船員数が1,501人、船舶所有者数が124人、船舶数が223隻であるのに比べ、船員数が67人、船舶所有者数が1l人、船舶数が24隻と管轄する行政対象がわずかな海運支局がある。海運支局の船員関係業務の指標である船員法業務、船舶職員法業務及び船員職安業務の年間取扱件数をみると、67海運支局の平均で船員法業務が2,438件、船舶職員法業務が2,253件、船員職安業務が753件であるのに比べ、船員法業務が575件、船舶職員法業務が155件、船員職安業務が95件と年間取扱件数の少ない海運支局がある。
   このようなことから、船員関係業務については、海運支局の配置は、行政需要及び効率的な業務運営の要請に適切に対応したものとなっていない。
.   海運支局の定員は最少で3人となっている。船舶所有者、船舶及び船員の数が大幅に減少している中で、船員関係業務を主に分掌している海運支局の中には、船員法業務、船舶職員法業務及び船員職安業務の年間取扱件数から試算される要員数が1人に満たない海運支局がある。このような海運支局の中には、他の海運支局又は地方運輸局に近接して配置されているものがあり、その配置を見直すことにより、業務運営の効率化が可能な例がみられる。
         したがって、沖縄開発庁及び運輸省は、船員法業務及び船舶職員法業務の運営の簡素・効率化を図るとともに、行政需要に適切に対応し効率的な業務運営を確保する観点から、次の措置を講じる必要がある。
  .   船員法業務及び船舶職員法業務について、取扱件数等に基づく要員算定方法を導入し、要員配置の見直しを行うことにより業務量に対応した適正な要員配置を図ること。(沖縄開発庁及び運輸省)
.   前記(1)の監査業務及び(2)の船員職安業務の抜本的見直し等を踏まえ、海運支局の再編整理を図ること。(運輸省)
   船員教育機関の組織及び業務運営の簡素・効率化
  (1)     海員学校
   運輸省は、海員(船員のうち、船長以外の船舶乗組員をいい、航海士、機関士等の船舶職員と部員とに区分される。)の養成施設として、海員学校を設置している。全国13か所に設置されていた海員学校は、昭和56年4月に3校を、62年4月に2校を廃止し、8校となっている。
   現在、海員学校8校は、主として内航職員養成の教育を行っており、6校には中学校卒業者を対象とする修業年限3年の本科(入学定員は2校が30人、4校が40人)が、2校には高等学校卒業者を対象とする修業年限2年の専修科(入学定員は各校80人)が開設されている。また、この2校のうち1校には、賄い、調理業務に従事する部員(以下「司ちゅう部員」という。)の養成を行う司ちゅう・事務科(入学定員60人)も開設されている。
   平成11年3月末現在、海員学校には、校長、教頭、教諭、事務職員及び技術職員の計161人が配置されている。
   なお、海員学校は、平成13年4月に独立行政法人に移行することとされている。
   今回、海員学校の体制及び海員の養成状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
  .   海員学校8校の平成7年度から9年度までの年間の歳出は約17億円であるのに対し、歳入は約1,700万円であり、独立行政法人に移行すれば、一般会計からの出資金及び交付金を要することとなる。歳出全般の抑制が求められる中で、海員学校についても業務運営の合理化・効率化が課題である。
.   運輸省は、海員学校5校を廃止し、入学定員を縮減してきているが、以下のとおり、一層の合理化の余地がみられる。
 
)   運輸省は、外航部員としての日本人船員の職場の維持が困難となってきたこと及び平成3年に内航船員の数が増加に転じたことを踏まえ、4年度から、本科の教育内容を外航部員の養成から内航職員の養成に重点を移行するなどにより、80人であった内航職員の養成規模を380人と4.8倍に拡大している。
   しかしながら、内航の旅客航路事業者数は、約900事業者で大幅な変動はないものの、貨物輸送を行う内航海運事業者数は、平成4年度の6,295事業者から9年度の5,744事業者に9パーセント減少している。また、内航船舶数も、内航の旅客航路事業については2,460隻から2,521隻に3パーセント増加(平成11年度には2,434隻に減少)しているが、内航海運業については、船舶の近代化・大型化の進展等により、9,101隻から8,216隻に10パーセント減少している。
   このような状況の下、内航船員の数は約5万5,000人から約4万5,000人に19パーセント、うち20歳未満の内航船員は883人から539人に39パーセント、それぞれ減少している。また、保有船舶の総トン数が1,000トン以上の内航の旅客航路事業者及び内航海運事業者における新規学卒者の採用は、平成7年の638人から9年の515人に19パーセント減少している。
   本科及び専修科は、いずれも定員を超える入学者がいるものの、内航船員としての就職者数は、平成7年度の183人から9年度の151人に17パーセント減少している。これを本科及び専修科の別にみると、専修科は大幅な変動がないのに対し、本科は87人から54人に38パーセント減少しているが、本科の入学定員の見直しは行われておらず、現在では養成規模が過大である。
i)   本科校と専修科校とでは生徒の定員に最大2.4倍の差があるが、各校の校長、教頭、教諭、事務職員及び技術職員の配置数はほぼ同数となっており、生徒の定員の違いが教職員数に反映されにくい構造となっている。
   このようなことから、本科の養成規模の適正化に当たって、1校ごとの入学定員を見直す方法は、業務運営の効率化の観点から十分な効果が期待できない状況にある。
   また、海員学校には、入寮生の賄い業務を実施するための技術職員が配置されているが、業務を外部委託し要員の合理化及び経費縮減を図る余地がある。
  .   遠洋又は近海を航行区域とする総トン数1,000トン以上の外航船等については、調理の管理を行う船舶料理士を乗船させることとされており、司ちゅう・事務科の卒業者は、調理師免状を取得できるほか、船舶料理士資格の取得に際しては、筆記試験が免除され、乗船履歴の短縮が認められている。
   司ちゅう・事務科の卒業者のうち、司ちゅう部員としての就職者は約半数で、残る半数の就職先をみると、フェリー船内での乗客へのサービス提供業務、陸上の職種等となっているが、入学定員の見直しは行われておらず、養成規模が過大である。
       したがって、運輸省は、海員学校の組織、体制の簡素・効率化を図る観点から、次の措置を講じ、要員の合理化を図る必要がある。
  .   本科及び司ちゅう・事務科について入学定員を縮減するとともに、本科校の再編を図ること。
.   業務の外部委託を推進すること。
(2)    海技大学校
     運輸省は、昭和36年に、船員の再教育機関として海技大学校(前身は昭和20年に設置された海技専門学院)を設置した。昭和56年4月、当時供給過剰であった部員の船舶職員への転換等を目標とする再教育訓練のニーズに対応するため分校2校を設置し、部員を主な対象に、外航の近代化船において当直業務を行うことができる資格及び海陸互換性のある技能資格の取得を目的とした課程を開講している。その後、船員教育機関全般にわたる見直しの一環として、平成4年3月に分校1校の廃止、4年度から6年度にかけて教育課程の整理再編を行っている。
   現在、本校(所在地:兵庫県芦屋市)は船舶職員を主な対象とし、より上位の海技資格の取得等を目的とした海技士科及び講習科の15課程を始め、通信教育部の3課程、開発途上国の船舶職員等を対象とした技術協力課程2課程の計20課程を開講している。また、分校(所在地:岡山県倉敷市)は部員を主な対象とし、船舶職員となるために必要な海技資格の取得を目的とした課程、内航船員としての基礎知識及び技能の取得を目的とした課程等の計4課程を開講しており、海技大学校としては合計24課程を開講している。
   平成11年3月末現在、海技大学校には、本校に校長、教授18人、助教授18人、講師3人、助手2人、事務職員33人及び技術職員3人の計78人、また、分校に分校長、教諭4人及び事務職員5人の計10人の合計88人が配置されている。
   なお、海技大学校は、平成13年4月に独立行政法人に移行することとされている。
   今回、海技大学校の体制及び船員の再教育の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
  .   海技大学校の平成7年度から9年度までの年間の歳出は約12億円であるのに対し、歳入は約4,000万円であり、独立行政法人に移行すれば、一般会計からの出資金及び交付金を要することとなる。歳出全般の抑制が求められる中で、海技大学校についても業務運営の合理化・効率化が課題である。
.   運輸省は、平成4年度から6年度にかけて課程の整理再編を行っているが、その際、見直しが不十分であったため、国の補助事業として船員雇用促進センターが実施している技能訓練と課程の一部に重複がみられるほか、以下のとおり、通信教育以外の課程について、定員充足率が50パーセントに満たない状況が継続し、教員配置の面からみても非効率な課程が大半となっており、課程の合理化の余地がみられる。
 
)   運輸省は、1課程(修業期間2年、養成定員20人)の廃止、6課程の開講回数及び養成定員の見直しを行い、計7課程で養成定員を1,530人から800人に730人削減した。しかし、開講回数及び養成定員の設定がなお過大であるため、平成7年度から9年度までの入学状況をみると、廃止した1課程を除く6課程のいずれにおいても定員充足率は37パーセント以下となっており、うち2課程(養成定員160人及び240人)については入学者が皆無となっている。
i)   一方、船舶の遭難及び安全のための世界的な制度の導入等の新たなニーズに対応するため、11課程を新設しているが、開発途上国の船舶職員等を対象とした技術協力課程及び養成定員10人ないし20人程度の小規模な課程を除き、4課程が定員充足率34パーセント以下となっている。
ii)   以上のほか、開講回数及び養成定員の見直しを行っていない4課程についても、定員充足率は16パーセント以下に減少してきている。
       したがって、運輸省は、海技大学校の組織、体制の簡素・効率化を図る観点から、定員充足率の低い課程の改廃及び開講回数の削減を含め教育課程の在り方を抜本的に見直すとともに、要員の合理化を図る必要がある。
  (3)    航海訓練所
     航海訓練所は、昭和18年に設置され、商船大学、商船高等専門学校、海技大学校及び海員学校から学生及び生徒を実習生として受け入れ、船舶職員として必要な資質をかん養するとともに、船舶運航技術を総合的に体得させること等を目的として、6隻(ディーゼル船2隻、蒸気タービン船2隻、帆船2隻)の練習船を用いて航海訓練を実施している。平成4年度から海員学校生徒の乗船実習が拡充され、6年度から海技大学校学生の乗船実習が開始されている。
   平成11年3月末現在、航海訓練所には、所長以下481人(予備船員42人を含む。)が配置されており、元年度の498人から17人減少している。
   なお、航海訓練所は、平成13年4月に独立行政法人に移行することとされている。
   今回、航海訓練所の体制及び航海訓練の実施状況について調査した結果、次のような状況がみられた。
  .   航海訓練所においては、現在、授業料等の歳入はなく、平成7年度から9年度までの年間の経常的経費は約64億円であり、独立行政法人に移行すれば、一般会計からの出資金及び交付金を要することとなる。歳出全般の抑制が求められる中で、航海訓練所についても業務運営の合理化・効率化が課題である。
.   航海訓練所の訓練の中には、主として内航職員の養成を目的とする海員学校からの実習生に対し、遠洋航海による訓練を行っている例等がみられる。
   また、航海訓練所の入所定員は、商船大学等の各船員教育機関における入学定員を基に算出されており、中途退学者等による対象者の減少や商船大学及び海員学校の乗船実習科(それぞれの卒業者のうち、海技士の資格取得を希望する者を対象に乗船実習を行うもの)の在籍者数が入学定員を大幅に下回るものである実態を反映していない。このため、入所定員と実習生数とに大きな乖離を生じており、実習生数が最多の平成10年度においてさえ、練習船6隻の実習生定員の合計888人に対する充足率は60パーセントにすぎず、練習船の要員配置に非効率が生じており、練習船の配備、運用に合理化の余地がある。
.   練習船の中には、乗組員の定員と現在員に乖離が生じている例、船内での調理や食事の提供を担当する厨房部門の要員配置が乗組員数及び実習生数からみて合理性を欠く例及び3か月程度の遠洋航海の都度採用している船医の定員を計上している例がみられ、要員合理化の余地がある。
       したがって、運輸省は、航海訓練所の訓練業務の運営及び組織、体制の簡素・効率化を図る観点から、次の措置を講じ、要員の合理化を図る必要がある。
  .   訓練内容の見直しを行うとともに、入所定員を縮減し練習船の再編整理を行うこと。
.   業務量に対応した要員配置の見直しを行うこと。