[総合評価]
 国の施策と新エネルギー・産業技術総合開発機構の位置付け
   国は、2次にわたる石油危機を契機として、石油に替わるエネルギーの開発及び導入を促進するための各種施策を行うとともに、技術革新の進展に対応し、産業科学技術の総合的かつ計画的な振興を図っている。また、昭和38年度以降、石炭鉱業審議会の9次にわたる答申に基づき、石炭鉱業の合理化を推進してきている。
 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)は、このような国の政策の下、技術開発事業としての「石油代替エネルギー技術開発事業」及び「産業技術研究開発事業」を行うとともに、「石炭鉱業構造調整事業」等を行う法人と位置付けられている。
 石油代替エネルギー技術開発事業は、石油に替わるエネルギーの実用化に資することを目的として、石炭の活用を図るための技術開発、太陽光発電、風力発電などの新エネルギーに係る技術開発を中心に実施されている。当該事業については、国が具体的な技術開発テーマ及びこれに係る開発基本計画を策定しており、これに基づき、NEDOは、国庫補助金等を原資として、企業等の研究開発機関に委託して技術開発を進めている。
 本事業に係る資産規模は、研究開発資産など1,297億円となっている。
 産業技術研究開発事業は、現在、「経済構造の変革と創造のための行動計画」(平成9年5月16日閣議決定)において、今後成長が期待される産業分野とされた15分野を対象とした新規産業創出型研究開発を中心に実施されている。当該事業は、おおむね石油代替エネルギー技術開発事業と同様の方法で実施されているが、国庫補助金のほか政府出資金等も原資としている。
 本事業に係る資産規模は、研究開発資産など974億円となっている。平成10年度の貸借対照表をみると、国からNEDOに支出された出資金の累計は1,882億円となっているが、研究開発による成果が企業会計原則の下では資産として計上されないため、1,200億円が累積の欠損金として計上されるという財務上の表れ方になっている。
 また、石炭鉱業構造調整事業は、炭鉱の整理を促進することを目的として、炭鉱を廃止又は縮小した鉱業権者に対する交付金の交付を行う「国内炭鉱整備事業」、石炭企業の安定的な生産体制の確保及び経営基盤の安定を図ることを目的として、補助金等の交付及び政府出資金を原資とした融資を行う「国内炭助成事業」が実施されている。
 石炭鉱業構造調整事業に係る資産規模は、貸付金など1,477億円となっている。
 なお、国の石炭鉱業の構造調整政策は平成13年度末で終了することとされており、本事業も平成13年度をもって終了することとなる。
 石油代替エネルギー技術開発事業
(1)  石炭エネルギー関係
     NEDOでは、昭和55年度以降、3,416億円を投入し、石炭の活用を図ることを目的とした石炭の液化技術及びガス化技術の開発を進めてきている(実施テーマは8件で、うち6件が技術開発終了)。そのうち、石油に替わる燃料油の製造を目的とした石炭液化技術の開発については、平成10年度までに2,357億円を投入した結果、液化油収率(製造された液化油の量と原料として投入した石炭との重量比で表した率)を高水準にするなど、技術面での確立の見通しはおおむね立っている。しかし、商用化については、経済面での見通しが立っていない(平成11年12月の産業技術審議会による評価結果)。すなわち、原油価格が1バレル当たり12.7ドル(平成10年度平均。12年上期は1バレル当たり26.2ドル)であるのに対し、液化油の製造コストは1バレル当たり44ないし55ドル(平成9年度平均。11年12月現在は1バレル当たり39ないし48ドル)であり、現時点では、日本国内における液化油の商用化の可能性は低いものとなっている。液化技術の開発については、今後、液化油を自動車燃料用としてJIS規格に適合させる精製技術を確立し、平成13年度で終了する計画となっている。
 

(2)

 新エネルギー関係
     新エネルギーは、「長期エネルギー需給見通し」(平成10年6月総合エネルギー調査会需給部会中間報告)において、エネルギー政策の基本原則である安定供給、環境保全及び経済成長を達成する手段として最大限の導入を図るものと位置付けられている。これを受け、政府では、「石油代替エネルギーの供給目標について」(平成10年9月18日閣議決定)において、平成22年度における新エネルギーの供給目標量を定めており、通商産業省ではこれらを踏まえ、「ニューサンシャイン計画」等により新エネルギーの技術開発を推進するとともに、新エネルギーの導入促進策を推進してきている。
 一方、NEDOでは、昭和55年度以降平成10年度までに3,911億円を投入し、新エネルギーに係る技術開発を進めてきており(実施テーマは54件、うち33件が技術開発終了)、その結果、太陽光発電の発電コストを大幅に低減(平成5年度に1キロワット時当たり314円であったものを11年度には81円)させるなど、コスト低減に一定の成果がみられる。しかし、これらの発電コストを既存エネルギーの料金等と比較すると、太陽光発電のコストは家庭用電力料金の約3倍となっているなど、依然割高となっている。また、供給量の推移をみると、太陽光発電では、平成9年度は2年度の約10倍となっているなど着実に増加しているものの、当該供給量は、22年度における供給目標量の約55分の1となっているなど設定目標と相当の開きがみられる。
 また、産業技術審議会は、技術開発が終了したテーマに対して技術評価を実施しており、平成9年度及び10年度にはNEDOの新エネルギー等を評価対象とした。この評価結果では、技術的にはおおむね目標を達成したと評価されているものの、個々の技術開発テーマについて作成する開発計画において、技術開発の段階に対応したコストダウンの目標数値や目標時期などの実用化に向けての道筋が明らかにされていない旨の指摘がなされている。
 以上のことから、新エネルギーの技術開発については、供給目標量の達成に向け、開発の段階に対応した具体的目標を適切に設定する等の方策を講じた上で実施することが必要である。
 産業技術研究開発事業
   NEDOが実施する産業技術に関する研究開発には、経済社会の新たな発展に資する研究開発(新規産業創出型)、社会的使命に応じる上で必要な研究開発(社会的要請型)及び外国の研究機関等と共同して行う研究開発(国際協力型)がある。昭和63年度以降平成10年度までに3,598億円が投入され、このうち、新規産業創出型の研究開発には2,365億円、社会的要請型の研究開発には862億円が投入されている。
  (1)  新規産業創出型の研究開発
     新規産業創出型の研究開発は、技術的重要性、産業化のインパクト、新規性・独創性等を有するテーマについて実施することとされている(実施テーマは102件、うち67件が研究開発終了)。研究開発が終了したテーマについては、産業技術審議会による技術評価が実施され(平成8年度以前は実施部署による自己評価)、技術的な観点及び実用化の観点からの評価が行われている。これまでに研究開発が終了した67テーマのうち、先導的な調査研究33件を除く34件の評価結果(自己評価結果を含む。)では、おおむね研究開発の成果が高く評価され、あるいは技術的な開発目標は達成したと評価されている。しかし、研究開発の目的である新規産業創出との関係については、産業界への波及が期待されると評価された23件の中には開発終了後相当期間を経過したものもみられるが、研究開発の成果が具体的にどのように産業界に波及したかは明らかではない。
 研究開発は、多額の公的資金に依存するものであり、国民に対する説明責任が求められることから、研究開発の成果がいかに新規産業の創出に結び付いているかを明らかにしていくことが必要である。
  (2)  社会的要請型の研究開発
     社会的要請型の研究開発は、開発した技術の実用化に資することを目的として、地球環境問題に関する産業技術及び医療の用に供される機器又は福祉用具の開発について実施されている。
 地球環境産業技術開発は、省エネルギーの推進又は石油代替エネルギーの利用に資するもので、技術の実用化の見通しや経済性の見通しが明確になっているものなどについて実施することとされている(実施テーマは40件、うち18件が研究開発終了)。研究開発が終了したテーマのうち、実用化されたものは11件(61パーセント)、開発を継続中のものは4件となっており、残り3件については実用化の見通しは立っていない。
 一方、医療福祉機器開発は、医療又は福祉水準の向上に資するもので、開発終了後数年以内に実用化が可能なものなどについて実施することとされている(実施テーマは37件、うち27件が研究開発終了)。研究開発が終了したテーマのうち、実用化されたものは7件(26パーセント)、民間企業においてコスト面での実用化に向けた開発が行われているものは11件(41パーセント)となっており、残り9件については、コスト低減が困難である等の理由により実用化の見通しは立っていない。
 石炭鉱業構造調整事業

(1)

 石炭政策の推移等
     石炭政策は、昭和37年における原油の輸入自由化を契機とした炭鉱集約化政策(昭和40年代)から、48年の第一次石油危機を契機とした生産維持政策(同50年代)へと推移し、61年以降は、円高による石炭の内外価格差の拡大及び内需拡大等による石油需要の増加を背景として、平成13年度の石炭政策の終了に向け、生産規模縮小政策へと移行してきている。
  (2)  事業の実施状況とその効果
     炭鉱整備事業及び助成事業
       昭和37年度に炭鉱集約化政策の下、NEDOに石炭鉱山整理促進交付金(いわゆる閉山交付金)制度が創設され、40年代には炭鉱の整理が促進されてきた。同交付金は、昭和49年度までに1,396億円(平成10年度までの累計交付額1,922億円の73パーセント)が交付され、その結果、炭鉱数は大幅に減少し(昭和40年度の287が50年度は39)、49年度までの石炭鉱山整理促進交付金の対象となった石炭生産量(閉山生産量)も5,800万トン(平成10年度までの同交付金の対象となった石炭生産量の85パーセント)に達している。
 また、石油危機を契機とした炭鉱集約化政策から生産維持政策への移行の下、昭和48年度に石炭鉱業安定補給交付金制度(出炭量に応じ交付金を交付)等がNEDOに創設され、61年度までに2,453億円(平成10年度までの累計交付額3,445億円の71パーセント)が交付された結果、50年代には国内炭生産量の減少傾向に歯止めがかかり、一定の生産量が確保された。
     貸付事業
       NEDOでは、国内炭助成事業の一環として、政府出資金(平成10年度までの累計額は1,378億円)を原資とした貸付業務を行ってきており、平成10年度までに1兆8,250億円を貸し付けているが、損失はほとんど発生していない。平成10年度末における貸付残高は1,011億円となっている。
 貸付事業のうち、石炭坑の近代化等に必要な資金の貸付けは昭和35年度から行われており、その結果、生産能率では、常用実働従業者1人当たりの月間産出量が昭和35年度の18トンから平成9年度には215トンと大幅に向上してきている。
 また、昭和61年度以降の生産規模縮小政策の下で、NEDOは石炭鉱業構造調整臨時措置法(昭和30年法律第156号)に基づき、平成4年度から石炭会社等に対し新たな事業分野の開拓に必要な資金の貸付けを行っており(貸付総額181億円)、その結果、新分野開拓事業による雇用実績は1,387人(平成4年度から10年度までの累計。うち、炭鉱離職者数は275人)となっている。
 一方、石炭産業の衰退とともに貸付けを受けた炭鉱の閉山も相次ぎ、これに伴い延滞債権が発生してきている。平成10年度末における延滞債権は334億円であるが、これらはすべて閉山炭鉱(6炭鉱)に対する債権(会計処理上、回収が困難なものとして破綻先債権として整理される。)である。このほか、閉山炭鉱に対する債権として、貸出条件緩和債権(元本返済を猶予するもの)が326億円あり、いわゆるリスク管理債権は、660億円(延滞債権と貸出条件緩和債権の合計)と貸付残高の65パーセントに達している。ちなみに、リスク管理債権に対する平成10年度の償却引当金は77億円となっている。