[総合評価]
1 日本私立学校振興・共済事業団の位置付け
   日本私立学校振興・共済事業団(以下「私学事業団」という。)は、私立学校教育の振興に関する業務を実施する日本私学振興財団(以下「私学財団」という。)と、私立学校教職員共済制度を運営する私立学校教職員共済組合(以下「私学共済」という。)が平成10年1月1日に統合され、新たに設立されたものである。
 このような設立の経緯から明らかなように、私学事業団の業務は、大きく助成業務(旧私学財団の業務)と共済業務(旧私学共済の業務)に分けられる。助成業務は、学校法人等に対する施設整備資金等の貸付事業、私立大学等に対する補助金の交付事業などを内容としており、また、共済業務は、共済制度加入者である私立学校教職員が退職した場合等に年金等を給付する長期給付事業、共済制度加入者等が病気にかかった場合等に医療給付等を行う短期給付事業、共済制度加入者の福利厚生のための宿泊事業などを内容としている。
2 貸付事業
   学校法人等に対する貸付事業(貸付期間は最長25年、貸付利率は固定)は、財政投融資資金を主体とする有利子負債のほか、無利子の政府出資金(平成8年度末現在の累計額475億円)を貸付財源としており、貸付残高は平成8年度末現在で7,188億円に上っている。政府出資金が投入されていることによる貸付財源の調達コストの低減効果(有利子負債及び政府出資金により貸付財源を調達した場合の利回りと、貸付財源をすべ有利子負債のみにより調達した場合の利回りの差)は、平成8年度において0.35パーセントと見込まれる。
 このように政府出資金の投入により貸付財源の調達コストが低減される一方、貸付利率は財政投融資資金の借入利率と同率又はこれを上回る利率とされていることから、貸付事業の利ざやは順ざやとなっており、利息収支差はプラスで推移(昭和62年度で14億円、平成8年度で24億円)している。私学事業団では、この利息収支差と手元資金の運用益により、助成業務全体に係る一般管理費及び私立学校教職員の研修等に対する助成事業費を賄っている。
 ちなみに、累次の閣議決定(昭和59年1月25日、59年12月29日、60年12月28日)により、国から私学事業団への新たな出資は抑制することとされている。これを受けて、出資額は、昭和59年度以降、基本的には2.5億円から5億円の範囲に抑制されてきている。
 一方、近年の市中金利の低下に伴い、貸付先の学校法人等からの繰上償還の申出が増加している。これによる貸付金利息の減少を抑制するため、私学事業団は、繰上償還を申出額の2割程度に抑えている。
 なお、一定の損害金の支払を条件に財政投融資資金の繰上償還を認める制度改正が行われたことを受けて、私学事業団は、平成10年10月から、繰上償還の際に貸付先から補償金を徴収する制度を導入した。これにより、制度導入後の貸付けについては、貸付期間が長期であり、かつ固定金利であることに伴う金利リスクを私学事業団が一方的に引き受ける構造の解消が図られた。
 このように貸付事業は、適切に収益の確保が図られ、これにより助成業務の一般管理費等の費用が賄われ、また、政府出資金の抑制も図られていることから、現状では、健全な運営状況であると認められる。
3 長期給付事業
   長期給付事業は、掛金(共済制度加入者と学校法人等とが折半して負担)のほか、国庫補助金、基礎年金交付金等を財源として実施されている。この事業においては、おおむね5年ごとに、予定利率(従来5.5パーセントで固定。他の被用者年金制度と同率)等を基礎として財政再計算が行われており、その結果を受け、掛金率の見直しが行われている。このような枠組みの下で、私学事業団が将来の給付に備えて積み立てておくべき責任準備金も積算されており、会計上、保有資産がこの責任準備金の額を上回った場合には利益剰余を計上し、逆に、下回った場合には欠損を計上する仕組みとなっている。
 長期給付事業の財務状況をみると、平成元年度の財政再計算後は保有資産が責任準備金を上回り利益剰余が生じていたが、6年度の財政再計算後は責任準備金に対する保有資産の積立て不足が生じており、これが累積欠損(平成8年度末現在で712億円)となって表れている。このような積立て不足が生じたのは、保有資産の運用利回りが低下(平成4年度の5.69パーセントが8年度には4.03パーセント)し、予定利率を下回るようになったことが主な要因である。
 なお、財政再計算時までに発生している累積損益は、財政再計算により解消されるが、その際、利益剰余が生じている場合には、掛金率をその分引き下げる要因として働き、共済制度加入者の負担が軽減されることとなる。逆に、欠損が生じている場合には、掛金率をその分引き上げる要因として働き、共済制度加入者の負担の増加につながることとなる。
 したがって、今後の事業運営に当たっては、適切な予定利率の下、資産運用の一層の効率化を図っていくことが課題である。
4 宿泊事業
   私学事業団では、共済制度加入者等に対する福祉事業の一環として、会館(8か所)、宿泊所(8か所)及び保養所(8か所)を設置・運営している。
 これら施設の運営経費は、施設利用収入(宿泊経理)及び保健経理からの繰入金(福祉事業に充当するための掛金の一部)により賄われている。宿泊事業の収支状況をみると、収支は悪化する傾向にあり、累積欠損も拡大している(平成4年度に45億円であったものが、8年度には94億円)。
 保健経理からの繰入金を除く収益(営業収益)と営業費用との関係を基に、これら施設の経営指標を民間のホテルのそれと比較してみると、客室利用率は民間より高めで推移しているものの、収支率(営業収益に対する営業費用の割合)は総じて民間より悪くなっている。経費別にみると、営業収益に対する人件費率や減価償却費率が民間より高めで推移している。
 したがって、宿泊事業の収支の改善のためには、施設の改修費や人件費の抑制を図ることが課題である。