〔総合評価〕 | ||||||||
1 森林開発公団の位置付け | ||||||||
国は、民有林の整備を進めるため、地方公共団体等が実施する事業に対する補助を行うほか、森林開発公団(以下「森林公団」という。)を通じ事業を実施している。 森林公団は、奥地森林地域の整備を目的とする林道を開設する法人として昭和31年に設立され、これまで特定森林地域開発林道事業(いわゆるスーパー林道)等の事業を実施してきており、現在は、48年から着手した「大規模林道事業」を実施している。また、昭和36年からは、公有林野等官行造林事業により実施されていた「水源林造成事業」を引き継いで実施している。
水源林造成事業は、水源をかん養するため急速かつ計画的に森林の造成を行う必要のある保安林及び保安林予定地内のうち、無立木地、散生地、粗悪林相地等となっている民有林を対象に実施されている。事業の実施に際しては、農林水産大臣が事業対象地域を指定し、森林公団が造林費負担者として、事業対象地域内の造林地所有者及び造林者と分収造林契約を締結することとされている。現在の造林目標面積は51万ヘクタールであるが、平成8年度末までに約40万ヘクタールの新植が完了しており、進ちょく率は78.2パーセントとなっている。 |
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2 大規模林道事業 | ||||||||
(1) | 事業資金と財務の構造 | |||||||
大規模林道事業の資金には国庫補助金が充てられるほか、関係道県及び受益者の負担に相当する分について、財政投融資資金からの借入金(有利子負債)により森林公団が資金を調達している。 借入金は、森林公団が償還財源を関係道県及び受益者から、それぞれ負担金、賦課金(以下「負担金等」という。)として徴収し、財政投融資資金に返済する仕組みとなっている。また、借入金償還と負担金等徴収との間にある元利の償還方式や償還期間の違いにより、徴収した負担金等の一部が森林公団に滞留する結果となり、その滞留資金の運用益も償還財源に見込まれている。 負担金等を徴収する際の金利は、農林水産大臣が財政投融資資金からの借入金利率を基に設定することとされており、これまで借入金利と同率に定められてきた。これは、滞留資金を徴収金利と同水準で運用すれば、最終的に収支の均衡が確保されることを意味している。しかし、実際の運用は、その時々の金利変動の影響を受けることから、損益が発生し、平成8年度においては、近年の金利低下の影響により2億円の当期損失が発生している。この当期損失については、現在のところ剰余金が充当されているが、最終的に損失が発生しないよう検討が必要である。 なお、負担金等の徴収状況をみると、森林公団が作成した徴収計画どおりに負担金等は徴収されており、これまで滞納はみられない。借入金償還の状況を資金収支でみると、各年度の借入金償還額(支出)と負担金等徴収額(収入)は一致せず、毎年度まちまちになっているが、これは上記の償還と徴収との間の方式の違いによるものであり、現在まで、借入金は負担金等により順調に償還されていることから、現状の大規模林道事業のキャッシュフローは健全であると認められる。 |
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(2) | 事業効果 | |||||||
大規模林道事業は、多額の国庫補助金により実施する公共事業の一つ(平成8年度の事業費総額247億円。うち国庫補助金196億円)として、費用対効果の観点から、その事業効果を明らかにすることが重要である。この点について、大規模林道事業の実施計画においては、「開発による効果(林道開設後15年間の受益地の年平均伐採量)」という木材生産上の効果と、「その他の効果」である他産業・地域の振興等の効果が示されている。 このうち、伐採量で示されている木材生産上の効果を平成8年度の山元立木価格(山に立っている樹木の利用材積売渡価格)により金額換算すると、完成路線の「東津野・城川線」では65億円と見込まれる。これに対し、平成8年度末現在の投入事業費累計は247億円(うち受益者負担累計14億円)であるが、その他の効果として示されている他産業・地域の振興等の効果については、その内容が具体的に明らかにされていないため、全体として投入事業費に対してどの程度の事業効果が見込まれるか検証できる状況にない(注)。また、事業効果については、環境へ与える影響や環境保全に要するコストについても分析する必要がある。
なお、大規模林道事業が開始された昭和48年当時から現在に至る間に、森林施業の方向が人工林の造成を主としたものから多様な森林整備を目指す方向へ変化してきており、また、環境面への配慮として環境アセスメントの導入や環境保全工法への転換を図ることが求められるようになってきている(「特殊法人の整理合理化について」(平成7年2月24日閣議決定))など、大規模林道事業を取り巻く状況には変化がみられる。 このような状況の中、大規模林道事業の今後の事業展開に当たっては、自然環境保護への意識の高まりや森林施業をめぐる情勢の変化を踏まえるとともに、費用対効果の観点から事業効果を総合的に明らかにしていくことが課題となっている。 |
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3 水源林造成事業 | ||||||||
(1) | 事業資金と財務の構造 | |||||||
水源林造成事業は、分収造林契約に基づき、事業費の全額を森林公団が調達することとなっており、政府出資金(事業費の3分の2)と財政投融資資金からの借入金(事業費の3分の1)が充てられている。このうち借入金については、植栽した造林木の伐採により得られる造林木販売収入を分収造林契約の相手方(造林地所有者、造林者)と森林公団で分収し、森林公団の収入分(販売収入総額の50パーセント)を財政投融資資金の借入金償還に充てる仕組みとなっている(注)。しかし、造林木の主伐時期はおおむね植栽後50年目以降であるため、平成8年度末現在において主伐を行った水源林はなく、借入金を償還する資金を得るには至っていない。このため、借入金の元金償還及び利払いには政府出資金と借入金が充てられており、借入金要償還額は抑制されている。 なお、平成8年度末現在の森林公団分の造林資産は3,300億円と試算される一方、借入金要償還額は2,013億円であることから、現状においても借入金に見合う資産は形成されているとみることができる。
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(2) | 事業の現状と課題 | |||||||
水源林造成事業は、民有林の保安林及び保安林予定地内において、水源をかん養するため急速かつ計画的に森林の造成を行うことを目的としており、平成8年度末までに約40万ヘクタールの水源林の造成が実施されている。森林公団の試算によれば、これにより、年間約28億トンの貯水効果(東京都の上水道使用量(平成8年度15億立法メートル)に換算して約2年分に相当)があるとされていることから、水源林造成についての一定の事業効果は認められる。 公団造林は保安林であることから、この効果は、今後、主伐期を迎えて伐採が進められることになっても、分収造林契約の一方の当事者である造林地所有者に対し、森林法(昭和26年法律第249号)第34条の3に基づき発生する伐採跡地への植栽義務により維持されていくものである。その再植栽の資金には、分収造林契約に基づき造林地所有者に分収される造林木販売収入(販売収入総額の50パーセント又は40パーセント)を充てることが見込まれている。 一方、林業の現状をみると、すぎ、ひのき等の国産材のシェアが低下し、国産材の価格が低下傾向にあることにより、造林木販売収入が低下してきている一方で、造林費の主要な構成要素である労務費は経年的に上昇傾向にある。このため、平成8年度における造林木販売収入と造林費(注)を比較すると、造林費は造林木販売収入の102パーセント(試算)となっており、現状では、造林費が造林木販売収入を上回っている状況となっている。 なお、造林費については、国庫補助(補助率10分の3。保安林等に対しては、事業費補正を行い、実質40パーセントから50パーセント程度に相当)のほか、都道府県補助(補助率10分の1。保安林等に対しては、国に準じて事業費補正を行い、実質14パーセントから17パーセント程度に相当)等の助成制度が設けられており、造林費の実質的な負担は相当程度軽減される状況にある。
造林費は今後とも上昇が見込まれるのに対し、造林費を賄うための収入が、木材価格や木材需給の動向等に左右されるものであることから、水源林の造成という政策目的に沿って本事業を安定的に展開していくためには、費用対収入のバランスが適切に維持されていくことが課題となる。 |