総評相第40号
平成13年4月17日
法務省民事局長 殿
総務省行政評価局長
マンション管理組合の法人格取得要件の緩和(あっせん)
当省では、総務省設置法(平成11年法律第91号)第4条第21号に基づき、行政機関等の業務に関する苦情の申出につき必要なあっせんを行っています。
この度、当省に対し、「私は、17人で区分所有するマンションに住んでおり、現在、管理組合の理事長となっている。管理組合は、建物の区分所有等に関する法律において、マンション等の区分所有建物を区分所有者が全員で共同して管理する団体として位置付けられている。しかし、法律では法人格を取得できる管理組合は区分所有者が30人以上とされており、当組合は法人格を取得することができない。このため、(1)マンションの修繕費積立金(今後、建て替えの積立ても必要)を管理する銀行預金の口座名義は、理事長の個人名を記載した「○○管理組合理事長○○○○」とせざるを得ず、理事長が交代の都度名義の書換えを行う必要が生じること、(2)管理組合の事務所は、財産管理の便宜を考えると管理組合の所有名義とすることが望ましいが、法人格がないことから、管理組合名義で登記することができないこと、(3)管理組合の事務所にNTTの加入電話を設置しているが、法人格のない当組合名義で契約する場合、組織及び運営形態が明確かつ健全なものであること等を証明するため、定款・議事録等の提出を求められるほか、加入電話の譲渡の制限を受けることなどの不都合がある。区分所有者が30人未満の管理組合であっても、積立金や共用部分等の管理を行わなければならないことは、30人以上の管理組合と何ら変わらないので、当組合でも法人格の取得ができるようにしてほしい。」との申出がありました。
この申出について、総務大臣が開催する行政苦情救済推進会議において意見を聴取するなどにより検討した結果、下記のとおり、区分所有者が30人以上の管理組合と限定されている現行の法人格取得要件について緩和の方向で見直す必要があると考えられますので、御検討ください。
なお、これに対する貴省の検討結果等について平成13年12月25日までにお知らせください。
記
建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)は、マンションなど個々に独立した専有部分の数が多くかつ階層区分型の区分所有建物の増加に対処するため、多数の区分所有者が、共同の財産である区分所有建物やその敷地を円滑に管理できるよう、その相互間の法律関係を合理的に規律することを目的として昭和37年に制定されたものである。
その後、管理に関する規約の設定・変更や老朽化した建物の建て替えについて区分所有者全員の一致が必要とされていることが建物等の管理を適切かつ円滑に行う上で支障となっているなどの問題が生じてきたことから、昭和58年に区分所有法が改正された。この法律改正により、いわゆる管理組合について、(1)「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」(第3条)こととされ、団体の意思決定については多数決を原則とする、(2)区分所有者が30人以上の管理組合は、法人格を取得し、管理組合法人となることができる(第47条)等の規定が整備されている。
この法律改正において、管理組合の法人格取得要件を区分所有者が30人以上の管理組合と限定した理由は、小規模の管理組合にあっては、(1)管理組合法人として理事及び監事を置かなくても管理組合として必要な意思決定が容易にできるなど妥当な運営が期待できること、(2)法人としての法定の厳格な規制や手続を遵守できるかどうか疑わしいこと、(3)法人格を取得した場合、代表者の変更の都度登記をする必要があるなど登記手続の負担を看過できないこと等の点を考慮したものとされている。
しかしながら、法人格を取得すれば各種の契約など対外的な取引行為において法律関係が簡明になるというメリットがあり、現時点において法人格を取得したいとする区分所有者が30人未満の小規模の管理組合が現実にあることを踏まえた場合、(1)法人格を取得しなくても必要な意思決定が容易にできる、(2)罰則が設けられている法定の規制・手続については、これを遵守できるかどうか疑わしい、(3)法人格を取得した場合の負担を看過できないといった点を考慮して法人格取得要件を区分所有者30人以上の管理組合と限定しておく必要性は小さいものと考えられ、これらの点については、法人格の取得を希望する管理組合の判断・選択にゆだねることで足りるものと考えられる。
また、法務省は、社員に共通する利益を図ることを目的とし、かつ、剰余金を社員に分配することを目的としない社団について、法人格を付与する道を開く中間法人法案を平成13年3月に第 151回国会(常会)に提出しており、その中で、中間法人については、社員の人数は2人以上であればよいこととされ、定款の作成等を行った上で登記を行えば、法人格が付与されることとされている。管理組合は、区分所有者に共通する利益を目的とし、かつ、営利を目的としない社団という点で、中間法人と類似の性格を有するものと考えられ、管理組合について法人格取得要件を区分所有者が30人以上と限定しておく理由は乏しいものと考えられる。
なお、区分所有法の対象となる分譲マンションが増加し、これらについての適切な管理の促進等が求められる状況の下、関係者の合意形成が非常に難しい大規模な修繕等の問題を解決していくためには、管理組合の主体的な活動を促進していくことが重要な課題の一つとされている。区分所有者が30人未満の小規模の管理組合にも法人格の取得を希望するものがあることを踏まえると、このような希望を有する管理組合に対して、法人格という法律上の位置付けを与えることは、主体的に活動できる管理組合の育成に資するものと考えられる。
したがって、法務省は、区分所有者が30人以上の管理組合と限定されている現行の法人格取得要件について緩和の方向で見直す必要がある。