総評相第41号
平成13年4月17日
厚生労働省保険局長 殿
厚生労働省労働基準局長 殿
総務省行政評価局長
通勤災害に関し誤って健康保険が適用された場合の給付費返還方法の見直し(あっせん)
当省では、総務省設置法(平成11年法律第91号)第4条第21号に基づき、行政機関等の業務に関する苦情の申出につき必要なあっせんを行っています。
この度、当省に対し、「私は、通勤途上で自動車による自損事故を起こし、けがをして健康保険により病院で治療を受けた。その後、社会保険事務所から、通勤災害については労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)が適用されるとして、健康保険による療養の給付費(約2万 4,000円)を返還するよう通知があった。労災保険が適用されるところを健康保険で治療を受けたことについては、私にも事故の説明に際し不十分な点があったかもしれないが、本来、事故の状況を確認し、どちらの保険を適用するかを判断するのは制度について詳しい病院の方ではないかと考えられる。そもそも健康保険から金銭的な給付を受けたわけでもないのに現金での返還を求められるのは納得できない。返還に応じたことにより、労災と認定され労災保険の給付を受けるまでの間、事実上、私が医療費を立て替える形となったので、このような取扱いを改善してほしい。」との申出がありました。
この申出について、総務大臣が開催する行政苦情救済推進会議において意見を聴取するなどにより検討した結果、下記のとおり、(1)通勤災害に関し誤って健康保険による療養の給付が行われたときの被保険者及び労災指定病院等でもある保険医療機関等の負担の軽重を勘案し合理的な給付費返還の事務処理が行われるよう、健康保険の保険者に対し、労災指定病院等でもある保険医療機関等に協力を要請し、次回の診療報酬支払時に過誤調整による措置を講ずることなどについて指導を行うこと及び(2)過誤調整による措置を効果的なものとするために、社会保険事務所と労働基準監督署の間等の連携を深めるとともに、労災指定病院等でもある保険医療機関等において健康保険の保険者からの協力要請が円滑に受け入れられるよう必要な措置を講ずることが必要であると考えられますので御検討ください。
なお、これに対する貴省の検討結果等について平成13年7月31日までにお知らせください。
記
健康保険の被保険者が交通事故で負傷し保険医療機関等において公的保険の適用を受ける場合、通勤災害に該当するときには、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第22条第1項に基づき、事業主の証明を付して、労災指定病院等において労災保険による療養の給付(被保険者の自己負担なし)を請求し、通勤災害に該当しないときには、健康保険法(大正11年法律第70号)第43条第3項に基づき、健康保険による療養の給付(被保険者の自己負担2割)を請求することとされている。
このため、交通事故で負傷した健康保険の被保険者は、労災保険又は健康保険のどちらが適用されるかを判断した上で療養の給付を保険医療機関等に対し請求することとなるが、労災保険の対象となる通勤災害に該当する「通勤」の範囲については、往復の経路を逸脱し、又は往復を中断した場合には、日用品の購入等の日常生活上必要な行為であってやむを得ない事由による最小限のものを除き、逸脱又は中断の間及びその後の往復は「通勤」ではないとされるなど、通勤災害に該当するか否かの判断を行うことは容易でなく、誤った請求を行う可能性は十分認められる。その一方で、現在、通勤災害に関し誤って健康保険が適用された場合には、厚生省保険局保険課長及び社会保険庁医療保険部健康保険課長の連名通知「通勤災害の取扱いについて」(昭和49年11月6日付け保険発第 127号・庁保険発第24号)により、健康保険の請求を行った被保険者に対し直接、保険給付費の返還請求を行うこととされているところである。
しかし、療養の給付を行った保険医療機関等が労災指定病院等でもある場合には、通勤災害に該当するか否かの最終的な判断を行う者ではないものの、通勤災害は健康保険の給付対象にならないことを熟知していること、また、被保険者が結果として誤った請求を行ったとしてもそれが重大な過失に基づくものと言えるとは必ずしも考えられないことから、被保険者にとって予期せぬ大きな負担が生じかねない現在の給付費返還方法の取扱いについては、被保険者及び労災指定病院等でもある保険医療機関等の負担の軽重を勘案し合理的な取扱いを行うことができるように再考することが必要であると考えられる。
したがって、厚生労働省は、通勤災害に関し誤って健康保険が適用された場合の取扱いについて、被保険者及び労災指定病院等でもある保険医療機関等の負担の軽重を勘案し、合理的な給付費返還のための事務処理が行われるよう、健康保険の保険者に対し、労災指定病院等でもある保険医療機関等に協力を要請し、次回の診療報酬支払時に過誤調整による措置を講ずることなどについて指導を行う必要がある。
また、過誤調整による措置を効果的なものとするために、社会保険事務所と労働基準監督署の間等の連携を深めるとともに、労災指定病院等でもある保険医療機関等において健康保険の保険者からの協力要請が円滑に受け入れられるよう必要な措置を講ずる必要がある。