平成13年4月16日
総務省

マンション管理組合の法人格取得要件の緩和(概要)
《行政苦情救済推進会議の検討結果を踏まえたあっせん》


総務省行政評価局は、次の行政相談を受け、行政苦情救済推進会議(座長:味村治)に諮り、その意見(別添要旨参照)を踏まえて、平成13年4月17日、法務省に対し、改善を図るようあっせん。
行政相談の申出要旨は、「私は、17人で区分所有するマンションに住んでおり、現在、管理組合の理事長となっている。管理組合は、建物の区分所有等に関する法律において、マンション等の区分所有建物を区分所有者が全員で共同して管理する団体として位置付けられている。しかし、法律では法人格を取得できる管理組合は区分所有者が30人以上とされており、当組合は法人格を取得することができない。このため、1.マンションの修繕費積立金を管理する銀行預金の口座名義は、理事長の個人名を記載した「○○管理組合理事長○○○○」とせざるを得ず、理事長が交代の都度名義の書換えを行う必要が生じること、2.管理組合の事務所は、財産管理の便宜を考えると管理組合の所有名義とすることが望ましいが、法人格がないことから、管理組合名義で登記することができないことなどの不都合がある。区分所有者が30人未満の管理組合であっても、積立金や共用部分等の管理を行わなければならないことは、30人以上の管理組合と何ら変わらないので、当組合でも法人格の取得ができるようにしてほしい。」というもの。
当省のあっせん内容は、以下の理由から、区分所有者が30人以上の管理組合と限定されている現行の法人格取得要件について緩和の方向で見直しを求めるもの。
1)  法人格を取得すれば各種の契約など対外的な取引行為において法律関係が簡明になるというメリットがあり、現時点において法人格を取得したいとする区分所有者が30人未満の小規模の管理組合(以下「小規模管理組合」という。)が現実にあることを踏まえた場合、小規模管理組合については、1.必要な意思決定が容易にできる、2.法定の規制・手続を遵守できるかどうか疑わしい、3.法人格を取得した場合の負担を看過できないといった点を考慮し、法人格取得要件を区分所有者が30人以上の管理組合と限定しておく必要性は小さいものと考えられ、これらの点については、法人格の取得を希望する管理組合の判断・選択にゆだねることで足りるものと考えられる。
2)  平成13年3月に第 151回国会(常会)に提出された中間法人法案では、社員に共通する利益を図ることを目的とする中間法人について、社員の人数は2人以上であればよいとされている。管理組合は、中間法人と類似の性格を有するものと考えられ、管理組合について法人格取得要件を区分所有者数30人以上と限定しておく理由は乏しいものと考えられる。
3)  小規模管理組合のうち法人格の取得を希望する管理組合に対して、法人格という法律上の位置付けを与えることは、主体的に活動できる管理組合の育成に資するものと考えられる。





  
資  料


  1.    建物の区分所有等に関する法律の目的等
       建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)は、マンションなど個々に独立した専有部分の数が多くかつ階層区分型の区分所有建物の増加に対処するため、多数の区分所有者が、共同の財産である区分所有建物やその敷地を円滑に管理できるよう、その相互間の法律関係を合理的に規律することを目的として昭和37年に制定されている。
       その後、建物等の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項について定めた規約を設定・変更するときには区分所有者の全員の書面による合意が必要とされ、また、老朽化した建物の建て替えには全員の一致が必要とされていたことが、建物等の管理を適切かつ円滑に行う上で支障となっているなどの問題が生じてきた。このため、昭和58年に、区分所有者全員が建物等の管理を行うための団体を構成することとし、その団体の意思決定については多数決を原則とするなどの法律改正が行われた。

  2.    管理組合の制度
       管理組合については、区分所有法において、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」(第3条)と規定されている(本件管理組合もこの団体に該当)。しかし、管理組合が、登記をすることによって法人格を取得し、管理組合法人となるためには、区分所有者が30人以上必要(第47条)と規定されていることから、区分所有者が17人である本件管理組合は法人格を取得することができない(第3条及び第47条は昭和58年の法律改正により新設。昭和59年1月1日施行)。
    (注)法務省(民事局参事官室)は、区分所有法第3条の「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し」の規定は、設立行為等を待たないで、区分所有者が当然に団体を構成すると法定しているものであり、株式会社等の社団と比べ著しく異なる仕組みであるとしている。
       管理組合の意思決定等の組織については、区分所有法において、区分所有者全員からなる集会のほかに、1.法人格を取得しない場合は、集会の決議によって選任される管理者(区分所有者の代理)を置くことができるとされているのに対し、2.法人格を取得し、管理組合法人となった場合は、集会の決議によって選任される理事及び監事(管理組合法人の代表)を置かなければならないこととされている。
       このような管理組合法人制度について、法務省は制度創設時の事情を次のように説明している。
    1)  管理組合法人制度は、管理組合の活動を容易にするため、これに法人格取得の道を開くべきであるとする管理の実務に携わる関係者等からの要請にこたえて昭和58年に創設されたものである。
    2)  法人格取得の具体的メリットとしては、管理組合は、区分所有者から集めた管理費や修繕積立金等の資産を管理し、管理委託契約、エレベーターの保守契約、修繕・補修請負契約など対外的な取引行為を行うことが多いが、法人格を取得することにより、1.これらの法律関係が簡明になること、2.法人登記制度により、団体の存在や代表者を対外的に容易に証明することができることが挙げられる。
    3)  しかし、小規模の管理組合にあっては、1.管理組合法人として理事及び監事を置かなくても管理組合として必要な意思決定が容易にできるなど妥当な運営が期待できること、2.法人としての法定の厳格な規制や手続を遵守できるかどうか疑わしいこと、3.法人格を取得した場合、代表者の変更の都度登記をする必要があるなど登記手続の負担を看過できないこと等から、法人格を取得できる管理組合を一定規模以上のものに限定したものである。
  3.    管理組合の数等
       国土交通省の推計によると、区分所有法の対象となる全国の中高層(3階建て以上)分譲マンションは、平成7年度の約 290万戸から11年度の約 370万戸に増加している。これらマンションの管理組合の数については、正確な統計データはないが、全国に5万ないし6万組合あるといわれている。

  4.    マンション管理に関する最近の動き等
    1)  国土交通省は、主に分譲マンションの適切な管理の促進、建て替えの円滑化等を念頭に置いた管理組合に対する官民による支援の在り方について、平成11年10月以降マンション管理フォーラムを開催するなどにより、管理組合や管理受託業者の団体、管理組合からの相談に応じている弁護士等から意見を聴取し、対応策を検討している。
       この中において、大規模な修繕や建て替えなどについて関係者の合意形成が非常に難しいといった問題を解決するためには、管理組合の主体的な活動を促進していくことが重要な課題の一つであると指摘されている。
    2)  日本弁護士連合会は、平成12年6月16日、区分所有法の改正に関する意見書を取りまとめ、その中で、管理組合の法人化要件について、次の理由から、区分所有法第47条の法人化の要件のうち区分所有者の数(30人以上)の要件は撤廃する必要があるとしている。
    1. 管理組合の法人化は、区分所有者が建物等の管理のために共同して第三者との間で契約等の取引をする場合に団体に法人格を認めることによって権利義務の帰属主体が明確になることや団体の財産と個人財産との区別が明確になることに意味があるとされている。
    2. 30人という要件を課したのは、区分所有者の数が少ない団体については法人格のメリットがないか、非常に少ないということや法務局の事務処理能力も懸念されたとのことであるが、法人格の必要性はマンションの規模と関係なく、また、法人格の取得について立法者が法務局の事務処理能力を懸念するほど多数の登記申請がなされているわけではない。
    3. 我が国のマンションは、その規模の大小を問わず、管理組合団体が組織され、団体として運営がなされている実情にある。
    3)  法務省は、法制審議会における議論を踏まえ、社員に共通する利益を図ることを目的とし、かつ、剰余金を社員に分配することを目的としない社団について、法人格を付与する道を開く中間法人法案を平成13年3月に第 151回国会(常会)に提出している。
       この法律案では、中間法人については、社員の人数は2人以上であればよいこととされ、定款の作成等を行った上で登記を行えば、法人格が付与されることとされている。




参  考


行政苦情救済推進会議における意見要旨

法人格を希望するかどうかは、個々の管理組合によって異なると考えられるが、行政としては、基本的には、門戸を広げる方向で考えるべきである。
法人格の取得要件を制限した実際上の理由は、登記事務処理能力を考慮したためではないかとも考えられるが、今日では、このような理由で国民に対する制約を設けることは難しくなってきている。また、これ以外に挙げられている理由だけでは、制約を設けていることを合理的に説明することは難しいのではないか。
管理組合法人制度が創設された昭和58年当時と比べ、一般世帯用のマンションの1戸当たり床面積は相当に拡大しており、このため1棟のマンションの戸数は減少しているのではないか。地域的な特性があるかもしれないが、最近建築されるマンションは1戸当たりの面積が広く30戸弱のものが多いように思う。このようなことも、本件のような苦情が生じた背景にあるのではないかと考える。


《行政苦情救済推進会議》
   総務省に申し出られた行政相談事案の処理に民間有識者の意見を反映させるための総務大臣の懇談会(昭和62年12月発足)
   会議の現在のメンバーは、次のとおり。
座長 味村  治
大森  彌
加賀美幸子
加藤 陸美
塩野  宏
田村 新次
堀田  力
元内閣法制局長官、元最高裁判所判事
千葉大学法経済学部教授
千葉市女性センター館長
(財)健康・体力づくり事業財団理事長
東亜大学大学院総合学術研究科教授
中日新聞社論説顧問
さわやか福祉財団理事長、弁護士