平成14月16日
総務省   


通勤災害に関し誤って健康保険が適用された場合の給付費返還方法の見直し(概要)
《行政苦情救済推進会議の検討結果を踏まえたあっせん》


総務省行政評価局は、次の行政相談を受け、行政苦情救済推進会議(座長:味村 治)に諮り、その意見(別添要旨参照)を踏まえて、平成13年4月17日、厚生労働省に対し、改善を図るようあっせん。
行政相談の申出要旨は、「私は、通勤途上で自動車による自損事故を起こし、けがをして健康保険により病院で治療を受けた。その後、社会保険事務所から、通勤災害については労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)が適用されるとして、健康保険による療養の給付費(約2万 4,000円)を返還するよう通知があった。労災保険が適用されるところを健康保険で治療を受けたことについては、私にも事故の説明に際し不十分な点があったかもしれないが、本来、事故の状況を確認し、どちらの保険を適用するかを判断するのは制度について詳しい病院の方ではないかと考えられる。そもそも健康保険から金銭的な給付を受けたわけでもないのに現金での返還を求められるのは納得できない。返還に応じたことにより、労災と認定され労災保険の給付を受けるまでの間、事実上、私が医療費を立て替える形となったので、このような取扱いを改善してほしい。」というもの
当省のあっせん内容は、1.通勤災害に関し誤って健康保険による療養の給付が行われたときの被保険者及び労災指定病院等でもある保険医療機関等の負担の軽重を勘案し合理的な給付費返還の事務処理を行う観点から、健康保険の保険者に対し、労災指定病院等でもある保険医療機関等に協力を要請し次回の診療報酬支払時に過誤調整による措置を講ずることなどについて指導を行うこと及び2.過誤調整による措置を効果的なものとするため、社会保険事務所と労働基準監督署の間等の連携を深めるとともに、労災指定病院等でもある保険医療機関等において健康保険の保険者からの協力要請が円滑に受け入れられるよう必要な措置を講ずることについて検討を求めるもの





  
 資  料 

 《制度の概要》
1)  健康保険
 健康保険は、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づき、保険者が被保険者の業務外の事由による疾病、負傷等について保険給付を行い、併せてその被扶養者の疾病、負傷等について保険給付を行う制度である。
 また、通勤災害については、昭和48年から労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)の保険給付の対象とされ、健康保険による給付は行わないこととされている(健康保険法第59条ノ6)。
ア  保険者
1. 政府:厚生労働省(保険局)
2. 各健康保険組合
イ  主な被保険者(強制適用被保険者)
 常時5人以上の従業員を使用する適用事業(製造業、土木建築業、鉱業、物品販売業等)の事業所に使用される者  等
ウ  保険給付としての療養の給付
 被保険者は、病気やけがをしたときに、保険医療機関等において、被保険者証を提出することにより、1.診察、2.薬剤又は治療材料の支給、3.処置、手術等の療養の給付を受けることができる(医療費の2割が自己負担)。
エ  保険医療機関等
 保険医療機関等は、病院、診療所又は薬局であって、地方社会保険事務局の指定を受けたものである。また、保険医療機関等において診療等に従事する者は、健康保険事業の健全な運営及び療養の給付に関する費用の適正な請求の確保に努めなければならないこととされている(「保険医療機関及び保険医療養担当規則」(昭和32年厚生省令第15号))。
オ  労災保険との調整等
 通勤災害については、労災保険から保険給付が行われるが、誤って健康保険から保険給付が行われた場合は、次のとおり、保険者が被保険者に対し保険給付費の返還請求を行うこととされている(「通勤災害の取扱いについて」(昭和49年11月6日付け保険発第 127号・庁保険発第24号厚生省保険局保険課長・社会保険庁医療保険部健康保険課長通知)。別添資料参照)。
《誤って療養の給付が行われた場合の措置》
1.診療報酬請求明細書(レセプト)の点検調査において、通勤災害の疑いがある傷病名が記載されたレセプトを発見したときは、被保険者に対し、傷病の原因を照会する。
        ↓ 
2.通勤途上において発生した旨の回答があったときは、被保険者に対し「傷病状況報告」(災害発生場所、災害発生日の就業開始予定(就業終了)時刻・住居 (就業場所)を離れた時刻、通常の通勤の経路・方法・所要時間、災害の原因・発生状況等を記載)の提出を求める。
        ↓
通勤災害と考えられる場合、健康保険で給付した費用について被保険者に対し返還請求を行うとともに、労災保険による療養の費用の請求を行うよう指導する。

被保険者に対する健康保険給付費の返還請求の流れ


労災保険の「療養の費用」の請求の流れ

 (2)  労災保険
 労災保険は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)に基づき、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により被災した労働者の社会復帰の促進等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的としている(労災保険法第1条)。
ア  保険者
 政府:厚生労働省(労働基準局)(本省──都道府県労働局──労働基準監督署)
イ  保険給付の種類及び範囲
 1. 業務災害:労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡
 2. 通勤災害:労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡
  (注) 通勤災害については、昭和48年の労災保険法の改正(同年施行)により、業務災害に準じた給付を行うこととされた。

ウ  療養に関する保険給付
 (ア)  給付内容〈療養補償給付(業務災害)又は療養給付(通勤災害)〉
 被災労働者は、労災病院、都道府県労働局長が指定する病院等の労災指定病院等において、療養補償給付又は療養給付としての「療養の給付」(現物給付)を受けることができる。
 ただし、近くに労災指定病院等がないなど療養の給付をすることが困難な場合は、療養の給付に代えて「療養の費用」を支給(現金給付)することとされている。
 なお、給付の対象は、1.診察、2.薬剤又は治療材料の支給、3.処置、手術等とされており、健康保険における療養の給付と同じであるが、給付率は、健康保険が療養に要した費用の8割であるのに対し、労災保険が10割となっている。
 (イ)  療養の給付の手続
 療養の給付を受けるときには、被災労働者が、業務又は通勤災害についての事業主の証明を添付した請求書を労災指定病院等を経由して労働基準監督署に提出することとされている。
  なお、療養の費用の支給については、被災労働者が請求書を直接労働基準監督署に提出することになる。
 (注) 療養に要する費用については、健康保険の場合は、「健康保険法の規定による療養に要する費用の額の算定方法」(平成6年厚生省告示第54号)に基づき、〈診療(調剤)報酬点数×(1点単価)10円〉として算定することとされているが、労災保険の場合は、「労災診療費の算定基準について」(昭和51年1月13日付け基発第72号労働省労働基準局長通知)に基づき、1.診療単価を12円(国公立病院等は11.5円)とし、2.初診・再診料等特定の診療項目について健康保険の点数と異なる点数(金額)を定めたいわゆる「労災特掲料金」により算定することとされている。




別添資料



 〇 通勤災害の取扱いについて

昭和49年11月6日保険発第127号・庁保険発第24号
厚生省保険局保険課長、社会保険庁医療保険部健康保険課長
から、都道府県民生主管部(局)保険課(部)長あて通知〕

  標記については、昭和48年12月1日保険発第105号・庁保険発第24号により通知したところであるが、通勤災害について健康保険から給付したときの基本的な事務取扱いを次のとおり定めたので通知する。
  なお、健康保険組合についても同様の取扱いとなるので、その指導方お願いする。
  1. 療養の給付に関する措置
     診療報酬請求明細書(調剤報酬請求明細書を含む。以下同じ。)の点検調査において、通勤災害の疑いがある傷病名が記載された診療報酬請求明細書を発見したときは、次の措置をとること。
    (1)  傷病の原因の照会
     被保険者に対し、傷病の原因が通勤途上において発生したものか否かについて照会を行うこと。 
    (2)  傷病状況に関する報告
     (1)の照会に対し当該傷病が通勤途上において発生した旨の回答があったときは、その者に対し傷病状況報告書(参考様式−略−)により傷病状況に関する報告を求めること。
    (3)  保険給付費の返還請求
     (2)の報告により、通勤災害に該当すると考えられるものについては、健康保険で給付した費用について被保険者に対し返還請求を行うとともに、管轄労働基準監督署に対して労働者災害補償保険による療養給付たる療養の費用の請求を行うよう指導すること。
     なお、この場合、通勤災害に該当するか否か不明確なものについては関係機関と連絡を密にし、被保険者に不安を与えないよう留意すること。
                                  
  2. 現金給付に関する措置
     療養費、傷病手当金又は埋葬料等の支給を行った後にその保険事故が通勤途上において発生したと考えられるものを発見したときは、1に準じた措置を行うこと。
  3. 報告
     政府管掌健康保険の診療報酬請求明細書の点検調査等の結果、通勤災害と確定したものについては、平成6年5月11日庁文発第 1,604号社会保険庁運営部保険指導課長通知(診療報酬明細書等の点検調査について)の別紙2をもって報告することとし、この場合、同別紙2の4不正不当と確定したものの枚数及び金額の内訳の表の業務上該当の項の枚数及び金額欄に、業務上のものに加えて記載するほか、当該欄に通勤災害分を括弧で再掲すること。
        〔行政苦情救済推進会議における主な意見要旨〕   





 参  考 
○    交通事故による負傷に関し、労災保険又は健康保険のいずれの保険の適用を求めるかの判断は、専門的知識のない被保険者においてとてもできない。したがって、結果的に誤って健康保険が適用された場合の医療費の清算において、保険者が直接被保険者に現金による支払を請求する現在の方法は被保険者にとって酷な負担を強いることになるので、なるべく保険者と医療機関との間で処理できるような仕組みにすべきである。
○    誤って健康保険の適用を受けた場合の解決方策としては、できるだけ専門的知識のない被保険者に負担がかからないような形にすることが大切である。
○    交通事故で負傷した健康保険の被保険者は、労災保険又は健康保険の適用を受けられる。しかし、誤って健康保険の適用を受けた場合、被保険者が、健康保険から給付費の返還を求められ、労災保険の適用を受ける前に支払わなければならないこととされているのははなはだ問題である。
○    社会保険事務所において、交通事故の負傷に伴うレセプトの点検調査をする際に、労災保険が適用されるという確定判断を独自に行うことは非常に不安定である。最終的に労災保険が適用されないケースもあり得ることも考慮に入れると、労働基準監督署との間できちんと相談できる仕組みを作るべきである。

《行政苦情救済推進会議》
 総務省に申し出られた行政相談事案の処理に民間有識者の意見を反映させるための総務大臣の懇談会(昭和62年12月発足)
 会議の現在のメンバーは、次のとおり。
座長 味村  治
大森  彌
加賀美 幸子
加藤  陸美
塩野  宏
田村  新次
堀田  力
元内閣法制局長官、元最高裁判所判事
千葉大学法経学部教授
千葉市女性センター館長
(財)健康・体力づくり事業財団理事長
東亜大学大学院総合学術研究科教授
中日新聞社論説顧問
さわやか福祉財団理事長、弁護士