[総合評価] | |||
1 | 国の社会福祉・医療政策と社会福祉・医療事業団の位置付け | ||
国は、少子・高齢化が急速に進行する中で、保健・医療・福祉の連携強化を図るとともに、高齢者介護サービスの基盤の整備、育児支援施策や障害者施策の充実などを軸とした社会福祉・医療政策を推進している。 社会福祉・医療事業団(以下「福祉医療事業団」という。)は、このような政策の下、社会福祉の増進及び医療の普及・向上を図ることを目的として、社会福祉事業施設や医療関係施設等の整備に対する長期かつ低利の貸付事業、心身障害者扶養保険事業、長寿社会福祉基金事業などの事業を実施している。 |
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2 | 貸付事業 | ||
福祉医療事業団の行う貸付事業は、財政投融資資金を主な財源としており、その貸付資産は平成8年度末現在で約2兆円となっている。貸付資産の6割を占める「医療貸付」(平成8年度末現在の貸付残高1兆1,394億円)は病院、診療所、老人保健施設等に対する貸付けであり、4割を占める「福祉貸付」(同7,861億円)は社会福祉事業施設等に対する貸付けである。これらの貸付資産は、福祉医療事業団の資産の9割以上を占めており、文字通り福祉医療事業団の主要な事業となっている。 | |||
(1) | 医療貸付 | ||
ア | 繰上償還が及ぼす影響 | ||
近年、市中金利の低下に伴い、貸付先から多額の貸付金の繰上償還(平成6年度403億円、7年度980億円、8年度642億円)が行われている。繰上償還された貸付金は、財政投融資資金の繰上償還が平成9年4月の制度改正前は原則として認められていなかったため、新たな貸付け等に充当することとなるが、金利低下局面においては従前より低い利率で貸し付けざるを得ないことから、将来予定されていた利息が失われている(当庁推計によると、平成6年度分36億円、7年度分118億円、8年度分83億円)。その結果、政策的に資金調達利率より低い利率で行ってきた老人保健施設に対する貸付けの増大とあいまって、利息収支はマイナスで推移(平成6年度49億円、7年度53億円、8年度48億円)している。 このような繰上償還に伴う喪失利息は補給金により補てんされているものの、貸付期間が長期であり、かつ、固定金利であることに伴う金利リスクを福祉医療事業団が一方的に引き受ける構造は、公的資金の投入量の増加を余儀なくしていた。 しかし、平成9年4月に、一定の損害金の支払を条件に財政投融資資金の繰上償還を認める等の制度改正が行われ、福祉医療事業団においても、10年10月から、この損害金と同一の算定方式による弁済補償金を貸付先から徴収した上で繰上償還を認める等の制度を導入した。これにより、過去の貸付けに係る繰上償還が及ぼす影響は当分の間残るものの、今後の貸付けについては福祉医療事業団が負っていた構造的な金利リスクの解消が図られている。 |
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イ | 老人保健施設の整備に対する貸付けの公的コスト | ||
病院及び診療所の整備に対する貸付利率は、基本的に福祉医療事業団の資金調達利率と同率又はこれを上回る利率とされているのに対し、老人保健施設の整備に対する貸付利率は、政策的に資金調達利率より低く設定されている。老人保健施設については、新ゴールドプラン(平成6年12月策定)に基づき、その整備が強力に推進されていることもあって、貸付けが飛躍的に増大してきており、平成8年度末現在の貸付残高は6,350億円に達している。 このように政策的に利ざや(貸付利率と資金調達利率の差)がマイナスであることにより利息収支差(当庁推計によると、平成6年度、7年度、8年度ともそれぞれ12億円)が生じており、これは補給金により補てんされる仕組みとなっている。このようなスキームによる貸付けの昭和62年度から平成8年度までの10年間における利息収支差を貸付けの公的コストとして1病床当たりでみると、約15万5,000円(累計整備病床数12万1,721床)と試算される。 |
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(2) | 福祉貸付 | ||
福祉貸付の貸付利率も、政策的観点から基本的に福祉医療事業団の資金調達利率より低く設定されており、また、貸付対象の一部には無利子貸付けなどの優遇措置も講じられている。 このように政策的に利ざやがマイナスであることによる利息収支差は、補助金で補てんされる仕組みとなっており、これを福祉貸付の公的コストとして昭和62年度から平成8年度までの10年間における施設入所定員増加数を基に当庁で推計すると、施設入所定員1人当たり約40万6,000円(累計施設入所定員増加数19万287人)と試算される。 また、この間、新ゴールドプラン、障害者プラン(平成7年12月策定)及びエンゼルプラン(平成6年12月策定)に基づき施設整備が推進され、貸付残高は約3倍に増加していることもあって、利息収支のマイナスは拡大傾向(昭和62年度の88億円が平成8年度には146億円)にある。 |
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(3) | 貸付事業の課題 | ||
貸付事業においては、近年、特に老人保健施設や老人福祉施設に対する貸付けの増加が顕著な傾向となっている。新ゴールドプランに示される明確な数値目標を受けて、高齢化社会に向けた取組が進む中で、このような傾向は、福祉医療事業団の貸付けが相当の役割を果たしていることを表してい
る。 一方で、これらの施設の整備の進捗に伴い、国が公的資金を投入して負担するコストは増大しており、今後も資金投入は引き続き必要とならざるを得ない。事業の費用対効果を分析・評価するという視点からみると、現状においては、貸付事業の公的コストの状況は必ずしも明らかにされる形とはなっていない。 したがって、貸付事業の意義を一層明確にしつつ、国民の理解を求めていくために、貸付事業の公的コストとその効果を明らかにしていくことが必要である。 |
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3 | 心身障害者扶養保険事業 | ||
(1) | 事業の仕組み | ||
地方公共団体は、心身障害者の生活の安定等を目的として、加入者(心身障害者の保護者)が掛金を納付し、加入者の死亡後、心身障害者に対して終身にわたり年金を給付する制度(心身障害者扶養共済制度)を実施している。 福祉医療事業団は、地方公共団体との扶養保険契約に基づき、地方公共団体の年金給付の責任を保険している。このため、福祉医療事業団は、生命保険会社との間で、加入者を被保険者とする生命保険契約(再保険)を結び、加入者の死亡により給付される保険金を信託銀行に金銭信託して、これを心身障害者扶養保険事業資産(以下「年金資産」という。)として運用し、年金給付に必要な額を地方公共団体に支払っている。 平成8年度末現在、生命保険会社に積み立てている資産が350億円、保険金を積み立てた年金資産が153億円であり、その合計は503億円に上っている。 |
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(2) | 収支の動向と事業の見直し | ||
年金収支(年金資産の収支)の状況をみると、年金受給者数の増加や年金資産の運用利回りの低下により、平成2年度以降、年金給付額(支出)が保険金と運用収入の合計額(収入)を上回るようになり、年金資産の取崩しが進んでいた。昭和45年の本事業開始以来、このような状況に至るまで、二度の制度改正が行われてきたが、いずれも保険収支(生命保険契約に係る生命保険会社の収支)の立て直しは行われたものの、将来の年金給付に必要な積立て不足額を見通した年金収支の立て直しは先送りにされてきた。 その後、このような年金収支の著しい悪化を受けて、平成8年1月、厚生省及び福祉医療事業団は、本事業の抜本的な見直しを行い、年金給付額に見合った適正な保険金額を確保するため保険料を大幅に引き上げるとともに、過去の積立て不足額1,226億円(平成7年3月末現在。厚生省推計)については、国及び地方公共団体からの財政支援(毎年、各46億円ずつ均等に負担)により解消を図ることとしている。この結果、平成8年度には、年金収支は持ち直しており、年金資産も増加に転じている。 しかし、この見直しは、年金資産について4.5パーセントの運用利回りが確保されることを予定しており、最近の年金資産の運用利回りの実績が平成5年度から7年度までの平均で2.21パーセントの水準にとどまっていることからみて、今後の運用利回りが予定利回りを下回り、再び積立て不足が生ずるおそれがある。 したがって、事業運営の安定化を図るため、将来を見通した年金資産の必要積立額の考え方を導入するなど財務管理の在り方の検討や、財務状況に応じた適時かつ適切な保険料等の見直しを行っていくことが必要である。 |
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4 | 長寿社会福祉基金事業 | ||
本事業は、高齢者や障害者の在宅福祉、生きがい・健康づくりの推進等の活動を行う民間団体に対し助成金等を交付するものである。その事業費は、1,200億円の政府出資金を財源とする長寿社会福祉基金資産(以下「基金資産」という。)の運用収入により賄われることとされている。 しかし、運用資産の主体であった大口定期預金の運用利回りが大きく低下したことから、基金資産の運用利回りは低下傾向(平成3年度の7.86パーセントが5年度には3.66パーセント)にあり、運用収入も落ち込んできている(平成3年度の54億円が5年度には26億円)。 このため、福祉医療事業団では、見直しにはやや期間を要したものの、平成6年度から、運用資産の主体を大口定期預金から資金運用部預託へと切り替えて一定の利回りの確保に努めている。 事業資金の安定的な確保を図るため、今後とも安全性に配慮しつつ、基金資産の効率的な運用を行うことが課題である。 |