[総合評価]
1 地域振興整備公団の位置付け
   地域振興整備公団(以下「地域公団」という。)は、大都市に集中した人口や産業の地方への分散と地域の開発発展を図るとともに、石炭鉱業の不況により特に疲弊の著しい産炭地域における鉱工業等の計画的な発展を図るため、これらの目的に係る諸事業を実施する法人として昭和49年に設立された(当該法人は、昭和37年に産炭地域振興事業団として設立され、その後の事業の追加に伴う二度の改組を経て、現在の地域公団として発足)。
 地域公団では、地方公共団体からの事業要請・申込みに基づき、地方都市の開発整備のための宅地造成・再開発事業、工業の再配置を促進するための工業団地等造成事業及び産炭地域の振興を図るための事業用団地造成事業(以下「土地造成事業」と総称する。)を行うとともに、工場を都市から地方へ移転する者や産炭地域において事業を行う者に対する設備資金等の低利融資事業(以下「貸付事業」という。)等を実施している。
 これらの事業を実施するための資金は、主に財政投融資資金により賄われており、その額は、平成8年度で622億円となっている。また、平成8年度において、国から出資金が14億円投入されているほか、資金調達コスト削減等のための補給金が17億円投入されている。
       
2 土地造成事業
  (1) 財務の状況
     地域公団の平成8年度末現在の資産総額は7,284億円に上っているが、このうち土地造成事業に係る資産は8割以上となっており、公団財務の中で大きなウェイトを占めている。
 次に地域公団全体の損益の状況をみると、損益計算書上、毎年の収支はほぼ均衡した状況となっている。これは、土地の供給を安定的に行う観点から、将来の収支差損に備えるため、土地の譲渡により生じた収入と原価の差益は譲渡価格調整準備金(以下「準備金」という。)に繰り入れ、また、差損については準備金から戻し入れることとされており、土地の譲渡収入と原価の差額分を当期損益として計上しない処理とされていることによるものである。
 そこで、準備金への繰入額及び戻入額を土地譲渡に係る実質的な利益及び損失とみなし、昭和62年度から平成8年度までの10年間の土地造成事業に係る地域公団の実質的な損益の状況をみると、2年度には154億円と多額の実質的な利益が計上されている。その他の年度ではおおむねプラスマイナス30億円程度の範囲内で上下動を繰り返しているが、全体的には実質的な利益が計上されている状況にある。この結果、地域公団全体の準備金残高は昭和62年度の219億円から平成8年度の539億円へと大きく増加している。また、これを各勘定ごとにみると(注)、地方都市開発整備等事業勘定(以下「地方都市勘定」という。)及び工業再配置等事業勘定(以下「工業再配置勘定」という。)では大きく増加した一方で、産炭地域振興事業勘定(以下「産炭地域勘定」という。)では逆にやや減少している状況がみられる。
   
(注)  地域公団では、事業の目的ごとにそれぞれ異なる勘定で経理を行っている。
  事業目的と経理を行う勘定との関係は以下のとおりである。
  地方都市の開発整備:地方都市勘定
  工業の再配置促進:工業再配置勘定
  産炭地域の振興:産炭地域勘定
       
  (2) 土地譲渡実績の低下と投資の増加
     土地の譲渡収入の実績を、いわゆるバブル期を含む昭和62年度から平成3年度までの5年間と4年度から8年度までの5年間で各勘定ごとに比較すると、地方都市勘定が若干の減少であるのに対し、工業再配置勘定及び産炭地域勘定では大きく減少しており、これは譲渡面積でみても同様の傾向となっている。
 このように、地域公団が造成を行う土地のうち工業団地(工業再配置勘定)及び事業用団地(産炭地域勘定)については、バブル期後は譲渡実績が大きく低下しているが、その背景には、これらの土地に対する民間需要が大きく冷え込んでいることがあると考えられる。そこで、民間企業の工業用地に係る取得敷地面積及び立地件数の推移をみると、双方ともバブル期に当たる平成元年度をピークとして近年は大きく減少している状況がみられる。
 一方、各年度において土地の取得及び造成のために投入された事業費について、昭和62年度から平成3年度までの5年間と4年度から8年度までの5年間を比較すると、各勘定とも約1.3倍から約1.6倍の増加となっている。また、各年度の土地取得面積について、同様に推移をみると、約1.2倍から約2.6倍の増加となっており、投資が増加している状況がみられる。
 なお、産炭地域振興審議会答申(平成2年11月30日)において、産炭地域振興対策の実施期間を平成13年度まで10年間延長するとともに、当該期間内に政策目的を達成するよう最大限の努力を払うこととされ、その具体策として、地域公団は計画的な事業用団地の造成等を行うこととされた。このような事情により、産炭地域勘定では、平成3年度以降事業費及び土地取得面積が増加している。さらに、同審議会の答申(平成11年8月5日)において、産炭地域振興対策の円滑な完了に向けて、現在造成中の事業用団地を平成13年度までに完成させることとされた。
       
  (3) 在庫回転期間及び債務回転期間の長期化
     このように、バブル期と比べて土地の譲渡収入実績が低下している一方で、土地の取得及び造成のための投資が増加していることから、各勘定とも土地資産額は平成4年度以降増加し、在庫回転期間も3年度以降長期化している状況にある。この結果、地域公団全体の在庫回転期間は、バブル期には昭和62年度の16.6年から平成2年度の2.3年へと短縮したが、その後は長期化に転じ、8年度には11.4年となっており、バブル期後投下資金の回転効率が悪化している状況を示している。
 また、投資の増加に伴い、新たに調達した債務性資金も増加している。
 この結果、地方都市勘定では、平成3年度以降債務残高が増加しており、これに伴って、債務回転期間も3年度以降長期化している。また、工業再配置勘定及び産炭地域勘定では、近年、償還額が新規借入額を上回っているため、結果として債務残高はやや減少しているものの、他方で譲渡収入の減少がそれ以上に大きいため、地方都市勘定と同様に、債務回転期間は平成3年度以降長期化している。
 このように、地方都市勘定と工業再配置勘定及び産炭地域勘定とでは、それぞれ要因は異なっているものの、いずれもバブル期後は債務回転期間が長期化しており、地域公団全体の債務回転期間は、バブル期には昭和62年度の13.3年から平成2年度の2.1年へと短縮したが、その後は長期化に転じ、8年度には9.0年となっている。
 地域公団の財務は、公団全体でみれば、債務性資金の償還原資の多くを土地の譲渡収入で賄っている構造となっていることから、この債務回転期間の長期化は、地域公団における債務の負担が相対的に重くなっている状況を示している。
 以上のような在庫回転期間及び債務回転期間の長期化は、今後、土地資産の収益力低下と債務償還の長期化を通じ、将来的に財務内容に悪影響を及ぼす要因となるものである。
 したがって、地方都市勘定及び工業再配置勘定については、各事業の需要動向を的確に把握して事業を展開する必要がある。また、産炭地域勘定については、企業ニーズに合わせた事業用団地の供給方法を検討するなど企業誘致に工夫を凝らし、造成が完了した土地の分譲促進に努めていく必要がある。
       
3 貸付事業の延滞債権等の状況
   地域公団が実施している貸付事業をみると、平成8年度末現在の貸付残高は694億円と、ピークである4年度末現在の貸付残高1,320億円の53パーセントとなっている。一方、延滞債権額は、平成8年度末現在で67億円と、近年横ばいの状況が続いており、延滞債権額の貸付残高に対する比率は9.6パーセントとなっている。 また、延滞債権の延滞期間をみると、2年以上の長期延滞となっているものが約7割(49億円)ある。
 このほか、延滞には至っていないものの、貸付先の経営悪化に伴い、約定を変更して元本及び利息の支払を猶予している債権が、平成8年度末現在で19億円存在している。
 地域公団においては、貸倒れに伴う損失処理に備えるため、各勘定ごとに貸付残高の3パーセントまでの範囲で貸倒引当金を計上できることとされており、平成8年度末現在の貸倒引当金残高は、地域公団全体で16.5億円となっている。また、利益剰余金が平成8年度で105億円生じており、この範囲内であれば、欠損金を出さずに損失処理が可能となっている。
 地域公団の貸付事業については、平成11年10月に設立された日本政策投資銀行に引き継がれ、既貸付分に係る債権管理業務についてのみ引き続き地域公団が行うこととされたことから、貸付事業については、回収可能性に注意しつつ債権管理を進めることが必要である。