[総合評価] | ||
1 国の航空政策と新東京国際空港公団の位置付け | ||
国は、直轄事業により空港の整備を進める一方、限られた財政資源の下で国際空港の整備を円滑に進めるため、財政投融資資金等を活用し、新東京国際空港設置事業を推進している。新東京国際空港公団(以下「空港公団」という。)は、このような政策の下、「新東京国際空港の設置・管理事業」を行う法人と位置付けられている。空港公団は、国が定めた基本計画を基に、国からの指示(4,000メートル滑走路、2,500メートル滑走路、横風用滑走路及び関連施設の設置・管理)を受け、同事業
を実施する仕組みとなっている。 新東京国際空港の設置・管理事業の資金は、公団債(平成8年度末現在の発行残高は約5,000億円)を発行することなどにより調達され、公団債のうち約80パーセントは、財政投融資資金による引受けがなされている。今後、施設の整備等の進捗により増加する債務性資金を円滑に償還していくことが、空港公団の経営上の重要な責務である。 |
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2 新東京国際空港の設置・管理事業 | ||
(1) | 財務等の状況 | |
新東京国際空港においては、国から事業実施の指示があった施設のうち、これまで4,000メートル滑走路(以下「現滑走路」という。)、関連施設である第1旅客ターミナルビル、第2旅客ターミナルビル等が供用されている。 空港公団の経営は、先行投資・料金回収型であり、投下資金の回収に長期を要することから、いわゆる創業赤字は避けられないものとなっており、空港公団の損益は施設建設・供用の動向に大きく左右される。このことは財務状況の推移に端的に表れており、開港から昭和58年度までは開港までのばくだいな建設投下資金の利払いや減価償却費等が負担となり赤字基調であり、59年度から黒字基調に転じたが、平成4年度以降は、再び赤字基調となっている。 昭和59年度から黒字基調となったのは、需要が増加する一方、2,500メートル滑走路(以下「平行滑走路」という。)の整備の遅れにより、本来現滑走路及び平行滑走路で対応するはずであった需要に現滑走路1本で対処したことが大きな要因となっている。その結果、費用を上回る収入を得ることが可能となり、これにより生じた実質黒字額は「回収財源調整準備金」に繰り入れることとした(平成2年度から行っている会計上の処理)。 しかし、現滑走路の利用は飽和状態となり、昭和63年ごろから発着回数の伸びは鈍化した。さらに、平成4年度に第2旅客ターミナルビルが供用開始されたことに伴い、業務管理費や減価償却費が増大するとともに、この施設の供用のみでは新たな利用客の開拓に結び付くものではないため、大幅に資産効率が低下せざるを得ず、全体の収支構造に大きな変化がもたらされることとなった。 このようにして、平成4年度から再び赤字基調となり、現在は回収財源調整準備金を取り崩しつつ収支差を埋めているが、この準備金も大幅に減少してきており、このままでは、再び赤字経営とならざるを得ない。 |
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(2) | 将来の収支見通し | |
平行滑走路の完成後新たな需要が喚起され定着するまでは、資産効率は更に低下することが予想される。空港公団でも、平成12年度の完成を目指した平行滑走路の整備を進めている間及び平行滑走路供用後の需要がある程度に達するまでの間は赤字基調としており、その後15年ごろから需要の増大に伴い収支が好転し、累積欠損は解消傾向になるとの18年度までの長期見通しを立てている。この長期見通しでは、収入の主要な要素である空港使用料は現在の水準のままであることが前提となっている。しかし、現行の空港使用料は諸外国に比べ高い水準にあることから、国際空港間の競争の激化を背景として空港使用料が見直される可能性もあり、その動向によっては収支見通しの変動も予想される。 さらに、需要予測をみると、平行滑走路の供用開始に伴い需要は堅調に推移し、平成22年度における全体の発着回数は8年度の1.6倍に当たる20万回に達する見通しとなっている。この水準は滑走路1本当たりでみれば、利用が飽和状態に近かった昭和62年度ないし63年度の水準に相当するものであり、急激な伸びを想定するものとなっている。現在、34か国から出されている新規乗り入れ希望などに対応できない状況であり、平行滑走路供用開始後は、これらの需要による伸びが想定されるものの、平成22年度に発着回数が20万回に達するとの需要予測には、昨今の需要の動向を考えれば、不確定な要素を含んでおり、予断を許さない。 このような状況から、これまでは施設整備の遅れから収支が好調な時期が先行したものの、今後の収支は厳しいと言わざるを得ない。 したがって、健全な経営の確保のため、収益動向に応じて、施設の整備・改修等を計画的に実施するなどの工夫が必要である。 |