1 実施体制の合理化、効率化
   申請等に基づき登記簿に記載する不動産の表示又は権利等の登記に係る事件(以下「甲号事件」という。)や登記簿等の閲覧又はこれらの謄・抄本、法人の諸証明の交付等に係る事件(以下「乙号事件」という。)を処理する登記事務は、法務省の地方支分部局である法務局及び地方法務局(以下「法務局等」という。)並びに法務局等の支局及び出張所(以下、法務局等並びにその支局及び出張所を「登記所」という。)において行われている。
 登記所は、全国に 885か所(平成11年7月1日現在。統廃合に伴い、実態上は廃止されているが、登記事務委任規則(昭和24年法務府令第13号)に基づき、形式上は統合先の登記所に事務を委任する形で暫定的に存続している36登記所を除く。)設置されている。また、これらの登記所で登記事務に従事している職員(以下「登記従事職員」という。)は、1万46人(平成12年3月31日現在)配置されている。法務局等(管内登記所分を含む。)単位の要員配置は法務省本省が、登記所ごとの要員配置はこれらを管轄する法務局等が行っている。
 今回、平成5年7月に行った「登記行政監察の結果に基づく勧告」(以下「5年勧告」という。)に対する改善措置状況を調査した結果、次のような状況がみられた。
         
  (1) 統廃合の推進
 
 (5年勧告の要旨)
 利用者の利便に配慮しつつ、登記事務のコンピュータ化を踏まえた組織運営の効率化を図る観点から、登記所及び要員の適正配置等を推進するため、道路・交通事情の変化、他の行政機関の地方支分部局等の設置状況、登記所の規模等を勘案し、統廃合基準の見直しを行うとともに、当該基準に基づき全国的な統廃合計画を策定し、その計画に従って統廃合を一層推進すること。
   5年勧告に基づく改善措置状況をみると、下記アのとおり、改善に向けた措置が推進されているが、今回の調査において、登記所の統廃合の推進状況を法務局等単位で比較すると、下記イのとおり、なお改善の余地がある面がみられる。
   全国ベースの進ちょく状況
     法務省は、新たな統廃合基準の検討を民事行政審議会に諮問し、同審議会は、平成7年7月に、道路・交通事情の変化等を勘案して、従前の統廃合基準を見直し、「法務局及び地方法務局の支局又は出張所の適正配置の基準等に関する答申について」(以下「新統廃合基準」という。)を答申した。この結果、従前、年間甲号事件数 7,000件未満で、かつ、受入登記所まで一般交通機関で90分以内等としていたものを、年間甲号事件数1万 5,000件未満又は受入登記所まで公共交通機関・自家用自動車で30分以内のいずれかに該当するもの等に変更している。
 また、「国の行政組織等の減量、効率化等に関する基本的計画」(平成11年4月27日閣議決定。以下「行政減量化計画」という。)においては、法務局等の支局及び出張所について、平成7年の民事行政審議会答申の基準にのっとって整理統合を進め、17年度ごろまでに同答申時の設置箇所数( 1,003か所)のおおむね半分程度まで縮減を図ることとされ、毎年、支局及び出張所の統廃合を計画的に進めていくこととされている。
 法務省は、新統廃合基準に基づき、登記所の統廃合を推進してきており、民事行政審議会が新統廃合基準を答申した平成7年7月以降、11年6月末までの4年間に、同基準に該当するおおむね500か所の統廃合対象登記所のうち、169か所(各年度平均40か所程度)を廃止している(平成元年度から4年度までの4年間では、77か所(各年度平均20か所程度)の登記所を廃止)。
   法務局等間の格差
     調査した14法務局等における新統廃合基準に基づく管内登記所の統廃合の実施状況をみると、新統廃合基準の答申年から、行政減量化計画における目標年度までの期間の約半分を経過する時期に当たる平成12年度時点での統廃合の進ちょく率(新統廃合基準に基づく統廃合対象登記所数に対する廃止登記所数及び平成12年度統廃合実施予定登記所数の合計の割合をいう。以下同じ。)が6割を超えているもの(4法務局等)がみられる一方、3割にも満たないもの(2法務局等)がみられ、進ちょく率が最高の法務局等(75.0パーセント)と最低の法務局等(8.3パーセント)との間には、約9倍の格差が生じている。
 また、下記(ア) のとおり、統廃合が進展しているものの、更に推進が必要なものや、関係者等の理解が得られないこと等の理由から、下記(イ) のとおり、統廃合の進ちょく度が低調なものもみられる。
    (ア)  統廃合が進展しているものの、更に推進が必要なもの
      1.  平成7年7月に設置されていた11登記所(法務局等の本局を除く。以下(イ) の2.まで同じ。)のうち、新統廃合基準に該当するものが8登記所あったが、3登記所を廃止するとともに、12年度を目途に3登記所の統廃合を予定していることから、今後統廃合が必要なものが2登記所となっている地方法務局
      2.  平成7年7月に設置されていた11登記所のうち、新統廃合基準に該当するものが9登記所あったが、6登記所を廃止していることから、今後統廃合が必要なものが3登記所となっている地方法務局
      3.  平成7年7月に設置されていた16登記所のうち、新統廃合基準に該当するものが8登記所あったが、5登記所を廃止していることから、今後統廃合が必要なものが3登記所となっている地方法務局
    (イ)  統廃合の進ちょく度が低調なもの
      1.  平成7年7月に設置されていた19登記所のうち、新統廃合基準に該当するものが11登記所あったが、廃止されたのは1登記所のみであり、また、統廃合の見通しが立っているものも11年度の1登記所のみであることから、今後、相当の努力を必要とする法務局
      2.  平成7年7月に設置されていた26登記所のうち、新統廃合基準に該当するものが12登記所あったが、廃止されたのは1登記所のみであり、このほかの登記所については統廃合の見通しがほとんど立っていないことから、今後、相当の努力を必要とする法務局
         
   したがって、法務省は、組織運営の効率化を図る観点から、新統廃合基準に基づく行政減量化計画に沿った登記所の統廃合を推進するため、統廃合の進ちょく度が低調な法務局等に対し、統廃合の推進について関係者等の理解を得るよう、重点的な指導を行う必要がある。
         
  (2) 要員配置の適正化
 
 (5年勧告の要旨)
 同一法務局等管内の登記所の中には、その業務量が管内の平均業務量と比較して2倍以上又は半分以下となっているものがあったことから、次のとおり、勧告した。
 利用者の利便に配慮しつつ、登記事務のコンピュータ化を踏まえた組織運営の効率化を図る観点から、登記所及び要員の適正配置等を推進するため、登記所の統廃合の実施等に当たって、業務量に対応した登記所の要員配置の適正化を図るよう措置すること。
   5年勧告に基づく改善措置状況をみると、下記ア及びイのとおり、改善に向けた措置が推進されているが、今回の調査において要員配置の状況を登記所間で比較すると、下記ウのとおり、なお改善の余地がある面がみられる。
   全国ベースの定員の見直し
     平成7年から9年までの間における全国の登記従事職員の定員の推移をみると、業務量の変化に対応させるため、30法務局等において計73人の新規増を、また、18法務局等において計52人の定員削減を行っている。
   同一法務局等管内の登記所間の業務量の格差
     同一法務局等管内で登記従事職員数が5人以上の登記所について、基本的な業務指標である甲号事件数を基に職員1人当たりの業務量(調査実施年の直近3年間の平均甲号事件数を登記従事職員数で除したもの)をみると、前回調査においては、職員1人当たり業務量の管内平均と比較して2倍以上又は半分以下の登記所が13法務局等において20登記所みられたが、法務局等による要員配置の見直しが行われた結果、今回の調査では、そのような例はみられず、同一法務局等管内における登記所間の業務量の格差は縮小されてきているとみられる。
   各登記所間の業務量の格差
     調査した14法務局等管内に所在する登記従事職員数が5人以上の 186登記所における職員1人当たりの業務量をみると、最大の登記所(4,329件)と最小の登記所(1,240件)との間には約3.5倍の格差がある。
 また、廃止された登記所の職員を複数の登記所に分散して再配置し、業務量の平準化を図った法務局等もみられるが、統合先の登記所に廃止された登記所のすべての職員を配置した結果、統合先の登記所の職員1人当たりの業務量が、職員1人当たりの業務量の管内平均を2割下回っている法務局等がみられ、引き続き法務局等管内における業務量の平準化を図る必要があるものがみられる。
         
   したがって、法務省は、組織運営の効率化を図る観点から、登記所の要員配置について、業務量に対応した適正化を一層図るよう措置する必要がある。
         
2 登記事務の迅速化
 
 (5年勧告の要旨)
 補正日(登記申請事項について補正を要するか否かの審査結果が申請人に明らかにされる日)を設定・表示していない登記所があったこと、同規模の登記所間で登記申請事件の事務処理日数に格差があったこと、補正指示内容の多くが単純な誤りによるものであったことから、次のとおり、勧告した。
 登記事務処理の迅速化を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。
1.  登記所における補正日の設定・表示の励行及び補正日までの日数の短縮化を図るよう措置すること。
2.  登記申請書類の提出に当たっては申請書類の記載内容の確認が行われるよう、司法書士及び土地家屋調査士の団体を通じ司法書士及び土地家屋調査士に対する指導・研修の充実を図ること。また、補正指示を受けることが多い司法書士及び土地家屋調査士については、法務局等から当該司法書士及び土地家屋調査士の所属する団体に対し、その者への注意勧告の実施を促すほか、注意勧告に従わない司法書士及び土地家屋調査士については、法務局等が直接その者の執務状況の調査を実施して必要な処分を行うなど、補正事件の発生防止措置を講ずること。
 
(注)  「補正指示」とは、登記の申請に形式的な不備がある場合において、その不備が即日に補正できる程度のものであるときに、登記官が申請人に補正を命ずることである(即日に不備を補正したときは、当初から適法な申請があったものとして処理される)。補正日は、補正の必要性の判断に時間を要する場合に設定される。
   5年勧告に基づく改善措置状況をみると、下記アのとおり、改善に向けた措置が推進されているが、今回の調査において、補正事件発生の実態を法務局等単位で個別詳細にみると、下記イのとおり、なお改善の余地がある面がみられる。
   補正日の設定・表示状況及び補正日までの日数の短縮化
     法務省は、平成5年8月、同年9月及び6年9月に、申請人の利便の向上及び登記事務の迅速な処理に資するため、法務局等に対し、補正日の設定・表示の励行、補正日までの日数の短縮化について指示した。
 この結果、調査した44登記所における補正日の設定・表示の状況をみると、すべての登記所において補正日を設定するとともに、当該補正日を登記申請窓口に表示している。
 また、権利の登記事件についての補正日までの日数をみると、前回調査において補正日を表示していた39登記所の平均日数は約4日であったが、今回調査した44登記所の平均日数は約3日となっており、日数の短縮化が図られている。
 なお、表示の登記事件でみると、今回調査した44登記所では、前回調査した39登記所と同様4日程度であり、ほとんど変化がみられない。
   補正事件の発生防止
     補正事件の発生防止対策の実施状況を調査した結果、下記(ア)のとおり、関係団体への指導が行われているものの、下記(イ)のとおり、補正事件は減少しておらず、改善の余地がある。
    (ア)  補正事件の発生防止に関する関係団体への指導状況
      1.  法務省は、平成5年9月、日本司法書士会連合会及び日本土地家屋調査士会連合会に対し、適正な登記申請書の提出及び補正事件の発生防止に関する所属会員への指導の徹底を図るよう、各司法書士会及び土地家屋調査士会に対し依頼することを依頼した。
      2.  上記1.の依頼を受け、日本司法書士会連合会及び日本土地家屋調査士会連合会は、各司法書士会及び土地家屋調査士会に対し、同旨の内容を所属会員に指導するよう依頼した。
      3.  上記2.の依頼を受け、調査した14道府県の司法書士会及び土地家屋調査士会はすべて、文書、会報等により同旨の内容を所属会員に周知した。
 なお、調査した14道府県の司法書士会及び土地家屋調査士会において、補正指示を多く受けていることを理由に、司法書士法(昭和25年法律第 197号)第16条の2に基づく所属司法書士に対する注意勧告又は土地家屋調査士法(昭和25年法律第 228号)第16条の2に基づく所属土地家屋調査士に対する注意勧告を行った事例はみられなかった。
    (イ)  補正事件の発生状況
      1.  法務省が実施している不動産登記部門における補正事件に係る調査の結果によると、平成7年度から10年度までの間の補正率(登記申請事件数全体に占める補正指示のあった登記申請事件数の割合をいう。以下同じ。)の状況は、人による一般の申請においては漸減しているが、司法書士又は土地家屋調査士による申請では、各年度とも権利の登記事件が12パーセント前後、表示の登記事件が23パーセント前後となっており、大きな変動はみられない。
      2.  司法書士又は土地家屋調査士が申請した権利の登記事件が 1,000件以上あった7法務局等、同じく表示の登記事件が 200件以上あった5法務局等において、平成7年度から10年度までの間の司法書士等による申請に係る補正率を法務局等間で比較すると、権利の登記事件では、最高の法務局等(19.3パーセント)と最低の法務局等( 5.8パーセント)との間には約 3.3倍の格差が、また、表示の登記事件では、最高の法務局等(29.7パーセント) と最低の法務局等(5.5パーセント)との間には約5.4倍の格差が生じている。
     なお、補正事件の多くは地番や申請人の氏名等の誤記や脱漏など軽微な誤りであるが、現在、導入が検討されている登記情報提供システムは、利用者が、インターネット回線を利用して、登記簿に記載されている地番や所有権者等の登記情報を入手できるシステムであり、この導入により、申請事件に係る地番や所有権者等の確認が簡易、的確にできるようになることなどから、補正事件の減少に大きく寄与するものと考えられる。
 また、司法書士会の中には、平成元年度以降、補正事件の撲滅を目的として「補正撲滅運動」を毎年実施し、会員による登記申請事件における補正事件の発生状況を調査した結果を会員に周知することにより、補正事件の発生防止のための意識向上を図った結果、補正率が3年の4.4パーセントから9年には3.5パーセントに減少するなど、補正事件の発生防止に効果を上げている例がみられる。
         
   したがって、法務省は、登記事務処理の円滑化を図る観点から、登記情報提供システムの活用による記載事項の確認の簡易化等を通じて補正事件の減少が図られるよう同システムの導入を進めるとともに、法務局等に対し、補正の指示を多く受けている司法書士、土地家屋調査士を把握し、これらの者に対する重点的な指導を行うよう指示する必要がある。
         
3 登記官による過誤登記の防止対策
 
 (5年勧告の要旨)
 登記官による過誤登記を防止する観点から、見落としがちな事項についての申請書への朱書などの工夫により、記入、校合の際における登記事項の確認を一層徹底させるとともに、過誤登記の内容、原因を分析し、その結果を踏まえ、登記官に対する研修等の充実を図る必要がある。
 また、内部監査における過誤登記の監査対象件数を増加させるなど、監査の充実を図る必要がある。
   5年勧告に基づく改善措置状況をみると、下記アのとおり、改善に向けた措置が講じられているが、今回の調査において過誤登記の発生状況をみると、下記イのとおり、依然として改善の余地がある。
   過誤登記防止対策の実施状況
     法務省は、平成6年8月、登記官による登記簿への記入誤りの過誤登記を防止するため、法務局等に対し、1)職員の意識の喚起、2)過誤原因の分析、3)チェック体制の確立、4)各処理工程間の連携の強化、5)職場研修(実務研修)の充実等の防止対策の推進を指示するとともに、内部監査の充実を行うよう指示した。
 この結果、調査した44登記所のすべてにおいて、職員の相互けん牽制、記載ミス防止方策の実施などによる過誤登記の発生防止対策を講ずるとともに、内部監査を実施している。
   過誤登記の発生状況
     全国の登記所における過誤登記の発生率をみると、平成9年は0.61パーセントとなっており、4年の0.36パーセントに比べ0.25ポイント増加している。
 また、調査した44登記所における過誤登記の発生率をみると、平成9年は0.70パーセントとなっており、前回調査した51登記所の発生率0.28パーセント(平成3年)に比べ0.42ポイント増加している。
         
   したがって、法務省は、登記事務の適正化、迅速化を図る観点から、過誤登記防止対策の一層の徹底を図る必要がある。