1 | 新規採択時評価制度の導入状況等 | |||
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新規採択時評価制度の導入状況 | |||
平成9年12月、内閣総理大臣から公共事業関係6省庁の大臣に対して、公共事業の効率的な執行及び透明性の確保を図る観点から、再評価システムの導入とともに事業採択段階における費用対効果分析の活用について指示が行われた。これを受けて、公共事業関係6省庁は、新規事業採択時の費用対効果分析について、平成10年度から試行を含めて運用する旨を決定し、10年3月の関係閣僚懇談会において報告している。 公共事業の新規事業採択時の評価は、新たに予算化しようとする事業を対象として、費用対効果分析を活用した事前評価を行い、その結果等を公表するものであり、公共事業の効率的な執行及び透明性の確保を図る上で重要である。 また、新規採択時評価を体系的かつ継続的に実施するためには、評価の目的及び方法、評価結果の処理、評価結果等の公表について定めた新規採択時評価実施要領を策定し、これに基づき評価を行うことが重要である。 今回、公共事業関係6省庁における新規採択時評価制度の導入状況を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1.
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建設省及び運輸省は、本省において、所管する事業を対象に統一的な新規採択時評価実施要領を策定し、評価を実施している。 | |||
2.
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農林水産省は、本省において、水産関係公共事業については実施要領を策定して評価を実施し、土地改良事業については法令等に基づき評価を実施し、その他の事業については費用対効果分析マニュアルを活用して評価を実施している。 | |||
3.
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北海道開発庁及び沖縄開発庁は、新規採択時評価実施要領は策定していないが、事業執行省庁の新規採択時評価実施要領に基づき必要な資料を収集し、これら資料を基に事業執行省庁が実施した評価結果を予算化の判断材料として活用している。 | |||
4.
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国土庁は、再評価と同様に、事業執行省庁が実施した評価結果を活用している状況にある。 | |||
(2)
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新規採択時評価の対象事業 | |||
公共事業関係6省庁は、新規採択時評価は基本的に公共事業全事業において実施することとしている。 今回、建設省、運輸省及び農林水産省における新規採択時評価の対象事業の範囲を調査した結果、3省とも直轄事業、公団等施行事業、補助事業等となっている。 |
2 | 新規採択時評価の実施状況 | |||||
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新規採択時評価の実施手順 | |||||
今回、新規採択時評価制度を導入している建設省、運輸省及び農林水産省の3省及びその地方支分部局23機関並びに公団等11法人における新規採択時評価の実施手順を調査した結果、次のような状況がみられた。 3省では、新規採択時評価実施要領等に基づき、事業の実施主体である地方支分部局及び公団等から評価に必要な資料の提出を受け、本省の事業担当部局において評価を実施し、予算化に係る対応方針を決定することとしている。ただし、運輸省では、事務次官等で構成する全省的な組織を設置し、事業担当部局が決定した予算化に係る対応方針のチェックを行い、必要があると認めるときは事業担当部局の長に対して見直しを指示することができることとしている。 また、3省とも、新規採択時評価を実施する時期は年度末までとしている。 |
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(2)
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新規採択時評価の方法等 | |||||
ア | 新規採択時評価制度の構築・改善等の検討体制 | |||||
新規採択時評価制度の構築・改善の検討及び評価手法の策定・改善の検討に当たっては、その統一性を確保する観点から、検討委員会の設置が必要と考えられる。 今回、建設省、運輸省及び農林水産省における新規採択時評価制度の構築・改善及び評価手法の策定・改善を行う検討委員会の設置状況を調査した結果、いずれの省においても、全省的な新規 採択時評価制度の構築・改善の検討委員会を設置しており、建設省及び運輸省の検討委員会では、評価手法の策定・改善の検討も行っている(農林水産省は、事業担当部局の検討委員会で評価手法の策定・改善の検討を実施)。 また、3省は、事業別の評価手法の策定・改善の検討について、外部の学識経験者等から構成される検討委員会を事業担当部局ごとに設置し、その検討結果を評価手法の策定・改善に反映することとしている。 なお、北海道開発庁及び沖縄開発庁は、このような検討委員会を設置していないが、建設省等の事業執行省庁の策定した評価手法を活用している。 |
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イ | 新規採択時評価の方法 | |||||
建設省、運輸省及び農林水産省では、新規採択時評価は、事業の有効性、優先性等の観点から、事業採択段階で事業の投資効果を測定する費用対効果分析を実施し、事業種別によっては費用対効果分析指標以外の評価指標を含めて総合的な評価を実施することとしている。また、費用対効果分析について、公共事業関係6省庁は、平成11年3月に、実施時期、分析に当たっての基本的考え方、対象期間等11項目にわたる「費用対効果分析の共通的な運用方針(試行案)」を策定し、費用対効果分析の活用を推進することとした。 今回、建設省、運輸省及び農林水産省における新規採択時評価の方法を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1.
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i)
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建設省は、費用対効果分析に費用対効果分析指標以外の評価指標を加えて、総合的な評価を実施している。 | ||||
ii)
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運輸省は、費用対効果分析を基に、地元との調整状況などを考慮して総合的な評価を実施している。 | |||||
iii)
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農林水産省は、水産関係公共事業については費用対効果分析及び費用対効果分析指標以外の評価指標により、総合的な評価を実施し、土地改良事業については法令等に基づき費用対効果分析にその他の要件を加えて、総合的な評価を実施し、その他の事業については費用対効果分析を活用して評価を実施している。 | |||||
2.
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i)
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建設省及び運輸省は、所管する全事業に統一的に適用する費用対効果分析に関する指針を作成し、これに基づき事業ごとの費用対効果分析マニュアルを策定し、すべての事業を対象として費用対効果分析を実施している。 | ||||
ii)
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農林水産省は、所管する事業に統一的に適用する指針は策定していないが、事業ごとの費用対効果分析マニュアルを策定し、すべての事業を対象として費用対効果分析を実施している。 | |||||
3.
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3省の費用対効果分析マニュアルにおける費用対効果分析の便益要素(費用対効果分析において貨幣換算可能な便益を計測するための評価指標をいう。以下同じ。)の設定状況をみると、次のような状況にある。 | |||||
i)
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建設省は、所管する全事業を11事業種別に分類し、それぞれについてマニュアルを作成しており、便益要素数の合計は75要素(1マニュアル平均 6.8要素)となっている。 | |||||
ii)
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運輸省は、所管する全事業を4事業種別に分類し、それぞれについてマニュアルを作成しており、便益要素数の合計は63要素(1マニュアル平均15.8要素)となっている。 | |||||
iii)
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農林水産省は、所管する全事業を7事業種別に分類し、それぞれについてマニュアルを作成しており、便益要素数の合計は93要素(1マニュアル平均13.3要素)となっている。 | |||||
(注) | 上記のマニュアル数の合計は22となるが、海岸事業については、建設省、運輸省及び農林水産省による共通マニュアルが作成されており、運輸省は、3省共通マニュアルに基づく独自のマニュアルを別に作成している。このため、3省作成のマニュアルの実数は21となる。 | |||||
なお、これらのマニュアルの中には、便益の計測において、直接効果と間接効果を区分して取り扱うこととしているものが1マニュアル(「農業集落排水事業における費用対効果分析マニュアル(案)」)ある。 | ||||||
4.
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また、これらのマニュアルにおける便益要素の内容をみると、次のような状況にある。 | |||||
i)
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例えば、環境への影響を便益要素として盛り込んでいるマニュアルは、21マニュアル中9マニュアルと約半数となっている。 | |||||
ii)
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類似する事業について、費用対効果分析の便益要素を比較すると、盛り込まれた要素に差異がみられるものがある。 | |||||
5.
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費用対効果分析指標以外の評価指標を設定している建設省及び農林水産省における当該評価指標の設定状況をみると、i)建設省は、所管する全事業を対象に、事業ごとに設定しており、ii)農林水産省は、水産関係公共事業について設定している。 | |||||
6.
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建設省及び農林水産省における費用対効果分析指標以外の評価指標の設定内容をみると、i)建設省は、所管する事業を35事業種別に分類して、計641の指標を設定(35事業種別のうち1事業種別は他の事業種別の指標の評価指標を用いて評価を実施。このため、1事業種別の平均は18.9指標)し、このうち数量的指標は 251指標(39.2パーセント)、ii)農林水産省は、水産関係公共事業について計11の指標を設定し、このうち数量的指標は9指標(81.8パーセント)となっている。 | |||||
(注)
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数量的指標の定義は、再評価における数量的指標の定義に同じ。 | |||||
したがって、新規採択時評価について、次の点が検討課題と考えられる。 | ||||||
1.
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費用対効果分析における環境への影響等の効果(便益要素)の取り方(建設省、運輸省及び農林水産省) | |||||
2.
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類似する事業について、費用対効果分析の便益の評価手法を点検し、同様の効果の発生が予想される場合には、その効果を共通の方法により評価すること(建設省、運輸省及び農林水産省)。 | |||||
(3)
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新規採択時評価の実績 | |||||
今回、建設省、運輸省及び農林水産省における新規採択時評価の実績及び新規採択時評価での費用対効果分析の活用実績を調査した結果、これら3省は、平成11年度予算において計 4,468か所の新規事業を採択しており、これらについてすべて新規採択時評価を行っている。このうち、費用対効果分析を活用したものは 4,148か所(92.8パーセント)であり、分析手法を開発中等のため費用対効果分析は行っていないが、費用対効果分析指標以外の評価指標等を活用して評価を行ったものが 320か所(7.2 パーセント)となっている。 | ||||||
(4)
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新規採択時評価に係る情報の公開 | |||||
新規採択時評価の透明性を確保するためには、評価実施主体が評価の実施手続、評価結果、結論に至った理由を公表することが必要である。 公共事業関係6省庁は、「費用対効果分析の共通的な運用方針(試行案)」において、新規事業採択時における費用対効果分析の結果については、新規採択事業とともに公表することとしている。 今回、新規採択時評価を実施している建設省、運輸省及び農林水産省を対象として、平成10年度以降における新規採択時評価に係る情報の公開状況を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1.
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新規採択時評価実施要領等は3省とも公表 | |||||
2.
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費用対効果分析の要素(費用・便益の項目、算出式等)は3省とも公表 | |||||
3.
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費用対効果分析の数値(費用便益比率)は3省とも公表 | |||||
4.
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費用対効果分析指標以外で使用した評価指標は、建設省は公表 | |||||
5.
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費用対効果分析において使用した数値等評価結果の根拠となる資料等は、3省とも公表範囲の拡大を検討中 | |||||
6.
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評価結果は3省とも公表 | |||||
7.
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3省とも、新規採択事業を公表することにより予算への反映状況を公表 | |||||
8.
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評価結果の公表方法は、3省とも記者発表等を行っているが、インターネットによる公表は、建設省で一部実施しているものの、他の2省は未実施となっている。 | |||||
したがって、新規採択時評価について、次の点が検討課題と考えられる。 | ||||||
1.
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費用対効果分析において使用した数値等評価結果の根拠となる資料等の公表範囲の拡大(建設省、運輸省及び農林水産省) | |||||
2.
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評価結果のインターネットによる公表(建設省、運輸省及び農林水産省) |
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