〔総合評価〕 | |||
1 国の宇宙開発政策と宇宙開発事業団の位置付け | |||
国は、宇宙開発の指針となる宇宙開発政策大綱(昭和53年3月宇宙開発委員会決定。直近の改定は平成8年1月)の主旨に従って、毎年度、宇宙開発に関する基本計画(内閣総理大臣決定)を定めている。この計画に準拠し、宇宙開発事業団(以下「宇宙事業団」という。)は、毎年度の事業の実施の基盤として総合事業計画を樹立している。 宇宙事業団は、実利用を目指して行われる宇宙開発活動の中核機関と位置付けられており、一方、宇宙科学の分野については、文部省宇宙科学研究所の役割となっている。 平成8年度の貸借対照表をみると、国から宇宙事業団に支出された出資金の累計は約2兆3,000億円に及んでいる。一方、資産計上額は約4,700億円となっているが、ロケットや人工衛星などの研究開発による成果等が企業会計原則に照らし資産として計上されないため、約1兆8,000億円は累積の欠損金として計上されるという財務上の表れ方になっている。 出資金のほか、国からは、宇宙事業団の一般管理費に充てるため、補助金が毎年度投入されている。 |
|||
2 事業の現状とその評価 | |||
(1) | ロケット事業 | ||
ロケットの開発(機体の製造を含む。)については、宇宙事業団への出資金の累計約2兆3,000億円と事業収入等の累計約1,000億円の合計約2兆4,000億円のうち、平成8年度までに約8,100億円(34パーセント)が、また、開発と並ぶロケット事業のもう一つの柱である打ち上げについては、約1,200億円(5パーセント)が投入されており、ロケット事業は宇宙事業団の事業の中で最も大きなウエイトを占めている。ロケット開発においては、自主技術による開発を基本方針としてきたところであり、その指標として「国産化」の進展状況を開発費全体に占める外貨関連経費を除く開発費の割合でみると、初期のN−Iロケット(昭和50年9月に1号機打ち上げ)が60パーセントであったのに対し、昭和60年代のH−Iロケットが85パーセント、現在運用中のH−IIロケット(平成6年2月に1号機打ち上げ)で100パーセントとなり、自主開発の目標を達成した。 また、ロケットの開発の成果として、静止軌道に打ち上げることができる衛星の重量(打ち上げ能力)及び打ち上げ重量当たりの輸送コスト(1機当たりの機体製造費及び打ち上げ費を静止軌道に打ち上げることができる衛星の重量で除したもの)を我が国初のN−IロケットとH−IIロケットとで比べてみると、20年間に打ち上げ能力はおよそ15倍(N−Iの130キログラムからH−IIの2,000キログラム)、輸送コストはおよそ6分の1(N−Iの1キログラム当たり約5,400万円からH−IIの1キログラム当たり約950万円)となっている。 さらに、ロケットの打ち上げは、全段自主技術で開発したH−IIロケットのうち3号機を打ち上げた時点(平成7年)で、27回中26回(96パーセント)が成功しており、その成功率は海外並みのレベルに達していた。このような状況の下、平成8年度以降、宇宙事業団では、海外の約2倍から3倍となっているH−IIロケットの打ち上げコスト(1機当たりの製造・打ち上げ費190億円)の低減化と一層の性能の向上を図るため、H−IIAロケットの開発を進めているところである。 しかし、H−IIロケットの打ち上げは、最近、5号機(平成10年)に続き、8号機(平成11年)が相次いで失敗したことから、徹底した原因究明に基づく対策に取り組み、信頼の回復を図ることが求められている。 |
|||
(注) | ロケットに搭載予定の衛星の開発状況により、6号機が5号機に、8号機が7号機に先行して打ち上げられており、5号機の次の打ち上げが8号機となっている。 | ||
(2) | 人工衛星事業 | ||
人工衛星の開発に対し投入された出資金等の累計は平成8年度までに約5,700億円(宇宙事業団への出資金の累計等約2兆4,000億円の24パーセント)に上っており、ロケット開発に次ぐウエイトを占めている。人工衛星の開発においても、当初はロケット開発と同様、先進国の技術を導入しつつ国産化比率を高めることに重点が置かれ、平成2年ごろには、気象衛星を除いたその他の地球観測衛星、通信・放送衛星及び技術試験衛星については80パーセント以上の国産化比率を達成しており、技術的にはキャッチアップの過程がほぼ終了したとされている。また、平成2年の日米政府間合意により、非研究開発衛星については公開調達することになったことから、それ以降の宇宙事業団の衛星開発の目標は、それまでの主として研究開発と実用を兼ねた開発から、蓄積された基盤技術を生かしつつ、先端的な研究開発衛星の開発を目指す方向に向かってきている。 なお、国産化比率については、非研究開発衛星として公開調達することになった気象衛星を除き、その後100パーセントを達成している。 一方、人工衛星の1機当たり開発費をみると、開発目的による搭載ミッション機器等の違いがあるものの、多額の資金(平成2年度以降に打ち上げられた衛星では、最低約150億円から最高約500億円)を必要としている。宇宙事業団では、現在開発中のプロジェクトについて、既開発部品の活用等によるコスト低減を図るとともに、今後、更に効率的な開発手法を研究し、開発コストの低減を図ることとしている。 また、打ち上げた33機の人工衛星中9機にトラブルが発生しており、取り分け平成6年の「きく6号(技術試験衛星VI型)」、8年の「みどり(地球観測プラットフォーム技術衛星)」と相次いで事故が発生している。新しい技術開発を伴う宇宙事業団の任務からみて、ある程度のトラブルの発生は避けて通れないものの、一層のリスクの低減を図り、事故によって損なわれた信頼の回復を図ることが求められている。c |
|||
3 今後の課題 | |||
ロケット事業及び人工衛星事業の今後の展開に当たっては、効率的に宇宙開発を進めていく観点から、一層の開発コストの低減に努めるとともに、一連の事故の発生によって損なわれた両事業の信頼の回復を図るための対策を早急に講ずることが課題である。 それと同時に、ロケット事業及び人工衛星事業は、共に多額の公的資金の投入が必要とされる事業であり、その推進に当たっては、国民の理解と協力を得ていくことが必要で、研究開発の意義・目的、費用対効果等の観点から評価を行うとともに、その結果を明らかにしつつ、開発の妥当性について不断に論議していくことが必要である。 |