1 ニーズを踏まえたサービス提供基盤整備計画の策定
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市町村(東京都の特別区を含む。以下同じ。)及び都道府県は、それぞれ、老人福祉法(昭和38年法律第133号)及び老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づき老人保健福祉計画を作成するものとされている。
市町村老人保健福祉計画は、地域における保健福祉サービスの種類ごとの提供目標量を明らかにするとともに、これに基づきサービス提供体制を計画的に整備することを内容としている。また、都道府県老人保健福祉計画は、広域的な観点から、老人保健福祉圏域の設定、サービス提供体制の確保策等を内容としている。
老人保健福祉計画の作成について、厚生省は、在宅サービスに重点を置くとともに、各種サービスを総合的に提供する観点から、「老人保健福祉計画について」(平成4年6月30日付け老計第86号厚生大臣官房老人保健福祉部長通知)において、市町村が市町村老人保健福祉計画に定める各種サービスの目標量を算定するに当たって参酌すべき標準(以下「参酌標準」という。)を示しており、市町村ではこれを参考に計画期間中の目標量を設定することとされている。
なお、現行の老人保健福祉計画の計画期間は平成6年度から11年度までとなっており、その後、12年度を始期とする新たな老人保健福祉計画を作成することとされている。
また、国は、高齢者の保健福祉サービスの基盤整備等を推進するため、平成元年に、11年度までを計画期間とする「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」(平成元年12月21日大蔵・厚生・自治3大臣合意)を策定し、基盤整備等を図ってきた。さらに、平成6年にゴールドプランの内容を見直し、地方公共団体において作成された老人保健福祉計画を集約して、当面緊急に行うべき高齢者介護サービス基盤の整備目標を引き上げるとともに、今後取り組むべき高齢者介護サービス基盤の整備に関する施策の基本的枠組みを示した「新・高齢者保健福祉推進十か年戦略(新ゴールドプラン)」(平成6年12月18日大蔵・厚生・自治3大臣合意)を策定し、高齢者介護対策の一層の充実を図っている。
平成12年4月には、介護保険法(平成9年法律第123号)に基づき、介護等が必要な高齢者等に対し、在宅サービスを重視しつつ、利用者の選択により各種サービスを総合的に提供する介護保険制度が実施されることとされており、本制度の円滑な実施のためにも、地域の実情を踏まえた介護サービス提供基盤の計画的な整備の推進が重要である。 |
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今回、厚生省、17都道府県及び51市町村について、保健福祉サービス提供基盤の整備に関する計画の策定状況、サービス提供基盤の整備状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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ア |
サービス提供基盤の整備状況 |
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1. |
平成9年度における新ゴールドプランの達成状況をみると、施設サービスに関しては、特別養護老人ホームが90.7パーセント、老人保健施設が64.6パーセント、介護利用型軽費老人ホーム(ケアハウス)が29.5パーセント、高齢者生活福祉センターが56.8パーセントとなっている。
また、在宅サービスに関しては、訪問介護員(ホームヘルパー)が80.4パーセント、短期入所生活介護(ショートステイ)が72.6パーセント、日帰り介護(デイサービス)・日帰りリハビリテーション(デイケア)が56.6パーセント、老人訪問看護ステーションが51.2パーセントなどとなっている。
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2. |
調査した17都道府県について特別養護老人ホームに係る老人保健福祉計画の達成状況をみると、計画最終年度の平成11年度には、8都道府県が整備目標量(入所定員)の100パーセント以上を達成すると見込んでおり、残りの9都道府県も整備目標量に近い整備が可能と見込んでいる。
しかし、17都道府県のうち、特別養護老人ホームへの入所を希望し、市町村も特別養護老人ホームへの入所措置を要すると判断したが、施設に空床がないために入所できない者(以下「入所希望者」という。)の数を把握している13都道府県では、入所希望者は、平成6年度の2万5,069人から9年度には4万318人へと約1.6倍(1万5,249人)増加している。これらの入所希望者の居所について、36市町村における調査結果(平成9年度の入所希望者数は6,716人)からみると、在宅で入所を希望している者が3割前後、老人保健施設等他の施設において入所を希望している者が7割前後とみられる。
このような状況について、厚生省は、全体的には、今後、介護保険制度の実施に伴い、特別養護老人ホーム、老人保健施設及び療養型病床群は、共に介護保険施設として同一の制度の下で運営されることとなることや、在宅サービスの充実により、在宅での生活を希望する者の増加が見込まれること、また、平成10年度から老人保健福祉計画の最終年度までに相当数の特別養護老人ホームの整備が予定されていること等から、入所の需給が改善されるとしている。
特別養護老人ホームの入所需要は、高齢者人口の割合、在宅サービス提供基盤の整備状況等により地域によって異なると考えられる。しかし、調査した市町村の老人保健福祉計画における特別養護老人ホームの整備目標量の設定状況をみると、厚生省が示す参酌標準(目標年度における当該市町村の65歳以上人口の1パーセント強の数(入所者数))に沿って、目標年度における65歳以上人口に対する入所者数の比率(以下「整備率」という。)を設定している状況がうかがわれる。現に整備率が把握できた31市町村のうち、29市町村(93.5パーセント)は、市町村老人保健福祉計画において整備率を1.0パーセントから1.5パーセントの範囲内に設定している。これら29市町村のうち、平成9年度における在宅の入所希望者数を把握している17市町村について、同年度の入所需要数(入所者数に在宅の入所希望者数を加えた人数)に対する市町村老人保健福祉計画における11年度末の特別養護老人ホームの整備目標量の割合をみると、整備目標量が入所需要数を下回るものが7市町村あり、その割合は0.98から0.60(0.80以下のものは3市町村)となっている。一方、整備目標量が入所需要数以上のものが10市町村あり、その割合は1.00から1.44(1.20以上のものは6市町村)となっており、入所需要が必ずしも十分計画に反映されていない状況がみられる。
一方、ケアハウスは、自炊ができない程度の身体機能の低下等が認められ、又は高齢等のため独立して生活するには不安が認められる者であって、家族による援助を受けることが困難なもの(原則60歳以上の者)が利用する施設である。
ケアハウスについて厚生省が示している参酌標準は、「目標年度における当該市町村の65歳以上人口の0.5パーセント程度の数(入所者数)」とされており、調査した17都道府県のうち、9都道府県は、0.47パーセントから0.5パーセントの整備率で整備目標量を設定している。
しかし、上記の9都道府県における平成9年度末現在のケアハウスの計画達成状況をみると、計画どおりの需要が見込まれないことなどの理由により、達成率は40.6パーセントと低い。
平成12年4月から実施される介護保険制度においては、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するため、市町村は、市町村介護保険事業計画(第1期の計画期間は平成12年度から16年度)を定めることとされており、特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群の3施設は、介護保険施設として当該計画に基づき整備が進められることとされている。
平成11年度中に作成するものとされている市町村介護保険事業計画に関して、国は、新たに、介護保険施設全体の整備率を「目標年度における当該市町村の65歳以上人口のおおむね3.4パーセント」とする参酌標準を示しているが、市町村においては、地域における施設サービスの需要を的確に把握し、これに対する施設の整備状況を踏まえた施設整備量を計画に定め、需要にこたえていくことが重要であると考えられる。
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イ |
新ゴールドプラン後における国の支援計画等の検討 |
新ゴールドプランは、介護保険法制定前の地方公共団体の老人保健福祉計画を集約して策定されたものであり、我が国の高齢者に対する保健福祉サービス提供基盤の整備目標を示すとともに、地方公共団体による老人保健福祉計画に基づく各種サービス提供基盤の計画的な整備を支援する計画であり、重要な役割を有している。今後、要援護高齢者の急激な増加が見込まれることから、更に保健福祉サービス提供基盤の計画的な整備を図っていく必要があり、それを支援するための国の計画の策定等支援方策が必要であると考えられる。
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したがって、厚生省は、ニーズを踏まえた要援護高齢者に対する介護サービス提供基盤の計画的整備を推進する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
市町村における市町村介護保険事業計画の作成に当たっては、在宅サービスを重視しつつ、地域の需要に即した介護保険施設の整備が行われるよう、適切な目標量が設定されるために必要な措置を講ずること。 |
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2. |
新ゴールドプランの計画期間終了後における介護サービス提供基盤の計画的整備の推進に係る新たな国の支援方策を検討すること。 |
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2 サービス提供基盤の整備推進 |
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(1) 介護保険施設の在り方の見直し |
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特別養護老人ホームは、65歳以上であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅での介護が困難な者を入所させ、養護することを目的とする施設(老人福祉法第20条の5)である。また、老人保健施設は、疾病、負傷等により、寝たきり又はこれに準ずる状態にある老人に対し、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療を行うとともに、その日常生活上の世話を行うことを目的とする施設として、都道府県知事の許可を受けたもの(老人保健法第6条第4項)である。
特別養護老人ホームに入所する者については、市町村が、「老人ホームへの入所措置等の指針について」(昭和62年1月31日付け社老第8号厚生省社会局長通知)に基づく特別養護老人ホームの入所措置の基準に適合する者を対象に、必要に応じて入所措置を行うこととされている。
一方、老人保健施設は、老人保健施設の施設及び設備、人員並びに運営に関する基準(昭和63年厚生省令第1号。以下「老健施設設備・運営基準」という。)に基づき、その身体の状態及び病状に照らし、施設療養の提供が必要であると認められる入所申込者を入所させるものとされている。また、具体的な入所者の範囲については、「老人保健施設の施設及び設備、人員並びに運営に関する基準の施行について」(昭和63年1月20日付け健医老第9号厚生省保健医療局老人保健部長通知)により示されている。
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今回、17都道府県に所在する35特別養護老人ホーム及び35老人保健施設における入所者の状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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ア |
入所者の態様 |
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特別養護老人ホームへの入所措置の対象者は、1)入院加療を要する病態でないこと、2)入所判定審査票による日常生活動作事項(歩行、排泄、食事、入浴、着脱衣)のうち、全介助が1項目以上及び一部介助が2項目以上あり、かつ、その状態が継続すると認められること等に該当する者とされている。また、老人保健施設の入所者の範囲は、1)病弱な寝たきり老人、2)病弱な寝たきりに準ずる状態にある老人(屋内での歩行が困難な者等)、3)痴呆性老人、4)初老期痴呆により痴呆の状態にある者(3)、4)については、痴呆のため日常生活の自立が困難であり、かつ、その状態が継続すると認められる者であって、痴呆の程度が中等度以上に該当するもの)のいずれかである者とされている。
厚生省の老人保健施設調査の結果によれば、入所者に占める寝たきり老人の割合は、平成6年には38.2パーセントであったものが9年には41.2パーセント、また、痴呆を有する老人の割合は、71.3パーセントであったものが74.4パーセントといずれも高くなってきている傾向がみられる。
また、当庁が調査した35老人保健施設における調査日現在の入所者3,163人についてみても、寝たきり老人が46.2パーセント(1,460人)と半数近くを占めている。また、痴呆を有する老人も85.7パーセント(2,710人)に上っており、このうち痴呆度の高い老人が48.8パーセント(1,543人)となっている。
一方、当庁が調査した35特別養護老人ホームにおける調査日現在の入所者2,484人についてみると、寝たきり老人が64.5パーセント(1,601人)、痴呆度の高い老人が53.1パーセント(1,319人)となっている。両施設を比較してみると、寝たきり老人、痴呆度の高い老人とも特別養護老人ホームの方が老人保健施設より割合が高くなっているが、調査した老人保健施設の中には、寝たきり老人が60パーセント以上のものが8施設(22.9パーセント)、痴呆度の高い老人が60パーセント以上のものが14施設(40.0パーセント)ある。
また、特別養護老人ホームへの入所希望者の居所をみると、調査した36市町村の入所希望者6,716人の31.3パーセント(2,103人)が老人保健施設に入所している。また、調査した老人保健施設のうち、入所希望者数が把握できた22老人保健施設においては、入所者1,605人の22.9パーセント(368人)が特別養護老人ホームへの入所希望者であり、中には、入所者(53人)の8割以上が特別養護老人ホームへの入所申請を済ませている施設の例もみられる。
このように、老人保健施設が、特別養護老人ホームの代替施設として利用されている面がある。 |
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イ |
機能訓練の実施状況 |
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厚生省は、養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(昭和41年厚生省令第19号。以下「特養等設備・運営基準」という。)において、特別養護老人ホームの入所者に対する生活指導について定めており、この中で、入所者に対し、その身体的及び精神的条件に応じ、機能を回復し又は機能の減退を防止するための訓練に参加する機会を与えなければならないとしている。
また、厚生省は、老健施設設備・運営基準において、老人保健施設は、老人の自立を支援し、その家庭への復帰を目指すものでなければならないとし、入所者に対する機能訓練は、入所者の心身の諸機能の改善又は維持を図るため、計画的に行われなければならないとしている。
調査した35特別養護老人ホームにおける機能訓練の実施状況をみると、8施設では、配置を義務付けられていない理学療法士、作業療法士による機能訓練が実施されており、残りの27施設においても、看護婦、介護職員等によるレクリエーションを主体とした、機能の維持等を目的とした訓練が行われている。
一方、調査した35老人保健施設における機能訓練の実施状況をみると、前述のように、入所者に機能訓練による回復の見込みが少ない寝たきりや痴呆症の高齢者が増加していることもあって、特別養護老人ホームと同様に機能維持を目的とした訓練が中心にならざるを得ない状況がみられる。
ちなみに、厚生省の平成8年の老人保健施設調査によると、同年9月の老人保健施設の退所者の退所時における日常生活動作(移動、食事、排泄、入浴等6項目)に関する介助の必要度(自立、一部介助、全介助)を入所時と比べると、例えば、「自立」している者の割合は、各項目で0.7ポイントから3.5ポイントの上昇にとどまっているなど、機能の回復が十分図られないまま退所している者が多い状況となっている。
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ウ |
入退所の経路、家庭復帰の状況 |
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調査した35特別養護老人ホームについて、平成9年度に退所した426人の退所理由をみると、死亡が333人(78.2パーセント)と最も多く、次いで、医療機関への入院が82人(19.2パーセント)となっており、家庭への復帰は5人(1.2パーセント)となっている。
また、厚生省の平成9年の老人保健施設調査によれば、同年9月の老人保健施設の退所者1万5,648人のうち、家庭に復帰した者が7,297人(46.6パーセント)、医療機関に入院した者が5,743人(36.7パーセント)となっているが、施設を退所した後は、入所前の場所に戻る傾向がみられる。例えば、社会福祉施設から老人保健施設に入所した者は、退所後社会福祉施設に入所する者が最も多く(45.2パーセント)、次いで、医療機関(30.4パーセント)、家庭(20.1パーセント)の順となっている。また、医療機関から入所した者は、退所後医療機関に入院する者が最も多く(53.8パーセント)、次いで、家庭(26.5パーセント)、社会福祉施設(13.5パーセント)などとなっており、家庭以外から入所した者の退所後の家庭復帰率は高くはない。
さらに、調査した35老人保健施設における平成9年度の入退所の状況をみると、退所後、医療機関への入院等を経て再度老人保健施設に入所している例(8施設(入所者552人)で191人(34.6パーセント))や、老人保健施設間で入退所を繰り返している例(2施設で6人)がみられるほか、施設の方針として、入所期間を一定期間内に限定している例(1施設)もみられる。
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このように、特別養護老人ホーム及び老人保健施設は、制度上、その機能と役割を異にしているものの、入所者の態様に大きな差異はみられない。
なお、介護保険制度の下においては、特別養護老人ホーム、老人保健施設は、それぞれ指定介護老人福祉施設、介護老人保健施設として、また、主として長期にわたり療養を必要とする患者を収容することを目的とする療養型病床群は指定介護療養型医療施設として、共に、要介護と認定された者の自由な選択に基づく契約により施設サービスを提供するものとされている。しかし、これらの3種類の施設の機能、入所対象者の範囲等は、現行制度に基づく各施設の機能等をそのまま引き継ぐこととされているほか、施設の種類ごとに、給付される介護報酬額や入所者の自己負担額には差異がある。 |
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したがって、厚生省は、介護保険制度の下での施設サービス体系の合理化及び利用者ニーズへの的確な対応を図る観点から、介護保険制度に基づく指定介護老人福祉施設と介護老人保健施設について、指定介護療養型医療施設を含めて役割・機能の見直しを行い、一元化を含めその在り方を検討する必要がある。 |
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(2) 施設基準等の見直し |
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ア |
特別養護老人ホーム |
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特別養護老人ホームは、老人福祉法第15条に基づき、市町村にあっては都道府県知事に届け出て、社会福祉法人にあっては都道府県知事の認可を受けて、それぞれ設置することができることとされている。特別養護老人ホームは、平成8年度現在、全国で3,458施設設置されているが、その85.5パーセント(2,957施設)は、社会福祉法人の設置によるものである。
このようなことから、社会福祉法人による特別養護老人ホームの経営の安定化・効率化に資し、円滑な施設整備が行えるよう環境の整備を図っていくことが重要であると考えられる。 |
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今回、17都道府県及び51市町村における特別養護老人ホームの整備状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1. |
特別養護老人ホームの設置・運営に関しては、特養等設備・運営基準により、特別養護老人ホームの入所定員規模、設備構造基準、職員配置基準等が定められている。
特別養護老人ホームの職員については、入所措置費の国庫負担額算定上の基準として、施設長、医師、直接処遇職員(生活指導員、寮母及び看護婦又は准看護婦)等配置すべき職種と、職種ごとの配置数が定員規模別に定められている。直接処遇職員については、「養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準の施行について」(昭和41年12月16日付け社老第149号厚生省社会局長通知)において、原則として常時勤務する者で確保することとされ、非常勤職員を配置する場合の要件としては、直接処遇職員中常勤職員が8割以上であること、非常勤職員の勤務時間数が常勤職員を充てる場合の勤務時間数を上回ること等と定められており、近年における就業者のニーズ、多様な雇用形態を活用した効率的、弾力的な職員配置を困難なものとしている。
また、施設入所者に対する給食のため、例えば入所定員130人までの施設は4人の調理員を配置しなければならないが、特養等設備・運営基準により、調理業務の全部を外部に委託する場合は調理員を置かないことができることとされている。しかし、調理業務の委託は、「保護施設等における調理業務の委託について」(昭和62年3月9日付け社施第38号厚生省社会局長・児童家庭局長連名通知)により、施設内の調理室を使用して調理させる場合に限られ、施設外で調理し搬入する方法は認められないこととされており、効率的な経営を阻む原因の一つとなっている。
一方、特別養護老人ホームの給食と本質的な差異はない病院の給食においては、従来、病院内の給食施設を使用して行う、いわゆる代行委託のみが認められていたが、平成8年3月の医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)の改正により、喫食直前の再加熱を病院内の給食施設において行うこと等の一定の条件の下、病院外の調理加工施設を使用した調理の委託が認められている。
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2. |
社会福祉法人の設立に当たっては、社会福祉事業法(昭和26年法律第45号)第24条及び「社会福祉法人の認可について」(昭和39年1月10日付け社発第15号厚生省社会局長・児童局長連名通知)により、社会福祉事業の安定的運営の観点から、i
)原則として、社会福祉施設の用に供する土地、建物を自己所有していること、ii)自己所有でない場合は、国又は地方公共団体から貸与又は使用許可を受けるか、国又は地方公共団体以外の者から貸与を受けるときは、土地の取得が極めて困難な地域であること、事業の存続に必要な期間の地上権又は賃借権が設定されていること等が認可の要件とされている。
調査した40市町村について、平成9年度における特別養護老人ホームへの入所希望者(全体で1万4,780人)のうち、在宅の入所希望者を項目1で記述した36市町村における入所希望者に占める在宅の入所希望者の割合(3割前後)を基に推計すると、約4,000人と見込まれる。このうち、7政令指定都市では、その住民人口が40市町村全体の約70パーセントを占めていることもあって、在宅の入所希望者の合計が40市町村全体のそれに占める割合は約80パーセントとなっている。また、特別養護老人ホームの入所者数(当該市町村が措置した入所者で、他の市町村に所在する施設への入所者を含む。)に対する在宅の入所希望者の比率をみると、40市町村全体の16.6パーセントに対し、7政令指定都市では18.9パーセントとなっている。
このように、特に大都市において施設整備が進まない理由は、主として高い地価と用地確保難にあることから、国は、従来、社会福祉法人の資産要件として、土地、建物の貸与を受ける場合は無償とすることを原則としてきたが、有償による貸与を認めるとともに、養護老人ホーム等に併設するものを除き50人以上とされている特別養護老人ホームの入所定員の最低基準を大都市については30人以上とする緩和措置を平成7年度に講じている。しかし、例えば、入所定員の緩和措置に関しては、小規模な施設の運営は経営上困難である等の理由から、調査した7政令指定都市においては、入所定員が50人未満の小規模施設(併設されているものを除く。)はない。
また、社会福祉法人における用地取得の困難性への対応方策としては、地方公共団体等が保有する遊休公有地の貸与、施設整備を地方公共団体が行い施設運営を社会福祉法人に委託する、いわゆる公設民営方式の活用等を図ることも効果的であると考えられる。しかし、調査した7政令指定都市においては、一部において学校移転跡地等地方公共団体の保有地を特別養護老人ホームを設置する社会福祉法人に貸与している例(施設整備中のものを含め3市・区で6社会福祉法人に貸与)や公設民営方式による施設整備を行っている例(1特別区で3施設)がみられるものの、総じて、必ずしも積極的な取組が行われていない状況がみられる。
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したがって、厚生省は、特別養護老人ホームの経営の効率化を図るとともに、施設整備の推進に資する観点から、直接処遇職員に係る非常勤職員の配置及び調理業務の外部委託に関する要件の緩和について検討するとともに、大都市地域を中心に、社会福祉法人等による円滑な施設整備の推進方策について検討する必要がある。 |
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イ |
ショートステイ事業 |
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老人福祉法に基づく老人短期入所事業(ショートステイ事業)は、要援護高齢者の介護者が介護疲れ等種々の事情から一時的に介護が困難な場合に、その期間、当該要援護高齢者を施設に入所させて介護者の負担の軽減を図る事業(国庫補助事業)である。
ショートステイ事業は、老人福祉法第10条の4において、市町村が自ら実施するか、又は市町村が市町村以外の者に委託して実施できるとされている。その場合の委託先として、厚生省は、「在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について」(昭和51年5月21日付け社老第28号厚生省社会局長通知)に基づく「老人短期入所運営事業実施要綱」により、社会福祉法人、医療法人、「短期入所生活介護(ショートステイ)事業指針」(平成9年12月17日付け障障第183号・老振第139号厚生大臣官房障害保健福祉部長・老人保健福祉局長連名通知)の内容を満たす民間事業者等とするよう都道府県を通じ指導している。
ショートステイ事業により要援護者を入所させる施設としては、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム及び同事業の実施を目的に設置された老人短期入所施設がある。
厚生省は、ショートステイ事業の利用期間が原則7日以内と短期間であり、需要も不安定であるため、老人短期入所施設として単独で整備するよりも、職員の連携や施設の共用が可能な特別養護老人ホームへの併設により整備を促進することとし、平成9年度までの間、特別養護老人ホームの整備に際しては、原則として、一定数のショートステイ専用床を確保するよう指導してきた。このようなことから、ショートステイ事業を実施する施設は、平成9年度末現在、全国で4,414施設となっているが、このうち3,745施設(84.8パーセント)は特別養護老人ホーム、621施設(14.1パーセント)は養護老人ホームで実施されており、老人短期入所施設として単独で整備されたものは48施設(1.1パーセント)と少ない。
今回、17都道府県及び51市町村におけるショートステイ事業の施設整備状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1. |
17都道府県について、老人保健福祉計画におけるショートステイ事業の施設整備方針をみると、国が指導していたこともあって、新設される特別養護老人ホームへの併設整備を図る旨の記載があるものが12都道府県(70.6パーセント)みられ、そのうち、1施設当たりのショートステイ専用床の併設目標数を10床又は20床などと具体的に示しているものが6都道府県(35.3パーセント)みられる。
調査した43特別養護老人ホームにおける平成9年度のショートステイ専用床の利用状況をみると、1床当たりの利用率は、平均60.1パーセントとなっており、50パーセント未満の施設も16施設(37.2パーセント)と多い。
また、調査した特別養護老人ホームの中には、i)市町村では、必要となるショートステイ専用床を4床と想定していたが、都道府県の老人保健福祉計画において、新たに特別養護老人ホームを整備する場合は10床のショートステイ専用床を整備することとされていたため、この計画に従い平成8年度に整備した特別養護老人ホームに10床のショートステイ専用床を設けたことから、9年度の利用率が9.3パーセントと低いもの、ii)特別養護老人ホームの整備に際しては、20床のショートステイ専用床を確保することが都道府県における施設整備費の補助事業の採択要件とされているため、平成6年度の特別養護老人ホームの整備に際してショートステイ専用床を20床併設したものの、9年度の利用率が30.5パーセントと低いものなど、地域のニーズを踏まえて計画的、効率的な整備が図られていない例がみられる。
なお、ショートステイ事業については、居宅において介護等を受ける高齢者の増加に伴い、今後需要が増大すると見込まれるが、介護保険制度の下では、事業の実施主体として新たに民間事業者の参入が可能となっている。
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2. |
ショートステイ事業については、「老人短期入所運営事業実施要綱」に基づき、入所の期間は原則として7日以内とされ、市町村長が真にやむを得ないと認める場合には、必要最小限の範囲で延長できることとされている。
しかし、調査した43施設の中には、ショートステイを繰り返し継続的に利用している事例もみられ、通算100日以上の長期利用となっているものが6施設(14.0パーセント)で52事例みられる。この中には、介護者がいないことを理由に、平成10年10月の調査時点において、病気入院の期間を除き入所期間が通算839日の長期に及んでいる事例もある。
また、老人保健施設を退所後、当該施設に再入所するまでの大部分の期間、隣接する特別養護老人ホームに併設されたショートステイ専用床を利用している事例(1施設で4事例)もみられる。
このように、ショートステイ事業が、長期間あるいは特別養護老人ホーム等の代替機能として利用されていることは、ショートステイ事業の本来の目的を逸脱し適切を欠くものであるが、当該事業のために整備された専用床の利用が低調であることにも起因するものとみられる。
また、ショートステイ専用床については、その利用目的が限定されており、空床があっても特別養護老人ホームへの入所希望者を受け入れることは認められていないが、調査した特別養護老人ホームの中には、恒常的に空きのあるショートステイ専用床に入所希望者を受け入れたいとして、弾力的な運用を求める意見(4件)がある。
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したがって、厚生省は、ショートステイ専用床の効率的な整備・活用を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
ショートステイ専用床の整備に対する国庫補助の申請に当たっては、都道府県に対し、地域のニーズを十分踏まえて行うよう指導すること。 |
2. |
特別養護老人ホームに併設整備されたショートステイ専用床に恒常的に空床がある場合には、サービス需要の動向を踏まえ、特別養護老人ホーム入所者用又は他の老人福祉施設への簡易な手続による転換等、空床の活用方策について検討すること。 |
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(3) ホームヘルプサービスの充実 |
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「老人ホームヘルプサービス事業」は、要援護高齢者の家庭にホームヘルパーを派遣し日常生活の世話を行う事業(国庫補助事業)であり、平成9年度末現在、3,250市町村で実施されている。厚生省は、今後の要援護高齢者対策として、在宅による保健・福祉対策を重点に置いて施策を展開していくこととしており、在宅サービスの基幹となる老人ホームヘルプサービス事業の充実が課題となっている。
老人ホームヘルプサービス事業は、老人福祉法第10条の4において、市町村が自ら実施するか、又は市町村が市町村以外の者に委託して実施できることとされている。その場合の委託先として、厚生省は、「在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について」に基づく「老人ホームヘルプサービス事業運営要綱」により、市町村社会福祉協議会、社会福祉法人、医療法人、「在宅介護サービスガイドライン」(昭和63年9月16日付け老福第27号・社更第187号厚生大臣官房老人保健福祉部長・社会局長連名通知)の内容を満たす民間事業者等とするよう都道府県を通じ指導している。
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今回、17都道府県及び51市町村におけるホームヘルプサービスの実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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ア |
ホームヘルパーの確保状況 |
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新ゴールドプランにおけるホームヘルパーの確保目標数17万人に対する平成9年度末現在の確保数は13万6,661人で、計画達成率は80.4パーセントとなっている。この場合、新ゴールドプランの確保目標数は、常勤と非常勤の比率を3対7、非常勤の稼働量を常勤の3分の1と仮定して、老人保健福祉計画におけるホームヘルプサービスの目標量(ホームヘルパーの派遣回数)をホームヘルパー数に換算した数値であり、また、確保数は、当該年度の常勤及び非常勤のホームヘルパーの実数である。
しかし、調査した39市町村における老人保健福祉計画上のホームヘルパーの確保目標数は、ホームヘルプサービスの目標量(ホームヘルパーの年間総派遣回数又は総時間数)を常勤ホームヘルパー数に換算(換算の方法は市町村により区々)した数値であり、平成9年度末現在のホームヘルパーの確保数を常勤ホームヘルパーに換算すると、計画達成率は、39市町村全体で48.6パーセント(最高の市町村は98.6パーセント、最低の市町村は23.7パーセント)となっており、80パーセント以上とほぼ目標を達成しつつあるとみられるものは4市町村と少ない状況にある。
また、年間の総派遣回数、総派遣時間数でみると、計画達成率はそれぞれ40.4パーセント(39市町村中データの把握できた28市町村)、35.3パーセント(同15市町村)となっている。
このように、市町村におけるホームヘルパーの確保、ホームヘルプサービスの提供量が十分でない理由は、後述イのように、要援護高齢者に対するホームヘルパーの派遣が不十分な状況がみられるにもかかわらず、介護保険制度の下での民間事業者の参入の程度が予測できず、ホームヘルパーの需給予測が困難であるとして新規確保に消極的であること、現状で当該市町村の要援護高齢者のニーズはほぼ充足されていると認識していること等、ホームヘルプサービスの充実に向けた市町村の取組が必ずしも十分でないことによる。
しかし、介護保険制度においてホームヘルプサービスが円滑に実施されるためには、各市町村において、同制度施行までに老人保健福祉計画のサービス水準が早急に確保されることが必要である。
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イ |
老人ホームヘルプサービス事業の実施状況 |
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1. |
ホームヘルパー派遣先の高齢者の態様を把握できる14市町村について、在宅の寝たきり老人によるホームヘルプサービスの利用状況をみると、ホームヘルプサービスを利用している者は、全体の19.6パーセント(最高の市町村で35.8パーセント、最低の市町村で7.9パーセント)にすぎない。また、在宅の特別養護老人ホーム入所希望者による在宅サービスの利用状況を把握できる16市町村においては、在宅の入所希望者のうち、ホームへルプサービスを受けている者は30.5パーセントとホームヘルパーの派遣が不十分な状況がみられる。 |
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2. |
市町村の中には、ホームヘルパーの確保数が不足している等のため、i )ホームヘルプサービスが受けられない利用待機者が平成10年6月現在で601人に達しているもの、ii)利用者の態様にかかわらず、一律に利用回数を制限しているもの、iii)利用者の中に、市町村が実施している老人ホームヘルプサービス事業のみでは日常生活に支障があるとして、独自に民間のヘルパーを併用している者がみられるものなど利用者のニーズにこたえるものとなっていない実態がある。 |
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3. |
調査した51市町村のうち、重度の介護を要する高齢者の在宅生活を支える24時間対応の巡回型のホームヘルプサービスを実施している市町村は、平成9年度現在、22市町村(43.1パーセント)である。 |
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4. |
厚生省は、全国で老人ホームヘルプサービス事業を利用している約41万人のうち、その1割程度に当たる約4万人は介護保険の給付の対象にならないと見込んでいるが、これらの者のうち、従来と同様に居宅における生活の支援が必要な者に対しては、行政上の適切な対応が求められている。また、このことに関連して、調査した市町村の中には、ホームヘルプサービスとして、独居の高齢者に対する相談や安否確認のみのためにホームヘルパーが派遣されている例があるが、これらの業務自体は格別の専門的な知識・技能を要しない場合もあるとみられることから、必要に応じて、例えば、ボランティアの協力を求める等により実施することとし、ホームヘルパーの有効活用を図っていくことを検討する必要がある。 |
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したがって、厚生省は、在宅サービスの充実を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
老人ホームヘルプサービス事業について、早急に老人保健福祉計画の達成を図るよう地方公共団体の取組を促すこと。 |
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2. |
介護保険の給付対象とならない要援護高齢者に対するホームヘルプサービスについて、現行のサービスの内容及び対象者を見直した上で、居宅における生活の支援が必要な者に対する適切なサービスの確保方策を検討すること。 |
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3 事業運営の見直し |
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(1) 特別養護老人ホームにおける入所措置の適正化 |
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厚生省は、「老人ホームへの入所措置等の指針について」により、市町村が実施する特別養護老人ホームへの入所措置については、入所措置の基準を踏まえた適正な入所措置決定を行うとともに、入所後においても、毎年1回、入所継続の要否について見直しを行うよう市町村を指導している。 |
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今回、22市町村及び34特別養護老人ホームについて、入所措置等の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1. |
調査した22市町村が行った入所措置について、747件を抽出して、入所措置基準の適合状況を調査したところ、6市町村における合計19件(2.5パーセント)は、基準に適合しておらず、入所時の措置決定が適正に行われていない状況がみられる。
また、調査した34特別養護老人ホームの入所者のうち1,961人を抽出して、調査日現在における入所措置基準の適合状況について調査したところ、基準に適合しない者が、25施設において合計150人(7.6パーセント)みられる。
さらに、22市町村について、特別養護老人ホームに入所している者に対する入所継続の要否判定の実施状況をみると、次のとおり、いったん、入所措置を行った後の措置の見直しは不十分となっている。
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i ) |
入所者数が多いため、入所者すべての入所継続の要否を判定することは体制面から困難なこと等を理由として、入所継続の要否判定を行っていないもの(2市町村) |
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ii) |
施設等から措置の変更等の要望があった場合にのみ入所継続の要否を判定しているもの(2市町村) |
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iii) |
施設から毎年1回、入所者の生活状況報告書等を徴し、措置の継続要否の見直しを行うこととしているが、施設から措置継続の意見が出されたものについては、措置権者として主体的に見直しを行っていないもの(6市町村) |
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このように、入所措置基準に適合していない者の入所を継続させている理由として、調査した市町村及び特別養護老人ホームでは、i
)高齢者が施設内で一時的に日常動作、精神状況が回復しても、家庭ではその状態を維持することが困難である、ii)復帰する住居がない、あるいは住宅の構造上生活することが困難である、iii)復帰しても介護する家族がいない、あるいは家族が受け入れてくれない、iv)家庭で日常生活を行うための在宅サービスが十分確保できない等を挙げており、これらの者の施設退所後の他の入所施設又は在宅サービスの提供基盤の整備が課題となっている。 |
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2. |
特別養護老人ホームの入所者のうち、介護を要する状態の改善等により入所措置基準に適合しなくなったが、家庭での自立した生活の継続に不安がある高齢者のための施設としては、ケアハウスや高齢者生活福祉センターがあり、これらの施設は、新ゴールドプラン、地方公共団体の老人保健福祉計画により整備が進められることとされている。また、その他の施設としては、老人福祉法に基づき、経済的事情、生活環境上の理由で養護を必要とする高齢者を入所させる養護老人ホームがある。養護老人ホームは、平成8年10月1日現在、全国で947施設が設置運営されており、全体の定員(6万7,014人)に対する入所者数(6万4,446人)の割合は96.2パーセントと高い。また、調査した17養護老人ホームについても、調査日現在、全体の定員(1,177人)に対する入所者数(1,140人)の割合は96.9パーセントと高いものとなっている。しかし、養護老人ホームの整備に係る国の助成措置については、ゴールドプランがスタートした平成2年度以降10年度まで、老朽施設の改築等を除き新規の整備は事実上凍結されてきたところである。 |
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3. |
市町村が特別養護老人ホームの入所措置の決定及び入所継続の要否判定を法令に則して適正に行うべきことは当然のことであるが、入所措置基準に適合しない者の入所を容認することは、入所希望者との間で大きな不公平を生ずることになる。
さらに、特別養護老人ホームは、介護保険制度の下では指定介護老人福祉施設となり、入所するためにはその身体の状況により要介護と認定される必要がある。しかし、介護保険法施行法(平成9年法律第124号)第13条は、介護保険法の施行日において現に入所している者に関する経過措置として、介護保険法施行後5年間に限り要介護被保険者とみなす旨規定しており、このため、現行の入所措置基準に適合せず、また、要介護と認定されない者であっても、介護保険法施行後5年間は継続して入所することが可能となる。
このため、これらの者については、早急に、退所後の受入れを行う施設の確保等も含め、適正な措置が必要と考えられる。 |
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したがって、厚生省は、特別養護老人ホームの運営の適正化を図るとともに、介護保険制度への円滑な移行に資する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
市町村に対して、特別養護老人ホーム入所措置等の適正化を図るとともに、入所措置基準に適合しない者については、早急に、家庭復帰又は他の施設への入所を促すよう適切な措置を講ずること。 |
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2. |
特別養護老人ホームの入所者のうち、入所措置基準に適合しない者、又は介護保険法に基づく要介護と認定されない者の円滑な退所を促すための方策を検討すること。 |
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(2) ホームヘルパー業務の見直し |
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要援護高齢者が居宅で受ける保健福祉サービスは、老人保健法に基づく訪問看護、老人福祉法に基づくホームヘルプサービス、デイサービスの訪問事業(入浴サービス、給食サービス、洗濯サービス)などがあるが、ホームヘルプサービスは、要援護高齢者の日常生活全般にわたる世話を担当するものであり、在宅サービスの主要な柱として位置付けられている。
厚生省は、今後、要援護高齢者に対する在宅での介護サービスに重点を置くこととしていることから、居宅において、身体介護とともに療養・治療等に必要な処置が適時、的確に行われることが重要となってくる。
また、「ホームヘルパー養成研修事業の実施について」(平成7年7月31日付け社援更第192号・老計第116号・児発第725号厚生省社会・援護局長・老人保健福祉局長・児童家庭局長連名通知)により、都道府県及び政令指定都市において、ホームヘルプサービスを提供するために必要な知識及び技能を有するホームヘルパーを養成するための研修が行われている。
なお、介護保険制度において、介護サービス費の支給を受けるためには、ホームヘルパーが介護福祉士の資格を有するか、又はホームヘルパー養成研修を修了している者であることが要件とされている。
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今回、17都道府県、51市町村、52ホームヘルプサービス事業者における老人ホームヘルプサービス事業の実施状況等を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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1. |
ホームヘルプサービスの内容は、i )食事、排泄、入浴等の身体の介護、ii)調理、洗濯、生活必需品の買物等の家事の援助、iii)介護等に関する各種の相談・助言である。しかし、医療行為については、医師法(昭和23年法律第201号)第17条や保健婦助産婦看護婦法(昭和23年法律第203号)第31条等に基づき、特定の資格を有する者のみに認められるものである。しかし、ホームヘルパーはこれに当たらないことから、ホームヘルパー業務には医療行為は含まれないこととされている。
在宅の要援護高齢者に必要となる医療行為については、主に老人保健法第46条の5の2に基づく老人訪問看護事業により訪問する看護婦等が実施することとされている。老人訪問看護事業の拠点となる老人訪問看護ステーションは、平成10年12月末現在、全国に3,139か所整備されており、新ゴールドプランの目標値5,000か所に対して62.8パーセントの整備率であるが、市町村別にみると、全国3,371市町村の62.5パーセントに当たる2,108市町村が未設置となっている。また、調査した34事業者における老人訪問看護事業の実施状況をみると、利用者1,593人に対する訪問回数は、週2回以下の訪問が全体の87.8パーセントと大部分を占め、週1回以下の訪問も全体の63.6パーセントと多いものとなっている。
医療行為は、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為であり、具体的には、社会通念に照らして判断されるものとされていることから、必ずしもその範囲は明確なものとなっていない。このため、調査したホームヘルプサービス事業者の中には、例えば、薬の服薬管理を医療行為と判断し、実施していないもの(3事業者)がある一方、これを医療行為には該当しないと判断して、当該事業者の利用者向けの業務案内にサービス内容の一つとして例示しているもの(2事業者)がある。また、介護家族が日常的に行っていることを理由に、家族等からガーゼ交換等の処置を要請された場合に、医療行為に該当すると考えて断ったためにトラブルが生じたり、状況によっては行わざるを得ないとしている例があるなど、ホームヘルパーには戸惑いや混乱が生じている。
このように、ホームヘルプサービス事業者により身体介護に関連する処置の取扱いが区々となっているが、これら事業者の中には、じょくそうや火傷等による傷口のガーゼ交換、血圧測定、軟膏の塗布、摘便、体温測定、浣腸、痰の吸引、目薬の点眼、座薬の注入等の処置の一部を実施しているものがみられる。
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2. |
要援護高齢者の身体介護に関連して必要となる各種の処置のうち、ホームヘルプサービス事業者が一般的に医療行為と判断しているものの中には、医師の医学的判断及び技術が必要であり、看護婦等が行うべきものもあるが、一方では、医学等の専門知識・技能を有しない家族等が日常的に行っている比較的簡易なものもある。この中には、ホームヘルパーが行っても利用者の身体に危害を及ぼすおそれのない行為が少なくないとみられる。これらの行為を身体介護を行うホームヘルパーができる限り幅広く行えるようにすることが、利用者及び介護家族のニーズに沿うとともに、介護家族の負担軽減にもなる。また、これらの処置のみのために老人訪問看護事業による看護婦等の派遣を求めることは、老人訪問看護ステーションが相当数整備されたとしても、現実には対応が困難とみられるほか、看護婦等人材の効率的活用、サービスのコスト面からみても合理的とは考えられない。 |
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したがって、厚生省は、介護等サービス業務の充実及び効率化を図る観点から、身体介護に伴って必要となる行為をできる限り幅広くホームヘルパーが取り扱えるよう、その業務を見直し、具体的に示す必要がある。 |
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4 サービス利用者に対する情報の積極的な提供 |
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要援護高齢者に対する福祉施策については、平成12年4月に予定されている介護保険制度の実施によって、従来の「市町村から与えられる施策」から「利用者自らの選択によってサービス内容を決定できる施策」へと大きな転換が図られる。
要援護高齢者が介護サービスを的確に選択するためには、サービスの内容やサービス提供事業者に関し利用者が必要とする情報の提供が不可欠であり、また、これらの情報提供が事業者間の競争を促し、サービスの向上に資するものと考えられる。
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今回、介護サービスに関する情報に係る利用者への情報提供の体制、情報提供の実施状況を調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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ア |
介護サービスに関する情報の提供状況 |
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現在、介護サービスに関する情報の利用者への提供は、主として、都道府県及び市町村、在宅介護支援センター、介護実習・普及センターで行われており、その実施状況は次のとおりである。 |
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1. |
調査した17都道府県及び51市町村における情報提供の実施状況をみると、広報誌や小冊子による各種サービスの概要、施設等の利用案内、連絡先などの周知が行われているほか、施設等が作成した利用案内等が介護サービス担当窓口において希望者に配布されている。 |
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2. |
在宅介護支援センターは、「在宅老人福祉対策事業の実施及び推進について」に基づく「在宅介護支援センター運営事業等実施要綱」により、在宅の要援護老人の介護者等に対し、在宅介護に関する総合的な相談に応じ、ニーズに対応した各種の保健福祉サービスが総合的に受けられるように関係行政機関、サービス実施機関等との連絡調整等の便宜を供与することを目的として、市町村が設置運営する施設である。調査した37施設では、相談やサービス利用申請の受付が主な業務となっており、情報提供については、各種介護サービスの内容や利用方法等の案内が行われている。 |
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3. |
介護実習・普及センターは、「介護実習・普及センター運営事業の実施について」(平成4年4月22日付け老企第137号厚生大臣官房老人保健福祉部長通知)に基づく「介護実習・普及センター運営要綱」により、老人介護の実習等を通じて地域住民への介護知識、介護技術の普及、介護機器の展示・相談体制を整備し、介護機器の普及を図ることを目的として、都道府県、政令指定都市が設置運営する施設であるが、調査した16施設では、主として介護機器の利用方法や利用手続等の情報が提供されている。 |
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このように介護サービスに関する情報の利用者への提供が、各種サービスの利用案内等が中心となっているのは、現行の要援護高齢者に対する福祉施策においては、制度上利用者がサービス提供事業者やサービス内容等を自由に選択できない仕組みとなっていることにもよる。しかし、介護保険制度の下で、利用者が自ら希望する介護サービス提供事業者を選択しようとする場合には、例えば、施設の立地、構造、設備やスタッフの資格・配置状況、具体的サービス内容、利用料金、第三者によるサービス等の評価結果、経営状況などのきめ細かな情報が分かりやすい形で提供されることが極めて重要であると考えられる。
現在、厚生省及び各都道府県・市町村は、介護保険制度の導入準備を進める中で、主として居宅介護サービス計画(ケアプラン)を作成する指定居宅介護支援事業者や介護サービス提供事業者、行政機関などに対して必要な情報を提供する電算システムの構築を進めており、その一環として、平成11年3月に社会福祉・医療事業団による「WAM NET」(福祉保健医療情報ネットワークシステム)が運用を開始している。
このネットワークは、介護サービス提供事業者に関する情報を加入した行政機関や指定居宅介護支援事業者などに提供するものであるが、提供される情報の中には、第三者によるサービス等の評価結果や介護サービス提供事業者の経営状況等の情報は含まれていない。
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イ |
サービス評価事業の実施状況 |
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1. |
要援護高齢者に対する保健福祉サービスに関する評価制度としては、厚生省が平成5年度から実施している「特別養護老人ホーム・老人保健施設サービス評価事業」(以下「特養・老健評価事業」という。)及び8年度から実施している「在宅福祉サービス評価事業」(以下「在宅評価事業」という。)がある。両事業とも都道府県が実施主体となり、保健・医療・福祉関係者(医師、看護婦、作業療法士、介護福祉士、施設代表者等)、有識者、住民等により構成されたサービス評価委員会の委員が、1日程度施設に出向いて、サービスの実施状況を実地に視察することによりサービス水準の評価を行うとともに、評価先の関係者と改善方法について意見交換等を行い、サービス水準の向上に向けた必要な助言を行うものである。評価を受けたサービス提供事業者は、評価結果、助言を生かして、自主改善を図ることとされている。
両事業のうち、特養・老健評価事業は、平成5年度から8年度までに全都道府県で特別養護老人ホーム842施設、老人保健施設487施設を対象に実施されており、在宅評価事業も8年度には全都道府県で実施されている。
しかし、両事業については、新たな介護保険制度の下では、利用者の的確なサービスの選択やサービスの質の一層の向上に資する観点から、より客観的かつ充実した評価が求められ、評価方法等についての見直しが必要と考えられる。
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2. |
評価結果については、評価対象事業者が改善を行った後に都道府県が公表することとされているが、調査した17都道府県のうち、評価結果を全く公表していないものが特養・老健評価事業で6都道府県、在宅評価事業で8都道府県ある。また、公表している場合でも、主として評価対象事業者、関連団体に対する優良事例の紹介であり、一般への評価結果の提供は、2都道府県にとどまっている。
さらに、調査した17都道府県では、評価結果通知後の施設等における改善状況を把握していないものが特養・老健評価事業で8都道府県、在宅評価事業で7都道府県みられるとともに、把握している都道府県においても一般に公表している例はない。
このように、両事業によるサービス評価結果を一般に公表しておらず、改善結果の把握も徹底していない理由として、調査した都道府県は、両事業が評価対象事業者に自主改善を促すことを目的としてサービス提供事業者の自主性に基づき実施するものであり、実施主体である都道府県が改善指導を行うべき事業ではなく、また、一般への情報提供を前提として行っている事業ではないためとしている。
しかし、介護保険制度の実施を目前に控えて、平成11年度内に同制度に基づく利用者ごとの介護サービス計画が作成される必要があることから、サービス提供事業者ごとのサービス内容、施設設備内容、サービス内容に関する第三者評価結果等利用者のニーズを踏まえた情報提供の仕組みが11年中にも構築され、必要な情報が提供されることが期待されている。
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ウ |
広告の規制等 |
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介護サービスを提供する施設としては、主として、特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群の3種類の施設があり、介護保険制度の実施に伴い、要介護認定を受けた高齢者が自ら選択してこれらの施設に入所し、介護サービスを受けることとなる。
介護サービスの利用者がサービス提供施設を選択する場合に必要な情報を得るためには、これらの情報ができる限り幅広く提供されるようにしておく必要がある。
情報提供の手段の一つである広告に関しては、現在、特別養護老人ホームについては、法令上の規制はない。一方、老人保健施設については、老人保健法第46条の9に基づき、1)施設の名称、電話番号、所在の場所、2)勤務する医師及び看護婦の氏名、3)その他都道府県知事の許可を受けた事項、4)厚生大臣が特に必要があると認めて定める事項に限り広告ができることとされている。厚生大臣が特に必要があると認めて定める事項は、昭和63年厚生省告示第87号により、1)施設及び構造設備に関する事項、2)職員の配置数、3)サービスの種類、内容(医療の内容に関するものを除く。)、4)利用料の内容とされており、「老人保健施設に関して広告できる事項について」(平成4年3月7日付け老健第51号厚生大臣官房老人保健福祉部老人保健課長通知)において、各事項ごとに広告できる内容が定められている。
また、療養型病床群を有する病院及び診療所の広告については、医療法(昭和23年法律第205号)第69条に基づき、1)医師又は歯科医師である旨、2)医療法上認められた診療科名、3)病院又は診療所の名称、電話番号及び所在の場所を表示する事項、4)常時診療に従事する医師又は歯科医師の氏名、5)診療日又は診療時間、6)入院設備の有無、7)療養型病床群の有無、8)紹介をすることができる他の病院又は診療所の名称、9)建物の内部に関する案内(病院の場合に限る。)、10)その他厚生大臣の定める事項に限定されている。厚生大臣の定める事項としては、平成10年厚生省告示第224号により、1)入院患者に対して提供する役務(医療に関するものを除く。)及びそれに要する費用、2)医師、薬剤師、看護婦等の員数、3)病床数又は病室数、4)病室、機能訓練室、談話室、食堂又は浴室に関する事項(医療の内容に関する事項を除く。)等とされている。
情報提供については、療養型病床群を有する病院及び診療所に関して、医療法第14条の2に基づき、当該病院又は診療所内に掲示すべき事項として、管理者の氏名、診療に従事する医師の氏名、医師の診療日及び診療時間等の一定事項が定められ、また、老人保健施設に関しては、老健施設設備・運営基準第26条において、施設内に管理規程の概要、職員の勤務体制、協力病院及び利用料に関する事項を掲示するよう定めている。また、特別養護老人ホームに関しては、介護保険制度の下で指定介護老人福祉施設となるが、この場合、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第39号)第29条に基づき、施設内の見やすい場所に、運営規程の概要、従業者の勤務体制、協力病院、利用料等を掲示しなければならないこととされている。
なお、社会福祉法人については、事業報告書、貸借対照表等の経営情報の開示義務の新設等が検討されている。 |
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したがって、厚生省は、利用者の介護サービスの選択に資する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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1. |
施設の状況、提供されるサービスの内容、事業の経営状況、第三者評価結果等、介護サービスの利用者が必要とする情報の内容を検討し、早急に、これらの情報が適時、適切に入手できる情報提供システムを整備・運用すること。
また、第三者評価については、客観的かつ充実した評価のための仕組みを検討すること。 |
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2. |
老人保健施設、療養型病床群に係る広告及び情報提供については、第三者評価結果、施設の経営状況等を含め、利用者が適切な選択をするために必要となる情報をできる限り幅広く提供できるよう広告規制の緩和及び情報提供の拡充を検討すること。 |