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適正かつ公平な課税の実現 |
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適正な申告、納税の基盤整備 |
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我が国における国税の基本的な制度は、昭和22年に、納付すべき税額が行政庁の処分によって確定する賦課課税制度から、納付すべき税額が納税者の申告によって確定する申告納税制度に改められた。この申告納税制度は、納税者が自ら法令の定めるところに従って課税標準等及び税額等を確定することを原則としており、申告書を提出する義務があると認められる者が申告書を提出しなかった場合又は申告書の提出があった場合においてその申告が不適当と認められる場合に限って、税務調査に基づく税務署長の更正又は決定により課税標準等及び税額等が確定される制度である。
この申告納税制度の下で適正かつ公平な課税を実現していくためには、税務行政の運営に当たり、国税庁における法令の解釈や適用の指針を明確かつ統一的に示していくことが重要となっている。
国税庁では、職員が法令の適用を適正・公平かつ統一的に行っていくため、法令解釈通達(一般的、基本的な先例、準則となるもので、税法の解釈・取扱いを定めたもの)において、統一的な法令の解釈や適用の指針を可能な限り示しているとしている。
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今回、国税局(11局及び1事務所)及び税務署(48署)において、税務調査、職員に対する研修、納税者からの問い合わせ、不服申立て等に係る法令の解釈・適用の状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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法令解釈通達において統一的な法令の解釈や適用の指針が示されていないものについて、職員の執務の参考や納税者への情報提供のために、国税局が独自に作成した職員研修用の資料等の文書や職員が執筆等した出版物において、法令の解釈や適用の指針と解される内容が記載されているものがみられる(「増改築のあった自用家屋で固定資産税評価額の再評価が未了の場合の評価方法(相続税)」等4事項)。また、これらの記載内容をみると、文章表現が様々なものとなっており、統一的な記載とはなっていない。
また、国際課税の分野で最も重要な課題の一つとされている「移転価格税制」(法人税)(法人が、国外にある親会社、子会社などの関連企業との間で行う国外関連取引の対価の額が、独立企業間価格と異なることにより課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたものとみなして、法人の所得計算を行う制度)においては、納税者が申告に当たって独立企業間価格(国外にある関連企業との取引を、その取引と同様の状況の下で非関連企業と行ったとした場合に成立するであろう価格)を自ら計算しなければならないが、国税庁本庁によりその算定方法に関する指針が十分に示されていない。
このように、納税者が申告を行う際に必要と考えられる事項について、法令の解釈や適用の指針が示されていない状況がみられるが、法令の解釈や適用の指針を通達等に明定することにより、納税者の適正な申告の一層の確保につながるものと考えられる。
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国税局では、国税庁本庁が示した法令の解釈や適用の指針を補完する趣旨で、職員向けの内部文書を作成している。これらの文書については、国税庁本庁による把握及び点検が十分に行われていない。
このため、国税局が独自に作成した内部文書をみると、i )本来盛り込まれるべき国税庁本庁の法令の解釈が盛り込まれていないもの(「使途秘匿金課税の課税要件(法人税)」、「市街地農地等の評価に係る宅地造成費の算定方法(相続税)」)、ii
)国税局が独自に作成した内部文書における法令の解釈が、国税庁本庁の法令の解釈と異なるもの(「外国人に対する居住者の判定方法(源泉所得税)」、「家庭用財産の評価方法(相続税)」)があり、この結果、国税局の一部の税務上の取扱いに適切でないものがみられた。
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3.
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法令解釈通達に示されていない新たな取引形態等が出現した場合や法令解釈通達に示された法令の解釈や適用の指針が具体的な問題にどのように適用されるかが明らかでない場合については、納税者においてどのような解釈・適用を行えば適正な申告となるかが明らかでないまま、申告、納税を行わなければならない状況となる。
このような状況に対応するため、現在、国税庁では、納税者等からの質疑があればこれに回答することとしている。このうち、具体的な事案に則した取扱いとして整理したものなど課税実務上有用なものについては、国税庁本庁が「質疑応答」として国税局及び税務署に示しているが、その内容については、一部を除き公表されていない。
また、質疑応答の内容をみると、中には、移転価格税制など一部の分野において導入されている事前確認制度のような作用を果たしているものもみられ、これを発展させて納税者が帳簿等の具体的な資料を提示してあらかじめ国税当局の見解を確認できる仕組みを整備していく余地が認められる。
さらに、先例や他の申告の参考となるもの等、納税者が申告を行う上で有用な国税不服審判所の裁決内容については、納税者の秘密保持に配意しつつ、公表案件を拡充していく余地がある。
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したがって、大蔵省(国税庁)は、納税者による適正な申告、納税を確保する基盤を整備する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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納税者の適正な申告に必要な法令の解釈や適用の指針については、できる限り通達等への明定を行うこと。 |
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国税局による法令の解釈・適用に関する文書の作成については、適正かつ公平な課税の確保の観点からの優先度に応じて、国税庁本庁がこれを把握し、点検すること。 |
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質疑応答及び裁決の内容の公表を拡充するとともに、将来的には納税者が帳簿等の具体的な資料を提示してあらかじめ国税当局の見解を確認できる仕組みを整備するよう、その検討に着手すること。 |
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適正な申告、納税の環境整備 |
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納税者が自ら法令の定めるところに従って課税標準等及び税額等を確定しなければならない申告納税制度の下では、納税者に対し、国税庁における法令の解釈や適用の指針、税務上の取扱いを分かりやすい形で公表していくことが重要となっている。
国税庁では、平成10年11月から、それまでの通達を、その性質に応じて「法令解釈通達」、「事務運営指針」又は「指示」に再整理した上で、法令解釈通達については公表することとし、そのほかの通達についても納税者一般に周知する必要があるものについては公表することとしている(平成12年4月1日現在、法令解釈通達439本、事務運営指針512本)。
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今回、国税局(11局及び1事務所)及び税務署(48署)において、税務調査による課税の状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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国税庁本庁では、法令解釈通達以外に、複雑化かつ多様化する経済取引に関する課税上の取扱いをできる限り適正かつ公平なものとするため、職員向けの執務参考のための資料として「情報」、「事務連絡」等を作成し、国税局及び税務署に示している(例えば、「海外渡航費の取扱い(法人税)」、「地区の異なる2以上の路線に接する宅地の評価方法(相続税)」等8事項)。
情報、事務連絡等については、税務署等において、法令の解釈・適用のよりどころとして使用され、一部は出版物に引用されている。また、税務署等における税務調査の結果をみても、これらに基づかない納税者の申告が誤りとされている事案がみられた。
しかし、これらについては、納税者が適正な申告を行うために有用なものも少なくないにもかかわらず、国税庁の見解としての公表はほとんど行われていない。
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2.
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税務調査結果に基づき、申告内容の是正が必要と認められる場合、国税当局は、納税者に対して更正処分を行うかあるいは納税者に修正申告書の提出を勧めるいわゆる「修正申告の」を行うかの取扱いを明確にし、また、修正申告を行った場合、不服申立ての機会が失われる等の法的効果についての納税者への告知に係る取扱いを明確にすることが必要と考えられるが、これらに関する取扱いが国税局間で異なる状況がみられた。
また、事務運営指針には、重加算税の賦課基準など、納税者に重大な影響を与える基準が定められているが、これらの内容が公表されていない状況もみられた。
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したがって、大蔵省(国税庁)は、納税者による適正な申告、納税が可能な環境を整備する観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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法令解釈通達に準じた法令の解釈や適用の指針としての実務的な機能を有する「情報」、「事務連絡」等のうち、納税者にとって有用なものについては、その位置付けを明確にした上で、広く分かりやすい形で公表すること。 |
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修正申告の慫慂の実施の取扱いを明確にするとともに、修正申告に伴う法的効果の納税者への告知に係る取扱いを定めること。
また、重加算税の賦課基準など、納税者に重大な影響を与える基準を定めた場合には、公表すること。 |
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適正かつ効率的な事務運営の推進 |
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我が国の税務行政を取り巻く環境は、経済社会の構造変化、納税者数の増加等課税対象の増大、経済取引の一層の複雑化・広域化に加え、高度情報化や経済活動の国際化の急速な進展等により大きく変化し、厳しさを増している。
このような中で、限られた人員で税務行政を効果的に行うためには、事務運営の一層の適正化や効率化を進めていくことが重要である。
また、税務行政は、高度な専門的知識と経験が必要であり、職員は、関係法令の知識及び税務に関する技術的能力の向上に努めることが重要となっている。
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今回、国税局(11局及び1事務所)及び税務署(48署)において、税務行政の事務運営の状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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国税局から税務署に対する税務調査の方法についての指示等をみると、i )大口・悪質事案の調査を担当する国税局(資料調査課)の調査対象候補事案とされたものの、国税局による調査が行われず、税務署がこれを引き継ぐこととなった事案について、調査の実施に不可欠な調査の方法の指示が明確に示されていないため、調査が効果的、効率的に行われていないもの(申告所得税、法人税、相続税)、ii
)交際費課税の調査対象を抽出する場合の基準が、国税局によって異なるもの(法人税)、iii)国税局の職員研修用の資料等の中に、作家、タレント等の必要経費に関し、過去において使用されていた算定方法が記載されているもの等(申告所得税、法人税)がみられた。 |
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税務調査等の結果に基づく更正等の処分や修正申告の慫慂等における指摘等の内容をみると、i
)推計課税(納税者の帳簿書類等が不備である場合や納税者の調査に対する協力が得られない等により納税者の収入・支出が明らかでない場合に税務署長が更正又は決定を行うに当たって、各種の関連する資料を用いて所得の金額等を推計する方法)を行う際の計算の過程における係数の処理の方法が国税局間で区々となっているもの等(申告所得税)、ii
)税務調査等の結果に基づく指摘等の内容に誤りがあるもの(消費税、印紙税)がみられた。 |
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したがって、大蔵省(国税庁)は、税務行政における適正かつ効率的な事務運営の推進を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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税務調査の方法の指示等について、明確化・適正化を推進すること。 |
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更正等の処分、修正申告の慫慂等における指摘等の内容の適正化を推進するため、推計課税を行う際の計算過程での処理の方法の統一等を行い、また、職員に対する業務研修の充実等を図ること。 |
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納税者の申告手続の負担軽減及び利便の向上 |
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納税者が自ら法令の定めるところに従って課税標準等及び税額等を確定しなければならない申告納税制度の下では、国税庁が、申告、納税に係る手続の統一化、簡素化等により納税者の負担軽減を図るとともに、納税者に提供する申告案内等のサービスの内容を継続的に見直していくこと等により、納税者の利便の向上を図っていくことが重要である。
国税庁では、「タッチパネル方式」による還付申告書の作成支援機器の導入、「電子申告」制度の導入に向けた実験の開始等を行ってきており、今後とも、このような情報化の進展等に対応した納税者の利便の向上を図っていくための措置を講じていくことが望まれる。
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今回、国税局(11局及び1事務所)及び税務署(48署)において、申告、納税に係る手続、税務調査手続の実施状況、国税事務に係る国と地方公共団体との協力状況等について調査した結果、次のような状況がみられた。 |
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申告、納税に係る手続をみると、i )確定申告書の添付書類である「収支内訳書」の記載項目が国税局間で区々となっているもの(申告所得税)、ii
)外国税額控除(国際的二重課税を排除するために、納税者が外国政府に納付した税額のうち一定の限度額について自国に納付する税額から控除する制度)を受けるための書類の提出部数が多く一部の広範な海外活動を展開している納税者に負担となっているもの(法人税)がみられた。 |
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税務調査については、法令解釈通達又は事務運営指針において、納税者の便宜等を図るため、原則として、調査対象とする納税者に対し調査の着手を事前に知らせる事前通知を行い、調査の結果、何らの非違も認められなかった納税者に限り調査結果通知を行うこと等とされている。これらの実施状況をみると、i
)税務署における事前通知の実施の状況に相当の差異が認められる、また、積極的に納税者に対する調査結果通知の交付が行われていないもの(申告所得税)、ii
)税務調査を受けた納税者のうち、更正等の処分又は修正申告の慫慂を受けた者及び全く非違がなく調査結果通知を受けた者以外の納税者については、税務調査の終了が明確に認識できないなど、不安定な状態に置かれたとするものもあり、税務調査終了についても通知を検討する余地があるもの(法人税)、iii)事務運営指針において税務署等に対して求められている更正等の処分の理由の記載の実施が低調なもの(相続税)がみられた。 |
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国と地方公共団体との間では、三税申告一本化の趣旨を推進し、納税者の利便の向上を図る観点から、国税庁と自治省との間で取り交わされた「国と地方団体との税務行政運営上の協力についての了解事項」(昭和57年12月1日)等に基づき、資料情報の相互交換、納税相談、申告書の収受その他執務上の必要な相互協力を一層推進することとされている。
しかし、確定申告期における国税に係る納税相談や申告書の収受の状況をみると、税務署ごとの管内事情等様々な要因によって、地方公共団体による納税相談及び申告書の収受の状況にばらつきがみられ、地方公共団体からの効果的な協力が必ずしも十分に得られていないと考えられるものもみられた。
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4.
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関係法令を一覧で示すなど納税者の利便の向上のためにもなる法令解釈通達について、法令の改正に伴う内容の変更が長期間遅延していたもの(法人税)がみられた。
また、相続税の申告案内に当たって必ず送付することとされている書類以外に、国税局それぞれで納税者の便宜を図る等のための書類を作成しており、また、税務署におけるこれら書類の送付は統一的でない。さらに、これら書類の内容をみると、相続財産の評価額の算定を行うための書類について、工夫及び配慮の余地があるものがみられた。
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したがって、大蔵省(国税庁)は、税務行政における納税者の申告手続の負担軽減及び利便の向上を図る観点から、次の措置を講ずる必要がある。 |
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申告に当たって必要な添付書類等について、統一化・簡素化を図ること。 |
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通達に定められている税務調査に係る納税者への通知手続(事前通知、調査結果通知及び相続税に係る更正等の処分の理由の記載)について、その実施の拡大を図るとともに、税務調査の終了を納税者に明確に通知すること。 |
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納税相談等に係る地方公共団体からの協力が一層得られるよう努めること。 |
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納税者の利便の向上のためにもなる通達の改正の迅速化並びに申告案内に当たっての送付書類の可能な範囲での統一及び相続財産の評価額の算定を行うための書類の記載内容の充実を図ること。
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