豊かな山林に囲まれた雲南市へ移住し、サラリーマンから農業の担い手に転身

農業法人・営農組合など6団体で構成する広域連携組織の運営

  • 島根

島根県 雲南市 地域おこし協力隊 現役隊員(任期:2019年10月〜)
山本典生さん

興味があった農業・田舎暮らしを実現するため、雲南市へ移住

島根県東部に位置する雲南市は古くから米どころとして発展を遂げ、豊かな林野に恵まれた地域だ。山本さんは大阪の機械部品商社での勤務を経て、家族とともにこの地への移住を選び、未経験ながら農業の担い手へと転身した。

「テレビなどで田舎暮らしの様子を見て、妻と共に農業や田舎暮らしに興味を持っていました。そんな中、大阪で開催されていた『島根フェア』に参加したことが移住のきっかけです。その後、複数の市町にも相談しましたが、私自身の希望である農業と田舎暮らしを実現できること、長女が続けているバドミントンができる中学校もあることと、家族それぞれの希望が叶うため、雲南市に移住を決めました。」

しかし、山本さんが移住相談を始めた時点では、雲南市には農業関連の協力隊の受入体制はまだなかったという。

「移住にあたって雲南市役所と相談を進めていく過程で、『農業に取り組みたい移住希望者がいるのなら、農業部門の協力隊も新設しよう』ということになりました。農業がしたいという私の希望を叶えるために市役所で検討してもらえたことから、地域おこし協力隊として着任することができました。」

サラリーマンから、未経験の農業へ。農作業への学びを一つ一つ深めつつ、田植えの手伝いなどを行う

農家の人手不足を解決すべく、努力を重ねる日々

山本さんの協力隊としてのミッションは、雲南市吉田町にある農業法人・営農組合など6団体で構成する広域連携組織の運営だ。

「農家の皆さんは兼業農家が多く、日中は勤めに出ているので、平日は人手不足できめ細かな営農ができていません。その課題解決のために、私が運営に関わる広域連携組織では、さまざまな農家さんのサポートを行っています。例えば農地の草刈りや田植えの補助、ドローンによる農薬散布のオペレーター、冬場の除雪作業などです。」

大阪でのサラリーマン生活から一転、未経験で農業の世界へ飛び込んだ山本さん。何もかもが初めての経験ばかりで、最初は苦労したという。

「以前は月曜から金曜まで会社へ電車通勤する生活でした。大阪での住宅事情もあってこれまで家庭菜園の経験もありませんでした。はじめは、農業機械のエンジンのかけ方、使い方すら分からない状態でしたが、先輩方がマンツーマンで丁寧に教えてくれました。一度教わったことを確実に身につけるべく、自宅周辺でも刈払機での草刈りの練習を重ねました。とにかく自分自身で手を動かして実際に作業する時間を増やしました。」

さらには、方言の壁にも悩まされたという。

「出雲地方の中でも特に訛りが強い地域なので、何度聴いても、具体的な指示内容が分からず最初は戸惑いました。あるとき地元の奥様方が『ひょっとして、あまり通じてないのかな?』と思われたようで、休憩時間に方言を少しずつ教えてくれるようになりました。そこから、地元の方とコミュニケーションを重ねることで、次第に方言にも慣れることができました。」

リモコン草刈機や農薬散布ドローンのオペレーターなど、兼業農家の手が回らない細かな営農作業をサポートしている

地域の人々とのコミュニケーションを一つ一つ大切に

コミュニケーションの機会を一つ一つ大切にすることで、移住後の壁を乗り越えていった山本さん。雲南市役所のサポートにも大いに助けられたという。

「月1回雲南市役所で、職員の方たちと『地域おこし協力隊 活動報告会』を実施しています。その際に生活面での困りごと、協力隊の活動で困っていることなどについてのヒアリングがあります。また、それらの困りごとに関連する行政サービスを提案してくれます。さらに、新しくチャレンジしたいことがあるときも、参考になる資料などをいろいろと提供してくれるので、助かっています。」

山本さんの勤務地と居住地は同じ雲南市内でも少し離れているそうだが、住まいのある地区でも周囲の方と積極的に交流するよう努めている。

「勤務地の人々とは、着任当初から交流の機会が数多くありました。一方、居住地では、自治会長さんから『こちらの暮らしはどう?』などと声を掛けていただいていましたが、他の住民の方とは挨拶は交わすものの、なかなか交流する機会がありませんでした。

勤務地と同じように居住地でもコミュニケーションをとることが大切だと思い、自治会に入って、地域行事などに積極的に参加しました。地域行事に参加することによりお互いの顔を覚えることもでき、『そば打ち』『餅つき』『とんどさん』など、都会では経験したことがないような体験ができて、とても新鮮です。子どもたちも一緒に参加して、『楽しい!』と大喜びでした。」

お正月明けの伝統行事「とんどさん」など地域行事にも家族とともに積極的に参加。一つ一つのコミュニケーションの機会を大切にしている

地域の農業の担い手不足解消に向けて、引き続き尽力

協力隊着任後は自身の仕事だけでなく、家族を含めたライフスタイルまでもが一変した。山本さんは、実際に住んでみなければ分からない田舎ならではの魅力を実感しているという。

「大阪時代は、終業後に同僚と軽く飲みに寄ったつもりが気づけば終電…帰宅してみれば、家族はみんな既に寝ていて、子どもと接する時間は主に朝といった生活でした。雲南市では、日が暮れたら終業、車移動なので終業後の飲み会もあまりなく、まっすぐ帰宅です。毎日家族揃って夕飯を囲み、子どもとのコミュニケーションの時間も増えました。

休日は自然そのものが広大な遊び場で、工夫次第で楽しむ場がたくさんあります。子どもとの会話の内容も『今日は天気いいけど何する?』『虫取り!魚取り!川遊び!』といった風に変わりました。自然を相手に遊ぶことは、子どもの将来にとっても、『目の前にあるものを活かして、いかに楽しむか?』『便利やお金に頼らない』といった発想を養う上で、良い影響があるのではないかと考えています。」

協力隊の活動と並行して、県内の農林大学校にも通い営農指導を受け、農業経営についても学んでいる山本さん。

「今後は、『地域の農業担い手不足をいかに解決し、農業経営を安定させるか』をテーマに挑んでいきたいです。地域内では、農業だけでは生活できないという受け止めがされているように思います。そこで営農作業サポートの取り組みを通して、農業だけでもやっていけるんだ。と示すことで、地域人材の流出防止や、高齢化による跡継ぎ不足問題の解決へとつなげていきたいです。

また、規格外作物廃棄の問題もあります。廃棄するのではなく、各農家から米・野菜などを買い入れて新たな販路を開拓する。あるいは原材料として活用し食品企画・販売などにつなげられないかと、可能性を探っているところです。」

山本さんは協力隊としての任期終了後も引き続き広域連携組織の運営を担いつつ、個人でも稲作や露地野菜づくりにチャレンジし、販売をしてみたいと考えているという。

「新しいことに挑戦する場面で、不安はつきものです。安定を求める人もいるかもしれませんが、少しはリスクを取ってそのハラハラ・ドキドキを自分の活力に変える。新たな挑戦を恐れず、ポジティブに考えて楽しむ発想も大事です。」

地域の農業の将来像を描きながら、新たな目標に挑み続ける山本さん。今後も農業の担い手としてステップアップしていきたいと語る姿は、とても力強かった。

豊かな山林に恵まれ、米どころ、たたら製鉄の里としても知られる雲南市吉田町。米どころということで、美味しい地酒も生み出されている。

Profile

島根県 雲南市 地域おこし協力隊 現役隊員
山本典生さん

大阪での機械部品商社での勤務時代に、農業や田舎暮らしに関心を持ち、家族とともに雲南市へ移住、協力隊に着任。未経験から農業の担い手へと転身した。協力隊の活動と並行して県内の農林大学校で農業経営等に関する学びを重ね、雲南市吉田町の農業の担い手不足問題に挑む。