管理運営とカフェ開業を予定している古民家の前に立つ土井さん

協力隊新聞発行、村のPR活動、イベント、お祭り、畑のお手伝いほか

  • 東京

東京都 檜原村 地域おこし協力隊 隊員OG(任期:2019年8月~2022年3月)
土井智子さん

「生き方を見つめ直したい」と夫婦での移住を決意

千葉県に在住し、会社員としてバックオフィス業務に従事をしながら2人の子育てをしてきた土井さんは、「もっと人と関わる仕事がしたい」との思いから退社し、女性向けリラクゼーションサロンを開業。経営も順調だったという。

「仕事も楽しかったのですが、子ども達も大きくなり、夫も私も、それぞれのライフワークにシフトしたいと考え始めました。夫はキャンプ場の運営が夢だったので、自然豊かなところに移住をするのもいいかなと思っていました。」

ご主人は建築関係の仕事に長く携わってきた経験があり、土井さん自身もサロン経営などで培った経験を活かせる暮らし方があるのではないかと考えていたという。

「移住先と仕事を同時に探していたときに、檜原村で地域おこし協力隊を募集していることをインターネットで知りました。以前、三頭山(みとうさん)登山のために檜原村を訪れた際に、自然も素晴らしく、村の人たちの印象も良かったのを思い出しました。募集を見つけたときは直感的に『私達が行くのはここだ!』と思いました。」

夫婦どちらかだけが採用されても、夫婦で檜原村には移住するつもりだったという土井さん。

「私達はそれぞれ、やってきたことも得意なことも違いますが、お互いのキャリアを合わせてできることもあると思っていました。結果的に夫婦共に採用され、2019年8月に地域おこし協力隊に着任しました。」

左)地元の団体「人里もみじの里」が整備しているもみじ山からの眺望 右)地元で行われる『どんど焼き』にも参加

村の魅力をアピールしようと〝協力隊新聞〟を発行

地域おこし協力隊に夫婦共に採用が決まったが、当時2人の娘さん達は都心に通う学生。そこで一家は、娘さん達は都心に、ご夫婦は村にと分かれて新生活をスタートさせた。

「活動内容については、自分で考えたことを提案する形でしたので、まず村の魅力を広く発信する広報関連の仕事がしたいと相談しました。村の暮らしは素晴らしいと感じていましたが、地元の人たちは意外にその良さに気づいていない部分もあるし、村役場が発行している広報紙も最低限の告知が載っている程度で、村の情報や記事がありませんでした。そこで、まずは地域おこし協力隊新聞として、『SPOON(スプーン)』という媒体を発行することにしました。」

2019年10月に土井さんと当時の協力隊のメンバーが立ち上げた同媒体は、取材から編集、印刷、折込広報まで全作業をすべてメンバーが担うという形で、隔月で発行している。

「取材を通じて協力隊の活動も知ってもらいながら、地域の人と接点が持てるようになり、より身近に感じてもらえるようになりました。村の人のこれまでの人生や暮らし方、村の料理などを、取材を通して知ることができ、私たち自身が村のことを深く知ることができたのは貴重な機会でしたし、交流も深まるというメリットもありました。『SPOON』は新聞という形なので、村を訪れた人たちに渡せば村の魅力を外に発信・アピールできます。年中行事の様子を紹介するほかに、私が担当しているのが『ひのはらごはん』という連載。檜原村は山間で交通が不便な村なのですが、そのために保存食の文化があって、昔ながらの食べ方が継承されています。地元の野菜などの村での食べ方や季節の行事にちなんだ料理を村の人に取材して紹介しています。」

毎日が驚きと発見の連続で、楽しいことばかりだという土井さん。あえて苦労していることを挙げれば、古民家に住んでいることもあり、冬の寒さが厳しいことぐらいだそうだ。

農作業の手伝いで畑を耕す土井さん

お祭りや年中行事に参加することも貴重な体験

檜原村には、お祭りやイベントなどの年中行事が数多く、そこに参加することも大きな楽しみという土井さん。

「地元にある五社神社のお祭りに夫婦で参加して、夫が村の人に教えて頂き獅子舞を演じました。他にも1月のどんど焼きから始まり、夏の払沢の滝まつりなど本当に様々な行事に参加しました。出店などを手伝うという体験も新鮮で、新聞記事のネタにもなりますし、何より自分たちがとても楽しんでいます。協力隊として、高齢者の方の農作業をお手伝いすることもあります。草刈りや村の特産品であるジャガイモの収穫時期などはかなり忙しいのですが、地域の皆さんの生きがいづくりをお手伝いしているという実感も得られます。農作業の合間、お茶休憩をしながらお話を伺っていると学ぶことが多く、手伝っているというよりはこちらが勉強させてもらっているという感覚です。」

何か困ったことがあれば、まずは地元の人に相談しているという土井さん。

「地域の方は、私たちと家族のように接してくださって、何でも相談にのってくれます。村のルールなども教えていただきました。地域おこし協力隊の活動に関しての相談については、村役場の担当の方に話をしています。草刈りシーズンや畑での農作業の手伝いが多忙になる時期に、他の活動とのバランスをどのようにするかといった実務的な内容が多いです。そのほかに地域おこし協力隊サポートデスクも利用できるので、不安を感じるようなことはありませんでした。特に任期終了後のことなどはサポートデスクに事例を伺うなど、とてもお世話になりました。」

左)地元の五社神社のお祭りにも参加した。右は獅子舞を演じたご主人 右)土井さんが設立した「Harenoya合同会社」が管理運営をする予定の登録有形文化財旧高橋家住宅

会社を設立し、カフェ開業を準備中

地域おこし協力隊に着任する前と、実際に村に入ってからでは、その役割に対する印象が大きく変わったそうだ。

「私がこの地域を活性化できれば、という思いを持ってここに来たのですが、今思うと、そんな考えはおこがましかったなと思います。実際には、この地域に住まわせていただいて、仲間に入れてもらっているという感覚に近いでしょうか。村民のひとりとして、村のために何ができるのか。自分も一村民という視点で暮らしています。」

もともと人と接する仕事をしたいと思っていた土井さんは2021年に「Harenoya合同会社」を設立し、今後の計画に向けて動き出している。

「檜原村の人里(へんぼり)地区に登録有形文化財旧高橋家住宅という江戸末期の古民家があり、その管理運営を行う指定管理者を募集していたので応募しました。かつての高橋家が漢方医だったことから〝医者殿(いしゃど)〟と呼ばれたその古民家は地区の中心地にあり、地元からもその公開活用が望まれていました。もともと私は協力隊の任期終了後に、村の古民家で〝村と外〟を繋ぐ場所をつくりたいと考えていたので、まさにぴったりな場所でした。公開活用に向け、「晴ノ舎」という名前で古民家カフェをオープンするための準備を進めているところです。地元野菜や特産品を使った〝ひのはらごはん〟を提供することはもちろん、ここを拠点とした周辺散策や、外から訪れた人に対して村民が村での過ごし方を教えるワークショップといった、村と外から来た人との交流を提供できる場所にしたいと考えています。」

2022年3月に地域おこし協力隊の任期を終了し、4月からは旧高橋家住宅の指定管理者となる。オープンに向けて、精力的に準備を進めている土井さん。同時に任期を終えるご主人も村内の人里(へんぼり)地区でキャンプ場を運営することが決まっており、引き続き夫婦で檜原村での活動を続けていく。

Profile

東京都 檜原村 地域おこし協力隊 隊員OG
土井智子さん

1974年生まれ。山形県出身。会社勤めをしながら2人の子どもを育てていたが退職し、千葉にリラクゼーションサロンを開業。子育てが一段落し、キャンプ場経営を夢見る夫と共に移住を決意し、檜原村の地域おこし協力隊に採用され、2019年8月に着任。