[論文]字幕:権利、責任、利益 マーク・ホダ(RNIDヨーロッパキャンペーン担当) より多くの市民 多くの聴者(耳の聞こえる人)も、字幕が増えることで利益を得られるであろう。例えば、第二言語によりテレビを見ている人、学習障害のある人々、読み書きを始めた子どもなどである。 学習障害のある人々や第二言語によりテレビを見ている人は、番組を聴くとともに読むこともできるため、字幕があればテレビ番組をより理解することができる。字幕は、その国の言葉に堪能でない移民にとって非常に役立つ。そのため、移民と市民の移動が拡大しつつあるEUにおいては、字幕は、ますます重要なサービスとみなされるであろう。また、騒音が大きい環境などにおいては、多くの聴者も、字幕は、日常生活においても便利なものであることがわかるだろう。 字幕は、耳の聞こえる子供たちに、読み書きを教える場合にも役に立つ手段である。たとえば、米国での最近の研究において、初めて読み書きを学ぶ者はテレビの字幕の文字を見ることで、単語をよりよく識別することができることがみいだされた。国際教育成果評価協会(International Association for the Evaluation of Educational Achievement:lEA)が実施した調査では、フィンランド、スウェーデン、ノルウェーの「かなり多く(moderately heavy)」テレビを視聴している9歳児は、読書能力が高いという結果が出た。これらの国々は、字幕つきの外国番組が多い。 字幕:権利、責任、利益 世界への入口としてテレビがきわめて重要であることを考えれば、それにアクセスできることは人間の権利であるとみるべきであるし、放送事業者は字幕を提供する義務がある。 また、字幕ビジネスは、非常に有力でもある。字幕を提供することによって、放送事業者は、ヨーロッパの8,150万人の聴覚障害者に広範なテレビアクセスを提供できるし、多くの聴者に役立つサービスを提供できる。英国では、人口の22.7%が字幕を利用している。しかし、研究では、放送事業者がより多くのサービスを提供すれば、さらに多くの人々が字幕を利用するだろうということが示されている。障害者のためのテレビ支援サービスが増えることで、放送事業者は全ての視聴者に対するサービスを改善することになる。 英国の新しい通信監査機関(Ofcom)は、最近、アクセスサービスを提供する場合の規則の草案に関する諮問文書を作成した。英国の新しい通信法は、新しいデジタル地上波テレビにおける字幕に関する条件を設定した。すなわち、字幕を50%から80%以上に増やすというものである。 Ofcomは、この影響を評価して、個々の視聴者が字幕から得られる利益は、毎週5ポンド(7.49ユーロ)のレンタルビデオを見ることに等しいと計算している。英国の人々が毎夜約4時間のテレビを見るという事実を考慮すると、大雑把に週に1つビデオを借りることとしているこの計算は、字幕による利益を過小評価しているとRNID(Royal National Institute for Deaf people)は、考えている。しかし、この計算方法でも、 英国内において常に字幕を利用している100万人が受ける字幕による年間の利益は、2600万ポンド(3億8960万のユーロ)に相当するとOfcomは、計算している。 人々が1夜につき平均3時間半のテレビを見ると想定すれば、Ofcomの影響評価は、毎夜1本ビデオを見る(すなわち、週に35ポンド)として計算すべきであるとRNIDは主張する。この前提で利益を計算すれば、1億7200万ボンド(25億8000万ユーロ)に相当する。 字幕を利用している人々の数が非常に大きい背景には、新技術の導入によりサービスコストが急激に下がってきていること、需要が増加していること、競争が激化していることがある。例えば、英国では、コストの幅は広いものの、平均コストは毎時400ポンド(599のユーロ)未満であり、生字幕の費用を含むようになってさらにコストは下がり続けている。オランダの字幕キャンペーン運動SOAP!は、オランダでの字幕のコストは、番組制作の1%未満であると指摘している。 アクセス・サービスの提供は成長産業であり、字幕と音声解説制作のために多くのスタッフと専門器材を必要としている。英国では、これらの両領域において大きな成長があった。 ヨーロッパの字幕のレベル 字幕や感覚障害者等に対する他のアクセスサービスには明白な利益があるにもかかわらず、大部分のEU加盟国には、その提供に関する法律的な要件が設定されていない。その結果、大部分のヨーロッパ諸国における公共チャンネルや商業チャンネルの字幕と手話のレベルは低い。 本年、EFHOHにより、字幕の比較表が作成された。その調査によれば、多くのヨーロッパの公共テレビ局の字幕と手話のレベルは低く、主要な商業チャンネルにおいては、それらがまったく提供されていない。 ヨーロッパ放送協会は、オーサリングと配給事業者を含む会員に対して、アクセスサービスに関する報告を求めている。 障害者団体はこの報告書に期待している。というのも、アクセスサービスを提供することは、すべての放送事業者の責任であるとともに、利益をもたらすものであるからである。また、公共事業者や公共サービスの提供者は、この分野をリードすべきであるからである。 新規のEU国における ろうしゃと難聴者のテレビへのアクセスも、非常に制限されている。グラビフローラによるルーマニアとハンガリーについての研究によれば、「一定の調整、法的基準およびアクセス政策の欠如(ルーマニアのケース)または、不足(ハンガリーのケース)のために、聴覚障害者は、テレビによる情報の大部分にアクセスできない。」 ヨーロッパ法は、公共放送の定義や国家レベルの管理方法に対して特別な影響を常に与えてきた。しかし、ヨーロッパの視聴覚政策においては、障害者に対する言及はない。RNIDは、EFHOH、FEPEDA(European Federation of Parents of Hearing Impaired Children)、EUD(the European Union of the Deaf)EBU(European Blind Union)とRNIB(Royal National Institute for Blind People)と協力し、キャンペーンを行い、「国境のないテレビ指令(Television Without Frontiers Directive :TVWF)の最近の見直しにおいてこれを申し出た。2003年に、この指令の見直しに関する欧州委員会の公開協議に応じ、我々は、意見を提出し、キャンペーンの小冊子を出版した。我々には、また、加盟国の公務員から構成されこの指令に対する責任をもっているTVWF接触委員会でプレゼンテーションをする機会があった。 我々は、欧州委員会に他のヨーロッパ諸国の字幕と手話のレベルを調査するとともに、EUの加盟国のテレビ支援サービスのレベルを比較するためのベンチマーキング制度を導入して欲しい。これは、この指令の見直しに関する報告書において欧州議会にも支持された。 欧州委員会は、アクセスサービスの問題は、加盟国にとっての従属原理の問題であることを主張する。EUレベルのキャンペーンは継続する(特に、加盟国の支援サービスを比較するためのEUベンチマーキング制度を求めるもの)が、字幕と手話のレベルを向上させるには、国レベルのキャンペーンも重要である。オランダ、ベルギー、アイルランド、ノルウェー、スウェーデン、スイスなどの国の字幕キャンペーンは、非常な成功を収めた。EFHOHのキャンペーン目標は、2010年までにヨーロッパ中のテレビに字幕が100%つくことである。 全ての人のためのテレビ ヨーロッパにおいては、テレビのアクセスサービスが低調であるとともに、ヨーロッパには、障害者に対するテレビ支援サービスを提供する技術的規格もそれにアクセスするための技術的規格もない。これは、デジタル切り替えとマルチプラットホーム(多チャンネル・テレビ時代)においてさらに問題になる。しかし、新しいEUテレコミュニケーション指令パッケージとeEuropeの行動計画は、この問題に対処するための立法上の根拠を提供している。その結果、2003年に、放送アクセス・コンサルタントであるゲリー・スタラードは、ヨーロッパ標準化機関(CENELEC20)のために、「全ての人ためのテレビ」報告書を提示した。 「全ての人のためのテレビ」報告書は、障害者にとってアクセシブルなデジタルテレビにとって必要な技術的方法と消費者の認識を高める手段を取り上げている。この報告書は、支援サービスを提供する方法だけではなく、受像機を通じてどのようにそれらにアクセスするかという方法も含んでいる。テレビや家電においては、デザイン段階で原則にあったデザインを守ることは、メーカーにそれほど多くの努力を求めないし、それはすべてユーザーの利益となる。 この提案をしている障害者団体(RNIDを含む)は、この報告書の結果に基づき、基準が引き上げられなければならないと非常に強く考えている。そして、産業界、欧州委員会および加盟国が、報告書を完全に支援し、その推奨事項に基づいて基準を引き上げることによって、それを前進させることを考えている。 将来の見通し 欧州委員会、議会、欧州議会を目標にしたEUの字幕・手話キャンペーンは継続される。しかし、EFHOHメンバーによっていろいろな国で実施されている国内キャンペーンにより、すでに、オランダ、ベルギー、アイルランドなどの国では、字幕を増やすという政府と放送事業者の約束につながっている。障害者団体は、EUが、すべての加盟国のアクセスサービスのレベルに関する統計を集め、最高の実践が実施されるように、全ての加盟国での更なる増加を促して欲しいと願っている。アクセシビリティー、特にテレビへのアクセシビリティーは、「すべての人のためのテレビ」などの提案や2003年ヨーロッパ障害者年のEUインクルージョン委員会(INCOM)の設立や報告書提出に続くヨーロッパの課題である。 INCOMにより、障害団体、欧州委員会、加盟国、メーカーがまとまった、そして、その結果に関する報告書には、うまくいけば、すべての関係者により確実に前進する一定の重要な提案が含まれている。 能力と好みを問わず、誰もがテレビ放送やその他の情報通信技術にアクセスできなければならない。テクノロジーが障害者に対する大きな障壁を取り払うための 中心的な役割をもち、その可能性をもっている世界においては、これは基本的な権利であり、しかも産業に巨大な市場を開くものである。 1 |