社会福祉法人日本盲人会連合 視覚障害者向け解説放送開発に関する調査・研究 平成16年度 17年度報告書(抜粋)

本事業初年度の、「視覚障害者向け解説(副音声)放送開発に関する調査・研究事業 みんなに優しいユニバーサルな番組づくり 平成16年度 報告書」のポイントを改めて振り返ることを通じて、こんにちの視覚障害者のテレビに対する期待の大きさを知っていただきたい。

1「視覚障害者向け解説放送開発に関する調査」から見えてきたもの
(1)調査の趣旨及び目的
本調査は、社会福祉法人日本盲人会連合が、独立行政法人福祉医療機構の助成を得て、各種手段によるアンケートを通じて、視覚障害者の解説放送に対するニーズを把握し、テレビ放送における解説放送開発に役立てることを目的とした。初年度にあたる平成16年度は、視覚障害者約600人を対象としたアンケートの集計・分析を主たる事業とした。
(2)回収数および有効回答
回収数665人、うち有効回答数584人。
(3)調査方法とそれぞれの有効回答人数
1 電話調査 男性91人、女性53人  計144人
2 拡大文字調査 男性8人、女性15人 計 23人
3 メール調査 男性66人、女性35人 計101人
4 対面調査 男性65人、女性164人 計 229人
5 点字調査 男性51人、女性36人  計 87人
 
(4)アンケート回答者の属性
1 性別 男性48.3% 女性51.7%
2 視覚障害になった時期 乳幼児期41.1% 成人以前17.7% 成人後41.2%
3 年齢構成 10代2% 20代4% 30代8% 40代13% 50代26% 60代29% 70代15% 80代2% 90歳以上1%
4 回答者の都道府県別分布 アンケートの回答は、青森県、山梨県、沖縄県以外のすべての都道府県の視覚障害者から寄せられた。
 
(5)アンケートの回答の分析
1 主な情報源
ほとんどの人(92.1%:男性90.7%、女性93.4%)が、テレビを主な情報源としてあげた。ついでラジオをあげた人が83.4%で、視覚障害のある人にとっても、ラジオよりテレビが第一の情報源となっている。
 
2 テレビ視聴時間
1日に2時間以上、テレビを視聴している人は、47.8%であった。半数近い人が長時間テレビに親しんでいるのである。

3 テレビ番組の検索方法
視聴したいテレビ番組を「チャンネルを順に回す」とした人が61%で最も多かった。次に「家族・友人に聞く」とした人が46.1%であり、視覚障害者が、テレビの視聴に受身にならざるを得ないことを示している。

4 視聴しているテレビ番組
「ニュース・報道番組」がもっとも多くて、93.1%の人があげている。
 
以下、グラフの説明。視聴しているテレビ番組を割合を示している。
ニュース、報道番組 93.1%
ドラマ 57%
映画 30%
ワイドショー 37%
バラエティー番組 28%
クイズ番組 40%
生活情報番組58%
ドキュメンタリー番組60%
スポーツ番組50%
アニメ 19%
旅、紀行、グルメ番組40%
その他 22%

5 テレビの解説放送の認知度
聞いたことがある人が72.1%
知っているが聞いたことがない人は18.9%
そのような放送は知らなかったとした人は9%であった。

6 テレビの解説放送の利用内容
NHKの朝の連続ドラマが81.3%、日本テレビ系列の火曜サスペンス劇場が71.3%、NHKの教育・生活情報番組については33.6%が視聴したことがあると回答した。「NHKの教育・生活情報番組」の認知度の低さには、「どの番組に解説放送がついているかどうかがわからない」という声が、自由意見で多く寄せられていることを特筆しなければならない。

7 解説放送の充実要望
充実を望む意見は、87.4%にのぼった。
その他、今のままでよいが4.7%、あまり必要としていない7.9%

8 優先的に解説放送をつけてほしい番組
第1位にあげられたのは、「ニュース・報道番組」で、63.7%であった。
次いで、ドラマ、生活情報番組、スポーツ番組映画の順であった。

9 テレビ番組にどのような改善を望んでいるか
「ニュース速報に音声をつけてほしい」とした人は、90.4%にのぼった。
 
以下、棒グラフの説明。テレビ番組に望む改善点を男女別に示している。

ニュース番組に音声をつけて欲しい 男女ともに90%以上
天気予報や台風情報に音声をつけて欲しい 男性68% 女性 66%
外国人のインタビューに音声をつけて欲しい 男性81% 女性75%
スポーツ番組に音声をつけて欲しい 男性46% 女性35%
宛先等に音声をつけて欲しい 男性67% 女性80%
その他 男女ともに約12%
 
10 アンケートの自由意見
341人の人から意見が寄せられた。代表的な意見は以下の通りであった。
・ とにかく緊急放送の副音声を早く実現させてほしい。何が起きているかわからず、とても不安。すべてのテレビ放送で実現してほしい。まだ足がかりにもなっていない。副音声は一般の人に迷惑がかからないでしょ。(55歳、女性、北海道、対面調査)
・ ニュース速報に音声をつけてほしいです。速報なのに、内容がまったくわからないのは、とても困ります。テレビの中で、一番情報のバリアを感じる瞬間です。ぜひ音声をつけてほしいと思います。(28歳、男性、大阪、メール調査)
・ 願いはただ一つ、ニュースの外国語字幕を読み上げてほしい。ラジオより、テレビのニュースの内容のボリュームが大きいので(71歳、男性、東京、電話調査)
・ 解説放送が一番ほしいのは、外国人のインタビュー。要人と言われる人のインタビューには、特につけてほしいと、切に思う。(32歳、男性、愛知、電話調査)
・ NHKのドラマは、いつも副音声で聴いている。クイズの答えに、副音声がほしい。「宛先」や「ごらんのもの」は困る。ドラマの俳優がわからなくてもどかしい。アニメでも、同じ人があちこちでやっており、誰の声か知りたい。ドラマやアニメのキャスティングだけでも、副音声を入れてほしい。          (62歳、女性、奈良、対面調査)
・ モザイクのある画面で、音声を変えて放送するとき、聴き取りにくい。(25歳、男性、東京、対面調査)
・ 出演者の会話でわかるようなことや、場面の解説放送は省いてもよい。解説がなくてはわからないことがあるが、多すぎれば煩わしい。だからテレビで放映する前に、視覚障害者がモニターすることが望ましいと思う。              (52歳、男性、大阪、メール調査)
・ 映画を除いては、解説放送のアナウンスは、プロによるものでなくてよい(ボランティアでもよい)ので、ぜひつけるようにしてほしい。(36歳、男性、愛媛、電話調査)
・ ニュースのとき、解説をしてくれる機械があればほしい。(62歳、女性、大阪、対面調査)
・ 視覚障害者にはラジオがあるからいいだろう、という人がいますが、それは目が見えないものの気持ちをまったく疎外していることです。ラジオにはラジオのよさがたくさんありますが、ニュース番組を聴いていても、インタビューはカットされる傾向だし、簡略されていると思います。(50歳、女性、島根、メール調査)
・ 解説放送は本当に便利、よくわかります。先日もうちのとちがうテレビで「天花」を見たら、黙っている場面が多くて全然わかりませんでした。お昼の再放送で、副音声つきの「天花」を見たら、なぜ黙っているのかがよくわかって、副音声は本当に便利だと、改めて実感しました。でも「天花」や「火曜サスペンス劇場」のように、副音声がついていることがわかっている番組はいいんだけど、NHKの他の番組にもついていると言われても、どれについているのか私たちにはわからないから、見逃している。もったいないわねえ。  (79歳、女性、滋賀、対面調査)
 
(5)アンケート全体から見えてきたもの
1 視覚障害者は‘テレビを見ない’という誤謬
 平成13年度の厚生労働省の「障害者実態調査」では、視覚障害者の情報入手手段の第1位は「テレビ」であった(301000人のうち22万人)が、今回調査でもその傾向はさらに顕著であった。この事実を放送事業者はしっかりと受け止める必要がある。
昨今のIT社会の進展によって、視覚障害者の情報環境も大きく変化して、情報アクセスが容易になった面はあるものの、インターネットを使える健常者が国民全体の60%であるのに対して、視覚障害者では3%から4%と推定され、IT化が進んでも視覚障害者全体と健常者との間での情報格差が広がってきている。さらに視覚障害者の半数以上が70歳以上と高齢化の状態にあり、また中途で失明する人が増えていることからも、高齢化、重度化した方々にとっては、テレビからの情報入手は、ますます欠かせないものとなっており、放送事業者は、テレビの前に多くの視覚障害者のいることを意識した番組づくりが求められているのである。
なお、ここでいう視聴覚障害者は、身体障害者福祉法等でいう身体障害者のように限定的に捉えるのではなく、視覚または聴覚に障害を有するために、放送を理解し楽しむことに支障があるものとして捉える必要がある。
今後進展する超高齢社会を思うとき、これは一部の視聴覚障害者の問題ではなく、社会全体の問題として捉えることが必要であると考える。
 
2「どこでも誰でも放送を楽しむことができるようにする」のは放送制作の基本方針の一つであるはず
放送は国民が幅広い視野に立って、健康で文化的な生活を確保していく上で欠くことのできない情報(基幹的情報)を提供しており、視聴覚障害者もその効用を享受できるように配慮されるべきなのは、言うまでもない。
国民生活に深く根付いた地上波放送は、2011年には地上波デジタル放送として機能が拡充されることが明らかであり、国としても放送の地域間格差の是正と、誰でも放送を享受できるようにするための施策を講じなければならない。
視覚障害者のこうしたニーズは、いま始めて明らかになったのではない。雑誌「視覚障害 その研究と情報」93年7月号(ナンバー126)で、当時、郵政省放送行政局放送政策担当の奥村真貴子氏は「視聴覚障害者向け放送の現状と拡充のための方策について」と題して、的確な現状認識を述べておられる。氏によると、平成5年6月現在の音声多重放送による視覚障害者向け解説番組は、NHK(地上放送及び衛星放送)で週2番組、日本テレビ系列局他(計30局)で週1番組が放送されているのみで、再放送も含めた1週間当たりの地上波放送での総放送時間は、9時間19分(関東地区、平成5年6月現在)で、解説放送が付与されている番組は、すべてドラマであった、と報告されている。
今回の調査からは、解説のつけられた番組の所在がわからない、また音声多重の機械操作がわからないなど、わずかな解説放送が十分に利用されていない状況も明らかになっているが、音声多重放送受信機能を有するテレビは、すでに平成3年3月で66%の家庭に普及しており(経済企画庁消費動向調査)、生産されている機種数も多く、ハードの環境は、字幕放送に比しても劣悪とは言えないのであって、ソフトの提供努力と音声解説をつける番組の優先準位など、当事者のニーズを放送事業者が把握することが必要である。
 
3 話題を共有するためのテレビ媒体
今回のアンケート分析を通して、視覚障害のある人のニーズが、ほとんど社会の人びとに伝わっていないことを痛感させられた。それは、ごくふつうの、当然過ぎる権利であるが、ともすれば、わがままな要求と捉えられがちな現状がある。
つまりアンケートを通して、視覚障害のある人のテレビについてのニーズに関する社会の理解に、大きな抜け落ちがあることが再認識させられたのである。広い市民に視覚障害のある人のニーズを、正しく、わかりやすく伝え、理解を広げる努力が切実に求められる。
どんな世代でも、仲間との話題になるのは、テレビがもたらす情報である。ヨンさまにしろ、政界スキャンダルにしろ、漫才の流行語にしろ、私たちの暮らしにおけるテレビの影響力は圧倒的である。そこから、視覚障害のある人たちだけが疎外されてよいわけがない。確かに、知るという点では、ラジオもインターネットも便利である。しかし、テレビは、知ることを超えて、ひとつの現代人が共有する文化であると言える。テレビに視覚障害のない人と同様にアクセスし、楽しむことができることが、贅沢ではなく、現代日本においてはごく道理にかなった要求であるということである。
 
4 家族団欒を促すテレビ媒体
テレビは、お茶の間の真ん中に配置されて、家族団欒の媒体役として大きな役割を担っていることに注目しなければならない。テレビは、家族が一緒に笑い、一緒に憤ったり涙したりする媒体なのである。だからこそ、視覚障害のある人が、テレビの解説放送を望むことは、基本的な生活要求であるといえる。ドイツ語がわからない人が、ドイツでかの国の家族とテレビを見せられ続けたら、どれほど苦痛であろうか。テレビには、ラジオに代替できない独自のメディア機能があることを、アンケートは訴えている。
 
5 生活の質向上欲求のニーズ化と理解を広める努力
多くの自由意見には、異口同音に解説放送をもっと増やしてほしいという意見がみられた。中には、せめて主要なドラマだけでも解説をお願いしたい、という意見もあったが、これはむしろ視覚障害のある人たち自身が自らの権利主張を自己抑制し、基本的生活欲求がニーズ化されていないことを表していると考えられる。アンケートに表れた視覚障害のある人たちの要求を、広く市民に積極的に伝え理解を深めるとともに、視覚障害のある人たち自身の、生活の質向上欲求のニーズ化を促していく必要がある。