視聴覚障害者向け放送の拡充にあたっての検討課題
20061211
NHK
基本的な考え方

 NHKは、「平成19年度までに字幕付与可能な番組について100%字幕を付与する」との「行政の指針」(平成9年郵政省策定)について、期限より1年早く、平成18年度に達成する見込みである。また、「行政の指針」の対象となっていないニュースをはじめとする生放送番組の字幕付与にも積極的に取り組み、現在、朝から夜までの主要なニュースや、大相撲ほかのスポーツ中継などで、生字幕放送を実施している。
  テレビに字幕機能が標準装備されるデジタル放送時代を迎え、聴覚障害者も情報格差なく放送を楽しめるように、引き続き、生字幕放送においても一層の拡充を図っていく。

 解説放送や手話放送については、字幕放送にくらべ技術面での制約もあり、現在、段階的に拡充をおこなっているところである。今後、新しいデジタル技術の研究開発の成果も取り入れながら、より充実したサービスの実現を目指す。

字幕放送における検討課題

(1)現在「字幕付与可能な番組」の対象外とされている番組についての検討

1)  生放送番組

・ 総合テレビにおいて、総放送時間に占める生放送番組の割合は64
(ニュース・情報系番組59%、スポーツ中継5%)
一方、総放送時間に占める生字幕放送番組の割合は14%。

 (ニュース・緊急報道)

・ ニュースの字幕化は平成12年、「ニュース7」で開始し、以後順次拡大。
現在、「おはよう日本」(午前7時から7時30分)、正午のニュース、「ニュース7」、「ニュースウォッチ9」で生字幕放送を実施し、朝から夜までの主要ニュースについてはほぼ字幕化を達成。(一日の実施時間は2時間15分)

・ ニュースの生字幕化の拡大にあたっては、養成に3年から4年かかると言われるスピードワープロのオペレーターの確保、早朝・深夜の放送体制の確保に伴う要員・経費面の負担増、などが課題。

・ 緊急報道の字幕化は課題が大きい。
災害発生時の緊急報道では、新しい地名、人名がいきなり飛び込んでくるため、聞き間違い、変換間違いのリスクが拡大。
現在、地震の際の震度や津波警報、津波の到達予想時刻などの最新情報は、画面にすべて収められている。(字幕を付与するとかえって見にくくなる面も)

 (情報系番組)

・ 「生活ほっとモーニング」、「生中継 ふるさと一番」「スタジオパークからこんにちは」、「クローズアップ現代」、「日本の、これから」、「週刊こどもニュース」など。

・ 番組によっては生字幕放送の難度が高いものがある。それぞれの番組の内容や制作体制からみてどのような方式ならば生字幕放送が可能か、今後の技術開発の進展状況もフォローしながら要検討。

 (スポーツ中継)

・ 現在、大相撲とプロ野球中継でリスピーク方式、MLB中継で音声直接認識方式による生字幕放送を実施。
その他、マラソン、柔道、スキー(ジャンプ)、スピードスケート、フィギアスケート、サッカーなどの競技について音声自動認識の辞書が蓄積されており、生字幕放送が可能。

・ 今後どんな競技に放送の範囲を広げていくかについて要検討。(ゴルフ、卓球、テニス、競馬などが人気競技)。

 2) 再放送番組

3) オープンキャプション番組、手話番組

4) 外国語の番組

 5) 大部分が歌唱・器楽演奏の音楽番組

 6) 権利処理上の理由により字幕付与が不可能な番組

・ アニメーションなども含め、外部の演出者が制作した作品に字幕を付与するに当たっては、著作権上の考え方を含めルールが必ずしも確立されていない現状。

7) 対象放送時間の拡大

・ 字幕付与の対象時間を午前7時以前に拡大した場合、ニュースの生字幕放送を繰り上げて実施することになる。
午前7時のニュースの生字幕放送のために5時50分頃から準備を始めている現状で、早朝の放送体制の確保に伴う要員・経費面の負担増が課題。

(2)総合テレビ以外の波における字幕化

・ 現在、総合テレビ、教育テレビ、デジタル衛星ハイビジョン、衛星第2テレビで字幕放送を実施。

(3)地域放送における字幕化

・ 現在地域局でローカル番組について字幕放送を実施しているのは、大阪、名古屋、仙台、福岡の4局。いずれも事前収録番組について字幕放送実施。

・ 地域放送の一日の番組の多くは全国放送と同番組。地域放送の字幕化は、設備投資の費用に比して効果はどうか。

・ 大阪・名古屋の大都市圏についてどう考えるか。

(4)英米との事情の違い

・ アルファベット26モジで足りる英語圏と漢字変換を要する日本語との字幕入力に要する手間の違い。

・ 番組編成の違い。BBC・第1チャンネルの2005年度(17年度)の再放送率は総放送時間の30.8%であるのに対し、NHK総合テレビは18.6%。

・ 生字幕の質に対する考え方の違い。アメリカの生字幕放送の音声自動認識の精度は85%程度だとされているが、日本では、95%以上の認識率を達成しないと実用段階にないと判断される。

(5)デジタル放送と字幕放送

(字幕放送以外の情報提供)

・ 字幕放送だけでなく、データ放送やインターネット、携帯端末向けワンセグ放送、また全国各地の放送局のホームページからも、様々な文字情報を入手することが可能、利用者も拡大。
とくに災害情報については、台風や地震などについての最新情報をきめ細かく提供している。
今後も放送を補完するサービスとして、こうした情報提供を一層充実させる。

 (技研の現在の研究開発テーマ例)

・ ニュースの対談部分の音声認識実用化に向けて、話し言葉、くだけた話し方、早口、雑音などへの対策を研究中。

・ スポーツ・情報番組について、リスピーク方式から音声直接認識への転換に向けて、芸能人や一般わしゃの話し方、多様な話題への対策を検討中。

・ 汎用的に使える音声認識技術をめざし、認識単語を大規模にすることに取り 組んでいる。(現在2万単語を将来数十万単語へ)

・ 音声認識による字幕制作の小型システムを試作中。安価で運用経費のより少ない方式を目指す。

解説放送における検討課題

(1)事前収録番組における解説放送

・ 解説放送は、少なくとも放送日の1週間前には元の番組が完成している必要がある。
現在解説放送を実施していない番組でどのようなニーズがあるか、要検討。

(2)生番組における解説放送

・ 福祉番組の生討論番組およびトリノ・パラリンピック中継の経験から、生解説放送の拡充にあたっては、目で見た情報を的確に言葉にして伝える技術を身につけた解説担当のアナウンサーの確保と育成、元の番組担当者との緊密な連携などがポイントになることを確認。

・ 視覚障害者から、「ニュースのテロップで表示されている外国の要人のインタビュー内容を読み上げてほしい」、「ニュース速報に音声をつけてほしい」との要望が強い。合成音声についての研究開発も含め要検討。

(3)デジタル放送と字幕放送

 (技研の現在の研究開発テーマ例)
  
・ 合成音声による解説放送類似のサービス
緊急性の高い気象災害情報(台風、地震など)で、文字情報を合成音声化し、デジタル放送の副音声チャンネルで自動送出。

・ デジタル放送の視覚障害者用受信端末の開発
電子番組表、データ放送のテキストや画面情報などを画面拡大、音声読み上げ、点字表示などでアクセス可能にする、など。

手話放送における検討課題

(1)「手話放送」と「手話番組」

NHKは、一般の番組に手話映像を付与する「手話放送」と聴覚障害者向けの「手話番組」とを区別し、「手話ニュース」をはじめとする「手話番組」の拡充に努めている現状。

(2)手話ニュースの拡充

・ 手話ニュースは平成2年に始まり、平成9年からは放送時間を15分に拡大し「手話ニュース845」にするなどして、今年で17年目に入っている。平成6年4月には昼の「手話ニュース」を増設、7年4月からは「週間手話ニュース」、10年4月からは「こども手話ウィークリー」をそれぞれ新設するなど、段階的な拡充を図ってきた。

・ 手話ニュースについて、平成19年度は、毎週土曜日に教育テレビで放送している「週間手話ニュース」をこれまでより5分拡大し、20分で放送する方向で準備を進めることになった。引き続き、内容面においても、分かりやすいニュース作りを目指して努力を重ねて行きたい。

・ 緊急災害時においては、手話ニュースの中で可能な限り最新の情報をわかりやすく伝える。必要があれば放送時間の延長も検討する。

(3)クローズトサイニング(クローズト手話)その他、新技術への期待

・ スイッチをオンにしたときのみ手話が表示されるしくみ。
手話のために別チャンネルを用意し、利用者の側で通常の番組と合成するしくみが実現すれば、一般番組に広く手話を付けることが技術的には可能になる。

・ 放送と通信の融合(インターネット回線で手話サービス)。

・ 字幕放送の文字データを利用したアニメ手話。