障害者向け放送サービスの拡充に向けての課題
日本民間放送連盟 字幕放送研究部会 部会長 早川 洋(はやかわ ひろし)
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障害者への権利保障
障害者のかたが、テレビを通した情報について権利保障を求めていることは十分理解している。
国連において障害者権利条約の議論がなされており、情報通信サービスやマスメディアに対するアクセシビリティがうたわれようとしていることは承知している。
障害者の権利が実現されるよう放送事業者として努力していきたいと考えている。
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字幕番組は7年間で飛躍的増加
字幕番組については、この7年間で飛躍的に増やしてきた。
民放でも、現行の目標時期として設定されている
残された大きな課題は、編成の
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生放送の字幕付与技術の現状
ワイドショー・討論番組など
喋り手が複数いるため、現在の技術では対応が極めて困難
スポーツ中継
徐々に対応するものを増やしているが、専門的な変換辞書が必要
オープンキャプションでの情報提供も多く、クローズドキャプションが本当に必要か検討すべき
⇒比較的対応が可能になってきているのが、ストレートニュースだが
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ニュースへの字幕の付与
現状の生放送字幕への対応は、スピードワープロ研究所の高速入力が主流。
スピードワープロ方式の入力者育成には、数年の訓練が必要。
民放各社はほぼ同じ時間帯にニュースを編成しており、人材の取り合いに。
人的資源の育成については、民間だけで取り組むのには限界があり、国の支援が望まれる。
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ニュースの間違いは許容できるか
「セクハラの抗議があった」を「セクハラの行為があった」と字幕にして、当事者から抗議を受けた事例も。この事例では、セクハラの有無をめぐって係争中だった。
放送局は放送法第4条で、真実でないことを放送した場合、訂正放送の義務がある。
特定の人を対象にした情報の伝達と、不特定多数を対象に情報を伝えているテレビでは、問題は全く異なる。
社会的影響力が大きく、間違いは許されがたい。
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英米の放送局と比較して、日本の放送局の努力は足りないか?
英米と比べて、字幕番組が少ないとの指摘があるが、次のような事情がある。
1 日本語特有のかな漢字変換の問題。
2 日本語字幕の対応が難しい生放送番組の比率が高い。
3 日本のテレビ放送は、英米に比べ再放送番組の比率が少ない。
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海外比較 漢字変換の問題
日本語の場合、かな漢字変換が不可欠であり、入力に時間がかかる。
字幕番組の制作費の差につながる。
アメリカの字幕制作費は1時間あたり450ドルから700ドル(54000円から84000円)、イギリスでは平均300ポンド(63000円)(総務省調査)
日本の字幕制作費は1時間あたり
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海外比較 生放送字幕
イギリスの場合は、
生放送字幕の制作については、かな漢字変換があるため、スピードワープロ方式の場合、(入力者+校正者)×3組の計6人で入力作業をおこなっている。コストは1時間当たり15万円から20万円程度で、イギリスの3倍から4倍。
コストだけでなく、日本のほうが字幕が表示されるまでに遅れが大きいなど制作上の問題もある。
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海外との比較 日本の場合は、生放送率が高い。
以下、棒グラフの説明。
各国のテレビ局の生放送率を示している。
アメリカ
CBS 36%
ABC 32%
NBC 34%
FOX 28%
平均 33%
イギリス
BBC1 34%
ITV1 29%
channel4 7%
Five 6%
平均 19%
日本
日本テレビ 49%
TBS 52%
フジテレビ 46%
テレビ朝日 41%
テレビ東京 26%
NHK総合 64%
平均 48%
注釈
アメリカはニューヨークにおける系列局の2006年11月27日から12月3日の番組表から概算。イギリスおよび日本の民放は2006年10月から11月の番組表から概算。
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海外比較 日本のテレビは再放送が少ない
常に新作を放送している日本。
アメリカでは日本の
以下、表の説明。
各国のテレビ局の再放送率を示している。
アメリカ
平均 21%
イギリス
日本
日本テレビ 3%
フジテレビ 10%
テレビ朝日 14%
テレビ東京 8%
平均 10%
注釈
アメリカは、ニューヨークにおける系列局の2006年11月27日から12月3日の番組表から概算。日本の民放は2006年10月から11月の基本番組表から概算。
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海外比較 字幕制作にかける経費
イギリス
(年次報告書による)
1時間当たりの字幕制作費は平均250ポンドから300ポンド。
(総務省調査による)
日本の在京民放キイ局の今年の字幕制作費は5億から8億円で、
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アメリカ、イギリスに比べ、障害者に対する情報保障が劣っているのか?
生活するうえでの基本情報であるニュースについては、クローズドキャプション以外の方法による伝達が、日本では発達している。
オープンキャプション(ニューステロップ)の充実
データ放送
インターネット
携帯サイト
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海外比較 オープンキャプション
日本ではニュース番組でも、オープンキャプションが多用されている。
ニュースの内容のあらまし(要約)はおんせい抜きでも理解できる現状がある。
質的にみたときに、聴覚障害者のかたに対する情報保障として劣っているとは言えないのではないか。
スライド
アメリカのニュースの1コマを切りとった写真が載っている。
以下、写真の説明。
白い服を着た男性が飛行機のタラップを降りている。
画面下のテロップには、「アンカラ トルコ」とだけ記載されている。
今月
テロップは地名のみで、内容は不明である。
スライド
アメリカのニュースの1コマを切り取った写真が載っている。
以下、写真の説明。
法王が男性と向かい合って話している。
内容のテロップは一切ない。
トルコのイスラム教指導者と対談するローマ法王だが、相手の名前もわからない。日本の民放のニュースでは通常人名や会談の概要を表記しているケース。
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スライド
日本のニュースの1コマを切り取った写真が載っている。
以下、写真の説明。
左上には、天気予報が載っており、
画面下のテロップには「成績で口論の末」と記載されている。
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続いて、別の写真が載っている。
以下、写真の説明。
モザイクのかかった家が写っている。
画面右上及び左下にはテロップがあり、それぞれ「ナイフで父親刺す 成績の話で口論」「父親が刺された自宅 神戸西区」と記載されている。
この場面での音声
神戸市で昨夜、中学2年の長男が自宅で父親を刺したとして、殺人未遂容疑で逮捕された事件で、2人は直前に成績などで口論をしていたことがわかりました。
昨日午後8時頃、神戸市西区の住宅で
スライド
写真が載っている。
以下、写真の説明。
交番の机が映っている。
画面には、テロップがあり、
それぞれ「ナイフで父親刺す 成績の話で口論」「長男が出頭した交番 神戸・西区」「父親は意識不明の重体、出頭した中学2年の長男
ここでの音声
男性は病院に運ばれましたが、意識不明の重体で、警察は近くの交番に出頭した長男を殺人未遂容疑で逮捕しました。
スライド
写真が載っている。
以下、写真の説明。
モザイクのかかった学校が映っている。
画面右上及び画面下にはテロップがあり、
それぞれ「ナイフで父親刺す 成績の話で口論」「長男のかよっている学校」と記載されている。
この場面での音声
男子生徒は中学校では陸上部に所属するなど活発な生徒で、近所でも目立ったトラブルなどはなかったということです。
スライド
写真が載っている。
以下、写真の説明。
少年の近所の人がインタビューを受けている姿が映っている。
画面には、「ナイフで父親刺す 成績の話で口論」「近所の人は」「家族仲が良くて、家族でよく出かけていたし、お父さんとは、スーパーで買い物をしているのを見た」と記載されている。
ここでの音声
家族、仲良くって、家族でよくおでかけになられてたし、特にお父さんとはついこの間もスーパーで一緒に買い物をしているのをみかけましたので
近所の人が話した内容も文字になっている。
スライド
写真が載っている。
以下、写真の説明。
モザイクのかかった家が映っている。
画面には、「警察 2人は成績について口論していたとみられ、詳しい動機などについて捜査」と記載されている。
ここでの音声
長男の中学校では、先月末まで定期試験があり、2人は事件の直前に成績について口論していたと見られ、警察は詳しい動機について捜査を進めています。
警察が話した内容も、文字になっている。
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地上デジタルテレビ放送受信機には、データ放送の受信機が標準装備。
画面した 3分の1がデータ放送によるニュース部分。
この事例では午後5時現在の船舶火災の模様が、5時
(左側にデータ放送の映像の様子が載っている。)
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放送との時間差はほとんどゼロの場合もある。遅くとも1時間程度では掲載。
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無料で情報提供。
NTTドコモ、エーユー、ソフトバンク、
放送との時間差もほとんどない。
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日本の場合、かな漢字変換という特有の問題があり、諸外国に比べて不利な状況にある。
加えて生放送が多いため、今後、飛躍的に字幕放送を増やしていくことは困難を極めるが、引き続き努力していきたい。
デジタル時代になり、多様な情報ツールが存在するので、その活用もお願いしたい。
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放送法上、視覚障害者のかたに映像を理解してもらうための放送が努力義務となっている。
現状では、どのようなジャンルの番組に、どのような「解説放送」が必要なのかを把握できていない。
総務省調査では、ニュースにご要望が強いが、ニュースについては無音の部分がほとんどなく、解説を付加することが困難。
実績のあるドラマでの「解説放送」の拡充については、今後検討していきたい。
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現状では、クローズドキャプションのように、視聴者が手話をつけるかどうかを選択するシステムがない。
手話を通常画面に付加した場合、事実上、聴覚障害者専用番組となってしまう。
視聴者が選択できるシステムが導入されない限り、手話放送は一部に止まらざるを得ない。
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ご要望の強い緊急時のニュースについては、これまでの方法に加えて、L字画めんにより情報提供を実施。
地震などの大災害時には、緊急特番を編成し、視覚障害者のかたにも一定の理解は可能な放送内容。
災害時には、停電に強く、携帯も容易なラジオの活用も民放連としてはお願いしている。
スライド
引き続き字幕番組の充実に努めるとともに、解説放送・手話放送についても研究を深めてまいりたいと思うが、クリアすべき多くの課題があることについてご理解いただきたい。
以下3ページは補足資料
1ページ目
ニュースにおけるオープンキャプションの例
<
●直前に成績で口論・・・中2長男が自宅で父親刺す
・オープンキャプションの文字
(見出し) 成績で口論の末
・しゃべりを文字におこすと
近所の人は家族と仲はよかったと話しています。
・オープンキャプションの文字
(見出し)ナイフで父を刺す 成績の話で口論
(映像の説明)父親が刺された 自宅 神戸西区
(映像の説明)長男が出頭した交番 神戸西区
(ニュースの解説)父親41歳は意識不明の重体、出頭した中学2年の長男14歳を逮捕
(映像の説明)長男がかよっている中学校は
・しゃべりを文字におこすと
神戸市で昨夜、中学2年の長男が自宅で父親を刺したとして、殺人未遂容疑で逮捕された事件で、2人は直前に成績などで口論していたことがわかりました。昨日午後8時頃、神戸市西区の住宅で41歳の男性が首をナイフで刺されました。男性は病院に運ばれましたが、意識不明の重体で、警察は近くの交番に出頭した長男を殺人未遂容疑で逮捕しました。男子生徒は中学校では陸上部に所属するなど活発な生徒で、近所でも目立ったトラブルなどはなかったということです。
・オープンキャプションの文字
(映像の説明)近所の人は
(ニュースの解説)家族仲が良くて家族でよく出かけていたし、お父さんとは、スーパーで買い物をしているのを見た
・しゃべりを文字をおこすと
家族、仲良くって、家族でよくおでかけになられてたし、特にお父さんとはついこの間もスーパーで一緒に買い物をしているのをみかけましたので。
・オープンキャプションの文字
(ニュースの解説)警察「2人は成績について口論していたとみられ、詳しい動機などについて捜査」
・しゃべりを文字におこすと
長男の中学校では、先月末まで定期試験があり、2人は事件の直前に成績について口論していたと見られ、警察は詳しい動機について捜査を進めています。
・テレビ朝日ホームページ上での記事
神戸市で五日夜、中学2年生の長男14歳が自宅で父親を刺したとして、殺人未遂容疑で逮捕された事件で、2人は直前に成績などで口論していたことがわかりました。
午後8時頃、神戸市西区の住宅で、41歳の男性が首をナイフで刺されました。男性は病院に運ばれましたが、意識不明の重体で、警察は近くの交番に出頭した長男を殺人未遂容疑で逮捕しました。男子生徒は、中学校では陸上部に所属するなど活発な生徒で、近所でも目立ったトラブルなどはなかったということです。
近所の人「家族仲がよくて、家族でよく出かけていたし、お父さんとはスーパーで買い物をしているのを見た」
長男の中学校では、先月末まで定期試験があり、2人は事件直前に成績について口論していたとみられ、警察は詳しい動機について調べを進めています。
2ページ目
<
●ゲーツ次期国防長官「イラク政策の転換を示唆」
・オープンキャプションの文字
(見出し)ゲーツ次期国防長官「イラク政策の転換を示唆」
・しゃべりを文字におこすと
アメリカの次の国防長官に指名されたゲーツ元
・オープンキャプションの文字
(見出し)次期国防長官 イラク政策転換も
(映像の説明)国防長官に指名されたロバート ゲーツ氏
(ニュースの解説)イラク問題解決のためあらゆる選択肢を視野にいれている
・しゃべりを文字におこすと
英語による答弁
・オープンキャプションの文字
(映像の説明)ゲーツ氏
(ニュースの解説)イラク政策転換の可能性を強く示唆
(ニュースの解説)質問 あなたはアメリカがイラクで勝利しつつあると思いますか?
(映像の説明)ゲーツ氏
(ニュースの解説)ノー
・しゃべりを文字におこすと
ゲーツ氏はこのように述べ、政策の変更に柔軟な姿勢を見せた上で、アメリカはイラクで勝利しつつあるのかという質問にも「ノー」と答えて、政策の転換可能性を強くにじませました。
・オープンキャプションの文字
(映像の説明)解任が決まったラムズフェルド国防長官
(映像の説明)ゲーツ氏のクローズアップ
(ニュースの解説)情報のプロ
(映像の説明)ブッシュ元大統領ゲーツ氏(2人のクローズアップ)
・しゃべりを文字におこすと
強烈な個性でイラク政策を主導した前任者のラムズフェルド長官に比べると、やや印象の弱いゲーツ氏ですが、実は関係者の間では情報のプロとして知られています。
・オープンキャプションの文字
(ニュースの解説)上院委員会、 全会一致でゲーツ氏を承認、6日にも本会議で正式承認へ
・しゃべりを文字におこすと
たんたんと答弁するゲーツ氏に対しては民主党内に強い反発もなく、委員会では、この日のうちに認められました。早ければ明日にでも本会議で正式に認められる見通しです。
・オープンキャプションの文字
(映像の説明)佐藤圭一
・しゃべりを文字におこすと
混乱が続くイラクの問題にアメリカきっての情報プロがどう対応するのか。その手腕に注目が集まっています。
・日本テレビホームページ上での記事
アメリカブッシュ大統領が次の国防長官に指名したロバートゲーツ元
「イラク問題を解決するために、あらゆる選択肢を視野に入れている」ゲーツ氏は政策の変更に柔軟な姿勢を見せた上で、「アメリカはイラクで勝利しつつあるのか」との質問にも、「ノー」と答え、政策転換の可能性を強くにじませた。
強烈な個性でイラク政策を主導した前任者のラムズフェルド国防長官に比べると、やや印象の弱いゲーツ氏だが、実は関係者の間では、情報のプロとして知られている。
淡々と答弁するゲーツ氏に対しては、民主党内に強い反発もなく、委員会では、この日のうちに全会一致で認められた。早ければ6日にも本会議で正式に承認される見通し。混乱が続くイラク問題に、アメリカきっての情報プロがどう対応するのか、その手腕に注目が集まっている。