4 米国のインターネット事情 2度の「e-クリスマス」を経て、インターネットコマースが完全に定着  米国は、インターネット利用人口が1億630万人のインターネット先進国である。インターネットコマース市場は拡大を続けているほか、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)といった新しいビジネスが出現している。また、インターネットを活用した新しいビジネスが次々に生み出されていく中、ビジネスモデル自体を特許化する傾向も見られる。さらに、より高速、大容量で高精細な映像を実現できるブロードバンド・インターネットが開発され、実用化の段階を迎えようとしている。 1)インターネットコマース  インターネットコマースは、消費者に対し、インターネット上でより多くの商品に関する情報や選択肢の提供、さらに、商品選択のための時間の節約という付加価値をもたらす。この結果、実在店を代替するだけでなく、既存市場を拡大したり、新市場を創出している。米国における1999年のインターネットコマース最終消費財市場の規模は、340億ドル(3.9兆円)と、我が国の11.1倍となっており、急速な成長を見せている(1-3-1(2)参照)。特に1998年及び1999年のクリスマス商戦が「e-クリスマス」と呼ばれ、国民の間にインターネットコマースを完全に定着させる契機となった。1999年の「e-クリスマス」の売り上げは、アメリカ・オンライン(AOL)が開設するショッピングサイトが1998年の約2倍の25億ドル、アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)が同じく約2.5倍の6.5億ドルに達した。また、米国商務省は、1999年のクリスマスシーズンに、米国の消費者がオンラインショッピングで使った金額を約53億ドルと発表した。  「e-クリスマス」以外でも、インターネットコマースは、企業・消費者間取引(BtoC)の分野で、米国の消費生活の中に着実に浸透している。顕著な例は旅行業で、米国旅行業協会の調査によれば、1999年において、インターネット上で航空券やホテルの予約等をしたり、代金を決済した人は1998年の670万人から1650万人に拡大している。  さらに最近では、インターネットコマースはその規模を拡大させる段階を経て、現在は顧客囲い込みという新たな段階を迎えている。インターネットで書籍販売を行うアマゾン・ドット・コムは、1999年に前年の約2.7倍にあたる16.4億ドルの売上げを記録した。同社は、大量の商品の梱包から発送までの業務を行うギフトセンターを開設し、取扱商品もCD、ビデオ、家電・玩具等を加え、顧客の志向に応じた情報提供サービスの実施など、次々と新サービスを打ち出している。しかしながら、こうした積極的な業務拡大は損失の増大にもつながり、1999年の損失は前年の約5.8倍にあたる7.2億ドルとなった。  一方、企業間取引(B to B)にも新たな動きがみられる。2000年2月には、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ダイムラー・クライスラーの3社が、大幅なコスト削減を目的に、インターネット上で部品と原材料を調達するシステムを運用する新会社を共同で設立することを発表した。調達額の規模は年間2,000億ドルに達し、世界でも最大級のインターネットコマース市場が形成されることになる。 2)ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)  最近、インターネットの新たな付加価値サービスを提供する「ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)」が注目を集めている。ASPは、各種業務用ソフト等のアプリケーションソフトをネットワークに置かれたデータセンター等において運用し、インターネット経由でユーザー(企業)が利用できるようにするサービスを提供する。ユーザー側では、システム導入や運用、維持管理に係るコストの削減が期待できる。なお、我が国においても、11年度より、電気通信事業者やメーカーが相次いで参入を表明しており、新サービスとして成長が期待されている。 3)ビジネスモデル特許の出現  インターネットビジネスが普及し、次々とニュービジネスが登場している米国においては、オンラインでのビジネスモデル自体を特許化する傾向が見られる。このビジネスモデル特許は、主にインターネットベンチャー企業等が積極的に活用しており、一方でインターネットビジネスの普及発展の阻害要因ともなり得るとの指摘もある。  98年7月のステートストリートバンク事件判決で初めてビジネスモデル特許が認められて以降、米国ではビジネスモデル特許を取得する動きが活発化し、これを巡る訴訟も増加している。最近の事例としては、アマゾン・ドット・コムが自社の「ワンクリック特許」(ユーザが住所やクレジットカード番号等の情報を初回に入力すれば2度目からは入力不要とする技術)でライバル企業を訴え、後者に対して同技術の利用差止め命令が出された。  一方で、ビジネスモデル特許に対する批判的な動きとして、99年11月には、特許出願前から商業的に使用していた場合は特許権非侵害の抗弁ができる制度が設けられた。このほか、特許に対して新規性(novelty)を重視すべきであるとの指摘や、ビジネスモデル特許の有効期間を短縮すべきであるとの指摘もある。  インターネットはグローバルなネットワークであることから、米国で成立したビジネスモデル特許が、今後、我が国のインターネットビジネスにも大きな影響を与える可能性があると考えられる。 4)ブロードバンド・インターネット  「より多くの情報を、より高速で、さらに鮮明な映像で伝えたい(受けたい)」というニーズに対応するため、次世代のインターネット技術である「ブロードバンド」が開発され、実用化の段階を迎えようとしている。  ブロードバンド・インターネットは、従来の電話回線を使ったインターネットでは不可能であった、テレビジョン放送に近い画質の映像をインターネットで観たり、情報の送り手と受け手を双方向で結ぶサービスも可能にし、ブロードバンド実現のために、電話回線に代わって、全米の約7割の世帯に普及しているケーブルテレビ網を活用しようという動きがみられる。  既に、米国においては、ブロードバンドを利用することにより、まるで放送事業者のように世界中に放送ソフトを配信する企業が登場している。ベンチャー企業のセンターシート社は、現在、7チャンネルで約5万本の放送ソフトを流しており、視聴者は、自分の好きな時間に好きな放送ソフトを視聴することができる。  米国においては、ブロードバンド・インターネットが、新たなIT革命を導く存在として期待されている。